「平成21年度の我が国における地球観測の実施計画」に基づく地球観測等事業の進捗状況のフォローアップ

目次

1.フォローアップの主旨    
2.「平成21年度地球観測実施計画」の概要、及びそのフォローアップの方針  
2.1 地球観測の実施方針に基づく地球観測等事業の推進  
(1)気候変動とその影響を監視・予測するための観測体制のあり方  
(2)地球観測の基本戦略に基づく地球観測等の事業の推進  
2.2 各分野における地球観測等事業の推進  
(1)喫緊のニーズに対応した重点的な取組    
(2)分野別の推進戦略  
3.「平成21年度地球観測実施計画」の進捗状況について    
3.1 気候変動とその影響を監視・予測するための観測体制のあり方
(1)観測データの統合による有用な情報の提供
(2)観測データの標準化と流通の促進
(3)ODA等を活用した開発途上国の能力開発
(4)気候変動への対応として求められる具体的取組
3.2 地球観測の基本戦略に基づく地球観測等の事業の推進
(1)利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築
1)連携拠点の設置と運営
(A)地球温暖化分野に関する連携拠点
(b)地震及び火山分野に関する連携拠点
2)具体的施策における分野間・機関間連携
(2)国際的な地球観測システムの統合化における我が国の独自性とリーダーシップの発揮
(3)科学技術外交の強化による地球観測体制の確立
1)災害分野
2)水分野  
3)生態系分野
4)農業分野
5)地球観測の共通基盤
4.各分野における地球観測事業の推進
4.1喫緊のニーズに対応した重点的な取組
(1)地球温暖化にかかわる現象解明・影響予測・抑制適応
(2)水循環の把握と水管理
(3)対流圏大気変化の把握
(4)風水害被害の軽減
(5)地震・津波被害の軽減
4.2 分野別の推進戦略
(1)地球温暖化
(2)地球規模水循環
(3)地球環境
(4)生態系
(5)風水害
(6)大規模火災
(7)地震・津波・火山
(8)エネルギー・鉱物資源
(9)森林資源
(10)農業資源
(11)海洋生物資源
(12)空間情報基盤
(13)土地利用及び人間活動に関する地理情報
(14)気象・海象
(15)地球科学
5.フォローアップの結論
5.1 平成21年度の地球観測の実施状況
5.2 今後の課題 

1.フォローアップの主旨

 平成18年3月28日に閣議決定された「第3期科学技術基本計画」では、平成18~22年度に政府として実行すべき科学技術施策を提示している。地球観測の重要性は同計画においても認識されており、同計画・分野別推進戦略「環境分野」には『「地球観測の推進戦略」に従い、総合的な地球観測システムの構築に向けて、省庁横断的な取組が必要であり、各国の活動とも連携して、全球地球観測システム(GEOSS)※10年実施計画の実施を目指す』と記述されている。※

総合科学技術会議は、我が国の地球観測への取組に当たっての考え方、戦略的に取組むべき重点課題・事項等を、「地球観測の推進戦略」(平成16年12月27日付け意見)にとりまとめた。ここでは、
A.科学技術・学術審議会は、「地球観測の推進戦略」に沿って、関係府省・機関の緊密な連携・調整の下、地球観測の推進、地球観測体制の整備、国際的な貢献策等を内容とする具体的な実施方針を毎年策定する。

B.総合科学技術会議は、実施方針とそれに基づく事業の進捗状況について科学技術・学術審議会からの報告を受けるとともに、必要に応じて関係府省・機関からも報告を受けて総合的な評価を行うこと等により、統合された地球観測システムの運用状況をフォローする。このような総合的な評価及び国内外の動向を踏まえて、「地球観測の推進戦略」の見直しを必要に応じて行う。

と規定している。本フォローアップはこの規定に基づいて、総合科学技術会議 基本政策専門調査会 環境プロジェクトチーム(以下、「環境PT」)が実施するものである。

 平成21年度フォローアップの経緯は以下の通りである。科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 地球観測推進部会は、平成20年8月12日に「平成21年度の我が国における地球観測の実施方針」(以下、「H21実施方針」)を策定した。同実施方針及び「地球観測の推進戦略」に則り、平成21年度に政府において実施する観測事項をまとめたものが「平成21年度我が国における地球観測の実施計画」(以下、「H21実施計画」)である(図1)。地球観測推進部会は、「H21実施計画」に基づいて実施された関係省庁・機関の地球観測等事業の進捗状況に関する報告をまとめ、環境PTへ報告した。これを受け、環境PTは本フォローアップを実施した。

2.「平成21年度地球観測実施計画」の概要、及びそのフォローアップの方針

 「H21実施計画」は、地球観測に関する網羅的な計画であり、各省庁が掲げた個々の計画の総数は約200件(再掲を除く)にのぼる。「H21実施計画」は2部から成り、第1部「地球観測の実施方針に基づく地球観測等事業の推進」は「H21実施方針」に基づき構成されている。続く第2部「各分野における地球観測等事業の推進」は「地球観測の推進戦略」に基づき構成されている。

また、「H21実施計画」の主な特徴は、第1に「気候変動とその影響を監視・予測するための観測」という章を設け、気候変動問題に対する観測の役割を明確化していることがあげられる。第2に、「科学技術外交の強化に向けて(総合科学技術会議、平成20年5月19日)」を踏まえ、開発途上国への貢献等、国際的な取組も重視している。
そこで、本フォローアップでは、以下の方針に基づき、計画の遂行状況をまとめた。

2.1 地球観測の実施方針に基づく地球観測等事業の推進

(1)気候変動とその影響を監視・予測するための観測体制のあり方
 地球環境に関する観測、予測、情報発信は10年、100年規模の長期にわたる責任ある取組が求められ、国が果たすべき役割が多大であり、データ取得や予測に際しては、ニーズを第一に考えた取組が必要である(「H21実施方針」)。特に気候変動対策は、国内外の様々な機関と連携して、気候変動のプロセス・メカニズムの解明や気候変動の自然環境や社会生活に与える影響を検討することが必要である。ここでは、以上を踏まえ、データの収集・解析・統合、流通、利用に関する主要な取組をフォローアップした。

(2)地球観測の基本戦略に基づく地球観測等の事業の推進
 分野間及び府省庁・機関間の連携を促進する取組、地球観測に関連する国際機関・計画に対する我が国の貢献、国際協力による地球観測体制の確立について、平成21年度における省庁・機関の主要な取組をフォローアップした。

2.2 各分野における地球観測等事業の推進

(1)喫緊のニーズに対応した重点的な取組
 「地球観測の推進戦略」では、我が国の地球観測において、国民の安心・安全の確保、経済社会の発展と国民生活の質の向上、国際社会への貢献の観点から、国として喫緊に対応するべきニーズを明確にした上で、ニーズに的確に応え得る重点的な取組を戦略的に行うことが重要であるとしており、国による地球観測の推進において喫緊の対応が求められているニーズとして、5つの分野 を例示している。

(2)分野別の推進戦略
 「地球観測の推進戦略」では、社会的な要請に応える包括的な地球観測の全体像を明らかにするため、地球観測の各分野の学識経験者による検討に基づき、15の分野 のそれぞれについて現状、観測ニーズ、今後の取組、方針等を整理した。

 上述したとおり、「H21実施計画」の「第2部 各分野における地球観測事業の推進」は、「地球観測の推進戦略」に基づき構成されたものであり、その内容は「第1部 地球観測の実施方針に基づく地球観測事業の推進」と重なる部分が多い。そこで、第1部との重複を避けつつ、特徴的な取組をフォローアップした。

3.「平成21年度地球観測実施計画」の進捗状況について

3.1 気候変動とその影響を監視・予測するための観測体制のあり方

(1)観測データの統合による有用な情報の提供
 既に様々な機関が観測データをインターネット上などで公開しているが、地球環境に関する観測や気候変動に関する予測の成果は、社会経済データとの統合も視野に置き、社会的に有用な情報、例えば気候変動に対する適応策に役立つ情報に変換して提供することが求められる。
 観測データの統合については、大きく分けて、A超高速・高機能研究開発テストベッドネットワーク(JGN2plus)を活用した取組、B「データ統合・解析システム」の構築、C既存のデータベースとの連携の3つの観点から行われた。具体的には以下の通りである。

 ○総務省は、JGN2plusを活用して、亜熱帯環境計測ネットワークデータシステム(沖縄地方の大気・海洋観測データを、準リアルタイムで共同研究機関に配信し、解析するシステム)や地球・宇宙環境情報可視化システムの開発に取組んだ。高速ネットワークの特性を活用した解析の向上を図ることが課題である。

