1.ナノテクノロジー・材料科学技術を巡る現状認識

(1)ナノテクノロジー・材料科学技術が果たす役割

 ナノテクノロジー・材料科学技術は、資源・エネルギー制約等の問題や、社会インフラの老朽化対策等の社会的課題の解決に資する鍵として、大きな期待を背負う国家基盤技術であるとともに、エレクトロニクスや自動車、ロボット等の我が国の基幹産業を支える要であり、高い国際競争力を有している。
 また、広範で多様な研究領域・応用分野を支える基盤であり、その横串的な性格から、異分野融合・技術融合により不連続なイノベーションをもたらす鍵として、科学技術の発展に向けた新たな可能性を切り拓き、先導する役割を担っている。

 加えて、近年、地球規模のシェールガス革命の進展、安全保障問題の顕在化や世界に先駆けた再生医療の実現とその発展への期待等社会的課題が多様化する中、分野横断的な基盤技術としてこれら新たな課題の解決に資するツールとなる役割が期待される。
 また、ビッグデータやIoT(Internet of Things)、Converging Technologyの台頭といった経済社会の新たな潮流を踏まえた革新が期待される。

 ナノテクノロジー・材料科学技術は、第2期及び第3期の科学技術基本計画において重点推進分野として位置付けられ、第4期科学技術基本計画の期間においても社会的課題の解決に向けた研究開発の基盤を支えてきた一方で、その重要性に比し、第4期における計画上の位置付けは不明瞭であった。
 本年6月に閣議決定された「科学技術イノベーション総合戦略2014」において、ナノテクノロジーが、産業競争力を強化し政策課題を解決するための分野横断的技術として重要な役割を果たす旨明記されており、第5期科学技術基本計画においても、科学技術政策体系における位置付けを明確にした上で一層の強化を図ることが求められる。

(2)グローバル社会における各国の戦略及び動向

 グローバル社会において、新興国の台頭により世界が多極化し、また、研究開発競争が激化する中で、ナノテクノロジー・材料科学技術に係る近年の特筆すべき各国の戦略及び動向は概ね以下のとおりであり、今後もその動向を注視していく必要がある。

  • 欧米を中心に官民による重点的投資が過去10数年に渡り継続的に行われており、特に米国のANT(Albany Nanotech)、仏国のMINATEC(Micro and Nanotechnologies Campus)等、技術と人材をグローバルに吸引する大規模な集中拠点化を官とともに産学が牽引している。
  • 中国、韓国等アジア各国におけるナノテクノロジーの国家イニシアティブ化に伴い、政府投資が劇的に増大し、研究開発人材及び技術も台頭してきている。
  • 米国では、社会の共通課題解決のため、基礎研究から実用化に至る期間を半分に短縮することを目指し、計算科学やITの活用に着目した国家計画として「マテリアル・ゲノム・イニシアティブ」を開始した。
  • 各国とも研究開発投資の効率の最大化を企図し、研究成果創出のスピードを加速するため先端共用施設のネットワーク化を推進している。
  • 欧米亜共に、産業化・実用化を見据えた国際標準化戦略、環境・健康・安全面(EHS:Environment, Health and Safety)の課題や倫理的・法的・社会的問題(ELSI:Ethical, Legal and Social Issues)に係る対策・体制構築を、研究開発の初期段階から官主導で推進している。

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