第4期ナノテクノロジー・材料委員会(第7回) 議事録

1.日時

平成20年3月6日(木曜日) 10時~13時

2.場所

文部科学省16階特別会議室

3.出席者

委員

榊主査、魚崎委員、潮田委員、大泊委員、岡野委員、片岡委員、川合委員、岸委員、北澤委員、栗原委員、田中委員、玉尾委員、横山委員

文部科学省

高橋ナノテクノロジー・材料開発推進室長、下岡室長補佐、松下学術調査官 他

オブザーバー

細野東京工業大学教授

4.議事録

【榊主査】

 皆さん、おはようございます。予定の時刻が参りましたので、第7回ナノテクノロジー・材料委員会を開催させていただきたいと思います。ご多忙のところ、お集まりいただきまして、まことにありがとうございました。
 まず、事務局から委員の出欠状況及び手元の資料の確認をお願いいたします。

【下岡補佐】

 では、本日ご参加いただいております委員の先生方を紹介させていただきます。
 魚崎委員、潮田委員、大泊委員、岡野委員、片岡委員、榊主査、川合委員、岸委員。北澤委員は少々おくれていらっしゃるようです。栗原委員、田中委員、玉尾委員、横山委員。あと、本日は外部有識者といたしまして、東京工業大学の細野教授にご参加いただいております。その他の先生はご欠席という連絡をいただいております。
 では、資料の確認をさせていただきます。
 お手元の資料1でございますが、前回、第6回の本委員会の議事録の案となっております。
 資料2でございますが、東工大細野教授の「新系統(鉄イオンを含む層状化合物)の高温超伝導物質を発見」というプレゼンテーション資料となっております。
 資料3でございますが、片岡委員からのプレゼンテーション資料、「ナノバイオ研究拠点プログラムの振興」という形になっております。
 資料4でございますが、平成20年度の戦略目標の紹介をさせていただきます。
 以上でございます。欠落等ございましたら、事務局までお知らせください。

【榊主査】

 ありがとうございました。
 それでは、まず、前回の第6回の議事録がありますが、点検いただきまして、もし修正の必要があれば、3月21日までに事務局に連絡をお願いしたいと思います。
 早速にこれから議事に入りますが、きょうはお手元の資料にありますように、まず最初の1時間は、東工大の細野先生に新しい超伝導材料のお話をしていただきます。続きまして、片岡先生からナノバイオ研究拠点のお話をいただきます。
 それで、お2人の先生にはお忙しい中、プレゼンテーションを合意いただきまして、まことにありがとうございます。
 それで、12時になりますと、平成20年度の戦略目標についてご紹介をさせていただいて、大体1時までとはなっておりますけれども、12時半ぐらいに会合を終わりたいと今考えております。
 それでは、早速に議事に入らせていただきまして、まず第1、新規の超伝導物質の発見についてということで、細野先生、よろしくお願いいたします。

