安全・安心科学技術委員会(第26回) 議事録

1.日時

平成23年5月27日(金曜日) 14時~16時

2.場所

文部科学省 科学技術・学術政策局会議室1

3.議題

  1. 安全・安心科学技術に関する重要課題について
  2. その他

4.出席者

委員

板生 清 主査、青木 節子 委員、河本 志朗 委員、四ノ宮 成祥 委員、篠村 知子 委員、奈良 由美子 委員、堀井 秀之 委員、村山 裕三 委員

文部科学省

合田 隆史 科学技術・学術政策局長
渡辺 格 科学技術・学術政策局次長
大山 真未 科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官(調整・システム改革担当)
沼田 勉 科学技術・学術政策局政策課課長補佐

5.議事録

<開会>

【板生主査】  安全・安心科学技術委員会の第26回を開催する。
 本日、欠席の委員は、岸委員と橋本委員の2名。定数10名に対して、8名の出席。
 会議に先立一言申し上げる。このたびの東日本大震災におきまして被災された方々に、皆様とともに心からお見舞い申し上げたいと思う。我々、安全・安心委員会という立場からすると、今回の震災に関しては考えるべきことも多く、また期待されることも多いと思う。そういう意味でこの委員会において、皆様の経験等に基づいた、いろいろなご意見を賜りたいと思う。そして、安全・安心な社会について科学技術を手段としていかに構築するかと、もちろん科学技術だけでは構築できないことはわかっているが、いかに科学技術が役に立つかということを我々はさらに考えていかないといけないと思う。また、社会システムそのものが今後どうあるべきか、ということも考えなければいけない。科学技術だけで解決する問題ではないことは、言うまでもないことである。そういう意味で、この委員会においては科学技術を一つの手段とするが、社会全体をいろいろ議論していただくということにしていきたいと思う。今回の震災を受け、心新たにして、安全・安心の考え方、それに対する政策等について取りまとめていきたいと思うので、ご協力のほどをお願い申し上げる。

 <篠村委員 自己紹介>

<議題1 安全・安心科学技術に関する重要課題について>

 本件は、前回の委員会、第25回は2月16日、でも説明があったが、第4期科学技術基本計画では、これまでの分野別での重点化から、重要課題の達成に向けた施策の重点化へと方針を転換するということで、親の委員会である研究計画・評価分科会のミッションを受けて、安全・安心科学技術分野に係る重要課題についてご審議をいただくということになる。
 この基本計画については、当初は今年3月中に閣議決定される予定だったが、今回の震災を受けまして再検討が行われるなど状況も変わった。前回説明いただいた委員会のスケジュールについても見直しが必要となる。まず事務局のほうから基本計画の再検討の状況と委員会の今後の進め方について説明をお願いする。
 また、本日の審議に当たり、事前に委員からいただいたご意見を踏まえ、事務局で論点案を整理しているので、あわせて説明をお願いする。

【大山戦略官】  資料1、2、3、4、5-1、5-2、6に基づき説明。

【板生主査】  本日の委員会は、論点の整理、いろいろな安全・安心に資する科学技術に関する考え方はたくさんあるが、その中で何と何をどういうふうに議論をしていけばいいかということを整理するための最初の段階である。いろいろなご意見をいただき、今後6月に委員会を2回行い、集約していくという形をとりたいと思う。
 話の進め方としては、資料2にいただいたご意見も踏まえて話をしていただければと思う。赤字で書いてあるところを中心に話の口火を切っていただければと思う。
 特に私は、委員の方々のご意見を読ませていただいた中で、青木先生がおっしゃっている複合的要因というところで、「自然災害によるいっそうの経済悪化と政治不信の中で起こるテロや外国からの組織犯罪による急性アノミー」について大変気になった。この辺のところを少し青木先生にお話しいただきたい。

【青木委員】  資料2に記入した内容について説明するある1つの危機に対してどう対処していくのかということは、かなり努力も経験も積んできて、それなりに知見も積まれて、シミュレーションも行われ、訓練も行われているように思う。しかし、思いがけないことが二、三重なったときに、初めての事態でその対応がうまくいかない部分があって、そのときにあきらめの気持ちが出てしまい、そこにまた次の事態が起きることがある。数カ月単位、年単位ぐらいで徐々にさまざまなことが起きていくというときに、日本人全体がやる気をなくしてしまうとか、無規範状態になるとか、もうだめだというように思ってしまう、そういう精神的な状態というものが危機なのではないかと思い、資料2に書いた。
 例えば、地震が起き、津波が起き、原子力発電所が危ない状態であるときに、そこにさらに原子力発電所をねらったテロが起きる事が考えられる。自衛隊員も救援に割かれた状態が続いているとすると、当初は国際社会の理解があっても、なかなかその取り組みがうまくいかない状態が続く膠着状態の中で、日本への関心が若干薄れたところをねらって領土問題などが起きたときに、うまく対処でき無くなる。そのときに反発を買うような行動を日本がとってしまうことにより、必要な国際社会の理解や援助も得られなくなっていく。最も悪くすれば、同盟関係も機能しないこともあるかもしれない。そういうことが幾つか続くということが一番の危機ではないか。そういう意味で複合要因というように書いた。
 また、当委員会は、安全・安心という名称での委員会でもあり、安心・安全の問題を考えているが、安全と安全保障、セーフティーとセキュリティーというものが非常に近い、一体化しているような中で、それはもう切り分けて論じることができないのではないかと思った。たとえば原子力問題がそれに当たる。洞爺湖サミットにおいて日本が3S「セーフティー・セキュリティー・セーフガード」標語を出したが、今こそその実行が必要である。今回震災により原発の外部電源が止まってさまざまな事故が起きたわけである。テロリストも同じことをできるわけだし、諸外国では既に日本の経験から、テロの場合はどうなるのかということで原子力発電所の点検やシミュレーションも始めている。日本ではセーフティーの問題をセキュリティにつなげて考える部分が遅れているのではないか。安全保障と安全、切り分けは難しいが、関与する官庁も異なり、連携が困難な部分がある。どういうふうにどこが何を所轄するのかということは、考えていかなければいけないと思った。どんな場合があり得るのかということを、現実的ではないとしても理論的にはあり得るというものをすべて出していって、シミュレーションを常に行うということが大事なのではないかというように感じた。

【板生主査】  こういうような問題の対策を考えていくときに、何人かの方々にそういう議論をしていただいて一つのシナリオをつくるとか、そういうことをやっていく必要がある。国家とか世界全体の話なので大変大きな話になるが、この委員会の中でどこまでどういうふうにそれにかかわっていくか。考え方は非常に大事なことだと私も思っている。その辺については何か具体的にはいかがか。

【青木委員】  この委員会でできる話ではないですが、複合的な要因というものを考えなければいけないというところで、どういうものがあり得るかぐらいは挙げていき、さまざまな研究をしているところも、専門家がいる場所もあると思うので、そこで突飛なものであってもなるべく多くの場合というものを出していただいて、それに対してそれぞれの所轄する官庁なりに協力を求めるということではないかと思う。

【板生主査】  今お話しいただいたようなことを念頭に置きながら、この複合的な要因をどういうふうに整理または考えていくかということも含めて、皆さんのご意見をいただきたいと思う。

