資料1 環境・エネルギー科学技術に関する研究開発の推進方策について(中間報告案)

平成23年9月
科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会
環境エネルギー科学技術委員会

目次

はじめに

ローマ数字1.環境・エネルギー問題に関する動向
 1.環境・エネルギー問題に係る国際的な動向
 2.我が国の動向と文部科学省の取組

ローマ数字2.文部科学省が推進すべき研究開発課題
 1.再生可能エネルギーの普及とエネルギー供給の低炭素化に向けた研究開発
 2.分散エネルギーシステムの革新を目指した研究開発
 3.省エネルギーに資するエネルギー利用の高効率化のための研究開発
 4.低炭素社会の実現にむけた社会シナリオ研究と実証研究の推進
 5.地球規模課題解決のための地球観測、予測、統合解析システムに関連する技術の強化とそれを支える基盤的情報の創出に向けた研究開発の推進

ローマ数字3.研究開発を推進するにあたっての重要事項
 1.分野間の協力による新たな科学的、社会的価値の創造
 2.産学官連携及び関係機関間の連携
 3.科学技術と環境・エネルギー政策の一体的推進
 4.環境・エネルギー分野の人材育成
 5.国際的な取組の推進
 6.自然科学と人文・社会科学の連携

はじめに

 政府全体の科学技術の基本方針を示す第4期科学技術基本計画が、平成23年8月19日に閣議決定された。これは、平成22年6月に策定された「新成長戦略」に示された方針を科学技術及びイノベーションの観点から深化・具体化を図るものと位置付けており、基本方針として、「震災から復興、再生の実現」、医療・介護・健康を対象とする「ライフイノベーションの推進」と並び、環境・エネルギーを対象とする「グリーンイノベーションの推進」が掲げられており、科学技術政策全体の中でもグリーンイノベーション推進の重要性が高まっているところである。
 また、文部科学省においては、従来、今後推進すべき具体的な研究開発課題及び研究開発の推進にあたっての重要事項について、地球環境科学技術委員会で検討・取りまとめを行い、推進方策として定めてきた。環境問題を議論する上において、これまでは地球観測等の成果から、地球環境の現状がどのように変わるのかに着目してきたが、地球環境の変化に関する要因について考えた際に、有限であるエネルギーの供給や使用についても考える必要性が高まってきた。これに従い、今期より、地球環境科学技術委員会は環境・エネルギー科学技術委員会に改組されることとなり、このたび、「環境・エネルギー科学技術に関する研究開発の推進方策について」をとりまとめることとなった。
 この推進方策においては、まず第ローマ数字1章において、現在の環境・エネルギー問題に関する動向について述べ、続いて第ローマ数字2章に文部科学省において推進すべき研究開発方策について述べ、最後の第ローマ数字3章に、これらの研究開発方針を推進する上での重要事項を述べている。

ローマ数字1.環境・エネルギー問題に関する動向

 環境問題、エネルギー問題は、人口爆発、貧困、水や食料の汚染拡大、食料・資源・エネルギーの需給逼迫・価格高騰などの問題と直結した、人類の生存基盤を揺るがしかねない今世紀の最重要課題である。
 環境・エネルギー問題は、様々な政府間交渉等の場において、優先度の高い課題として取り上げられており、その対策のための国際的な枠組作りへの合意形成が進みつつある。これに対応して、国内においても、環境・エネルギー問題への対策のための計画作りや施策の強化が進められている。
 特に、今般の東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故によって、我が国のエネルギー基盤の脆弱性が露呈するとともに、今後、エネルギー戦略の見直しが議論される中、環境・エネルギー問題はこれまで以上に重要性を増してくると考えられる。