【細野教授(東工大)】

 細野です。こういうところでやると何かヒアリングでまた中間評価かなと思って嫌な気分なのですけれども、きょうは評価ではないということで、新しい結果が何もありません。全部論文を書かない限りは発表いたしませんので、そこはご了承ください。既発表のことです。
 鉄を含みました層状化合物で超伝導体を見つけたということなのですけれども、これは実はJSTのERATO-SORSTというプログラムの中の成果です。もともとは透明酸化物のナノ構造を活用した機能開拓と応用展開ということで、ERATOの透明電子活性プロジェクトの継続になっております。今回やっている物質は透明と何の関係もないです。全く真っ黒です。ですけれども、実際、このスキームの中から出てきたということです。こういう体制でやっておりまして、2つのグループに分かれております。この機能開拓のほうからの成果でして、ここのポスドクの神原陽一君が主な研究者です。
 少しバックグラウンドを紹介いたしますと、私自身はセラミックスの出身でして、セラミックスは白い粉なのですけれども、そういう古い材料をもう1回見直して、当たり前のことなのですけれども、電子状態からきちっと見直して何が出てくるかということで、ERATOの透明電子活性プロジェクトをやったわけです。その結果、ここに書いてあるものが大体出てきたわけですけれども、幾つか物になるものが出てまいりまして、1つは紫外線が通るエキシマレーザのパワー伝送に使えるようなファイバーが出てきたということです。これは既に実用になりました。
 それから、もう一つ、これが今一番大騒ぎなところなのですけれども、ガラスのトランジスタを使いまして、これはアモルファスシリコンの10倍以上の性能が出ます。これは室温でできるのですが、これが今非常に大きいところに行っております。
 それから、この中から出てきたものは、私としては一番おもしろい部分なのですけれども、実はセメントに使っておりますC12A7(ナノポーラス結晶)、カルシウムとアルミナからできております結晶があるのですが、これが実は透明半導体になったり金属——去年はこれが実は超伝導になったわけです。これは実はナノ構造を非常にうまく利用したということで、今、ここをかなり一生懸命やっている部分です。
 それで、少し紹介させていただきますと、一種のガラスなのですけれども、透明アモルファス酸化物半導体というのは、きょう、田中さんいらっしゃるのですけれども、アモルファス半導体国際会議、ICANS、これはモットーさんが中心になってつくった会議なのですけれども、1995年に実は透明アモルファス酸化物半導体というのを提案いたしました。そのとき、アモルファスシリコンの連中にボコボコにたたかれまして、そんなものが何になるのだと。おたくたちは失業しないでいいね。なぜかというと、窯業ですからと。この非常に強烈な嫌味をよく覚えておりまして、だれが言ったかというのもまだ記憶に非常によく残っている。言ったほうは覚えていないのですけれども、言われたほうは覚えているという非常に差別の構造なのですけれども。
 そうこうしているうちに、確かにこの当時、アモルファスシリコンが強かったので何の応用もなかったのですけれども、実は2004年に、これを実はTFTの形として、我々としては何も新しくなかったのですけれども、モビリティーの10ぐらいでPETの上につくったのですけれども、それ以降、2004年の11月27日なのですけれども、それ以降、3年足らずの間に非常に大きいことが出ております。すなわち、アモルファス半導体国際会議のメーンのトピックスに、2005年の9月に入りまして、それからそれ以降、非常にいろいろなところで会議のセッション、あるいはSIDにTransparentTFTというセッションが去年からできまして、今年もかなり大きくなっております。
 これを支えておりますのは実は産業界です。例えば日本では表に出ておりますのはキヤノン、凸版ですね。それから、非常に大きいのはサムソン、LGがこれを使いまして有機のLED、これは実は動かせるトランジスタというのは低温ポリシリか、高温ポリシリ、ないしは我々のしかないわけですけれども、それが今どういう状態になるかということです。
 それからもう一つ、これは我々は思ってもみなかったのですが、サムソンがこれを、LCDが大きくなりますと、例えば60インチ以上になりますとトランジスタのオン抵抗が大きくなりまして、今のアモルファスシリコンでは動かない。120ヘルツでは動かないということで、これをバックプレーンにして使おうという話がかなり本気になっております。これはLGが去年SIDで突如出しましたOLEDです。これは4インチなのですけれども、これはアモルファス酸化物半導体をバックプレーンにしたものです。これが突然出てまいりまして、実はこれ、3カ月でつくったという話があります。このアモルファス酸化物半導体というのはつくるのは楽でして、スパッとして少しアニューするとすぐできてしまうものですから、こういう応用までいっております。これが直ちに、特許のライセンスの話も今来ているわけですけれども、どういう形になるのか予断を許しませんが、こういうものが、我々のやってきたメーンストリームの仕事はこちらです。
 それからもう一つは、セメントが超伝導になるという話があるのですけれども、これは実はアルミナセメントというのがあります。これは非常に安いもので、1トンで大体1万円ですから、キログラム10円ぐらいのものです。これは今でも非常に使っています。こんな何てことのないパウダーなのですけれども、これは中を見ますと直径4.4オングストロームのケージが3次元につながった構造をしております。我々がやりましたことは、このケージの中にいろいろなものを放り込んで機能を出してみようと。2002年にこの中にHマイナスを放り込みまして光を当てますと、実は電気が流れたということで、これが一番びっくりしたことなのですけれども、透明半導体になっている。
 それから、この中に電子を入れますと、実は金属になります。これ、メタル・インシュレータ転位がはっきり見えます。実は、これをずっと冷やしてまいりますと超伝導が見えたということで、セレントがほんとうに超伝導になったということです。これは酸化カルシウムと酸化アルミニウム、典型的に試験に出たら絶縁体として書かなければいけないものだけから、実は金属ないしは超伝導が出たということです。
 これは最近一番一生懸命やっているのですけれども、実はこのナノのケージがSTMでやっと見えるようになりました。あんな小汚い構造がSTMで見れるはずがないと相当言われていたのですけれども、これは4年ぐらいの結果です。これはやった人はものすごく偉い結果だと思いますけれども、ちゃんとSTSもとれるようになったり、ケージをつくっておりますカルシウムのOS軌道の波動関数の塊が見えております。
 きょうお話をいたしますのは、実は超伝導というのは、この系統から生まれてきたことです。実は透明なP型のメタルをつくりたいということなんです。もともと1997年に透明なP型をつくったわけですけれども、やはりもうちょっといいものをつくらないといけないなということで、酸化物だけからはちょっと難しいかなということで、実はここにカルコゲナイドを使います。Cu(銅)の1価ですから3d10ですので、d軌道はあいておりませんので遷移金属らしくないのですけれども、ここに1価を使いまして、ここにカルコゲンの2価を使いまして、ここでマイナス1のチャージです。こちらがLa(ランタン)3価で、酸素2価ですから、これもプラス1のチャージ。プラス1のチャージ、マイナス1のチャージという形でできている構造があります。ここは2次元ですので、これは3次元の結晶ですとバンド分散が大きくて、バンドギャップが可視域を超えないものですから、こういうサンドイッチした構造のものを使おうということで物を探しまして、こういう構造のものを見つけていきまして、これをエピ膜をつくります。それで、実は透明なP型のメタルというのがやっとできまして、実はこれでLEDができたという経緯があります。
 これをやっているうちに、大体できたなということなので、これ、遷移金属なのですけれども1価なんです。d10ですから亜鉛と同じで、ほとんど遷移金属としての特徴はありません。それで透明になったわけですけれども、これをもう少し拡張してみたいなということだったのですけれども、このXをマイナス3にすれば、ここがプラス2になるわけです。そうすると、遷移金属らしいものが使えるのですけれども、これをあるときにできるかなと思って、ちょっと学生に言ってみたら、これをリンに変えたら、リンに変えると危険で、爆発したらどうしようかなと思っていたんですけれども、意外にすんなりできてくれまして、それならここのところをプニクタイドに変えて、こちらは遷移金属を2価をずっと振ってみようではないかと。
 これはプロジェクト内で話題にはなったのですけれども、そうしたら遷移金属で真っ黒になりますよ。透明というのは捨てるんですかということなのですけれども、そこは節操なくて、とりあえず捨てようと。透明だけにこだわっていると、おもしろいものが出てこなくなると仕方がないので、自分の趣味だけではプロジェクトは動かないということで、研究室だったらやらなかったのですけれども、プロジェクトがあったということで、ここを遷移金属のほうに、オープンシェルのものに変えてみました。その結果から出てきたのがきょうお話しすることです。
 例えばこの透明半導体のほうのP型ですけれども、La(ランタン)、Cu(銅)、Se(セレン)の場合ですけれども、これは実はこういう構造をしています。バンド構造を見ますと、これはバランスですけれども、酸素にEPが深くて、ほとんどCu(銅)とSe(セレン)のバンドがバランスバンドのトップ。このバンドの設定、1EBあります。コンダクションハンドのほとんどはCu(銅)の4Sです。ですから、ほとんどこれ、バンドギャップを支配しているのは、Cu(銅)のCuSeという層です。LaOというのは、ただ単にこれを上下で挟んでバンドオフセットをつけているだけです。ですから、実際にLa(ランタン)のところに、この場合、マグネシウムなのですけれども、マグネシウムを置換するとホールができるのですけれども、ホールはこちら側にバンドオフセットがあるために閉じ込められます。
 その結果といたしまして、これ、榊先生がいるとちょっと恥ずかしいのですけれども、これ、実はエキシトンが室温で安定化いたします。この物質はバルクでは、エキシトンは室温では安定化いたしません。ガリ砒素、アルカリ砒素で人工超格子をつくってエキシトンを安定化させるという方法はよく知られている方法ですけれども、これは自然にある構造でできます。これは膜質がポリ膜ですと、これは見えません。これ、単結晶をエピ膜に近いような状態にしてやっと見えてまいります。ですから、持っている素性というのは、こういうものがあるんだなということで、これをやってきたということがあります。非常に閉じ込めの強い構造であるということと、ドーピングサイトとキャリアの輸送サイトが空間的に分離をしている。これがこの構造の特徴です。
 それで、最初、いろいろなことをやってみたのですけれども、実はマンガンでやって、えらい間違った報告をして、僕は3つの学会を謝って歩いたという経緯があります。強磁性を間違えてしまったんですね。間違えたときはしようがないので謝るということでやったのですけれども、それでもくじけずに、ここを端からやっていこうということで、鉄とリンの組み合わせのときに、実は超伝導が見えました。これは2006年6月だと思いますが、これは何もしないで超伝導になります。3K(ケルビン)なのですけれども、これにフッ素を入れますと大体6K(ケルビン)か7K(ケルビン)、カルシウムを入れても上がります。体積分率が50パーセントぐらい、60ぐらいまでいきますかね。これはバルクの超伝導です。こちら側が鉄とリンの組み合わせ、ここがLa(ランタン)とO(酸素)の組み合わせです。
