【大学発グリーンイノベーション創出事業 グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス事業 先進環境材料分野】
氏名 | 所属・職名 | |
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主査 | 小池 康博 | 慶應義塾大学理工学部物理情報工学科・教授 |
副査 | 梅村 晋 | トヨタ自動車株式会社先進技術開発カンパニー 基盤材料技術部長 |
佐藤 勝昭 | 科学技術振興機構研究開発戦略センター・フェロー | |
松下 伸広 | 東京工業大学 物質理工学院・准教授 | |
北川 源四郎 | 情報システム研究機構・機構長 | |
高尾 正敏 | 大阪大学経営企画オフィス・特任教授 |
※各研究領域の利害関係者に該当する者は事後評価検討会における各研究領域の評価に参加していない。
グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス(GRENE)事業は、環境エネルギーに関する重要な科学技術分野・領域ごとに、大学等によるネットワークを構築し、人・物・情報を共有し、最先端の研究から人材育成までを一体的に行うことにより、我が国の国際競争力を支える優秀な人材(研究者、プロジェクト管理者等)と研究成果を創出する。
画期的な研究成果の実体化を見据えた、環境材料研究における先端的研究課題を発掘・解明し、ネットワークによる知識・技術の統合という過程から生まれる新たな学問領域の創出により成果目標を達成することを目的とする。また、この先進的課題解決のネットワークの下で、先進環境材料及びそれを活用したシステムを創製する研究と人材育成が一体となって取り組まれる体制作りを目指す。
大学は、「知の拠点」として我が国のグリーン・イノベーションを牽引する役割を担っている。しかしながら、科学技術分野や領域ごとに、様々な取組が行われているが大学ごとにバラバラで統一性がとれておらず非効率的であったり、個々の大学単位では資源不足等のために効果的な取組が行われていなかったりなどの問題がある。優れた研究拠点が横断的に連携する大学・研究機関のネットワークを構築することで、これらの問題を解決し、「知の拠点」として大学等が持つ総合的かつ多様なポテンシャルを最大限に生かすことにより我が国のグリーン・イノベーションの加速を図る必要がある。
また、大学においては、教員の発意によって人材育成、研究開発、国際協力などグリーン・イノベーションに関する様々な活動が行われているが、大学全体の活動の一部に過ぎず、大学を超えた研究者同士の連携や協働作業などが十分に行える体制はない。このため、我が国のグリーン・イノベーションによる成長のために効果的な大学の事業に対して、国が補助することにより、我が国のグリーン・イノベーションに資する大学の潜在能力を引き出す必要がある。
先進環境材料分野においては、我が国の環境・エネルギー技術の国際競争力維持・強化、そして、CO2排出量低減など低炭素社会の実現に向けた技術的課題の解決において、最先端研究の成果に基づく新しい環境材料の創出が大きな役割を果たすことが期待されており、そのための研究開発及び人材育成を一体的に推進することが重要である。
大学においては、既に様々な形でグリーン・イノベーションに資する活動を行っており、活動間の連携、成果や効果の持続性を確保するため、多くの社会貢献や国際競争に対して意識の高い教員や大学経営者が、本事業の実施を渇望しており、既に自主的な準備活動を行っている研究コミュニティも存在する。このため、本事業は、極めて実現性が高く効果的である。
先進環境材料分野では、要素技術がシステム全体の革新的な機能追求の鍵を握る場合が多く、研究目標と研究リソースの共有の下、これまでに蓄積されてきた個別要素に関わる知識基盤が活用され、かつ、異分野の知識・技術が統合された組織的研究を構築することにより、低炭素社会の実現に向けた研究が加速される。
低炭素化技術などの各分野において人材育成と研究開発のための大学間のネットワークが構築され、効率的に我が国の国際競争力を支える優れた人材と研究成果が生み出されることが期待できる。
先進環境材料分野では、参画する大学・研究機関の実施者や外部有識者から構成される運営委員会を設置し、事業全体の運営方針の検討や進捗状況把握等を行うとともに、事業資金の有効利用を図るため、文部科学省「ナノテクノロジー・ネットワーク」及び「低炭素研究ネットワーク」等の共用装置の活用等により効率的にプロジェクトが推進される。
(単位:千円)
年度 | 平成23年度(初年度) | 平成24年度 | 平成25年度 | 平成26年度 | 平成27年度 | 総額 |
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予算額 | 419,367 | 416,474 | 345,847 | 300,887 | 270,889 | 1,753,464 |
(内訳) 東京大学 |
209,683 | 249,278 補正60,000を含む |