1.環境・エネルギー問題に係る国際的な動向

国際的協調体制について

 洪水、干ばつ、熱波、生態系変化等の気候変動に関する地球規模課題がますます増大するにつれ、気候変動に関する科学的情報を包括的に提供することが求められている。このため、国際機関等が中心となり、国際的な協調体制がこれまで構築されてきた。
 昭和63年には、人為起源による気候変化、影響、適応及び緩和策に関し、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的として、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が設立された。
 IPCC第1次評価報告書において、人為起源の温室効果ガスが生態系や人類に重大な影響を及ぼす気候変化が生じる恐れがあるという警告がなされたことを受け、評価にとどまらず、温室効果ガス削減のための取り組みを推進するため、平成6年には、気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において、大気中の温室効果ガス濃度を安定化させることを目的とした気候変動枠組条約(UNFCCC)が発効した。
 さらに、平成9年に開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)において、市場経済移行国を含む先進国における温室効果ガスの排出量について法的拘束力のある数値目標を盛り込んだ「京都議定書」が採択されるとともに、目標達成のための手段の一つとして京都メカニズムの導入が合意された。
 気候変動に関する研究の蓄積により、平成19年に公表されたIPCC第4次評価報告書(AR4)では、「気候システムの温暖化には疑う余地がない」、「20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性が非常に高い」との評価が科学的根拠とともに示された。平成22年12月の気候変動枠組条約第16回締約国会議(COP16)において、先進国及び途上国が提出した排出削減目標等が国連の文書としてまとめられ、引き続き、京都議定書の第2約束期間の取扱いを含む国際的枠組に関する議論が進められている。
 生物多様性の分野においては、地球上のあらゆる生物の多様さをそれらの生息環境とともに最大限に保全し、その持続的な利用の実現、さらに生物の持つ遺伝情報から得られる利益の公正かつ衡平な分配を目的とした生物多様性条約が平成5年に発効した。平成22年10月に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)に関する名古屋議定書と、2011年以降の新戦略計画(愛知目標)が採択されるとともに、生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)設立の検討を奨励することなどが決定された。
 平成23年5月のG8 ドーヴィル・サミットにおける首脳宣言において、「先進国全体で温室効果ガスの排出を,1990年又はより最近の複数の年と比して2050 年までに80%又はそれ以上削減するとの目標を支持する」、「生物多様性の損失を遅らせるための努力を強化することに コミットする」等の合意がなされるなど、気候変動への対応が世界的な政策課題として取り組まれている。
 また、平成22年に国際科学会議(ICSU)が地球規模の持続可能性に関する研究の重要性を指摘する報告書(Grand Challenge on Global Sustainability Research)を策定し、地球環境変動の観測・予測の強化や、持続可能性を達成するための科学的、政策的、社会的技術開発の促進を提案している。同時に、ベルモント・フォーラム(Belmont Forum:各国の政府・研究資金配分機関による地球環境変動研究に関する会合)においても、地球環境の持続性に必要な連携と援助の強化や、研究者・政策決定者・社会の対話の促進、自然科学と人文社会分野の連携等が提案されており、持続的社会の構築に向けた研究の必要性が高まっている。
 平成17年の第3回地球観測サミットにおいて策定された「全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画」についても、昨年11月に北京でGEOSSの閣僚会合が開催される等、その折り返し点を迎え、観測システムの統合に向けた取り組みが加速し、地球観測データが災害、エネルギー、気候、生態系、生物多様性、水、気象、健康及び農業等の様々な分野で生かされ、それらの分野の横断的連携も進捗している。
 また、来年6月には、国連持続可能な開発会議(Rio+20)が、(1)持続可能な開発及び貧困根絶の文脈におけるグリーン経済、(2)持続可能な開発のための制度的枠組みをテーマとして、リオデジャネイロで開催されることになっており、この中でも気候変動や地球観測は、重要な項目として取り上げられる予定である。

各国の政策について

 米国では、気候変動等の地球環境問題解決を支援する世界的な潮流に対し、オバマ大統領は、2008年の大統領就任直後に経済政策の1つとしてグリーン・ニューディール政策を掲げ、エネルギーの研究開発方針として「化石から非化石への転換」、「エネルギーのクリーン化」を打ち出した。2012年度の大統領予算教書において、グリーンイノベーションを実現していく仕組みとして「3つの研究イニシアチブ」(エネルギーフロンティア研究センター、エネルギー高等研究計画局、エネルギーイノベーション・ハブ)を新たに立ち上げ、クリーンエネルギー及び再生可能エネルギーの研究開発予算を大幅に増額することとしている。
 英国では、2008年10月にエネルギー政策と温暖化政策を包括的に行うエネルギー・気候変動省が設立され、同年11月には、法的拘束力のある数値目標(2050年に80%削減)を設定した「気候変動法」が制定された。そして、気候変動法の数値目標や、EU・国際社会において気候変動に向けて設定された目標を達成するため、2009年7月には低炭素社会への移行に向けた包括的な戦略を定めた「英国低炭素移行計画」や、再生可能エネルギーの普及のための具体的な施策を示した「再生可能エネルギー戦略」などを発表した。また、2010年4月に発効した「2010年エネルギー法(Energy Act 2010)」では、英国内で二酸化炭素回収・貯留(CCS)の実証プロジェクトを推進する制度が導入されている。
 欧州では、2010年6月に採択された新戦略目標「欧州2020」の中で、2020年に向けた温室効果ガス排出削減の数値目標として、「温室効果ガス排出量の20%削減(1990年比)」、「最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの比率を20%に増加」、「エネルギー効率の20%向上」を掲げている。同年11月にはエネルギー政策のための新戦略である「Energy 2020」を発表し、目標達成に向けての今後10年間でのエネルギー分野での優先課題と、課題に対処するために取るべき行動について定めている。