 これは四面体なのですけれども、四面体を上下につぶしたような格好をしております。ここは120度です。109度ではありません。平面に近いと言えば近いのですけれども、平面性にこういうふうにつぶしたような構造をしております。これを電子状態を調べてみますと、どういうことになっているかといいますと、上はハードX線の光電子分光、下はソフトX線です。ハードX線の場合はSがよく見えます。それから、ソフトX線のほうはDがクロスセクションが大きいのでDが見えます。どういうことになっているかといいますと、結果的にはフェルミレベルの付近は鉄の酸、リンがほとんどです。リンも少し関与していますけれども、実は後でまいりますけれども、それほど大きくないです。酸素がどこにあるかといいますと、酸素は下のほうで、これは電子輸送、ホール輸送に全く関係しておりません。これが電子構造です。
 ですから、非常に粗く言いますと、鉄の導電体である。鉄が電子輸送を大いにやっているということです。これは計算ですけれども、計算の結果、ここがフェルミですけれども、鉄の軌道がありまして、リンの軌道はここら辺はちょっとの下のほう、3EBのぐらいのところに相当たくさんあるのですけれども、このフェルミ付近というのは実はそんなに見えません。ですから、この物質は非常に粗い言い方をしますと、鉄の超伝導体であるということが言えるかと思います。ご存じのように、超伝導と磁性というのは共存しないと言われているわけです。いわんや強磁性を持つような、強磁性の権化みたいな鉄を使って超伝導が出るとは実は我々も思ってなかったのですけれども、実際にこれは出てまいります。
 それで、またもう少し、次、非常識なことが、まあ、我々にとっては常識だったのですけれども、リンを砒素に変えてみた。これはケミストリー、きょう、元素戦略の玉尾先生がいらっしゃいますけれども、これは化学では常識ですね。リンをやったら鉄をやるというのは。ところが、物理を知っていると、さすがに僕でも知っているぐらいで、これをやるのは非常識ですよね。なぜかというと、通常の超伝導の理屈から言いますと、デバイ温度にTCが比例するはずですので、デバイ温度というのは高振動、振動ですから重かったら絶対損するわけですね。リン31で砒素75ですから、これは何の得にならないわけです。そこまでやってみようかということで、これは神原君がやりたいというので、まあ、やってみようということでやってみたわけですね。
 やってみると、これはXイコール0、フッ素が入っていないとき。これは超伝導にならないんです。ところが、信じられないですけれども、これ、リンでうまくいったことをそっくりそのまま砒素でやったんですね。フッ素もまた加えたわけです。それで、4パーセントぐらい加えたら何か落ちてくるわけですが、けちなことを言わないで端までずっと加えてみろということでやってみたんですけれども、そうすると、実は11パーセントぐらいまで加えますと、オンセットで32K(ケルビン)になってまいります。体積分率は大体50パーセントぐらい、位相は5パーセントぐらいあるのですけれども、体積分率で95パーセントの超伝導層ができたということです。試料全体が超伝導になったということです。
 それで、もう少し詳しく見てみますと、これは超伝導の相図ですね。相図というか、転移温度とフッ素の濃度。これ、興味深いことに、こっち側は酸素をフッ素で、マイナス1で変えますので、エレクトロンドーピングです。ランタンをカルシウムで変えますとホールドーピングなのですけれども、ホールドーピングをしてもこれは何にも起きません。超伝導のTCは全く観測できません、我々の範囲では。フッ素をドープいたしますと、4パーセントを超えますと超伝導が見えてまいります。ここはこんな形で上がってまいりまして、これはかなりフラットでして、12パーセントを超えますと下がってまいります。きょう、サンプルを持ってこなかったのですけれども、これはほんとうにこのサンプルです。こんな色をしておりまして、このくらいの大きさのものを今つくっております。
 興味深いのは、実はここなんですね。Xイコール0、ノンドープの場合は超伝導は出てまいりません。そのかわり、この辺、ここまで上がっちゃいますね。それから、磁化率が、ここのデータがないのですけれども、意外に大きいですね。パウリパラにすると、パウリパラから予想される値より1けたぐらい大きいですね。かなり磁性的にも単純なものではなさそうだというデータが出ております。
 それから、もう一つは抵抗がミニマムになるところが見えるんですね。あるところまで、抵抗がミニマムになるところを見ますと、それをフッ素濃度にプロットをしてみますと、ずっとここで、ここら辺に見えてまいりました。下がってまいりまして、ここに何か収束するような感じが見えます。これだけ見ますと、何となくCu(銅)系の超伝導体のスードギャップに近いかなという、見かけだけそういうふうに見えます。実際のディテールは今やっているところです。とにかく32K(ケルビン)のオンセットの超伝導が見えたということです。
 これをよく知られておりますTCと年代ですけれども、金属系の超伝導ですと、秋光先生の38K(ケルビン)を見ますと、大体こんな真っ直ぐですね。Cu(銅)系の超伝導、ベドノルツとミュラー、1986年のデータから始まるわけですけれども、急速に上がっております。今回のは、我々、2006年の6月から出ているわけですけれども、これが初めに3K(ケルビン)ですね。ここが今、32K(ケルビン)です。これが50K(ケルビン)までは多分出ます。50K(ケルビン)まで多分出ますというのは、もうこれは出るんですね。ただ、オフィシャルになっておりませんので、50K(ケルビン)ぐらいまでは我々はいくと思っております。それ以上は全くわからないです。
 それで、銅系と鉄系の比較なのですけれども、これはまだ現象論的比較ですけれども、鉄系の場合は両方とも銅と鉄、遷移金属系ですけれども、層状構造であって、ドーピングをすると超伝導化をいたします。これはドーピングをしませんと、この鉄の砒素系も超伝導化してまいりません。それから、相違点は、我々からしますと、これ、アニオンがCu(銅)系の場合共通なのは酸素なんですね。層状といいましても、電子的な意味ではバレンスバンドのトップは、それほどバンドオフセットが多分ついていないだろうと思っています。こちら側は非常に大きいバンドオフセットがついております。非常に極端なことを言いますと、こちらがメタルを絶縁体で挟んだような構造をしております。
 それから、遷移金属の周りの対称性、こちら側はテトラヘドロンです。こちら側は平面です。かなり大きな違いがあるかと思います。それから、我々、実はここにかなり執着している部分があるのですけれども、超伝導のメカニズム、ここでは皆さんご承知だと思いますので、あまり繰り返しませんけれども、私自身も2年くらい前までこんなことを考えたことはなかったのですけれども、クーパ対ができるときに一重項と三重項、ペアになって逆向きになっていく場合がほとんどで、今までほとんど全部これだったわけです。見つかったもの。ところが、三重項のものがあるということが、これは理論的に昔から予想されていたようですけれども、実際に3He(ヘリウム3)の超流動は、三重項目のクーパ対ができて、これがボース・アインシュタイン凝縮をして超流動ができるという話になっているわけです。
 UPt3、あるいはこれは前野先生が見つけられましたSr2Ru、これはみんなTC1K(ケルビン)以下ですけれども、こういうものが見つかっております。こういうものはもともと三重項ですので、磁場をかけてもこれ以上崩れようがないので、強磁場に耐えられる超伝導になるのではないか。あるいは、もう一つは、これは前野先生も書かれているのですけれども、こういうクーパ対ばかり考えていたものですから、こういうものがあると新しい電子デバイスが出てきてもいいのではないか。私自身もそういうところは期待しております。我々も実はこれはかなりよく何年も前から調べておりまして、どうも単純なこれでは間違いなくないだろう。じゃあ、どうなのだと言われると、これ以上言えません。少なくともこれではないだろうと。
 それから、なぜそういうことを言うかといいますと、まず状況証拠といたしましては、これは何しろ鉄で出発しています。強磁性体代表であります鉄から行っているのと、それから、これは前野先生のSr2RuO4も、ルテチウムというのを周期律表で言いますと鉄の真下です。鉄の真下で三重項です。我々は鉄そのものですので、その可能性は状況証拠としてはかなりあるだろう。ただ、これをちゃんと証明しなければいけませんので、これをどういうふうに証明するかということで、今、最終段階にいっております。
 それで、これからどういう展開を考えるかということなのですけれども、これは周期律表ですけれども、僕らは非常にいろいろな段階があると思うんです。まず、これ、構造をここに示したのですけれども、Cu(銅)系の高温超伝導、例えばいろいろな何百種類のものが見つかったと思うのですけれども、基本的にはここは全く変えられていないんですね。Cu(銅)、O4面というのは、これは変えられないです。上下を変えるわけです。上下で電解供給層にいろいろなものを変えていって、ホールを入れたり、エレクトロンを入れたりして、いろいろな物性を制御してきたわけです。ところが、今度はここが変えられるのではないかと思っています。
 例えば今、鉄と砒素、鉄とリンもやったわけです。ここに今、砒素の組み合わせを書いてあるわけですけれども、実は我々、マンガンからいったのですけれども、マンガンは反強磁性です。鉄で超伝導。コバルト、実はこれ強磁性です。ニッケルも実は超伝導を見つけています。1つ電子が変わると非常に大きく変わります。それで、この組み合わせも、僕らは鉄とリンではほとんど同じで、鉄を砒素に変えたら、これはまさしく同じだなと実は思っていたのですけれども、とんでもない違いが出てまいりまして、この非常に微妙な相性を変えていきますと、何が起こるかわからないような感じを持っております。
 単純にいきますと、ここが遷移金属を変えられます。砒素がここでこう変えられます。もちろん、高温超伝導体でやりましたように、ここはもちろん変えられますね。そうしますと、今までCu(銅)系で考えられておりました制約がほとんど外れると思います。僕は層状構造、非常に重要だと思っているのですけれども、こういう層状構造を持っていて、半金属ないしはメタルになるようなもので組み合わせを考えて、初めの状態では、スピンは絶対消えてなければいけないと思うのですけれども、スピンが死ぬような構造をつくったら、超伝導体になる可能性というのはかなりあると思う。どれだけあるかというのを考えるとうんざりするのですけれども、とにかくたくさん出てきます。
 それとなおかつ、砒素系の教訓ですけれども、ドーピングをしないとわからないんです。ドーピング、それもホール側とエレクトロン側両方ありますので、それでまた2つの可能性があるわけです。ですから、膨大な可能性を試さないといけないかなということもあります。これは多少思いもあるのですけれども、ある意味では元素戦略が非常に重要な役目を果たす。この場合の元素戦略というのは、元素の従来のイメージを打ち破るという意味での元素戦略です。代替という意味では全くありません。

