安全・安心科学技術プロジェクト(地域社会) 平成20年度採択課題 事後評価結果

平成23年11月29日
科学技術・学術審議会
研究計画評価分科会
安全・安心科学技術委員会

●山梨大学「住民・行政協働ユビキタス減災情報システム」

1.成果について

(1)総合

 システムの開発過程において、住民とのコミュニケーションを密に重ねたことにより、実効性の高いシステムが構築された。特に、住民とのコミュニケーションの過程で、災害情報を住民自身が共有化を図り、その活用によって地域の災害対応力を高めることに住民自身が気づいた実績は注目すべき成果であり、地域の防災を推進するコミュニケーション技術としても大きな成果を上げたと考える。
 社会実装に対しては、相当の努力を持って行われており、その姿勢を含めて高く評価する。
 実効性の高い住民の防災活動を導くに際して、最も重要となる主体的な防災に対する姿勢の醸成において、本研究は一定の成果を上げており、その普遍化が課題である。
 今後も地道に活動を継続し、リスクコミュニケーション手法、情報システムの改善を重ねていくことが重要であり、本プロジェクトの成果を規模の異なる市町村に展開されることを期待する。

<総合評価  B  > 

    ※指標の凡例
     A.期待以上の成果が得られた      B.期待される成果が得られた
     C.一部で期待を下回る成果となった   D.総じて期待を下回る成果となった

(2)個別

1.ミッションステートメントに対する達成度について
 ユビキタス減災情報システムの構築でのクライテリアであった多様なユーザーへの対応において、高齢者の情報リテラシーに対応できていないという面はあるものの、情報共有ルールの構築、情報共有の合意形成プロセスの体系化による減災体制の構築、平時から災害有事まで活用できる情報共有基盤の確立、適正なコスト、多様な情報システム間連携等の条件を満たすユビキタス減災情報システムの開発が行われており、ミッションステートメントはほぼ達成したと考える。

2.課題全体の成果について

 レベルや規模の異なる複数の社会システム間で、情報共有が可能となるようなルールを構築したことが本研究の優れている点である。そのためには情報システム等のハード技術(工学的要素技術)だけでなく、人文・社会科学系システムの作り込みが必要となるが、本研究では、2つのタイプの異なる地域コミュニティ(自主防災組織)に対する試験的適用を通して、リスクコミュニケーションを実践した。その結果、住民・行政が協働した災害対応を実現するためのリスクコミュニケーション手法を提案し、情報システムを用いた円滑な情報共有により高度な災害対応を可能とするための実務者研修を試行し、災害経験のない行政の災害対応力(公助)を向上させる研修方法として体系化した。また、住民と行政並びに病院、消防等の防災関係機関の参加する住民・行政協働の防災訓練の形で実証実験を実施し、地域の減災力向上を検証した。さらに、個人情報管理・運用方法並びに情報共有ルールを、地域防災SNS、災害対応管理システム、地域病院情報共有システム、そして情報共有データベースに実装した。これらの知見は他の多くの一般的な地域で自主防災組織を構築する上で参考になる。
 工学的要素技術については、DSiを用いた地域住民の情報共有システム開発のようなユニークなものも含め、安否確認情報等を家族・地域・自治体で共有できる地域防災SNSやIT トリアージシステム等の開発が適正なコストで行われている。また、オープンソースソフトウェアの一つである災害対応管理システムの試用バージョンが既に安価で提供されるなど、研究成果の他の関係機関への速やかな実装も実現している。

3.実施体制・研究計画について

 住民と行政のリスクコミュニケーションを図る環境になく、研究課題の進捗に支障をきたす状況となった富士吉田市を実証フィールドから除外し、費用対効果の観点から携帯電話アプリケーションの登録を見送り、文字情報による緊急情報のみを携帯電話を用いて取得する等、状況に応じて実施体制・研究計画の見直しが合理的に行われた。

4.成果の社会実装に向けた活動と見通しについて

 防災訓練、ITトリアージ訓練と安否確認等の実証実験が重ねられてきており、成果の社会実装に向けた活動は効果的に行われたと言える。
 研究期間終了後の使用見込みに関しては、山梨県が平成25 年10 月の防災新館運用開始にあわせて、住民・行政協働ユビキタス減災情報システムを県内に導入するための予算確保を検討していることから、県レベルでの本研究プロジェクト成果の継続が図られることが期待できる。ただし、単純なトップダウンではなく、市町村レベルのニーズに添えるような普及となる配慮が必要である。
 他地域への普及については、災害対応管理システムは新潟県見附市で運用中であり、神奈川県藤沢市にも展開している。また、横浜市、川崎市等の政令指定都市版も試作しているなど、すでに適切かつ積極的に普及が進められており、本研究プロジェクト終了後も、山梨大学が中心となって、本研究プロジェクトの成果を規模の異なる市町村に展開されることを期待する。