169,278 | 155,103 | 139,639 | 922,981 |
東北大学 | 209,683 | 167,196 | 176,569 | 145,784 | 131,250 | 830,482 |
低炭素社会の実現に向けた人材育成ネットワークの構築と先進環境材料・デバイス創製
グリーントライボ・イノベーション・ネットワーク
(平成28年8月現在)
大学発グリーンイノベーション創出事業「グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス」(GRENE)事業 先進環境材料分野(H23年度~H27年度)
本事業は、環境エネルギーに関する重要研究分野ごとに、国内の有力大学等が戦略的に連携し、研究目標や研究リソースを共有しながら当該分野における世界最高水準の研究と人材育成を総合的に推進するネットワークの構築を目指したものである。先進環境材料分野では、我が国の環境・エネルギー技術の国際競争力の維持・強化及び低炭素社会の実現に向けた技術的課題の解決に向け、「低炭素社会の実現に向けた人材育成ネットワークの構築と先進環境材料・デバイス創製」(代表機関:東京大学)及び「グリーントライボ・イノベーション・ネットワーク」(代表機関:東北大学)の2つの研究領域を実施した。
いずれの領域も大学・研究機関間でネットワークを構築し、研究開発及び人材育成の両面でこれまでにない革新的な研究領域の創出や新規の教育システムの構築が行われた。マネージメントに課題があった研究領域もあったが、事業全体としては、おおむね当初の目的と計画に沿った成果が得られたと評価できる。2領域の個別の達成状況及び各観点に関する事後評価結果は、以下のとおりである。
「先進環境材料・デバイス創製」領域では、5つの研究テーマ(省エネ照明、太陽電池、燃料電池、電力変換及び圧電発電)に関して、「材料創製」「構造解析」「微細加工」の3拠点連携の下に研究開発と人材育成が進められた。研究開発では、具体的なデバイス実証に至る優れた成果も認められる。また、4大学(東大、東工大、慶大、早大)コンソーシアムを活用した人材育成では、e-Learningによる遠隔教育や大学間での単位互換制度が整備された。しかし、中間評価時にも指摘されているが、低炭素社会実現に資するネットワーク型の研究開発と人材育成の観点において、本事業の趣旨を踏まえた適切な工夫及びマネージメントが不十分だったという点で、課題が残った。
「グリーントライボ」領域では、「トライボロジー」というコア技術の課題解決に向け、参画した8機関11グループを一つに良くまとめて、強固なネットワーク体制を構築した。その結果、研究開発における連携と人材育成の強化が格段に推進され、ネットワーク・オブ・エクセレンスと呼ぶにふさわしい世界最高水準のトライボロジーに関する研究成果と人材育成が達成できたと評価できる。
地球温暖化が深刻な問題となっている中で、低炭素社会の実現に向けた技術的課題の解決が急務となっている。これまで、この課題解決に向けた様々な取組がなされてきたが、大学・研究機関等の限られた研究資源に鑑みると、個別に課題解決に取り組むのは非効率であり、限界がある。課題解決を急速に推進するためには、知の拠点である大学・研究機関等が有する多様なポテンシャルを最大限に活用した材料開発と人材育成を一体的に推進するネットワーク体制を構築する必要がある。「先進環境材料・デバイス創製」及び「グリーントライボ」領域で対象とした研究テーマ及びネットワーク形成型の研究開発と人材育成に関する取組については、一部で事業運営に課題が残る領域もあったが、前述のとおり、ネットワーク体制の構築を通じてCO2削減に寄与する材料や技術開発で一定の成果を上げており、政策として取り組む必要性は非常に高かった。
いずれの領域でも、参画機関の強みを生かすネットワーク体制の整備を進めた。相乗効果を実現するための体制強化に向けた取組で課題が残る領域もあったが、いずれの領域も連携の下に研究開発を推進し、一定の成果が認められており、低炭素社会を実現する上で本事業の有効性は高かった。
「先進環境材料・デバイス創製」領域では、低炭素社会を実現する上で有効な5つのエネルギー変換材料のデバイス化に取り組んだ。一部の研究テーマでは、材料創製、構造解析、微細加工という3つの拠点連携により個々が有する知識基盤の活用を図り、低コストの新規蛍光体や世界初のインバータ回路のデバイス実証にまで至る優れた成果が得られており、ネットワーク型研究開発の有効性は高かったと言える。一方、連携研究を実施したことによる相乗効果が必ずしも認められない研究テーマも複数あり、全体的に既存テーマをまとめただけにように見受けられることから、更なる連携強化に向けた体制の構築に、一層の工夫が必要であった。