 ○文部科学省は、データ統合・解析システム(DIAS)の構築に取組むとともに、衛星データや海洋観測データ等の投入を行っている。具体的には、独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が取得した海洋観測データを投入するとともに海洋再解析データセット(1950年代まで拡張)を整備している。また、統融合コアシステムに投入対象となるデータセットのメタデータ構築について、体系化の検討を進めた。地球観測データの科学的・社会的に有用な情報への変換に関する研究開発を継続して実施し、レーダ観測による降雨予測の誤差評価を含めた手法を導入することによって利根川流域を対象にしたダム最適操作システムの更なる高度化や、4次元変分法海洋再解析プロダクトを世界最長レベルの1950年代まで拡張しレジームシフトの時間・空間構造の理解や海洋資源変動の統計モデルへの拡充など、気候変動・地球温暖化分野・水分野・生態系分野などにおいて、多様な観測データの統合・解析に係わる応用機能の開発を実施した。
   システムの開発は着実に進んでおり、今後、開発したシステムの継続的な運用をすることが課題である。

 ○林野庁は、独立行政法人森林総合研究所の森林動態データベースを通じて観測データの統合と標準化、公開に取組んだ。日本長期生態観測研究ネットワーク(JALTER)などで、各種の森林動態の比較研究に利用されている。 

(2)観測データの標準化と流通の促進
 観測データの統合・流通に当たっては、各府省・機関及び大学などの観測実施機関が取得した観測データを他の機関や個人でも利用することができるよう、フォーマットの統一を含めた観測データの標準化と観測データの流通に関するデータポリシーを策定することが課題である。
 平成21年度は、地球観測連携拠点、文部科学省、林野庁、水産庁、気象庁等により、温室効果ガス、海洋観測データ、森林動態観測等の分野で観測データの標準化が進展した。例えば、地球温暖化分野に係る地球観測連携拠点は、温室効果ガスの標準ガス体系について日本国内の連携を図るため、関係者による専門家会合を開催した。また、データ標準化と流通の促進を図るため、地球温暖化観測を実施している関係府省・機関、大学等に対して、気象庁が運営する世界気象機関(WMO)温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)ならびに海上保安庁が運営する日本海洋データセンター(JODC)へ地球温暖化観測に関連する観測データの提供を依頼した。 また、観測データの公開も進んでいる。以下にその具体例を示す。

A)独立行政法人海洋研究開発機構は、機構が運用する船舶等により取得された調査観測データに関し、各種データ公開サイト等により公開するとともに、Web GISを利用した検索サービス「JAMSTECデータ検索ポータル」を構築し、公開した。

b)水産庁は、釧路沖観測線(Aライン)で得られた年6回の海洋環境情報をホームページで公表した。また、北海道、本州、九州の水産関係試験研究機関と協力して、日本周辺海域の海況データを海況予測システム(FRA-JCOPE)に入力し、日本周辺太平洋域における海洋の現況図と2ヶ月先までの予測図を協力機関に提供した。また、このうち公開可能なデータについては気象庁に受け渡して世界に発信した。

c)気象庁は、太平洋・インド洋に投入したアルゴフロート(中層フロート)のデータを24時間以内にデコードし、全球通信システム(GTS)と世界データセンターへ配信している。

(3)ODA等を活用した開発途上国の能力開発
 陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)等の観測データについて、国際協力機構(JICA)及び相手国政府機関と協力したブラジル、インドネシア等における森林違法伐採、森林減少の監視に利用された。また、「だいち」の観測データは、ブータン・ヒマラヤ地域における氷河湖監視、インドネシアにおける泥炭における火災検知と炭素管理等での利用が進められている。

 引き続き、ODA等に基づく我が国の途上国支援において、地球衛星観測データの提供による協力を期待する。

(4)気候変動への対応として求められる具体的取組
 気候変動への対応として求められる取組は、非常に範囲が広く、効率的に実施するためには、様々な取組の相互関係を把握することが必要である。そこで、ここでは、「H21実施計画」に基づく取組を、観測方法、観測地点、観測項目などについて整理した(巻末の付表1~付表6を参照)。

<気候変動の現状と将来を把握・理解するための取組>

 気候変動の現状と将来を把握・理解するための取組のうち、付表1に衛星観測に関する取組、付表2に地上観測に関する取組、付表3に海洋観測に関する取組、付表4に生態系・農業に関する取組をそれぞれ示す。

○温室効果ガスの現状や循環の把握
 平成22年2月から「いぶき」(GOSAT)による全球レベルでの温室効果ガス濃度分布観測データの提供が開始された(付表1参照)。「いぶき」については、欧州宇宙機関(ESA)との間で、データの校正、提供に係る協力を実施するとともに、欧州中期気象予報センター(ECMWF)、米国航空宇宙局(NASA)等とGOSATデータの提供について協力を実施している。
 温室効果ガスの地上観測ステーションは、世界に偏在しており、これまで全球レベルでその濃度の分布を把握することは困難であった。今後、「いぶき」の観測データが世界の温暖化対策に貢献することを期待する。なお、気象庁では、数値モデルを用いて世界全体の二酸化炭素濃度分布を推定する技術を開発し、過去の二酸化炭素分布情報を平成21年度より公開している。
 また、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」では、オゾンを観測している。観測データは1年間の精査を経て、一般に公開される予定である。
 他方、地上観測については、データの観測、収集といった観測システムが着実に整備されている(付表2参照)。気象庁は世界気象機関(WMO)の全球大気監視計画(GAW)に基づき、地球規模の大気汚染の実態とその長期的変化を明らかにするため、綾里(岩手県大船渡市)、南鳥島(東京都小笠原村)、与那国島(沖縄県与那国町)の3か所で、温室効果ガス(二酸化炭素・メタンなど)や、その他のガス(一酸化炭素など)を観測している。観測データは、WMO温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)に提供している。独立行政法人国立環境研究所も温室効果ガスの長期的変動を解析し温暖化研究に資するため、波照間(沖縄県竹富町)及び落石岬(北海道根室市)の2カ所で温室効果ガス及びその他の関連ガスを観測している。
 更に、広域観測については、独立行政法人国立環境研究所が民間航空機及び民間船舶を用いた観測を実施し、温室効果ガス観測データを公開するとともに、それをWDCGGおよびGLOBALVIEWデータベース等に登録している。
 さらに、生態系の二酸化炭素吸収量の把握等、比較的狭い地域におけるCO2フラックスの観測については、独立行政法人産業技術総合研究所、独立行政法人国立環境研究所、独立行政法人森林総合研究所、独立行政法人農業環境技術研究所や大学が中心となって観測を実施している。現在、国内のフラックスタワーは、高山(岐阜県)、富士山麓(山梨県)、天塩(北海道)などに設置されている 。なお、観測データは、アジアのフラックス観測ネットワークであるAsiAFluxデータベースを通じて公開されている。
 温室効果ガスの把握については、二酸化炭素については衛星観測、地上観測、海洋観測のいずれの分野でも、観測、データの収集、公開が着実に進んでいる。他方、二酸化炭素以外の温室効果ガスの観測は二酸化炭素に比べると限定的であり、今後の課題である。

○エアロゾルと雲に関する観測
 エアロゾルの観測については、日欧共同で開発する雲エアロゾル放射ミッション(EArthCARE)衛星に搭載する雲プロファイリングレーダ(CPR)の開発が着実に進んでいる。また、EArthCAREの地上検証チームは、航空機船舶搭載雲レーダーライダーによる雲鉛直分布の観測を実施した(付表1参照)。
 地上観測については、気象庁が定常観測として、綾里、南鳥島、与那国島の3か所で、エアロゾルの観測を実施している(付表2参照)。また、独立行政法人産業技術総合研究所は、父島においてPM2.5の観測を実施した。独立行政法人国立環境研究所は沖縄辺戸岬大気・エアロゾル観測ステーション(以下辺戸ステーション)を整備し、千葉大、産業技術総合研究所等と協力し、大気中のエアロゾルの重量濃度、化学組成、鉛直分布、雲観測、及び、放射観測等エアロゾルと雲に関する総合的な観測を行っている。辺戸ステーションはUNEP/ABC観測ネットワークの一部として機能している。独立行政法人国立環境研究所は長崎県福江島においても千葉大等と協力し、同様のエアロゾルと雲に関する総合的な観測を行っており、辺戸ステーションのデータとあわせ、越境・広域大気汚染の解析も進めている。さらに、独立行政法人海洋研究開発機構は、富士山、横須賀、沖縄辺戸岬、長崎県福江島、黄山(中国)、合肥(中国)、光州(韓国)、ズベニゴロド(ロシア)、トムスク(ロシア)で、オゾン、一酸化炭素、二酸化窒素、黒色炭素、エアロゾル等の観測を現地の研究機関等と協力して行い、越境・広域大気汚染の解析を進めている。

