第4期ナノテクノロジー・材料委員会(第10回) 議事録

1.日時

平成20年7月3日(木曜日) 13時~17時

2.場所

文部科学省 16階 特別会議室

3.出席者

委員

 榊主査、井上委員、魚崎委員、潮田委員、遠藤委員、長我部委員、片岡委員、岸委員、北澤委員、栗原委員、小長井委員、玉尾委員、横山委員

文部科学省

 高橋ナノテクノロジー・材料開発推進室長、下岡室長補佐、阿部調査員他

オブザーバー

(委員外)
 澤岡プログラムディレクター(JST)、中山プログラムオフィサー(JST)、堂免教授(東京大学)、石原教授(九州大学)、小関教授(東京大学)

4.議事録

【榊主査】
 予定の時刻がまいりましたので、会議を始めさせていただきたいと思います。毎回ですが、ご多忙のところお集まりいただきまして、ありがとうございました。
 まず、事務局から委員の出欠とお手元の資料の確認をお願いいたします。

【高橋室長】
 それでは、きょうの委員の先生方のご出欠について確認させていただきます。きょう、ご欠席は大泊先生、岡野先生、川合先生、竹山先生、田島先生、田中先生、それから、樽茶先生でございます。今、まだ着席されていない先生も追っつけご到着の予定ということでございます。
 それでは、資料の確認をいたしたいと思います。テーブルの上に資料があると思いますが、1枚目、議事次第ということでございまして、本日の議事、中間評価などについての議事次第がございます。
 それから、資料1が第9回の議事録でございます。
 次は資料2ということで、A4の横のカラーのものがございますが、本日、評価していただきます課題3件の概要をまとめたものと、最後の4ページ目は、本日評価いたします3件のプロジェクトについての予算配分の推移の一覧でございます。
 次が資料3でございます。これは本日評価いたします堂免先生の触媒の研究プロジェクトについての資料がクリップでとめられているものでございます。
 次が資料4、これは石原先生のプロジェクトについての一連の資料がとじてございます。
 次が資料5、小関先生の資料でございます。
 続きまして、資料6でございますけれども、これはA4横のパワーポイントでございますけれども、総合科学技術会議のナノテクノロジー・材料プロジェクトチームでの配付資料でございます。
 最後が資料7ということでございまして、元素戦略の応募状況についての資料でございます。
 以上でございます。

【榊主査】
 ありがとうございました。
 何か欠落があればご指摘いただきたいと思いますが、よろしいですか。
 それでは、まず第9回、前回の本委員会の議事録につきまして、資料1で配付いたしましたものにつきまして、点検をいただきまして、修正の必要がある場合には、7月11日までに事務局にご連絡をいただくようにお願いいたしたいと思います。
 それでは、早速議事に入りたいと思いますが、その前に何かご発言ありますでしょうか。よろしいですか。
 それでは、議題の1ということで、キーテクノロジー事業の中間評価の議事に入りたいと思います。前回の会議ではリーディング・プロジェクトの事後評価を 5件のプロジェクトについてヒアリングを実施いたしました。皆様に評価票を書いていただいて、現在、事務局において取りまとめをしているという段階であります。本日は、今度はキーテクノロジー事業の3件の中間評価を行うということであります。前回も申し上げましたけれども、当委員会は研究計画・評価分科会に属しておりまして、本日の評価結果はこの研究計画・評価分科会に報告することになっております。
 それでは、まず最初に評価の進め方につきまして、事務局からご説明をお願いいたしたいと思います。よろしくお願いします。

【高橋室長】
 それでは、ご説明申し上げます。本日は、今、主査からお話がございましたとおり、キーテクノロジーの課題3件につきましての中間評価を行うことになってございます。前回行いましたのは事後評価ということでございまして、今回は中間評価であるということを踏まえて、評価の進め方についても若干工夫をしてまいりたいと考えております。
 具体的には、中間評価でございますので、これから先まだプロジェクトが進行するということが考えられるわけでございまして、今後、プロジェクトを進めていく上での進め方、基本的な指針について当委員会から具体的な明確なメッセージをプロジェクトの側に出していくということが中間評価においては非常に重要なのではないかと思っております。もちろん、今まで上がった成果について評価するという側面もあるかと思うのですが、むしろポジティブに前向きに考えて、今後、このプロジェクトをどう進めていくことが最も適切で望ましいのかというような観点から、しっかりと議論をしていただければと考えてございます。
 それで、本日はそういったことを踏まえまして、若干ヒアリングの進め方を前回とは変えてございます。まず、本日は3件のプロジェクトについて評価をお願いいたしますけれども、ヒアリングをお願いいたしますが、それぞれの先生方のプレゼンテーションの前に、まず、これらのキーテクノロジーのプロジェクトをフォローしていただいておりますPDの澤岡先生から、簡単に今まで先生がウォッチされてきた内容、そしてそこからどのようなプロジェクトの特徴があって課題があるのか、評価できる点などもあるかと思うのですけれども、澤岡PDのコメントを最初に短くいただきたいと思います。それを受けまして、研究代表者の先生からプレゼンテーションをお願いするということを考えてございます。
 資料を少し見ていただきたいと思いますが、例えばこの堂免先生の場合は資料3というものが、クリップどめのものが一連の資料になってございますけれども、この資料3をごらんいただきますと、いろいろな資料がついていますけれども、堂免先生はこの最後のほうについていますこのカラーのパワーポイントのスライド、これを用いてご説明になると思っております。このご説明を聞いていただくわけですが、実は私どものほうから、例えばこの2つ目のホチキスどめの A4横組みのこういうものをつけております。これは資料3の2つ目のホチキスどめの資料なのでございますけれども、これは堂免先生のほうにお願いしまして、プロジェクトの目標とその達成状況につきまして、簡単にまとめていただいた一覧表でございます。
 いずれにしましても、このパワーポイントのご説明、スライドでのご説明や、このA4の資料などにまとまっている内容を照らし合わせていただいて、プレゼンテーションを聞いていただきたいと思います。プレゼンテーションのほうは、おおよそ20分ぐらいを考えてございます。その後、質疑応答という時間を設けてございます。これは20分から25分程度の質疑応答を考えてございますが、その中でプレゼンテーションに関してのご質問もあるでしょうし、先ほどご紹介しましたこのお手元の資料、字の資料で若干読みにくい点もあるかと思いますけれども、これについてのご質問もあわせてしていただきまして、議論を深めていただきたいと思っております。
 研究代表者の方との質疑応答、意見交換が20分から25分、終わりました後に、今度は研究者の方にはご退室をいただきまして、委員会のこのメンバーの間で15分程度、プロジェクトの評価、また、今後の進め方についてご議論をいただくという時間を今回は設定させていただきました。この中でナノテク・材料委員会としてプロジェクトにどういうメッセージを出していくのかというようなことをご議論いただければと考えてございます。
 その後に評価票への記入ということでございまして、これはそれぞれのプロジェクトごとに、例えば資料3であれば最後にA3縦長で評価票というのをつけてございます。これは評価項目も非常に多岐にわたっておりますので、先生方のオフィスに戻られてからじっくりとお考えになっておつけいただいて、それを事務局のほうに7月16日までに送り返していただくという形でお願いしたいわけでございますが、お忙しい先生もいらっしゃいますでしょうし、それから、海外出張等、なかなかそういう時間がとれないというようなケースもあるかと思いますので、もしそういう場合には、本日、プレゼンテーションとその後の議論を参考にしていただいて、記入していただいて、帰り際に我々に提出していただくという形でも結構でございます。後から送っていただいても結構ですし、本日書いていただいても結構でございます。
 ヒアリングの進め方については、そのような形で考えてございますので、どうかよろしくお願いいたします。

【榊主査】
 ありがとうございました。
 進め方について、何かご意見、ご質問などありますでしょうか。よろしいですか。
 それでは、早速に第1のプロジェクトにつきまして進めたいと思います。ナノ環境機能触媒の開発につきまして、研究責任者の東京大学・堂免教授からご説明をいただくことになりますが、その前にPDとして研究をフォローしていただいております澤岡先生より、このプロジェクトについてのコメントをお願いします。よろしくお願いいたします。

【澤岡PD】
 皆さん、こんにちは。澤岡でございます。私、昨年、PD――プログラム・ディレクターという肩書をいただきまして、昨年の中間評価のときは、そのテーマが選ばれる過程ではまだほかに、外におりまして、選ばれた後にPDという仕事をいただきまして、プロジェクトとしてよい方向に運営されているかどうかというところを中心に全体の流れを少し離れたところからウォッチして、問題があるときはアドバイスするなり、いろいろ議論をするという役割であると理解しておりました。
 きょうの発表の3件につきましては、テーマの選考の過程から加えていただきましたので、立ち上がりのときから様子は知っておりましたが、触媒のテーマについては全く私の専門から遠いところにありまして、触媒の仕事というのは元来非常に職人的で、研究者のセンス、勘が非常に大事で、あとは人海作戦の仕事であるという非常に単純な認識しかございませんでしたが、いろいろ研究会に出て話を伺って、そういう面も確かにあるけれども、サイエンスとしても相当突っ込んだことをやっておられるんだということで、深入りすれば研究費については大型設備をどんどん、分析装置とか評価装置を買わなければいけないわけですが、また、お金がないときにはないなりに人海戦術でどんどん進んでいくプロジェクトでもあり、大変不思議な分野だなと思っております。
 そういう中で、本日、大変多岐にわたる内容をカバーしているわけなのですが、私としては、その中の幾つかは大変世界的にも誇れる成果がもう出ていると思いますが、ほんとうにこんなに多岐にわたって限られた予算で、このまま最後まで行っていいものかどうか、そのあたり、ご専門の先生からもっと絞り込めと。予算を削るという意味ではなくて、こことこことこの分野が有望だから、もっと絞り込めというようなお言葉がいただければ、それを盾に研究者の方には悪役をやろうと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。よろしくどうぞお願いいたします。

【榊主査】
 ありがとうございました。
 それでは、ヒアリングに入らせていただきたいと思います。どうぞ。お願いします。

【中山PO】
 1つだけ追加してよろしいですか。この採択時の経緯なのですが、触媒のプロジェクトは2年前に採択されたのですが、そのときに大きな予算で1件だったのですが、それで、堂免先生のところが4分の3ぐらいの予算で1つと、それで、もう一つ、4分の1ぐらいの予算で、次にここでプレゼンされます石原先生のところにお金が回ったという経緯があって、この堂免先生のほうは、プレゼンされますけれども、目立つのは水素製造のところが目立つんですけれども、実際に採択されたときにはそれだけではなくて、この触媒の環境・エネルギー関連触媒のポートフォリオをきちんとやるような感じでしっかり推進してほしいというような、そういう観点で選ばれておりますので、そういう感じでご審査のほどよろしくお願いできればと考えております。

【榊主査】
 ありがとうございました。
 ほかに何かご質問、コメントありますでしょうか。もしなければ、早速に堂免先生に入っていただくようにお願いしたいと思います。

(発表者入室)

【榊主査】
 それでは、本日はお忙しい中、お越しいただきましてありがとうございました。きょう、研究代表者である堂免先生からお話をいただくということですけれども、ご同行なさっている方は、きょうは特にありませんね。

【堂免教授】
 きょうは私1人です。

【榊主査】
 はい。わかりました。
 それでは、発表の内容でありますけれども、本日はご承知のとおり、中間評価のヒアリングですので、今までの研究成果をご紹介いただくと同時に、これからの進め方についての計画とか見込みについてもご説明をいただくようにお願いしたいということと、それから、時間のほうがトータルは20分ということで、終わる5分前に1鈴がなりまして、2分前に2鈴が鳴りますので、よろしくお願いしたいと思います。それでは、よろしくお願いいたします。

【堂免教授】
 それでは、私どもがやっております革新的環境・エネルギー触媒の開発というプロジェクトにつきましてご説明させていただきます。
 本プロジェクトは、主にここにございます3つの研究課題から成り立っております。1つはクリーンな水素を製造するエネルギー変換型光触媒、これは長期のターゲットでございまして、本プロジェクト終了後、約10から15年後に実用化のめどをつけるというものでございます。2つ目は酸素・過酸化水素を酸化剤とする選択酸化触媒、これは中期のターゲットでございまして、プロジェクト終了後、5年の程度をめどに実用化を図るというものでございます。3つ目は硫酸代替可能な固体酸触媒と新規ゼオライト触媒プロセスの開発というものでございまして、これは短期のターゲットでございまして、プロジェクト終了時にある程度実用化のめどを立てようというものでございます。
 このグループにつきましては細かいことはご説明いたしませんけれども、このそれぞれのグループにおきまして大学側、さらに産業側がペアになって研究を展開しております。さらにこれら3つのグループが密に連絡するために研究連絡会を年2回ほど開催し、さらに日常的にディスカッションしながら共同研究等を行っております。
 初めに、この最初のプロジェクトにつきましてご説明いたします。本研究課題は、最初、私どもが開発いたしましたガリウムナイトライド、人工オキサイドと光触媒がございますけれども、この光触媒の効果・成果を主な目的にして研究を開始いたしました。どのようなものかと申しますと、ここにございますように、このような微粒子型の光触媒、光触媒材料をさらに細孔して水素及び酸素がこの粒子の上から生成してくるような、こういうものがございますけれども、これは水中に懸濁した状態で光を照射しますと、水素とか酸素が出てきます。これを太陽エネルギーと水だけからこのような反応を起こすことができると、この水素はクリーンで再生可能なエネルギー源となるというものでございます。
 ここに写真を示してございますが、この黄色い粉が我々が開発いたしました窒化ガリウム酸化亜鉛の固溶体光触媒でございます。SEM図をお見せいたしますと、ここにございますように、大体数百ナノメートルオーダーの微粒子から成った粉でございます。この光触媒の活性の向上を検討するために、ここにございますように固溶体の調製条件の改良、後処理による活性向上、さらには水素生成活性サイトの改良というような幾つかの検討を行いました。その中で幾つかご紹介いたしますと、後処理による向上ということでございますが、この触媒自体はアンモニア気流下で調製いたしますけれども、そのまま反応を行いますとこの程度の活性でございますが、その後、約500度で空気中で調製いたしますと、このように活性がある。さらに空気をN2O(一酸化二窒素)に変換して調製を行いますと、このように活性が上がるということがわかりました。
 さらに、水素生成サイトの改良についてでございますが、ここに少し写真で示してございますが、この下側が窒化ガリウム酸化亜鉛で、ここに今、約2ナノメートルのロジウムのナノ粒子と、その上を酸化クロムの粒子で覆って、こういうコアシェル型の構造をつくりますと、従来ありました光触媒活性よりもさらに高い活性が得られるというようなこともわかってまいりました。このようなことを総合いたしますと、本研究がスタートして2年弱でございますけれども、活性は約6倍に向上し、量子収率は5.1パーセントまで上がりました。
 ただ、ここで1つだけ訂正させていただきたいのですが、研究開発当初、我々は量子収率2.5パーセントで、活性を4倍に上げると量子収率が10パーセントまで上がるという目標を立てておりましたけれども、活性が6倍に上がって量子収率5.1パーセントでございますが、これは当初、実は光子数の見積もりにトラブルがございまして、光子の数を少なく見積もり過ぎておりまして、量子収率が多目に出ております。ですから、ここで最初の値をこの値に訂正、おわびさせていただきたいと思います。ただし、この時点でも、この光触媒の活性は現在世界最高活性を示していることは間違いございません。
 このような研究開発でこのテーマを推進していく過程で、さらに新しい研究テーマを追加していきました。と申しますのは、この材料自体が有効波長領域が約 500ナノメートル程度までですが、可視光を有効に使うため、より長波長側を使える材料の開発が必要だと判断したからです。その中で、ここでご説明します 2段階励起による水分解というものを使いますと、有効波長領域が600ナノメートル程度まで拡大できるということがわかりました。これは先ほどご説明しました光触媒、1つの光触媒上で水素と酸素が両方出てくる系でございますけれども、これを片方で酸素、片方で水素を出して、その2つをこのようなあいまいな IO3(三酸化ヨウ素)-のような酸化還元について結合してやることにより、反応全体を進行させる。光合成の2段階励起に似たようなシステムでございますが、このようなシステムを採用することといたしました。
 例えばここの場合は、我々が開発しておりますBaTaO2Nという材料を用いますと、これは670ナノメートルぐらいまで有効波長を吸収いたします。これを使いますと、ここにございますように水から水素と酸素が2対1できちんと出てまいりますので、水の分解ができるということになります。こういう方法を使いまして、幾つかの組み合わせを行った結果、これは先ほどの窒化ガリウム酸化亜鉛の吸収バンドでございますが、この2段階励起法によりますと、酸素の発生波長はTa3N5(窒化タンタル)という材料を用いますと600ナノメートル程度になる。さらに水素の生成側の光触媒の波長は、ここにございますようにほぼ670ナノメートル程度まで波長を伸ばすということができるようになりました。ということで、有効波長領域を600ナノメートル以上まで拡張するということが可能となりました。
 もう一つの新しいテーマといたしまして、タンデム型の光電気化学系への展開というのがございます。これは私が最初に申しましたように、このテーマはこの研究終了後、10から15年後に実用化のめどをつけるというものでございますが、一緒に共同研究しております三菱化学とのディスカッションを行った結果、 10から15年後だけではなくて、その手前でより近い時期にある程度実用化のめどが立つようなテーマを設定したほうが全体の研究もスムーズに進むではないかということで、このようなテーマを設定することにいたしました。すなわち、長期目標の中に中期目標を組み込もうということでございます。
 どのような系を始めたかといいますと、ここにございますタンデム型の光電気化学的水分解というシステムに我々の材料を適用することといたしました。これはスイスのグレッテル教授らが提案している、この部分で光電気化学電池をつくって、ここで水を水素と酸素に分解し、余った光を使って後ろ側にある太陽電池、この場合は湿式太陽電池でございますが、これでさらに電子を励起して、ここに一種のバイアスをかけてやるという方法でございます。この方法を使いますと、これまでに大体4パーセント程度の太陽エネルギー変換効率が得られております。私どもはこの部分につきまして、新規の光触媒材料を応用しようということを行っております。
 これはその中の1つの例でございますが、TaON(タンタルオキシナイトライド)、透明導電膜の上にこういう粉末を塗布したような比較的簡単につくれる電極でございますが、この赤い線を見ていただくとわかりますように、このような状態でもかなり高い高電流が得られているということがわかりつつございます。これは、この電極を使ったときのIPCEです。バイアスがかかった状態での量子収率と思っていただければよろしいかと思いますが、大体、銀塩化銀電極に対してゼロボルト、これはバイアスとして0.5ボルトぐらいかかった状態ですけれども、このとき可視光領域におきましてIPCEが既に10パーセントを超えるというような値が出ております。この件につきましては、今後さらに我々が持っております新たな材料をどんどん適用していこうと考えております。
 2つ目のテーマ、酸素・過酸化水素を酸化剤とする選択酸化触媒についてご説明いたします。このテーマは東京大学の水野先生のグループで行っているテーマでございますが、ここに示してございますこの複雑な無機酸化物のクラスタ、ポリオキソメタレートでございますが、これを触媒として用いましていろいろな化学反応をやらせようということです。このポリオキソメタレートは水野先生たちが独自に開発された新しい触媒材料でございます。反応のターゲットといたしましては、過酸化水素、これ、過酸化水素は分解しても水と酸素にしかならないクリーンな酸化剤でございますけれども、これを用いまして、ここにありますような有機物のエポキシをつくる。こういう材料は医農薬品の重要な中間体でございます。これの効率的で高活性な合成法を開発しようというのが研究の目的でございます。
 水野先生たちは、このいろいろな反応条件、さらに配位子等を検討いたしまして、字が小さくて申しわけございませんが、ここにございますように既に80 パーセント以上を超える収率でこのような物質を過酸化水素と基質が1対1の条件で達成しております。これは中期目標、50パーセントをこの時点で超えております。さらにもう一つの目標は、ここで使っております触媒がポリオキソメタレートは均一系の触媒でございますので、反応後に分離生成という問題がございますが、それをもし固体化できればこの問題は解決します。ということで、固体を行ったわけですが、ここにありますような配位子を選択することによりまして、ミクロ孔を有したような形状選択性を有するこのような固体化に成功しております。
 このときにもう一つ副産物といたしまして、1活性点あたりの活性が均一系にあるときよりも、こちらのほうが約5倍程度高くなったということも見出しております。今後この研究の目標は、活性は上がってきたんですけれども、まだ実用化するためには、今現在、反応にもよりますけれども、ターンノーバー、大体 100程度ですけれども、これを700程度まで上げるというのが今後の研究開発課題となっております。
 また、このプロジェクトは日本触媒も一緒に研究を行っているわけですけれども、日本触媒は、ここでできますこの触媒自身がかなり複雑な構造をしていますために値段が高いという問題がございますので、これを大量に安価につくるという方法の開発を行ってきました。これによりますと、従来はこの2段ステップで合成していたのですけれども、この1段階の直接合成に成功しております。その結果、ここにありますように収率が飛躍的に増大し、触媒のコストも大幅に下がったということになります。これも中期目標を達成しているということでございます。
 3つ目が硫酸代替可能な固体酸触媒と新規ゼオライト触媒プロセスということでございますけれども、初めに硫酸代替可能な固体酸、これは何かといいますと、東工大の原先生のグループで独自に開発しました炭素系の固体酸という非常にユニークな、従来の固体酸になかったような性質を持った固体酸がございます。これの応用を図ろうというものでございますが、当初、原先生のグループではここにございますように幾つかの細かい反応をいろいろ挙げて検討しようということでございましたが、ご承知のように、最近、バイオマスというものが非常に注目を集めております。それで、原先生のグループは、この炭素系固体酸の応用をインパクトの高いバイオマスの有効利用、特にセルロースの有効利用ということに特化して研究を展開しております。
 ここにございますように、セルロースを加水分解いたしますと単糖になりますけれども、ここから種々の化学品が合成できるということで、このステップは非常にキーになるステップでございます。原先生の炭素系固体酸、これはほとんどカーボンにスルホン基がついたような形の固体酸ですけれども、その上にはセルロースを入れて水が入っていますから、これを反応させてまた置きますと、カーボン系固体酸は下に沈殿しますが、セルロースは完全になくなっている。これは全部セルロースが加水分解したということを示しておりますが、こういう固体酸の活性を調べますと、従来、実用的に用いられておりました硫酸よりもカーボン系固体酸のほうが高い活性を示すということがおわかりいただけるかと思います。
 例えば実際に使われている材料、結晶性セルロースですとか、ユーカリ、麦わらを使ったときの硫酸を使ったときの活性がこの程度、こういうものでございますけれども、この炭素系固体酸を使いますと、すべての場合におきましてより高い活性が得られるということがわかってまいりました。このデータは既に学会のほうで発表しているのですが、このデータを使いまして、このデータをもとにして、今、国内の幾つかの企業がこのセルロースの分解にこのカーボン系固体酸を適用しようということで検討しております。また、共同研究先であります三菱化学も幾つかのカーボン系固体酸を使ったプロセスの検討を行っております。
 最後にゼオライトグループの研究課題でございますけれども、これは現在、化学工業の主要原料がエチレンからプロピレンへという非常に大きな変化をしております。このためにエチレンが供給過剰となってプロピレンの価格が高騰しているということになっておりますけれども、このエチレン、あるいは最近非常にたくさんつくられておりますバイオエタノール、これもC2含酸素化合物でございますが、これからC3のプロピレンを選択的に合成触媒ができれば、これは非常に工業的にメリットがあるプロセスとなります。この反応には以前からゼオライト触媒というものが有効であるということがわかっておりましたが、とても実用的なレベルではございませんでした。
 そこで辰巳グループは、このゼオライトの中のSSZ-13、こういう構造でございますけれども、あるいはUZM-5というゼオライトがこの反応に非常に有効な触媒であるということを見出すとともに、もともとゼオライトは珪素とアルミニウムの酸化物でございますけれども、この珪素、アルミニウムの比を制御する方法、あるいはアルミニウムのかわりにガリウムを導入する方法というのを新規に開発しました。このような知見を三菱化学のほうに移管しまして、三菱化学のほうで実際のプロセス、反応を検討しております。
 これは最初に大学から出た段階のゼオライトの活性はこのくらいでございますけれども、それを三菱化学のほうでさらに処理法A、B、C、この具体的なところはお出しできないのですけれども、A、B、Cという方法でやることによりまして、このように活性が上がっております。例えばエチレンの転化率60パーセントにおきまして、プロピレン収率が85パーセント程度という非常に高い値が既に得られつつございます。このような値は既にある程度、実用化をもう視野に入れるような段階まで来ております。三菱化学のほうでは、例えばエタノールを原料としましてプロピレンをつくるという、実機のプロセスフローの検討にも入っているという段階でございます。
 これが3つの研究課題でございますが、この本研究プロジェクトが採択されますときに、審査委員会のほうからこの3つのプロジェクトはできるだけ融合して、相乗効果が出るような形で研究を進めるというふうに指摘されておりました。それで、本プロジェクトは年2回、研究連絡会、これは非常に密にディスカッションを行いますけれども、年2回の研究連絡会と、それから、日ごろのディスカッションも非常に頻繁に行っております。その中から幾つかの共同研究のテーマが出てきております。
 この中で1つだけご説明させていただきますと、辰巳グループ、固体酸ゼオライトをつくっているグループが、ここにございますように非常に規則的に配列したシリカのナノ粒子をつくる方法を生み出しました。これを使ってさらにカーボンのレプリカを使って、この中に酸化物を入れてやることによって、最終的にこのような金属酸化物、これと非常に似たような構造の金属酸化物の微粒子をつくるということができるようになりました。これを具体的にお示ししますと、ここにございますように、これはTa2O5(五酸化タンタル)、あるいはTiO2(酸化チタン)という酸化物の微粒子ですけれども、この材料は実は我々が光触媒として使う材料に非常に似ております。
 ですから、この材料をさらに窒化してオキシナイトライド等にいたしますと、我々が使える材料になります。具体的にこの材料を窒素化した後のTaON(タンタルオキシナイトライド)の材料はこういうものでございますが、こういう材料を使いますと、従来、我々が使っておりました光触媒材料よりも粒径がはるかに小さいために、例えば電気化学的なアプリケーションをするときに非常に有効な触媒として働くのではないかと考えられます。今現在、こういうことで共同研究をして、お互いの材料をやりとりしながら研究を進めているという段階でございます。
 プロジェクト全体の進行状況を総括させていただきますと、この3つのプロジェクトともに、現在、最終目標に向けて新たな目標を設定して順調に研究を展開していると私自身は判断しております。一部の目標はほぼ達成できたようなものもございますし、あるいは一部の研究計画は、よりインパクトのある方向に修正しながら、今、順調に進んでいると考えております。
 また、グループ間の共同研究もスタートしまして、相乗効果も出始めていると考えております。きょうはお話しする時間がないのですけれども、本プロジェクト以外のグループとの共同研究も非常に活発に行われていて、こちらのほうも順調に進んでいると考えております。
 以上でございます。