「グリーントライボ」領域の摩擦現象は、自動車、産業機械等の効率性に寄与する現象であり、CO2削減に向けた取組として有効性が高かった。本領域では、界面超潤滑による低摩擦技術に焦点をおいて、化学・材料・機械にわたる異分野間の融合研究ネットワーク体制が強力に構築され、低炭素社会に貢献できる革新的な学問領域を創出したと評価できる。特に、計算科学の積極的な導入により、従来経験則に基づいて構築されてきたトライボロジー研究において、ナノレベルでその本質を解明する試みがなされた。その結果、基礎から応用に至る革新的トライボロジー研究が行われており、融合研究ネットワークの有効性が認められる。
いずれの領域も、有識者からなる運営委員会や代表機関のマネージメントにより、ネットワーク体制の整備、研究開発と人材育成の推進が図られた。ただし、低炭素社会実現に資する応用に向けた企業連携や人材育成の取組等に関して、マネージメントの一部に課題も見受けられる領域もあった。
「先進環境材料・デバイス創製」領域では、研究開発においては、5年間でデバイス実装まで至った点では評価できるが、連携による相互補完から得られた融合研究の成果や、産業界との連携は必ずしも十分とは言えない。また、人材育成では、分野横断的遠隔授業や単位互換に関する制度自体は効率性が高く、評価できる。しかし、研究と人材育成事業が個別に実施されたように見受けられ、連動した運営が十分でなく、当該分野の若手研究者の育成には十分生かし切れていない。低炭素社会実現に向けた研究開発と人材育成の両面において、双方が連動する運営体制の構築に対してマネージメントの工夫が必要だった。
「グリーントライボ」領域では、異なる研究分野間の対話と協力が進展し、各機関の得意とする研究領域を生かす研究開発の取組を行っており、ネットワークを効率的に機能させる適切なマネージメント体制が築かれていた。特に、人材育成では、研究開発と一体的に推進した結果、トライボロジー分野の若手研究者にキャリアパスの場を提供し、5年の事業期間で大きな成果が認められる。具体的には、インターンシップや技術講習会等の様々なプログラムが実施され、ネットワーク全体のレベルアップに資するマネージメントが効率的に行われた。
いずれの領域でも、デバイス実証や実機応用など、今後の事業展開で期待できる成果が認められる。また、人材育成では、共通教材や講義等の整備を通して、研究機関間のネットワークが構築され、低炭素社会実現の観点から我が国の国際競争力を支える優れた若手研究者も輩出されており、一定の成果が認められる。
「先進環境材料・デバイス創製」領域では、「材料創製」「構造解析」「微細加工」の3拠点の連携の下、CO2削減に貢献する高効率省エネルギーデバイスの実証に至っており、個々の研究テーマにおいては優れた成果が得られた。具体的には、従来材料に比べて資源的に優れたセリウム(Ce)を用いた高演色の蛍光体の開発や、寸法換算で最高電流値のダイヤモンド電界効果トランジスタ及び世界初のダイヤモンド論理インバータ回路の開発に成功した。人材育成では、遠隔教育システムや大学間の単位互換制度が整備され、実施された点は評価できる。
「グリーントライボ」領域では、研究・人材育成の両面において、最先端の研究と人材育成を一体的に推進しており、ネットワーク形成による明瞭な成果が得られた点で高く評価できる。研究開発では、化学・材料・機械にわたる異分野ネットワークを通じた学際研究が展開され、低摩擦ゲルやポリマーブラシ等のソフト材料及び低摩擦ZnOコーティング技術の開発に至った。低摩擦化を実現するこれらの成果は、自動車や産業機械等におけるCO2削減に寄与する技術であり、トライボロジー研究に革新的な成果を上げたと評価できる。人材育成では、若手に広範囲の交流の場を提供し、異分野融合を行う人材育成に真摯に取り組み、国際競争力を支える優秀な人材の輩出という目標を十分達成できたものと評価できる。特に、企業・研究機関への就職率や進学率の向上が認められ、トライボロジー分野の若手研究者のキャリアパスにも貢献しており、達成度は十分と言える。
いずれの領域でも、研究・人材育成の両面において、事業を通して構築したネットワークを維持・発展させる今後の展開を期待したい。
「先進環境材料・デバイス創製」領域では、ネットワークとしての連携効果や相乗効果が十分に発揮されたとは言えないことから、今後、更なるの拠点間の研究連携及び人材育成が望まれる。研究に関しては、未達成部分の研究開発への取組、共同研究体制の維持や他事業への展開に加え、産業界との連携に着手することが望まれ、継続性・拡張性の観点での改善を期待する。人材育成に関しては、構築した社会人向けの教育システムや遠隔教育システム、単位互換制度の継続が望まれ、産学連携をベースとした運用などの検討を期待する。
「グリーントライボ」領域の成果の一部は、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「革新的燃焼技術」、戦略的創造研究推進事業(ACCEL)「濃厚ポリマーブラシのレジリエンシー強化とトライボロジー応用」などに引き継がれている。これらの後継事業でも研究・人材育成の両面で更に人的ネットワークを維持・発展させ、国際競争力を発揮する人材育成とネットワークの発展的な構築を期待する。
研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付