○気象・気候観測体制の整備
 日本の南方については、独立行政法人海洋研究開発機構がインドネシア多島海を中心とした水蒸気量、降水量、同位体組成等の観測体制の構築に取り組み、対流活動と水循環の時空間変動の解明に関する研究を実施している(付表2参照)。また、独立行政法人情報通信研究機構が大学と協力して、JGN2plusを用いて、沖縄地方の大気・海洋観測データの定常的な観測、解析等に関する取組を実施している。他方、ユーラシア寒冷圏については、気候モデル開発の基礎資料となる土壌水分、雪氷諸量の観測が行われている。さらに、様々な観測データを再処理・解析する長期再解析については、気象庁が取組、気候の監視などの基礎データ、季節予報モデルの検証データとして利用している。

○衛星観測
 平成21年1月に打ち上げた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」については、平成21年10月から輝度スペクトルデータ及び観測画像の一部提供を開始し、平成22年2月からは二酸化炭素・メタン濃度分布等のデータの一般提供を開始した。また、陸域観測技術衛星「だいち」については、平成18年度から継続して、雪氷、氷河等の観測及びデータ提供を実施している。今後、打ち上げが予定されている、雲エアロゾル放射ミッション/雲プロファイリングレーダ(EArthCARE/CPR)、水循環変動観測衛星(GCOM-W)、気候変動観測衛星(GCOM-C)、水循環変動観測衛星(GPM/DPR)について、研究開発が進んでいる。

○海洋観測
 海洋観測は、観測船及び漂流ブイなどで行われており、観測、データの収集、公開が着実に進んでいる(付表3参照)。
独立行政法人海洋研究開発機構は、平成21年度には、海洋地球研究船「みらい」等を用いて、太平洋の南緯17度線の横断観測を実施し、物理データのほか二酸化炭素とその関連物質等を観測した。また、過去に実施した大陸間縦・横断観測による二酸化炭素等の高精度データを公開している。これらの観測データは、国内外の研究者によってモデル計算の検証や解析などに利用されている。気候変動に対する生態系と海洋物質循環の応答を調べ、その海域比較を行うため、北西北太平洋の亜寒帯、亜熱帯域2測点において、係留系による連続観測、船舶による集中観測を実施した。
 気象庁は、平成21年度には、海洋気象観測船による北西太平洋の東経137度線と165度線などの定線上で、二酸化炭素等の観測を実施するとともに、漂流型海洋気象ブイロボットにより、日本周辺海域の海面気圧、波浪、海面水温を観測し、それらのデータを気象庁ホームページで公開している。

○生態系に関する観測
 独立行政法人水産総合研究センターは、釧路沖(Aライン)、御前崎沖((Oライン)、東シナ海(CKライン)において海洋環境と低次生態系のモニタリングを継続し、改良した生態系モデル、魚類生産モデルを使いIPCC報告書に沿った温暖化実験を進めた(付表4参照)。また、環境省は、モンゴルにおいて、MODISによる環境資源情報のリモートセンシング評価技術の開発を実施している。

○農業分野における観測
 農業分野では農業用水や灌漑施設への温暖化影響評価とその対策が大きな課題の一つである。
 平成21年度は、日本水土総合研究所及び独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究所がカンボジア国水資源気象省河川水文局ならびに技術支援センターと協力して水文・気象観測を実施した(付表4参照)。また、温暖化による農地水利用や灌漑への影響について、農地水利用が考慮できる分布型水循環モデルならびに気候温暖化実験結果を用いてメコン河全流域で予測を行った後、カンボジア・プルサット川流域とラオス・ナムグム川流域を抽出して、それぞれ灌漑、ダム貯水管理に焦点を絞り、現在、近未来、21世紀後半における温暖化影響評価を行った。
 独立行政法人農業環境技術研究所は、地球温暖化に伴う農作物高温障害の実態解明のため、中国、インド、ミャンマー、フィリピン、スリランカの関係機関と共同で、耕地気象の観測を開始した。また、高精度観測衛星アーカイブの時系列データから、土地利用変化の大きい中国黒竜江省の水田作付け分布履歴図を作成した。

○極地における観測
 独立行政法人海洋研究開発機構は、太平洋側北極海において、北極海で起きている変化とそのプロセス、影響を明らかにするために、海洋地球研究船「みらい」を用いた総合観測航海を実施し、海洋物理・気象・生物地球化学・古海洋に関するデータを取得した(付表3参照)。また北極点付近の海氷上に氷海観測用プロファイラー(POPS)を設置し、海氷下の熱輸送についての知見を蓄積するための水温、塩分、気温、気圧等を観測した。取得データの品質管理を行ない、データを公開した。
 気象庁は南極昭和基地において地上気象観測、高層気象観測、オゾン観測等の定常観測を実施した(付表2参照)。 

<気候変動の影響が顕著にあらわれる分野への取組>
 まず、衛星観測に関する取組については、独立行政法人宇宙航空研究開発機構が、気候変動に脆弱な地域における影響モニタリングとして、平成14年度から継続して、米国のアクア衛星(AquA)搭載の我が国の改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR-E)により、陸域における積雪面積、北極海の海氷面積の観測及びデータ提供を実施している(付表5参照)。また、「だいち」は、植生分布、雪氷、氷河等の観測を実施している。さらに、全球降水観測(GPM)計画の主衛星に搭載する二周波降水レーダ(DPR)や水循環変動観測衛星(GCOM-W)の開発及び「だいち」の後継機であるALOS-2、ALOS-3の研究開発も着実に行われている。
 他方、地上観測に関する取組については、気象庁は、気象ドップラーレーダーの観測成果等の活用により、局地的な被害をもたらす突風に関する気象情報の提供を全国的に開始した(付表5参照)。
 独立行政法人土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)は、インドネシアにおいて、開発した総合洪水解析システムの改良、現地の降水量等の情報を用いたインドネシア仕様のシステム構築、現地トレーニング等を行った。また氾濫解析との連携に向けた検討・開発を実施している。
 その他、農業への影響については独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構が、海洋生態系については独立行政法人水産総合研究センターが、それぞれ取組んだ。
 「気候変動の影響が顕著にあらわれる分野」についても、全体的なビジョンを作成し、戦略的に進めることが必要だと考えられる。 

<気候変動に大きな影響を与える森林分布への取組>
 独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人宇宙航空研究開発機構、独立行政法人森林総合研究所が、二酸化炭素収支に大きな影響を及ぼす可能性のある森林のマッピングとその変化の監視に関する、人工衛星と地上観測データとを組合せた詳細な把握・理解、全球の樹木被覆率データの利活用促進と時系列データの整備等に取組んでいる(付表6参照)。

3.2 地球観測の基本戦略に基づく地球観測等の事業の推進

(1)利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築
1)連携拠点の設置と運営
(A)地球温暖化分野に関する連携拠点
地球温暖化分野に係る地球観測連携拠点は、地球温暖化分野の地球観測実施計画の作成・報告、地球観測へのニーズ等の調査・集約、関係府省機関の調整及び情報の収集・分析等を行うものであり、平成18年に国立環境研究所内に事務局を設置した。
本連携拠点は、地球観測に関する関係府省・機関連絡会議(温暖化分野)の下で運営され、地球観測推進委員会(温暖化分野)による科学的助言を得つつ、A.地球温暖化監視・予測のために必要な観測ニーズを踏まえて、関係機関による観測の実施計画を取りまとめ、B.観測施設の相互利用及び観測データの標準化・流通の促進を図ることで、関係府省・機関間の地球温暖化観測の連携を推進している。平成21年度の活動状況の一部を以下に示す。 

○地球温暖化観測推進ワーキンググループ報告書第2号「地球温暖化観測における連携の促進を目指して-雲・エアロゾル・放射および温暖化影響評価に関する観測-」を作成した。

○地球観測連携拠点(温暖化分野)の事務局(地球温暖化観測推進事務局)主催の平成21年度ワークショップ「統合された地球を目指して-雪氷圏における観測の最前線―」を開催した。

 連携拠点としての活動は概ね順調に進捗していると評価できる。

 文部科学省地球観測推進部会において、水分野および生態系・生物多様性分野の地球観測連携拠点の設置に向けた検討が開始された。両連携拠点の早期の設置と活動の開始を期待する。