国際的研究開発動向について

 持続的成長が可能で、低炭素型社会に向けた方策として、再生可能エネルギーの活用が注目されている。平成22年11月に国際エネルギー機関(IEA)が発表した世界エネルギーアウトルック2010年版では、「持続可能な世界に向かうためには、再生可能エネルギーが中心的な役割を果たさなければならない」としている。平成23年5月にIPCCが発表した再生可能エネルギー源と気候変動緩和に関する特別報告書(SRREN)では、再生可能エネルギーは持続可能な社会の発展と経済成長に貢献し、エネルギー供給の安定に貢献しうることを指摘している。
 再生可能エネルギーの研究開発については、各国の手厚い政策支援をベースに急速に導入量が増加しており、特に太陽電池、風力発電、バイオ燃料については対前年比数十%という急速な拡大が続いている。このように再生可能エネルギーは巨大な産業に成長しており、研究開発も政府が支援する基礎基盤研究に加えて、激しいコスト競争を意識した開発段階になっている。これに伴い、政府の支援する研究開発においては、次世代の革新技術の開発とともに、スマートグリッドなど、再生可能エネルギーの大量導入、コストの飛躍的低減につながるインフラ開発の重要性が高まっている。
 また、IEAの「エネルギー技術展望2010」(ETP2010)では、2050年に2005年比で50%のエネルギー起源CO2の削減を目標とするブルーマップ・シナリオが掲載されているが、この分析によると、再生可能エネルギーに加え、(1)エンドユースの燃料と電気利用の効率化(2)化石燃料による発電への二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術の活用がエネルギー起源CO2の大幅削減に重要な役割を持つことが示されている。
 エネルギー効率の向上については、日本は高効率家電を中心に質・量ともに世界最高水準にある。一方、米国においては、オバマ政権以降、研究開発が急速に進んでおり、多くの国立研究所、大学で水準の高い研究開発が進んでいる。欧州では、2020年までに全ての新建築物をゼロ・エネルギー建物1にすることを定めた新たな指令を欧州議会が2010年に制定したことを受け、建築物の省エネルギー化に関する研究開発が活発に行われている。また、CCS技術については、CCS技術を組み込んだ石炭ガス化複合発電(IGCC)の開発・商用化が有望視されており、アメリカとEUが日本より先行していたが、日本においても250MWの実証機を開発するなど、日本のIGCC技術も着実に進んできている。
 今後、これらの分野における競争が国際的に激化していくことが予想されることから、我が国の産学官の研究体制の強化が求められる。

2. 我が国の動向と文部科学省の取組

 前述のように、IPCC第4次評価報告書(AR4)では、「20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性が非常に高い」とされるなど、気候変動と温室効果ガスに関する科学的な評価が定まりつつあるとともに、平成21年9月の国連気候変動首脳会合において鳩山首相(当時)が、「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意」を前提に「1990年比で2020年までに25%削減する」という温室効果ガス削減の中期目標を提唱するなど、気候変動問題の克服は政府の重要政策課題の一つと位置づけられるようになった。
 また、同年末に示された「新成長戦略(基本方針)」においても、強みを活かす成長分野の一つとして「グリーンイノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」が示されており、我が国の環境・エネルギー分野での強みを活かした成長を強力に推進するという方針が打ち出された。
 こうした流れを受け、2010年3月には、温室効果ガスの排出量について、すべての主要国による公平かつ実効性のある国際的な枠組みの構築及び意欲的な目標の合意を前提として、2020年までに90年比で25%削減、2050年までに90年比で80%を削減するとの数値目標を盛り込んだ地球温暖化対策基本法案が閣議決定された。同年6月には「エネルギー基本計画」の第二次改定が行われ、エネルギー起源CO2を2030年までに90年比30%の削減を目標とし、2020年までに一次エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合について10%を達成すること等が盛り込まれている。さらに、同年12月には、温室効果ガスの2050年での90年比80%削減目標の達成するための対策・施策の具体的姿をまとめた「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ」(環境省)、バイオマスの新たな有効利用技術の開発、バイオマスの収集・運搬から加工・利用までを総合的に捉えた技術体系の確立、バイオマス生産効率の優れた藻類など将来的な利用が期待される新たなバイオマス資源の創出を推進すること等を盛り込んだ「バイオマス活用推進基本計画」(閣議決定)がとりまとめられるなど、政府全体の環境・エネルギー分野の取組が大幅に加速している状況である。
 こうした背景に加え、環境問題を議論するにあたり、地球観測やそれらのデータに基づいた気候変動予測等の適応策の推進に加え、エネルギー分野の科学技術の重要性の高まりを受け、平成22年4月、文部科学省に新たに環境エネルギー課が設置された。環境科学技術及びエネルギー科学技術を一体的に推進し、気候変動問題やエネルギー問題といった地球規模の課題解決に貢献することが求められている。
 今後の環境・エネルギー科学技術分野の推進に関しては、地球温暖化問題に対する、社会の耐力の向上・強化(レジリアンス、ロバスト性)に資する研究開発を行っていくことが必要であり、これまで取り組んできた、地球環境の観測や、そのデータを活用した気候変動予測・影響評価を行い、これらを、災害、生態系、生物多様性、農業、水資源、健康等の分野で積極的に生かしていくことが重要となっている。また、経済産業省等の関係省庁と連携し、大学を中心に、基礎基盤的なものや、実用化間近な技術についての立ち返り研究に取り組んでいく。特に、これまで取り組まれてきていない、太陽光発電、蓄電池、燃料電池等の再生可能エネルギーに関する先端的・革新的分野や、基礎的・基盤的分野についての研究開発を進めていくことが必要である。
 さらにこれらの成果をGEOSS等の枠組みを通して、世界に広めていくとともに、環境・エネルギー分野に携わる人材の育成を推進することも重要である。
 環境エネルギー課では、これまで海洋地球課地球・環境科学技術推進室で行われてきた地球観測及び気候変動予測に関する研究開発やデータ統合・解析に関わる研究開発など気候変動をはじめとした「地球規模課題への対応に資する研究開発」に加え、革新的な太陽光発電、蓄電池やバイオマス利用技術などの再生可能エネルギーの利用促進及び二酸化炭素の排出削減を目指す「気候変動緩和のための研究開発」、低炭素社会を実現するための「社会シナリオ」研究、「新技術の実証」、「国際協力」、「人材育成」などの各種プログラムを実施している。
 「気候変動への対応に資する研究開発」としては、これまで地球シミュレータを活用した中長期の気候変動を予測するための研究開発に取り組んできた。その研究成果は、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書に活用されており、この功績も含め、人間の活動によって引き起こされる気候変動の問題を知らしめその対応策の土台を築いたことが評価された。このことは、IPCCがノーベル平和賞を受賞したことにも表れている。今後更なる気候変動予測への取り組みが期待されている。その後継の取組として、平成19年度から平成23年度までの5年計画で「21世紀気候変動予測革新プログラム」において、中長期の気候変動予測と短期の気象極端現象に関する研究開発が行われ、IPCC第5次評価報告書への貢献が図られている。
 また、IPCC第4次評価報告書に活用された地球規模の気候変動予測研究の成果は、我が国の自治体関係者等の関心を集め、自治体規模での詳細な気候変動の予測と気候変動による影響に関する情報提供が求められるようになった。地球規模の気候変動予測を活用して、都道府県・市区町村規模での気候変動影響評価を進めるためには、精細な情報に変換するための研究開発の推進が必要とされた。そのため平成22年度より「気候変動適応研究推進プログラム」が開始し、地域レベルでの気候変動影響評価の研究開発が進められている。
 さらに、地球観測衛星や船舶・ブイなどによる地球観測データや社会・経済データ等との統合・解析によって創出される情報は、地球規模課題の解決には不可欠である。平成18年度から開始した国家基幹技術「海洋地球観測探査システム」で開発されたデータ統合・解析システムは、多種多様で大容量の観測・予測データの統合解析を可能とした。平成23年度からは、そのデータ統合・解析システムの高度化・拡張及びその長期的運用の確立を目指した「地球環境情報統融合プログラム」を実施している。
 今後さらに、気候変動に関する生起確率や精密な影響評価の技術を確立し、気候変動リスクマネジメントの基盤的情報の創出が必要であり、そのための新たな気候変動予測研究に着手することが重要である。
 「気候変動緩和に資する研究開発」としては、従来技術の延長線上にない、新原理探求とその応用などの挑戦的な研究開発を推進し、低炭素化技術のブレークスルーの実現や既存の概念を大転換する「ゲームチェンジング・テクノロジー」を創出するJST戦略的創造研究推進事業「先端的低炭素化技術開発」が平成22年度より実施されている。また、温室効果ガスの排出削減を飛躍的に向上させる可能性のある革新的な技術には、植物の機能に対する期待も高い。植物科学研究(遺伝子、光合成能)における知見を活かし、バイオマスの生産性向上を図るほか、分解技術の高度化、バイオマスを原料とした化成品材料等の製造プロセスの革新によるエネルギー利用の効率化を図る取組などを進めている。
 気候変動の緩和や適応に資する研究開発と並行して、これら研究開発成果を活用するとともに、持続的な経済成長を進めるため、平成22年度よりJST低炭素社会戦略センターにおいて「低炭素社会づくりのための社会シナリオ研究」を進めている。