【河本委員】  今の青木先生の話にも少し関連すると思うが、今回の東日本大震災のことを考えると、これまでの科学技術というのはおそらく、災害を防ぐとか、あるいは災害を減ずるとか、そういうことに重点が置かれてきたと個人的には思う。今、青木先生がおっしゃったように、どんなことが起こり得るのかということを想像するということは非常に重要だと思うが、問題はそのリスクをどう評価するかだと思う。ところが、こういう危機事案のリスク評価というのは非常に難しくて、こんなことは理論的にあり得る、これを防ぐために何をやるか、どこまでやるのかとか、リスク見合いで対処するということは非常に難しい。できるだけやるとすればコストがそもそも合わないとか、ある非常に狭いところだけの科学技術を突出してそこだけ開発しなければならないとか、いろんな難しい問題がある。そうすると完全にそういった危機事案を防ぐということは難しいだろうと思う。むしろ問題は、発生することがあり得るということを前提にして、発生した場合にそれをどう被害管理をしていくかということが、今回大きな課題として浮かんでいるのではないかなと思う。発生した危機事案もさることながら、その後の被害管理がうまくいくかどうかによって全体の被害の大きさが変わってくるということではないだろうかと思う。おそらく科学技術は、防ぐ科学技術から、被害管理、発生した被害をどう抑えていくかという、ミチゲーションとも言うが、そういうものにも目を向けていく方向に変わっていくということがあるのかもしれないと思う。
 その際におそらく、今回いろいろな意見が出ているように、いろいろな情報共有や、あるいは、対応としてどういう技術が必要なのか、それはどういった技術が世の中にあるのかということを広く共有して、机の上に全部そういうものを出して、その中から選びとっていける知恵とかが必要なのではないかと感じた。

【板生主査】  安全保障とも非常に関係する話を青木先生からお話しいただいた。この辺の専門の村山先生はどう考えられますか。

【村山委員】  安全保障と安全という話について、最近の安全保障を見ていると、テロにしても、そういう絡みにしても、従来のいわゆる冷戦時代の安全保障、国と国同士で危機がだんだん高まっていって戦争になるとか、そういうパターンではなくて、今は突発的に何か起こってしまうという安全保障になっている。それで、防衛省でも、今まで基盤的防衛力と言ったのを動的防衛力として対応しようというように変えてきたわけである。そういう意味では、安全保障全体がリスク管理のようになってきている。どこに何が起こるかわからないから、そこに対して手当てをするようなシステムをつくろうという方向になってきている。だから、そういう形に変えていけば、安全保障も安全もかなり混在した世界になってくると思う。それと、テロにしても自然災害にしても違うところもあるが、事後処理だとか、そういう部分ではかなり重なる部分があるので、安全保障と安全はかなり重なりつつあるという、そういう認識は必要だと思う。
 もう一つは、今まで安全保障というと、安全保障を担当する人がいて、ほかの人を守るような発想だったが、今自然災害にしてもテロにしてもみな混在している。例えば企業でも今回、安全保障・安全に関係ないけれども、サプライチェーンが被災し、大きな被害を受けた。ということは、企業としても危機に対しては備えをしておかないとすごく経済的ダメージを受けるということで、政府の安全保障、安全的な考えと企業のそういうものとをあわせていくとか、何かその辺の境目がかなりあいまいになるような世界に入ってきたという感じる。それに対してどのような政策を出すのかということが問われているような感じがする。

【板生主査】  事業継続に関する、BCP(Business Continuity Plan)とか、BCM(Business Continuity Management)とかの考え方が欧米においては非常に強く出ている。日本では、危機管理学会とか、いろいろなところで対処しているが、その辺の取り組みが政府も企業もまだ少ないような気がしないでもないが、その辺はいかがか。

【村山委員】  一応、BCPをつくれということで、大企業はBCPをつくってきた。まず言えることは、つくらないよりもつくったほうがいいという、これは明らかである。でも、今回の場合は、BCPをつくっていても、それを完全に超えた事態だったということなので、それをどう対処するかということなのである。その後、BCPに関する新聞記事を読んでみても、企業の対応をどうするかということはすごくあいまいで、結論はない。想定を超えた場合どうするかという事はほとんど見えてきてないけれども、企業によっては、そこをうまく対処した企業もいくつかある。BCPをつくっておいて、想定外のことが起こったときにそれに対応できた企業である。
 これは有名になりつつある例で、東京ディズニーランドは、危機に対する対応というのは、きっちりマニュアルをつくっていたわけです。避難をこうさせて、こうやってという緊急時マニュアルをつくっていて、広場に人を集めて避難させました。ところが想定外の事態が起こったというのは、広場に人を集めたときに雨が降り出した。子供がたくさんいるとこれはかなり危険な状態といえる。それはマニュアルにない。その事態に、従業員がどうしたかというと、店にあるぬいぐるみを出してきて、ぬいぐるみを子供に配り始めた。子供はそのぬいぐるみをかぶって、遊びながら雨をよけていたとか、そういう事例がある。そういう対応が可能かどうかは人間力なのである。ここまで来ると、想定外になったときに、人の力をどう活かすかというところがかなり問われている。
 もう一つは、私は関西で阪神大震災を経験したので、関西の企業である神戸製鋼の方から、何か事態が起こったときにどういう支援をしたらいいかというのはすぐわかりますと言われた。トラックで支援を送る。トラックで行くときも、このルートは危ないからここで行かなきゃならないとか、それはかなりわかったと言う。だから、そういう意味では、今回の経験を生かして、人がそれをどれだけ知って次の危機に対応できるかという、そういう人の部分というのが非常に重要になってきた感じがする。

【板生主査】  地域のそういういろいろな情報交換も大変大事なことで、常に地域の社会、安全とかいうようなことも議論されておられるので、堀井先生に少しその辺のお考えを、お願いする。

【堀井委員】  この委員会でどこを議論するという話は別として、東日本大震災を受けて安全・安心に関連してやるべきことというのは、私は明確だと思っている。資料2にたくさんの安全・安心を脅かす要因というのが挙がっているわけだが、東日本大震災を受けて今取り上げるべき要因というのは、連続して発生する東海・東南海の地震だと思う。そのときにどこまで地震の規模を想定すればいいのかということとか、それによって発生が予測される被害というのはどうなのかというのはかなり詳しくわかるはずで、これまでやってきた対策でどこまでカバーできて、何はカバーできないのかというのは、実証実験をやっているわけだから、かなりわかるはずである。それを活かして対策を講じないとしたら、世界中の笑い物になるだろうし、東日本大震災で被災された方々に対してほんとうに申しわけが立たないと思う。その中で、この安全・安心科学技術委員会が行っていた地域の安全のプロジェクトの3プロジェクトというのは今回の被災範囲に入っていないので、どうであったかということは、それに必ずしも全部が地震というわけでもないですけれども。熊本、山梨、東京。

【奈良委員】  北海道で実証試験。

【堀井委員】  東京工業大学ですが、社会実装としては北海道の遠軽町である。他に、熊本大学と山梨大学がある。ただ、片田敏孝先生(群馬大学)がずっと釜石で取り組んでいたことについては結果が出ている。それを踏まえて、発生の可能性が高く指摘されている東海・東南海の地震に対して、これまでやってきたことを活かすということは極めて大切である。一般論で考えてもしかたがないと思うが、今申し上げたことは少なくともやらなければならないことではないかと考えている。

【村山委員】  まさに実証実験というか、それが非常に重要で、ここから何を学んで次に備えるかというのは基本中の基本である。今まで科学技術関係の技術を開発した中で、どれが結構役に立って、どれがダメだったのか、そのあたりを整理して次に活かすような、そういうこともおそらく必要である。
 例えば、緊急地震情報で、新幹線がとまって脱線しなかったのは、あのシステムが機能したということだと思う。だから、そういう例とかいくつかあるので、どこがどうなったかというのは、事実関係をしっかりレビューする必要があると思う。