【榊主査】
 ありがとうございました。
 それでは、皆様からご質問やコメントをいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。どうぞ。

【魚崎委員】
 私、そのときの審査委員の1人だったので、少しコメントも含めてしたいのですけれども、量子収率の問題ですけれども、そのときの最初のプロポーザルだと、中間評価までに10パーセント、最終段階で20パーセントを目指すということで、4倍にするとかいうことではなくて全体的な数字があったわけですけれども、今、中間評価の段階で5パーセントまで来たとして、最終段階はその最初のプロポーザル20パーセントを目指すのか、あるいはもう少し、最初の計算が間違えていたから最後も下がってしまうのかということを。

【堂免教授】
 これは非常にお恥ずかしい話なのですけれども、実は私、4年前に東工大から東大に移ったときにランプを買いまして、そのときに少しランプが我々の思っていた、購入したものと違うランプが入っていたというのが途中でわかったためにこういうことが起こったのですけれども、実際問題、私どもはもともとの活性、この活性を何倍まで上げられるかということを、一応、どういう軸を検討したかということをベースにして出しておりますので、量子収率の絶対値をこの段階でというよりは、むしろ今後、中間段階までにこれだけ上がって、今後どのぐらい活性が上げられるかという方向で、最終目標値は、許していただけるならば、目標値を――だから、活性を変えさせていただきたいと思っております。
 というのは、今の段階、ここまでこの窒化ガリウム酸化亜鉛、かなり絞り込んで活性の検討をしてきましたけれども、これをさらに上げるとすると、だんだん難しい領域に入ってくるということがございますので、ここからさらに4倍上げるというのはちょっと厳しいかなという気が、私としてはしております。

【魚崎委員】
 続けてよろしいですか。

【榊主査】
 どうぞ。

【魚崎委員】
 そのときも少し質問したと思うのですけれども、結局、最終的にはものすごいものができたとして、これは常に堂免先生に質問しているのですけれども、その希薄な水素と酸素の混合物が広い面積に薄くできるとして、それを使うものにするとしたら分離が必要だということで、そのときはそれは三菱化学の人と議論してということでしたけれども、きょうはその話は全然なかったんですけれども、その辺の最終的な姿を教えてください。

【堂免教授】
 その点につきましては、この研究開発当初、三菱化学の方が酸素の吸蔵材料に非常にいいのがありますよということで、これはイットリウム、バリウム、コバルト系のペロブスカイト材料なのですけれども、それは東工大の山内先生のほうにお願いして検討しておりました。ただ、検討の途中で、この材料は実は水素とか水が存在すると安定でないということがわかってきましたので、そちらの方向の検討は一応、この中期ぐらいまでで終了しようと思っています。
 今現在、考えているのは、予備の資料を出させていただいてよろしいでしょうか。膜分離のほうがかなり可能性があるということがわかってまいりましたので、そちらのほうを使って、今、これはこのプロジェクトの外にあるんですけれどもそういう、これは山口大学のキタ先生がおられるんですけれども、喜多先生のグループで膜を使って水素と酸素、水があっても大丈夫ですという、膜分離ができるということがございましたので、この膜分離の系を今検討しようということで、その辺のところを検討を始めていただいております。ですから、この炭素系の膜が特に非常に有望な膜だということで、最終的には私どもは、水素と酸素が一緒に出てくる。この光触媒系の場合には、膜を使って、出てきたところですぐに分離してしまうというのが一番いいのかなと考えています。
 先生が言われたように、非常に薄い面積に広げるというよりは、むしろある程度集光して、それでリアクターを持ってきておいて、そのリアクターの中で反応させて、出てきたやつを分離するというほうがいいのかもしれない。この辺は今現在、ディスカッション中でございますけれども、考えております。もう一つは、先生、当然お気づきと思いますけれども、最初から分離して出てきたほうがいいということがございますので、きょうご紹介しました3つ目のテーマ、光電気化学電池とタンデムになったシステムで、最初から分離して出そうというのも一緒に検討を始めようと考えております。

【榊主査】
 どうぞ。

【魚崎委員】
 最後にもう一つ、そのとき、先ほど少し触れられたように、この3つのサブテーマが単純な寄せ集めではないかというようなことも言われたかと思うのですけれども、特にこれ、タイトルがナノ環境触媒という中で、2番目のエポキシをつくるということの意義とか、今のものに比べてどうかとか、このナノ環境触媒という中の位置づけというのが、最初のと最後のと比べて少し薄いのかなと。

【堂免教授】
 この2つ目は水野先生がやっておられるテーマなのですけれども、今、ここに出ております反応は、医農薬品をつくる。今現在、酸化反応はほとんどが、例えばクロム酸を使うとかそういう、反応した後にかなり環境に有害な副生成物が出てまいります。今、ここでやっております反応は過酸化水素、究極的には酸素にしたいのですけれども、過酸化水素を酸化剤として使うということで、過酸化水素、最終的には水とあとは酸素、まあ、失敗しても酸素にしかなりませんから、環境に対して有害なものは出てこないということで、環境問題に対しては非常にインパクトのあるプロセスが組めると思います。
 もう一つは、量的な問題がございますけれども、非常にうまくいった場合には、これ、最終的に、例えばプロピレンからプロピレンオキサイドというプロセスに適用可能になるはずでございます。それは非常に大きなプロセスですので、そのときのインパクトというのもかなりあるということで、本プロジェクトの中に入っていただいております。

【榊主査】
 よろしいですか。ほかにいかがでしょうか。どうぞ。

【玉尾委員】
 今、出ている水野さんの酸化触媒、その採択時のことを僕は存じ上げないのですが、僕の理解では触媒そのものとしては、もう既にそれまでに開発されてきていたようにも思うのですが、このプロジェクトで新たに何か進展した点を強調していただけませんでしょうか。

【堂免教授】
 この触媒に関しましては、先生ご承知のように、ここで欠陥型のこの触媒がございまして、実際に反応がある程度行くということはわかっていたのですが、それの収率をさらに上げるということで、ここにありますようなこういう収率、99パーセント、八十何パーセント、選択率90、この辺の値がまだこの採択時には、こういう値に達しておりませんでした。

【玉尾委員】
 ああ、そうですか。

【堂免教授】
 それともう一つは、この触媒を実用化するためにはどうしても固定化ないしは固体化することが必要だということがわかっていたのですけれども、その時点でまだこれがうまくいっておりませんでした。採択時には、実はこういう形の固体化ではなくて、シリカの上にイオン液体みたいなものを固定化して、そこにこれを乗っけるということでやっていく。それもある程度うまくいったんですけれども、その後さらにこういう形で、実際に、これも触媒自体でミクロポアを持ったような構造をつくるということが成功しておりまして、この部分は全く新しく展開してきた部分でございます。

【玉尾委員】
 そうですか。はい。わかりました。
 もう一ついいでしょうか。後の原さんの炭素系固体酸触媒、これはその炭素系というのがどんなものかがあんまりきっちり……。

【堂免教授】
 すみません。時間がなくてさっとご説明したのですけれども、これはもともとは、例えば今現在、何からつくっているかというと、例えばセルロースですとか、お砂糖とか、あるいはもっと極端なことを言いますと硫酸ピッチという石油生成プロセスで出てくる廃棄物、あれに硫酸を一緒に混ぜ混みまして、それでイナダの雰囲気でだんだん煮ていきます。そうするとだんだん炭化が起こりまして、それで、中途半端に炭化した段階というのは、完全にグラファイトになる前の段階です。それは非常にたくさんスルホン基を持っております。
 これは非常にたくさん持っているのと、あと親水性と疎水性の部分が適度に混ざっておりまして、これを水の中に入れても、通常の固体酸は水の中に入れてしまうと、ほとんど活性はなくなるのですが、こいつは水の中に入れても非常に高い活性を持っているということで、最初は、この材料をバイオディーゼルの合成のところに使えるということで、1回、『Nature』に発表しております。ただ、もちろんこの固体酸は、そういう意味で非常に広い応用範囲を持っている固体酸ですので、ほかにもいろいろ応用展開しようということで、このプロジェクトの中に採択していただいたという経緯がございます。

【玉尾委員】
 その高活性になる理由は、今の一番の理由はどの点なんですか。

【堂免教授】
 高活性になる理由は、1つは原先生が、ある意味で非常に汚い材料なのですが、そこを今詳しく調べておりまして、1つはこのプロトンが普段は非常に表面積、外表面積、少ないのですが、実際に水の中に入っていきますと、水がこの中に入ってきて、これが膨潤してくる。その層空間の中にプロトンがたくさんいるところにリアクタントが入ってこれるものだから非常に強い酸強度の中で、普通の水の中なんですけれども、その層空間が非常に強い酸強度を保っているために、そこで強い酸触媒活性が出てくるというふうに、原先生は今のところご説明しているんですけれども。

【玉尾委員】
 でも、セルロースがそんなところに入りますか。

【堂免教授】
 いやいや、セルロースの場合は一部、接触して、今の場合、固体、固体反応なのですが、接触しているところから少しずつ、少しずつ分解していく。今、セルロースを分解する場合にはどういうふうにやっていく。固相反応で実際にはグルグルと回しながら、流動層みたいにして持っていきながら、その中で分解を進めていくということですね。ですから、完全に中に入る……。

【玉尾委員】
 ではない。

【堂免教授】
 ではなくて、その近くにある。原先生が1つはかっておられますが、この場合、こういうカーボン系の固体酸があったときに、このpH(ペーハー)メーター、これを中まで突っ込んだときと、それから、この表面、この近くに突っ込んだとき、pH(ペーハー)がずっと変わってきます。ですから、非常に pH(ペーハー)の強い領域にこのセルロースがやってきてくれれば、そこで分解が起こる。加水分解ができる。そのくらいの強度があるというふうに。これがほんとうに正しい説明かどうかはわからないですが、現時点では原先生のほうはそういうふうに説明されています。

【玉尾委員】
 局所的に非常に強い強酸の領域ができているのではないかと、そういうようなことですか。

【堂免教授】
 そうです。

【玉尾委員】
 どうもありがとうございます。

【榊主査】
 ほかにいかがでしょうか。どうぞ。

【遠藤委員】
 なかなか高確度のご研究をなさっていて、従来、よく知られている触媒の機能を高める。それから、今の固体酸、グラファイトのように新しい新規なども開拓されて、非常に高確度のいいお仕事をなさっていると思うのですけれども、1つ、今の玉尾先生のご質問と似ているんですけれども、そういった意味では新しいシーズを発見されたような部分も、今のご説明で感じているのですけれども、私たちカーボンの分野では、全部熱をかけて有機物を炭化してつくるというのが従来の手法なんですけれども、究極は試験管の中で炭素をつくるというのは、ずっと私たちの夢なんですね。

【堂免教授】
 はい。

【遠藤委員】
 このお仕事を初めて拝見したときに、何かそれに近い雰囲気を。もともとカーボンの世界では、グラファイトオキサイドというのがありまして、構造は非常に近いのですけれども、そういうセルロースと硫酸を混ぜて試験管の中から炭化過程の中をうまく利用したというのは非常に巧妙な発見だったと思っているんですね。ご指摘のとおりだと思うんですけれども、ぜひこれをもっと発展させてほしいんですけれども、これ、当初、入っていなかったんですよね、このテーマは。

【堂免教授】
 入っておりました。原先生のテーマは最初からプロジェクトの中に入っておりました。

【遠藤委員】
 そうなんですか。ぜひそういった意味で、非常にインパクトの強いお仕事だと思いますので。用途も非常にまだまだあるような気がするので、できたらそのグループの中に炭素のトラディショナルな部分をやっている発想も少し入れられたら、またおもしろいのではないか。

【堂免教授】
 ありがとうございます。その辺のところ、検討させていただきます。ただ、この材料、完全に炭化しているわけではなくて、まだある程度ハイドロカーボンの部分が残っています。完全に炭化したところにスルホン基をつけるとすぐ外れてしまう。ところが、これはまだ芳香族になっていない部分があるために、かなり安定にスルホン基がついているところが1つみそになっています。

【小長井委員】
 11ページの2段階励起による水分解反応って、大変興味深く聞かせていただいたんですけれども、こういう方向であればかなり長波長まで伸びるだろうなという感じはするのですけれども、それが非常に効率的に起きる。そのための条件というのはある程度つかんでいるんですか、メカニズム的にですね。

【堂免教授】
 少しご説明させていただきます。グレッテルたちは、ここ、湿式太陽電池と言っているんですけれども、我々はここをできるだけ長波長まで使いたいということで、もっと長波長まで来るような材料ということで、ここは例えばここの化合物太陽電池をできれば使わせていただいて、それで例えばCIGSみたいなもので長波長まで、こちらをP型の材料にかえたいと。今、私がきょうお話ししたのは、N型なのですけれども、あの場合、表面で酸素が出るんですね。そうすると、安定性が悪くなる。P型ですと、ここ、水素が出ますから、我々、幾つかチェックしているんですけれども、かなり安定に、ほとんどカレントが劣化することなく流れてくるということがわかっています。ですから、ここにP型の材料を使いたい。
 それで、先ほど言われました太陽エネルギー変換効率、どの辺まで出るのかということなんですけれども、これは我々、IPCEと思っていただいていいですが、例えば60パーセントぐらい、0.5ボルトぐらいバイアスをかけて60パーセント、そんなに無理な数字ではないと思うんですけれども、これですと例えば700ナノメートルまでのバンドギャップを持っていれば14~15パーセントですね。もし800ナノメートルまで使えれば、これは20パーセントぐらいの量子収率で、IPCE60パーセントで出せるということでございますので、こういう材料を探索したいということでございます。
 実際にはカッパーガリウム、インジウム、サロファイでは、この辺の材料がありまして、これは実際に水素が出てくるというのは確認しております。ただ、我々、この辺の材料はあまり土地勘がございませんので、今現在は産総研のほうの太陽光発電研究センターの近藤センター長さんとか、あと仁木さんあたりにご相談しながら、この辺の材料を今少し指導してもらって、この系を開発しようと考えております。

【小長井委員】
 わかりました。

【榊主査】
 ほかにいかがでしょうか。

【魚崎委員】
 今のに関連して、そこまでいくと太陽電池と水の電気分解のほうがもっと簡単ではないかと思うんですが。

【堂免教授】
 いや、それは我々もいろいろ検討しました。それで、よく言われるのは、太陽電池と水の電気分解のほうが今現実的にある、すぐできるのではないかということなのですが、私もアメリカに行ったり、ヨーロッパへ行ったり、あと日本でも同じようなことはサンシャイン計画で1回検討されていますね。実際に水電解のほうを開発した方ともいろいろ話させていただいたんですけれども、実際問題は電気分解層1個1個の大きさがそんなに大きくできなくて、例えばアルカリ水電解だと大体四、五立米、立法メートルパーアワーぐらいが1個の電解。ですから、もしかなりの広い面積でやると、数千個のそういう電解槽を並べる。あるいは高圧電解槽は、今、ドイツのルルギという会社がつくっていますけれども、それでも450立米パーアワーぐらい。それは非常に大きい。実際にフランフォーバー研究所、ドイツでそういう実験はしているんですけれども、非常に電気分解と太陽電池の相性がよろしくないというのが、今……。

【魚崎委員】
 今の最後の化合物半導体とP型半導体の系はどうなるんですか。その場合、光、藤島セルとプラス。

【堂免教授】
 そうです。藤島先生のやられたプラス、原理的にはそれと同じことをやりながら、ただ、可視光を使うと、ここが……。

【魚崎委員】
 P型。

【堂免教授】
 そのまま自立して動きませんので、後ろからバックアップしてやるという、そういう発想ですね。

【魚崎委員】
 だから、そうすると、結局、左側のところは光電気分解型のセルになっていますから。

【堂免教授】
 そうです。だから、光電気化学電池、タンデム型の光電気化学電池と言っているのはそういう意味なんですけれども。

【魚崎委員】
 だから、そうすると、それは水の電気分解よりもっと難しいセルになっているのではないかと思うんですね、左側のセルは。

【堂免教授】
 だから、水の電気分解、太陽電池をつくっておいて、どこかでまとめて電気分解するよりは、こちら側は直接、この表面ですぐに水素なり酸素なりが出てきますので、電流の変動とかいうことに対して即座に対応できるということだと思います。

【魚崎委員】
 まあ、いいか。

【堂免教授】
 それは我々もそうですけれども、これはヨーロッパでは今現在、このタイプのシステムを組むということで、今度は非常に大きなプロジェクトが立ち上がるということも聞いていますので、これは太陽電池プラス電気分解というのと比べてもある程度メリットがあるシステムではないかと思います。

【榊主査】
 ほかにいかがでしょうか。
 もしなければ、私も少し、この分野に素人なんですけれども、今の関連の質問に続く質問をしたいのですけれども、大変大きく分けますと、電池をきちんとつくって分解、セルとをやる。これは1+(たす)ゼロみたいな形ですね。もう一方は全部光触媒的なほうでやる。その組み合わせとして、こういう中間的なものもあり得るだろうということだと思うんですけれども、そうなってくると、そのそれぞれのところで持っているほんとうの利点、欠点というものがもう少しきちんと詰められないと、価値がはっきり判断できないのではないかなと思って、きょうのお話を伺いますと、どうもそれぞれ利点がありそうなんですけれども、ほんとうにその辺がきちんとしているのか。
 ヨーロッパでやっていたって、間違っている可能性だってありますから、その辺少しきちんとした評価をしていただきたいんですけれども、その関連で、最初のほうでお話になった微粒子のほうの話は、あれは微粒子状だけれども、懸濁液の中に入れて使うつもりなのか、最後は固めて使うつもりのお話なのか、どちらなんでしょうか。

【堂免教授】
 今現在、反応系によって少し変わってくるんですけれども、例えば広げて使うとすると、底のほうに一応、固定した形で使う。その形でも反応は起こります。もう一つ申し上げたリアクターみたいなものにして、そこにある程度集光してきて反応させるという形になりますと、懸濁系になります。

【榊主査】
 なるほど。

【堂免教授】
 今現在、実験はほとんどの場合は懸濁系でやっていますけれども、張り付けた形でも反応が行くということは確認してあります。

【榊主査】
 懸濁系の場合に、その効率を計算するときの、私、この分野は全く素人なのであれなのですけれども、もちろん薄ければ光が抜けてしまうわけですよね。濃ければあれだけれども、どういう条件での効率ということを議論しておられるんですか。

【堂免教授】
 今、ここでお示ししてありますのは、反応管の中に入る直前の光量を光子数を出してやって計算しますね。その反応管から散乱で出ていった光は無駄に使われたという計算になる。ですから、量子収としては最低の値が出てくる。最小の値ですね。

【榊主査】
 それは散乱ということと同時に、無駄遣いといいますか、吸収されるけど、討ち死にするやつもありますね。

【堂免教授】
 そうです。はい。

【榊主査】
 そういうことをきちっと分解性がなくてはいけないんですけれども、どういう条件でトータルの効率を、散乱というのは外へ出ていっちゃうというわけですよね。吸収されるけれども、討ち死にするやつが出てきますよね。今の効率というのは、どこの成分がどれだけロスになっていて5パーセントとか何かという数字になっているんでしょうか。

【堂免教授】
 今現在わかっていますのは、入ってくる光子数に対して出てきた水素の数から計算しておりますので、反応管に入ってくる光子数をベースにして、例えば5 パーセントが有効に使われるということでございまして、その中の大部分はおそらく光触媒の中で再結合で失活している分だと思いますけれども、10パーセント、20パーセントぐらいの分は、我々、反応管、一応、外側で銀でコーティングしていて、できるだけ逃げないようにしてあるんですけれども、一部はやっぱり抜けていると思います。そういうロスも含まれていると思います。

【榊主査】
 そうですか。わかりました。ありがとうございました。
 どうぞ。

【魚崎委員】
 しつこいようですけれども、その最後のP型半導体を使った光電気化学セルとの組み合わせになると、今までのとは全く違う研究になりますね。

【堂免教授】
 水分解の光触媒材料は、今まで同じようにして、我々が今、P型と言っているのは、実は1つはランタン、チタン、銀を含んだオキサル系というのがあって、それがP型というのがわかっておりますので、その辺の応用をしようということで最初に始めた実験なんですけれども。だから、水分解の光触媒を開発して、それをこちら側に応用するということ。

【魚崎委員】
 ただ、P型半導体上の光電気化学的水素発生というのは、これはもう30年、私のPhDの論文もそうなんですけれども……。

【堂免教授】
 はい。存じております。

【魚崎委員】
 水素を発生するための表面の触媒とか、そういうまた違う要素の研究、だから、バルクというか、そこでいいという話と、またちょっと違った要素があるんですね。

【堂免教授】
 先ほど少しお示ししたTaON(タンタルオキシナイトライド)系につきましても、触媒がないとほとんど活性が出ないということがわかっておりまして、その辺の表面の収縮というのは、光触媒のほうの知識とか知見をかなり応用できると考えております。

【榊主査】
 ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。
 私ももう一つだけ質問させていただいて、ガリウムナイトライドと、それからもう一つ、ジンクオキサイドですか、混ぜて、あれは粒子の中にどういう形でその組成分布になっているのか、その辺、追加のご説明ができればお願いしたい。

