安全・安心科学技術プロジェクト(テロ対策) 平成20年度採択課題 事後評価結果

平成23年10月25日
科学技術・学術審議会
研究計画評価分科会
安全・安心科学技術委員会

●東芝「生物剤リアルタイム検知システムの開発」

1.成果について

(1)総合

 大気中に浮遊する生物剤、毒素を捕集から検出まで自動的に行えるシステムが開発され、所期の目的は達成されたと考える。システムを構成する各ユニットの完成度は高く、特に大気捕集ユニットと生物剤検知ユニットは完成している。今後、さらに、簡易スクリーニングユニットの粒子分布異常検知から生物剤検知へ至る閾値設定を、設置環境に応じて調整可能なシステムにできれば、実用化も可能と思われる。
 ただし、本研究は、最終的には雑踏等における常時モニタリング用としての実装を目指しており、様々な環境に対応するために、現時点においては、依然困難が予想される。早期の実用化を図るには、当面は用途の特化を検討することも有効と考えられる。また、生物剤の実検体を用いたフィールドテストは事実上不可能であることから、テロ対策の枠に必ずしも拘らず、例えばパンデミック等、本システムを利用した実験自体が歓迎される分野も取り込むなど、今後の発展に向けた着実な準備が望まれる。

<総合評価  B  > 

※指標の凡例 
A.期待以上の成果が得られた    B.期待される成果が得られた
C.一部で期待を下回る成果となった D.総じて期待を下回る成果となった

 (2)個別

1.ミッションステートメントに対する達成度について
 システム全体の運用や検出感度に関して、実証に至らなかった面はあるものの、システムを構成する各ユニットの完成度は高い。生物剤リアルタイム検知装置を開発し、実証試験を実施するというミッションステートメントは、ほぼ達成したと考える。

2.課題全体の成果について

 大気捕集から生物剤検知までの連続稼働が可能であり、生物剤、毒素を自動的に検出できるシステムを構築したことは、優れた成果として評価できる。
 ただし、駅などでのテロ対策のため実際に用いられることを想定した場合、次のような課題が残っている。

  • システム全体を完全に自動化した上での性能実証
  • 毒素の検出性能に関する検証
  • コスト(製品及びランニング)を、想定ユーザーの期待に応える程度に抑えるための検討

 特に、大気捕集から簡易スクリーニングまでの、実用上、メンテナンス上最も負担が掛かる部分に更なる開発要素があると考える。

今後は開発したシステムを用いてデータ蓄積のための実験を行い、実用化に向けての更なる改良が行われることを期待する。
 例えば、病院、インフルエンザの流行地域など、公共の場所を含め、先ずは目的に応じた導入を図り、その後、更なる展開を目指すことも有効ではないか。

3.実施体制・研究計画について

 生物剤検知システム開発の実績を有する東芝と、生化学的技術のある帯広畜産大との実施体制は適切であった。なお大気捕集と簡易スクリーニングに関しては、今後フィールドテストを重ねて効率化・確度向上を図れるよう、更なる連携を期待する。
 研究計画については総じて適切だったと考えるが、やや過大であった感も残る。

4.成果の社会実装に向けた活動と見通しについて

 成果の社会実装に向けた活動としては、よく努力された。
 社会実装に向けた見通しとしては、簡易スクリーニングの性能が実証されていないことや、ランニングコスト等の価格面も考慮すると、このまま汎用のテロ対策用モニターとして実用化に至るのは困難が予想される。今後の製品化に向けては、ユーザーとの連携が先ず重要である。関係機関への協力を仰ぐ姿勢は評価できるが、現状では想定ユーザーが定まっておらず、従って今後の製品化に向けた展望も明らかでない。システムとしては一通り完成しているので、設置場所等も含めてテロ対策の用途に先ずはこだわらず、実用化の段階に応じて実装できればよいのではないか。
 さらに、難しいとは思われるが、自助努力によるマーケット開発も併せて期待したい。

5.研究成果の発表状況について

 論文、学会発表等、適切な成果発表が行われたと考える。
 ただし、世界に向けた発信を今一歩望みたい。またコア技術に関し、先行研究の成果として既に特許が取得されているのでなければ、本件での特許出願も期待したい。