3. 第4期科学技術基本計画におけるグリーンイノベーションの推進

 本年8月19日、政府全体の科学技術の基本方針を示す第4期科学技術基本計画が閣議決定された。本計画では、我が国や世界が直面する課題への対応に向けた取組を進めるため、科学技術政策と関連するイノベーション政策を一体的に推進する「科学技術イノベーション政策」を展開することとしている。
 また、本計画は、平成22年6月に策定された「新成長戦略」に示された方針を、科学技術及びイノベーションの観点から深化・具体化を図るものと位置づけられており、新成長戦略の「環境・エネルギー大国戦略」及び「健康大国戦略」に対応して、「グリーンイノベーションの推進」及び「ライフイノベーションの推進」を「我が国の成長と社会の発展を実現するための主要な柱」として科学技術イノベーション政策を強力に推進するとしている。
 さらに、東日本大震災によって我が国のエネルギーシステムの脆弱性が露呈した。脆弱性を克服し、低炭素社会の実現を目指しつつ、エネルギーを安定的に供給、確保していくためには、革新的な再生可能エネルギーの開発と普及の拡大、分散エネルギーシステムの構築等を迅速に進めることが不可欠である。
 また、これらの取組は、世界に先駆けた環境・エネルギー先進国を実現し、新たな技術の国内外への普及、展開を強力に推進することで我が国の持続的な成長の実現にもつながるものである。
 こうした点を踏まえ、基本計画では、グリーンイノベーションの推進について、エネルギーの安定確保と気候変動問題への対応を我が国及び世界が直面する喫緊の課題であると位置づけ、長期的に安定的なエネルギー需給構造の構築と世界最先端の低炭素社会の実現により、我が国の持続的な成長を目指すとしており、この目標の実現に向けて、以下に掲げる三つの重要課題を設定し、これに対応した研究開発を重点的に推進することとしている。

