パリ協定を踏まえた気候変動対策に貢献する温室効果ガス観測及びデータ利活用

平成30年11月30日
科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会地球観測推進部会

科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会地球観測推進部会では、パリ協定を踏まえた気候変動対策に貢献する温室効果ガス観測及びデータ利活用について、以下の通り取りまとめましたのでお知らせします。

1 背景

  平成16年12月、総合科学技術会議(現在の総合科学技術・イノベーション会議)において、「地球観測の推進戦略」が取りまとめられ、地球観測を推進する組織(現在の地球観測推進部会)と、関係府省・機関の連携を促進する拠点を設置することが提案され、平成18年4月、温暖化分野の連携拠点として「地球観測連携拠点(温暖化分野)」(以下、「連携拠点」という)が設置され、当該分野における観測ニーズの集約や観測データの利便性向上のための取組等を実施してきた。
  平成27年12月、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において、「パリ協定」が採択され、世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求することや、今世紀後半の温室効果ガスの人為的な排出と吸収の均衡等を目指すことが規定された。
  平成28年5月、パリ協定を踏まえ、地球温暖化対策計画が閣議決定され、長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すとともに、温室効果ガスの排出削減、吸収等に関する基盤的施策として、気候変動に係る研究の推進、観測・監視体制の強化が掲げられた。
  本年6月、気候変動適応法が成立し、温室効果ガスの排出削減対策(緩和策)と、気候変動の影響による被害の回避・軽減対策(適応策)は車の両輪であり、一体として推進すべきであるとされた。本法律により、国は気候変動適応計画を策定し、気候変動影響の将来予測に関する科学的知見に基づき、地方公共団体、事業者、国民と連携して適応策を強力に推進していくこととされた。
  本年10月、我が国で初めて地球観測に関する政府間会合(GEO)本会合が開催され、パリ協定をはじめ、SDGsや仙台防災枠組を含む国際的枠組に対するGEOの貢献について議論が行われ、地球観測及びデータ利活用の重要性が強調された。
  本年11月、連携拠点は、温室効果ガスの人工衛星、航空機、船舶、地上による観測データの継続的な収集と公開を促進し、そのデータをパリ協定に基づき各国が提出する国別排出量の検証・精緻化に活用するための取組について検討し、「パリ協定における我が国の貢献のための温室効果ガス観測及びデータ利活用の現状と課題」について報告書を取りまとめた。
  このような気候変動に関する国内外の動向を踏まえ、本部会は、総合科学技術・イノベーション会議、関係府省・機関等に対する提言を取りまとめた。


2 温室効果ガス分野の地球観測及びデータ利活用の重要性

  今後、パリ協定の目標達成に向けて、各国は5年ごとに、温室効果ガス排出の削減目標を定めた「自国が決定する貢献(NDC)」を提出することが義務付けられる。また、世界全体での実施状況の確認(グローバル・ストックテイク)が行われる。
  各国のNDC及びグローバル・ストックテイクの基礎データとなる温室効果ガスインベントリ(各種統計データを基に一国が一年間に排出・吸収する温室効果ガスの量を取りまとめたデータ。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のもとで作成された共通のガイドラインに沿って算出。)については、国や地域により未推計の排出源や、不確実性の高い項目がある。温室効果ガス観測及びデータ利活用によって温室効果ガスインベントリの精度を向上することは、我が国を含む各国・地域の温室効果ガス排出削減対策(緩和策)の効果を確認し、世界全体でパリ協定の目標達成度を測る上で極めて重要である。
  また、温室効果ガス観測及びデータ利活用によって、人為起源・自然起源の陸面及び海洋における排出・吸収を高精度で推定し、それを基にして将来気温が何度上昇するか等の気候変動の予測精度を向上することができれば、気候変動の影響による被害を回避・軽減(適応策)する上で極めて有益である。
  以上より、温室効果ガス観測及びデータ利活用は、パリ協定の目標達成に向けた気候変動緩和策の効果を確認するとともに、気候変動適応策の推進に不可欠な気候変動予測情報の基盤となることから、今後の気候変動対策の推進を加速する上で極めて重要である。