(b)地震及び火山分野に関する連携拠点
 地震及び火山分野については、地震調査研究推進本部及び科学技術・学術審議会測地学分科会の事務局である文部科学省が連携拠点としての機能を果たしている。
地震・火山噴火予知研究については、平成20年7月の科学技術・学術審議会において、初めて地震と火山を統合した「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の推進について」の建議がなされた。地震調査研究推進本部が策定する新たな10年の基本計画「新たな地震調査研究の推進について-地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策-」(平成21年4月決定)の中でも、火山に関する研究を考慮した効率的な観測点配置にすべきと明確に記述される等、地震及び火山分野の連携が強化された。
 地震及び火山分野においては、従来からの経緯もあり、関係行政機関等の連携・協力が図られている。今後も連携拠点の一層の機能強化を期待する(「平成20年度実施計画」のフォローアップ再掲)。 

2)具体的施策における分野間・機関間連携
 電離圏観測の分野では、独立行政法人情報通信研究機構が国内および南極昭和基地において定常観測を実施するとともに、タイ、インドネシア、ベトナム、中国の研究機関と連携し、電離圏高度・電子密度等の各種パラメータ、GPS-TEC、GPSシンチレーション、地磁気等の観測を定常的に実施している。
 また、二酸化炭素フラックスについては、独立行政法人森林総合研究所、独立行政法人農業環境技術研究所、独立行政法人産業技術総合研究所及び独立行政法人国立環境研究所の連携により、国内の各サイトにおいて観測が実施されている。
 このほか、辺戸岬スーパーサイトの共同運用(独立行政法人国立環境研究所が運営、東京農工大学、千葉大、大阪府立大学、琉球大学、独立行政法人産業技術総合研究所、独立行政法人海洋研究開発機構等が協力)や、「いぶき」(GOSAT)データの利用推進(独立行政法人宇宙航空研究開発機構、独立行政法人国立環境研究所)などの事例がある。このような分野間・機関間連携については、単なる観測データの収集に留めず、得られた成果の広報や利活用にも積極的に推進していくべきである。

(2)国際的な地球観測システムの統合化における我が国の独自性とリーダーシップの発揮
我が国は、国際的な地球観測システムの統合化において独自性を確保するとともに、リーダーシップを発揮する観点から、地球観測に関する政府間会合(GEO)をはじめ、地球観測に関連する国際機関・計画に参加するほか、各分野で実施している地球観測に関する取組を通じて、国際的な地球観測システムの構築を推進しており、今後、以下の取組を進めることを期待する。

○GEOSSなど地球観測に関する国際的枠組みへの貢献
GEO2009-2011作業計画については、我が国の14機関がのべ90のサブタスクに参加しており、また、WMO、GCOS、GTOS、GOOS、WCRP、IGBP、APN等の国際機関・国際観測計画に資する観測を実施している。中でもGEO2009-2011作業計画では、我が国の機関が12のサブタスクのリード機関となっており、GEOSS10年実施計画への貢献が期待される。

○地球観測に関連する国際機関・計画
独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)について、欧州宇宙機関(ESA)、欧州中期気象予報センター(ECMWF)、米国航空宇宙局(NASA)等とデータ提供・校正等に関する協力を実施した。地球環境変動観測ミッション(GCOM)については、米国海洋大気庁(NOAA)が計画している極軌道環境観測衛星システム(NPOESS)に関して協力し、データ交換や共同校正検証などを行うことで調整を進めている(現在、米国においてNPOESS廃止に向けた開発枠組みの変更について検討中)。全球降水観測(GPM)計画については、米国航空宇宙局(NASA)が衛星本体等を開発し、独立行政法人情報通信研究機構と協力して主衛星に搭載する二周波降水レーダー(DPR)の開発を進めている。雲エアロゾル放射ミッション(EArthCARE)については、欧州宇宙機関(ESA)が衛星本体等を開発し、独立行政法人情報通信研究機構と協力して雲プロファイリングレーダ(CPR)の開発を進めている。
気象庁は、各種気象観測を実施し、WMO温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)、WMO全球大気監視較正センター(WCC)、WMO品質保証科学センター(QA/SAC)として、観測データの収集・解析・提供、データの高精度化、及び観測の技術協力等を実施した。
環境省は平成15年より「開発途上国の研究能力開発・向上プログラム」(CAPABLE)を推進しており、平成21年度は、この下に「影響予測」特別枠を作り、気候変動影響に対する途上国の適応能力の向上を図っている。また、APN政府間会合と科学企画グループ会合を合同で開催し、2010~2015の5年間におけるAPN第3次戦略計画が採択された。
 地球観測等事業は地球温暖化対策や風水被害の軽減等への貢献が期待されている。観測データの利用や公表は進んできたが、一層の利用促進のためには、利用者のニーズに合うデータの充実と、観測データの品質維持が重要である。さらに、途上国の能力開発・向上に重点をおき、データ利用・解析能力の向上を図る必要もある。また、国際社会における我が国の役割を積極的に果たすため、GEOSSをはじめ、国際観測ネットワークへのさらなる貢献が必要である。一方、国際的な地球観測システムの統合化については、各国機関との連携を強化しつつ、種々のタスクでリーダーシップを発揮することを期待する。

(3)科学技術外交の強化による地球観測体制の確立
我が国は、「地球観測の推進戦略」及び「GEOSS10年実施計画」を踏まえて、アジア・オセアニア地域との連携の強化による地球観測体制の確立に向けて取組んできた。  
しかしながら、現在、気候変動に関する観測データ及び文献の地理的分布に偏りがあり、アジア・オセアニアのみならず世界各地に空白域が存在しており、このことは将来の気候変動とその影響の予測を不確実なものとしている。また、開発途上国における気候変動の影響は深刻であり、食料問題及びエネルギー・鉱物資源確保の問題として我が国にも影響を及ぼすと考えられる。
 平成20年5月に総合科学技術会議が取りまとめた「科学技術外交の強化に向けて」は、アジアのみならず、アフリカ等の開発途上国の発展にも我が国の科学技術が大きな役割を果たすべきであり、開発途上国側からも我が国の科学技術力を使った支援や取組に関する期待は極めて高いと指摘している。欧米をはじめとする先進諸国は、国際政治における自らの地位向上の重要政策として、地球環境問題に関する科学技術協力をアジア・アフリカ・オセアニア地域の発展途上国に対して開始している。
このような状況と「H21実施方針」を踏まえると、アフリカ地域に対する科学技術協力に課題が残されている。ここでは、アジア・オセアニア地域及びアフリカ地域と広く連携を図る必要のある分野を取り上げる。

1)災害分野
 災害分野に関する国際協力については、リアルタイムで現地防災機関に情報を提供できる体制を整備し、既存のシステムとあわせて活用することが重要である。独立行政法人宇宙航空研究開発機構はハイチ地震、チリ地震においても陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の緊急観測を実施し、解析結果を国土地理院等とともにWeb上で発信しており、取組として評価できる。他方、開発途上国に対する地震、津波及び火山噴火に関わる情報提供にあたっては、開発途上国における観測技術や専門家育成の支援を進める必要もあり、国際機関等との十分な連携が必要である。風水害軽減にあたっては、地球規模の衛星観測雨量データを、地域的、季節・時間的な特性を解明するためにダウンスケールする手法の研究開発も必要である。そして、これを活用した洪水警報を支援するシステムを構築するなど、水災害が頻発する開発途上国において被害の軽減に資する方策を検討する必要がある。

2)水分野
 気候変動に対して脆弱なアジア、アフリカの開発途上国においてはまず関係機関と協力し、水文・水循環、水利用や水管理に関するデータの収集等を推進する必要がある。特に、観測データの空白域の多いアフリカ地域においては、現地の関係機関のみならず、国際機関やEU研究機関と連携して現地における降水・河川流量等のデータを収集し、衛星などによる全球観測データ、気候変動予測結果を組み合わせて水資源管理に資する情報を提供するために我が国がどの分野で貢献出来るかの計画を検討すべきである。さらには、データが有効に活用されるために、人材育成や能力開発を進める必要がある。また、海大陸レーダーネットワークに関する基盤整備等を促進する方策を検討する必要がある。

3)生態系分野
 生態系分野については、生物多様性モニタリングのための国際的ネットワーク・プラットフォーム(東・東南アジア生物多様性情報イニシアティブ(ESABII)、アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(AP-BON)、AsiAFluxや日本長期生態学観測研究ネットワーク(JALTER)等)を利用した人材育成、能力開発が必要である。日本とアジア地域については、生物多様性モニタリング、森林生態系等において、観測データの共有化や観測推進のため取組が進んできている。ネットワーク間の連携を図り、生態系変動を検出する体制の構築が期待される。一方、アフリカ地域の開発途上国との協力は進んでおらず、衛星観測、地上観測を推進する方策を検討する必要がある。