【北澤委員】

 すみません、左上の図でランタンと酸素の位置なのですけれども、酸素が配置されているんですか、ランタン上下で。

【細野教授(東工大)】

 そうです。

【北澤委員】

 上下でランタンにサンドイッチされている。

【細野教授(東工大)】

 ランタンは、下はプニクタイドです。

【北澤委員】

 下は鉄が。

【細野教授(東工大)】

 下はプニクタイド。

【北澤委員】

 鉄が真ん中に。

【細野教授(東工大)】

 そうです。

【北澤委員】

 上はランタンが。

【細野教授(東工大)】

 ランタンが真ん中です。

【北澤委員】

 え?酸素が真ん中でしょう。

【細野教授(東工大)】

 いや、ごめんなさい、ここにあるのがランタンなんです。

【北澤委員】

 それ、ランタン?酸素が真ん中。

【細野教授(東工大)】

 いや、ここがランタンです。だから、ランタンは上4つが酸素で、下4つがプニクタイドにくっついているんです。真ん中ではないんです。ここは鉄はここなのですけれども、ランタン、この位置はこれなんです。

【北澤委員】

 ああ、そうですか。

【細野教授(東工大)】

 ええ。ですから、ランタンは、上のほう4つは酸素で、下のほう4つはプニクタイドです、くっついているのは。

【北澤委員】

 はい。わかりました。

【細野教授(東工大)】

 こういう構造をしています。

【北澤委員】

 はい。

【細野教授(東工大)】

 多分、もうないのではないかと思います。以上です。

【榊主査】

 ありがとうございました。
 大変おもしろいお仕事で、ご質問やコメントをいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
 ドーピングの話を少し教えていただきたいのですけれども、ドーピングは4パーセントぐらい、面でいくと、その電子数みたいなのはどれぐらいという感じなのでしょうか。

【細野教授(東工大)】

 もし全部100パーセントの効率でいくと、相当入っていますね。21乗以上入りますね。

【榊主査】

 21乗ぐらい。

【細野教授(東工大)】

 はい。もともとの状態が、実はリンと鉄は非常に微妙に違いまして、これは砒素の場合ですけれども、マイナス3乗なんですね。リンになりますとマイナス4乗なんです。マイナス3乗ですと、これはほんとうにギャップが、もしかしたらあいているのかなという気も、わからないです。僕はリンはあいていないと思っているんですけれども、これはもしかするとギャップがあいているかもしれない。ギャップがあいていますと、縮退半導体になるのですけれども、縮退半導体にエレクトロンを入れてTCが上がって、ホールを入れたらバレンスに入っちゃいますので、ランダムが効きますので、それで超伝導にならないのか、ここがあいているか、あいていないかで描像がかなり変わると思います。

【榊主査】

 そういうことですか。

【北澤委員】

 この物質のバンド計算は、世界及び日本でだれがやっていますか。

【細野教授(東工大)】

 極端なことを言うと、もう至るところでやっています。

【北澤委員】

 今、至るところでやっている。

【細野教授(東工大)】

 ええ。

【北澤委員】

 もう結果が出ている人は。

【細野教授(東工大)】

 結果も、実は我々自身ももう当然、出す前からやっているわけです。ただ、これ以上言えないですけれども、実験的データから言いますと、我々、全部のデータを出していませんので、そのデータに合っているかどうか、実験的なことから言わないとバンド計算のクライテリオンとしては、今あるものだけではスクリーニングにならないと思います。

【北澤委員】

 バンド計算の結果を出している論文って、今、幾つぐらい。

【細野教授(東工大)】

 リン系はもう論文がかなり出ています。我々、この論文が2006年ですから。リン系はかなり出ています。砒素系は、今、いろいろなところでやっていまして、これでいいかというのは結果が……。

【北澤委員】

 日本ではだれがやっていますか。

【細野教授(東工大)】

 寺倉先生。

【北澤委員】

 寺倉先生のところでやっている。

【細野教授(東工大)】

 あと、東大の青木先生。多分、まだ相当やっていると思います。

【北澤委員】

 そうですか。はい。

【榊主査】

 ほかにいかがでしょうか。私、今回のやつでちょっと雑談的なコメントをしたいのですけれども、高温超伝導が出てきたときに戸倉先生がおもしろい話をされて、昔から日本の研究は銅鉄主義だということで、銅でできたものを鉄でやる、あるいは鉄でできたものを銅でやるというので、実はこれは大事なんだと。特にフェライトだとか何かの鉄の酸化物を山のように調べられたのを銅の酸化物にしてノーベル賞だと。今度、先生、また鉄に戻されたといいますか、ですから、鉄・銅・鉄といいますか、もちろん構造が違うのですけれども、そこで物理が変わるというところが、先生の場合には構造までもっとやっておられますからあれなのですけれども、銅と鉄との深い関係をまた改めて感じたという、ちょっと雑談。

【細野教授(東工大)】

 アベさんがおもしろいことを言って、鉄は熱いうちに打てと。アベさん、ちゃんとオリジナリティーを尊重しましたから。

【榊主査】

 新材料として、岸先生、何かこの話を伺っていて。

【岸委員】

 非常におもしろいなと思って期待はしているのですけれども、まだ全部話していただけていないという。

【榊主査】

 まあ、もちろんあれでしょうね。

【岸委員】

 これからですね。しかし、どんどんおもしろいのが出てきますね、先生のところはね。すばらしいことだ。

【榊主査】

 横山さん、少しコメントとして、長い間いろいろリアリスティックなデバイスと材料との関係をいろいろ見てこられていますので、今後、発展する上でどういうようなあたりを押さえるべきかも含めて少し。