5.研究成果の発表状況について

 論文発表、シンポジウム等、成果発表は適切に行われている。また、テレビ(NHK甲府放送局)や新聞(山梨日々新聞など)等のマスコミ報道も多数行われており、本研究の成果を一般市民にまで広く知ってもらうことに効果的であったと思われる。

●熊本大学「地域水害リスクマネジメントシステムの構築と実践」

1.成果について

(1)総合
 丁寧な考察を継続的に行いながら、真摯な姿勢をもって住民とのリスクコミュニケーションを図り、水害に対して安全・安心な地域社会を実現する地域水害リスクマネジメントの実践システムを構築した。特に、リスクコミュニケーションを中心としたワークショップをPDCAサイクルの各ステップに位置づけた住民とのコラボラティブ・モデリング手法の開発は高く評価できる。
 社会実装に対しては、PDCAサイクルを4巡させ、地域の実情やニーズを反映しながらシステムを改良していくなど、成果の社会実装に向けた活動は極めて効果的であると評価できる。また、本研究で得られた社会実装の方法論(プロセス技術)の記述は、詳細で説得力があり、他地域への普及において有効である。
 今後は、本プロジェクトの成果を他地域、他分野に展開していくことが重要であり、熊本大学の政策創造研究教育センターを地域コミュニティに関する教育・研究・実践の拠点として発展させ、成果を継承・発展させていくことを期待する。

<総合評価  A  > 

    ※指標の凡例
     A.期待以上の成果が得られた      B.期待される成果が得られた
     C.一部で期待を下回る成果となった   D.総じて期待を下回る成果となった

(2)個別 
1.ミッションステートメントに対する達成度について
 提案された地域水害情報収集・警報発令システム、防災衛星情報データ配送システム、防災情報ネットワークシステム、地域防災学習支援システム、災害時要援護者の避難状況・安否確認システム、水害情報のCG可視化システムはいずれも住民のニーズに応える形で開発され、社会実装のための準備も十分行われた。また、これらは、熊本市が計画している防災情報システムの大幅な更新に組み込むことが適切な地域実装型となっており、ミッションステートメントは達成したと考える。

2.課題全体の成果について

 提案され、実装された地域水害リスクマネジメントの実践フレームは、地域防災システムのモデルとなり得るものである。住民のニーズを聞き、そのニーズに対応するシステムを提供し、それがさらに住民の次のニーズの表出と創出に繋がっている。その過程は一貫してPDCAサイクルにより制御されているため、発展的でありながら安定性のある実践となっている。その際、例えばCheckに避難訓練を組み入れたように、住民が取り組みやすくかつ主体的になれる目標を設定しながらサイクルを運用しているなど、住民にとっても次のサイクルを回したくなるような工夫がされている点がとても良い。これを含め、大学と住民とのコラボラティブ・モデリングを実践する過程では、さまざまな工夫がなされている。そのさまざまな工夫が、適切なタイミング・場・内容をもって行われたことが、本研究におけるプロセス技術として、研究全体の高い成果につながっている。
 熊本市壷川校区における地域水害リスクマネジメント手法の実践については、PDCA サイクルの4 巡目を継続しており、十分な実証がなされている。得られた地域住民の防災ニーズに応じて、校区内での共助活動を支援するためにオーダーメイドの情報支援システムが開発され、その有効性が検証された。さらに、地域特性や災害特性が異なる複数の地区でのワークショップを通じたコミュニティベースの地域防災の取り組みを継続してきた経験を踏まえ、他地域へも展開可能な方法論が構築された。

3.実施体制・研究計画について

 推進委員会からの指摘を踏まえ、プロセス技術を担当できる行動心理学や集団心理学を専門とする研究者をチームに追加するなど適切な実施体制の見直しが行われた。
 また、研究計画の全体にかかわるような大きな変更はなかったが、実装先のニーズを反映させて細部の見直しが的確に行われた。

4.成果の社会実装に向けた活動と見通しについて

 3年間の実施期間中に他地域への展開の方法論も構築、実践されている。PDCA サイクルに基づく、地域住民とのコラボラティブ・モデリングは、他地域への展開の方法としても有効である。行動心理学や集団心理学を専門とする研究者による社会実装に至るまでのコミュニケーション・プロセスの記述と分析により、地域での合意形成の時系列過程が行動心理学的に把握された。その成果は本プロジェクトでの成果を他地域へ展開する際に有用であり、また、社会実装の方法論(プロセス技術)の一般化に大きく貢献するものと考えられる。