4)農業分野
 農業分野については、開発途上国の関係機関と協力して、農作物の作付け、作況、干ばつ・洪水被害を早期に把握する常時監視体制を確立する必要がある。そのためには、衛星観測と地上観測によって必要なデータを収集・整備し、これらのデータを総合的に利用できる環境を整備することが期待される。また食料安全保障の観点からも、東アジア、東南アジア、オセアニアにおける水稲収量と気象変動との関係を明らかにすることを期待する。また、インターネット等を通じて、情報を共有するための国際的なネットワーク体制を構築することが必要である。

5)地球観測の共通基盤
 地球観測の基盤となる地理情報として、全陸域を対象とした地球地図データの一層の利活用を促進するともに、地球地図データを作成している各国と連携を強化し整備を進めていくことが課題である。また、測地観測国際プログラムへ貢献するため、引き続き、宇宙測地技術等による国際観測を着実に実施することが必要である。アジア太平洋地域においては、アジア太平洋GIS基盤常置委員会(PCGIAP)等を拠点とする各国との共同観測・情報交換・データ精度の向上を図り、アフリカ地域においては、各国との連携を図る方策を検討する必要がある。

4.各分野における地球観測事業の推進

4.1喫緊のニーズに対応した重点的な取組

(1)地球温暖化にかかわる現象解明・影響予測・抑制適応
平成21年1月23日、二酸化炭素とメタンの濃度分布を全球的に観測することができる温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」GOSATの打ち上げに成功した。その後、環境省と独立行政法人国立環境研究所の連携のもと、GOSATプロダクトデータの検証作業が実施され、定常処理運用システムによる登録ユーザへのデータ提供が開始されたところである。今後GOSATによって得られるデータは、現象解明など科学面のみならず緩和策・適応策など政策面への活用、さらに各国政府・研究機関への積極的なデータ提供による国際貢献の面でも活用が期待される。温室効果ガスについては、関係府省機関による定常観測や民間航空機による観測も順調に進捗している。
陸域や海洋の生態系における二酸化炭素の収支や生態系純一次生産量に関連する観測、日射及び大気放射に関する観測、地球温暖化の影響予測に関連する観測については、ローカルからグローバルまで様々なスケールで観測が実施されており順調に進んでいる。今後は観測データの精度向上やさらなる有効利用に繋がる成果を期待する。
 地球温暖化にかかわる観測データの利用は、以下の通り順調に進捗している。 

A.観測機関によるデータベース化とデータのウェブによる公開が進んでおり、温室効果ガスなどのデータが身近なものになりつつある。

B.温室効果ガスなどのデータは、気象庁が運営する世界気象機関(WMO)温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)に登録され、世界各国の気象観測機関や研究機関に提供され、利用が進んでいる。

C.衛星観測データの利用が進んでいる。例えば、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の観測データは、アマゾンの森林減少の監視やヒマラヤ地域の氷河湖崩壊の監視、さらに四川省大地震、最近ではハイチ、チリ大地震直後の被害状況の把握など、関係国からの要望に応える形で利用が進んでいる。

D.研究観測のデータが国際的なネットワークに提供され、研究を促進することに役立っている。例えば、AsiAFluxへのデータ提供など、アジア地域における日本の科学面での貢献に役立っている。
 地球温暖化にかかわる多種多様なデータが種々の機関で観測されているが、データの項目、内容、所在や利用可能性に関する情報源情報の整備は依然進んでいない。データ利用をさらに促進するためにも情報源情報の整備を早急に検討する必要がある。
 データ利用については、国家基幹技術として位置づけられているデータ統合・解析システムの開発・利用が進んでいる。今後は種々の地球観測データを政策に反映させ、国民にわかりやすく提示するなど、さらなるデータの利活用を期待する。また、データ利用に関する効果(提供データの利用者数、ウェブ提供の場合のダウンロード数など)の把握が必要である。

(2)水循環の把握と水管理
水循環の把握と水管理のための地球観測は、気象庁、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人海洋研究開発機構、独立行政法人宇宙航空研究開発機構、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、独立行政法人国立環境研究所の各機関を中心に、概ね計画通り順調に進められており、データの提供や利用も積極的に行われている。
例えば、独立行政法人海洋研究開発機構は、東南アジア地域における気象水文観測、同位体、GPS、ゾンデ、レーダー等による観測とデータの解析を進めるとともに、ホームページ等でデータを公表している。
今後は、一層の観測データの精度向上や地域レベルのモデル解析に観測データを役立てることを期待する。水循環の把握や水管理分野における観測とデータ利用を促進するにあたって、前述のように連携拠点の設置の検討が進んでいる。早急に設置し活動を開始することにより、府省連携による観測、データ利用の推進を期待する。
熱帯降雨観測衛星(TRMM)に搭載された我が国の降雨レーダ(PR)や、米国の地球観測衛星AquAに搭載された我が国の改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR-E)による観測データは、気象予報や洪水予測の精度向上などに大いに貢献している。TRMMは平成9年度から運用を開始し、現在では寿命が尽きつつあるため、TRMMに代わる降雨観測システムとして、全球降水観測/二周波降水レーダ(GPM/DPR)の開発を着実に進める必要がある。また、水蒸気量、陸域の水分量、積雪深度等の計測に資する水循環変動観測衛星(GCOM-W)の研究開発も引き続き着実に進める必要がある。

(3)対流圏大気変化の把握
対流圏大気変化の把握については、化石燃料の燃焼に伴う大気汚染物質の放出量の増大に対する懸念や酸性降下物の越境輸送等に関する問題に対処するため、大気中のエアロゾルなどに関する観測等を実施している。
例えば、気象庁は温室効果ガス、オゾン、エーロゾル、降水・降下塵等の定常観測を行っており、観測データはインターネットを通じて公表している。その他に、独立行政法人海洋研究開発機構は富士山頂において平成20年度に引き続き夏季集中観測を実施し、オゾン、一酸化炭素、PM2.5、化学成分別濃度等の観測を行い、越境・広域大気汚染の観点から解析を進めている。中国・黄山では、中国科学院大気物理研究所と共同で、黒色炭素の通年観測を平成21年5月まで行った。また、地球観測システム構築推進プラン課題「地上からの分光法による対流圏中のガス・エアロゾル同時立体観測網の構築」において、横須賀、沖縄辺戸岬、合肥(中国)、光州(韓国)、ズベニゴロド(ロシア)、トムスク(ロシア)において、MAX-DOAS装置による二酸化窒素・エアロゾルの連続観測を実施し、衛星データの検証を行うとともに、衛星データでは得られない日変化・高度分布の解明を進めている。
独立行政法人宇宙航空研究開発機構は、エアロゾル等の全球観測を行う気候変動観測衛星(GCOM-C)等の地球観測衛星の研究開発及び「いぶき」による温室効果ガスの観測及びデータ提供を実施している。
独立行政法人国立環境研究所は東京大学、東京農工大学、大阪府立大学、首都大学東京等と協力し、東シナ海域においてガス・エアロゾルの地上および航空機による同期観測を春と秋の2回実施し、大陸から輸送される硫酸エアロゾル、窒素酸化物、一酸化炭素、黒色炭素等の空間分布を明らかにした。沖縄辺戸ステーションではエアロゾルの化学組成、濃度変動、鉛直分布、放射観測を定常的に行った。また、地球圏-生物圏国際協同研究計画(IGBP)のコアプロジェクトの1つである地球大気化学国際共同研究計画(IGAC)や国連環境計画(UNEP)が進めているABCプロジェクトに協力している
今後は、研究・観測費用の確保、観測に従事できる人材の育成と確保により、継続的な観測体制の維持・強化を図っていく必要がある。

(4)風水害被害の軽減
気象庁、独立行政法人防災科学技術研究所、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人宇宙航空研究開発機構、及び独立行政法人土木研究所により、風水害被害の軽減を目的とした観測が計画通り実行されており、災害などの予測技術に利用されている。
今後は局所的な災害予測精度向上のための一層の観測の充実および関係機関相互の連携、および関連する「地球温暖化」分野や「水循環の把握と水管理」分野との連携を期待する。
 データ利用については、独立行政法人宇宙航空研究開発機構が平成19年度から継続して、熱帯降雨観測衛星(TRMM)及び改良型マイクロ波放射計(AMSR-E)を含む複数の衛星データを利用し、世界の雨分布を準リアルタイム(観測から4時間後)で提供する取組を実施している。これらの観測データの提供は、国土交通省が推進する国際洪水ネットワーク(IFNet)による洪水予報の精度の向上に貢献している。また、独立行政法人土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)と連携して、世界の雨分布速報を入力データとして河川流量計算を行うツールを整備することにより、アジアなどの開発途上国向けの洪水予警報システムの開発に貢献している。引き続きこのシステムの改良を行うと共に、具体的な適用事例を積み重ねることにより、この分野における国際的貢献に資することを期待する。