【板生主査】  奈良先生は、地域の関連とか、社会の関係とか、いろいろな課題をお持ちだと思うので、お願いする。

【奈良委員】  私も、地震があった後、被災地に3月、4月、5月と入っている。ほんとうに質的・量的に、何をどう整理していいのか、途方に暮れるぐらいの問題が起きているというのを見ている。おそらくこの資料のやり方としては、資料2を淡々とつくったのでは今回の震災のさまざまな問題は抜け落ちるものが多くなると思う。ですから、思い切って分類ごとに分けるということが有効なのかなと思っている。東日本大震災で明らかになった諸問題とその対策については、今、堀井先生がおっしゃったようなことが一つ有効なやり方と思う。
 一方で、資料2のような、こういったものもきちんとつくっておくというのはこの委員会の大事な仕事と思う。どんなリスクがいつどのぐらいの規模で起こるかわからない、地震だけではない、それこそ交通事故とか、火災とか、日常にも起こるわけだから、こういったものは一つ作っておく必要があるというのは、強く思う。
 資料2をつくるときに感じていることですが、先ほど河本委員がリスクの評価が重要だということをおっしゃっていましたが、私もそう思う。リスクの評価は非常に難しくて、リスクの結果であるダメージの範囲をどこまでとるかという難しさがある。つまり、二次被害、三次被害、四次被害まで入れて、あるリスクのダメージをとらえる、そういった表をつくるのか、それとも淡々と、事故レベルのものを、あるいは直接的な被害レベルのものをこの表につくるのかという、そういったことは一つ押さえておく必要があると思う。私の考えは、二次被害、三次被害ぐらいまで書いて、国民に、実はあることがきっかけでこんなことが起こり得るというような、非常に具体的な、決して体系的に網羅されている必要はないと思うが、気づきのきっかけになるような表をつくるのは重要だと思う。そういう意味で青木先生のご指摘はすごく国民の気づきを促すということで大事な要素だと、先ほどから聞いている。
 それから、ダメージレベルを一次、あるいは、二次的、三次的、そこまで入れるという話がある一方で、原因となるような、そういうレベルのものも今回入っている。例えば、非常に重要なことをご指摘したのは、河本委員が危機対応能力の不足というのを6ページに挙げている。ただ、これは、これ自体が危ないというより、それによって何か悪いことが起こるという、そういうレベルのものだと思う。しかし、こういったものをあえて入れるのか、どうするのかというのは、少し形式的な話ではあるが、委員会としては押さえておく必要がある。

【板生主査】  ご専門の立場から特に、ここに書いている社会問題、例えば孤独死とか、弱者という言い方がいいかわらないが、そういう人たちは震災とか何か事故が起こったときに一番弱者という見方もできる。河本委員も書いているが、危機における弱者をどう考えていくか。それこそ技術によって随分救えるのではないかということはありえる。

【奈良委員】  そう思う。災害は万人を平等には襲わないという表現がある。平常時における社会的弱者は非常時においてもより弱者になっていく。だから、私が書いた社会的孤立、孤独死というのは4ページに挙げており、今、いろんな社会的背景によって3つの縁「血縁、社縁、地縁」から抜け落ちる人たちがいて、こういう人たちは平常時でも相当に弱者ですが、非常時にはさらに困って、命さえ落としかねない。仮設住宅に入っても、孤独死をするということになりかねない。だから地域が頑張ってくださいとか、家庭が頑張ってくださいというレベルではもはやない。社会保障として縁をつくる、あるいは科学技術でこれを救うということが必要という意味で私はこれを社会保障の欄に書いた。例えば科学技術で救うには、先ほど堀井委員も話していたように、安全・安心科学技術プロジェクトの例えば北海道・遠軽町で行われているプロジェクトでは、QRカードに、その人の氏名、生年月日、既往症、飲んでいる薬、家族、連絡先等が、全部書いてあって、非常に携帯しやすいもので、それを読みさえすれば、どこにいてもその人の情報がわかるというような、そういった技術も開発されている。すでに地震が起きた後だから今回は間に合っていないが、今からでも遅くないからそういうようなものを普及するというのは重要と思う。

【四ノ宮委員】  私も、医学のほうを担当して、いろいろ学生にも教えている関係上、最初に医学のほうの視点から言わせていただきたいのは、今回の震災で被災された直後に、被災されている方の状況というのがよくわからないまま、いろんな医療支援が行なわれている点である。その活動の中身がちぐはぐな支援というのがかなりあったということを聞いている。被災での情報をいかに正しく、しかもどういうニーズがあるかということを正しく、短時間で割り出すかということに関して、今までそういうことを解析するような考え方が足りなかったのかなと思っている。通常、一般的に我々自衛隊でやるのは、先遣隊という形で送って、そこの情報を人で確認して、こういうものが要りますという情報を送る。それを準備してうまく有効に災害への対処ができるようにという形で組んでいく。今回の震災ではいろいろな道路が分断された状態で情報もなかなか入らなくて、どういう形でやっていったらいいのかというのがよくわからなくて、相当に混乱した状態であった。せっかくこちらで使えるようないろんなものを開発していても、現地でうまく機能しなかったものというのは、たくさんあったと思う。いかに質の高い情報を比較的短期間で収集し、それを災害に対する救援に向けるという考え方も必要と思った。
 それから、先ほど話題に出たが、片田先生のいろいろな取り組みがあったので、今回まさにその津波対策というのは非常にマッチしていたと思う。片田先生のような取り組みが、コンピュータで各農村レベルのシミュレーションを行って、教育を行い、それが果たしてどの程度の効果を上げたのかというような検証が必要である。今までいろんな災害対応でやってきたような、開発したものが実際の現場でどの程度有効であったのか、あるいはどの程度機能しなかったのかということに対する評価もやはり必要だと考える。さらに今後求められるものはどういう技術、あるいはどういう体制なのかということに関しても、見て行かなければならないと思う。
 今回はあまりにも被災の範囲が広くて、実際に外部から援助するということだけではなくて、被災された方ご自身が自分自身のグループの中を助ける状況という二重構造になっていたというように思う。そういう限られた状況、限られた資源の中でいかにうまく物事を活かしていけるかという考え方も必要だと思う。
 あと1点、私が気づいたのは、今回、原子力災害、いろんな派生した事項があったが、専門家は、専門的な知識はあるが、むしろ、日ごろからやっているように専門的な見方でだけ見てしまって、それ以外のことについては知らない、情報が偏っている、あるいは情報が非常に少ないということもあり、いかに多彩な学際的な分野の人が自分の専門領域を超えて緊急時にうまくネットワークを立ち上げて、非常に有効な方向に向けていろんな知恵を出し合えるかということも、今回、大事なポイントだと感じた。

 【板生主査】  そういう意味では、先生自身が防衛医科大学で実際に研究をされている立場で、学術的な面でも、こういう問題、社会不安になる前のいろいろな問題を考えていると思うが、後ほどまたご意見をいただきたい。