【堂免教授】
 これは我々、固溶体を形成していると考えているのですけれども、ガリウムと亜鉛、窒素と酸素がアトミックにランダムな状態で中に分散した、いわゆる固溶体を形成している。ただ、最近少し阪大の産研の吉田先生にコメントされたのですけれども、我々は完全に固溶体だと思っているんですけれども、もしかしたらスピノーダル分解している可能性があるんじゃないかというご指摘は受けております。
 それから、このバンドギャップについてなのですが、実験的には、実は亜鉛のアクセプタレベルがバレンスの上にちょっと出ているような、そういうことを想定していたんですけれども、DFTで計算されたグループは外国にも幾つかございまして、それだと、この亜鉛の3D遺伝子と窒素の2P遺伝子がリパルシヴなインタラクションして、そのために窒素の2P軌道が上がってきて、バレンスバンドが上がってバンドがやっぱり小さくなる。そういうことで解釈できるというふうに理論屋さんは言っております。

【榊主査】
 ああ、そうですか。わかりました。ありがとうございました。大変おもしろい材料で、これから多分、発展が期待されると思うんですけれども、理論的な、周辺に理論家の吉田先生も含めていろいろおられるようですから、ぜひその辺の理解も深めていただきたいと思います。

【堂免教授】
 はい。

【榊主査】
 ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。そうしますと、ほぼ予定の時間になったということだと思いますので、ご説明、ありがとうございました。今後の発展をお祈りしたいと思います。

【堂免教授】
 失礼しました。

(発表者退室)

【榊主査】
 ありがとうございます。それでは、評価票に記入していただく前に、皆さんとこのプロジェクトにつきまして意見の交換をお願いしたいと思います。ぜひコメントをいただいて、今後の方向をはっきりさせていきたいと思いますけれども、いかがでしょうか。魚崎先生。

【魚崎委員】
 光触媒のほうは堂免先生の得意分野なんですけれども、最後に言われたP型と太陽電池の組み合わせとか、ああいうのは70年代の光電気化学が非常に活発だったときに、いろいろな組み合わせのP型半導体とN型半導体、両方照射するとか、太陽電池を足すとか、いろいろなケースがあって、それをどこまで調査されてやられているのかなと。分野外、彼にとっての得意分野からちょっと出たところをやっているので、そこがもう30年ぐらい前の話になってくると、なかなか文献調査にも引っかかってこないので、そこら辺、もう少しきちっと調べたほうがいいのかなという感じはしましたね。結構、昔あったのが、今また同じようなことをそのままやって、みんな新しいと信じて論文が出ているケースがかなりあるんですね、この分野。それが非常に気になりました。

【榊主査】
 ありがとうございました。2回目にやって大成功してくだされば、またそれなりに材料の質とか、そういうのが……。

【魚崎委員】
 新しい材料が組み合わさったことによって、すごく進展すればいいんですけれども、そこがまだそういう感じでもないかなという感じがしました。

【榊主査】
 そうですか。

【小長井委員】
 先生、今のにコメントですけれども、少なくともカルクパイレートの太陽電池を置くというのはないと思うんですよね。

【魚崎委員】
 それはないです。

【小長井委員】
 ですから、そこら辺は非常に新しい工法で、昔はそんな材料ありませんでしたから。

【魚崎委員】
 だから、材料として新しいから、今まではだめだったのがよくなったというのだったらいいんですけれども、ただ、カッパージウム???何とか、入れたときに、これ、太陽電池の材料としてはよくても、光電気化学的には水素発生の材料としては触媒機能も持たないといけない。それはほんとうにいいのかどうかというのは、もう少し議論が要るなという感じですね。

【榊主査】
 どうぞ。

【横山委員】
 水素製造の光触媒、大変興味を持ったんですけれども、いわゆる水を水素に変えて、水素で自動車を動かすとか、そのときに量子収率がほんとうに幾らになれば社会が変わるのか。目標値の妥当性ですよね。その辺、少し議論が要るのかと思ったんですけれども、とにかく技術的なできる範囲で目標を立てればいいのではなくて、幾らになればほんとうにインパクトが大きいのかって、その辺が知りたいところですけどね。
 実はデータセンターの消費電力が問題になっていまして、ところが、そこに降り注ぐ光を電気に変えれば結構賄えるんですけれども、電気を蓄電しておかないといけない。その蓄電器の重さがすごく重い。そうすると、水素ですと、まあ、水素を貯蔵しないといけないですけれども、重さは計算すると軽いんですよね。一たん水素に貯めておくと結構いいかもしれないという話があるんですけれども、ただ、そうするとやっぱり、効率がかなり、50パーセントぐらいか何か上がらないといけないとか、そういう試算もあるんですけれども、そういった意味でターゲットごとに幾つに置くのかというところが知りたい。

【魚崎委員】
 特に今、量子収率をここで言っているのは、結局、実際、量子収率というより、トータルの太陽エネルギーの変換効率ですね。ワットとワットの変換を考えなければいけないんですけれども、結局、例えば今、500ナノメートルぐらいだと2.何エレクトロンボルトのフォトンを使って、水素ですから1.2エレクトロンボルトで、そこで半分にまずエネルギーが損するんですね、ボルテージ的にも。
 だから、その辺も含めて、今、どっちかというと、ここの最終目標と書いているところも、410ナノメートルで量子収率10パーセント、500ナノメートルで量子収率2.5パーセントというのがここのあれですけれども、だから、3エレクトロンボルトのフォトンを使って水素を、そこら辺で10パーセント、 2.5エレクトロンボルトで2.5パーセントですから、ワットにするとそれの3分の1とか、半分とかということになる。トータルのソーラーエナジーとしてはかなりまだまだ低いんですね。だから、実際には量子収率というよりは、ソーラーエナジーのコンバージョンが水素に変わってどうなるかというのがほんとうはいいんだと思いますね。
 それで、私、この採択のときからずっと彼に言っているのは、水素と酸素の1気圧に第1の割合のやつが混ざったとして、それを取り出すエネルギー、分離のエネルギーってものすごいかかるので、そこはどうするんですかというのがずっと引っかかっているところなんですけれども、ですから、そういう意味では光電気化学的なもの、あるいは太陽電池と水電解とか、そういう分けて出てくるほうがもっと話は、余計なエネルギーのことは考えない。

【榊主査】
 そうですか。混じって出てきたら、膜を使う話でまたエネルギーが要る。

【魚崎委員】
 だから、それを言っているんですよ。

【榊主査】
 そこ、またエネルギーが要る。

【魚崎委員】
 ええ。だから、2対1の、しかも、1気圧、だから、膜プロセスといっても、1気圧ぐらいのやつから分けるというのはものすごい難しいと思いますね。しかも、それが大面積、ちょっとコンセントレートすると言っていましたけれども、そこに1気圧ぐらいで出てきて、しかも、2対1のガスで爆鳴気ですから、爆発するようなやつですから、それはここのハンドリングはエンジニアリング的にも難しいのではないかというのは、そこがずっと気になっている。

【小長井委員】
 まだ今は原理、検証に近いところだと思うんですね。ただ、今のご発表のようにかなり量子収率も上がってくると、例えば10平方メートルくらいでそういうシステムをつくったときに何が必要になってくるのか、そういうことをしっかり考えた上でそろそろやったほうがいいかなと思うんですね。

【魚崎委員】
 そうそう。だから、最終の姿というか、ある程度の姿を見据えて何を押さえたら……。

【小長井委員】
 ええ、そうですね。はい。

【魚崎委員】
 先ほどの横山さんの言われたようなことを考えながら、どこを押さえるんだというのがないと。

【小長井委員】
 ですから、先ほどの光を当てたとき、横から逃げるって、それは当たり前のことであって、だから、例えば1メートルやったときには光がきっちりやればできるわけですし、システムとしてのこの体裁を整えていくと、もっと理解しやすくなると思うんですよね。そうすると、今度はほんとうにエネルギー変換効率という観点で議論できるようになりますから、今の場合、例えば400ナノメートルで量子収率と言っても先生がおっしゃられたとおりで、すごくやっぱり損失が大きいわけですね。エネルギー変換効率にしたら1パーセントもないかもしれないし。

【魚崎委員】
 そう。

【横山委員】
 自宅で水素をつくって、それで自動車を運転できれば一番いいと思うんですけれども、実際、それがどれぐらいかなというのが。

【小長井委員】
 そうですね。

【魚崎委員】
 70マイクロリットルとか、そんな話ですからね。

【榊主査】
 いえいえ、ご承知のとおりに典型的な自動車というのは、50キロワットぐらいを使っているわけなんですよね、走るとき電力として。もちろんスロープ導管じゃないですけれども、自家用のやつというのは二、三キロワットで、今、大変な、ヒーヒー言っているんですから、その自動車のためのというのは大変な違いの話がありますからね。

【横山委員】
 全然だめ。

【榊主査】
 そういうことも含めて、少しどういうチャレンジが必要かと。要素技術としては大変いいものを持っておられると思うんですよ。しかし、トータルシステムとしてエネルギーの議論という話になると、ちょっと今の感じが詰め切れていない感じが。

【魚崎委員】
 だから、このプロジェクトが少しはそういう産学官連携だとか何とかという、科研費じゃないので、そこら辺を見据えたものが要るのかなと。例えばタンデムの話も、確かに通って、でも、そんな太陽電池というか、P型の半導体をセルの中に入れてきたやつと通ってきたやつを後ろの太陽電池で受けとめていって、普通の太陽電池のタンデムとは大分様子が違ってくるはずですよね。

【小長井委員】
 ですから、これは原理の現象なので、例えばこの絵だけ見たら、ガラスが何枚要るんだろうかと。ガラスだけで使えないと思います。ということになってしまうので、やっぱりある程度のスケールを考えて、だんだんイメージをつくって、それからブレークダウンして研究をやってくということだと思うんですけれども。

【魚崎委員】
 北澤先生、いかがですか。

【北澤委員】
 既に太陽電池の実績というのがありますよね。だから、さっき言われていた太陽電池で水を電解するという、それと比べてこれがどこまで行き得るのかというのは、これで大体わかったと思っていいですか。

【魚崎委員】
 いや、まだちょっと私は彼のあれ……。

【北澤委員】
 つまり、これがまだこれからガーンとまた数倍上がるというような道筋が後に残されているのか、もう何かだめだとか言っていましたよね、最初の辺で。これ以上、数倍ということはきっとないだろうというような話だったと思うんですけれども、だから、最初のアイデアは数倍にしてみせるぞということで、バンドギャップを変えたというのが一番大きいんだと思いますが、そういうことにはなっていませんか。

【魚崎委員】
 そうですね。可視光まで行くようになったと。

【榊主査】
 しかし、バンドギャップの話になると、600ぐらいまで伸びてきたというので、まだ2エレクトロンボルトなんですよね。それ以上のものは全部捨てているので、基本的には入射エネルギーの相当な部分をもう捨てちゃっているということは確かなんですよね。

【北澤委員】
 そうですよね。だけど、今度、そっちのほうへ行ったら溶けちゃうんでしょう。

【魚崎委員】
 溶けるというより、まあ、結局、水で、1つのフォトンではやっぱり分解できなくなっちゃうんですね。

【北澤委員】
 水が電解できなくなる。

【魚崎委員】
 ええ、水を。

【北澤委員】
 そういうことですか、電圧が。

【榊主査】
 そうすると、さっきの話でハイブリッド的な話になってくる。

【小長井委員】
 そうですね。かけてやらないと十分でないということ。

【榊主査】
 どうぞ。

【井上委員】
 ちょっと教えて。先ほど質問させていただこうかなと思ったんですけれども、この先ほどのガリウムナイトライド、ジンクオキサイドで、ここにルテニウムオキサイドだとか、7ページですね。8ページになるとクロム酸化物とロジウムの云々、効率がある。これはこのガリウムナイトライド、ジンクオキサイド、固溶体が重要なのか、そこに入っている微量の云々なのか、このあたりの活性向上の検討結果、結果的に結論は何かちょっとよくわからなかった。この微量添加のことについて、例えばこの上、わざわざこのルテニウムオキサイド……。

【魚崎委員】
 これ、触媒だと思いますね。

【井上委員】
 これを入れないとだめなんですか。

【魚崎委員】
 バンドギャップだけではだめで、さっきから何回も言っているけれども、水を電気分解するときでも熱力学では1.23ボルトですけれども、実際、2.何ボルトかかる。そこは触媒が要るということで、電極触媒ですけれども、ここの場合もルテニウムオキサイド、触媒ですね、表面。

【井上委員】
 これはこの固溶体の中にルテニウムオキサイドが分散しているんですね。

【魚崎委員】
 表面にだけあればいいはずですよね、実際は。ルテニウムオキサイドは。

【井上委員】
 この写真は、これ、ルテニウムオキサイドの3.5の当面の形態をあらわしているんですか。そうじゃなしに? 表面にこのルテニウムオキサイドがこういうサイズで分布していると。

【魚崎委員】
 1ミクロンですから、これは触媒そのものでしょう。

【井上委員】
 下のほうでクロム酸化物、ロジウム、これをやると確かにドーンとミミズのように上がったという、このあたりのメカニズムとなると、元のこのガリウムナイトライド、ジンクオキサイドとの絡みがちょっとよくわからない。

【魚崎委員】
 これ、その前のページの6というところの模型みたいな窒化ガリウム酸化亜鉛固溶体という大きな黄色い丸の上に小さな丸がついていますね。ここのところで水素が出るように書いていますが、これが触媒なんですね。

【井上委員】
 これがルテニウム。

【魚崎委員】
 それがルテニウムオキサイドのつもりだと思いますけれども。

【井上委員】
 むしろ、これが律速している。こちらのほうは。

【魚崎委員】
 この場合だとそうですね。だから、有名な触媒でも酸化チタンに白金を乗せないと分解がなかなかいかない。

【小長井委員】
 今の色素増感太陽電池というのは、まさにこれを使っていますので、多分、そういう発想からルテニウムが使われているんじゃないかと思いますけれども。

【魚崎委員】
 酸化ルテニウムは昔から、今のグレッツェルセルをやる前に触媒だけで水が分解できるといったときにルテニウムを使っていたということはあるんですね。酸化ルテニウムというのは、もともと酸素発生触媒で有名な触媒。

【榊主査】
 岸先生、いかがですか。コメントをいただいて。

【岸委員】
 基本特許みたいなものというのは取れているんでしょうかね。それとも、そんな新しいほうに向かっているというか。

【魚崎委員】
 どの部分を取っているというか、材料……。

【北澤委員】
 ガリウムナイトライド、ジンクオキサイドというのは堂免さんのオリジナルなんじゃないですか。どうでしょう。

【岸委員】
 特許か何か数件ありますよね。

【北澤委員】
 どうでしょう。あれは聞いていないですけれども。

【魚崎委員】
 いや、わかりませんが、ここには書いていないですけれども、その以前に出しているのかもしれませんね。これのプロジェクトが始まってからの特許申請は原さんのが。

【北澤委員】
 ああ、これは始まる前かもしれない。

【魚崎委員】
 前からガリウムナイトライド系は。

【北澤委員】
 ないかもしれないけど。

【中山PO】
 これはCRESTのときに取っていますね。

【魚崎委員】
 そうですね。

【北澤委員】
 CRESTのときに取っている。

【魚崎委員】
 さきがけじゃなくて、CRESTですね。

【中山PO】
 これの前のCREST。

【北澤委員】
 これで自分の取った、CRESTで取った特許を展開したという、そういうことですね。

【中山PO】
 ええ、展開して。

【榊主査】
 ほかに。

【北澤委員】
 私、気になることなんですけれども、膨大なグループを率いていますよね。それで、これはお金としては堂免さんのところにほとんどのお金が入っていて、それで、あとの人たちはちょっとお助けマンという、そういう感じでやっているんですか。それとも、どうしているんですか、これは。

【魚崎委員】
 お金の分配表が出ていましたね。資料3にお金の分配表が出ている。

【榊主査】
 何ページですか。

【魚崎委員】
 これを見ると……。

【中山PO】
 堂免先生が半分ぐらいで、あとをみんなで分配。

【北澤委員】
 あとをみんなで分けているんですか。

【中山PO】
 はい。

【魚崎委員】
 実際、これ、審査会、最初の選択のときも、これ1つにこんなに全額行く必要はないんじゃないかということで、もう一つ採択というようなことになったんですね。触媒の場合は、そんな1つに集中投下しなくてもいいんじゃないかという議論があって、泥臭い、人海戦術じゃないですけれども。

【北澤委員】
 これも人海戦術ですよね。

【魚崎委員】
 これもまさに。

【北澤委員】
 だから、澤岡先生の言われたことなんだけれども、これはこの人たちの業績も、そこで出たらこの中に入れようという魂胆なんですかね。

【魚崎委員】
 このほかのグループですか。

【北澤委員】
 はい。ほかの人たち。

【魚崎委員】
 いや、審査会のときも、その3つが全く独立じゃないかというコメントがやっぱりあってですね。

【中山PO】
 ありました。

【魚崎委員】
 さっきも少し言ったんですけれども、サブグループ3つが勝手にやっている。そこにこだわって年2回一生懸命やっていますというコメントはそこにあったんだけどね。

【北澤委員】
 これ、要するに、もらったお金がドンと大きいものだから、みんなに分けちゃったって、そういうことでしょう。

【魚崎委員】
 というか、初めから大きな予算の、10億か何かでしたよね、これ、最初。7億?

【中山PO】
 いや、2億ちょいですね。

【魚崎委員】
 2億だっけ?

【中山PO】
 最初ですよね。

【魚崎委員】
 うん。

【中山PO】
 最初、全体として2億6,000万ぐらいで、それで2億円と6,000万ぐらいに分けたのかな、そんなイメージですね。

【魚崎委員】
 6,000万か。5年で10億。

【中山PO】
 ただ、堂免先生の最初の提案されていたときも、この3サブグループから。

【魚崎委員】
 最初から3つです。

【中山PO】
 それで、分散しているんじゃないかという意見は皆さんから出て、でも、触媒だからそんなに多くなくていいから、ちょうどいいんじゃないかということでこれに決まったという。後から入れたわけではないです。最初の採択委員会のときから、このままですね。

【榊主査】
 どうぞ。

【潮田委員】
 よろしいですか。私は全く専門外なのですが、先ほど、実用化、最終的な姿をねらって、何を目標としてやるのか。そこをクリアにするということは先ほどの議論のとおりで非常に大事だと思うのですが、一方では先ほどやはり、理論的な計算というキーワードがありましたが、この分野のアプローチの仕方自身も、従来とは違ったような形で進める必要があるんじゃないかなと。ルテチウムの話も出ましたが、私などは全く専門外で、あれがなぜ必要なのか、あれ以外のものがないのかどうかだとか、ついついそういうことを感じたりするものですから、理論的なアプローチ、要素技術をさらに深めるということも一方では重要かなという気がいたしました。

【榊主査】
 ありがとうございました。
 ほかにいかがでしょうか。

【魚崎委員】
 この分野もほんとうに何十年やっていて、光触媒という観点ではかなり理論とか、そういうのも議論が進んでいるので、ここの研究のステップまでキーテクノロジーで産学官連携ですか、何かになったときに、彼も既にCRESTをやって、SORSTをやってここへ来ているんですね。だから、そういう中でどこまで、ここで基礎ということになるのかというのは少し議論かな。

【岸委員】
 堂免さんはあれですか、ナノのバーチャルラボで……。

【魚崎委員】
 プレスですね。その後、SORSTをやっていて、CRESTの延長ですね。それはこれを推したときに、こっち、採択になったらSORSTやめますという条件でやった。

【中山PO】
 そうです。

【魚崎委員】
 まあ、その前もCRESTの――バーチャルラボじゃなくて。

【中山PO】
 いや、バーチャルラボじゃなくてですね。

【魚崎委員】
 その前からのやつですね。

【中山PO】
 ええ。何だっけ、忘れちゃったな。バーチャルラボの前にあったCRESTからちょうど5年間終わって、その後、SORSTで3年ぐらいしてこれに。

【榊主査】
 ありがとうございました。
 ほかに何かありますでしょうか。よろしいですか。そしますと、ほぼ議論できたかと思うんですけれども、もしあれでしたら澤岡先生、またまとめのあたりで少しご意見といいますか、コメントしていただければと思いますが。

【澤岡PD】
 いえ、特にコメントすることはございませんが、堂免さんは非常にキャラクターが個性的で、カリスマとして、集まりに出ているとバシッと皆の心をつかんで、全く違う種類の3つのグループでありながら、何か1つの有機体であるがごとく怪しげな雰囲気で、早口で何を言っているかわからないのですが、グループとしては何か非常によく動いているなという気がしますので、金額の多寡に関係なく、ある目的に向かって走るのではないかと思うのですが、できればある種の条件をつけたほうがいいのではないかという、できれば数値的な条件とか、何か具体的な条件を1つつけたほうが、より方向性がはっきりするのではないかと感じております。

【榊主査】
 ありがとうございました。
 それでは、皆様からいただいた意見の内容については、事務局と私のほうで相談をしまして、整理をした上で堂免グループにお伝えしたいと思います。しかしながら、この分野、私、ほんとうに素人なものですから、特に第1の話は少し理解できたけれども、第2、第3の意義とかのあたりがちょっと把握できておりませんので、ぜひ早目にコメントを事務局のほうに寄せていただいて、それが先方に伝わるようにしたいと思いますので、ぜひよろしくお願いしたいと思います。
 それで、これから印象の薄まらないうちに、もう書き込んでしまうという方もおられるかと思いますので、ここで三、四分時間をとらせていただきまして、次のほうに移りますので、メモなどを書かれる場合にはよろしくお願いしたいと思います。

(評価票記入)

【榊主査】
 それでは、一応、ここで堂免先生のものにつきましては一区切りさせていただきまして、次に第2の石原先生のほうに移りたいと思います。ナノ環境機能触媒の開発につきまして、石原先生からご説明をいただきますが、先ほどと同様に澤岡先生よりコメントをいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【澤岡PD】
 先ほどから話題に出ておりますように、当初、触媒に関して1件大きなテーマということでありましたが、費用の点からもう少し小規模でできるのではないかと。それから、九州大学のほうから、小ぶりであるけれども、よいテーマがあるから2つ採用したいということで、費用としては3分の1、6,000万台の金額で実施されているのがこのテーマでありますが、皆様、よくお読みになってご理解いただいていると思いますが、このテーマは現在、日本の三菱ガス化学がトップメーカーである過酸化水素の製造について、過酸化水素というのは大変古い材料で、もうやることがあるのかなと素人の私が思っていたら、非常に需要が増えていて非常に重要な工業製品であり、また、原料の石油の価格の高騰で大変重要な戦略物資になろうとしているんだということを最近やっと理解いたしました。
 多くの企業が興味を持っているようでありますが、三菱ガス化学がこのマンモスでありますので、どういうふうにこの企業が考えているかということが非常に大きな影響を与えているはずだと思うのですが、九大と昭和電工とが非常によくタッグを組んでスタートしたのですが、いろいろな社内の事情で昭和電工が研究者が異動でいなくなりまして、結局、三菱ガス化学が九大と組んでやると、現在、そういう形になっておりまして、方向として、どういう方向にほんとうに行くのだろうかと。現在の石油高騰、枯渇――枯渇というか、価格の高騰の中で非常に注目される課題なのですが、このあたり九大と企業との関係が、将来、1つのキーポイントになるのではないかと思っておりますが、そのあたり実態がよく読めないまま非常に流動的で、注目はしているのですが、わからない点が多いものですので、このあたりこの委員会でよく評価をしていただきたいということをお願いいたします。中山さん……。