3 温室効果ガス観測及びデータ利活用の現状及び課題

(1)温室効果ガス観測

  我が国では、温室効果ガス分野に関わる国内の関係府省・機関が協力して、人工衛星、航空機、船舶、地上における観測の充実に尽力してきたため、地球規模で観測能力が空間的にも時間的にも大きく向上し、基礎的なデータやそれに基づく科学的知見の蓄積に大きく貢献してきた。特に、現在のところ世界で唯一の民間航空機による多数フライトを利用した定常的な温室効果ガスの観測プロジェクトは、広範囲かつ高頻度で大気中の温室効果ガス観測データを収集している。また、二酸化炭素及びメタンの濃度の観測を主目的とした世界初の衛星である温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」は、単一観測センサでの全球均質なデータを取得するとともに観測可能域を拡大してきた。本年10月に打ち上げられた「いぶき2号」は「いぶき」ミッションを引き継ぎ、より高性能な観測センサを搭載して温室効果ガスの観測精度向上を行うとともに、「いぶき」では観測していなかった一酸化炭素を新たに観測対象として追加し人為起源の二酸化炭素の排出量を推定すること等によって、さらに大きな成果が期待されている。
  一方、温室効果ガス排出量・吸収量を推定し気候変動対策に貢献するためには、数年から数十年にわたる監視が不可欠であり、国内外の様々な枠組下で長期継続的に実施されている観測の維持はもちろん、特に大型プラットフォームを要する人工衛星観測、航空機観測、船舶観測においては長期的視点に基づく計画立案とその着実な実施が求められる。例えば地球観測衛星ミッションについては開発期間に5年程度を要することを踏まえ、継続的な観測体制を整備していく必要がある。気候変動枠組に関する国際交渉において、我が国が存在感を示すためには、全球規模の温室効果ガス観測の継続的実施が不可欠である。また、我が国には大学等における地球環境研究の一環として実施する観測点が相当数あるものの、3年から5年でプロジェクトが終了し、継続が困難という実状があるが、今後は、既存の観測点も活かして観測を拡充し、観測空白域を低減することが必要である。

(2)温室効果ガス観測データ利活用

  近年、多様な観測データを高度な解析システムと組み合わせることにより、全球及び地域別の人為起源、自然起源の排出量・吸収量の推定精度が格段に向上してきた。温室効果ガス濃度分布に大気の流れ等を加味して解析された温室効果ガスの排出量・吸収量の推定データと、各種統計データに基づいて算出される温室効果ガスインベントリを独立の情報として捉え、相互に比較し、補完的に利用することにより、人為起源排出量の推定精度を向上させることが長期的に可能というレベルに到達している。
  今後、パリ協定の実施状況を定期的に確認するグローバル・ストックテイクや、温室効果ガス削減に向けた社会の様々な取組みの効果の科学的検証とそれに基づく次期施策策定に活用するためには、データ統合・解析システム(DIAS)や全球地球観測システム(GEOSS)等の国内外の共通基盤システムの活用を一層促進することが重要である。また、温室効果ガス観測データの可能な限り迅速な収集整備・品質管理の高度化を推進するとともに、高い信頼度で人為起源と自然起源の排出量・吸収量を推定する手法の開発と、これを推進する体制を整備する必要がある。体制整備に当たっては、温室効果ガス観測データの多層的利活用に向けて多様な視点を共有して協働するため、フューチャー・アースが推進する超学際研究のアプローチや、DIASや欧州の「コペルニクス」が推進するアプリケーション開発における産学官連携のアプローチが必要である。


4 提言

 パリ協定を踏まえた気候変動対策に貢献する温室効果ガス観測及びデータ利活用の重要性等を踏まえ、本部会は、以下の対応を提言する。
(1)関係府省・機関は、人工衛星、航空機、船舶、地上の既存の観測に加えて、大学等における地球環境研究の一環として実施中もしくは新規に開始する観測とも協力し、効果的な観測の拡充とその維持を図るべきである。
(2)関係府省・機関は、グローバル・ストックテイクのタイミングにあわせ、地球規模での人為起源・自然起源の排出量・吸収量の推定精度を上げつつ、5年ごとに公表するための仕組みを国内に構築すべきである。そのために、初回の2023年までに、温室効果ガス観測データを可能な限り迅速に収集整備し、適正な品質管理を行い、高度な分析システムと統合する手法の開発と、これを推進する体制を整備すべきである。
(3)総合科学技術・イノベーション会議は、「第5期科学技術基本計画」において、「気候変動の監視のため、人工衛星、レーダ、センサ等による地球環境の継続的観測や、スーパーコンピュータ等を活用した予測技術の高度化、気候変動メカニズムの解明を進め、全球地球観測システムの構築に貢献するとともに、(中略)温室効果ガスの排出量算定・検証技術等の研究開発を推進」、「地球環境の情報をビッグデータとして捉え、気候変動に起因する経済・社会的課題の解決のために地球環境情報プラットフォームを構築する」とされていることなどを踏まえ、次期「統合イノベーション戦略」では、温室効果ガス観測及びデータ利活用の推進について盛り込むべきである。

お問合せ先

研究開発局環境エネルギー課

メールアドレス:kankyou@mext.go.jp

(研究開発局環境エネルギー課)