【板生主査】  篠村先生には資料2にたくさん書いていただいているので、非常に参考になる。

【篠村委員】  今回の大規模災害にバイオの出番はないという気がするぐらいでしたが、一つだけ思ったことは、寒い時期だったので、被災された方々は寒くて大変だったと思うが、衛生面で感染症等の病気が短期間に広まるということは多分少なかったと思う。それはほんとうに起こった時期が幸運だったという意味では、別の時期に起こっていたら多分感染症が相当広まる可能性があったと思う。そのことは考えておく必要がある。
 実際に被災地に近い宇都宮で地震に遭って、いきなり電気がとまって、断水、ガスも来ない、もちろんネットワークもつながらないという状況で、私のところは丸1日、大学で過ごした。1日で復旧してほんとうによかったが、新幹線は通っていないし、家族と連絡をとるのに四苦八苦というようなことで、被災者の心理に近い状態というのを味わって、ほんとうにこれは大変だなと、自分が経験した立場から今回いろんなことを書かせていただいた。
 地震では怪我をしなかったけれども、その後、自分の生活がもとに戻るのに1カ月ぐらいかかった。建物は壊れませんでしたがもとの生活に戻るのに、計画停電もあり、電気が来ないところで、心のケアがほんとうに大事だというのが実感である。それは被災者の皆さんもおっしゃっていると思うが。
 そういう意味で、地域コミュニティという資料2の3ページのところに書いたことを話す。奈良先生がおっしゃった社会保障ということとも関係していると思うが、地域コミュニティというのは、もともと過疎化の、栃木県の例で言えば、宇都宮あたりでも、その周辺の開発されたあるニュータウンが過疎化して、例えばバスが通らなくなってしまって、陸の孤島化する、そういうのが、今、日本中いろんなところである。今回の震災のような場合はどうかということもあるが、そうではなくても、平常のときからそういうところに人が住めなくなってきている。山奥の過疎ではない。都市に近いのに、非常に不便で、人が減少していく。そういったところを何とか再生する方法というのがないかというのを、今、大学でもシミュレーション実験をしている。経済性を成立させつつ、過疎化を招かないような、そういうネットワークをつなぎとめるというか、そういうことが地域コミュニティを存続して、災害に強い町をつくっていくというところに重要だと感じている。
 あとは、震災以外のところで少し指摘した点では、国際上の問題のところと生物多様性というのを書いた。生物多様性に関しては、バイオの立場から、災害があってもなくてもこういう取り組み、安全・安心という意味では日ごろから取り組んでいかなければならないことだと思う。いろいろな意味での豊かさというのは生物多様性というものに支えられているという視点から、資料2にいろいろと書いた。国際上の問題は、私の個人的な経験ですが、今の職に入る前に日立製作所の研究開発部門に所属していた。そこでバラスト水浄化装置という装置を開発して、それの国際認証を得るために国連の下部組織である国際海事機関と交渉していた。そういった場で日本の国際的な発言力が少しずつ低下している感を目の当たりにした。RoHS指令というのは、ご存じの方は多いと思いますが、鉛を含んだものは輸出できないというようなことで、これは一種の関税によらない貿易上の障壁のようなもので自国の経済を守るとか、あと、薬の認証なども、多分、四ノ宮先生がお詳しいと思うが、何かそういう決まりをつくって欧米が先に行くのを日本が一生懸命追いかけるという構造にいろいろなことがなっている。そういったものをどうやったら日本は頑張っていけるのだろうかというところは、常々思っている。知的所有権もそうだし、製造業のノウハウの海外流出、これは主に新興国に対することで、そういったようなことというのをどうやって防いでいくか、日本の中の経済の強さというものに結びつけていくのかというようなことに何か貢献できるような施策というのはないかというように思っている。

【板生主査】  私自身が考えている一つは、今回の震災で原子力の問題が非常に大きくクローズアップされていること。その中で、今一番困っていることは、放射能、放射線量等、そういうものの測定そのものが、まだまだ数値が各地域においてきちっと整理されてない可能性がある。この議論をし始めると政治的な問題になってくるので避けたいとは思うが、言ってみればモニタリングをどうしていくかということは非常に大きな課題で、これは別に放射能のモニタリングだけではなくて、CO2のモニタリングも含めて、それから危機という意味で安全ということを考えたら、モニタリングを全国でどういうふうに自動的にやっていくかということは非常に大きな問題なではないかと改めて今回感じた。地球温暖化に対しても、モニタリングをきちっとしていくことが非常に大事な考え方でもある。
 それからもう一つ私が感じたのは、情報が非常に大きな役割を果たすようになって、それこそ、よく言われるように、阪神・淡路大震災のときに比べて圧倒的に情報のウエートが高くなってきている。特に携帯電話でも、そのころは使用できたらしいけれども、今回は輻輳してしまって全くつながらない。情報量がパンクするから、実際にはキャリアのほうがそれを規制していくということをせざるを得ない。そういう問題とか、インターネットがかろうじてつながったところもあったとか、いろいろな観点からあるが、もう一つ大事なのは、これは私の個人的意見だが、情報技術が進んでいくことによって、相変わらずお年寄りとか、あまり情報を使わない人、いわゆるデジタルデバイドという人たちがふえていくわけである。そうすると、災害弱者とデジタルデバイドとはよく似ている、同じような人たちがそういう目に遭っている。だから、デジタルデバイドのようなものをどうやって減らしていくか。要するに、緊急情報でも何でも、すぐネットでも見られるようになる。それを見られない人は、知ることができないので弱者になっていく。それをどう救っていくか。そのためにはいかにデジタルな製品があまりややこしくなくさっと使えるようにするにはどうするのかということと、技術開発の問題につながってくるが、そのようなことを私自身も感じて、資料2へは書かなかったが、そのことを追加させてもらったらと思う。
 それから、村山先生が書いておられる話の中で、特に、最先端の技術を追求するということと、ローテクをさらに駆使するような技術開発が本来あるべきなのではないかと、こういうような話も書いてある。開発の方向性についてというあたり、この辺をちょっと議論していただければと思う。

【村山委員】  今回、特に第4期科学技術基本計画の見直しで復興・再生並びに災害からの安全性というところが入ってきたので、これはちょっとグリーン・ライフイノベーションと違う世界だと思う。ほかの2つの場合は基礎研究からやって、それで新しいものをつくっていこうという話だが、復興・再生、それから災害からの安全性というと、はっきり時間が限られた世界だと思う。5年内ぐらいにしっかりとしたものをやらなければならないし、5年でも遅いかもしれない。ということは、基礎からやって云々という話ではなくて、ある技術をいかにこういう方向に振り向けて、それでここに活かせるようにするかという、そこがある意味では勝負だと思う。もちろん科学技術基本計画でそういう基礎研究からやっている分野というのは非常に必要だが、もう一方で、安全・安心分野というのは、堀井先生がやっている社会実装というのはもちろん非常に重要だし、現場まで持っていかないと意味がないというのはある。それから、こういう既存の普通の技術をより集めて何か起こったらより早く対応できるような、技術開発もやっぱりやるべきではないかなという、そういう印象からちょっと書かせていただいた。

【堀井委員】  先ほどのモニタリングとか情報提供ということとかなり密接に関係することだと思うが、安全・安心ということと信頼というのは表裏の関係というところがあって、みんながみんな自分で自分の安全・安心を確保するということはできない。何らかの信頼のメカニズムに基づいて安全・安心を構築するということが必要なわけである。しかし、今回の東日本大震災の結果として、多分、多くの方に聞けば、国に対する信頼であるとか、組織に対する信頼であるとか、それから専門家と呼ばれる人に対する信頼であるとか、特にうちの大学の私の所属する工学系研究科は大きな責任を負っていると思うが、信頼が損なわれたということは事実であると思う。これを再構築するというのは相当大変なことで、そう簡単にできることではないと思う。だけど、一方では信頼を再構築する努力はしなければいけないし、社会を運営する技術として信頼を担保するメカニズムというのを構築するということも必要だと思う。だが、もう一方ではパラダイムシフトというのがもう進行していて、トップダウンであるとか中央集権的な社会運営の方法から、ボトムアップというか、自律分散型というか、そういう動きは避けられないだろうと思う。だから、そういうパラダイムシフトに応じた安全・安心科学技術というのは当然あるはずだと思うし、そのときに中央なり大きな組織なりが果たすべき役割というのも引き続き大きいと思う。ただ、やるべきことは大分変質してくるのではないかと思う。国家としての安全・安心みたいなことを考えるときに、そういう新しいシステム、その中で科学技術が果たすべき役割なり、中央官庁なり大きな組織が果たすべき役割みたいなものを考えることも重要なのではないかと思う。