【中山PO】
 少しだけ補足なのですけれども、もともとの提案されてきたときは、この倍からちょっと大きいぐらいの提案がありまして、審査委員会で1位ではなかったということもあって、少し絞ってという話になって、それで、酸素と水素から過酸化水素をつくって、その先、酢酸へ行ってさらに応用してという、そういう長いストーリーだったのですが、それを過酸化水素をつくるところぐらいまでできっちりとめて、そこまでのことをきっちりやってくださいと。どっちにしろ、それがちゃんとできなければその先行かないんだからねというのがあって、その先の部分はドライに切って、その手前のところで、きっちり足元を固めてくださいというプロジェクトで、多少、その痕跡として「酢酸をにらんだ」とか、そういう表現があるんですけれども、基本的には過酸化水素のところの、どうやってつくるかという話です。
 ただ、採択会議のときのいろいろなご意見の中で、過酸化水素とか、あるいは醋酸とか、そういう非常に安定な物質を高濃度で抽出する、あるいは高濃度でとめて、そこで運び出すとか、そういうことがほんとうにできるのかというのはあって、いまだにそれは多少くすぶっていて、今回の発表でも見てみたいところではあるんですけれども、そういうところもひとつご注視いただければと思います。
 以上です。

【榊主査】
 ありがとうございました。
 それでは、何か事前のご質問がなければ、これから石原先生に入っていただきたいと思います。お願いいたします。

(発表者入室)

【榊主査】
 本日はお忙しい中、お越しいただきまして、ありがとうございました。まず、説明の冒頭で、同行していただいている方を石原先生からご紹介いただけますでしょうか。お願いいたします。

【石原教授】
 はい。九州大学の石原でございます。よろしくお願いいたします。本日は、私どものグループメンバーでございます三菱ガス化学様のほうから加藤様と山口様に一緒に来ていただいております。どうぞよろしくお願いいたします。

【加藤】
 よろしくお願いします。

【山口】
 よろしくお願いします。

【榊主査】
 ありがとうございます。
 それでは、発表の内容でありますけれども、本日は中間評価でありますので、これまでの研究成果をご紹介いただくことが第1点ですが、同時に今後のプロジェクトの進め方について、計画とか見込みについてもご説明をお願いしたいと思います。発表時間のほうは既にご承知のとおり20分でございますが、終わる 5分前に1鈴が鳴りまして、2分前に2鈴が鳴りますのでよろしくお願いいたします。よければ、どうぞお座りになってご説明いただければ。よろしくお願いいたします。

【石原教授】
 はい。ありがとうございます。それでは、私どもの「還元的酸素分子の活性化に基づく新しい環境調和型物質転換」という題目で研究させていただいておりますこの内容について、ご紹介させていただきます。よろしくお願いいたします。
 現在の化学工業と申しますのは、石油の随伴ガスから出てまいりますナフサと呼ばれるC2以上の炭化水素から始まる物質転換フローでございまして、よくご存じのように、この種々の炭化水素、気相の酸素を使いまして部分酸化することによって種々の化合物をつくっております。特にエチレンのWacker酸化と申しますのは、酢酸合成における物質をつくる重要な反応でございますけれども、こういうふうな反応を使用しながらプロセスが進んでおります。よくご存じのように現在の石油は非常に高騰しておりまして、この影響というのが深刻な状況になってきているような状況でございまして、これは単にエネルギー問題だけではございませんで、このような化学工業の分野においても重要な影響がございます。
 先ほども申しましたように、従来の酸化反応というのは非常に対応されているわけなんですけれども、多くの場合はコストの観点から気相の酸素分子を使用して反応を行いますので、高酸素雰囲気下での選択酸化でございますので、CO2(二酸化炭素)の副生と選択率が低いという課題がございます。
 私どものこの研究の特徴と申しますのは、構造制御しましたナノ金属コロイドを使用しまして、還元的な雰囲気で過酸化物もしくは金属過酸化物から発生する新しい電子状態の酸素を利用して反応を行うというのが課題でございます。これによりまして天然に豊富に産出しております天然ガス、特にメタンから反応を始める新しい物質生産のプロセスを開拓しようとするものでございます。このプロセスの中心となりますのは、過酸化水素を酸化剤とする新規プロセスの構築でございまして、このために過酸化水素、安価で、また、好選択的に合成する触媒系の開発というのを行うことを1つの大きな目的としております。
 過酸化水素と申しますのは、よくご存じのように、私どもの周りで非常にたくさん使われておりまして、1つの大きな用途と申しますのは殺菌作用でございます。一方で、この化合物は非常におもしろい反応性を示す化合物でございまして、特に酸化反応に使用した場合には、通常の酸素酸化と異なりまして、生成物は水ができますので、最近のグリーン・ケミストリーの観点からは非常に重要な酸化剤として位置づけられております。現在はアントラキノン法と呼ばれる方法、ここに書いておりますような2段の反応プロセスで合成されております。このアントラキノン法におけます国内の最大手というのが、きょう同行いただいております三菱ガス化学様でございます。
 これは非常によくできた反応プロセスではあるのですけれども、もう既に50年近く使われてきた反応プロセスでございまして、一番大きな課題と申しますのは、こうやってつくりますと、過酸化水素が比較的高価になりますので、先ほど言いました工業プロセスとして過酸化水素を使用しようとしますと、どうしても過酸化水素が高価になりますので、工業化というのが難しいというのが現状でございます。ほんの限られた幾つかのプロセスにおいて、過酸化水素は工業プロセスとして酸化剤として実用化されているのですけれども、どうしても価格的な問題はございますので、限られた反応しか使えないということでございます。
 ところが、これはここ数年間での国内の過酸化水素の生成量を示しておりますが、ここを見ていただくとわかるのですけれども、全体で国内だけでも20万トンという非常にたくさんの過酸化水素が製造されているにもかかわらず、ここ数年だけでも、このように非常に右肩上がりで生産量が伸びておりまして、基幹物質ということでありながらも大きな生産量が伸びているというのが、この過酸化水素がいかに重要かということを示しております。
 ですので、今回、私どもが1つの重要なターゲットとしております新法の過酸化水素合成法、直接法による過酸化水素の合成法が、開発することができますと、こういうものの過酸化水素の価格が低下できますので、先ほど申してきましたような種々の酸化プロセスへの展開が期待されますので、経済的な効果が非常に大きいということがわかります。
 では、私どものやっております研究の目的について、もう少し詳細に紹介させていただきます。私どものグループには、先ほどのような観点から大きく過酸化水素を合成するグループと、それを展開するグループがあるのですけれども、1つの大きなターゲットとしまして、還元雰囲気での酸素分子の活性化というのを目的としています。この還元雰囲気での酸素分子の活性化というのはどういうことかと申しますと、例えば水素酸素による酸素分子の活性化を例にとりますと、よくご存じのように水素と酸素で酸化反応を行いますと水ができるわけなんですけれども、酸素分子を使いますと残ったところに1個酸素分子ができますので、これがいわゆる活性酸素と呼ばれる酸素分子でございます。
 この酸素分子をナノコロイド触媒でつくり出しまして、この活性酸素と申しますのは反応性が非常に高くて、生体には極めて有害ですので、生物進化の歴史の中ではこの酸素分子をどうやって発生させないようにしようかということで進化が行われきたわけなんですけれども、私どもの研究の中では、この酸素分子は反応性が非常に高いですから、これをうまく利用して新しい反応場を構築してやって、過酸化水素を合成しようということを目的としております。ですので、ここに書いておりますように、こうやって発生する過酸化水素で水をもう一度酸化しまして、過酸化水素ができるようなこんなプロセスをつくるというのをイメージしております。
 同時に、こうやってつくりました過酸化水素は非常に安価につくることができますので、これを利用しました部分酸化への展開というのを考えておりまして、それがいわゆる展開研究グループになります。これは例えば天然ガスを過酸化水素と直接反応させまして、ここにありますように酢酸やメタノールといったような、現在の合成繊維などをつくるために必要不可欠な中間原料をつくるということに展開しようと思っております。
 こちらにそのイメージをもう少しわかりやすく書いたのですけれども、私どものグループのほうで、水溶媒中の中で水素と酸素から直接ナノコロイドを利用して過酸化水素を合成する触媒プロセスを開発しているのですけれども、このプロセスをさらに活性を上げるために、ここにありますような第2番目のグループがありまして、こういう点について検討することによりまして、私どもの触媒の性能をさらに高めるということをやろうと思っています。
 最終的にはそれを水の中で反応するのではどうしても遅いですから、気相不均一系へ反応を展開しまして、高効率な反応プロセスをつくろうと思っております。これはちょうど、先ほど生物の話をしましたので、生物の進化にたとえて言いますと、水の中で非常に少ない濃度の酸素分子で生活していた生物が地上に出てきて進化を遂げたように、同じようなプロセスでつくってきた触媒を気相不均一に上げてきて反応を進めようというものでございます。
 では、まず過酸化水素の合成グループの最近の進捗状況についてご紹介させていただきます。水素と酸素から直接過酸化水素をつくるという反応は、反応式で書きますと非常に簡単なんですけれども、よくご存じのように、当然、この過酸化水素は不安定ですので、これが分解して水になってしまいます。従来の論文等によりますと、白金やパラジウムなどを触媒としますと、10気圧以上の高圧下で、場合によりますと100気圧程度の高圧下でこういう反応が進むということが言われているのですけれども、爆発の危険性があるということと、どうしてもまだ収率が従来の点では低くて、この結果として何度か工業化が試みられてはいるのですけれども、成功には至っておりません。
 私どもは従来の研究でルチル型のチタンに担持したPd-Auという触媒が選択率、ほぼ100パーセントで水素と酸素から過酸化水素ができるということを明らかにしたのですけれども、これはどうしてもまだ水素の転化率が低かったものですから、工業化という観点ではまだまだ及びません。ですので、このプロジェクトの中では触媒の高表面積化と新反応場を構築することによりまして、従来になく新しい過酸化水素の直接合成プロセスをつくろうとしております。こちらに中間時の挙げさせていただきました目標を示しておりますが、過酸化水素の収率5パーセント程度、それから、濃度が3パーセント程度を中間時の目標としております。
 では、結果について紹介させていただきます。まず、こちらには液相法で高表面積のチタニアをつくりまして、その上にPd-Au触媒を担持して、過酸化水素の直接合成を行った結果を示しております。ルチル型のチタニアが非常にこの反応には有効な成分になるのですけれども、ルチル型のチタニア相と申しますのは、高温で安定な相でございまして、一般的には表面積の大きなルチル型チタニアは高温でのみ焼いてつくりますので、つくれないと言われておりましたが、この研究の中で検討しまして、新規な自己加水分解法というやり方を開発することによりまして、高温で安定相であるルチル型チタニア、100平米以上のルチル型チタニアをつくることができております。これを単体とすることによりまして、従来の触媒に比べますと、ここにありますように水素の転化率を大きく上げることができましたので、収率5パーセントを到達することができております。この時点で中間時の目標であります収率5パーセントを達成することができております。
 続きまして、もっとさらに活性を上げようということで、表面構造を制御したコアシェル型のナノコロイド、Pd-Auのナノコロイドをつくりまして、それによる反応について検討した結果を示しております。こちらは作成しましたナノコロイドのTEM写真を示しておりますが、非常に単分散で3から6ナノのサイズのナノ触媒をつくっております。
 こちらには、そのナノコロイドのパラジウムの含有量と、過酸化水素の生成速度、過酸化水素の選択率、それから、この後述べますけれども、この過酸化水素の分解反応というのが重要になりますので、この過酸化水素の分解速度のパラジウム濃度依存性を示しております。見ていただくとわかるのですけれども、ここのところに非常に特異的な組成があるということを見出しまして、75対25という組成で触媒をつくりますと、ほぼ100パーセントの選択率で過酸化水素が合成できるということを見出しました。このときには、ここにありますように過酸化水素の分解反応というのが非常に抑制されておりまして、ここに非常に特異的な組成があるということを見出しております。
 どうしてこういうふうにPd-Au触媒上で良好な反応性を示すかというのを検討するために、私どものグループの中には吉澤グループがございまして、こちらで量子計算をしていただきまして、どうしてそうなるかというのを検討しました。いろいろな反応プロセスが考えられるのですけれども、途中の活性化エネルギー等計算しますと、反応としましては、水素がまず原子上の水素に乖離した後に酸素分子にアタックをかけて過酸化水素をつくるという反応で進んでいるようでございます。副反応としましては、酸素分子が酸素原子に乖離して、これがこれにアタックをかけて分解させるという反応が起こるようでございます。
 活性序列について種々の計算を行いますと、活性化エネルギーの大きさと申しますのは、Pd-Au、Pd-Auの順になっておりまして、これは実験で観測される結果とよく一致しております。また、ここにありますように表面にパラジウムと金が4対1ぐらいの割合になるようにつくった触媒系を使いますと、中間時での――すみません、酸素が乖離して中間体として、酸素の乖離した状態というところのエネルギーが計算できなくなるほど大きくなるということがわかっております。ですので、こういうふうな組成になるような、先ほど非常に特異的な組成があると申しましたが、ああいう組成のところに持っていきますと、ナノコロイド触媒上での酸素分子の乖離というのが抑制される結果、過酸化水素が選択的に合成できるということがわかっております。
 続きまして、さらに反応性を上げてみようということで、こちらにはヒドラジン還元してつくりましたPd-Au触媒におきまして、加圧とイオン性液体と転化交換について示しております。通常の従来の特許等によりますと、加圧によりましても非常に収率が上がるわけなのですけれども、ここにありますように従来の常圧から10気圧程度に加圧することによりまして、過酸化水素の収率というのが30パーセント程度まで上がるということがわかりました。
 さらに、先ほども言いましたけれども、種々の反応条件について検討を行いましたところ、酸素雰囲気に過酸化水素があれば、過酸化水素の分解が抑制されるということがわかってまいりましたので、水素を比較的溶存しやすいイオン性液体を使いまして、その外側にPd-Auのナノコロイドがいる水溶液の中で、水溶液の中には酸素が溶存しやすいですから、そういう雰囲気で反応させますと、水素と酸素が触媒の違う、2相に分かれた反応場で反応することができますので、過酸化水素が特異的に合成できるだろうということを考えました。
 そうやって実際にイオン液体を入れて反応をやってみますと、ここにありますように、水素の転化率が66パーセントぐらい、選択率が75パーセントというものを到達することができておりまして、過酸化水素の収率として50パーセントを得ることができています。これは従来の特許と応分の中では、現在まで最も高い収率を示しておりまして、工業化の目安というのが収率50パーセントと言われておりますので、それに近い収率を示すことができております。
 さらに、この中で選択率を上げることができる、水素の生成速度を上げることができれば、転化速度を上げることができれば収率80パーセント以上というのもある程度視野に入ってくるのではないかと考えております。このような結果というのは、実際には工業プロセスでどういうふうな形であらわれるかということについて、この一方の2枚のスライドで紹介させていただきます。
 こちらには現行法での、アントラキノン法での合成プロセスを大まかに示しておりますが、このプロセスの非常に大きな特徴は、水素転化工程と酸素酸化工程にありまして、最終的にここで出てきたときの過酸化水素濃度は大体2wt(ウェイト)パーセントになります。これを抽出工程で濃縮して精製するのですけれども、プロセスが非常に複雑ですので、こういうふうに非常に複雑なプロセスになります。それに対しまして私どもの触媒でやるプロセスは、水素と酸素を直接 1つの反応器の中で反応させますので、なおかつ2相の反応場で反応を行って、過酸化水素は水側に出てまいりますので、水と油の簡単な分離プロセスで過酸化水素を分離することができると考えております。
 最終的な目標としては、10wt(ウェイト)パーセントの過酸化水素の合成、濃縮というのを考えておりますので、この時点で、もしこれが達成できますと、プロセスとしてはこのように非常に簡単なものとしてできますので、極めて簡単な過酸化水素の生成プロセスの達成ができると考えております。
 では、展開グループのほうの研究につきまして、これ以降、少し紹介させていただきます。先ほどまでのプロセスは、いずれも水の中での反応でございますので、反応速度が非常に遅いというのが欠点でございます。新たに私どもの中では名古屋大学の日比野グループがございまして、この日比野グループでは、こういう中温域でプロトンを伝導するような新しいプロトン伝導体を開発しております。ですので、気相系で直接ここのところに開発したPd-Au触媒をつけまして、水素をポンピングすることによりまして、例えばメタンから過酸化水素を経由してメタノールを合成するような新しいプロセスが開発できると考えております。
 従来のメタノール合成と申しますのは、水蒸気リフォーム反応でこういう非常に厳しい条件下で合成ガスをつくりまして、それをメタノールに合成するものなのですけれども、当然、こういう条件を使いますので、エネルギー多消費型でございます。ところが、天然界では、よく知られておりますようにこのメタンモノオキシゲナーゼという酵素がございまして、この酵素の中では、こういう反応によってメタンを直接、非常に温和な条件下でメタノールに合成するのですけれども、この触媒系のここに注目していただきますと、金属の過酸化状態を利用しております炭化水素の活性化でございまして、これはまさに私どもが目指そうとしているような反応系でございます。ところが、現在までにこれに似たようなプロセスでメタンからメタノールを合成したような例はほとんどないというのが状況です。
 こちらには、じゃあ、できるかということでやった結果でございますが、先ほどのような膜型反応器をつくりまして、こちらの赤で書いておりますのが水素を転化しないとき、青で書いておりますのが水素を電気化学的にポンピングしたときの表面につけている触媒系での反応結果の違いを示しております。よく報告されておりますように、メタンからメタノール合成は難しい反応でございまして、水素を転化しないとほとんどできないのですけれども、水素を反応系に添加すると比較的できるということと、先ほど量子計算が示しましたように8対1という、パラジウムと金が8対1の触媒系に持ってきますと比較的たくさんの過酸化水素ができるということがわかりました。ですので、期待したように活性酸素をつくることによりまして反応が加速できるということがわかりました。
 さらにもう一つのアプローチとしまして、最近になってわかったのですけれども、膜型反応器にしないで、1つの触媒系の中でやってみますと、水素の短絡状態というのができまして、片方で水素がプロトンになって、このプロトンが膜の中を通ってまいりまして、酸素と反応して過酸化物をつくって、それがメタンと反応してメタノールをつくるという、こういう現象が起こるということがわかりました。自己短絡現象と呼んでいるのですけれども、それによりまして、ここにありますようにメタノールの生成速度が非常に大きく上がってまいりましたので、こういう予期せぬ極めて大きなメタノールの生成速度の達成ができるということがわかりました。この方法によりますと、従来のような膜型反応器でやりますと表面が限られてまいりますけれども、こういう粉体上の触媒への展開ができますので、今後残された研究期間で研究することで、さらに大きな展開というのができると思います。
 さらに、天然界ではメタンから直接酢酸を合成することはできないのですけれども、メタノールができるのであれば、それにさらにもう1個CO(一酸化炭素)を入れて酢酸が合成できるかもしれないということを考えておりまして、こういう反応条件下を選ぶことによりまして、これはまだ過酸化水素を直接添加しているのですけれども、メタンとCO(一酸化炭素)と過酸化水素の条件下で酢酸収率2.3パーセントというものに到達しております。ただし、見ていただくとわかるのですけれども、メタン転化率がまだ非常に5パーセント程度と低いですから、これを上げることができますと、ここの収率がさらに上がるということが期待できます。
 こちらのほうには本研究の中での目的の達成状況について示しておりますが、当初に比べますと、はるかに大きな過酸化水素の収率に到達しております。それから、ほぼ予定したとおりの目的については到達いたしました。特に過酸化水素の収率につきましては、世界最高収率を達成しておりますし、こちらの酸化状態を利用する方法では新概念を達成しています。今後はこの程度に濃縮することができるようになれば、従来とは違う触媒系ができるものと考えております。また、酢酸につきましてもこの程度を視野に入れて検討したいと思っております。こちらもこの辺について、さらに収率を上げていくことによりまして、50年以上同じ反応を行ってきた化学工業プロセスに革命が起こせるのではないかと思います。
 最後にこちらに、一応、ここ数年での変化を示しておりますが、このプロジェクトを始める前にはわずか3パーセントもなかったような過酸化水素の収率をこの3年間で12.5倍程度まで上げることができてまいりまして、十分高い、工業化に近づけるような収率のところまで上げることができております。
 最後にそういうことですので、エネルギー消費を抑えた安価なプロセス開発をすることによりまして、新法過酸化水素の合成法ができますので、非常に大きな、従来の有機化学でコスト的に成立しなかったプロセスを十分実用的なプロセスへと展開できるものと考えております。
 以上でございます。どうもありがとうございます。

【榊主査】
 ご説明、ありがとうございました。
 それでは、質問やコメントをいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。魚崎先生。

【魚崎委員】
 このキーポイントは、この場合はTiO2(酸化チタン)とPd-Auということだと思うんですけれども、そのおのおのの役割ですね。例えばルチルが何でいいんですか、アナターセとの違いというのはどこに出ているんでしょうか。

【石原教授】
 ルチルとアナターゼと申しますのは、当然、ご存じだと思うのですけれども、結晶の格子サイズが少し違っておりまして、実はPd-Auの触媒のC軸方向の結晶サイズとルチルの格子サイズが非常によく合っております。TEM等で監察してまいりますと、C軸を配向したようなPd-Auという触媒がルチルの場合ですと、表面にイカダ状の形でできてくるというのがわかっておりまして、そういう結晶構造ができてくるというところが過酸化水素の合成に非常に高い反応性を上げるということに寄与しているようでございます。

【魚崎委員】
 それで、今のPd-Auなのですけれども、Pd-Auは、これ、どういうふうにつくって、どういうふうな構造になっているんですか。今のお話だと何か結晶性のような感じもする。

【石原教授】
 すみません、時間がなかったので省略させていただきましたが、こちらにPd-Auの今つくっているナノコロイドのほうのTEMの写真のイメージを示しております。表面はPd-Au触媒の場合はコアシェル型になっておりまして……。

【魚崎委員】
 これはPd-Auですか。

【石原教授】
 はい。これがPd-Auです。

【魚崎委員】
 ルテニウムじゃなくて、Pd-Au。

【石原教授】
 はい。これはPd-Auだけのナノコロイドですので、Pd-Auだけの粒子になっております。

【魚崎委員】
 合金触媒になっているということですか。

【石原教授】
 はい。ここの格子サイズをはかりますと、パラジウムと金のちょうど中間に来ますので、合金になっているのがわかると思います。それから、表面の組成をはかってみますと、表面はパラジウムがわずかにリッチになっておりまして、この表面になるべく金を出してくるようなつくり方をすると比較的活性が上がるというのがわかっています。それで、先ほど非常に特異的な領域がありますと言いましたけれども、あの状態になってくると、量子力学的にも、量子計算的にもあの表面での酸素の乖離が抑制されるので過酸化水素が選択的にできるということがわかってきております。

【北澤委員】
 その図でちょっと質問なんですけれども、その次のやつかな、4対1のところが特異点になっている。その図は、それがすべてのデータなんですか。つまり、あそこが特異点でとってもいいとなったら、そこのところをもっと丁寧にいろいろやってみると思うのですが、どうしてそういう図なのかというのは、私、とても疑問に思った。

【石原教授】
 ここのところ、70と80と75というところをとってあるのですけれども、結構、この辺と申しますのは、実は数パーセント変えても表面の組成というのはそんなには変わらないんですね。それで、ここを1パーセント変えたので、じゃあ、表面が1パーセント変わるかというと、表面をXケースで測定してみますと変わっていないんです。それで、ここをものすごく詳しくやっても、そんなには変わらないと。

【北澤委員】
 それで、選択率が100パーセントになってしまう、その点というのは再現性よく得られるわけですか、得ようと思えば。

【石原教授】
 はい。得られます。

【北澤委員】
 はい。

【魚崎委員】
 このセレクティビティーが100以下というのは、反応は何になっているんですか。

【石原教授】
 100以下のときは水ができております。

【魚崎委員】
 水ですね。それで、そのパラジウムというのは、電極触媒としては酸素からは水をつくる触媒ですよね。

【石原教授】
 そうです。はい。

【魚崎委員】
 金は過酸化水素しかできないような電極触媒なんですけれども、そのパラジウムがどうしてこの場合要るんですかというのが。

【石原教授】
 先ほどもありましたけれども、先生ご指摘のようにパラジウムですと非常に水素を活性化しやすくて、水素が活性化され過ぎるものですから水になるんですね。金ですと途中でとまるんですけれども、今度は逆に水素を活性化できませんので、その条件下ですと、水素がうまく活性化できませんから、水素の転化率が上がらないんですね。それで、そのちょうど中間をねらおうということでパラジウムと金をある割合に持っていくと、その条件では水素も活性化されるし、酸素の活性化による過酸化水素の分解というのも抑制されるというのがわかってまいりましたので、その結果としてPd-Auというこの触媒系が非常にいいというのがわかってまいりました。