【横山委員】

 今、富士通に籍を置いているのですけれども、富士通が超伝導の研究を30年以上続けていまして、今も超伝導科学研究所に人を送り込んでやっているのですけれども、電子デバイスの応用から見ると、やはりいろいろ応用が限られていまして、次のブレークスルーは室温の超伝導ができないとだめかなという感じがしていまして、そういった意味で室温超伝導の可能性について何かご意見を。

【細野教授(東工大)】

 理論家は皆さん室温超伝導ができないはずはないと言っております。福山先生と青木先生もそうですね。理論家は皆さんそう言いますね。僕ら実験をやっている人は——川合先生、いかがですか。そんな簡単に言えないですよね。実験をやっている人はそんな軽率なことは言わないですよ。わからないです。全くわからないです。

【横山委員】

 この物質でその可能性が出てきたと。

【細野教授(東工大)】

 いや、そんな軽率なことは絶対言えない。実験していて出ないと笑われるだけですからね。計算の人は、あんたらの腕が悪いといつも言われるだけですので。

【北澤委員】

 銅系酸化物超伝導体のときには、出たとわかったら、もう銀行の裏庭でも研究ができる。そういうことが起こったわけですけれども、この物質はプロでないと合成できなさそうなところがあって、それで、日本には何グループぐらい、この物質を合成できる力を持っているグループがあると細野さんは見ておられるのか。

【細野教授(東工大)】

 僕は、日本化学会に関係する人はほとんどできるのだろうと思います。今度はケミストリーの人がかなり物質の合成に関しては優位性があるのだろうと思います。今までは物理屋に相当痛めつけられてきましたので、ここで100年分ぐらいのお返しをしたいなと。

【北澤委員】

 いや、細野さんから見ればできると思うかもしれないけれども、あちこちで実は試してみて爆発を起こしたり、結構大変なんです。爆発というよりは、破裂事故ぐらいかな。

【細野教授(東工大)】

 ええ。リン化物を扱ったことが、僕は実はアモルファスリンの、田中さんおられるのですが、アモルファス半導体としてのアモルファスリンというのはもうずっとやってきましたので、なれると、そんなに怖くも何ともないですよ。それから、砒素が入っていると、皆さん、学生が死ぬんじゃないかとか言うのですが、これはメタルの砒素ですから、メタルの砒素なんて全然怖くないですよ。合成ルートがかなり、何気なく書いてありますけれども、合成ルートに非常に依存します。合成ルートを試薬を混ぜて加熱したらそれは絶対爆発しますよ。

【北澤委員】

 それで、この辺のつくり方とか、そういうのはわりと今みんなに流布されていることなのですか。それとも高度な秘密の中に行われている。

【細野教授(東工大)】

 高度な秘密ではなくて、論文に基本的には書いてあります。

【北澤委員】

 ああ、そうですか。

【細野教授(東工大)】

 我々は、少なくとも再現実験をして出てこないというのは、報告した人の義務であると思っていますので、我々のやったことに関しては、そんなに、細かいところを除きますと、どのルートでどういう形でやったというのは論文の中、よく読むと隠していることはないはずです。

【田中委員】

 20年前の銅の酸化物で超伝導が出てきたときには、いかにしてスキャンをするかというパラメータが幾つかありますよね。それをいかにどこよりも早くスキャンして物をつくるかということが盛んにやられたわけで、そういったノウハウというのは、今も多分、蓄積されていると思うんですね。その後はコンビナトリアルということも出てきているわけで、それがこれに適用できるかどうかわかりませんけれども、そういうような視点で考えますと、こういう新しいものが出てくれば、20年前とは比較にならないぐらい非常に速い勢いでスキャンされて、もしかするとだれかが鉱脈を見つけるというようなことになるのではないかと思うのですが、これもそのように考えていいものなのかどうか。

【細野教授(東工大)】

 僕はコンビナトリアルというのは、私の研究所の所長だった鯉沼先生が一生懸命、100年間を1年でやってしまう。だったら、相当見つかっていなければいけないですよね。それでも見つからないというのは、そんな甘くないということだと思います。僕は鯉沼先生、非常に尊敬している先生ですけれども、あれは大ボラ話であって、あんなものが成立するはずがない。だったら、もうとっくに見つかっていなければいけない。100年ですからね。1年で100年だから、もう10年やっているんだから1世紀やっているわけですよ。それは幾ら何でもそんな簡単にできるはずがなくて、それは最適化ということで、この辺にあるということが決まって、このブロックの中にあると決まって、つくりやすいものならできると思いますけれども、立体化が360度どこに振ってもいいときには、コンビナトリアルなんか行ったら人間なんか要らないですよ。それはやはり僕は誇大宣伝だと思います。

【田中委員】

 私も材料をやってきた人間としては、それに近い印象を実は持っているのですが、そうは言いながらも、新しい材料にいかに行き着くかという、まあ、それは現実の争いもあるわけですよね。そのためには一体どうすればいいのか。

【細野教授(東工大)】

 それは今、北澤先生が言われたことがまず第一なのですけれども、まずこれはバルクでさえつくるのが難しいんですよ。バルクでさえつくるのが難しくて、これが薄膜になったらどのくらい難しいかと考えると、例えば酸化亜鉛でもいい、酸化アルミナでもいい。これ、だれがつくったって、酸化亜鉛と酸化アルミナ以外できないんですよ、逆に言いますと。1個しか目的物がないんですよ。そういう場合、コンビナトリアル、僕は有効だと思います。
 いろいろなローカルミニマムがあったときに、あるミニマムのところだけをするというときに、そんな方法でできるはずがないんですよ。それはもし逆に言いますと、これがある意味ではトゥルー・コンビナトリアルかもしれない。これでコンビナトリアルが本気でできたら、僕はコンビナトリアルの信者になります。そんな簡単に、簡単なものをつくってコンビナトリアルができているというのは誇大宣伝にしかすぎない。難しいものでほんとうにつくってもらえれば、僕はほんとうに信用します。

【榊主査】

 今の議論とかかわるのですけれども、そうすると、この種の構造の類似のもので幾つか異型みたいなものがいろいろあるというわけですね。

【細野教授(東工大)】

 たくさんあります。

【榊主査】

 その辺を相当きちっと押さえないと。

【細野教授(東工大)】

 実はこれの親戚を見ると、むちゃくちゃあります。もううんざりするくらいある。不思議なことに、物性が調べられている系というのはほとんどないです。ある意味では、これはほんとうに過去のデータベースをつくってくれた人が相当いまして、我々はそれを利用しているようなものなんですね。特にフランスが多いのですけれども、そういう人たちに関しては、我々はやっぱり感謝をしなければいけないだろうと思う。それがなかったら、これはゼロからつくれる物質ではないんですね。こういう蓄積というのは、ある意味で上澄みだけをとってしまったような感じもありますけれども、連綿とした合成の歴史というのはあるんです。これ、何のために役に立つかということをやらないでやってきた歴史が相当に積み重なって、それを使っているというところは非常にあります。
 これは今、構造で言いますと、この構造だけで先ほどのバラエティーがあるわけですね。この構造、例えばこれを2枚とか3枚にすると、またこれはいろいろありますね、超構造が。そうすると、Cu(銅)系の超伝導系、ここのCu(銅)、CO(一酸化炭素)、O4、1枚を共通にしてあれだけのバラエティーがあったわけですね。掛けることの今度ここをいじれるわけですね。これ、うんざりしますよね、考えただけで。これ、簡単にできれば、確かにコンビナトリアルというのは、僕はほんとうにこれはいい。そんなに簡単にできるなら、極端なことを言いますと、僕はコンビ、やっていますよ。今言われている程度のコンビでこの物質ができるならば。そこが非常につくりにくいんです。バルクでも。
 もう一つ、ここは専門家ですから言ってもわかると思うのですけれども、アニオンがマイナス2なんです。こっちは酸素だけなんですね。アニオンが2つあるんです。マイナス2とマイナス3なんです。これで数位系メトリが少しずれたら、これ、キャリア、入っちゃうんです。マイナス2とマイナス1でぴったりアニオンの数を——まあ、ぴったりというのは数位系メトリで0.1パーセントまで合わせることができると思いますね、うまくやれば。0.1パーセントまであっても、逆に言うと、10の20乗キャリアが入っちゃうんです。10の20乗といったら、ものすごく大きいキャリアです。ですから、端数の違うアニオンが複数入っているということは、それだけで、合成を考えたらそう簡単にいかないですよ。これは原理的にそう簡単にいきっこないです、これは。

【田中委員】

 戸倉さんが強相関電子材料を我々のアトムテクノロジープロジェクトで始めて、一気にいろいろなものが出てきたという、そういう時代があります。ちょうど15年から10年ぐらい前ですね。あのときは3つぐらい要素があって、全部そろっていたと思うのだけれども、1つはやはり物質感に非常にすぐれた人、周期律表を見て、ある程度のことが描けるという、そういう人の存在がまず絶対重要なのですけれども、そのときは戸倉さん。今回の場合は、細野先生、そういうことになっているのだと思いますけれども、それと、一度現象が見つかりますと、理論のシミュレーションとか、理論のモデル計算とか、そういったものがかなり有効に効いてくる、そういうステージがあるわけですよね。最初、見つけるというのはなかなか理論はそこまでいかないのですけれども、一度破れますと、理論家、あるいはシミュレーションの力が非常に強くなってくるというところがある。
 それからもう一つは、戸倉グループは材料をつくるということを徹底的にやったんです。そこには富岡君という、彼しかできない単結晶というのが実はあったんですね。そういうものをきちっと持っていて、そして我々のプロジェクトは、そのサンプルをつくるため、そしてそれをキャラクタリゼーションするための投資を徹底的にやったんです。つまり、非常に物質感のすぐれた人の存在と、それから、シミュレーションのグループ、世界一のシミュレーション、当時はコンピュータの環境は、我々がつくったときは世界で第2位のコンピュータの計算環境だったのですが、これは寺倉さんが全部率いて戸倉グループとカップリングする。戸倉グループの中にはそういう単結晶をつくる。炉から基本的なキャラクタリゼーションをする装置、施設、そういったものをそろえた。
 そういう意味では、当時、やれるだけのことは全部そろえたんですよね。これもやっぱりそういうケースになるのかなと僕は直感的に思っているのですけれども、計算については、今までのものとは全然違うものがあると考えてよろしいのですか。