【板生主査】  結局、安全という問題は技術的にはかなり説明できるわけだが、安心というのは人間の問題、この議論は、安全・安心の議論というのはいつでも出てくる。今回の震災を通してわかることは、安全と安心は別であるといいながら、安全でもなかったのでますます不安になったということでもある。本来、安全は安全としてきちっと守れるはずである。はずというのは、ちゃんとした理論に基づき、計算に基づき、そして予測に基づきというような科学的な裏づけのもとであり、安心は今おっしゃったように信頼ということになるから、信頼が得られないケースが非常に多い。これをどういうふうにしていくのか、そこにはやはり情報というものが非常に大きなウエートを占めているのではないか、介在しているのではないかと思われる。真実をいかに出していくか、真実の情報を、四ノ宮委員がおっしゃったように、情報を迅速に出して、把握することと出していくということ、両方の関係だと思う。それは必要なことで、科学技術で解決する手段の一つとしては、いかに真実を早くつかんで、その情報をいかに大勢の人に平等に出していくか、そういうものの情報を提供していくかということは科学技術の役割の最低限やらなければならないことだと思われる。今回はそういう意味での課題というのが非常に大きく出てきたという感じがする。
 その辺の、情報ということにあまり絞らないほうがいいと思うが、何かご意見は。

【河本委員】  今、堀井委員のほうから話があった信頼の話とパラダイムシフトの話で言うと、信頼が持たれるかどうかは、突き詰めればやはりコミュニケーションの問題。それを全部含めてリスクコミュニケーションという言い方をしているが、リスクコミュニケーションというのは実際に危機が起こったときにどう情報を発信するかというだけではなくて、平素からどういうコミュニケーションをしているかということだと思う。
 特に原発の事故で言うと、平素は、事故は起こらないということが前提であったから、起こるとどういうことが起こるのかとか、どういう危機が発生するのかということを、立地県の人も含めて国民全体に知らされていなかったというところがあると思う。実際起こったときに、実はこんなことが起こっていて、ふだん聞いたことのないシーベルトとかベクレルと、こういう話が出ると、まずそのことが理解できない。それが何を意味しているかも理解できない。ふだんからそういうコミュニケーションをちゃんとしておくということ。その上で、実際に発災したときに情報を発信する。ただ、コミュニケーションだから、情報の発信だけではなくて、情報を出せばいいという話ではなくて、相互作用が起こるようなやり方が必要である。それは、相手方の話を聞き、相手の求めている情報を提供するという作用で、そういうことができるかどうかというのは一つ、信頼が得られるかどうかという大きなポイントだろうと思う。
 今回の地震でも、現地で物資が足らない。実は、各自治体とか各企業、特に、流通だとか、スーパーだとか、そういうところは、関東以西から物資を集めている。各企業はそれぞれ一生懸命になって物資を集めて、トラックも集めて、現地へ運ぼうと、現地で店を立ち上げようとしているのだが、ガソリンが足らないという問題が起こってしまった。そうすると、各企業それぞれがそれぞれに石油会社に電話して、ガソリンを送れと、こういう形になっている。
 実態は、自治体が持っている備蓄を現地に送ろうとして、じゃあ、どうやって送ろうか。例えば、自衛隊の船があって、ふだんから関係がよくできていて、そこに頼んだら、持っていってもいいよと言っている。では送ろうかと言った矢先に、国が全体的な物資の供給のスキームをつくったから待てという声がかかった。その後なかなか具体的なスキームがおりてこないので、物資を集めてもあまり迅速に動かなかったという事例を聞いた。
 実際には、そんなことができるのは、国だけではなくて、企業もできるし、自治体もできる。では、国は何をするべきか、というと全体の大きなスキームをつくって農水省が物資を集めて自衛隊が運ぶというような国が動かすということではなくて、それぞれの企業なり自治体が動こうとして、しかもできるという能力があれば、それをどう助けるか、あるいは、それに対して必要な情報をどう与えていくかだと思う。国が中心になってやっていくということよりも、それよりは自律的に動けるところをどう国がサポートできるのかということが、今回の課題の一つであるという気がする。
 情報のことで言うと、例えば報道が取材するが、こういうときに何が起こるかというと、阪神・淡路大震災もそうだったが、被災地の地理的に外側の情報はかなり入ってきた。阪神・淡路だと、どこそこのお寺の仏像が倒れて壊れたとか、そんな情報が入ってくるわけである。逆に被災情報が全然入ってこないところというのは、非常に深刻なわけである。最初は軽い情報だけどんどん入ってくるものだから、大した被害はないと思い込み、初動体制の立ち上がりがおくれるということがあった。そういうときにいかに被災地の真ん中、おそらく被害が深刻であろうというところの情報をたくさんとっていくか。一つは通信技術の問題になるし、それから、上がってきたいろいろな情報を例えば地図のような形で「見える化・可視化」していくと、真ん中に情報のない暗黒地帯が残っている。ここは絶対何か重大な事が起こっているというようなことは、おそらく紙の文書で情報を見たのではなかなか気がつかないと思う。地図にすれば、そこは被災情報空白地帯なので、絶対ここは深刻だ、見に行こうよというような話になると思う。そういう情報の表示というか、見える化をするとか、それをみんなが共有して、そこの情報を持っている人はそこへどんどん情報を投げていって情報を多層化していくとか、何かそんなことができないかなというふうに感じる。

【奈良委員】  大きな問題、国がすべき問題、あるいは信頼の構築、そういった話は、まず一つ大事だと思う。それと同時並行して、今回の東日本大震災を受けて、私たちはほんとうに具体的に被災地で何が起こったかというのを丁寧に丁寧に見ていく必要がある。これにはこんな技術が使えるという、そういう仕事も、今、記憶に新しいうちにしておく必要があると思う。
 例えば、一般的によくマスコミが言っていることも含めて、私が被災地に行っていろいろ話を聞いて思ったのは、まず地震が発生し、津波が発生すると、電子機器類がダメになる。ある病院では非常用電源がダウンしてしまって電気が消えて患者さんを診られなくなったとか、あるいはサーバーが浸水して情報が管理できなくなったときいた。これに対してはスタンドアローンでかつ強い電源というものを科学技術で何とかできないかということがまず言える。あるいはガソリン不足というのは被災地で困っていて、一方、LPガスで走るタクシーは走れていた。何かそういった、ガソリンにかわるような燃料はできないものかという議論もできると思う。あるいは、被災地の人が困っているのは、津波で防潮堤とか防潮林が全部なくなってしまって、怖くてもそこに住まなければならないという現実がある。だから、何かそれにかわるような、テンタティブでもいいので身を守るようなものはできないのかとかである。あるいは粉塵について、安価で市民が健康を守るようなマスクとか、あるいはシートとかはないのか。あるいは塩害、イチゴだとか、お花だとか、海岸沿いでたくさん農産物をつくっていたけれども、塩害で土地が全部やられてしまって、どうしようもない。技術はどんなものがあるかもわからない。農家の方々が途方に暮れている。科学技術でいち早く塩害をなくすようなものが開発できないか。あと、瓦礫を仮置き場に置いているが、じわじわと有害物質が土地に浸水し農地は使えなくなる。その瓦礫の撤去を科学技術でどうするかとか。
 あるいは、特に行政支援が遅延していて、いつどんな支援をしてくれるかという情報の欠如で、不確実性が被災地ですごく増大している。今、被災者間で不公平感がすごく拡大している。南三陸ばかり注目されているとか。それらの問題を情報の扱いで何とかできないかとか。これも行政上の問題だが、罹災証明の発行が煩雑で遅いというのを、すごく被災者の方がいっている。罹災証明の発行は生活再建の第一歩で、それをするためにはまずは罹災台帳をつくってもらう必要があるが、調査に入るのが、自治体が手いっぱいで、時間もかかって、なかなか進まない。でも、早く罹災証明を出してほしい。ところが、罹災証明をもらいに行くには、お金もない、時間もない中で、何度も市役所や役場に行かなくてはならない。あげくは義援金をもらうためには市役所が発行した罹災証明を持ってまた市役所に行かなくちゃいけないとか、情報が一元管理されていないことによって、二次的、三次的に被災者に要らぬ負担をすごくかけてしまう。だから、行政の中でそういった情報を一元管理するような技術さえあれば、そういった二次的被害は防げるのだが。それはほんとうに被災地で小さなことから繰り広げられていることなので、そういったことを洗い出して拾い出すという作業も重要なことと感じる。

