安全・安心科学技術プロジェクト(テロ対策)平成19年度採択課題 事後評価

安全・安心科学技術委員会

日立製作所「ウォークスルー型爆発物探知システム」

(1)総合

 試作レベルとしては優れた成果が得られた。高感度な質量分析により、高い検出率、低い誤報率を達成するとともに、吸気システムを工夫して、高スループットのウォークスルー型の爆発物探知機を開発するという当初の目的を達成した点は高く評価できる。誤報率、メンテ性など実用性の検証も十分なされ、実用化達成の見通しが得られたと考えられる。また、計画されている米国TSAとの共同研究を起点にした海外展開や、違法薬物の検出等、様々な応用の可能性を活かしたさらなる展開も期待できる。
 なお、ミッションステートメントで対象に設定した化合物の種類は限られているため、対象としなかった爆薬についての性能評価が今後の課題となっている。また、実際の爆発物を装着した状態での失報率データについても充実が望まれる。

<総合評価: B >

※指標の凡例

A

期待以上の成果が得られた

B

期待される成果が得られた

C

一部で期待を下回る成果となった

D

総じて期待を下回る成果となった

(2)個別

1.課題の成果について
 日立の特許であるリニアトラップ法や、エアフロー設計での優れた技術を活かし、蒸気圧の高い爆薬の捕集方法として、ゲート型の検知システムを実用に耐え得るレベルで完成させた。その中では、検出部の小型化、高感度化を行うことで高い検出率、低い誤報率を達成し、高スループットを実現するなど、優れた成果があがっている。この成果により、初めて大量輸送機関を狙ったテロを防止するための高スループット型の爆発物探知機実用化の目処がたったといえる。また、税関での実装が可能な状況にある等、ユーザー等の期待に応える成果にもなっている。
 しかし、次のような今後の課題も明らかになった。
・未検討の爆薬についての性能評価を行い、各種の爆薬でもウォークスルーを実現すること。
・具体的な持ち込み形態等を考慮し、実際の爆発物所持を検知できるか運用検証を行うこと。誤報率だけでなく、検出についてもさらにデータを示すこと。
・さらなる小型化を実現すること。

2.ミッションステートメントに対する達成度について
 手製爆薬(有機過酸化物)等の高蒸気圧成分を高スループットで探知するウォークスルー型の爆発物探知機を開発するというミッションステートメントを達成したと考える。

3. 成果の社会実装の実現性について
 成果の社会実装に向けた活動として、実証試験も含め、適切な取り組みが行われたと考えるが、今後もより広く、空港、駅などで問題点を抽出することが求められる。
 メンテナンスフリーである点も、実用化に極めて近いと思われる。
 米国TSAとの共同研究も計画されており、成果を応用した税関向けの不正薬物探知装置の試作機を納入する予定があるなど、近い将来、本研究の成果の社会実装が実現することに期待を持てる。

4.研究計画・実施体制について
 関係機関の協力のもと、適切・効果的に行われたと考える。今後、爆薬の扱いやチェック方法についても検討が望まれる。

5.成果の発表状況について
 やや論文が少ない印象はあるが、テロ対策特殊装備展、国際会議などで発表が行われ、特許も出願されているなど、成果発表は適切に行われた。

東京大学「有害危険物質の拡散被害予測と減災対策研究」

(1)総合

 不断の計画見直しで目的が絞り込まれたことにより、期待された成果がほぼ得られた。高精度で高速な屋内外拡散のシミュレーションをPCレベルで可能にしたことや、風洞実験による検証、これらの根拠に基づく避難誘導時の留意点などの成果がよく整理され、初期対応者向けとしてこれまでにないシステムとなった。また、研究成果を基にした初期対処用教育DVDの作成や、研究期間終了後の具体的なサポート窓口としてWEBサイトが設置されるなど、ユーザーに利用しやすいよう配慮されており、社会的にも貢献度が高いと言える。
 しかしながら、この成果を自治体等関係者に早急に普及させる方策が明確でない。特定の自治体や施設だけでなく、より広く使われるための普遍化のプロセスが必要と思われる。今後のサポートも含めた取り組みを期待する。なお、特定の施設等における屋内拡散予測データ等は悪用される恐れもあるので、成果の公開に際しては、情報管理にも留意する必要がある。

<総合評価: B >

※指標の凡例

A

期待以上の成果が得られた

B

期待される成果が得られた

C

一部で期待を下回る成果となった

D

総じて期待を下回る成果となった

(2)個別

1.課題の成果について
 屋内外の拡散シミュレーションから避難誘導まで、4つの項目が整理されている。実験とのフィッティング等も行っており、技術的には期待に応えるものとなっている。具体的には、シミュレーションをPCレベルで行うとともに、高速化が図られていることや、数百名以上の避難誘導計画に資するシミュレーションを可能としたことが挙げられる。自治体とのテロ対処訓練に参加したことで、予め市街地データや対象建築物のデータを取得しておけば、システムが有効に機能することも実証されている。
 当初計画にはなかったものの、教育用DVDを作成したことも成果としてのインパクトは大きい。できればもう少しプロの手を加えた方がよいが、一般的な初期行動の参考になると思われる。
 しかしながら、どのようにこの技術をユーザーとなる自治体等へ導入していくかなどの課題が未解決である。様々なユーザーに、今回得られた成果をより利用されるよう普遍化するためには、もう少しステップが必要と思われる。成果をマニュアル化し、必要関係先へ配布するのも一案だが、不特定多数の人命に関係する成果なので、初等的なPRに努めることを期待する。