     ・安定的なエネルギー供給と低炭素化の実現
     ・エネルギー利用の高効率化及びスマート化
     ・社会インフラのグリーン化

 環境・エネルギー分野の研究開発の推進方策においては、先述の国際的な動向やこれまえの政府の取り組みを踏まえ、第4期科学技術基本計画において設定された上記重要課題を中心に、グリーンイノベーションの推進に向けた基本的方向性について、ローマ数字2.以降にて提示する。

ローマ数字2.文部科学省が推進すべき研究開発課題

1. 再生可能エネルギーの普及とエネルギー供給の低炭素化に向けた研究開発

 我が国は、2020年までに1990年比で25%の温室効果ガスを削減するとの目標達成のため、2009年12月にはグリーンイノベーションによる環境・エネルギー大国を目指すとする「新成長戦略」の基本方針を閣議決定した。また、平成23年3月11日の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故は、我が国が抱える資源、エネルギーの制約、安定確保の問題を露呈させたことにより、これを克服し、将来にわたる持続的な成長と社会の発展を実現する国となるようエネルギー基本計画等の見直しも行われることとなっている。
 この問題の解決に資する研究開発の推進方策としては、化石燃料と原子力というエネルギーの2本の大きな柱に加えて再生可能エネルギーの供給拡大や基幹エネルギーの低炭素化、省エネルギーの推進に向けた技術の確立が必要である。
 G8 ドーヴィル・サミットにおいて、菅内閣総理大臣(当時)が発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合を2020年代のできるだけ早い時期に少なくとも20%を超える水準とすべく技術革新に取り組むことを表明しており、技術面やコスト面などの大きな実用化の壁を打ち破り、再生可能エネルギーを社会の基幹エネルギーにまで高めていくことが、我が国の新たな挑戦的課題として必要である。そのために、再生可能エネルギーを大幅に普及させ、供給安定性(energy security)、環境保全(environment)、経済性(economic efficiency)の3Eを同時達成するエネルギー研究開発体制を構築することは必至となっている。
 このような認識の下、経済性やエネルギー収支の観点も考慮しながら再生可能エネルギー供給を飛躍的に拡大させ、エネルギー供給を低炭素化するためには、太陽光、バイオマス、風力、地熱、波力、水力等の多様な再生可能エネルギー源を総動員するべく研究開発を進めなければならない。二酸化炭素回収・貯留(CDR)やジオエンジニアリングをはじめとする緩和技術に関して、新たなブレークスルーとなる革新的技術の獲得を目指した研究開発と、技術の実装に向けた社会的合意を形成する取組を推進する必要がある。
 その際は、地域における再生可能エネルギーの賦存量やその地域特有の資源や歴史と風土に配慮したエネルギーシステムの在り方にも留意する必要がある。

今後取り組むべき研究開発課題

    ○太陽光発電
    ○バイオマス
    ○風力
    ○その他の再生可能エネルギー(地熱発電、波力発電、水力発電等)
    ○CCS、ジオエンジニアリングの研究開発

2. 分散エネルギーシステムの革新を目指した研究開発

 福島第一原子力発電所の事故により原子力発電に依存したエネルギー供給のあり方について再考を余儀なくされた今日において、電力消費地に隣接して分散配置される小規模な発電に対して、二酸化炭素などの温室効果ガスの削減効果と、より安定的な電力確保の観点からそれらの導入・普及への期待が高まっている。
 そのような中、電力インフラと情報通信インフラを融合させることで電力を無駄なく有効利用し、再生可能エネルギーやエコカーを取り込むことで省エネ・低炭素な社会を実現するエネルギー供給システムの研究開発が重要である。
 また、地域独占の電力供給体制についても見直しの議論がなされているところであり、このような認識の下、化石燃料に頼らず自立したエネルギー供給を行うことができるエネルギー需給分散化といった研究開発も必要である。
 特に、災害時でも電力を融通できる高効率な燃料電池の開発や、発電が不安定かつ既存の電力会社の送電網への導入が制限される再生可能エネルギーの大量導入のための課題解決に向けた直流送電、蓄電、スマートグリッド等の研究開発を実施することが必要である。
 このような認識の下、今後の我が国のエネルギー政策の方向性を見据えつつ、分散エネルギーの革新を目指し、燃料電池や蓄電池等のエネルギーの転換、蓄積、貯蔵システム、製造・輸送・貯蔵にわたる水素供給システム、さらに基幹エネルギーと分散エネルギーの両供給システム及びエネルギー需要システムを総合的に最適制御するスマートグリッド等のエネルギーマネジメントに関する研究開発及び地域特性に応じた自律分散エネルギーシステムの研究開発を促進する必要がある。

