参考資料1 ナノテクノロジー・材料科学技術の今後の推進方策について(検討経過報告)

ナノテクノロジー・材料科学技術委員会
平成26年10月

1.ナノテクノロジー・材料科学技術を巡る現状認識

(1)ナノテクノロジー・材料科学技術が果たす役割

  • 資源、エネルギーの制約等の問題や、社会インフラの老朽化対策等の社会的課題の解決に資する鍵として、大きな期待を背負う国家基盤技術である。
  • シェールガス革命、再生医療、安全保障など地球規模課題の多様化の中で、分野横断的な基盤技術として新たな役割が期待される。
  • エレクトロニクスや自動車、ロボット等の我が国の基幹産業を支える要として、高い国際競争力を有している。
  • 複数の応用分野に対する横串的役割を果たし、異分野融合・技術融合により不連続なイノベーションをもたらす。
  • ビッグデータ、IoT(Internet of Things)、Converging Technologyといった社会・産業の新たな潮流を踏まえた革新が期待される。
  • 科学技術の発展に向けて、新たな可能性を切り拓き、先導する。
  • 複数の領域に横断的に用いられ、広範かつ多様な技術分野を支える基盤的な役割を果たす。
  • 第2期、第3期での科学技術基本計画において重点推進分野として位置付けられ、その成果は第4期科学技術基本計画の下でも、社会的課題の解決に向けた研究開発の基盤を支えてきた一方で、その重要性に比し第4期における位置付けは不明瞭であったため、第5期では科学技術政策体系における位置付けを明確にした上で一層の強化を図るべき。

(2)グローバル社会における各国の戦略と動向

  • 欧米を中心に官民による重点的投資が過去10数年にわたって継続的に行われており、特に米国のANT(Albany Nanotech)、仏国のMINATEC(Micro and Nanotechnologies Campus)等、大規模な集中拠点化を官とともに産学が牽引することで、技術と人材をグローバルに吸引する大規模投資を推進。
  • 中国、韓国等アジア各国におけるナノテクの国家イニシアティブ化に伴い政府投資が劇的に増大し、研究開発人材・技術も台頭。
  • 米国では、社会の共通課題解決のため、基礎から実用に至る期間を半分に短縮することを目指し、計算科学やITの活用に着目する国家計画として、「マテリアル・ゲノム・イニシアティブ」を開始。
  • 各国とも投資効率の最大化を企図し、成果創出のスピードを速める先端共用施設のネットワーク化を推進。
  • 欧米亜共に、産業化・実用化を見据えたナノテク・材料の国際標準化戦略・EHS・ELSI対策・体制構築を、研究開発の初期段階から官主導で推進。

2.ナノテクノロジー・材料科学技術の推進方策

(1)圧倒的な広がりのある基礎的、基盤的研究としての振興

  • ナノテクノロジー・材料科学技術は、情報通信、環境、ライフサイエンス等広範な分野の先端を切り拓くために必須であり、その広がりを意識した研究振興方策を取るべき。
  • アジア諸国の追い上げ等国際的な研究開発競争が激化する中、基礎的、基盤的な研究を推進し、新たな指導原理に基づく材料開発により世界をリードし続けることが重要。
  • 全く新たな機能を持つ材料や、新たな応用先の提案など、材料機能からシステムを提案することが、非連続なイノベーションを創出する鍵セレンディピティを生み出しやすい環境を整えることが重要
  • 分野横断的な、横串的役割を果たすという特徴を活かし、異分野融合研究を触発することで全く新しいイノベーションを創出するための仕組みを設けることが重要。その際には、若手研究者のフレキシブルな発想・能力を十分に活用することが肝要。

(2)我が国の強みを伸ばす研究開発戦略の重視

  • 我が国が高いシェアを誇る材料を生み出してきた機能性材料研究においては、革新的な機能を実現する材料の創製のために、機能に着目しつつ材料横断的に研究を推進することが重要。
  • 構造材料研究においては、社会インフラの老朽化対策のための高機能な新規材料の創製に加えて、点検診断技術・補修技術・劣化予測技術等とパッケージにしたインフラ維持管理マネジメントシステムの構築への期待等を念頭に置いた、総合的なアプローチが必要。
  • 昨今の計算機性能の飛躍的向上と国際的な材料開発競争の激化を受け、材料データ群の徹底した計算機解析による、情報科学と材料科学を融合した新たな材料設計手法(マテリアルズ・インフォマティクス)を確立し、未知なる革新的機能を有する材料の開発を加速することが期待される。併せて、豊富な計算機資源により普遍化されたシミュレーション等も積極的に活用することが肝要。
  • 希少元素を巡る市場動向や産出国の政治動向等を見極めつつ、希少元素を全く用いないことのみを至上主義とせず、あらゆる元素の無限の組合せの中から未知なる革新的機能を探索したうえで汎用元素への代替を図る新たな政策アプローチも検討されるべき。