【魚崎委員】
 メカニズムの最も差なんですけれども、このO2がアトミックなOみたいに書かれているんですけれども、それはどこかに何か、計算はともかくとして実際の証明のような。

【石原教授】
 このOは、この触媒上でこういう感じで金属上に、原子上に配列してくる。いわゆる金属の酸化物の状態になって表面で存在している。

【魚崎委員】
 そうすると、この場合はどっちの金属の上で酸素吸着が起こるんですか。

【石原教授】
 どちらというのは特にはあれですけれども、起こりやすい点と言えばパラジウムのほうが起こりやすいです。

【魚崎委員】
 そこの下なのですけれども、その計算はともかくとして実験的には何か。

【石原教授】
 実験的には原子レベルでどちらに吸着しているかというのは……。

【魚崎委員】
 いや、というより酸素乖離が起こっているという。過酸化水素だと、燃料電池からいくと過酸化水素ができないほうがいいんだけれども、できてしまう。それは酸素、酸素の結合を切らなくていいからなんですよね。この酸素、酸素の二重結合、そう切れるのかな。だから、逆に言えば、ここでどうして切れちゃうのかなというのが気になる。

【石原教授】
 Pd-Auになりますと、先生がさっき言われましたように酸素、酸素の結合が切れないので過酸化水素の状態で残るんですね。パラジウムだけですと、先ほども言いましたけれども、酸化パラジウムができやすいものですから、酸素、酸素の結合も切ってしまうので、その結果としてできた過酸化水素を酸素がアタックをかけて水になってしまいます。

【魚崎委員】
 最後のほうの話で、最後、自己短絡現象というところでも、ここでも活性酸素を書いていますけれども、それは実際どういう格好で、この場合も切れているというようなことだけれども。

【石原教授】
 すみません、先生、これはここのところでプロトンが多分こういうふうに動いているんだろうというところまではわかっているんですけれども、ここでこの過酸化水素ができているかどうかというのは、実はまだ全然、つい最近わかりましたので、これはかなり願望を含めてかいた絵でございます。

【魚崎委員】
 これは絵ですね。

【石原教授】
 はい。願望をかいた絵でございます。

【栗原委員】
 先ほど北澤先生がご質問になったところに近いんですけれども、あの比率で非常に活性が上がるようなところで、あれ、例えばコロイドの大きさとか、そういうものを振っていくと、例えばもっと形が変わるとか、最大の効率の組成が変わるとか、あるいは反応速度が変わるとか、今、収率としてはおっしゃっていますけれども、速度的なものはどうなんでしょうか。

【石原教授】
 全くご指摘のとおりでして、今、これは先ほどのこのグラフの1個前に、実は一般的にこういうコロイドというのはシュウ酸塩を還元剤としてつくるんですけれども、シュウ酸塩でつくりますと、ゆっくりとした成長が起こるものですから、モノディスパーズした均一の粒子のものができるのですけれども、小さいものはできないんですね、ゆっくり成長しますので。それで、先ほど収率が出るようになりましたというこちらでは、これはHと書いてあるんですが、これはヒドラジンを還元剤にしておりまして、ヒドラジンにしますと反応が一気に進みますので、粒子の小さいものができるんですね。その結果として、粒子が小さくなりますので反応性が上がるというのはわかっております。
 それで、ご指摘のように粒子を小さくしていけばどんどんよくなっていくのですけれども、逆に粒子が小さくなりますと、次は凝縮が起こりやすくなるんですね。凝縮させないようにするために、それを安定に保つための単体が要るんですね。その単体を今、北條グループのほうで高表面積のルチルのチタニアを一生懸命つくっていただいているという状況になっています。

【北澤委員】
 それで、これができたときにたしか高濃度蓄積、できれば産業化に結びつくというようなことを言われましたよね。

【石原教授】
 はい。

【北澤委員】
 高濃度蓄積というところがちょっとよくわからないのですが、あとは何が難しいんですか。

【石原教授】
 これが今の現状で、ナノコロイドで蓄積をやっていたときの結果なんですけれども、今年度、実は過酸化水素の蓄積濃度というのは3パーセントを目的にしているんですけれども、今、これは2パーセントまでしかいかないんですね。それはなぜかと申しますと、どんどん過酸化水素ができてまいりますと、当然、過酸化水素の濃度が上がりますので、その過酸化水素から水への分解反応が行きやすくなる。こちらの濃度が上がりますので。それで、反応初期ではすごくいいのですけれども、これはだんだん時間を置いていきますと、こう寝てまいりまして、あるところで、どんなに頑張ってももう増えないところが出てくるんですね。そこのところになりますと、つくる速度と分解する速度が釣り合ってしまう。そうなりますと、高濃度蓄積がまだできないという状況ですね。

【北澤委員】
 どうしたらいいんですか。

【石原教授】
 そのためにさっき言いましたけれども、反応場をきちっと構築をしてやればいいだろうということを最近わかってまいりまして、なぜ分解が起こるかといいますと、触媒が要るところに過酸化水素が、まあ、なぜ分解が起こるか、過酸化水素と水素が反応するんですね。当然なんですけれども、水素の過酸化水素による酸化反応が起こり出すんです。ですから、水素と過酸化水素がもう別々にいれば、それで分解が起こらないということに。
 それで、こういうふうな反応場が構築できれば、こちら側から水素が出てきて、出てきたところで酸素が水側にいたので触媒と反応して過酸化水素ができるようになればうまくいくだろうというふうに考えまして、こういう反応場ができないかということで、今いろいろ溶媒系、探索してまいりまして、1つの答えが、実はこういうイオン性液体、まあ、イオン性液体、いっぱいあるんですけれども、その中の1つの答えがこのイオン性液体でございまして、これですと比較的分離がうまくいくので高い収率に到達ができたという。今からこれが実際どこまで濃縮できるのかというのは、実はこの残された残りの期間でやりたいという状況でございます。

【榊主査】
 ほかにいかがでしょうか。どうぞ。

【潮田委員】
 私、素人で内容の話ではないのですが、世界最高の収率だとか、非常にすばらしい成果を上げられていますが、特許の出願状況を拝見しますとゼロ件になっているのですが、これは。

【石原教授】
 実はこの辺の内容と申しますのは、十分特許性がある内容でございまして、これは実はつい最近わかりましたので、この辺の内容を今から特許化しようということで、三菱ガス化学さんと今打ち合わせをしているような状況でございまして、現時点では申しわけございませんが、まだそこまで、特許出願までは行っておりません。

【潮田委員】
 そうですか。ぜひともよろしく。

【石原教授】
 はい。おもしろい結果が出てまいりましたので、この辺で出していこうと思うのですけれども、このPd-Auと申しますのは、実は数年前に私どもで開発したのですけれども、実は論文を書いて出したときに1回リジェクトされている間にイギリスから別のグループの全く同じような内容の論文が出てきまして、そちらの先生がPd-Auは盛んに自分たちのものだというふうに主張されるものですから、それで何となくあんまりいい感じではないんですけれども。そういうのもあるものですから、Pd-Auに関しての特許というのはまだ取れていなくて、というか、取っていなくて、今、こういう概念で新しい反応場を構築できるというのを三菱ガス化学さんと打ち合わせをしながら、こういうのができたらいいですねということでやってみると実際できるようになりましたので、これに関してこれから特許戦略というのをやっていこうと思います。

【長我部委員】
 今のに関連しまして製造フローそのものは特許性はないんですか。直接法の。

【加藤】
 それはないですね。

【長我部委員】
 これは公知の技術であって、その中の先ほどの金-パラジウムとか、その辺の材料にやはり違いがあるという解釈ですか。

【加藤】
 触媒としていい系ができれば、その分離技術とか、そういうところでうまくプロセスとしての特許は出せるのですけれども、それはどういう触媒系に最終的になるかというところで、まだそのレベルではないということです。

【長我部委員】
 それから、私、素人でよくわからないのですけれども、コストが下がるというコスト計算ってなかなか難しいと思うのですが、どのぐらい現在の方法からこれでコストが下がるという目標なり、あるいは逆にこのぐらいコストが下がらないと過酸化水素が酸化プロセスに使えないという目標はどういうところにある。

【加藤】
 現在、先ほどご説明しましたアントラキノン法のプロセスというのは、石原先生がご説明しましたように非常に複雑でして、コストの割合の中で固定費、いわゆる設備のウエートが非常に高いものでございます。それに対してこの直接法ですと、1ポットリアクションになりますから、設備費、設備固定費側が非常に小さくなるということで、先ほど収率が水素に対して50パーセントになれば見合うでしょうという、それが変動費と固定費のバランスからいって同じぐらいの価格になるだろうというところのものでございます。

【長我部委員】
 ああ、そうですか。

【加藤】
 もう一つは、この直接法というのは、1つは1ポットリアクションで設計がものすごい楽ということで、少量のところにも適用できる。現在のアントラキノン法ですと、逆に設備――要するにスケールアップでコストを下げるという方向にどんどん行っていますので、非常に大規模化でないと対応できないということで、大体年産で5,000から1万トンぐらいのところでコストの逆転が多分、今のところ50パーセントぐらいのところまで来れば行くであろうという想定がされます。ですから、基本的にはかなりオンサイト型で何千トンかを使うようなところには、この直接法を持っていくというのは非常に可能性が多くて、また、そういうユーザーのほうが多いということでございます。
 この過酸化水素は今現在、流通しているのは60パーセントで、これは半分水を運んでいるようなものでして、今度、物流のコストが非常にかかる製品でございます。ですから、大規模化して、どこかに集中して今度長距離を輸送するということになりますと、今度は物流のコストがかかるということで、そういう意味でもこの直接法というのは期待ができるということでございます。

【長我部委員】
 設備の償却費が下がるのはわかるのですけれども、例えば触媒の寿命とか、そういったメンテナンスの点から見るとどうなんでしょうか。

【加藤】
 そこら辺がまだ全く見えていません。すみません。これからこのデータを見て評価していこうと思っております。

【長我部委員】
 触媒寿命みたいなことの評価は、このご研究のスコープに入っているんですか。

【石原教授】
 それが先ほど言いましたけれども、高濃度蓄積というところにかかわってきまして、あれは結局は寿命評価と同じことなんです。時間をかけながら蓄積してまいりますので、ですから、それによってある程度の状況が見えてくると思います。もちろん、これ、実は何気に書いてあるんですけれども、これ、8,000分ということですから、すごい長時間反応しているんですよね。ですので、これがずっと真っ直ぐ上がっていくような触媒系ができれば、それは活性をずっと維持していっているということになってまいりますので。

【長我部委員】
 はい。わかりました。

【井上委員】
 大変ピーク現象といいますか、75パーセントのところ、これは先ほどの説明だとルチルとの格子定数等、これは合金ですから、この組成がそれだけピーク現象を示すということは、パラジウム3金という何か一種の金属間化合物みたいのができているという、それはいかがですか。単に固溶体であれば。

【石原教授】
 言われているのは、ここですよね。

【井上委員】
 はい。

【石原教授】
 これはすみません、説明が2つがごっちゃになっていて申しわけございません。これはコロイド触媒でございます。コロイド触媒の結果で、チタニアがまずありません、このときは。

【井上委員】
 え?

【石原教授】
 コロイド触媒の結果で、チタニアにはこの上には担持されておりません。

【魚崎委員】
 ああ、そうか。

【石原教授】
 それで、合金になっているかどうかと申しますのは、このTEM写真を見ますと、このPd-Auと申しますのはFCCの固溶体をつくるのですけれども、代表的な完全固溶をつくりますので、ちょうど組成のところに来るような格子の感覚になっておりますので。

【井上委員】
 そこには化合物組成的なFCC的な化合物はできないんですか、並行状態図では。

【石原教授】
 ですから、パラジウムと金は完全固溶です。

【井上委員】
 ああ、そうですか。その中で1つの粒子がナノ粒子で、しかも、多結晶になっている。そこの多結晶性ということは重要でないんですか。

【石原教授】
 ナノ粒子で、これはTEMで見ていただくとわかるんですけれども、双晶と申しまして、ほぼ単結晶でございます。1個の粒子は。

【井上委員】
 いろいろ方位がこれ、全部双晶欠陥が入っているということですか。

【石原教授】
 はい。

【井上委員】
 そういう欠陥構造、それによって非常に粒子が活性化されますよね。それが重要だということではないんですか。あるいはその3対1のところで非常に双晶欠陥が入りやすいとか、何かそういう微小のメカニズム……。

【石原教授】
 もちろん、ご指摘のとおりだと思います。表面の反応性を利用しますので、表面にそういうふうな欠陥があるとか、例えば形状が、さっき言いましたけれども、ステップ状になっていてキンクが出てきやすいとか、そういう状況になってくると反応性が上がるとか、そういうのはご指摘のとおりです。ただ、現状で申しますと、そこまでの厳しい評価というのをやっていないという状況です。

【井上委員】
 わかりました。

【魚崎委員】
 私も誤解していたんですけれども、その酸化チタンと組み合わせている話とコロイドだけのやつがあって……。

【石原教授】
 はい。2つが混ざっておりますので、誤解を呼びやすくて申しわけございません。

【魚崎委員】
 だから、ルチルの存在は不可欠ではないということ。

【石原教授】
 いえ、これは今度は工業的な観点がございまして、ナノコロイドの触媒というのは非常に活性が高くて表面もいいのですけれども、先ほど言いましたけれども、長期的にやろうとするとどうしても凝縮が起こって、金属が失活やすいという傾向がございます。工業的に使おうとすると、これは必ず何かの単体の上に乗っけないと使えませんので、そういう意味でこのルチルのチタニアの単体の面積が……。

【魚崎委員】
 それでセレクティビティーが全然違うということね。

【石原教授】
 はい。そういうことです。

【魚崎委員】
 ルチルのほうは2に……。

【石原教授】
 これは表面積を上げたことによって生成速度が上がりましたので、それによって選択率が下がってしまったのですけれども、通常のルチルの場合ですと非常に選択率が高くて、ほぼ100パーセント過酸化水素をつくることができます。

【魚崎委員】
 そうですか。それで、今、この75パーセントがいいというんですけれども、その濃縮ということまで考えたときに、この組成が一番いいかどうかはわからない。つまり、パラジウムが要ることが逆に分解のほうは助けますよね。

【石原教授】
 はい。そうです。

【魚崎委員】
 ですから、最後の、もっと濃縮だとパラジウム組成が低いほうがいいとか、そういうことはあり得る。

【石原教授】
 十分あり得るんですけれども、全部の触媒を濃縮実験をやっていると時間が果てしなくかかってしまって、先ほど示しました1個の実験が3日ぐらいかかっていますから、あそこまで濃縮しようとすると。

【魚崎委員】
 早くもっといい触媒をつくらないといけないということですね。

【石原教授】
 ご指摘のとおりかもしれません。

【魚崎委員】
 そうすると、結局、イオン液体もいいんですけれども、イオン液体を使うと、さっきのコストとかいうと、またこれ、そんなもの使っていていいのかなというところも気になるんですけれども。

【石原教授】
 それはイオン液体の場合、水に混ざらないイオン液体を使っておりますので、ここのところで単純に分離をして、この場合は触媒ごとこっちに戻してくるという。

【魚崎委員】
 イオン液体がずっともつ、寿命とか、あれも汚れていたりしますよね。それはいいんですけれども、そこの後の部分酸化反応プロセスと書いてある、その膜分離みたいなやつだと、これは水素と過酸化水素発生側が分かれているから、これではだめなんですか。

【石原教授】
 それが残念ながら、これはプロトンが輸送できるのが200度以上と温度が高いんですよね。そういう高い温度で、しかも、これは基礎系の話ですので、この条件でプロトンを輸送しますと、過酸化水素、気相を入れますとあっと言う間に水に。

【魚崎委員】
 例えばナフィオンみたいなプロトンコンダクターではだめなんですか。

【石原教授】
 その条件ですと、残念ながらここで動いているプロトンの量が、実際の水の中で動いている量に比べてはるかに少ないので、工業的なプロセスというのを考えたときにはあんまり向いていなくて。

【魚崎委員】
 ナフィオンで、いわゆる自動車の燃料電池なんか使うときだって、かなり動かしていると思うんですけれども、薄膜の。それでも足らないの。

【石原教授】
 次はナフィオンが過酸化水素の雰囲気になりますので、その寿命とかですね。

【魚崎委員】
 もちろん、そうですけどね。

【石原教授】
 あと、大型化に対しての――先ほど小型化に向いていると言われましたけれども、しかし、言われているのはかなり大きいんですよね。何千トン。

【加藤】
 そうですね。1万。

【石原教授】
 ぐらいの量になるので、ナフィオン膜でその辺をつくると、やっぱりどうしても装置のコストがすごく高くなってくるので。こういう1ポットの反応器でプロセスを構築できるというのが工業的には必要になってくるという状況です。電気化学的に過酸化水素をつくるというのは、1つの重要な過酸化水素の製造方法であるんですけれども、どうしてもコストという観点で、今のところ工業化には到達しないという状況です。非常に小さくて、殺菌とか、そういうところの目的ですと非常に適しているのですけれども。

【榊主査】
 ほかにいかがでしょうか。
 私、素人なのですけれども、先ほど研究の初期にイギリスのグループとの微妙な関係みたいなのがあったというようなお話も伺ったものですから、少し周辺をお尋ねしたいのですけれども、全世界的に見たときに従来の方法と、こういう新しい方法の動きの中で、この研究がどんなふうに位置づけられるかを周辺も含めてお願いします。

【石原教授】
 最近、グリーン・ケミストリーの展開で過酸化水素を安価につくる方法というのが非常に要求されておりまして、それで、直接法というのがその最も有力な方法として期待されています。それで、パテントもすごい出ておりますし、それから、いろいろな競争が激しくなってきている状況なんですね。その中で私どもがやっているこのPd-Auという触媒系というのは、実は世界的な論文のレベル、特許のレベルを見る限りでは、難しいところはあるんですけれども、単純に比較できないのですけれども、収率とか、そういうのを見ていく限りでは、私どもの結果というのが今一番、性能としてはいいところにおりまして、それで、変な話なのですけれども、私どもが国内とかで発表すると、何かものすごくよく似たような論文がすぐに出てきたりするんですよね。まあ、論文発表から最初にやらないかん状況に今あるものですから、あんまり安易にすごくいいデータがとれたって、大騒ぎして出すような状況ではないんですけれども。

【榊主査】
 わかりました。ありがとうございました。
 玉尾先生、何か。この関連で特にないですか。

【玉尾委員】
 はい。非常にすばらしい方法で大いに期待できると思っています。

【榊主査】
 ほかにありませんでしょうか。もしなければ、少し時間、早いですけれども、これで終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。

【石原教授】
 どうもありがとうございました。どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございます。

(発表者退室)

【榊主査】
 それでは、これから15分ほど議論し、意見交換をしたいと思いますが、少し専門的な立場から魚崎先生とか玉尾先生、コメントをいただければと思いますが、いかがでしょうか。

【魚崎委員】
 かなり絞ってやっていて、それなりに成果が出ていると思うんですけれども、まだそのメカニズムとか、ナノ構造制御とかいうのは、最初の採択のときのコメントもコンピュータに入っているのを見ると、ナノ構造制御という観点では不十分であるというふうなコメントを書いてあるんですけれども、それは依然としてそうかなという感じはちょっとしましたけれども、いろいろパラジウムと金という両方の役割をうまく分担しているんですけれども、もう少し表面がどうであるとか、あるいは反応の途中はどうなのかというようなことが要るのかなという気はしますけれども、比較的まとまって、小ぶりですけれども、ちゃんとまとまって進んでいるのかなという印象を持っています。

【榊主査】
 玉尾先生、いかがでしょうか。

【玉尾委員】
 僕もあまりあれなのですが、おそらく科学というか、サイエンスとしては非常にしっかりとした新しい方法を見つけていると思いますので、強調されたとおり、あとおそらく技術的な、いかに逆反応を抑えるかとか、そのあたりで高濃度のものをきちっと取り出していくかという段階のように思われましたので、非常に期待できる方法だと。触媒としては非常にすごいように思います。

【榊主査】
 さっき、井上先生がお尋ねになった件で、例えば表面の組成だとか、双晶の部分の組成だとか、いろいろなものが75パーセントの付近に非常に特異的によくなっているというお話と、もう一方で何かの条件だと表面のほうはパラジウムがリッチになるとかというような話をちょこっと言われたりというので、私、わからなくなってしまったんですけれども、その辺は魚崎先生、どう判断すればよろしいですか。

【魚崎委員】
 いや、それはちょっと。前回の燃料電池の触媒なんかもそうなんですけれども、結局、バルクでつくったのと表面の組成が変わってきて、しかも、また反応の途中で濃縮とか何かが起こってきて、そこがまた非常に難しいところなので、その辺が実際に彼がどこまで押さえているのかというと、表面の話はほとんど彼はやっていないんですよね、TEMぐらいで。ですから、反応の途中の表面分析とか何とかもやっていないので、そこはさっき最初にもコメントしましたけれども、もう少し議論が要るのかなと。
 濃縮が進まないというんですけれども、それは深く議論はまだしていないのかなという感じはしましたね。一般的にパッと私でも思いつくようなことかなと。だから、もう少しほんとうに上げるにはどうしたらいいかというのは詰められる。あるいはもう少し触媒を――今、Pd-Auしかやっていないというのは、ほんとうにそれでいいのかというところ、まあ、それもイギリスの人が、これは我々のものだと言っているときに、そうしたら主導権がとれるのかというか、その辺がちょっと気にはなりましたね。

【榊主査】
 井上先生、先ほど何か。

【井上委員】
 いや、私、3対1のところでオーダーでFCCか、一種のそういう規則-不規則変態が起きて、それが反対に、その変態点があるがゆえに双晶変態的なもの、そうだとすると、その双晶境界等が成分の不均一さをもたらして、それがものすごくこういう触媒になるとなると、これが5ナノ、10ナノのサイズですから、その中のさらに細かい、これがキーポイントだとすると、幾らPd-Auでイギリスが取られていたとしても、その本質的な機構が違うというところで新しい特許を出せる可能性があるかもしれない。だから、そういう意味ではどうかなというのがありますね。

【榊主査】
 ありがとうございます。
 ほかにご質問やコメント、いかがでしょうか。前のプレゼンテーションが非常にたくさんあるのに対して、今度のは非常にフォーカスされていて、フォーカスされているときに私のような分野が違っても、幾分理解が進んだかなというような感じがします。

【魚崎委員】
 そういう意味では、最初の審査会のときに言ったことを受けて、ちゃんと絞ってやっている感じはしましたね。研究費も4分の1かぐらいですか、5分の1?

【中山PO】
 まあ、小ぶりではあったので半分か3分の1。

【魚崎委員】
 今、6,000万円ぐらいですか。

【中山PO】
 ええ。1億円ちょっと超えるぐらいの、たしかそうだったかなと思う。1億何千万かの提案を半分以下にした、そんなイメージです。

【魚崎委員】
 半分以下ですよね。

【榊主査】
 そういうことですね。ある面で予算の規模が適正だとピタッと絞り込まれるけれども、少し大きくなると余裕が出てきて、少し分散するというところがあるかもしれませんね。

【魚崎委員】
 だから、実際問題、堂免先生のやつも、まあ、1つになっているけれども、実際には3つ、あるいは4つのサブグループのネットワークという感じですよね。

【榊主査】
 ネットワークということですね。1つずつ3つの別々のものと思えばまたフォーカスされていると。

【魚崎委員】
 ええ。

【榊主査】
 わかりました。

【中山PO】
 触媒、最初の採択のときには、これ、4件とったことかなとか、そんな議論がありましたね。

【榊主査】
 なるほど。

【中山PO】
 魚崎先生もおっしゃっていました。だから、堂免先生のところがわりと3つに分かれていて、これが1件で、触媒は4件とったという意味かなと主査がまとめて総括で終わった。御園生先生がそういうことをおっしゃったのかな。

【榊主査】
 そういうことですね。

【魚崎委員】
 触媒とか何かだと、そんなに1つが大きいものになっても、結局、分析装置を買うとか、そういう話になってしまうんですよね。

【榊主査】
 わかりました。ほかに何か。岸先生、何かありますか。

【岸委員】
 いや、予算的には確かに3対1なんですね。

【魚崎委員】
 そうです。

【岸委員】
 まあ、素人なんですけれども、ほんとうに表面と組織と反応をどう組み合わせたら、どこまで行っても錬金術的なのか、議論があるのか。おもしろいのかもしれないですね。よくわからんところがですね。

【魚崎委員】
 だから、これぐらいのナノ構造になってきたときのナノ触媒の表面をどうきちっと知るのか、しかも、反応が起こっているその場でどう調べるのかというのはなかなか難しいところです。

【岸委員】
 ほんとうに調べ切れないんですね。

【魚崎委員】
 動いているときですね。だから、そういう意味では計算との組み合わせとか、そういう話にもなるんでしょうけれども。

【榊主査】
 ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。
 それでは、この石原先生につきましてもあれですが、記入していただくために今回も三、四分ちょっと時間をとらせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

(評価票記入)

【榊主査】
 ほんとうに錬金術という感じがしますね。

【岸委員】
 楽しいですね。何が出てくるかわからない。

【玉尾委員】
 錬金術?

