資料1-2 進捗状況について-炉工学(自然科学研究機構 核融合科学研究所)

 1.計画名 

炉工学(核融合原型炉に向けた電磁石・発電システムの工学研究の推進)

 2.実施機関名    

自然科学研究機構 核融合科学研究所

 3.計画の概要  

 核融合研究は、安全・安心な基幹エネルギーとして早期発電実証を目指しており、これまでの研究成果を一層発展させ、核融合原型炉設計に必要な工学基盤と工学実証の研究、および研究者・技術者の育成を、オールジャパン体制で計画的に進める必要がある。
 核融合原型炉を早期に実現するには、工学設計を2020年代に開始する必要があり、核融合研では、大型ヘリカル装置で生成される超高性能プラズマに基づき、安全な核融合原型炉の実現を目的として、第2期中期目標期間に大学等との共同研究により、工学基盤構築の基礎となる研究を推進し、その成果を基に第3期中期目標期間で工学実証研究を実施し、工学設計を現実のものとするデータベース構築に寄与する。
 また、それと並行して、安全中心の基本概念に基づく、核融合原型炉の設計を進める。
 具体的には、これまでの電磁石や材料・ブランケット等に関する要素研究を格段に発展させて、安定、安全、安心を目指した主要5課題(電磁石としての大型高磁場超伝導マグネット、および発電システム構成要素としての長寿命液体ブランケット、低放射化材料、高熱流プラズマ対向壁、微量トリチウム管理技術)の研究を重点的に推進する。これらの先進的な工学成果とその学術的体系化により、安全な基幹エネルギーとしての核融合エネルギーの実現や、国産の世界標準技術の創成による社会・経済面への波及的効果、研究者・技術者の人材育成に貢献する。

 4.主な研究計画及び達成目標    

 安全で安定な基幹エネルギーの確保は核融合炉の早期実現以外にない。そのためには核融合原型炉に向けた工学実証に必要な国産の工学基盤の構築が必須である。
 特に、電磁石や発電システムの安全性や長寿命化には既存技術に制約があるため、核融合研では独創的なアイデアを積極的に取り入れ、新規性の高い大規模な実験装置によって下記の主要5課題の研究を重点的に推進する。
【大型高磁場超伝導マグネット研究】
 既設の試験装置を15テスラに高磁場化し、高磁場・電磁力に対する超伝導導体の特性を調べることによって、安定で長寿命な電磁石の新しい巻線構造の実現を目指す。

【長寿命液体ブランケット研究】
 約600℃以上の高温でも安全に使える液体と材料を用いて、熱交換とトリチウム生成を行う液体ブランケットを模擬した循環流動ループ装置を開発し、トリチウム透過防止や材料腐食等の特性を明らかにする。これにより、ブランケットの熱の除去及び生産されたトリチウムを効率よく取り出すシステムの構築を目指す。

【低放射化材料研究】
 700℃以上の環境での材料強度の低下を抑えるため、バナジウム合金や低放射化フェライト鋼にナノ粒子を混ぜることで、高温の核融合環境で強度が低下しにくく、放射化が低く、崩壊熱が少ない、安全で長寿命の材料の実現を目指す。

【高熱流プラズマ対向壁研究】
 10MW/m2の超高熱負荷に対する耐熱・冷却構造及び保守交換法を開発することによって、安定で長寿命のプラズマ対向壁の実現を目指す。

【微量トリチウム管理技術研究】
 大型ヘリカル装置の超高性能化と連携して、10-4 Bq/cm3の低濃度トリチウムの高速検出と回収を可能にすることによって、より高精度で高効率の微量トリチウム検出・処理システムの構築を目指す。

5.期待される成果  

【学術研究と社会・経済的な波及効果】
 大型高磁場超伝導マグネット研究に関しては、高磁場導体の製造技術のみならず、原型炉用超伝導導体を対象とした各種候補材の特性について比較研究することにより、幅広い学術成果が期待できる。長寿命液体ブランケット及び低放射化材料研究に関しては、大学共同利用機関としての特長を活かし、核融合研・大学施設を有効活用した柔軟で迅速な実験研究を行うことによって、材料特性を向上させる知見を得ることができる。これらは、基礎物理研究のみならず、高磁場MRI(磁気共鳴画像診断法)等、医療、交通、高効率熱システム、放射線防護システム、水素エネルギーシステムなど、幅広い応用分野への普及が期待される。

【共同研究と人材育成】
 大学との共同研究を中長期に渡って計画的に推進することによって、核融合炉の実現を担う若手研究者や技術者の育成に貢献できる。また、大学では困難な工学試験設備・分析機器を核融合研が整備し、共同利用に供することにより、大学等との共同研究が相乗効果により加速し、核融合工学の格段の進展が期待できる。