(3)「基礎から応用へ」、「応用から基礎へ」の循環

  • 基礎から応用、開発、さらに事業化、実用化の各段階へ一方向にのみ進むのではなく、問題の本質への理解の深化等を通じ、各段階での課題が基礎研究への課題へと翻訳され、基礎研究に立ち戻るような「循環研究」が行われることが、課題の解決とサイエンスの発展の双方にとって重要。
  • 循環研究を推進できる人材を育成するため、グローバルな環境や、大学内の学部の壁を取り払った、異分野が融合した環境によりクリエイティブな能力を養う必要がある。
  • 将来にわたる国際競争力強化のための戦略作りを産学官総がかりで実施するとともに、プロジェクトの初期段階・企画段階から産学官が膝詰めで議論・協働を行うことが重要。フォワードキャンスティングなアプローチであるシーズ側からの応用提案と、バックキャスティングであるニーズ側から材料性能提案を摺り合わせ、プロジェクト立案及び研究チーム編成をすることが、新たなイノベーションを創出する鍵である。両サイドのコミュニケーション頻度を上げるべき。
  • 実用化・応用の上では欠かせないナノテク・材料の国際標準化戦略をはじめ、環境・安全・健康(EHS)や倫理的・法的・社会的問題(ELSI)対策の取り組み、国際対応の体制構築を、研究開発の初期段階から並行して推進することが重要。
  • 研究開発法人の有する強みを生かし、産学官の英知が結集するイノベーションハブを形成することが重要。特に、材料研究においては、イノベーションハブにおいてオープンイノベーションによる基礎研究・人材育成を徹底し、ハブに持ち込まれる課題の解決に向けて一丸となり、絶えず技術シーズを生み出すことが期待される。多様な分野の国内外の優秀な人材を惹きつけ、個々人の専門分野を超えた異分野融合・技術融合が推進される、産学官いずれにも魅力あるハブとすることが重要。

(4)関係機関の総力をあげた推進体制の構築

  • グローバル社会におけるボーダーレスな研究開発の実践に向け、国内外においてネットワーク型で研究を推進することも重要。行き過ぎた自前主義に陥らず、ポテンシャルが高い機関同士の連携や互いの機関の強みを補完しあう連携が期待される。
  • 分野や組織を超えた新たな知への挑戦を目指すため、高等教育政策とも連携し、分野や専門の異なる研究者の交流に係るファンディングや評価等のインセンティブの設定が重要。特に大学から民間企業への人材流動が比較的少数であるとの現状を踏まえ、学術界と産業界の双方向の人材交流を活性化することにより、新たな価値を創造する研究推進体制の構築が必要。また、大学においても部局の壁を打破した連携体制の構築や、産業界の課題に対する解決方策を理学部が示すなどの新たな取組を推進することが重要。
  • 大学等の機関が有する最先端の研究機器を広く産学官で共用することを目的とするナノテクノロジープラットフォームの取組は、地方を含めた日本各地で、イノベーション創出に向けた強固な研究基盤を形成する非常に重要な取組である。大学共同利用機関法人や共同利用・共同研究拠点、SPring-8やスパコン「京」等の大型共用研究施設・設備など、他の共用のフレームワークも積極的に活用し、研究資金を効果的・効率的に活用した研究開発が実施されることが期待される。
  • 産学官の力を結集し、次世代の人材を育成する取組(技術者研修や、初等・中等・高等教育との縦型連携策)や、人材交流等の活性化が必要。
  • 総合科学技術・イノベーション会議の主導により戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)が始動するなど、府省連携の取組が進んでいる。関係各省が所管する施策についても、府省の枠を超えて有機的な連携が可能となる仕組みづくりが期待される。

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ナノテクノロジー・材料企画・機構係

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