【岸委員】
 いや、決して悪い意味じゃなくて、やっぱり夢はそこなんです。

【魚崎委員】
 そうそう。

【岸委員】
 まあ、化学って、もともと化けるんだもの。

【魚崎委員】
 そうです。

【玉尾委員】
 化学はそういうところありますね。

【魚崎委員】
 だから、逆に燃料電池だと酸素から水だけに行きたいのに、彼は一生懸命過酸化水素をつくりたいというのは、これまたなかなか。

【玉尾委員】
 おもしろいよね。

【魚崎委員】
 過酸化水素なんて、できたらエネルギー効率半分になっちゃうんですね。燃料、酸素還元するとき。

【榊主査】
 そういうことになる。

【魚崎委員】
 体の中でも、酸素を吸って、我々は水にしかしていないから、それで時々過酸化水素とか何か、そうするとローカルごとになるんですけれども、水をつくるというのはえらい難しい話なんですけれども、彼は水に行きたくないという。

【榊主査】
 なるほど。そう考えると、おもしろいですね。

【玉尾委員】
 いや、それはもうすごいよね。

【魚崎委員】
 だから、酸素分子を、これを切らなきゃ水にならないわけですよね。ところが、過酸化水素だと両方つければいいから、えらい簡単な話なんだけれども、そんな難しいものかなと思ったりして。

【栗原委員】
 でも、もう少し、キャラクタリゼーションはまだまだやれますよね。

【魚崎委員】
 そうそう。キャラクタリゼーションをもっとしないと。

【栗原委員】
 現状ではもっとずっとやれると思いますね。

【岸委員】
 触媒の?

【栗原委員】
 触媒の。ただ、変わってしまうんじゃないですか、担持して反応していったら、どんどん状態は。だけど、初期の状態は……。

【魚崎委員】
 だから、XPSなんかも全然やっていないというのはちょっとやっぱりもの足らないというのはありますね。

【栗原委員】
 初期の状態はできる。

【魚崎委員】
 もともとの触媒の人ですね。どっちかというと、非常に触媒の人という感じ。

【榊主査】
 そのパラジウムと金の組み合わせというのは、さっき聞くと酸素と水素のちょうどいいバランスからすると、大変いい組み合わせのように思うんですけれども、なぜ今まであんまり試みられてこなかったんですか。

【魚崎委員】
 いや、というか、過酸化水素をつくりたいというのは。

【榊主査】
 そういうあれですか。

【魚崎委員】
 いや、よくわかりませんけど。我々だと逆に過酸化水素をいかにつくらないかばかり考えていますから。

【榊主査】
 なるほどね。ああ、そういうことか。

【魚崎委員】
 ええ。金-パラジウムというのは我々も扱っていますけれども、それは金をコアにしてパラジウムを外に一皮だけつける。そうすると、またかなり特異的な性質になるとかですね。

【榊主査】
 ああ、そうですか。

【魚崎委員】
 同じ貴金属でも金はものすごい貴金属なんですよ。酸化されにくいんですけれども、パラジウムはそもそも酸化されるとか、その辺の違いがやっぱり。

【榊主査】
 なるほどね。
 それでは、時間が少し早いですけれども、再開させていただくということでしたいと思います。先ほども少し申しましたけれども、石原先生へのメッセージにつきましては、きょう議論したことを私と事務局のほうで相談をして伝えるようにさせていただきたいと思います。それから、皆さんの評価のほうについては、きょう置いていただくか、あるいは先ほどお話のあった期日までによろしくお願いしたいと思います。
 それでは、第3のプロジェクトに移りたいと思います。組織制御構造体の開発につきましては、研究責任者の東大の小関先生からご説明をいただきますが、まず澤岡先生からコメントをお願いいたしたいと思います。

【澤岡PD】
 まず、このプロジェクトは、最初、スティール・スティール、ステンレスと炭素鋼、そういうものの複合、結合の問題と、もう一つチタンとの複層板の大きな 2つのテーマがあったのですが、進行のいろいろな事情からチタン系については後回しにすると。鉄・鉄系にまず力点を置くということで、途中で予算につきましてもかなり縮小して、今年度は鉄に特化するという形になっております。
 そういう中で、当初、うまくいくのだろうかという大変心配な点もありましたが、最近、ミクロに見て大変すばらしい成果が出てきたのではないかと思いますが、マクロに見てそれがつながっていくことなのかどうかというあたりを、私、外から見ていて不安な点でありますので、その辺を中心にご評価いただけたらと思いますが、この専門家のお1人であります井上先生が今いらっしゃいませんので、井上先生にはぜひ聞いていただきたいと思っております。

【榊主査】
 きょうはご用件がおあり……。

【中山PO】
 順番を変えればよかったですね。

【澤岡PD】
 ああ、そうですか。

【榊主査】
 まことに残念ですけれども。

【澤岡PD】
 岸先生がそのかわりを。

【岸委員】
 私、当事者なので、ニュースが大分入り込んでいるので。そうか、先生、帰られちゃったのか。あらら。

【榊主査】
 順番を入れかえればよかった話なんですね。

【澤岡PD】
 北澤さんはあれですか。

【中山PO】
 北澤さんはいると思いますけれども。

【榊主査】
 北澤先生は。このあれからするとお戻りになるようだったら。

【澤岡PD】
 ご専門からちょっと遠いですけれども、よくそのあたりもご見識があると思いますので。

【榊主査】
 背景をいろいろよく伺っておくと、理解がしやすいものですから、岸先生、遠慮なく少し発表というか。

【岸委員】
 今ですか。

【榊主査】
 ええ。

【岸委員】
 積層材というのは古くて新しいようなテーマなんです。昔から何とかしようやというところなんですけれども、界面の微細組織制御と、界面の強度が非常に評価しにくいんですよね。そんなことがあったんですけれども、そこを今頑張ったというのと、それから、マルテンサイトが意外に伸びるぞというのは、我々もちょっとそこは合うと思っているところなんです。ただ、あとは長期的にはどう使うか。溶接構造物で使うのか、単体で使うのか、性質のほうも強度と延性とやはり靱性というのを今後どうはかっていくのか、いろいろ課題があると思います。私もよくわかっていないところがあるのは、遠慮なく質問はさせてもらおうと思っているんですけれども。

【榊主査】
 ありがとうございます。
 では、中山さん。

【中山PO】
 一言だけ。ずっと続けていて、あんまり先に言うのは悪いんですけれども、いかに設計思想を出していくかというんですか、たくさん界面の解析はされている、出てくるかと思うのですけれども、いかにそれをさらに新しいものをつくり込んでいく設計というような感じで次に展開していくかというあたりを注視していただければ幸いだと思います。

【榊主査】
 ありがとうございます。

【岸委員】
 だから、今のところで、組織を見るというのと力学特性がマッチした形になっているのかというところが。

【榊主査】
 なるほど、そういうことですね。

【岸委員】
 この分野で一番大事なところですね。

【榊主査】
 わかりました。私、お名前があれなので、これはオゼキ先生ですか、コセキ。

【阿部調査員】
 コセキです。

【榊主査】
 コセキ。コのほう。コセキ先生ね。はい。勘違いして読むと失礼になるので、申しわけございません。ありがとうございました。
 それでは、小関先生に入っていただくようにお願いしたいと思います。

(発表者入室)

【榊主査】
 では、きょうはお忙しい中、お越しいただきましてありがとうございました。まず、説明を始めていただく前に同行いただいた方を小関先生のほうからご紹介いただけますか。お願いいたします。

【小関教授】
 右側から、東京大学工学系研究科の鈴木教授でございます。

【鈴木】
 鈴木でございます。

【小関教授】
 物材機構の長井さんでございます。

【長井】
 長井でございます。

【小関教授】
 それから、新日鐵の谷口、東大の井上、それから、新日鐵の潮田先生でございます。

【榊主査】
 ありがとうございます。ご承知のとおりに、きょうは中間評価のヒアリングなものですから、これまで得られた成果をご紹介いただくとともに、今後進めるプロジェクトの中身について、あるいは計画についてもご説明をいただくようにお願いしたいと思います。
 それから、説明時間はご存じのとおり20分ですけれども、終わる5分前に1鈴が鳴りまして、2分前に2鈴が鳴りますので、よろしくお願いしたいと思います。それでは、よろしくお願いします。

【小関教授】
 東京大学の小関でございます。超高強度軽量移動体を可能にする複層鋼板とTi(チタン)シートの複合構造につきまして、中間報告をさせていただきます。
 地球温暖化の中でCO2(二酸化炭素)の大幅な削減が強く要求されておりますが、特に全体のCO2(二酸化炭素)の排出の中で2割を占めます移動体の、とりわけその中でも、だれもが知ります自動車のCO2(二酸化炭素)削減がやはり非常に強く求められております。そのために新しいエネルギー源の開発等々、さまざまな研究開発が進められているわけでございますけれども、いずれの場合におきましても、車両の重量の軽量化というのがCO2(二酸化炭素)の削減に大きなインパクトがありまして、例えば車両重量を100キロ減らしますと、CO2(二酸化炭素)で言うと8.6パーセントの減少が得られると言われています。ということで、こういうような大幅なCO2(二酸化炭素)の削減を可能にする超高強度の材料の開発が極めて重要と言えますけれども、高度材料として、軽量化と同時に衝突安全ですとか加工性、信頼性、あるいは溶接性といったようなものを両立するような材料が重要でございます。
 このような非常に高強度な材料を実際の自動車に適用した場合、どれぐらいインパクトがあるかといいますと、例えばフロントメンバーですとか、サイドメンバーに、強度で言いますと1,500メガパスカル、伸びで30パーセントの超高強度の高延性の材料を適用してみますと、従来の自動車と同じような衝突性能を維持しようと思うと、超高強度の材料を使うと、フロントメンバーで30パーセントの軽量化が可能になります。サイドメンバーの場合、38パーセントというふうに我々は試算しておりますけれども、こういったような材料を例えばボディ、シャシの6割に適用しますと、130キロの軽量化が可能になりまして、 CO2(二酸化炭素)に直しますと、約11パーセント、日本全体のCO2(二酸化炭素)にいきますと2パーセントもの値になります。こういうような車両重量の軽量化による大きなインパクトがあるわけです。
 このプロジェクトで目指します超高強度で高延性の材料というのは、こういったような大幅な車両の軽量化を可能にするような材料で、こういうようなところに位置づけられます。これは横軸は強度で、縦軸は延びでございますけれども、このような領域は従来、加工熱処理で組織を作り込んで特性を出している鉄鋼材料、あるいはステンレスやその他の単体の金属材料では届かない領域でございます。
 鉄鋼材料でこのように高い強度を実現しようと思いますと、非常に高強度ながら、脆い、延びない、マルテンサイトという性質を使わないといけないわけですけれども、同時にマルテンサイト単体ですと、後ほど申し上げますような水素脆化の問題や、あるいは溶接性を大きく犠牲にするといったような問題がある。こういうような領域を達成するためには、マルテンサイトで言いますと、延性をこれまでの3倍、あるいは今の自動車に使われています、いわゆるハイテンと言われるような高強度材料といいますと、強度を2倍にしないと、こういうような領域はできない。
 したがって、こういうような非常に高いレベルで強度と延性を両立させるためには、従来の金属材料とはやはり異なった設計の考え方を確立しないといけない。これによって大幅な移動体の軽量化が可能になるということで、我々、これに対しまして複層化というアプローチで、この問題を解決するということを提案してまいりました。実際、この2年間進めてまいりまして、この複層化のアプローチから、この中に赤で示すような特性を達成する材料を実現してきております。
 こういうような非常に高強度で高延性が複層化によって達成される理由なのですけれども、こうやって複層化する中で非常に高強度で、しかし、延性に乏しいような、先ほどのマルテンサイトのような材料を非常に高延性の材料で挟み込みまして、こういったような材料を引っ張り変形させますと、この複層化の界面が弱い場合はここから剥離が起こって非常に強い材料が途中で破断してしまう。延性が低いために破断してしまう。
 あるいはこの非常に高強度な層の層厚が大きい場合は、この層自身が脆性破壊して破断してしまうといったようなことで、高い延びは得られません。こういったようなことは、これまでのいわゆるコンポジットではしばしば起こっている問題なんですけれども、こういったようなことが力学的にわかってくるわけです。ここでは、こういったような問題を回避しながら、なおかつ金属、金属の複層化によって延性の高い領域を達成するために必要十分をこのプロジェクトの中で見出していく。このために必要な界面制御ですとか、幾何学設計といったようなものと、これまでの冶金設計を合わせた新しい設計概念をつくっていくというのがこのプロジェクトの目的でございます。
 すなわち、このプロジェクトの最終目標としましては、非常に高強度で高延性を両立しながら、なおかつ従来、高強度化すると、構造体としては必要不可欠なのですけれども、高強度化によって達成できない加工性ですとか、その他の特性も両立するような新しい材料を開発するというのが1つの目的でございまして、もう一つは、これを支える界面や力学の基盤技術を確立して体系化していくというような2つの目的が大きな目的になる。さらに材料の開発におきましては、強度で1,200メガパスカル、延性で20パーセント以上という数値目標も、このプロジェクトに当たっては挙げさせていただきました。
 これを実現するために中間のきょうまで何を優先してやらないといけないかということがこちらでございます。材料の設計の指針としては、高強度、高延性を実現するような必要な界面強度を明らかにする。その上に立って幾何学設計や冶金設計の要件を明らかにする。一方で、こういった超高強度で高延性の材料が実現した暁のインパクトですとか、あるいはそれが実際に使える材料になるための必要な特性を明らかにする。さらにこれらの開発をサポートする力学、あるいは界面の組織構造のモデリングからの解明、解析からの解明を進める基礎的な検討、これらが中間までの目標でございます。
 また、それらを可能にするさまざまな評価手法の確立もこの中で進めてまいりました。これを実現するために材料の設計指針の確立、それから、材料の開発を総合化するグループを中心としまして、自動車メーカーですとか、あるいは重工メーカーからの参加も得まして実用化の検討をするグループ。先ほど申しました力学や組織の解析、モデリングを基盤解析する基盤の3グループというようなグループ構成にしまして、産官学の役割を、それと連携を十分認識しながら研究開発を推進してまいりました。
 まず、複層化によって高強度、高延性を両立するために必要な界面強度ですけれども、この2年間の中でピール試験、それから、マイクロ試験片を使った破壊試験、これによって界面強度を評価する手法を確立してまいりまして、それを使いましてさまざまな複層鋼板の界面強度を評価しました結果、少なくともこういったような界面剥離からの低延性領域での破断を抑えるためには1kJ/m2(キロジュール毎平方メートル)という界面強度が必要であるということがわかってまいりました。この1kJ/m2(キロジュール毎平方メートル)というのはバルクの脆性破壊界面の形成エネルギーに近いものですけれども、こういったような強い界面によって高延性領域が可能になるということがわかってまいりました。
 こういったような非常に強い界面がどうやってできていくかということなんですけれども、これは後ほど申し上げますように、この複層材料は異なる材料を積層しまして圧延プロセスでつくってトランスミッションけれども、この圧延ままの状況ですけれども、この場合は界面が非常に弱い状態でございます。この熱処理をすることによって界面強度が増すわけですけれども、非常に短時間の熱処理の中で、この界面からナノサイズの非常に小さな、おそらく再結晶によると思われるような結晶の生成が起こっていまして、これが2つの界面を架橋するような様子が確認されて、さらにこの架橋と同時にbccとfccの組み合わせの中で相変態がこれをまたいで起こるということで、非常に強固な界面がつくられるということがわかってまいりました。
 ここに見られる非常に小さい白い粒なのですけれども、これはもともとの表面にあったネイティブの酸素がシリコンと結合してできた、シリコンの酸化物でして、ここにオリジナルの界面がある。それを非常に小さい結晶粒がまたいでいるというのがごらんいただけるのではないかと思います。さらに、この上に変態が通ることによって、こちらに見られるような非常にしっかりした界面になるというのがわかりました。
 こういうような強い界面が実現されてまいりますと、今度は幾何学的な設計が可能になりまして、非常に高強度ですけれども、脆い高強度層の層厚を制御してやらないといけないということになります。当然、どんどん薄くしてやらないといけないんですけれども、この限界の厚みというのが、この高強度層の靱性によって決まることがわかってまいりました。同時に、これを挟んでいる高延性層の加工硬化特性、これによっても強く影響されるというのがだんだんわかってまいりました。
 この加工硬化特性はn値と書いてありますけれども、n値が高いということは、変形を進めますと必要な応力がどんどん高くなっていくような材料特性でございますけれども、こういうような高n値の材料を高延性層として用いることによって、延性を確保するための高強度層の厚みが厚い方向になる。つまり、薄くしなくても高強度と高延性が両立できるというようなことがわかってまいりました。ということで、材料の幾何学的設計と同時に、冶金的な選択基準として高延性層の靱性、高強度性の靱性、高延性層のn値といったような指針が明らかになってきました。また、n値を取り込んだ変形モデルをつくりまして、こういったような必要な高強度層の層厚も予想が可能になってまいりました。
 こういうような設計指針の確立を経まして、さまざまな複層鋼板の設計をさまざまな高強度層と高延性層の組み合わせでこれまでトライしてまいりました。これらを使いまして、熱間圧延のルートと冷間圧延のルートからさまざまなトライをしてきましたが、この冷間圧延のルートに関して言えば、特殊金属工業という実際の会社の製造ラインを使いまして、幅は100ミリ程度で狭いのですけれども、長さで言うと100メートルぐらい長尺の薄板を実際何回かトライしてつくってまいりました。こういうような試作の中で、これまでたかだか5パーセントぐらいまでしか延びなかった非常に高強度のマルテンサイトが複層鋼板中ではグッと延びることがわかってまいりまして、こちらに知見を示しておりますけれども、この結果、先ほどごらんいただきました非常に高強度で高延性の領域を達成するような材料の実現に至っているということでございます。
 ここに5つほど点を打ってございますが、これはいずれも異なる高強度の材料と高延性の材料の組み合わせで材料設計をして足しているもので、このことは材料の選択の自由度といいますか、材料のいろいろな組み合わせの可能性というのをこの中で確認してきているということでございます。一方、このプロジェクトの中では、今までご説明しました鉄機能複層材料と同時に、Ti(チタン)基の複層材料も取り組むことになってございました。
 この2年間、一生懸命取り組んできたわけですけれども、冷延ルートからの取り組みでは、やはり非常に表面、強固な酸化膜がある。それから、Ti(チタン)はHcpの構造を持っておりますけれども、この低加工性になかなか冷延ルートではうまく進みませんでした。一方、熱延ルートでは作製することが可能になりました。ただし、熱延ルートにおきましても高温での酸化の問題、あるいは熱間加工値の割れ、それから、変形抵抗差、こういったような問題がございました。
 鉄基でこれまで検討が進んでおりますけれども、その設計指針の体系化、あるいは構築の中で重複部分を避けるという意味で、今後は鉄基で設計指針を詰めまして、これをTi(チタン)合金系に横展開していくといったような取り組みを進めてまいりたいと思っています。これまで強度と延性に関しましては、当初の目標を超えるようなファイル特性を得ているわけですけれども、実際、こういったような材料を移動体に適用していくということになりますと、強度、延びに加えまして、例えば加工性ですとか、構造体の信頼性のもとになります疲労強度ですとか、耐水脆化、それから、構造体の組み立てに不可欠な溶接性、こういったような特性をすべて満足しないといけないということになります。
 実際、非常に高強度な材料ができましたので、こういったような特性につきましても既に評価をスタートしております。それぞれにつきまして複層構造のメリットというのが考えられまして、これによって従来の高強度鋼を上回る特性が実現できるのではないかと考えております。特に耐水素脆化なのですけれども、これは高強度鋼で必ず問題になるような問題でして、この問題は母材だけではなくて溶接部でも問題になりますけれども、これについて後ほどごらんいただきますように非常に大きな特性のジャンプワークがあって、実用化の視野が大きく開けてきたと考えております。
 例えば加工性でございますけれども、従来、非常に脆いマルテンサイト鋼を曲げ成形ですとかプレス成形しますと、このように破壊するような場合も見られるのですけれども、複層化することによって非常に高強度な領域でも加工が可能になっている。極限的には密着曲げのような非常に強い加工も可能になるということが得られております。さらに、このような加工の中で局所的な変形の挙動ですとか、それらを解析する技術を確立してまいりまして、今後、こういったような加工の設計、あるいはシミュレーションに生かせていけるものと考えております。
 水素脆化ですけれども、鋼の水素脆化は溶接時、あるいは電池アクト層やCO(一酸化炭素)中の腐食のときに水素が混入しまして、それが引っ張り応力化のマルテンサイトに集積して脆化を起こすのですけれども、これは今ここで議論しているような1ギガパスカル以上の非常に高強度な材料で常に問題になります。この評価を水素チャージ下で加速試験をしてみますと、従来の鉄鋼材料ですと非常に短時間で破断するのですけれども、この複層材料を使いますと、このような応力レベルでは破断に至っていない。それから、非常に高い応力レベルでも従来の数十倍以上という寿命の増加が見られました。これは溶接熱影響でもこの効果は同様に期待されると思います。
 溶接の検討も既にスタートしておりまして、自動車の組み立てに今使われておりますスポット溶接ですとか、重ね隅肉のアーク溶接、これもスタートしております。溶接条件は従来の鉄鋼材料と同じような条件で溶接できることを確認しておりますし、また、先ほど申しましたような非常に高強度で問題になる水素に起因する低温割れ、これらは今認められておりません。また、ごらんいただけますように溶融部のごく直近まで、このような層状組織が担保されておりまして、本来、この溶融部の直近は非常に結晶粒の粗大化が起こって脆くなるような領域なのですけれども、この部分でも複層の効果は維持されると考えられます。
 ただ、今、実は超高強度層として使っています刃物用なのですが、非常にかたいSUS420というマルテンサイト系のステンレスでは若干ボンドの軟化が見られますけれども、これは先ほどごらんいただきました構成層の組み合わせの自由度がある程度確認されていますので、これを使って改善できると考えています。また、こういったような非常に高強度の材料にマッチするような、強度的にマッチするような溶接材料というのは既存にはございませんので、次のフェーズでは、こういったような溶接材料の開発も取り組んでいきたいと思っております。
 ということで、これまでの進捗につきましてごく簡単にご説明させていただいたのですけれども、これらの材料の設計指針、その他のノウハウにつきましては PTC出願も含めて5件の特許出願で権利の確保を進めております。また、同時にこれらで得られました成果につきましては、シンポジウム等で発信をしております。
 一方、今後の予定でございますけれども、まず材料の開発につきましては、材料の指針の確立を通しまして、その体系化、さらにTi(チタン)合金とか、そのほかの金属材料に展開できる汎用化を進めていきたい。もう一つは実用化を視野に入れて、材料のさらなる検討、それから、プロセスの検討、溶接技術、それから、材料及び構造体として重要な信頼性評価技術の確立、こういったものを進めまして実用化の指針を進めていきたいと思っております。特に実部材の試作も自動車メーカーから提案を受けまして、我々、進めていて、実用化を視野に進めていきたいと思います。それから、力学、組織、ミクロ、ナノ組織の解析につきましては、学術基盤として体系化を進めていきたいと考えております。
 最後に波及効果でございますけれども、冒頭申し上げましたように移動体の軽量化によります環境負荷低減はCO2(二酸化炭素)で言いますと、日本全体の2パーセントというような値を試算しております。それから、自動車に限らず、例えば鉄道車両ですとか、あるいは自動車の中でもハイテン化比率が非常に高い軽自動車等のさまざまな移動体、あるいはシートマテリアルに限らず、もっと厚板も含めますと造船、建築、エネルギー関連のさまざまな構造体への適用というのも考えていきたい。
 もう一つ、この中では金属・金属の界面の基礎理解というのが進みまして、体系化をするのですけれども、これからマルチマテリアル化がさまざまな構造体で進む中で、新しい複合化の技術、あるいは接合技術に展開していけると考えております。一方、このような複層材料の構成材料は、今非常に高強度な材料と高延性材料を組み合わせておりますけれども、必ずしもその単体が、例えば高炉メーカーから出るような非常に高性能でピュアリティーの高い鉄である必要はありませんで、リサイクル、つまり、スクラップから来るリサイクルの素材を構成しても幾何学設計と界面制御を駆使することによって、高性能な材料の可能性を実現できると考えております。
 ということで、これからスクラップが非常に多くなるのも目の前に来ていますし、エネルギー的にも、CO2(二酸化炭素)的にも非常に環境負荷が小さい素材を使って新しい高性能材料もこのようなコンセプトでつくっていけると考えております。
 以上でございます。ありがとうございました。