【細野教授(東工大)】

 実は田中先生と僕も同じ印象を持っていまして、実は我々もC12A7(ナノポーラス結晶)をやってきているのですけれども、これは実はイギリスのロンドン大学のシュルーガーたちと非常にうまいキャッチボール、理論とのあれがなかったらうまくいかなかったですね。それで、僕は理論家は隣にいないほうがいいと思います。なぜかというと、実験結果をしょっちゅう見て理論をどんどん合わせてしまうので、僕は理論屋は隣にいないほうがいいと思っています。定期的に会って、お互いの手の内を見せないで議論をすると、お互いの腕がわかるんですね。相当緊張感あふれるものですから、隣同士にいると、しょっちゅう見ているものですから、しょっちゅう理論を合わせてしまうんですね、お互いに。だから、僕はグループを組むのはいいのですけれども、隣に置かないのがうまくいくと思っています。
 先生はほんとうにサンプルをつくる部分と、理論のグループ、僕はものすごく重要だと思います。ただ、この場合、ペロブスカイトの場合、極端な場合、だれがつくってもできるんですね、あの結晶は。ところが、これはこの層を出すのさえ難しいんですね、なれないと。ですから、これを単結晶をFZでできるなんて、とても思えないですね。ですから、どっちから持っていったらいいかというのは、我々、実はこんな複雑な結晶を薄膜のエピタキシャル成長というのをずっとやっているわけです。ですから、そこは相当ノウハウがあるのですけれども、我々はとりあえず薄膜からいってみようかなと思っています。薄膜からいったほうが、後々のことを考えたときに、バルクからいくとちょっと大変かな。まあ、バルクも実はもう始めているのですけれども、我々は薄膜からいって、前の蓄積が生かされるという意味ではですね。
 ただ、ここまで見てきて、ある程度の計算が出てくると、これは発想が、川合先生なんか発想が多分飛べると思うのですけれども、発想が飛んだ方が多分違う系を見つけてくると思うんです。それがやはり転移温度を上げたりなんかするときに、発想が、今の我々の、ある意味では少し陳腐化した発想から飛べるグループが出てくると思うんですね。そこが、多分、大勢で、いろいろなところが出てくる。日本の物質化学の強みではないか。延長線ではなくて、後からこのTCのグラフを見ると、同じグループが二度と出てこないんですね。やっぱりみんな違うグループが。
 歴史というのはつらいですよね。After chips fall downとよく言いますけれども、確かに後から見てみると、同じグループが二度と寄与していなくて、いろいろなグループが結果的にいろいろなアイデアを出して、発想の飛んだ材料が出てくるのだろうと思います。我々は2回ぐらい出てきてほしいなと自分たちとしては思っていますけれども。

【榊主査】

 ほかにいかがでしょうか。もしなければ、先生、11時……。

【北澤委員】

 最後の言葉が少し引っかかったので、私も一言、言い訳をしつつ、教訓というか、私の得た教訓は、そこでLa(ランタン)、Sr(ストロンチウム)、Cu(銅)とか書いてある部屋が我々で、二度と出なかったんですよ。それで、なぜかというと、自分たちの成功に酔いしれてしまった。そういう問題なんですね。つまり、どういうことかというと、La(ランタン)、Sr(ストロンチウム)、CuOというのが、あのあたりで最適なんですよ。それで、それができたものだからうれしくなって、それをもっといいサンプルをつくって、それで物性測定用に供するとか、そういったことを始めてしまったわけです、我々のグループは。つまり、そのときにほかのところに、もっと飛び離れたところにもっとすばらしいものがあるという、そこのところに行かなかったんです。だから、自分たちが成功してしまったために、そこら辺にリソースを縛られちゃったというのがものすごい今になって反省することなんですね。
 だから、今のこのオキシプニクタイドも、まず鉄がいいのか。細野さんは鉄と言ったけれども、銅、鉄で成功して鉄に縛られていいのかということと、それで、オキシプニクタイドというのはあんまり今までやられていないわけですね、ちゃんとは。これ、難しいですから。そうすると、細野さんたちがやった、少なくともその範囲で言えば、空間法と薄膜でつくるというのと、今、2つぐらいの方法がありますよね。それで、そのほかの方法があるのかどうかわからないけれども、僕も今から追いかけるとしたら絶対薄膜のほうが有利かなという気もしながら話を聞いているのですが、そうやってまず最初の布石を打つあたりというのは、かなり飛び離れたことを当面、日本のポテンシャルを生かしてみんながやってくれれば、細野さんを追い抜くことができるのではないか。そういう感じを僕は受けた。

【細野教授(東工大)】

 これ、僕らはソルストの中間評価のとき、高野先生に何でこんな低いことをやっているんだと言われて、いや、目標は高野先生の研究を抜くことですと。きょう、高野先生がいると一番いいのですけれども……。

【北澤委員】

 いや、だから、そういうポテンシャルのあるグループは、日本は今かなり育ってきているので、その意味では、この後続の研究って、かなり日本から出てくる確率は私は高いと思うんですね。だけど、これを何らかの形で流布して情報がみんなに行き渡るような形でやっていけたら、非常におもしろいのではないかなと思うのですが、そこはどうですか。

【細野教授(東工大)】

 私自身も定年まであと10年で、超伝導だけをやるつもりはありませんので、まだほかにもっとおもしろいことがあるに違いないと。このまま超伝導で定年まで迎えるのは幾らなんでもあんまり楽しくないなと常々思っておりまして。

【北澤委員】

 それで、ほかの研究との関連、総合性というのかな、その辺はプロジェクトとしてはどういうスタイルでやっていくのが細野さんとしては一番おもしろい。

【細野教授(東工大)】

 僕自身はやっぱり、物を見つける——ゼロから、一応、小さくてもいいから、多少時間がかかってもいいので、あんまり性能の競争はやりたくないなと。向く人、川崎君なんか多分向くんでしょうけれども、僕はどうもそういうのはあんまり嫌ですね。面倒くさいだけですので、やはりもうちょっと、少し時間がかかってばかにされてもいいから、やらないところをやってみたいなというのはずっとあります。コンビナトリアルで競争はしたくないですね。

【榊主査】

 何かコメントありますでしょうか。
 じゃあ、もう一つ、細野先生がお話になった中で、理論家と実験家との距離みたいな話は大変おもしろい。これも昔ある人が、まだソ連とアメリカでいろいろやっているときに、あるおもしろいことを見つけてアメリカの研究者に話をしたら——あ、アメリカの研究者がソ連の研究者に話をしようとしたら、ちょっと待ってくれ。聞いちゃうと、今やっているやつが影響を受けちゃうから、ちょっと待っててくれ、話さないでくれと言ったという話がありましてね。ですから、おっしゃるように、ある程度、探索しているときには情報が遮断されていないと、そこがいかないということはあるかなという気はするんですね。

【細野教授(東工大)】

 内部で絶対コンシステントになっちゃうんですよ。

【榊主査】

 そういう面で、今のお話を伺って、昔聞いた話を思い出しました。もう一方で、次にお話ししていただく片岡先生はもう少し異分野同士の人たちが同じ屋根の中でコミュニケーションを、分野とテーマによるのだと思うんですけれども、大変おもしろいご指摘だなと思いました。
 ほかにコメント、どうですか。川合先生、酸化物をいろいろあれされた立場から。

【川合委員】

 阪大に北岡さんがいて、彼のところで少しはかっているみたいですね。

【細野教授(東工大)】

 北岡さんというか、石田さんですね。

【川合委員】

 そうですね。それで、北岡さんが非常に印象的なことを言っていたのは、とにかく基底状態から超伝導なんだと彼は結論にしているんですね。だから、とにかく電気を流すようなものになれば、基底状態は超伝導なんだなというので、最近は超伝導には驚かなくなりました。それが役に立つという意味だと横山さんが言ったように、やっぱり室温付近のというのがない限り、僕はだめなのではないかなと。北澤さんとはちょっと違う意見かもしれませんが、でも、僕はそう思っています。
 そういう中で、やっぱり大事なのは、さっき北澤さんが言ったみたいに、あるところでスッと入り込んじゃうと、そこから抜け出せないので、細野さんみたいな固体化学者の人があまり制約を受けないでやっていくアプローチというのが、それぞれ独立性があるというのは非常に重要だと思いますね。そういう学術システムが。だから、ほかの人がまたヒントを得て、全く違う方法でやるかもしれないけれども、あんまりそこのところで絞っちゃって、その付近で振らせるだけではないほうが発展があるのではないかなと思っています。

【榊主査】

 ありがとうございました。
 ほかにありませんでしょうか。もしなければ、大変おもしろい話を伺わせていただきまして、ありがとうございました。さらにおもしろい話を持ってきていただくように細野先生、期待しております。
 それでは、次の案件に移らせていただきます。次は片岡先生にナノバイオ研究拠点プログラムの振興ということで、この数年展開しておられる研究拠点の経験からお話を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。