(5)地震・津波被害の軽減
地震調査研究推進本部、文部科学省、気象庁、海上保安庁、国土地理院、独立行政法人防災科学技術研究所、独立行政法人海洋研究開発機構、独立行政法人産業技術総合研究所、大学等により地震・津波被害の軽減のための観測が計画通り実施されている。
 各機関で得られたデータの提供や利用が進んでいる。具体的には以下の通りである。

・地震調査研究推進本部は平成21年4月に「新たな地震調査研究の推進について」を策定し、関係府省庁、独立行政法人、大学等は、本計画に基づき密接な連携の下で地震調査研究を推進している。

・独立行政法人防災科学技術研究所では、基盤的地震観測網(高感度地震観測網、広帯域地震観測網、強震観測網)を円滑かつ安定して運用し、稼働率99%程度を維持するとともに、観測網から得られるデータを気象庁、国立大学法人等にリアルタイム流通することにより、我が国の地震防災行政、地震調査研究の推進に多大な貢献をしている。駿河湾を震源として静岡県で震度6弱を記録した地震をはじめとする顕著な地殻活動に対する詳細な解析を実施し、地震調査委員会等へ資料提供を行うとともに、インターネットを通じて広く国民に対して地震に関する情報発信を行っている。測地学分科会の建議に基づき、大地震発生メカニズム解明のための各種研究を実施し、プレート境界や内陸活断層周辺域の構造、そこで発生する様々な地殻活動の詳細を解明しつつある。

・気象庁では、地震・津波・火山噴火による被害を軽減するため、観測成果をもとに、緊急地震速報、津波警報、地震情報・震度情報、東海地震に関連する情報、噴火警報等を発表し、防災関係機関や報道機関へ伝達することとしている。このほか、国際的な協力体制のもと、北西太平洋津波情報及びインド洋津波監視情報の提供を行っている。平成21年度は、5つの地震に対して緊急地震速報(警報)を発表した。津波情報等で発表する観測地点について、沖合では国土交通省港湾局のGPS波浪計が平成21年4月に6ヵ所増え8ヵ所になったほか、沿岸では国土交通省港湾局、国土地理院、海上保安庁等が管理している検潮所が増え、平成22年3月には165ヵ所となった。火山活動により危険が及ぶおそれのある範囲や防災行動に応じて火山活動の状況を5段階に区分した噴火警戒レベルを、平成21年度に秋田駒ケ岳に導入した。これにより、平成22年1月現在、全国26火山について噴火警戒レベルを噴火警報等で発表している。

・海上保安庁は、日本海溝や南海トラフ等において16点の海底地殻変動観測を実施するとともに、和歌山県那智勝浦町の下里水路観測所において人工衛星レーザー測距(SLR)観測を実施している。

・国土地理院は、GPS連続観測、水準測量、ALOS観測データなどの測地測量データを地殻変動等に関する研究に利用するとともに、地震調査委員会、地震予知連絡会、火山噴火予知連絡会などに提供し、あわせてホームページ上で公表している。平成21年度は、GPS連続観測のデータ解析に新たな解析手法を導入し、高精度化した解析結果により地震・火山活動やプレート間カップリングの把握といった地殻変動モニタリング能力の向上に寄与している。
今後は、対象とする災害のあらゆる予測精度向上のための一層の観測の充実および関係機関のより一層の連携を期待する。

4.2 分野別の推進戦略

(1)地球温暖化
 地球温暖化が及ぼす影響は気象、海洋、農林水産業、生態系など多岐にわたることから、地球温暖化に関する観測は多数の関係省庁・独法により推進されている。

(2)地球規模水循環
 地球規模水循環に関しては、気象庁、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人宇宙航空研究開発機構、独立行政法人海洋研究開発機構等を中心に観測が計画通り進められている。

独立行政法人宇宙航空研究開発機構は、独立行政法人情報通信研究機構との連携のもと、熱帯降雨観測衛星(TRMM)や改良型マイクロ波放射計を搭載する衛星を活用し、全球の水蒸気、降水強度、土壌水分等の観測を実施している。また、これらの観測技術を継承・発展させつつ、引き続き観測を継続するための地球観測衛星の研究開発(二周波降水レーダ(DPR)など)も実施している。
独立行政法人海洋研究開発機構は、東南アジア地域における気象水文観測、同位体、GPS、ゾンデ、レーダー等による観測データを解析するとともに、ホームページ等を通じて公表している。インドネシア多島海を中心とする熱源域、パラオ周辺の熱源域、及び中国梅雨前線帯においても、風向風速、水蒸気量、降水量等の観測とともに衛星データの解析を実施している。

(3)地球環境
大気環境に関しては、気象庁、環境省、独立行政法人海洋研究開発機構、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人産業技術総合研究所、独立行政法人国立環境研究所等により、観測が計画通り進められている。
独立行政法人情報通信研究機構と独立行政法人宇宙航空研究開発機構により共同開発された国際宇宙ステーション(ISS)日本実験棟「きぼう」搭載のサブミリ波リム放射サウンダ(SMILES)が、平成21年9月11日に宇宙ステーション補給機(HTV)技術実証機に搭載されH-ⅡBロケット試験機により打ち上げられた。ISSへ到着後、SMILESは、9月25日より初期チェックアウトを開始、11月6日より定常観測に移行した。定常観測移行後は、ISSの運用状況により観測できない期間を除いては、計画通りに観測を継続し、SMILESサイエンスチームが公募し選考した研究グループに観測データを公開した。
海洋環境に関しては、水産庁、気象庁、海上保安庁、環境省、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人海洋研究開発機構、独立行政法人水産総合研究センター、独立行政法人産業技術総合研究所等により、多くの項目の観測が順調に進められている。
独立行政法人海洋研究開発機構は、過去に観測が行われた太平洋の世界海洋循環実験(WOCE)測線のうち平成21年度には海洋地球研究船「みらい」によって南緯17度線の観測を実施した。また、これまでの断面観測データについて、データブック出版、Webへの掲載、国際的データセンターへの登録等の方法により公開している。これらの観測データは、国内外の研究者によってデータの解析やモデルの計算などの研究に利用されている。

(4)生態系
陸域生態系に関しては、農林水産省、林野庁、環境省、独立行政法人海洋研究開発機構、独立行政法人宇宙航空研究開発機構、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、独立行政法人農業環境技術研究所、独立行政法人森林総合研究所、独立行政法人産業技術総合研究所等により、精力的に観測が進められている。
例えば環境省と独立行政法人国立環境研究所は、我が国の代表的な生態系合計約1,000カ所に設置した調査サイトにおいて、研究者、NGO、一般市民等の参加により、総合的・継続的な生態系のモニタリングを実施した。また、上記の独法研究機関及び大学の研究者が、アジア太平洋地域の大学、調査研究機関等に所属する研究者によるアジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(AP-BON)を支援し、アジア太平洋地域の研究者を招聘して国際会議を開催し、研究者のネットワーク化を促進するとともに、生物多様性データの共有化とその他生物多様性モニタリング推進のための活動計画を作成した。
海洋生態系に関しては、環境省、独立行政法人国立環境研究所、独立行政法人海洋研究開発機構等により、計画通り観測が進められている。
例えば独立行政法人海洋研究開発機構は沖縄県名護市にある同機構・国際海洋環境情報センターにおいて、日本周辺に生息する深海生物の映像や情報等を統合する海洋生命情報バンク基盤システム(BISMAL)の公開を開始すると共に、海洋生物情報収集体制の構築や情報登録機能の検討を実施した。また、国際プログラムCoML及びIOC/IODEに対し、BISMALとの連動を含めた連携体制の検討及び国内でのCoML推進、本格的な参加へ向けての検討等を行った。
生態系に関する観測データの利用や国内・国外の研究者間の連携が、今後より一層強化されることを期待する。

(5)風水害
 風水害に関する観測については、独立行政法人防災科学技術研究所、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人宇宙航空研究開発機構等により、計画通り観測が進められている。
 例えば独立行政法人宇宙航空研究開発機構は、熱帯降雨観測衛星(TRMM)及び改良型マイクロ波放射計(AMSR-E)を含む複数の衛星データを利用して、世界の雨分布を準リアルタイム(観測から4時間後)で提供している。これらの観測データは、国土交通省が推進する国際洪水ネットワーク(IFNet)によるグローバル・フラッド・アラート・システム(GFAS)の精度の向上に貢献している。また、独立行政法人土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)と連携して、世界の雨分布速報を入力データとして河川流量計算を行うツールを整備することにより、アジアなどの開発途上国向けの洪水予警報システムの開発に貢献している。