今後取り組むべき研究開発課題

    ○燃料電池
    ○蓄電池
    ○超伝導送電技術
    ○エネルギーマネジメント技術

3. 省エネルギーに資するエネルギー利用の高効率化のための研究開発

 低炭素社会の実現に向けては、エネルギー供給側の技術革新のみならず、エネルギー利用の高効率化を目指した革新的な消費低減技術の研究開発が不可欠である。特に我が国の最終エネルギー消費の大半を占める民生(家庭、業務)、運輸、製造部門の低炭素化、省エネルギー化及び送電時のロス低減を目指した研究開発を推進することが重要である。このため、エネルギー利用の更なる効率化技術の確立を目指し、横断型の研究開発による新しいイノベーションの創出を目指す。
 具体的には、電子デバイスの超低消費電力化や化学プラントの低温動作化のための触媒を含めた省エネルギーに関わる材料開発の幅広い推進、民生・運輸・産業を含むすべての分野においてのエネルギー削減につながるナノカーボン材料、パワー半導体、超電導技術等の分野間にまたがってエネルギー削減効果の高いナノ構造制御や化学反応制御等の革新技術によって、反応や精製にかかるエネルギー消費や環境負荷を低減できる画期的な触媒の開発による物質生産プロセスの革新、超伝導送電の研究開発、エンジンの燃料消費低減、機体軽量化に資する研究開発による航空機の低環境負荷化、様々な社会システム・サービス全体の高効率化・省エネ化を実現するITシステムの構築等を目指した基盤技術等の研究開発を推進する。

4. 低炭素社会の実現にむけた社会シナリオ研究と実証研究の推進

 地球温暖化の抑制には温室効果ガスの排出を削減することが必要であるが、そのエネルギー消費抑制の取組が我が国の経済成長に深刻な影響を与えるという懸念もある。気候変動の緩和と経済成長が両立する社会の構築を実現するためには、温室効果ガス排出削減の中長期目標を達成している社会の姿を予め描き、その社会の実現に必要となる温室効果ガス排出削減技術の研究開発の方向性、妥当性を示すとともに、技術の社会実装を経済成長と結び付けて実施するための戦略が必要となる。
 戦略策定にむけては、今後実施される気候変動緩和策の規模によらず、将来の気候変動のリスクを大きく低減させる対応策も必要である。気候変動緩和と気候変動影響への対応を兼ね備えた低炭素社会の構築が課題となっている。
 低炭素社会の実現に向けた具体的な過程を明らかにするためには、低炭素化につながる科学技術を構成するそれぞれの要素技術にまで立ち返って分析し各々の性能やコストなどの予測を行う「定量的技術シナリオ」に関わる研究開発と、低炭素化技術の導入により効果的な経済成長を促す方策を示す「社会・経済シナリオ」に関わる研究開発、さらに両シナリオに基づいた社会シナリオ研究を推進し、低炭素社会の実現のためのロードマップを議論し、作成していくことが重要である。
 また、低炭素化技術を社会に実装することによって低炭素社会を効率的かつ効果的に実現するためには、開発された技術の実証研究は不可欠である。本研究方策に記述されている研究開発課題についても、これらはあくまでもツールであって、これが実際、実用化されるためには、さらなる社会的、経済的な評価が必要である。技術の実証研究を通じて、技術の改善・改良点を明らかにするばかりではなく、実際に導入した場合の社会的・経済的効果や導入にあたっての課題を抽出することが可能になる。そこで得られる知見は、さらなる技術の発展やより良い低炭素社会の実現に寄与することが期待される。
 その際は、地域における再生可能エネルギーの賦存量やその地域特有の資源に配慮したエネルギーシステムの在り方にも留意する必要がある。

 さらに、持続型社会構築に関わる取組は、その科学技術の成果が社会システムの変革や社会の価値観の転換を引き起こすことなど身近な生活にまで影響を与えていることが認識されてきた。倫理的・法的・社会的な課題やリスクへの対処、市民参加のあり方など、科学技術の推進に当たって社会との関係のあり方を検討することは重要であり、そのリスクに対処するためには、個人、機関、集団間で研究分野を超えた情報及び意見の相互交換(リスクコミュニケーション)が必要である。そのため、自然科学のみならず、人文科学や社会科学の視点も取り入れつつ、科学技術の推進と普及を図る「科学技術イノベーション政策」として展開し、社会システム・制度改革を一体的に推進することが重要である。