【片岡委員】

 それでは、話を始めさせていただきます。私はきょうナノバイオ研究拠点プログラムといいますか、ナノバイオ分野の研究拠点の進め方という非常に大きなタイトルをいただきまして、ただ、ナノバイオの分野が非常に広いこともありますし、あまり抽象的な話をしてもわからない面もありますので、前半は今現在、東大のほうでやっておりますナノバイオ・インテグレーション研究拠点の経験を踏まえて、これは中間評価も終わっていますので、これは研究成果を1つ1つ取り上げて説明するというよりかは、事例として使いまして、どんなことを促進していったらいいかといったようなことを紹介させていただきまして、それで間にまとめとともに、海外のほうでどうなっているかということで、特にこのナノバイオ・インテグレーション研究拠点と関係の深い2つ、ミュンヘンとカリフォルニアの事例をお話しして、その後で、今後どんな方策というか、考え方をやっていったらいいかということを議論のたたき台としてご紹介したいと思っています。
 それで、このナノバイオ・インテグレーション研究拠点につきましては、中間評価でもご説明しましたけれども、出口は非常に明確に持っておりまして、新しい医療に貢献するということで、特にナノテクノロジー・材料を使った治療技術、それから、センシング、診断技術ということを進めるとともに、こういった治療とか診断に非常に関係の深い、もう少しベーシックなバイオインスパイアードナノマシンと呼んでいますけれども、そういうものの研究というのを進めてきています。それで、ナノバイオ・インテグレーションというのは、これは総合でありますけれども、考え方としては、インテグレーションというのはよく半導体の分野で集積回路と言われますけれども、実は生物の分野でインテグレーションというのは、これは染色体に組み込まれる。染色体への組み込み、まさに進化の一番大もとのことをインテグレーションと言います。ですから、ここに込めた考えとしては、ナノテクノロジーとバイオを文字どおり組み込んで進化させるというんですか、共生進化をさせるといったようなことが、ここには実は込められています。
 それで、ここに書いてございますように、内容的には例えば生体の構造とか機能を理解して、そしてその作動原理をつくり込んだナノマシンをつくるとか、あるいは生体分子とか、細胞等の生体構成要素をその機能を制御した状態でインテグレートする方法論をつくるとか、これはナノバイオ全体のお話なのですが、イメージとしてはやはりナノテクノロジー・材料技術ですから、物をつくるということが非常に重要だろうと。それで、21世紀から現在もそうですけれども、かなりいろいろな方法論が進歩したおかげで、生体の構造そのものとか機能というのはナノスケールでかなり理解をされてきています。
 いわゆるNanobio Analysisと。ですから、ナノテクの材料としては、ここで学んだというか、ここにインスパイアされたような考え方をむしろ、例えば原子・分子のアッセンブリー、これは主にケミストリーですが、一応、物理の分野もそうですけれども、そういったところにつくり込んでいく。あるいは微細加工とのインテグレーション、あるいは微細加工を使ってアッセンブリーをしていく。ですから、これは一言で言えば、化学の世界ではSynthesisというのは合成化学なのですが、もう少しこれを広くとらえまして、物をつくる、Synthesisということが非常に重要なのだろうと考えて、特にナノテク・材料のアプローチからのナノバイオというのは、ここに力点を置くべきであると考えています。
 ただ、これは1つのボトムアップのコンセプトなのですが、それが一体何の役に立つのかということで、冒頭にお話ししたように医療の分野ということを考えているわけですが、それは文字どおり、こういうものは役に立つだけでなくて、こういうバイオにインスパイアされてつくったものの機能を検証するという点では、体の中、in vivoで機能するということが非常に重要ではないかということで、むしろ機能検証という意味でもin vivoというか、生体というものを常に意識するということがこういう分野ではすごく重要ではないかと考えています。
 それで、私自身はいわゆるDDSという分野にいますので、いわゆるドラッグ・デリバリーと言われている分野のお話を例にとって少し考え方をご説明したいと思いますが、ここに書いてありますように、DDSというと、いわゆるキャリアということになるのですが、むしろ、これはここにナノデバイスと書いてございますが、それはどういう意味かというと、ただ運ぶだけでは実は全然機能は進みません。要するに運ぶだけではなくて、そこに行ってオペレーションしなくてはいけない。そういう意味では、これは半導体の分野では、いろいろな機能をつくり込んだ小さな1つのシステムをデバイスと言っていますが、これは言ってみれば分子をアッセンブリーしたデバイスだろう。ここにはもちろん、ナノテク・材料という技術が非常によく使われているわけですが、これは実際、生体と接触させて、例えば薬物や遺伝子をほんとうに機能させようとしたときに、まず考えなくてはいけないのは、組織レベルの、あるいは全体レベルのお話になります。
 そうすると、これはよく言われているように、最近では非常にこういう話はいろいろなところに出てくるので、かなり一般化されていますが、要するに血流中での安定性とか、ステルス機能というのがありまして、よく言われているようにEPR効果と書いてございますけれども、癌の血管部位というのは非常に内皮細胞の間にすき間があるので、そこから粒子が出ていくということなんですね。ただ、少し誤解がありまして、じゃあ、全部これで済んでしまうのではないかという考え方があります。つまり、何でもグルグル回していけば、あとは勝手にいくんじゃないのという。
 でも、実はそれは全然違いまして、例えばこういうふうに不連続の血管壁でないところは一体どうするのか。そこはやはり右に書いてあるように、まだこれはこれからの課題ですけれども、例えばポリオのウイルスというのは、血管の中から内皮細胞の中を通って中枢に到達いたします。でも、これは別にエネルギーを使っているわけではなくて、いわゆる表面の分子とのインタラクションを通して内皮細胞側のシグナルをうまく引き起こして反対側に輸送している。ですから、要するにそういう機能を入れ込まないといけないだろうと。
 それから、実は血管から出てすべて終わりかというと、これ、血管の外が全くの空間であればそれで終わりなのですが、実はこれは組織なんですね。ですから、非常に緻密な、要するに遷移層もありますし、細胞層もありますから、これは後で少しお話をいたしますが、じゃあ、組織にほんとうにこういうものが浸透していけるのかというのは、実はほとんど研究されていません。でも、これをほんとうにやらないと、全く絵にかいたもちになってしまいます。
 それから、今度は細胞レベルのお話ですけれども、細胞に到達して、ある特定の細胞を認識して細胞の中に入り込んだ後、ここから先が実はまさにデバイスとしての非常に大きな機能が必要である。例えばこの細胞内でpH(ペーハー)が変わるとか、酸化還元、要するに化学環境が変わるとか、そういうことをうまくセンシングをする必要がある。このセンシングに今度は分子的にシンクロナイズした形で、特に時間と位置ですね。細胞の中のどこで、それから、どのタイミングで動的な構造変化を引き起こせるかというのを制御しなくてはいけない。
 そして、それがうまくいくと目的機能、いわゆるオペレーションということになるわけですけれども、そこで例えば酵素活性が発現すれば、これは細胞の中のサージェリー、いわゆる単一細胞の中の手術ですね。細胞内サージェリーもできるでしょうし、それから、薬剤というものが、あるいは生理活性物質が位置、時間特異的に出てくることによって細胞のシグナリングをコントロールする。あるいは遺伝子を発現させることによって治療をする。さらにはin vivoのイメージングに持っていけるのだろう。こういうことが期待されます。
 それから、もう一つ大事なことは、こういうものをケミカルに行うだけではなくて、実はここに化学と物理の融合というのがありまして、物理エネルギー、これはウイルス、こういうのはみんな、ある意味では生体の中のウイルスとかに非常に啓発されるわけですけれども、むしろウイルスにできないことということで物理エネルギー、光といったようなものを使うことによって、こういったプロセスを制御することもできるのではないか。そういうことがほんとうにできると、これは出口というのはものすごく大事でありまして、じゃあ、一体何ができるのだろうかと。多くの場合、こちら側、出口と、この入り口から議論されることが多いのですが、もちろんいろいろな難治性の疾患が治療できる。これはすぐわかります。
 それから、実はもう一つ大事なことは、細胞の機能の改変とか、分化誘導ができます。ですから、いわゆる再生医療にしても、きょう、岡野先生、おられますけれども、もちろん足場が必要ですし、細胞も必要ですけれども、分化の機能をどうやって制御するのか。これは薬物とか、遺伝子とか、そういうものがうまく働かないといけません。例えばiPS細胞を1つとってみても、あれは4種類のウイルス、レトロウイルスを使ってタイミングよく発現させないとiPS細胞はできない。じゃあ、ウイルスを使わないでほんとうにできるのだろうかというのがまさに非常に大きなポイントになっています。
 それから、ここの最後のところが非常に大事でありまして、これはある意味では非常に出口思考なのですが、基礎生物学に貢献をします。つまり、生物学自身が今、要するに体の外での生物学から体の中での生物学になろうとしていますが、じゃあ、一体、体の中の、例えば頭の中とか、いろいろなところで何が起きているのかと見るには、要するにそこまで何らかの形で、要するに情報を発するものを持っていかないといけない。そうなると、結局、この方法論として、要するに新しい生物学をつくる上で、こういった超分子ナノデバイスというものは確実に必要になるだろうと考えられます。
 もちろん、これは全部できているわけではなくて、これは1つの例なのですけれども、あるところまではできていますし、これからやっていかなくてはいけない面もありますが、パッと見て、一言でこれは、まさにナノバイオの特徴でもあるのですが、ここにあるのはナノテク・材料技術ですが、生体の中を回すというのは、これは言ってみれば生理学とか、あるいは薬学の分野で言えばPharmacokinetics、それから、細胞の中のいろいろな出来事は細胞生物学、そして出口は医学であります。
 ですから、必然的にこういう非常に広い範囲の分野融合が必要であるというだけでなくて、それがなおかつ方向性を持っている。つまり、要するに精密な材料合成技術を基盤としてナノデバイスをつくる。それをほんとうに生体内で構造機能相関を検証する。そして、明確なアウトプットを提示しなくてはいけませんから、単に異分野の人が集まって何かを出せばいいというだけではなくて、むしろ、基礎から応用までの縦軸の異分野融合というものも必要だろう。これはもちろん、私の分野での経験ですけれども、おそらくこういうことがすべてのナノ分野のいろいろな領域では確実に必要なのだろうと考えています。
 そういうことを踏まえて、これはちょっとお話が変わるのですが、弘岡先生という、ここにもご存じの方がおられると思いますが、住友化学におられて高分子学会の元副会長ですけれども、弘岡先生が常々言っているイノベーションのタイミング計測と産業展開というのがありまして、ちょっと見にくいスライドですが、要するに物事の進展というのは技術の発展と、それを開発に乗せる軌道と普及の軌道がある。
 これは実はエレクトロニクスに例をとっていまして、これ、1個1個、私、専門ではないので、榊先生などが見ると、ここにこれがあるのはおかしいとか、いろいろあると思うのですが、細かいことは置いていただきまして、縦軸は例えば技術の成熟度とか、多分、そういうことなのだと思いますが、3つの軌道があるということと、それから、下のほうにあるのは、実はエレクトロニクスのベンチャー起業のタイミングでありまして、これはまさに開発軌道とほとんど一致している。だから、要するに技術軌道から開発軌道にどうやって乗せるのかということになります。
 おもしろいのは、これが40年で、これが1970年、これ、30年のスパンなのですが、19世紀に例えば鉄鋼とか、いろいろなものでもこういうものがつくれるのですが、実はこれはもっと寝ているんですね。つまり、非常にゆっくりと上がっていきます。ということは、今どんどんこの軌道の傾きが立ってきている。そうすると、やはり拠点としてできることは、よく見るとこれは融合領域でありまして、今でこそ、こういう分野というのは1つの分野ですが、この初期のころを見てみると、これは物理と科学と半導体の融合領域だと。そうすると、やはり拠点のミッションというのは、まず異分野融合することによって、この技術軌道の傾きをともかく上げるということがすごく重要なのではないか。
 それから、2番目は、今度はこの技術軌道、これはよく言われることですが、ナノバイオも、いつになったら役に立つのかという、つまり、この開発軌道にどうやってトランスレーションをするか。それから、3番目はシーズ展開とトランスレーションだけやっていると、どんどんこっちに行ってしまってボトムがなくなってしまいますので、いかに新たなシーズを発見するのか。この3つがやはり、こういった非常に異分野性が高くて、かつ入り口から出口までの明確なミッションがあるような拠点をつくるときには、この3つのミッションというのは非常に重要ではないかと思っています。
 例えば異分野融合による新たなシーズの発見ということで、これは我々の拠点での例なのですが、要するに共同研究というのが進んできています。しかも、異分野で進んでいるのですが、一例だけお話しいたしますと、これは工学系の一木先生と医学系の河西先生の例で、これは成果がどうとかというよりか、非常に典型的な例だと思ってお話しするのですが、河西先生というのは2光子の光化学顕微鏡を使った、脳の中のいろいろな情報伝達の専門家でありまして、ケイジドグルタミン酸試薬という、光を当てるとグルタミン酸が出てくる。そういうものを使ってこの神経のスパインの記憶との関係を解明してきています。
 ただ、やはりそこで1つの壁に当たっているのが、グルタミン酸以外のいろいろな生理活性物質とか、そういうものを一体どうやって供給するのかというのがよくわからなかった。それに対して一木さんの場合には、これは微細加工でいろいろなチップとか、そういうものをつくっている非常に高い技術があったわけですが、この2つの技術が融合すると、今何ができているかというと、このラットの頭の中にこういうデバイスをつくり込みまして、しかも、これが透明になっています。そうすると、生きた状態で、神経で何が起きているかというのを、ここからいろいろな薬液を流すことによってin-situで見ることができるようになりました。しかも、これは、この状態でマウスは2週間とか1カ月生かすことができますから、普通に生かしておいて、必要なときに持ってきてこれを見る。
 ですから、これは将来的には何の役に立つのかというと、もちろん薬の開発ですね。統合失調症でありますとか、アルツハイマー、それから、それだけではなくて、実はこのチップをここに入れると、最初はマウスが感染したりとか、異物反応が起きたりして大変だったわけですが、ここに非常に生体適合性の高いバイオマテリアルを使うことによって、かなり長くこれを維持できるようになった。そうすると、将来的には、これを実際埋め込み型にしますと、例えばほんとうの意味で埋め込み型チップとして、いろいろな疾患の治療に使えるのではないかと期待ができます。そういう点では、やはりこのシーズを持った人たちとニーズを持った人たちをともかく突き合わせるということが非常に重要だろうと。
 それから、こういうことをやるに当たって、冒頭にお話ししたようにナノバイオの領域というのは、例えば合成の装置とか、それから、微細加工の装置があってもできない。そうすると、まさにバイオの生物の細胞のどこに何が起きているのかというのを見る装置でありますとか、あるいは動物個体レベルのことまでもやるということと、それから、さらにそれをいわゆる半導体のサンプルのようにあちこち持って歩けませんから、要するにその場でやることが必要だということで、装置の共有化というのがものすごく重要なのではないかと思っています。