2.ミッションステートメントに対する達成度について
 パソコンで計算可能な高速・高精度拡散予測及び避難誘導支援システムを開発し、その有効性を自治体のNBC対処訓練で実証するというミッションステートメントを達成したと考える。
 EUでの市街地拡散予測技術開発プロジェクトに参加を要請されているなど、国際的にも評価されている。他方で2自治体での避難訓練にシミュレーションが活かされたということではあるが、具体的に何がどのように良くなったのかという点は明らかでない。

3.成果の社会実装の実現性について
 東京都、北九州市とよく連携し、両自治体でのテロ訓練で使われシステムの有用性を実証した。関係機関との協議等も含め、適切に実施された。
 Webサイトを設置し技術的相談にも応じる体制を整備する予定であり、研究期間終了後の社会貢献も期待できる。
 しかし、さらに他の自治体への普及が今後の課題であろう。DVDの作成だけではやや不十分であり、自治体や施設の関係者への更なる啓蒙活動が必要と思われる。一案としては、成果物の配布をした方がよい。またDVDはかなり見やすいものになっているが、さらにプロの視点で改良されたい。

4.研究計画・実施体制について
 概ね適切な計画、体制であった。当初の研究目的が絞りきれていなかった面は否めないが、産学の多くの機関がよく協力して必要な要素技術を分担し、適切な実施体制を構築した。要素技術の連携が効果的に行われ、NBC訓練等でのシステム有効性の実証試験も適切に実施された。

5.成果の発表状況について
 国内外の学会等で研究成果は十分発表されており、特許出願等も適切に行われた。Webで成果公開を行うことも適切である。

東北大学「ミリ波パッシブ撮像装置の開発」

(1)総合

 パッシブ方式のミリ波撮像装置として、分解能では世界最高レベルの性能を達成した。異物をマーキングするなど使い易さにも工夫して、実用化近くまでこぎ着けたことは、高く評価できる。開始2年目以降に解像度等が劇的に改善されるなど、各分担機関の協調だけでなく、運営委員会からの助言も効果的に寄与したと思われる。
 しかしながら、本研究課題に最も期待されたのは「国産・安価」な技術開発であった。国産技術で高分解能画像を実現した点は評価できるものの、量産化・コスト面での課題を残している。既に諸外国で導入が開始された器材と機能、性能を比較の上、市場における国際競争力の視点から、パッシブ方式ならではの利点をもっと強調することも含め、今後の方向性を検討することが必要と思われる。エージングや外気温度の影響など、現場での使用条件制約についてもなお課題となっており、さらなる改良が望まれる。

<総合評価: B >

※指標の凡例

A

期待以上の成果が得られた

B

期待される成果が得られた

C

一部で期待を下回る成果となった

D

総じて期待を下回る成果となった

(2)個別

1.課題の成果について
 高感度化に高度な技術が必要とされる、パッシブ方式のミリ波撮像装置としては、世界最高レベルの高分解能を達成した。各構成要素における問題点を克服してシステムとして十分な危険物検知レベルに到達し、実際にプロトタイプ装置を完成して実証実験も行われている。光学画像処理による異物のマーキング機能を考案するなど、使い易さにも配慮されている。
 ただし、次のような今後の課題も明らかになった。
・装置の安定性の確保
・装置の小型化
・(セミ)アクティブ方式への展開
・3D化
・分解能をさらに高める工夫。現時点で、素子間のバラツキが問題だと思われるが、今後新しい技術を取り込めば、もっと性能の優れたものに発展することも期待される。
 しかしながら、得られた技術は本件装置以外へも応用が広く可能であり、安全・安心分野以外への適応も含め、広く検討されることが望まれる。なかでも、東北大学で培われた優れたアンテナ技術は今後も活用を期待する。

2.ミッションステートメントに対する達成度について
 当初目標としていたポータブルから目標の変更を行った。新しい目標に沿って、性能面では高い分解能を実現して、装置実用化の目処をつけており、ミッションステートメントをほぼ達成したと考える。

3.成果の社会実装の実現性について
 実証実験を成田空港等で行うなど、社会実装に向けて適切な取り組みが行われ、今後の実用化・市販化が期待されるが、実用上の課題が依然残っている。
 国産化の見通しは問題ないが、コスト面での今後の検討が望まれる。

4.研究計画・実施体制について
 当初の目標設定が厳しかったためか紆余曲折を要し、研究効率がやや損なわれた感はあるが、限られた研究期間、予算の有効利用に尽力された。産学で連携のとれた体制を構築され、研究の分担・連携も効果的に行われた。運営委員会や推進委員会からの助言も適切、効果的だったと考えられる。

5.成果の発表状況について
 論文、特許出願等、適切に成果発表が行われた。

お問合せ先

科学技術・学術政策局 科学技術・学術戦略官付(推進調整担当) 安全・安心科学技術企画室

小林 、村川 、織茂
電話番号:03-6734-4049
ファクシミリ番号:03-6734-4176
メールアドレス:an-an-st@mext.go.jp

(科学技術・学術政策局 科学技術・学術戦略官付(推進調整担当) 安全・安心科学技術企画室)