3.各研究機関における推進体制と方策

(1)大学のポテンシャルを最大限発揮する体制の構築

  • 分野や組織を超えた新たな知へ挑戦するため、高等教育政策とも連携し、専門分野の異なる研究者の交流に係るファンディングや評価等のインセンティブの設定を進め、部局の壁を打破した教育研究環境を構築することが重要である。
  • ナノテクノロジー・材料科学技術は分野横断的であるため、一つの専門分野に加えて、広範な分野の基礎的素養を身に付け、俯瞰的視野を持った上で研究を推進できる人材を育成することが重要であり、分野や組織を超えた体系的な教育プログラムを構築することが必要である。また、研究経験を有する社会人に向けた、多様なバックグラウンドの研究者が集い、互いの専門分野を超えた高度な知識や課題解決能力を修得するための博士課程教育プログラムの充実が求められる。
  • 産業界の課題や戦略について学術界も交えて議論するラウンドテーブルの設定や、学術界から産業界への人材流動が比較的少数である現状を踏まえた双方向の人材交流の活性化等、新たな価値を創造する研究推進体制の構築が必要である。
  • 日本学術会議におけるロードマップや大型研究計画に係る提言や学協会の壁を超えた議論等を通じ、研究推進方策の方向性を学術界から発信し、産学官における議論へと繋ぐことが重要である。
  • 海外での研究経験のある学生の育成や、海外からの留学生の卒業・修了後の我が国での活躍を促進する仕組みの構築等、グローバルな視点での人材育成・確保の取組が必要である。
  • グローバル社会におけるボーダーレスな研究開発の実践に向け、国内外においてネットワーク型で研究を推進することも重要である。その際、行き過ぎた自前主義に陥らず、例えば、総合力として秀でる研究大学とオンリーワン技術を有する地方大学の連携等、ポテンシャルが高い機関同士の連携や互いの機関の強みを補完しあう連携が期待される。

(2)研究開発法人を核としたイノベーションハブの構築

 我が国における物質・材料研究の中核的研究機関である独立行政法人物質・材料研究機構が、産学官一丸となったオールジャパン体制の構築により社会的課題や産業界の課題を科学的に深堀りし、その解決に向けた技術シーズを絶えず生み出し、課題の解決に貢献する「イノベーションハブ」へと進化することが重要である。同機構が有する研究シーズ、人材、先端研究設備等の高いポテンシャルを産学官で最大限活用する体制を構築し、我が国のナノテクノロジー・材料科学技術全体のハブとして機能することが期待される。

  • イノベーションハブにおいては、研究テーマに応じた適切な知的財産管理の下、オープンイノベーションによる基礎研究及び人材育成を徹底し、クローズドな実用化研究への展開を生む技術シーズを創出する。その際、様々な分野の国内外の優秀な人材を惹きつけ、セレンディピティを生み出しやすい多様性を確保した環境を構築しつつ、個々人の専門分野を超えた異分野融合・技術融合が推進される、産学官いずれにも魅力あるものとすることが重要である。
  • 我が国の各地の中核的大学や共同研究拠点から創出される新たな研究・技術シーズや卓越した若手研究者等のポテンシャルをネットワーク化することにより、オールジャパン体制でのイノベーションハブとしての機能を確立し、産学官協働により、世界に冠たる研究拠点に伍するイノベーションハブを構築することが重要である。
  • 産学官の材料研究者に加え、異分野の研究者も含めた国内外の優秀な人材を結集したハブとするため、クロスアポイントメント制度や年俸制の導入等、制度的な整備を早急に進め、重点的研究分野をリードする研究者の配置にクロスアポイントメントを積極的に活用することが必要である。
  • 産学官の英知の結集により、構造材料研究、機能性材料研究に加え、材料データ群の徹底した計算機解析による、情報科学と材料科学を融合した新たなデータ駆動型の材料設計技術(マテリアルズ・インフォマティクス)の確立に向けた取組を推進し、先端的研究を展開する。その際、人材育成や先端研究設備の共用、材料データ等の情報集約・発信等、我が国の研究基盤としての機能も整備することが重要である。

(3)関係機関の総力をあげた推進体制の構築

  • 大学等の機関が有する最先端の研究機器を広く産学官で共用することを目的とするナノテクノロジープラットフォームの取組は、日本各地でイノベーション創出に向けた強固な研究基盤を形成するとともに、地方のものづくり産業の基盤ともなる非常に重要な取組である。大学共同利用機関法人や共同利用・共同研究拠点、SPring-8やスパコン「京」等の大型共用研究施設・設備や地方が有する比較的小型のシンクロトロン等、他の共用のフレームワークも積極的に活用し、研究資金を効果的・効率的に活用した研究開発が実施されることが期待される。また、共用の推進にあたっては、ナノテクノロジープラットフォームをはじめとした先行モデルを参考にしつつ、優れた技術支援者の育成・確保及びそのキャリアパスの構築が必要である。
  • 産学官の力を結集し、次世代の人材を育成する取組(技術者研修や、初等・中等・高等教育との縦型連携策)や、人材交流等の活性化が必要である。その際、卓越した研究者の育成に加え、システムや産業応用までを視野に入れつつ組織的・戦略的に研究プロジェクトを統括できるプログラムマネージャーの育成に向けた人材育成方策も検討されるべきである。
  • 学術界の先端的な研究成果を社会実装に向けて研究者自らが主体となって挑戦をする意識の醸成に向けた環境整備が重要である。具体的には、学術界に留まることなく、共同研究や、事業化に向けた成果展開の起業による取組等が円滑に行われるよう環境整備を行うことが必要である。
  • 総合科学技術・イノベーション会議の主導により戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)が始動する等、府省連携の取組が進んでおり、同プログラムにおいては「革新的構造材料」や「次世代パワーエレクトロニクス」、「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」等、ナノテクノロジー・材料科学技術に深く関係する研究課題も設定されている。関係各省が所管する施策についても、府省の枠を超えて有機的な連携が可能となる仕組みづくりが期待される。

お問合せ先

研究振興局参事官付