【板生主査】  後ほどその辺はまた議論していただくことにし、まとめていただいている資料1の中で、1ページ目は大体、皆さんの意見をいただいた。2ページ目に検討事項として、「社会的構造の変化により、顕在化してきた課題(危機の全体像の整理)」と書いてあるが、何かご意見があれば願いする。今の奈良先生の話もある意味ではこの中に入るような話かと思う。その中で、ITの話とか、ワクチンの副作用と安全性、過疎化の問題、国際的な観点からの問題というような項目で出ているが、この辺について、つけ加えることがあればお願いする。顕在化してきた課題という中ではいかがですか。

【四ノ宮委員】  震災に関して、情報通信システムは現在、コンピュータあるいはネットワークが進んで非常に便利なった。一方、先日、我々が経験したように、一気にみんなが同じような行動に走ろうとすると、すぐに情報量がパンクしてしまって、逆に情報通信ができない状態に瞬時になり、右往左往して困った。いろんな交通システムも混乱した。情報の流れをうまく交通整理をするようなシステムや、あるいは1つの情報のネットワークがだめでもバックアップシステムで別のシステムを使えばうまくいくとか、その辺のセーフティーネットがあるともう少しスムーズに対処できたのではないかと思われる。
 もう一つは、被災をされているところ自身が、先ほど奈良先生が言われたように、いろんなものがシステムダウンしている、今回の場合には被災されている方自身がいろんな情報の手段を失っている。そういうところにいかにうまく情報を供給するにはどうしたらいいのかということが大切。当初は例えば避難所の体育館に電話が1台しかないとか、そういう状況だったので、その辺を最先端の科学技術でなくとも既存のものをうまく利用しつつ迅速に供給できるシステムというのを災害対応として考えていくべきではないかと思う。

【板生主査】  平常時から使っていて、非常時にはそれが命綱になるというのは、安全・安心科学技術プロジェクトの地域社会3課題のいろいろな取り組みでやっていた。そういうものを全国的に展開するというようなことはどうなのかということについて、ご意見をいただきたい。

【堀井委員】  こういう言葉を使うのはよくないけれども、今、すごいチャンスというか、これだけ人々の意識が高まっているときというのはないと思う。例えば熊本大学がやられたような、ワークショップを使ってPDCAサイクル(plan-do-check-act cycle)を回していき住民の方と県の方と大学とが信頼関係を築いていくプロセス、それをいろんな地域で行う、あるいはやらなければならないと思う。地域によって考えるべきリスクとか条件というのはかなり異なるので、いろいろなリスクを考えながら各地域に何に対して対処するべきかと考えながらやればいいと思う。危機管理という観点から見れば、ある対象について危機管理能力が高まれば、ほかのリスクに対する危機管理能力も高まるので、それはぜひスタートするべき。
 それから、これだけ学ぶべき教訓がすぐそばにあるわけだから、ただ単に防災訓練をするというだけではなくて、起こった後に、ボランティアをどう受け入れるかとか、広域の連携をどう確保するかとか、かなり項目を取り込んで、今度何かあったときにほんとうに役に立つような訓練を今から計画して、その中にITをうまく組み込んで世界に誇れる危機管理システムを構築するべき時期だと思う。

【板生主査】  地域によってかなりリスクが違うので、パッケージ化して山梨でやったものは神奈川でやれるのかというと、そうではないということがある。ところが、その中でモジュール化できるものがあるのか、ないのか。あると思うので、安全・安心科学技術プロジェクトの地域社会の3つの課題でやってきたことの中のモジュール化を行い、モデルをつくって、それをベースにしていろんな地域にどんどん展開していくというような、何かそういう取り組みができると、ある意味では行政のむだも少なくできる。その辺は、可能性はどうか。

【堀井委員】  3.11の前に行われた事業評価というのは見直すべきだろうと思う。要するに過去の事業評価と今は評価基準が相当変わっているので、今までいろいろやってきたことを見て、今のこの時代に、この時期に合ったもので、過去の資産にはどんなものがあるのか。今から全部ゼロから始めなさいというのは、愚かだと思う。今までやってきたことの中から活かせるものに力を注いでいくということが、効率的と思う。

【板生主査】  そういう意味で、まだ結論を言うのは早いが、この委員会でも、過去、委員会でやって、実際にプロジェクトで実証実験をやってきたものについては、先ほどの話にもあったが、きちっと評価をしていく必要がある。特に、片田先生がすすめている技術開発について評価していく必要がある。今回、津波があまりにも想定外だという話はあったが、片田先生は東北地方で津波に対していろんな警告をされて、シミュレーションされて、多分、被害は最小限に食いとめられたという評価は十分できると思う。そういうようなことに関して、評価、成果を我々としてはベースにして、次に生かしていくというような提案は、ひとつやっていきたいと思う。

【大山戦略官】  次回の委員会でその辺はご紹介させていただこうと考えている。

【堀井委員】  次回の委員会で報告させていただくが、これまでにどういうプロジェクトがあって、例えば片田先生がどんなことをされて、それがどういう効果を生んだのかということを伝えた上で、地方自治体と大学と地方行政組織と連携して手を挙げてくださいと言えば、すごくたくさんの組織が手を挙げると思う。そういうところに今までの資産を渡して、今の状況に合わせてモディファイし、いろんな情報をつけ加えて、有効なプログラムを進めていく。熊本大学とか、これまで携わったところはみんな協力する。そういうことをやっていくべきと思う。

【板生主査】  それは一つの、非常に大きなポイントだと思う。

【村山委員】  特に、地域社会のプロジェクトがおもしろかったのは、実際に地域の人がかかわって、科学技術を使って社会実装するというのが、非常に興味深いところだと思う。先ほどの想定外が起こったときに人の力が重要だという話をした。危機のときの対応力で何が一番かといったら、教育を受けた人が一番に対応力がある。それプラス科学技術の機械をどうミックスさせてシステムをつくるかというのがおそらく最強のミックスな感じがする。それらを起点にして発展させれば、人と科学技術のシステムは何かおもしろいものができると思う。

【堀井委員】  それが信頼を再構築するベストな方法かと思う。

【板生主査】  何らかの形で、人の能力の問題も含めて、地域の特殊性の問題もあるから、モジュール化という言葉は適切な言葉ではないかもしれないが、普遍的な技術というものを少し、人間との関係も含めて整理しておきたい。それをうまく活用できるようにしていく。これを機会にやっていきたいと思う。
 次に、5ページ目の安全・安心な社会に向けて重点的に推進することが必要な課題の設定に関連して少し意見を絞っていただければと思う。ここの中で、自律分散型の危機管理システムをつくるべきであるとか、緊急情報を互いに早目にとって共有すべきであるというような話、それから国際協力の話、リスクコミュニケーションのあり方、風評被害、この辺は難しいけれども、人材の育成、安心についての研究、情報と安心というのは関係が非常に深いものであるが、いかに真実、正確な情報を早目に提案するかということはもちろん安心にもつながり、貢献していると思う。この辺について、少し議論をしていただければ、ありがたいと思う。