5. 地球規模課題解決のための地球観測、予測、統合解析システムに関連する技術の強化とそれを支える基盤的情報の創出に向けた研究開発の推進

 持続的な成長を可能とするとともに、気候変動や東日本大震災で再認識された自然の脅威に対応するために、地域の特性に応じた自然と共生するまちづくりを進めることが必要となる。自然と共生するためには、地球環境の変動を正確に把握し適切に対応することが必要であるため、地球観測・予測、統合解析システム等の技術は社会を支える基盤的情報として位置付けることができる。
 気候変動によって、台風の強大化や干ばつの増加等が引き起こされ、自然災害等のリスクが増大することが予測されており、また、今後人類が進む社会経済環境や国際交渉によって、そのリスクの大きさが大きく変化することから、科学的評価により正確に把握することが必要となる。そのため、気候変動に関する生起確率や精密な影響評価の技術を確立し、気候変動をリスクとしてマネジメントする際に必須となる基盤的情報を創出し、自然災害が多発する日本において、自然災害にしなやかに対応し、持続的な成長の実現に貢献する。
 気候変動予測の信頼性の向上には、気候変動メカニズムの解明が重要であり、そのために地球環境の詳細な把握と情報提供を積極的に図る必要がある。特に、地球温暖化の原因の大きな部分を占める二酸化炭素等の全球的な分布やその時間変動に関する観測の充実を図り、継続的にデータを取得し様々な観測データの相互利用を図る必要がある。また、古気候や古環境の解明に向けて、深海底掘削や南極の氷床深層掘削によって得られたコアサンプル等を用いた研究、これらのデータによる地球温暖化予測モデルの検証等の自然科学的アプローチや、災害史、生態環境史等の人文科学的アプローチを行う。
 気候変動は、地球規模の水循環の変動をもたらすことにより、世界各地において、水資源、自然災害、生態系、食料生産、人の健康等、様々な社会問題をもたらすことから、気候変動に伴って起こる地球規模の水循環変動を把握し、リスク評価を行うことが求められる。また、風土性や地域性に着目し、都道府県や市町村レベルのリスク評価についても研究していく必要がある。
 生物多様性を保全し利用することは、持続可能な社会の発展のために必要不可欠である。生物多様性は、食料、工業材料、医薬品、エネルギー源や、炭素固定・環境浄化機能等、多様な財、サービスを提供しうる。これらを持続的に活用していくためには、革新的な利用技術の研究開発とともに、全球規模から遺伝子レベルに渡る生態系の観測、環境変化と生態系の相互作用評価、変動予測に基づく管理技術の構築が必要である。

今後取り組むべき研究開発課題

    ○全球地球観測システムの構築
    ○気候変動リスク情報の創出
    ○確率情報を含む気候変動予測情報の提供
    ○気候変動に伴う影響の精密な評価研究
    ○生態系サービスの把握・予測等の生物多様性の研究
    ○研究成果・データの統合解析研究

ローマ数字3. 研究開発を推進するにあたっての重要事項

1. 分野間の協力による新たな科学的、社会的価値の創造

 20世紀までの科学技術は専門分野を深化させてイノベーションに挑戦し、科学的価値とともに、社会的価値を生み出してきた。環境の分野でも、地球規模の観測能力やシミュレーション能力の向上に伴い、地球の各サブシステムにおける理解が進み、予測性能も向上した。しかし、分野を統合して知の創造や社会的価値を生み出すことには疎く、地球の各サブシステム間の相互依存性、地球規模と局所的な関連性、異なる時間スケールの相互作用など、地球及び環境の統合的、包括的な見方をサポートする科学技術や、これらの自然科学的アプローチと社会科学的アプローチの融合の推進は十分ではなかった。エネルギー分野でも、例えば太陽電池の発電効率の大幅な向上には、既存技術の延長線上にない革新的技術を創出することが重要であり、異分野融合を促進し、従来にない発想に基づく研究開発に取り組むことが重要である。
 これら分野を超えた協働の推進には、それをサポートする具体的な場の設定がまず必要である。具体的課題を設定して、専門的な用語や論理の展開の特殊性を超えたデータの統合、情報の融合を通して、分野間で協力して問題を解決し、その結果生まれるメリットを共有することの積み重ねによって、科学的、社会的価値の創生に結び付けるデモンストレーションプロジェクトの計画、実行が必要である。

2. 産学官連携及び関係機関間の連携

 環境分野の研究開発は、気候、物質循環、生態系などの対象面、観測、評価・分析、理解、予測、対策・利用などの研究開発内容面、さらには成果の活用面でも多岐にわたる。また、エネルギー分野の研究開発についても、太陽電池の効率や蓄電池の容量の大幅な向上に向けた材料研究、新規構造の研究開発、スマートグリッド等のエネルギーマネジメント技術、バイオマス利活用技術等、対象は極めて多岐にわたり、その推進には、産学官の連携、関係省庁間の連携が不可欠である。例えば、センシング・モニタリングツール、環境保全・修復技術、環境低負荷産業技術、利用技術の研究開発には、研究開発者であると同時に成果の利用者でもある農林水産などの一次産業、電子・情報・電機・バイオなどの二次産業、サービスなどの三次産業の関係者の積極的参画が不可欠である。また、気象・海象や生態系の研究開発の成果は、農林水産業をはじめとして、化学工業、薬品産業、運輸業、商業などの多様な産業に活用される必要がある。
 このような連携関係の構築のために、基礎研究を担当する文部科学省と、具体的政策・実施を担当する多くの関係省庁とが、分担・連携し、研究開発とその成果の活用が円滑に推進されることが重要である。

3. 科学技術と環境・エネルギー政策の一体的推進

 環境・エネルギー政策の遂行は、科学観測によるリスクの認識、プロセス研究に基づくリスクの将来予測、リスク回避のための技術的、制度的手段の適用に基盤を置いており、さらには社会・市民の行動が鍵を握っている。環境分野の科学技術は、社会の要請に応えるものであり、研究成果が政策に反映されることにより評価されるべきである。しかしながら、これまでは、政策決定における研究成果の活用が十分に行われていないのではないかという指摘がなされている。今後は、研究成果が政策に適切に反映されるよう、政策側は科学技術に何を求めているかを明確化すること(意思決定に必要な知見や政策形成に重要な研究課題の提示等)、また、研究機関側も政策の判断を助ける客観的な科学的知見や方法論を積極的に提供することが不可欠である。そのためにも、政策及び社会的ニーズを研究活動に反映させるとともに、研究者の知見や研究成果を政策に的確にフィードバックさせるための相互情報交換システムとなる場の形成と活用を進める必要がある。また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の活動への参画やミレニアム・生態系評価等の各国政府にアドバイスを提供することを目的とした国際評価活動に積極的に参加すべきである。