(6)大規模火災
 大規模火災に関する観測については、独立行政法人宇宙航空研究開発機構が平成17年度から継続して、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)による大規模火災を含む大規模自然災害の観測及びデータ提供を実施している。取得したデータは幅広く一般に提供されているとともに、内閣府、警察庁、地方自治体等における災害状況把握に利用されている。また、国内外での発災時に緊急観測を実施し、国内の防災機関や国際災害チャータやセンチネル・アジア等を通じて国外の防災機関にデータを提供している。

(7)地震・津波・火山
 地震・津波・火山に関する観測については、気象庁、海上保安庁、国土地理院、地震調査研究推進本部、独立行政法人防災科学技術研究所、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人宇宙航空研究開発機構、独立行政法人海洋研究開発機構等により、計画通り実施されている。
 例えば独立行政法人防災科学技術研究所は、基盤的地震観測網(高感度地震観測網、広帯域地震観測網、強震観測網)を円滑かつ安定的に運用し、稼働率99%程度を維持するとともに、観測網から得られるデータを気象庁、国立大学法人等にリアルタイム提供することにより、我が国の地震防災行政、地震調査研究の推進に多大な貢献をしている。静岡県で震度6弱を記録した駿河湾の地震をはじめとする顕著な地殻活動に対する詳細な解析を実施し、地震調査委員会等へ資料提供を行うとともに、インターネットを通じ広く国民に対して地震に関する情報発信を行っている。また、測地学分科会の建議に基づき、大地震発生メカニズム解明のための各種研究を実施し、プレート境界や内陸活断層周辺域の構造、そこで発生する様々な地殻活動の詳細を解明しつつある。

(8)エネルギー・鉱物資源
 エネルギー・鉱物資源については、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人宇宙航空研究開発機構、独立行政法人産業技術総合研究所、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構、大学等により、計画通り実施されている。
 例えば独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構は、日本周辺海域に相当量の賦存が期待されるメタンハイドレートについて、海洋産出試験の着実な実施に向けた事前調査を実施した。

(9)森林資源
 森林資源に関する観測については、林野庁、独立行政法人森林総合研究所、独立行政法人宇宙航空研究開発機構等により、計画通り実施されている。
例えば独立行政法人宇宙航空研究開発機構は、平成17年度から継続して、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)による森林、植生等の観測及びデータ提供を実施している。取得したデータは幅広く一般に提供されているとともに、国際協力機構(JICA)及び相手国政府機関と協力してブラジル、インドネシア等における森林違法伐採、森林減少の監視に利用されている。

(10)農業資源
 農業資源に関する観測については、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、独立行政法人国際農林水産業研究センター、独立行政法人宇宙航空研究開発機構等により、国内外のフィールドにおける地上・衛星観測が計画通りに進められている。
 例えば独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構は、地上観測データと衛星データの統合により、イネウンカ類のアジアにおける発生地域の推定とその日本への飛来予測を行うモデルを作成した。

(11)海洋生物資源
 海洋生物資源に関する観測については、水産庁、独立行政法人水産総合研究センター、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人宇宙航空研究開発機構等により、計画通りに実施されている。
 例えば独立行政法人水産総合研究センターは、我が国周辺の主要な魚種(52魚種84系群)について調査船等を活用した資源調査を実施した。海洋環境の変動による水産資源への影響を調査し、資源変動メカニズム及び中・長期的な資源動向の解明を図った。近年大発生して問題となっている東シナ海での大型クラゲについては、その出現状況と海洋環境(海水表面の水温、塩分濃度等)との関係を解析し、大型クラゲ出現予測モデルの高度化を行った。
 また、独立行政法人宇宙航空研究開発機構は、海色等の全球観測を行う気候変動観測衛星(GCOM-C)について、基本設計、エンジニアリングモデルの製作試験、及び地上システムの開発を、平成26年度の打上げに向けて着実に推進している。

(12)空間情報基盤
 空間情報基盤に関しては、国土交通省、国土地理院、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人宇宙航空研究開発機構、独立行政法人海洋研究開発機構、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構等により、計画通り実施されている。
 例えば独立行政法人情報通信研究機構は、国際GNSS観測事業(IGS)の観測点としてKGNI(小金井)、KGN0(小金井)、KSMV(鹿嶋)の3観測点を設置し、平成13年度より連続観測を実施している。

(13)土地利用及び人間活動に関する地理情報
 土地利用及び人間活動に関する地理情報については、独立行政法人国際農林水産業研究センター等において、計画通り観測が実施されている。
 例えば独立行政法人国際農林水産業研究センターは、熱帯湿潤地域に適用可能な雲の影響を受けない30mメッシュ土地利用データ作成手法を開発し、判別精度が従来の手法に比べて向上したことを確認した。また、インドネシア・西ジャワを対象に、水稲作付の空間分布を連続的に把握する手法を開発し、年による作付時期の変動を分析した。

(14)気象・海象
 気象・海象に関しては、気象庁、海上保安庁、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人海洋研究開発機構、及び独立行政法人宇宙航空研究開発機構により計画通り進められている。
例えば独立行政法人宇宙航空研究開発機構は、雲エアロゾル放射ミッション(EArthCARE)に搭載する雲プロファイリングレーダ(CPR)の詳細設計及びエンジニアリングモデルの製作試験を、平成24年度の欧州宇宙機関(ESA)への引渡しに向けて実施している。また、データ処理システム等の地上システム開発の実施も行っている。

(15)地球科学
 地球科学に関する観測については、国土地理院、気象庁、海上保安庁、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人海洋研究開発機構等により、計画通り実施されている。
例えば独立行政法人情報通信研究機構は、東南アジア域に展開している電離層観測網において、電離圏高度・電子密度等の各種パラメータ、GPS-TEC、GPSシンチレーション、地磁気等の観測を定常的に実施している。また独立行政法人海洋研究開発機構は、地球深部探査船「ちきゅう」を用いて採取した熊野灘沖泥火山堆積物試料等を対象に、各種の化学分析・物性分析により、過去の気候変動および海底下における微生物作用について、初期仮説の構築に必要な解析を行った。

5.フォローアップの結論

5.1 平成21年度の地球観測の実施状況

  「H21実施計画」に基づいた関係省庁・機関の施策・事業の実施およびデータ利用は、着実に進捗している。 

A 気候変動対策とその影響を監視・予測するための観測体制が着実に整備されている
  衛星をはじめとする観測体制の整備が着実に進んでいる。特に、平成21年度は「いぶき」による観測データの一般提供が開始され、気候変動に関する研究は新たな段階を迎えた。また、データの利用や公表を念頭に置いた観測事業も増えつつある。さらに、データの統合的利用に向けてのデータベース化やシステム開発も進んでいる。
  今後、データの精度向上とともに、観測データの公開や利用における利便性向上が進み、気候変動対策に貢献することが期待される。

B  観測データの幅広い活用も進んでいる
 観測されたデータは、学術分野だけでなく、市民生活にも役立てられている。例えば、「だいち」は、地図作成・地盤変動監視(国土地理院)、耕地把握(農林水産省)、海氷観測(海上保安庁)、みどりの国勢調査等(環境省)等に利用され、土地利用や船舶の安全航行に大きく貢献している。加えて、「だいち」は、地震等の災害状況の把握や、将来の防災・減災業務への貢献に向けた防災利用実証実験にも活用されている。
  この他、衛星観測、地上観測、海洋観測は、気象予測の精度向上や広域な大気汚染予測にも活用されている。

C 地球観測を通じた国際貢献も進展している
  GEOSSなど地球観測に関する国際的枠組みへの貢献も着実に行われている。加えて、科学技術外交強化の一環として、地球観測衛星の観測データや災害関連情報等、我が国の優れた環境技術の成果を開発途上国のニーズに応じて積極的に提供する取組が着実に進展している。今後はアジア・オセアニア地域に加え、アフリカ等の開発途上国における衛星観測データ等の利用についても、連携の強化が期待される。

D 幅広いユーザーのニーズにこたえる基盤が整備されつつある
  例えば、経済産業省は米国航空宇宙局(NASA)および米国地質調査所(USGS)と共同で、同省が開発した光学センサ(ASTER) によって取得したデータを処理することにより、世界最高精度(分解能:30m)の全球3次元地形データ(GDEM)を整備し、財団法人資源・環境観測解析センターのホームページを通じて平成21年6月29日より無償提供を開始した。これは世界中の誰もが自由にアクセスできるシステムであり、災害・水・エネルギー・環境等、幅広い分野での利活用に資するものである。