●大阪大学「生物剤検知用バイオセンサーシステムの開発」

1.成果について

(1)総合

 高速度で生物剤を検知するバイオセンサーの開発に関しては、最先端の要素技術を駆使して、優れた成果が得られた。特に、微小流体デバイス等を用いて小型の検出器を完成し、15分以内という短時間検知の目処が立ったことは高く評価できる。スーツケース型の試作機にまとめた点も評価できる。
 当初目標としていた、大気捕集から生物剤検知までを統合したシステムとしては未完成であり、全体のシステム化に向けてはさらなる努力が望まれる。しかしながら、前述の検知システム部は多くの分野に応用できる可能性が高く、この要素技術だけでも、必要とされる分野で実用化できれば十分有用だと思われる。

<総合評価  B  >

※指標の凡例 
A.期待以上の成果が得られた    B.期待される成果が得られた
C.一部で期待を下回る成果となった D.総じて期待を下回る成果となった

 (2)個別

1.ミッションステートメントに対する達成度について
 当初はエアロゾル捕集機能やトリガー機能も含めたバイオセンサーシステムの構築を目標としていたが、各サブユニットの性能が保証されていなかった段階で、本グループが得意とする高速バイオセンサーの開発に専念する方がよい、という推進委員会の判断がなされ、この指摘に沿って的確に対処した。生物剤検知を15分以内で行える目処は得られており、推進委員会からのコメントも含め、ミッションステートメントはほぼ達成したと考える。

2.課題全体の成果について
 高速バイオセンサーの開発、特にPCRデバイスやLSPRチップ等、要素技術の完成度は卓越している。大型機器を用いることなく、リシンの実剤を用いて世界最高レベルを達成した検出感度や、システム全体での15分以内での検知を可能にする、短時間での検出が実証されるなど、基本的な検証データを収集したことも含めて高く評価できる。
 一方、大気捕集やパーティクルカウンティング等を含めた全体システムとしての完成度や、実証試験による評価は不十分である。システム化が今後の課題となっており、この点については更なる努力が必要である。大気捕集等の要素技術については、他のグループ(プロジェクト)の研究成果との融合を検討することも考えられる。
 テロ対策に限らず応用分野を拡げることができれば、必ずしも大気捕集等の導入部に拘る必要はない。例えば、優れた検知技術を活用した院内感染モニタリングや、病院でのオンサイト診断器としての発展は期待できる。試作したモバイル型の検知装置を関係分野に適用する努力が望まれる。

3.実施体制・研究計画について
 要素技術について卓越した大阪大学、産総研の参加は適切であったが、システム全体の完成に向けて、実用化・商品化の観点からみた場合の参画機関が不十分であった感がある。
 推進委員会からのコメントに従い、バイオセンサー監視ネットワークシステムの開発についてややトーンダウンしたことはやむを得ないと思われ、センサー部分に注力したことで実用化に近づいたとも評価できる。
 ただし、検知技術、特にチップの高い性能を実用機に結びつけることのできる機関との協力など、製品化するための新たな連携体制が必要と思われる。

4.成果の社会実装に向けた活動と見通しについて
 実剤を用いた実験、設置予想場所でのバックグラウンドの検証、さらには拡散シミュレーション等、活動は効果的に行われた。システム全体としての実証試験はやや不足している感もあるが、問題になるレベルではない。
 ただし、社会実装の実現については今後の課題であり、更なる努力が必要と思われる。特に、高い検知技術を応用した製品化が望まれるが、製品化への展望が不透明である。
 実現可能で、ニーズのあるものから社会実装を図ることが有効と思われる。

5.研究成果の発表状況について
 論文・学会発表、特許出願等、成果発表は十分に行われた。
 生物剤拡散シミュレーションについても成果発表され、既に終了した東京大学の研究課題「有害危険物質の拡散被害予測と減災対策研究」の成果とも統合を図り、ファーストレスポンダーへの周知を望みたい。

お問合せ先

科学技術・学術政策局 科学技術・学術戦略官付(調整・システム改革担当)

沼田、小林、阿久澤、原山
電話番号:03-6734-4049
ファクシミリ番号:03-6734-4176
メールアドレス:an-an-st@mext.go.jp

(科学技術・学術政策局 科学技術・学術戦略官付(調整・システム改革担当))