【榊主査】
 ありがとうございました。
 それでは、ただいまのご発表に対して質問やコメントをお願いしたいと思いますが、いかがでしょうか。お願いします。

【遠藤委員】
 なかなか立派な成果をお出しになっているんですけれども、同様の取り組みは、例えばカーボンファイバーで自動車全部をつくって軽量化をしていこうとか、それから、米国でフリーダムカープロジェクト、似たような軽量化のプロジェクトにすごい力を入れていますけれども、皆さん方のこのコンソーシアム、これはどうでしょう、国際的に見て皆さんの――いろいろな先ほど申し上げたカーボンファイバーに対する自動車のモデル、それから、米国の行き方、これの中で位置づけはどんなふうになさっていますでしょうか。

【小関教授】
 自動車の軽量化のアプローチというのは、ご指摘のとおりいろいろあると思います。軽量の材料を使う、カーボンファイバーを使う等々ございます。材料間の比較につきまして簡単にご紹介したいと思います。1つは材料の強度特性だけでなく、例えばコストの問題ですとか、あるいはそのほかの利用加工技術、これは一例でございます。ほかの材料との比較ということで、まず、非強度の問題で、例えばアルミやマグネシウムが非強度にまさるというような議論がございます。ただし、鉄鋼材料もここまで強度を上げてまいりますと、非強度ではむしろアルミ、マグネシウムよりもすぐれることになります。カーボンファイバーにつきましては、CFRPにつきましては、これはつくり方や中のカーボンの比率によって特性、大きなレンジがありますので、必ずしも比較はできないのですけれども、今、報告されています非常に高性能なもので言いますと、非強度では及びません。
 しかし、例えばコスト、単位非強度当たりのコストでは非常に大きく、我々、相当高い値段で見積もって、なおかつこういうような差になっていますし、また、それ自身の生産環境負荷も非常に大きな差があります。特に先ほど申し上げましたようなスクラップルートでいきますと、もうこの差は非常に大きいもの。そのほか例えば接合技術の問題、それから、材料としてのリサイクルの問題、そういったようなものを含めて鉄鋼材料というのはやはり。それから、量的な供給能力。例えば日本だけでも、今、1,000万トンの鉄鋼材料が自動車に使われていますけれども、それと同じような量が供給できるかどうかというような議論も含めて、鉄鋼材料で非常に高強度なところを実現して軽量化を図るというルートが重要かなと感じております。

【遠藤委員】
 ついでで恐縮なのですけれども、もう一つ、例えば非常にいい特性が出ているんですけれども、予想しなかった機能、例えば衝撃吸収性とか、最近、F1などでレーサーが事故、クラッシュを起こしてもなかなか致命的な傷を負わない。これはカーボンファイバーコンポジットがその衝撃吸収性を持っているという、これも機能しているようなんですけれども、例えばそんなような機能も何か期待できるような新しい機能というのは、この複鋼板にございますでしょうか。

【小関教授】
 まず、構造体として衝突エネルギーの吸収能力は強度と延性両方で効いてまいりますので、今のような超高強度で高延性ですとエネルギー吸収能力は高い。それから、単体として、例えば破壊しやすいかどうかということなんですけれども、複層構造にすることによって靱性値も上がってまいります。構成する材料にもよりますし、また、界面を導入するということで、脆性的な破壊が非常に抑えられるというようなことで、材料としても破壊特性が非常にすぐれるというようなメリットがございます。

【遠藤委員】
 それからあと、製造時に、最近よく新材料を出すときにワットアワー毎キログラムとか、製造エネルギーコスト、これをよく比較対照で出すんですけれども、この材料は比較的そういう投入エネルギーは少なくて済むという特徴がある。

【小関教授】
 少なくて済むと思いますね。

【遠藤委員】
 やっぱり機械加工というのが効いてきている。

【小関教授】
 今、将来的なプロセスとして考えておりますのは、特に冷間加工からの、これは将来的なイメージでございますけれども、冷間によって圧延して積層化して、これ、実はポリマーなどで既にやられているのと同じでございますけれども、その後に界面をつくり込むのと、非常に強度の高い層とやわらかい層を1プロセスでつくれればと。実際、今使っています熱サイクルもそういったことが可能になるような熱サイクルでございまして、こういうようなことでつくれるのではないかと思います。

【遠藤委員】
 ありがとうございました。

【榊主査】
 ほかにいかがでしょうか。

【北澤委員】
 これは自動車鋼板として使ったときに一発成形というんですか、そういう感じでつくれるものなんですか、ボディとして。

【小関教授】
 そうなるのを期待しております。複層化によって非常に高強度でも、なおかつ成形性が高くなると期待しております。

【北澤委員】
 ああ、そうですか。

【小関教授】
 はい。ただ、今の非常に高強度な材料は成形性が悪いので、例えば温度を上げて温感で成形する等々の、今の材料はそういうことをやっておりますけれども、そういうようなことをしなくても、例えば……。

【北澤委員】
 これになると、今度、そういうふうにできる。

【小関教授】
 室温でもできるようになればと考えております。今の検討では、そういうことが期待されています。

【北澤委員】
 ああ、そうですか。

【榊主査】
 ほかにいかがでしょうか。どうぞ。

【岸委員】
 怖いのはやっぱり溶接部の水素が絡んだ脆性破壊だと思うんですけれども、おもしろいので、16ページで、負荷応力で破断時間、非常によくなっていますけれども、これは目標は1,200メガパスカルですね。

【小関教授】
 はい。

【岸委員】
 ですから、この上のほうはこれからやるんだと考えてよろしいですか。まだデータがないと。横軸です。目標はそっちですよね。

【小関教授】
 1,200メガパスカルの材料ですけれども、設計応力はどこまで行くかというようなことになるかと思います。今のところは1,200メガパスカルまでしか評価してございません。

【岸委員】
 これからやるんですね。これ、最初に目標が1,200メガパスカルと書いてありますよね。

【小関教授】
 まだここまでしか試験結果が出ておりません。

【岸委員】
 ああ、そうか。

【小関教授】
 すみません。

【岸委員】
 今何、一番強いので幾らなの。1,200はまだ行っていないの。

【小関教授】
 いえ、一番強いのは1,350メガパスカル。

【岸委員】
 それでこの試験をやればいいわけですね。

【小関教授】
 はい。これは曲げでこういったようなものを与えたんですけれども。

【岸委員】
 じゃあ、今後出てくると期待していいわけですね。

【小関教授】
 はい。

【岸委員】
 それから、水素はスポット溶接だけを考えているんですか。これは今後……。

【小関教授】
 基本的にはアーク溶接のときに水素が入りまして、今でも非常に高強度な材料はアーク溶接して、翌日割れている。これは水素の集積に時間がかかって、遅れ破壊と同じですけれども、後になって割れるといったようなことが自動車に限らず、いろいろなアプリケーションの中で起こっております。この場合は、母体は当然、準安定オーステナイトと、非常にかたいんですけれども、マルテンサイトの層状で準安定オーステナイトのほうが水素の吸収能が高いので脆化しないのですけれども、溶接金属そのものも残留オーステナイトが残るような成分系になっています。これは母材の希釈率といいまして、母材の部分も溶かすのですけれども、それにかかわらず安定してライト、マルテンサイト、オーステナイトの3層領域が入る。そのオーステナイトが十分リタボウとなって余剰の水素低下を起こさないようにしているというような設計になっております。
 それと、今後使われるであろう例えばレーザー溶接でも、今のこの積層の考え方からすると同じようなことで水素脆化、対比は強いと。

【榊主査】
 よろしいですか。

【岸委員】
 ただ、個々に溶着部及びHAZ部の強度なり靱性なりをこれからやはり評価はしないといけないわけですよね。

【小関教授】
 おっしゃるとおりでございます。

【岸委員】
 それから、最適な溶接法というのは、まだいろいろ考えられるのかなという気がしたんですけれども。

【小関教授】
 今の汎用のポイントへの溶接に対して、今後、例えば先ほど申し上げましたレーザー溶接ですとか、あるいはフリクション……。

【岸委員】
 溶接しないでも使えそうなところというのは、どこかあるんですか、そういう材料の使い方というのは。

【小関教授】
 今の自動車の構造体の中で。

【岸委員】
 いや、自動車以外だって、これ、適用してもいいわけですよね。

【小関教授】
 産業機械等の機械構造用鋼としては溶接なしでも使える。

【岸委員】
 わかりました。

【榊主査】
 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。どうぞ。

【長我部委員】
 今の溶接のところですけれども、多分、アルミなどは、今、摩擦撹拌接合で今度、接げるようになったりとか、随分進歩していると思うんですけれども、この材料も、ちょっと今お話に出たかと思うのですが、レーザーとか、あるいは摩擦撹拌接合でどうなるというあたりは、もうお試しにはなっているんですか。

【小関教授】
 摩擦撹拌接合、FSWはまだ溶接の検討が始まったばかりで、試しておりません。ただし、鉄鋼材料そのものがFSWがまだ十分できる状況にございません。ツールの開発が必要で、アルミよりもっと変形抵抗が大きくなるとなかなかいけませんので、ほかの鉄鋼材料と歩調を合わせるような形にはなるかと思います。

【長我部委員】
 もう一ついいですか。

【榊主査】
 どうぞ。

【長我部委員】
 界面のことをお伺いしたいのですけれども、BCCとFCCがあるんですけれども、これはある程度配向した形であって、その間のところがアニールで再結晶してというお話をされましたけれども、この辺の構造とか配向関係とか、それによる強度の違いとか、そのあたりはどうなっているんでしょうか。

【小関教授】
 加工ままで、界面付近は特徴的な集合組織の発達でございます。ひずみが比較的集中していて、その後、多分、それを駆動力にしていると思うんですけれども、ごらんいただいたような結晶の生成が生まれている。その後は冷却過程で相変態のBCCとFCCの場合、その上をまたいで起こるようになりまして、その結果としてはBCCとFCCは非常に整合性のいい界面になっております。

【長我部委員】
 そうすると、アニールの初期に入っている、ひずみの入り方みたいなものでアニールしたときにどういうふうに再結晶していくとか、あるいはBCCとFCCがどういうふうにつながっていくかということも、いろいろな違いが出てくるというふうに考えられるわけですが……。

【小関教授】
 まさしくおっしゃるとおりです。

【長我部委員】
 その辺はコントローラビリティーというのは今どのぐらいあるんでしょうか。

【小関教授】
 おそらく今、先生がおっしゃられたようなことを界面の基礎理解のためにはきちんと詰めていく必要があると思います。今のところ、加工を与えて、あとは熱でその部分で組織をつくり直すということですので、コントローラ部だと考えております。

【榊主査】
 ほかにいかがでしょうか。

【岸委員】
 もし時間がまだあるなら……。

【榊主査】
 あります。

【岸委員】
 なぜ複層中のマルテンサイトがこんなに伸びるのかについてぜひ。

【小関教授】
 一番難しいご質問で、マルテンサイトはもともと5パーセントぐらいまでしか伸びないんですけれども、複層になると、我々ですと最大60パーセントぐらいまで伸ばすことができています。幾つか基礎メカニズムの検討を進めておりますが、最終的には今後も検討しないといけないと思っています。1つは非常にタイトな界面をつくることによって、通常、界面にパイルアップするような転位が抜けていくというのが1つ考えられます。
 もう一つは、マルテンサイトの変形につきましては大分検討を進めまして、なぜマルテンサイトがこんなに変形するか、伸びるかということについては、我々も重大な関心を持って、おそらくこんなにマルテンサイトが引っ張りの応力下で変形するというのを見たのは、多分、我々が初めてじゃないかと思うんですけれども、圧延の過程ではこういうような変形というのは報告がございますが、引っ張りの中でこれだけ伸びるというのは、我々も一生懸命論文を調べましたけれども、なかなか見出せていない。
 その中で、それまでは非常に加工硬化が小さい。つまり、特定のマルテンサイトの結晶学的な方位に従って滑りが起こっているのが観察されています。あるレベルを超えますと、そのほかの滑り系も動き出しまして、加工硬化が上がる。つまり、このレベルまで界面拘束で持っていくと、マルテンサイトは伸びる材料に、その手前が非常に伸びにくい領域でして、そこから普通のBCCと同じような滑り系が動き出すというようなことが観察で示されてきています。実際、マルテンサイトの初期のポーズは非常にラスのところに転位が蓄積して、それを超えて転位が移動するとは思えないんですけれども、ある程度進みますと、その境界が非常にぼやけてまいりまして、ラスの方向ではない方向の滑り系が動き出すことによってマルテンサイトが伸びるようになったと。
 3つ目のメカニズムは、ネッキングが始まるようなところですけれども、ここの部分はまだ大いなる仮説なんですけれども、界面がやっぱり非常に整合性のいい界面ですので、そこの部分でネッキングが起こると、局所的に加工硬化が順次繰り返されて界面全域が加工硬化するまで伸び続けるといったようなことを考えております。ただ、大分仮説の部分もあって、検証していかないといけないんですけれども、マルテンサイト自身については大分わかってきたというふうに考えております。

【岸委員】
 でも、加工硬化指数ってそんなにn値が大きくなるわけでもないから。

【小関教授】
 具体的な数字も。

【岸委員】
 まあ、全部組み合わせて何かが起きているのかもしれない。

【小関教授】
 はい。単独では説明がつかない。

【岸委員】
 いやいや、それはぜひ何かわからせていただきたいですね。

【北澤委員】
 でも、伸びることは確かなんでしょう。

【岸委員】
 確かなんですよ。100年もやっていてよくわからなかった。あまり出てこなかったようなことが出てきちゃうからおもしろいですよね。いやいや、これは私もずっとおもしろいと思って見ているんですけれども。

【榊主査】
 ほかに。

【谷口】
 すみません、水素脆性のところで議論があったんですけれども、使う側からしますと、水素脆性というのは溶接以外に、自動車ですと電着塗装、そこからかなり水素が入って、今のハイテン化のネックというのはものすごくそこが重要視されていまして、この技術、もしその水素脆性がなくなれば相当のインパクトのある技術だと思いまして、我々、トヨタ、日産、私ども新日鐵、これは使うことができればすごく革新的な技術ということで、伸び以外に水素脆性を抑止できる技術は今のところあれはないので、非常におもしろい技術だと思って、我々検討チームとしては非常に高く思っております。

【岸委員】
 いや、ですから、1,300メガパスカルまでのデータもぜひ欲しいですね。

【谷口】
 そうですね。

【榊主査】
 ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。もしよろしければ、これでヒアリングを終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。

【小関教授】
 どうもありがとうございます。

(発表者退室)

【榊主査】
 それでは、これから少し意見交換を15分ほどさせていただきたいと思いますけれども、いかがでしょうか。私、全くの素人ですけれども、大変おもしろいというか、素直な試みが非常に大きな効果を呼んだなというような印象を受けましたけれども、いろいろまだディテールは理解するのに、これからしなくてはいけないんですけれども、材料としての必要な条件をほぼ何かすべて満たしているような印象を受けましたけれども、いかがなものでしょうか。

【北澤委員】
 このプロジェクトのほんとうのリーダーはだれなんですか。つまり、メーカー主導なんですか、それとも東京大学主導。

【岸委員】
 東京大学主導なんですけれども、彼は新日鐵から移ってきたという経歴があるというのが1つ特徴かもしれませんね。

【北澤委員】
 ああ、なるほど。

【澤岡PD】
 審査のときに、私は、鈴木先生が陰で糸を引いて小関さんが踊っていると思っていたのですが、何度か会合に出て、ああ、ちゃんと小関先生はリーダーだったと安心した。これは東大がグループとしてよくまとまってやられているんじゃないかなと。集団指導体制でうまくいっている例かと思います。

【榊主査】
 遠藤先生、先ほどいろいろ別の材料とか、アメリカの動きもちょっとあれなので、少しコメントいただけますでしょうか。

【遠藤委員】
 やっぱりこの分野で日本がリーダーシップをとれれば、非常に大きな変革を起こすと思うんですね。期待できるんじゃないでしょうか。ただ、ちょっと気になったんですけれども、耐食性とか、マイクロ電池ができる可能性があるんですね。そういう場合に耐食性かどうか聞きたかったんですけれども、時間があれだったので。
 それから、最近は自動車も含めて15万キロ、15年間保証というのが来られますので、そういうロングレンジの耐力、耐性を持つかどうかですね。これは多分、これからの課題だと思うんですけれども、多分、お話になれない、ちょっとしたウィークポイントもあるかもしれません。そういうものをこれから詰めていただいて、やっぱり完璧を期していただきたいですね。

【榊主査】
 耐食性の話というのは、さっき言った電気化学的な電圧が発生しちゃったりとかいう問題。

【遠藤委員】
 そうですね。異なった金属を2つ合わせていますので、それはどうしても出てくると思うんですね。そうすると、例えば塗装がはげやすいとか、いろいろな問題がございますので、ぜひそういうマイナーな部分かもしれませんけれども、そういう細かいところを詰めていただいて、いよいよ実用化に向けた詰めのプロセスに後半は入っていくのではないでしょうか。

【榊主査】
 ほかにいろいろな判断を深めるのに有用なコメントを。

【玉尾委員】
 ちょっと教えてください。全く素人ですけれども、何か2つを――2つというか、複層で重ねる。こんなの普通にすぐ思い浮かぶようなものだと思うんですが、これは何がよかったんですか、今回ので。厚さとかあれですか。

【岸委員】
 今回はマルテンサイト相が……。

【玉尾委員】
 マルテンサイト相ということすらわからないんですけれども。

【岸委員】
 ああ、そうか。鋼を強くすると、いわゆる焼き入れってしますよね。焼きを入れる。

【玉尾委員】
 焼きを入れる。

【岸委員】
 マルテンサイト相って出るんですよ。大体脆くてしようがないんです。それで、今までの重ね板というのは、正直言うと私の恩師が大好きでこればっかりやっていたんですけれども、できるだけ同種のものを使ったり、ちょっと違うもので傾斜機能材料的に使うというのがあったんですよ。そこに対して一番鉄のFCC とBCC構造で、かつBCCをマルテンサイトにしてみたら、伸びないはずが伸びちゃったというんですね。これが一番の特徴なんです。

【玉尾委員】
 ああ、特徴ね。

【北澤委員】
 でも、これ、最初から予想してやっていたんですか。今回のプロジェクトの中で意外なことが出てきたんですか。

【岸委員】
 最初からここまでは予想し切れていなかったはずなんです。ほんとのこと言って、あんまり見たことないんです。そんなには伸びないけど、やってみるかという部分があったんですけどね。

【玉尾委員】
 何かその厚さであるとか、その辺のところのクリティカルなところが効いているのかなと、ふと想像では思ったりしたんですけれども、そんなこともありそうなんですか。

【岸委員】
 それもあります。

【玉尾委員】
 厚過ぎない。

【岸委員】
 ええ。だから、今、厚さと……。

【玉尾委員】
 その層ですね。

【岸委員】
 これは私も聞きたいぐらいなんですけれども、層の厚さと延性が関係あるというんですね。これもほんとうのところ、だから破壊靱性が上がるというのがどういう機構になっているのか、案外わからないんですよ。

【玉尾委員】
 何かおもしろい。

【榊主査】
 不思議ですね。100ミクロンなんていうあたり、我々のセンスから言うと、ものすごく太いもので。

【北澤委員】
 鉄のセンスでは違いますね。

【榊主査】
 随分違うんですね。

【岸委員】
 澤岡先生がミクロにはおもしろいけれども、マクロをよく見たらどうかというところが、最初、おもしろいご指摘だと思って聞いていたんですけれども、ミクロにはそうやっておもしろいことがいっぱい出てきている。だけど、ほんとうに最後、使い切れるかというところですね。
 今、遠藤先生の言われたのは、あれは逆に塗装で逃れるというのが1つの考え方なんですけれども、しかし、2つ原因の違う金属が入っていると、必ず電池をつくりますから、内部電池の可能性もあるから、これは確かに次の大きな課題ですね。ただ、やっぱり一番怖いのは、高強度は水素脆性が起きてボカンというところなんです。それがうまくいったというので、ほんとうにそうだとすると、まだ1,200メガパスカルがないって、私は気がついて聞いてはみたんですけれども、多分、600ぐらいというと、ちょうど造船で使う鋼ぐらいですから、その辺でもあれぐらいの差が出たら有意義だという新日鐵の言い方もわからないことはないので。
 ぜひその現象のおもしろいものを1つ1つ追いかけるのと、ほんとうに使えるか。使えるところは、そうは言ってもまだまだ溶接をいろいろな形でやってみないと危ないですね。溶接構造、溶接の一番怖いのは、あの小さい欠陥、壊れちゃいますから、あらかじめそれを非破壊検査で見つけられるかというのは、原子力なんかでも最大の仕事ですね。そこのところがこれから、まだやってはいないわけです。非破壊検査の問題が必ず出てきます。

【榊主査】
 溶接の話で教えていただきたいんですけれども、今、2枚の板を溶接すると、その中心部分は今のような組成にはならないことになるんですか。どういうふうにくっつけるんですか。

【岸委員】
 いろいろくっつき方がある。それで、一口で言うと、溶着金属を使ってくっつけたところは案外問題がなくて、その近くのH、A、Zと書いたHAZの部分というのが硬化して壊れちゃうんです。

【榊主査】
 ああ、そういうことですか。

【岸委員】
 ここが怖いんです。ここにどれだけの欠陥があるかというのを非破壊検査で一生懸命調べるわけです。この技術はいつもペアになっているんですね。まだそこのところには行っていないということなんですね。強い構造材料というのはポケット材料もみんなそうなんですけれども、その辺がこれからもう少しなんですね。

【榊主査】
 この辺でまたもう一つブレークスルーがいろいろ入ってくる可能性がある。

【岸委員】
 入ってくる可能性がありますし、問題も起きてくるかもしれませんね。

【玉尾委員】
 これはやっぱり化学だけじゃなくて、ほんとうにこれも錬金術じゃないですか。

【岸委員】
 そうですね。錬金術って、もともと金属から出ているから。

【玉尾委員】
 まさにね。すごいですね。

【岸委員】
 でも、あとは自動車会社は、遠藤先生の言われたように、半分以上、今、注目しているのはCFRPなんですね。今、これ、値段が非常にいいんですけれども、鉄はどんどん……。