E 連携拠点による活動が進展している
  地球温暖化分野、および地震・火山分野における連携拠点では、連携の効果が発揮され、成果が上がってきた。今後さらに水分野および生態系・生物多様性分野など、喫緊のニーズ分野における連携拠点の設置を期待する。

F 個々の取組は着実に進んでいるが、戦略性に欠ける分野も見受けられる
  特に、最も複雑な現象を扱う生態系に関連した分野においては、戦略性を欠いていると考えられる。また、気候変動の影響が顕著にあらわれる分野についても、優先的に観測すべき地域、観測すべき項目が必ずしも明確ではない。 
  今後も、「地球観測の推進戦略」に基づき、ニーズ主導の地球観測システム構築とそれに向けた各省庁・機関間の効果的な連携をさらに推進すること、地球観測の成果を社会に広めていくことを期待する。

 5.2 今後の課題

 多くの分野において研究観測および定常観測が進み、観測データの利用も進んでいるが、今後の課題を以下に記す。
・長期ビジョンの設定:
 「地球観測の推進戦略」(平成16年、総合科学技術会議)には、取りまとめ時以降10年程度を目途とした長期的視点の下で、我が国が地球観測に取り組むに際しての考え方、戦略的に取り組むべき重点課題・事項等が示されている。これらに加え、今般の事業評価や科学技術予算をめぐる動向を鑑みるに、地球観測の継続・発展によって、10年程度先に得られる成果(研究成果、観測データの利活用による社会的効果など)を長期ビジョンとして明確化することが重要である。長期ビジョンに則ったロードマップを策定し、それに基づく進捗管理・フォローアップを実施することは、長期継続的に地球観測を実施する上で必要な方策の1つである。
・観測データ等の利用促進:

A  上述したとおり、インターネット等を通じて観測データの公開は進んでいる。今後さらに以下の点について取り組む必要がある。
 ・情報が増えるに従い、関係機関に分散している関連する情報を一元的に検索できるシステムの必要性が増している。例えば、海洋に関しては、各機関がどのような海洋情報やデータを保有し、どのような手段で提供しているかを記載した所在情報を、インターネットで一元的に検索することができる海洋情報クリアリングハウスを、内閣官房と海上保安庁が関係機関と協力して構築し、平成22年3月から運用を開始した。今後、情報源情報の整理のため、他分野においても関係省庁の協力の下、クリアリングハウスの構築やポータルサイトの設置を検討する必要がある。
 ・公開されたデータが誰に利用され、どのように活用されたのかについては、十分明らかになっているとは言えない。今後、観測データの利用を一層促進するためには、公開されたデータの利用状況を把握し、利用者を拡大する方策を検討する。

B  また、観測データと種々のデータとを組合せることで、有用な知見を得ることができれば、利用者の拡大に大きく貢献する。第3期科学技術基本計画の国家基幹技術の中で「データ統合・解析システム(DIAS)」事業が実施され、様々なニーズに応用されるデータ解析・情報提供基盤の開発研究が行われている。DIASを日本におけるデータの統合・解析システムとしてどのように定着させ運用していくかが今後の課題である。

C  地球観測データを扱うには、DIASをはじめデータ処理や解析システムの操作に関する専門知識が必要であり、現状のままでは利用者が限定される。今後は、より操作が容易なシステムへ改良するとともに、地球観測データを利用者ニーズに合わせて編集・加工し、提供する業務を行なう組織を早急に立ち上げる必要がある。

D  さらに、解析技術を高め、観測データからより多くの情報を引き出す技術を開発することも利用者を飛躍的に増大させる有力な手段である。例えば、衛星観測の解析におけるアルゴリズムの開発・改良は衛星観測データの価値を高める上で、特に重要である。すなわち、衛星データを用いて、より精度良く物理量、生物量、化学量が推計できれば、また、その情報の種類が多様化すれば、衛星観測データの利用者は増加すると考えられる。「いぶき」(GOSAT)は、大気のCO2を計測するという高度なアルゴリズムの開発なくしては、実現しえなかった。観測データの新しい用途を切り拓くために、アルゴリズムの改良・開発は今後の大きな課題である。

・GEOSSなど国際観測ネットワーク等へのさらなる貢献:
 我が国は国際社会における役割を積極的に果たすとともに、我が国の科学技術の一層の進展に資するため、研究者の国際的な交流、共同研究、科学技術に関する情報の国際的流通等、科学技術に関する国際的な交流等を推進してきた。
  観測に関する国際的な戦略、ネットワーク、プロジェクトは分野ごとに多数存在している。気候変動分野において代表的なものとしては、GEOSS 10年計画、WCRP/ COPES、GCOS、IGBP等がある。また、アジアモンスーン地域を対象とした国際プロジェクトとしては、WCRP/ MAHASRI、UNEP/ABC、START/MAIRS等があり、フラックス観測に関するネットワークではAsiAFluxがある。さらに、大気環境観測ではGAW、海洋観測ではGOOSやGLOSSがあり、水質に関してはUNEP GEMS/WAter ProgrAmme等がある。
 我が国は、国際的な観測やデータネットワークに貢献してきたが、今後ともこうした国際的な貢献に取組んでいく必要がある。

・観測ニーズの把握:
 新しい観測技術が開発されることによって、またシミュレーションにより推計された結果を検証する必要性などから、今後も観測に対する新たなニーズは生まれると考えられる。そこで、様々な観測ニーズの優先度を検討することは、引き続き、重要な課題である。

・利用者ニーズへの対応と人材育成:
 観測ニーズの把握に加え、利用者層(研究者、技術者、行政・教育関係者など)の把握とニーズへの対応も重要である。例えば、気候変動に関係する各種観測データは、地方自治体関係者からのニーズが高まると予想される。観測データの利用拡大には、データを扱う利用者側の技術レベルに応じてデータを編集・加工し、提供を図る必要がある。しかし、利用者のレベルに応じたきめ細かい対応には、資金や人材の面で制約がある。特に、研究者レベルの専門性を有するデータ編集・加工サービスでは、人材の育成・確保が大きな課題である。

・検証可能な目標の設定:
 事業の進捗や課題を把握するために、フォローアップが実施されている。しかし、多くの目標は定性的に設定されており、進捗度が曖昧である。そこで、より検証可能な目標とするため、出来る限り、数値目標を設定すべきである。「成果の見える化」、進捗管理の観点からも、客観的・定量的な目標設定の工夫が必要である。

・戦略的な観測の推進:
 優先的に観測すべき地域、観測項目を明確にする必要がある。そのために、現在、各省庁が実施している取組整理した「俯瞰図」等を作成し、取組の重複を防ぐと同時に、個々の取組の連携を強化すべきである。

・地球観測分野における科学技術外交の推進:
 地球観測の分野においても我が国及び国際社会の科学技術を一層強化する「科学技術外交」への戦略的な取組を推進する必要がある。気候変動の問題や洪水等の災害、及び残留性の高い化学物質が国境を越えて影響を及ぼす問題など、グローバルな環境リスク問題への対応には、国際的な地球観測の共同研究や防災シミュレーション研究が不可欠である。
 例えば、独立行政法人土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)は、インドネシアにおいて、開発した総合洪水解析システムを現地の降水量等の情報を用いてインドネシア仕様のシステム構築、現地トレーニング等を行うとともに、氾濫解析との連携に向けた検討・開発を実施している。今後、こうした取り組みが増えることを期待する。
 発展途上国においては、観測施設・拠点の整備、継続的な観測を実施するための現地研究者等の人材育成など、課題が非常に多い。我が国の高度な観測技術を活かし、積極的な科学技術外交の推進と研究協力を行い、発展途上国における観測技術の向上、人材育成に貢献していく必要がある。
以下、昨年度指摘した課題は、さらに重要性が増していることから、再掲する。

・長期的な観測体制の構築:
 第3期科学技術基本計画分野別推進戦略に指摘されているとおり、環境研究において観測衛星、地上気象観測網、及び船舶等による海洋観測システムは研究全体を支える重要な共通基盤であることから、長期継続的に維持されるべきであり、担当機関・担当スタッフの安定的な確保が必要である。特に、温暖化分野における観測は項目も多く、かつ長期間の観測を要することから資金や人材の制約を受ける。長期観測に係る資金の確保や人材の育成確保が課題である。

・観測システムの更新:
 すべての観測装置は、経年劣化や災害等による故障を免れることはできない。また、観測システム全体の陳腐化、観測施設の老朽化等の問題もある。精度の高い観測を継続して行うには、観測装置・施設の定常的な保守点検・修理、計画的な観測装置の更新が不可欠である。観測装置・施設の維持管理のための人材の確保、計画的に観測装置を更新するための費用の確保が必要である。 

お問合せ先

研究開発局環境エネルギー課

電話番号:03-6734-4143
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