4. 環境・エネルギー分野の人材育成

 グリーンイノベーションを強力に推進するためには、ローマ数字2.に掲げる研究開発課題の推進とともに、その担い手である人材の育成も「車の両輪」として強化していかなければならない。特に、天然資源に乏しく、また今後も人口減少が見込まれる我が国が、持続可能で自律的な成長を実現するためには、気候変動問題やエネルギー制約など、我が国のみならず世界共通の課題の解決に世界に先駆けて貢献し、イノベーションの創出を担い、事業化を見据えた活動ができる優れた人材を、絶え間なく育成していかなければならない。特に環境・エネルギー分野においては、前述したとおり、異分野融合の促進が極めて重要であることから、自ら進んで異分野に飛び込むことができる人材育成が求められる。
 そのためには、中長期的な視野に立った戦略的な取り組みを進めるとともに、関係する分野が多い環境・エネルギー分野においては特に、研究者の学際的な連携を促進し、特に国際的に開かれた人材育成環境を構築し、国際的な人材交流を活性化することにより、社会の多様な要請に応え、広く産学官にわたりグローバルかつ分野横断的に活躍するリーダーを育成することが必要である。さらに、育成された人材の積極的な活用についても十分検討するべきである。
 また、環境・エネルギー分野は、国民生活に身近なものであるので、国民自身に研究開発を理解してもらうような取組も必要である。

5. 国際的な取組の推進

 我が国が地球規模の問題解決において先導的な役割を担い、世界の中で確たる地位を維持するため、国際協調及び協力の観点からも、研究開発を戦略的に進めていかなければならない。我が国は、これまでの経済成長の中で、公害問題やオイルショックなどの様々な経験を経て、高度な環境技術やエネルギー技術、及びそれに関する政策を修得してきた。これらを他の先進国も含めた世界各国に展開し、地球規模の環境・エネルギー分野の課題の克服に貢献していくことは、我が国の責務である。我が国の科学技術を活かして、国際的な課題を克服する研究開発を推進し、国際的な科学技術協力を通じて、特に、アジア・アフリカ諸国等との相互信頼、相互利益の関係を構築していく必要がある。その実現手段の一つとして、地球規模課題解決のために日本と開発途上国の研究者が共同で研究を行う「地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)」が、独立行政法人科学技術振興機構(JST)と独立行政法人国際協力機構(JICA)の共同で実施されている。SATREPSは科学技術水準の向上と国際協力の強化のみならず、開発途上国の自立的研究開発能力の向上と課題解決に資する持続的活動体制の構築、また地球の未来を担う日本と途上国の人材育成とネットワークの形成を目的として、アジア・アフリカ地域の国々を中心に、現在60のプログラムが実施中である。
 また、我が国は、これまでもIPCCや全球地球観測システム(GEOSS)等の国際的な枠組・活動において、我が国の科学技術を活かした積極的な貢献を果たしてきた。来年6月には1992年の地球サミットから20周年を迎える機会に「国連持続可能な開発会議(Rio+20)」が開催され、持続可能な開発に関するこれまでの進展や今後の課題について、議論されることとなっているが、気候変動や地球観測分野におけるこれまでの我が国の貢献にとどまらず、引き続きこれらの活動を推進し、国際社会の中で主導的な役割を維持していくことが必要である

6. 自然科学と人文・社会科学の連携

  地球環境問題の解決のためには、単に各現象を解決する技術の確立のみならず、社会構造、都市構造、水利権や土地利用および経済活動を包含する、より大きな社会・経済的な観点からの取り組みが必要である。さらに、経済政策、外交政策あるいは、安全保障への対応等、様々な問題が絡み合う。環境・エネルギーに関する政策では、個別の科学あるいは技術の向上のみならず、我々を取り巻く社会経済活動の変革をもたらすことが求められる。このため、自然科学と経済社会システム変革の相互関係、環境・エネルギー技術の社会的受容性及びその実効性、その導入に関しての利害調整、リスクコミュニケーション及びそれを踏まえた国民的合意形成、科学技術面からの外交政策など、人文・社会科学領域との連携・融合が図られる必要がある。
 個々の科学技術が、社会全体としてどう生かされるのか、また、国民からの要請がどう科学技術の研究課題として反映されるのか等について、自然科学、社会科学、人文科学の各分野の研究者間で議論されることが、自然科学と人文・社会科学の連携を進め、真に国民に必要とされる環境・エネルギー技術の研究開発を推進することを可能とする。

お問合せ先

研究開発局環境エネルギー課

電話番号:03-6734-4181
メールアドレス:kankyou@mext.go.jp

(研究開発局環境エネルギー課)