 6.進捗状況及び主な研究成果    

 核融合工学の要素研究は大学に於いても幅広く行われており、核融合研では旧炉工学センターを中心に共同研究を展開してきたが、平成21年度より新に核融合工学研究プロジェクトが立ち上がり、双方向型共同研究も強化しながら、集中と選択により5つの重点課題を中心に研究を進めることとなった。これまで得られた成果としては以下のものが上げられる。
【大型高磁場超伝導マグネット研究】
  核融合原型炉に用いる大電流超伝導導体として、強制冷却低温導体、間接冷却低温導体、および間接冷却高温導体の設計検討と特性試験を実施した。強制冷却低温導体については、原子力研究開発機構と共同でJT-60SAトカマク用導体の性能試験を行い、核融合原型炉に共通な技術を発展させる成果と、連続ヘリカル巻線方法の具体案を策定する成果を得ている。また、間接冷却低温導体については、縮小導体試験で予測どおりの臨界電流を確認し、摩擦攪拌接合によるアルミ合金被覆の製造技術を確立する成果を得ている。さらに、間接冷却高温導体についても、縮小導体試験で低温導体を圧倒的に超える安定性を確認する成果とともに、導体接続方法の実験に基づき、革新的コイル巻線方法のアイデアを得、目標実現に向けて研究を進めている。

【長寿命液体ブランケット研究】
  溶融塩フリナック、液体金属リチウムおよび鉛リチウム、における材料腐食について、不純物の影響や、流体の流動条件と温度条件を含む、総合的な実験とモデル化を実施し、酸素不純物などの低減で腐食が格段に抑制できるなどの成果を得、循環流動ループ装置実験に向けた準備が整いつつある。

【低放射化材料研究】
  低放射化材料の高純度化、大量溶解法の確立、異種金属との接合法の開発、等に成功した。また、ナノ粒子分散法により、低放射化フェライト鋼、低放射化バナジウム合金において、微小試験片で、従来より100-150℃高温の条件でのクリープ変形を押さえることに成功し、10年間使用できる可能性を示す成果を得ている。今後、標準規格サイズでの実証を目指す。

【高熱流プラズマ対向壁研究】
 大型ヘリカル装置を活用した実験を推進し、耐熱材としてのタングステンは水素同位体(トリチウム)に対する粒子捕捉量も少ないという結果を得るなど、ダイバータ材の研究が進んでいる。

【微量トリチウム管理技術研究】
  プロトン導電性酸化物および固体シンチレータの検出器への適用実験を共同研究によって実施し、目標の1/10程度まで達成している。

【その他の成果】
 幅広い活動(BA)共同研究を実施し、ブランケット用セラミックス材料の照射下電気特性の評価や中性子増媒材の特性評価、等の成果を得ている。

7.今後の主な予定(今後の課題)     

 核融合工学研究では、2030年代での核融合原型炉による発電実証を目指して、その工学設計に必要な工学基盤と工学実証の研究を、2020年代までに実施する計画である。
  核融合研では、原型炉概念設計に基づく主要5項目の工学R&D研究を推進し、ITER/BAの開発研究に相補的に寄与すると共に、各方式に共通な工学基盤の構築を目指す。
【スケジュール】    
 平成28年まで試験設備の整備を行いながら、重点5項目に対し工学基盤構築の基礎となる研究を推進し、第3期中期目標期間で行う工学実証研究に移行できるデータベースを取得する。ここでは、大型ヘリカル装置での超高性能化研究との連携と、大学との共同研究は必須であり、双方向型共同研究等での特長ある装置・方式から得られる研究結果も取り込むことによって、原型炉概念設計から基本設計への炉設計高度化を進展させる。これらは学術研究としてITER/BAの開発研究に相補的に寄与するものである。これらに基づいて、次段階の実規模・実環境工学実証研究を、6年程度を目処に実施予定である。

【実施体制】
 核融合研の核融合工学研究プロジェクトを中心として、大型ヘリカル装置計画及び数値実験研究の成果を取り入れると共に、相互に研究をフィードバックする研究連携を推進する。また、平成22年度より工学関連の双方向型共同研究も開始されており、大学等との共同研究を組み込んだ研究体制の強化を図る。

【各方式との関係】
  ヘリカル、トカマクどちらの方式にも共通する工学基盤の構築を目指して、独創性に基づく研究を進めると共に、国内外との協力研究による知見を併せ、核融合原型炉の建設計画へ発展させる。

 8.その他  

 核融合研で整備を計画している超伝導導体試験装置、熱・物質流動ループ実験装置、材料試作・分析機器、超高熱負荷試験装置等は、全て国内外の共同利用・共同研究に供される。これまでの共同利用・共同研究の実績から、共同研究者として年間最大500人日程度の利用が見込まれる。 

お問合せ先

研究開発戦略官付(核融合・原子力国際協力担当)

小野
電話番号:03-6734-4163
ファクシミリ番号:03-6734-4164

(研究開発戦略官付(核融合・原子力国際協力担当))