【榊主査】
 上がってくる。

【岸委員】
 5割ぐらい上がったなんて言われると、この値がどうなってくるか怖いんですよね。

【榊主査】
 そうですね。すごいですね。

【遠藤委員】
 石油の蒸留残渣でつくり出しましたので、ファイバーもですね。ですから、あのカーボンというのは太いとやっぱりほとんど伸びないんですよ。ところが、カーボンファイバーの10ミクロンぐらいすると、伸びが数パーセント出るんですね。やっぱり太さを上手に制御して、かつ中の組織で数パーセント、伸びがカーボンでも出る。ですから、多分、今の話も先生がおっしゃったマルテンサイトの層の厚さをどこまでうまくスレショールド、さっき玉尾先生がおっしゃったように、ナノサイズで精緻にコントロールしたときにはまだまだ機能がデザインできるというか、おっしゃっていたコントローラルになっていくんじゃないでしょうかね。

【玉尾委員】
 聞いていると、何かそんな感じしますね。

【遠藤委員】
 あれ、伸びが出ると、例えば自動車の車体なんか曲がった、デザイン性が増えるんですね。こう曲げたときに伸びますよね。それができる材料とできない材料では全然話が違ってきてしまうんですね。板しかできないというのは。ですから、伸びるというのは非常に大きなメリットですよね。

【榊主査】
 そうですか。わかりました。そうしますと、おかげさまで大変意見交換で理解が深まったかと思います。それで、きょう3つ伺いましたけれども、私の印象は、2番目と3番目は非常にフォーカスされているので大変コメントしやすいかなと。第1の部分が少し、先ほどもご指摘のあったように大変多岐にわたっているので、少なくとも3つのそれぞれについてきちんと評価をしていただいて、それで全体としてのつながりというようなことでまたコメントしていただけるとほんとうはいいのかな。もう書いて出してしまわれたかもしれませんけれども。

【玉尾委員】
 最初の3つのキーワードとしては固体触媒、真ん中のものもホモジーニアスをむしろ固体触媒にして環境触媒型にきっちりしようというアプローチで、そういう意味ではおそらく共通キーワードとしては固体触媒。

【榊主査】
 そういうことですね。

【玉尾委員】
 どうですか、魚崎さん。

【魚崎委員】
 まあ、それはそうです。

【玉尾委員】
 共通で探すとしたら、きっとそうなりますね。

【魚崎委員】
 ええ。

【玉尾委員】
 ほかは共通項はなかなか。

【魚崎委員】
 そうですけれども、この固体触媒として共通でくくったとしても、それは研究としての共通性はなかなかないですよね。

【玉尾委員】
 ないです、ないです。

【魚崎委員】
 金属でくくりましょうかと言っているのと同じようなものだから、なかなかそういう意味では。

【玉尾委員】
 そういう意味ではないんですけどね。環境触媒という観点でいけば、そういうことでくくっているのか。

【魚崎委員】
 環境触媒で大事な固体触媒を3つぐらい選びましたということ。

【玉尾委員】
 3つ並べましたと、そういうことだと思います。

【榊主査】
 わかりました。
 それでは、これからいろいろお書きいただく方のために5分ほど時間をいただいて、それで1つの……。

【岸委員】
 これ、きょう出すんでしたか。

【榊主査】
 いえいえ、きょう出さなくて結構です。きょう出される方はということで、そうでない方は、これで会合としては終わりにさせていただきたいんですけれども、最後に事務局のほうから、高橋室長、何か、よろしくお願いいたします。

【高橋室長】
 本日、資料のほうでございますけれども、資料6ということで……。

【榊主査】
 申しわけございません。まだありましたか。

【高橋室長】
 これはご参考というか、情報提供ということでございますけれども、資料6をごらんいただければと思いますが、これは昨日でございますけれども、内閣府ナノテクノロジー・材料PTとなっておりますが、これは具体的には総合科学技術のほうでございまして、総合科学技術会議、奥村議員を中心としたナノテクノロジー・材料のプロジェクトチームというのがございますが、ここでタスクフォースの設置についてということが議題に上りました。これは資料を見ていきますと、少しわかりづらくなっているのですが、最後の7ページを見ていただきたいのですが、タスクフォースをつくりまして、レポートをまとめていきたいということを考えているようです。
 レポートの中身としては、第3期、現在の基本計画の評価に関するようなことなのですが、最終的には推進方策の提案というようなことも念頭に置いた議論をやっていきたいということのようでございまして、7ページの前の6ページをごらんいただきたいのですけれども、6ページのスケジュールということでございまして、一応、2008年、今、7月ですけれども、2009年の3月、つまり、今年度いっぱいぐらいに活動をして、このようなレポートをまとめていきたいと考えているようでございます。プロジェクトチームでもいろいろご意見が出まして、フォローアップ中心でやるのか、また新しい政策提言みたいなことが必要になるのではないかと、いろいろなご議論がございました。
 4ページをごらんいただきたいのですけれども、タスクフォースの構成ということで、こういう案なのでございますけれども、5つの分科会を設けまして議論を進めていきましょう。若手、民間からの参加者も募ってやりましょうと。問題抽出、問題提起をやっていきましょうというようなことで議論を進めていきたいと。取りまとめは奥村議員、それから、日立の中村道治先生を中心にして取りまとめていきたいということでございました。
 昨日2日の会議でもいろいろなご意見が出まして、まだ議論の方向性ですとか、具体的にどなたがどういう役割をするのかというのは、はっきりしていないところでございますけれども、こういった形で第3期のフォローアップというか、中間評価と今後に向けての検討を総合科学技術会議としてやっていきたいということになっておりますので、我々としても、文部科学省としてもこちらにもしっかり対応していかなくてはいけないということなのだと思いますし、場合によってはこちらの委員会でもこれと並行したような形で議論をするというような必要が出てくるかもしれませんので、一応、きょうの段階でこのような動きがあるということを先生方にご報告させていただきたいと思います。

【榊主査】
 ありがとうございました。
 これにつきましてご質問やコメントをいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
 私のほうから一言申し上げたいのですけれども、実は私自身がこの総合科学技術会議の材料の関連の会合のメンバーとして、本来、そこのつなぎといいますか、連絡役も含めて十分に果たさなくてはいけないところなんですけれども、私自身、ちょっとこのところ十分に対応ができておりません。この件に関しましては、一、二週間前に事務局のほうからいろいろこういうプランをお尋ねしまして、どちらかというと本委員会というのは開催される頻度もあまり、限られておりますし、それから、分野が非常に多岐にわたるということで、それぞれ大事な分野について、こういうような形で若い方、あるいは産業界の方を入れて議論していきたいけれどもどうかというようなお話があって、私自身は大変結構なことではないかというふうに申し上げて、委員会としてもそれが最終的にオーソライズされたと理解しております。
 そういうわけで、総合科学技術会議側のほうの動きが以前よりはもう少し活発化すると言ったらあれですけれども、細部にわたっていろいろ動きがあるということですので、この本委員会との間の対応がより重要になってくるかなというような気もしておりまして、今、高橋室長が言っていただいたように十分な対応が必要かなと思っているという段階であります。皆さん、ぜひご意見をいただければと思いますけれども、岸先生、どんなものでしょうか。

【岸委員】
 いや、私も出られなかったんですけれども、何かいろいろご意見があったということで、内部的にも。

【高橋室長】
 ええ。特にこの4ページの枠組みですか、議論の枠組みをどうするのかということについてはいろいろご意見があって、こういった、いわゆる第3期の構造を踏襲した枠組みでまずきちんとレビューをして、それから議論を進めていこうという方もいらっしゃいますし、いや、そうではなくて、現在、トピックになっていることですとか、第3期を議論していたときには出てこなかった新しい課題について深堀をして議論すべきではないかという方もいらっしゃいましたし、せっかく第3期、あれだけ議論してつくったのだから、もう同じようなことを何度も議論をするのはやめて、新しい前向きな議論を中心にやっていくべきではないかというような方もいらして、若干、この考え方が、もう少し工夫をして立体的に何をやるべきかということを整理していかないと、やってもしようがないですよねという。だから、それは総合科学技術会議のほうの宿題という形になりまして、じゃあ、もう少し工夫した形で先生方にお願いしますのでよろしくというような形で会議は終わったと理解はしております。
 ただ、この最後の6ページのスケジュールは、一応は今年度中に何かをまとめなければいけない。特にレビューに関しては中間フォローアップ最終取りまとめというのをきちんとやらなければいけない。これは決まっていることですので、このことは何が何でもやらなければいけないんですよということですので、ほかの分野でももうこういう検討体制である程度分担を決めて、フォローアップの作業を始めているというようなこともあって、事務局としてはぜひこういう、今、主査からも話がありましたけれども、分担をしっかり決めて、ある程度活発に議論できるような体制でやらせてくださいというような説明もございまして、このやること自体は一応、会議では了承いただいたと。ただ、その枠組みや何に重点を置いて議論するかということについては、それぞれたくさん意見が出たので、事務局側の宿題として残っているということだと思います。

【岸委員】
 ただ、総合科学技術会議はいろいろな分野を俯瞰的に見ないといけないですよね。ナノテクに対して若干冷たいとは言わないのですが、飽きが来ているのかなというようなこと。それで、何で飽きが来ているかというと、ECの人が来て、日本はナノテク、最初にたくさん走っちゃったから、今、一休みなんですかと聞かれたんですよね。うちのほうは全体としては、まあ、27カ国、従えていますから、これからなんですよというような話をしていますけれども、何といっても予算も完全なだま打ちですし、ライフサイエンスがまた元気になったところだから、総合科学技術会議、ナノがあんまり元気になってほしくない部分もあるのかななんて心配をしているんですけれども。

【高橋室長】
 相澤先生がご出席いただいていまして、少しおっしゃっていたのは、科学技術予算が非常に厳しくなってきているという現実があるので、4分野ということを設定して、そこにある程度の予算を割り当てていくというやり方がとれるかどうかについては、総合科学技術会議としても相当心配をしていると。
 だから、例えば今度やっている革新的技術戦略みたいな形で、加速する部分をテーマを幾つかピックアップして、それに重点化するとか、少し工夫をしないと予算面で非常に厳しいですよと。だから、ナノテク・材料、重点4分野の1つだから引き続き予算確保をよろしくお願いしますということでは、総合科学技術会議としてはちょっと困るんですよねというような話もございまして、彼らも、総合科学技術会議としても全体の進め方の作戦、考え方を少し変えつつあるのかなと。
 今までの4分野を維持してやっていくという形から、もう少し柔軟に社会情勢の変化に応じてやっていけるように彼らなりにシフトしようとしているのかなという感じを受けたんですけれども、ただ、まあ、ライフとか、情報とか、ほかの分野の人たちが、ほんとうにそういう相澤先生の意見を理解してきちっと動いているかどうかはまた別の話なので、そこがやっぱり、総合科学技術会議の側としては非常に悩みであって、相澤先生、奥村先生、中村先生なんかもかなりお考えはそれぞれ違うようでございましたので、今後どういうふうになっていくか。いずれにしても、きちんとナノテク・材料の課題は、どこで何をやっていくのかというのはきちんと議論していかなくてはいけないというのは、最低限、それは必要なのではないかなという感じは持ちました。

【榊主査】
 どうぞ。

【横山委員】
 情報提供ということで関連していますので、よろしいでしょうか。

【榊主査】
 はい。

【横山委員】
 半導体の微細化がいよいよ32ナノの世代に突入しまして、いよいよ単独の企業ができなくなったということです。それで、 IBM、東芝陣営、インテル、TSMCと世界で3大拠点化が進んでおりまして、ますますその寡占化といいますか、置こうとしています。日本の産業界として、こういうのはだめだということで、More Mooreだけではなくて、いわゆるエレクトロニクスとナノテク・材料の融合分野ということで、ナノエレクトロニクスをやっぱりしっかりやらないかんということで、COCN、産業競争力懇談会のほうで超ナノエレクトロニクスを取り上げてまとめようという方向で現在進んでおります。それで、それに対応しましてJEITAのほうで、技術戦略委員会の直下にナノエレクトロニクス研究会を今回設置しまして、私が今、主査になりまして、そこでナノエレクトロニクスで日本としてほんとうにやらないといけないテーマを整理して、それをそのCOCNのほうに持っていこうという方向で、今まさに進んでいるところです。まだ正式決定ではないんですけれども、一応、関連していますので。

【榊主査】
 ありがとうございます。
 北澤先生。

【北澤委員】
 ナノエレクトロニクスも含めてなのですけれども、1つにはやはりここ10年でナノは――ここ10年じゃないか。基本的計画の中で基本法をつくられて以降、お金を投じて一体どうなったのかということをどういうふうにとらえているかということをやっぱり我々としては、何か言われたときに下をうつむいちゃうようなことがないように、そのときにちゃんと何を言うかということをはっきりさせる必要があるのではないかと思うんですね。それで、材料・ナノテクノロジーから出てきている企業で実際に使われていることというのはたくさんあるように思うんですけれども、この委員会などでは大勢の人に企業からも来てもらって、そういうのを挙げてもらう必要があるのではないかと思うんですね。
 ナノエレクトロニクスもできればそういうことはぜひやっていただいたほうがいいのではないかなと思うんですけれども、そうでないと半導体もだめになったとか何とか、そういう形でまとめられてしまうと、もう研究開発をやってもしようがないのではないかとか、そういうふうにナノテクノロジー全体がいじめられてしまう原因になるので、それをまず1つ重要なポイントとして、これまでがこういう成果が出てきているんですよというのが1点と、それから、きょうの積層鋼板もそうなんですけれども、環境というのがこれから大きく走ると思いますので、材料・ナノテクノロジーは環境とかかわる部分が非常に大きいと思うので、環境という観点で「ナノ・環境」という、そういうものを大きく取り入れていくと、まあ、文科省関係の材料とかナノテクノロジーって、半分ぐらい環境と言ってもおかしくないのではないかとも思うんですけれども、そこはどうでしょうか。

【岸委員】
 省エネ、入れればいいんですね。

【北澤委員】
 ええ。

【横山委員】
 今まさにおっしゃったことに関連しまして、今度、COCNでは単に半導体にとどまらないというところはそこでして、それで、やはり環境、それから、これから本格的にユビキタスが始まるので、それに対応したナノエレクトロニクスを開発しようと。いわゆる従来の半導体に少し幅を広げて、ナノテク・材料で新しい付加をつけていくというところがポイントです。それと、一番の危機感がご存じのようにアメリカで、いわゆるBeyond CMOSまで視野に入れたセンターが、今、4カ所できていまして、東のほうがIBM主導、西はインテル主導、真ん中はTI主導、IBMはさらにエネルギーに特化した大拠点ができていまして、お金も、もうけたが違うんですよね。これでは負けるということで、やはりナノエレクトロニクスに特化するといいますか、そういった拠点化も含めて、今、検討しようとしております。
 あと、さっき最初におっしゃったナノテク・材料の研究でどんな成果が出るかというのは、経済産業省のほうでも、今、中村道治さんが委員長をされている委員会でいろいろまとめられていまして、おそらく報告書も出てくると思います。結局、ナノテク・材料って、あくまで基盤技術なので成果が確かに見にくいんですね。JSTさんも今いろいろ成果を上げられていると思うのですが、例を挙げればいろいろ出てくると思うので、その辺、しっかりとアピールして、これからさらにいろいろ付加価値をつけていかないと、日本の半導体業界もATS業界も怪しくなるということで、そのあたり提言していこうと思います。先ほどの総合科学技術会議と全く同様の選評履行としていまして、いわゆる今年中には中間報告を出して、来年早々に完全な報告書にして、来年度の概算要求に間に合えばという方向で今進めようとしています。

【榊主査】
 ありがとうございます。
 それでは、こういう動きに対応して、今、ナノエレクトロニクスの1つの事例が出ましたけれども、ほかにも材料の分野だとか、バイオのほうもいろいろ動いているというふうに少し間接的にも聞いておりますので、ぜひここでいろいろタイムリーに議論して対応していきたいと思います。
 それでは、時間の都合がありますので、この件はここまでといたしまして、最後に平成20年度元素戦略新規公募の進捗状況につきまして、事務局からご報告をさせていただきます。よろしくお願いします。

【阿部調査員】
 それでは、資料7をごらんいただきます。元素戦略プロジェクトの応募提案の状況についてご説明申し上げます。
 元素戦略はご承知のとおり、ただいま中間評価いただきましたキーテクノロジーの同じ枠組みの中で走っているプロジェクトでございまして、平成19年度から公募を開始しております。
 左上の表でごらんいただきますとわかるように、平成19年度は54件の応募に対し、採択7件、4.3億円のお金で走ってございます。このときは経産省の希少金属プロジェクトと一緒に連携しまして公募採択を行ったと、こういうことでございました。20年度につきましては84件の応募がございまして、今、審査中でございますが、3件ないし5件の採択を予定しております。予算額ですが、これ、5.7億というのは、19年度と足しての予算でございまして、実は新規採択分は1.4億円ぐらいしかないと、こういうことですので、新規採択案件の予算額は2~4,000万円程度になってしまいまして、少しシュリンクすると、こういうことでございます。
 ちなみに、その次のページに19年度の採択テーマが7件書いてございまして、これについては後ほどもう少しご紹介します。応募提案の研究領域別の分類をいたしたのが、その1枚目の真ん中の図でございまして、エレクトロニクス、化学、材料、それと新機能・計算科学等に分類してございます。
 これをもとにしまして20年度の応募状況の特徴ということを考えてみたのが右上の四角でございます。まず、昨年に比べて応募件数が著しく増加したと、こういう状況がございます。54件が84件になっております。内容を見ますと、化学の提案が増加しております。この水色の部分ですね。これが昨年は3分の1 くらいの感じだったのですが、今年は半分ぐらいの感じまで増えてございます。化学の中でも特に触媒の提案が多いという傾向は、これは去年もございまして、今年も同じようにあります。
 一方で、材料・金属分野、マテリアルサイエンスに分類されるような、そういった提案が大きく減少したというところが見えております。さらに機関で申しますと、大学のみの提案、これが非常に多くて半分を超えておりまして、一方で民間企業が参加している提案ももっと減るかと思っていたのですが、少なくはない。23件ございます。
 もう一つ、有機化学を活用した研究課題の提案が多かったと、こういうことが特徴としてございます。これに対して考えられる理由なのですが、まず、昨年度は産学連携を公募の要件といたしましたので、企業が必ずその参画機関に入るということを条件としておりました。ところが、20年度の公募におきましては、その要件を外しております。すなわち、大学だけでもいいよと、こういうようにしましたので、その結果、大学のみの提案がやはり多く出てきたねと、こういうのが1つ応募件数が増えた理由になるかと思います。
 また、内容的にも、企業が入るとどうしてもある程度目標なり、成果を見据えた提案になりがちだと思うのですが、それに対してより挑戦的、萌芽的な提案が出てきたなと、こういうふうに考えております。また、社会情勢、経済情勢、こういったものが変化して、先ほどからも話題になっていますように希少金属、石油、そういったものの価格高騰ということもあって、元素戦略の重要性ということが認知されてきたなと、そういう認識が非常に高まってきたということがあって、これをやはり研究しようというような流れが出てきているということもあるかと思います。書いてございませんが、科研費のテーマにも挙がったということもございますし、そういった点で元素戦略というものが認知されてきたなということはあると思います。
 また、元素戦略というものが環境エネルギーという社会的ニーズにマッチしてきている、マッチしているというところも1つ元素戦略に関する応募が増えたというところに理由として挙げられるのではないかと思います。2枚目の昨年度の採択テーマというものを見ていただきますと、今申しましたように例えば1番目のものですとか、最後のものなどですと、金属、金属を置きかえるような非常にオーソドックスな元素戦略であって、全体を見ていただきますとわかるように、かなり材料寄りというようなテーマでもありますし、また、非常に具体性があって、目標、ゴールがある程度設定されているような、こういうテーマであったわけです。今年は、そういう意味では提案の内容を見る限りではかなり萌芽的、挑戦的なテーマが多くなっているという状況でございます。
 提案の特徴ということで、さらにもう少し絞り込んで解析したのが、この1枚目の一番下の黄色の四角でございまして、化学分野の提案が多かったと。さらに有機化学を活用しようという提案が多かったということです。有機を活用しようという動きは、有機エレクトロニクスというような形でエレクトロニクスの案件の中にも非常に多くございまして、半導体、太陽電池、メモリ、光材料みたいなものも非常にある。また、化学方面では化学合成触媒が32件ぐらいありまして非常に多いねと。リサイクル、バイオなども非常に多様であるということです。一方で、金属を金属で代替するというようなオーソドックスな元素戦略の考え方というのは、提案の中でももう既に結構少なくなっております。
 このように金属を非金属で代替するというような、かなり今までの考え方からは離れたというか、企業レベルでは少し思いつかないような提案というものがかなり増えているのかなというところが特徴として挙げられておりまして、従来の金属学ですとか、固体物理ですとか、そういったマテリアルサイエンスを超えた分野融合というものが必要になっているなと。また、ナノ解析、計算科学などを活用した新規アプローチ、こういったものがある程度求められているということなのかな、そういった方向を追求しようとしているのかなと、こういうところが提案の中に見えているという現状でございます。
 そういうわけで、スケジュールは書いてございませんが、申し上げますと、一応、7月17日に1次審査、検討会を行いまして、8月7日に2次審査を行うということで採択案件を決定すると、こういうようなスケジュールで現在審査を進めております。
 以上でございます。

【榊主査】
 ありがとうございました。
 何かご質問、コメントありますでしょうか。大変ですね。今度は厳しい、八十何件ということになると、もうほんとうに、非常に関心が高いことを示しているかなと思います。

【阿部調査員】
 はい。

【玉尾委員】
 ぜひ予算増というか、また来年度、別なJSTでも含めてまた検討いただければと思います。この中で3~5件だけであると、これは暴動が起きるのではないかと思われて、やはりこれだけあるわけですから、ぜひお願いしたいなと思います。

【北澤委員】
 これ、振興局とか、そういったところに玉尾先生からアピールしていただいて。

【玉尾委員】
 はい。何かそういう機会があれば。

【北澤委員】
 何とか委員会とかそういうところから、こういうことがありますということを一応、1枚紙で言っていただいて。

【玉尾委員】
 なるほど。はい。またそういうチャンスを見つけて。

【北澤委員】
 これからまだ予算ですよね。

【玉尾委員】
 来年度のは、これからでいいですね。

【阿部調査員】
 はい。

【横山委員】
 これって、経済産業省と連携していたんでしたっけ。

【玉尾委員】
 これはしていない。

【高橋室長】
 来年度、21年度の概算要求なのですが、20年度は経産省は元素戦略的なのはお休みだったんですけれども、21年度においてはまた参考集をピックアップして、経産省も概算要求を検討しているようでございます。

【玉尾委員】
 ああ、そうですか。

【高橋室長】
 我々も21年度に向けては内局予算の元素戦略と、それから、JSTの戦略目標にもFS――フィージビリティースタディーの経緯はあるんですけれども、それはそれとしてまた21年度も、そういう元素戦略的な、まあ、もちろん元素戦略という名前だと何かちょっと模様がえをしないと難しいという面もあるので、それを両方省内で検討してございます。
 以前、馬越先生にご紹介いただいたようなレアメタル回収とか、回収しやすい材料設計とか、そういう要素を入れた内局予算を考えております。戦略目標のほうは、また少し別の観点で、もっと幅広い元素戦略的なのを出せないかということで、今、大竹課長とも相談をしているところでございます。これは次回とか次々回のこのナノ・材委員会で、21年度の予算、どんなのを考えているかということをご紹介してご議論いただく機会があると思いますので、そのときにまたご意見をいただきたいと思います。

【玉尾委員】
 どうもありがとうございます。よろしくお願いいたします。

【榊主査】
 ほかに何かコメント、質問、ありますでしょうか。よろしいですか。
 それでは、きょうの審議はこれですべて終わりにさせていただきたいと思います。まことにありがとうございました。次回は7月23日の10時から開きますので、よろしくお願いいたします。これで終わります。

―了―

お問合せ先

研究振興局基礎基盤研究課ナノテクノロジー・材料開発推進室

(研究振興局基礎基盤研究課ナノテクノロジー・材料開発推進室)