5.研究成果の発表状況について

 査読付論文発表、国際会議、口頭発表など適切に行われている。また、一般公開のシンポジウムやWEB公開も積極的に行われている。一般向けの入門書籍の出版は特筆に値する。

●東京工業大学「時空間処理と自律協調型防災システムの実現」

1.成果について

(1)総合

 時空間情報基盤、自律分散型情報連携などオリジナリティの溢れた情報システムを構築し、実際に自治体への実装に結びつけた点は高く評価できる。また、OJT(On the Job Training)方式(技術に興味を持つ地域の担当者に教育伝授する方法)を採用し、実際に技術伝承を可能としたことは特筆に値する。
 緊急時に機能する情報システムを維持することは容易ではない。通常業務に用いる行政システムに緊急時の対応を可能にする機能を組み込むという本プロジェクトのコンセプトは妥当であり、行政システムの維持更新に掛かる費用を低減し、システムを維持・拡張する能力を持たせるという発想も、地方自治体のニーズに応えている。
 自治体の人員と予算の削減による防災力低下、地域の高齢化による体力低下などが防災の課題として挙げられている。本プロジェクトは、ひとつの解決策を提示するものであり、開発されたシステムが多くの自治体で採用されるようになることが期待される。

<総合評価  A  > 

    ※指標の凡例
     A.期待以上の成果が得られた      B.期待される成果が得られた
     C.一部で期待を下回る成果となった   D.総じて期待を下回る成果となった

(2)個別

1.ミッションステートメントに対する達成度について 
 時空間情報処理を基盤にして、平常業務を通して緊急時の対応を可能にするためのリスク対応型自治体業務システムが開発され、遠軽町において定着化された。研究成果は遠軽町内の測量・システム開発研究機関に移転され維持更新と拡張ができる体制が整えられており、ミッションステートメントは達成したと考える。

2.課題全体の成果について
 遠軽町で必要性の高い土地管理や上下水道施設管理の平常業務に適用でき、同時に緊急対応機能を有する自治体情報システムが実装された。住民管理、資産管理、施設管理などの平常業務と、安否確認、復興支援、生活支援などの緊急時業務は関連を持つ。平常時に蓄積し維持更新している関連情報が、緊急時にそのまま利用できるため、最新情報で災害対応に当たることができる点が優れている。
 また、協力自治体等の防災訓練でシステムを利用することにより、システムの評価・改良が実施されている。研究成果は遠軽町内の測量・システム開発研究機関に移転され、維持更新と拡張ができる体制が整えられた点も優れている。
 プロジェクト終了にともないシステムの維持更新ができなくなり、システムが利用されないという課題が克服されている。行政システムの維持更新に掛かる費用が低減される点も、自治体のシステム利用のインセンティブとなっている。 

3.実施体制・研究計画について
 本課題は6つのサブプロジェクトから構成されており、研究実施の場も東京、遠軽、三重など複数にまたがっていたが、全体の実施体制は適切であった。コアメンバー会議、合同研究会、運営委員会が定期的に実施されるなど、研究代表者とサブプロジェクトのリーダーやメンバーとの連絡は良く取れており、進捗状況とクリアすべき問題は相互に把握されていた。遠軽町の役場や企業の担当者がメンバーであったこともあり、システム実装先との連携も良好であった。研究代表の所属移動に伴う変更はあったが、目標達成に向けて、大きな実施体制・研究計画の見直しが必要となることはなく、順調にプロジェクトが進められた。

4.成果の社会実装に向けた活動と見通しについて
 遠軽町において開発、実装されたシステムは、緊急時の対応を可能とする平常業務システムであり、重複する行政システムを統合することによって従来の行政経費を軽減するものである。維持更新と拡張も地元でできる体制を整えたところに特徴があり、他の自治体にとっても魅力的なシステムであると考えられる。その実績を他地域へ伝授したり、広域連携を行うことで、成果がより広く社会に普及していくものと期待される。
 広域連携を行うことで、一自治体の負担はさらに軽減され、本システムの定着が期待できると考える。研究期間終了時点では、近隣の湧別町、佐呂間町、三重県大紀町などとの連携が始まった段階となっているが、これらをさらに進めていくことを期待する。

5.研究成果の発表状況について
 論文発表、学会発表、特許出願等、成果の発表は適切に行われている。シンポジウム、講演会の開催の他、テレビ、新聞による報道も行われており、成果普及の努力がなされている。遠軽町住民講演会のような市民向けの講演会がさらに開催されていればなお良かった。

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(科学技術・学術政策局 科学技術・学術戦略官付(調整・システム改革担当))