【村山委員】  国際的な観点から考えるところがあるので、それをお話しする。そもそも安全・安心の技術を開発するというスタートを考えると、日本というのは安全・安心ブランドがあって、そこで技術開発できれば国際的にもかなり意義があるかと、そういう視点がかなりあったと思う。ところが、今回の震災で原発問題もありそのあたりが傷つきつつある。これをいかに回復させて国際的にも日本は安全・安心というのがキーワードだということをアピールしていくかは、頭のどこかに置いておかなければならない問題だと思う。
 そのときに必要になるのは、第4期の基本計画の復興・再生、そのあたりだと思う。ほかの地域で災害が起こったときに日本からそのノウハウを持っていき、そこを復興・再生できる、ということが可能になる。安全保障の面でも、紛争後の処理について日本はノウハウを持っていて、日本だからこそできるという、そういう世界をつくれると思う。逆転の発想ですが、ただ単に単発的にこんな技術というよりも、それをちゃんとまとめ上げて、国際的にもすぐに展開できるようなことを示せればいいと思う。それができれば、また日本というのは違った意味で安全・安心というのが一つのキーワードになる国だということで、国際的な地位向上にもつながるという感じがする。

【板生主査】  その場合に大事なことは、技術以上に組織とかシステムの問題がある。政治と経済と技術を含めた3つに分けて考えれば技術だけでカバーできるのはかなり限界があるので、これをどう考えるかということ。ここでそこまで全部広げて議論をしていいと思うが、その中で技術の占める割合は意外と小さいのではないかと感じている。

【村山委員】  もちろん政治はしっかりしないとだめだという話ですね。

【板生主査】  そこに話題が行ってしまうので、政治の話題は収拾つかないのでやはり技術にフォーカスしていきましょう。原発の事故の問題にしても、何にしても、ほんとうにこれは技術だったのかという問題はある。歴史が証明しますが、技術が悪かったからそうなったのか、いやそうじゃないという議論はいっぱいある。ここではあまりそういう議論をしないほうがいいと思うが、そういう意味で、あまり技術、技術と犯人捜しをしてもだめであり、技術者も何か肩身の狭い状況が今はあるが、これはほんとうにそうなのかと、考える必要がある。ここは国の科学技術の委員会だから、技術に閉じるけれど。

【村山委員】  今後の復興・再生の分野でどうやっていくかというところですね。

【板生主査】  前向きにとらえていく必要がある。ここら辺のところは皆さんにフリーにディスカッションをしていただければと思う。

【篠村委員】  先ほど奈良先生が発言した、実際に現場であったことをきちっと吸い上げるという文化がないという気がするが、それは必要だと思う。現場で起きているいろいろな情報をきちっと吸い上げてくというような仕組みが大切。そういうノウハウをどうやったらジェネラライズできるかという事が、我々に突きつけられている課題のような気がする。企業についても、発展していくためには、現場の先端の人たちの意見がきちっと上にまで吸い上げられて、評価されるというところが伸びていく。そういうものが国全体での科学技術というレベルでもあると思う。そういうことは何遍でも見直して、何遍でも新しい視点からできることをやっていく必要がある。具体的な技術として何があるかというのは、コンピュータも使われるかもしれないし、あるいはiPhoneみたいなモバイル機器も使えるかもしれない。

【板生主査】  危機が発生したときに危機管理のシステムをどう稼動させるか。アメリカを比較すると、FEMA(Federal Emergency Management Agency of the U.S. アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)というところで大勢の人間が考えて、日本の10倍、20倍の人がいろいろ活動している。そういう意味で、システムとして見たときにかなり検討を必要とすることが本来多い。

【篠村委員】  新しい課題ではないかもしれないが、古くて今日的に新しい課題だと思う。具体的な課題が出てくれば、先ほど奈良先生が言われたようなことだったら、可能だろう。メーカーに言えば堅牢な電源をつくれるとか、ガソリンにかわる燃料を開発するとか、塩害の話、瓦礫の利用と農地の回復もバイオを活用すればできるとか、いろいろ出てくる。役立つ技術はすでにあると思う。どんな技術を当てはめればいいか、そのもとのところ、それもシステムがご専門の先生方にぜひご意見をいただきたい。

【奈良委員】  地震あるいは津波かもしれないが、そういったデリルが起きる前にあらかじめなるべくリスクを小さくしておくという、それこそ片田先生の行っている防災訓練のような、そういったレベルの話と、実際起きた後に時々刻々と被害がさらに大きくなって人々が困っているという中で起こるさまざまな問題にどう科学技術で対処するかという、そういうポストダメージとプレダメージの両方を目配りする必要があると思うので、偏らないように何かできればと思う。高い確率で発生する東海・東南海・南海地震に備えるという意味で、今回の東日本大震災と似たようなことが繰り広げられてしまう。だから、せっかくのという付言は不謹慎かもしれないが、私たちが得たせっかくの教訓を具体的に活かしていかないと、被害に遭われた方々が報われない、浮かばれないというように思う。

【板生主査】  そのとおりで、それをさらに進めていくとどうなるか。議論がいろいろあったので少し整理したいと思う。ターゲットを設定しやすいこと、議論をすべきことは、堀井委員がおっしゃったように、今後30年の間に起こるであろう東海・東南海地震はかなりの確率だという中で、何をやるか。まさに日本の西暦800年代を見ると、富士山が噴火して、貞観地震が起こって、鳥海山が噴火して、関東大震災が起こって、畿内大地震が起こったというのが、30年の中に全部入っていた。今から一千何百年さかのぼるとそういうことが起こっているという歴史がある。今回、東日本大震災が起こったわけだが、そうすると、この4つが全部起こるとことがありえる、と尾島早稲田大学名誉教授が主張しており、実際にそういう文書を書いて提言しておられる。そういう意味で、起こることがわかっているというか、かなりの確率で起こるであろうと思われることに関して、それを頭に置いて安全・安心の技術をどういうふうに整備していくかと考えれば非常に話は整理しやすくなる。そういう考え方が一つあると思う。さらに俯瞰的に考えると、冒頭で話があった青木先生が言うのは、複合的要因のシナリオをきちんとこの委員会でつくる、そういう専門家にも来ていただいて、そういうシナリオをつくる。そこから引き出していくということが必要だろうということも、非常に大事なポイントだろうと思う。
 それから、情報というものが非常に重要な役割をますますしているので、透明性という問題と信頼性という問題との兼ね合いで、情報を今後どう活かしていくのかが大切。危機管理、または安全・安心の委員会で、どういうような情報手段の提供を要求するか、そういうものを技術開発していくのかというようなことも、非常に大きな問題としてあると思う。そういうようなことがいろいろあると思うので後ほど事務局のほうでまとめていく。もし言い足りないことがあれば、ぜひ追加していただきたいと思う。
 特に、限界集落の話とか、その辺は確かに安全・安心にとっても大事な問題なので、災害弱者のような形であらわれている。そういう人をどう救うかというのは、技術分野として私も近いところにいるので、そういう技術はわかりやすい。ただ、その辺のところをどこまで議論して対応するような話にするか、これも一つ中に入れておく。

【奈良委員】  その問題は平常時であっても緩やかに進行中で、それが今回の災害でさらに加速化するというだけのことだと思うが、ぜひ入れていただきたいと思う。

【板生主査】  議論の中でまた審議いただければいいと思うが、やはりいろんなモニタリングが大事と思う。その辺のところは、情報の話とリンクしているが、大事だと思う。
 そのほか、村山先生がおっしゃった、最後は人間ですね。人間との関係をどうするか、安全というか、安心というか、人間を育てることも大事だし、人間力という話をされましたがいかがか。

【村山委員】  まさに体を動かすような、教育の世界ですね。

【板生主査】  教育というと一般論になってしまいますので、どういうような形でそれを安全・安心で具体的にやっていくのか。

【村山委員】  変な話ですが、リスク管理で、どうすれば、リスク管理のリーダーだとか、それに対応できる人を育成できるかという議論はよくしている。結論としては経験してもらうというのが一番よく、一度経験したら、すごく強くなる。でも、これは普通の人はできないので、それを技術的に経験するためにはどうしたらいいかということで、そこで教育の役割というのが出てくると思う。その中で、ただ単にルーチンの防災訓練のようなものではなくて、もう少し魂の入ったような、そういうものがいかにできるかが重要。参加した人がほんとうに何か起こったときに役立つような教育をどうするかである。ビジネススクールでもリスク管理を教えているので、企業が、このような事態が起こったときにそれぞれがどう対応するかということでそういう話をよくするが、BCPをつくっていても限界があるので、その上のことを一体どうするかというのはいつもやっておかなければならないよ、という話はしている。

【河本委員】  航空機のパイロットは毎日危機管理している。彼らは航空機が飛んでいるときの非常事態というのは実際に体験することはまずなくて、どうするかというと、飛行シミュレーターで体験する。シミュレーターで、例えばエンジン故障・停止、電源が落ちたとか、雷が当たった等。
 いろいろご議論あった中でも、人の育成をするというのが非常に重要で、しかも、これだけ社会が高齢化してくると、若い人がどんどん減っていって、実動人員が減っている。そうすると、限られた人材とか資源をいかに活用するか、効率的に使うかとなると、力をつけてもらうしかない。例えばそれは、実際に対策をする国・自治体の人の危機管理能力を高めてもらうことと、国民一人一人がリテラシーを高めてもらうこと。そのときに重要なのは、実際に何か起こったときにどうしたらいいかということを考えて、それを実行する能力と、もう一つは経験。例えば、大津波も、今回のようなことも、経験はできないので、そこを補うためのシミュレーターみたいなものを科学技術でつくっていく。要するに、飛行機のシミュレーターみたいなものをもっと、テロとか、事件とか、いろんな災害とか含めてシミュレーションできるようなものが必要。さっき津波の話がありましたが、汎用的に使えるシミュレーターというものがもしできれば、行政の人もそれで訓練できるし、一般の人々もそれで訓練できる。両方訓練することによって、いろんな問題が見えてくる。

【篠村委員】  できると思う。大きなシアターみたいなのでやれば、3Dで津波ができる。

【堀井委員】  教育、人材育成について、魂が入っているかどうかよくわからないが、私の所属している工学研究科では、理系ですが、ケースメソッドによる教育というのをやっている。いろんなケースを取り上げている。1つ、ハリケーン・カトリーナのケースで、ハーバードのケネディスクールがつくったケースがあるのですが、要するに実際に起こったことが克明に書いてあって、それを読んでから、学生に問題点をリストアップさせる。そうすると、FEMAの問題もあれば、大統領の問題もあれば、州知事の問題もある、その中でどれが本質的に一番重要な問題かということを学生に考えさせる。僕にとっては明快だと思っていても、学生はなかなかそこをとらえてくれない。レベル5のハリケーンが来たら堤防が決壊するということは、だれもが知っていた。何年か前に地元の新聞で、堤防が決壊したら20万人が亡くなるとか、どういうことが起こるかを書いていたから。
 実際何が起こったかというと、まず市長と副市長が本部をホテルに移した。その理由は、非常用電源があるからで、停電になっても電気が使えると思ったのですね。だけど、そこが水没したために、2日間か3日間、本来であればSOSをFEMAなり大統領に発するべき人たちが陸の孤島の中に閉じ込められた。それから、警察署員とか、消防署員とか、被災していたけれど彼らは動けた、しかし緊急無線が使えなかった。なぜ使えなかったかというと、基地局が水没したから。小学生でも、地図に等高線をかけば、どこが水没するか、かなりの精度で予測できるわけだ。そうしたら、水没しないところに拠点を置くということを事前に準備することにそんなに金がかかるはずがないわけだ。そういうことができてなかった。それが一番大きな問題で、それさえできていれば、あんなひどいことにならなかったという、そういうことを学生とディスカッションしている。今の話とどこか似ている。

【村山委員】  似ている。私も同じようなことをやっていて、私は地下鉄サリン事件を事例ケースに使っている。あのとき聖路加病院がなぜ200人も300人も受け入れて対応ができたかというのを学生と議論するというケースも役立つ。

【堀井委員】  飛行機のような飛行シミュレーターという装置ではないけれども、ある意味でのシミュレーターではある。

【河本委員】  疑似体験するということですね。

【村山委員】  そうです。

【堀井委員】  倫理教育とかが重要だとよく言われているけれども、こういう危機管理能力みたいなものもほんとうは大学の教育カリキュラムの中で必修ぐらいにしないといけない。

【村山委員】  そうですね。

【板生主査】  前、NHK教育で白熱教室というのをやっていた。あの中で聖路加病院の話も出ていた。ある意味では、そういうケースをとらえて、学生にいろいろな情報をまず与えておいて、対話でディスカッションしながら、どうあるべきだというような講義がある。

【堀井委員】  そういう教育プログラムをここで整備して、いろんな大学で使える教材を提供するのはすごく、日本全体にとってプラスになると思う。

【村山委員】  いいと思う。

【板生主査】  確かに、教育の問題は過去のものをいろいろそういう形で教材にしていくというのも一つである。 

【四ノ宮委員】  1点だけ、関連してよろしいか。
 技術を安全・安心に活かすということで、いろんな教育のシステムとか、重要性に関連して、例えば今回の原発で放射性物質の飛散の予測をするSPEEDIという予測システムがあった。解析システムとしてはわりといい性能と私は思っているが、それをどうやって運用していくかとか、飛散が予測される地域に対して、その地域の方々をどうやって安全な方向に導くかということも込みで考えておくべきだったというように思う。予測だけして何もしないのであれば、不安をあおるだけになってしまって、安心のほうに行かないと思う。安心というのはデータの正確性に基づいた、信頼に基づいて、さらにどういう行動をとればみんなが安全にやっていけるということも加えて、ハード的な面だけではなくて運用的な面もあわせて考えないと、せっかくつくったものを予測だけうまくいってもうまく運用できないということになると思う。先ほどの教育のことも非常に重要で、現実に起こり得るかもしれないということをよくシミュレーションしながら、過去の経験も入れ、システムづくりに活かしていくというのが重要だと思った。

【板生主査】  冒頭にお話をいただいた青木先生は、今聞いていただいて、いかがか。

【青木委員】  村山先生が先ほどおっしゃった復興支援というところで新しい日本の強みをつくっていくというところが科学技術を使ってうまく力を結集して行うことができれば、篠村先生の書いている国際条約制定における地位低下ですか、そういう部分で日本が新しく基準をつくっていくきっかけになるのではないかと伺っていた。
 また、資料1の6ページ、国際協力を通じての対応で、イギリスなどとの効果的な協力というようなことも大事だが、今回、悪意ではなかったけれどIAEAにも、WHOに対しても、例えば具体的には「原子力事故通報条約に基づく通報」に遅れたことによって信頼が揺らいでしまった。これの回復も難しいと思う。ある程度、ある種の具体的な事態が生ずれば通報しなければいけないというような、条約だけではなく国際機関のさまざまな基準があると思うので、詳しいマニュアルをふだんから持ち、官庁間で共通のデータベースを持って、判断は最終的に仮に政治的に決めるとしても、その部分の科学的な数値に基づく履行の開始についてはなるべく政治的判断の必要性を少なくしたほうがいい部分もあると思う。そのようなデータベースをつくるということに加え、そういうものを日本が基準として国際社会に輸出することができるところまで、今回の震災を踏まえて努力できたらというように感じた。

【板生主査】  そういう積極的な形で国際的に情報発信していくというところまでできれば、非常にすばらしいと思う。

【板生主査】  ここで一応今日の話は閉じることにして、少し事務局と相談をして次回あたりはどういう方向に議論をしたらいいかということについてもまた考えて、そのときにぜひまたお話をいただきたいと思う。

【大山戦略官】  次回は、6月17日を予定している。

── 了 ──

 

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