 これは共焦点のレーザー顕微鏡、さらには培養室とか動物室、それから、これだけ多くの人が扱っていますが、それから、装置の管理体制、これはいろいろこういった拠点形成をする上で、もちろん研究に対する資金というのは必要なのですが、それを支えるこういったシステム、こういうものに対しても非常に多くのファンディングといいますか、そういうものが非常に有効なのではないかと考えられます。
 こういう材料合成から動物レベルまで一気にやることによって、例えばどんなことがわかるかといいますと、これは私の専門分野の話ですが、先ほどEPR効果で癌にキャリアが集まるというお話をいたしました。そうすると、これは大きさなんて適当でいいのではないかと思われるかもしれませんが、実はサイズはものすごく重要でして、例えばここにあるのは、これはリポソームで100ナノメートル、これはお手元の資料では多分見えると思いますが、実はこれは膵臓癌の組織の中にTGF-β阻害剤という血管を拡張する薬なのですが、そういうものを使っても、血管の近くには行きますけれども、このTと書いてあるのが癌細胞の塊ですが、そこには入れないですね。ですから、100ナノメートルの粒子は入れない。ところが、TGF-β阻害剤を使うと、65ナノメートルのキャリアは、この赤く染まっているのがわかりますように癌の組織の中まで入れます。
 じゃあ、30ナノメートルまでしたらどうなるかというと、それで、この60ナノメートルの粒子は実際に癌の増長がとまるわけですが、30ナノメートルまで小さくすると、これはTGF-β阻害剤を使わなくても癌の組織の中まで浸透していくことが可能であるということがわかりました。ですから、何となく100ナノメートル以下でいいかというと、実は生体というのは数十ナノメートルの差を非常に厳密に見分けています。一見、サイズによる分離というのはすごくあいまいなように思われますが、実はそうではなくて、我々の体の中にあるものでサイズ、つまり、合成のものは分布があるので何となくそうなのですけれども、我々の体の中にあるものというのは分布がないんですね。ウイルスの粒径って全部同じですし、ほかのものは同じです。
 ですから、腎臓の糸球体の濾過というのは、あれはまさにサイズで分けている。ですから、要するにサイズというもの1つとっても、非常に分布を狭くしてきちんとつくることによって、こういった体の組織の中での、将来的にほんとうに体の中の隅々までこういうデバイスが入っていって何かをしようとするときには、やはりこのサイズをきちっとつくらなくてはいけないですし、これは実は体の外で幾ら研究していてもわからない。これは要するにほんとうに生物の中に入れてみて、そしてそれをこういう装置でもってきちんと見ないと、これは絶対にわからないということだろうと思います。まあ、これは一例ですけれども、そういうことがこういういろいろな装置を一気に使うことによってかなり加速的にわかるだろうということが期待されます。
 それから、こういうものができると、あまり資金的に恵まれないとか、装置的に恵まれない若手がどんどん集まってきて、いろいろな研究が行われる。これもやはり細胞というものを1つの例にとっていますけれども、例えば細胞を操るということで、光を使って遺伝子を導入するキャリアだとか、あるいはデンドリマーを使った分子接着剤でありますとか、あるいはここにあるのはウイルスの研究なのですが、ウイルスの神経の軸索ですね。ここにウイルスがどうやって入っていくかというのを見るという、実はこれはほとんど逆行輸送というのはわからなかったのですが、ここで半導体の微細加工技術を使ったデバイスの中に軸索を並べることによって、右側の部屋にだけウイルスを入れると、左側の部屋に向かって軸索の中を通ってウイルスが通っていく。これによって初めてどのようなスピードで、どのような経路でウイルスがこの軸索の中を通っていくのかということが、これは大岡さんという方がやった研究ですけれども、わかりました。
 それから、この染色体の中でDNAはきれいにパッケージングされていますが、それが一体どうなっているのだろうかというのは、実はほとんど物理化学的によくわかりませんでしたけれども、それを材料、ブロックポリマーを使うことによって、きれいに実はパッケージングがされていて、これが非常に遺伝子発現に重要であるということも長田さんが解明しました。それから、こちらのほうでは、これはむしろ細胞の研究ですけれども、細胞を組織化して人工の器官をつくるとか、あるいは細胞そのものをデバイスを使ってつくってしまうというようなことも、これはみんな若い人が自発的な環境でやってきています。重要なことは、今度はこの中でいろいろな分野融合が起こってきて、こういう一見何が出るかわからないというか、そういう仕組みというものが非常に有効に機能するのではないかと考えています。
 それから、先ほどの弘岡先生の開発軌道への技術移転ですが、これもやはり非常に拠点のミッションとしては重要だろうと。ただ、もちろん寄附講座をつくるということも1つの考えですが、これも後でお話ししますけれども、もう少し積極的に社会連携という形で言っていますが、企業が開発中の装置なりデバイスをそこに持ち込んで、それで、今までは研究者個人との対応で共同研究をしていたわけですが、それをこの拠点のネットワークに乗せることによって一気に新しい先端計測装置とか、そういうものをつくっていってしまうというような、そういう仕組みというのも非常に期待されるのではないかと思います。
 これはナノバイオベンチャーで、これも幾つかできておりますし、中にはうまく上場までいったものもありますが、一般的に言うと大変苦労している。ですから、これはやはり非常に何かうまく方策を考えないと、タケノコのようにベンチャーができても、そこから先にどうやってそれをうまく育てるかというのが非常に重要な教訓だろうと思っています。こういったナノバイオの分野の場合、出口が非常にはっきりしているという点で、近くに医療機関があるというのは、これは間違いなく大きなメリットでありまして、隣接する、この場合は東大病院ですけれども、人工関節であるとか、あるいは腫瘍の免疫療法であるとか、あるいは受精卵の培養技術とか、そういうものが幾つか出てきていますが、こういう仕組みというのもやはり拠点にとっては非常に重要ではないかと考えています。
 そういうわけで、こういったことを踏まえてまとめと今後の課題ということですが、まず、この2年あまり活動した結果から言えることは、融合分野研究の推進に異分野の研究者を同一サイトに集合させた、いわゆる「るつぼ型」、Melting pot型の研究拠点は極めて有効なのだろうと言えると思います。それから、ナノバイオテクノロジーの出口としては、私自身は、日本は高齢先進国と言われていますし、世界的にもやはり医療、健康への展開というのは非常に重要視されていますので、これは喫緊の課題だと思っていますが、一方では環境エネルギーへの展開とか、エレクトロニクスの融合、これは特に外国では、こういった分野に非常に注力しているところもありますので、これは今後どういうふうに考えていったらいいかということは非常に重要だろうと思います。
 それから、3番目はやはり開発軌道へ乗せるところですが、特に有望な技術に対して産業化、あるいは新しい医療としての開発軌道に至るまでを加速させるための重点的な支援が必要であるということと、それから、新しいシーズというのを常に考えて出していかないと、基盤となるナノバイオサイエンス、いわゆるサイエンティフィックな基盤というものをどうやってつくっていったらいいかということは非常に大きな課題だろうと考えられます。
 結論としては、長期的な視点というのがやはり必要なのではないか。これはこれからもお話ししますが、ナノバイオ融合の求心力を持った研究拠点というのを設置して、それを発展的に実施して、どんどん長期的に進めていくということは間違いなく重要だと考えています。
 外国では一体どういうふうになっているかということで、これはナノバイオ・インテグレーション研究拠点が特に密接に関係している、例えばこれはミュンヘンのNanosystem Initiative Munichというイニシアティブですが、これはナノ科学分野の研究のクラスター型の拠点になります。年間約10億円という、やはりこのぐらいの規模が必要だと思いますが、年間10億円規模の予算で、ちょっと見にくいですが、右側がインフォメーションのテクノロジー、左側はライフサイエンス、ですから、ここはライフサイエンスとインフォメーション・プロセッシングに非常に特化をしておりまして、この輪っかの意味は、AからだんだんB、C、D、E、Fと。このEとFというところは、これはNanoanalyticsなのですが、ここで非常にバイオと近いところにある。それから、ずっと行ってDDSまで、この10の機関がコミットして研究を進めています。
 それで、この10の機関がばらばらにあるのではなくて、これは実は4つのクラスターに集合されていまして、1つはこのAugsburg大学の拠点、それから、ここにあるのは、これはミュンヘン工科大学の拠点、それから、ここに2つにありますのは、右側はこのミュンヘン大学の物理のキャンパスの拠点、それから、ミュンヘン大学の化学のキャンパスの拠点ということで、地理的には比較的近くありますけれども、こういった4つの拠点がうまく連携してインフォメーション・テクノロジーからメディカルまでを非常に効率よく進めているということが特徴であります。
 それから、こちらはカリフォルニアの拠点でありまして、これはCalifornia NANO Systems Instituteと言われています。これは2000年からやっていますので、もうかれこれ8年間続いている。これからさらに5年間続けるということになっていますが、ここはナノテクノロジー、情報医学などの分野横断型の研究を行う。これは実はナノテクノロジーだけではなくて、この4つ、こういう集まりがありまして、そのうちのこのCNSIというのが、これがナノサイエンスとナノテクノロジーということになります。
 これはカリフォルニア大学のロサンゼルス校とサンタバーバラ校のツイン型の拠点として設置されておりまして、これは建物自体は200億円を投じて、昨年でき上がりましたけれども、予算規模としては、これはツイン型の1つの拠点が9億円ですから、ツインで考えると18億円になりますが、これが運営費として用いられていて、そこにさらにNSFとか、NIHとか、そういう競争的資金を加えることによって大きな活動をしているというのが、これがCNSIの1つの形ということになります。
 こういうことを踏まえて、もう少し一般的にこういったナノバイオ拠点というのを今後進めていく、振興していくために一体何が重要かというと、今までのお話を踏まえて5つの重要なことと、それから、やはり基盤となる施策としては当然、このナノテクノロジー・材料を中心とした融合新興分野研究開発の拠点形成経費というのが非常に重要なわけですが、そこに加えて各省庁とか民間等の競争的資金と、それから、やはりこれは中間評価でも指摘されたことですが、TLO等による知的財産基盤形成というのが非常に重要だと。これは拠点の中の政策というよりかは、むしろ大学の施策になると思いますが、こういうものが基盤となりまして、この5つと。
 それは手短に言うと、1つは今までのお話を踏まえて、開放型、それから、インテグレーションして自己進化していくような研究拠点が必要だろう。今までももちろん共同利用施設というのはあったわけですが、考えてみると共同利用施設というのは、ある意味ではタコつぼ型というか、つまり、個別的利用形態ということで、それぞれの研究者がここに行って、測定をして帰ってくる。また別の分野の人が来て帰ってくる。これはこれでもちろん機能するわけですが、この中でのいろいろなインタラクションというのは、それほど大きく考えていません。つまり、言ってみれば、大浴場がない銭湯みたいな感じで、みんな家族風呂だということですね。
 それに対して重要なのは、まさに大浴場ではないですけれども、「るつぼ」にする。つまり、外部とのインタラクションもありますけれども、中でお互いにインタラクティブな環境と仕組みをつくることによって、新しいものを生み出す。ただ、そこにはもちろん、これは進化ですから、協調だけでは物は進化しない。これは競争がなくてはいけないわけでありまして、似たようなものは競争によって淘汰されるという、要するにそういう進化の仕組みをつくることによって、新しくどんどん発展していくということが重要なのではないか。それによって新しい学問領域ができて、産業が生まれるだろうと。
 それで、こういったところを考えますと、やはり開かれた研究施設をともかくつくるということが重要でして、研究機関の枠を超えた融合型の拠点、これはイニシアティブと言ってもいいと思いますが、そういうものがこれから重要なのではないか。1つはもちろん、まず、今まで何度も繰り返しになりますけれども、材料の合成解析から細胞レベル、生体レベルでの評価、さらには出口機能の検証までを癒合的かつ系統的に行う体制が必要ですから、これは基礎研究だけではなくて、病院とか産業も含めた「るつぼ型」の拠点というものがまず間違いなく必要である。
 それからもう一つは、明確なアウトプットに向けてシーズ展開を加速していくという点から言うと、多様な学融合というものがこれからますます必要になると考えられます。そういう点では、そういうイノベーションということで研究機関の枠を超えたイニシアティブのようなものを構築して、相互の啓発と適正な競争を行うことによって、こういったナノバイオの分野の、比較的出口は非常に広範なわけですが、効率よく進めていくということが重要だろうと考えられます。これは例えばミュンヘンの例もありますし、それから、カリフォルニアの例もありますし、もちろん日本では理研の茅先生が中心になって進めているナノバイオの拠点もあります。ですから、そういうものを踏まえて、こういったより大きな形でのイニシアティブ、これには当然、予算規模がそれなりになりますので、この辺はそれなりの予算の手当てというものが必要になりますが、こういうものがぜひ必要だろうと考えられます。
 ここでは分野横断的な研究ということで、これは当たり前のことを書いてあるのですが、ボトムアップとトップダウンに柔軟に対応できる。つまり、こういう広範なイニシアティブをつくることによって、えてしてどうしてもボトムアップになったり、トップダウンになったりとか振れるわけですが、やはりこのナノバイオの研究開発というのは、結局、応用と思ってやっていたことが実は基礎に、例えばin vivoの生物ができてしまうとか、あるいは基礎と思ってやっていることが応用にいきますから、そういう点では、いわゆる課題があって、そこから新しいテーマができるというトップダウンと、それから、成果があって、それを新テーマに結びつけていくボトムアップが、こういうふうにこっちに切りかえの形でやれるような、そういうシステムというものが必ず必要だと思います。
 それから、これは先ほど社会連携というお話をしましたが、もう一つはナノバイオの分野の産業化という点では、特にこれは、いわゆるどっちかというと計測機器がこういうのに近いのかもしれませんが、創出・評価センターとしての役割というのがすごく重要なのではないか。まず1つは、これは従来型ですが、要するに開発前の段階で研究者とかユーザー、そういう方が集まっていろいろな製品をここに持ってきて共同研究をする。今まではもちろん、こういうことはあったわけですが、重要なこと、これは企業Bと先生Aとがやるというか、むしろこの拠点として受け入れて、いわば開発軌道に早く乗せるということ。
 それからもう一つは、この右側にあるのは、これは実は開発途上にある先端機器というのが実践の場が必要であります。これはやはりえてして、こういう機器を例えばどこかに持ち込むと、その先生が抱え込んでしまってほかが使えないようなことが起きるわけですが、そうではなくて、この拠点にこれを持ち込むことによって、実際、今、我々がやっているのは、ニコンがインキュベーターの中に顕微鏡施設を全部つくり込んで、これは大変な技術なのですが、要するに37度で非常に高い湿度環境でもすべてロボットを使って位置特異的に2週間でも3週間でも培養できるという装置ですが、それを入れ込むことによって、それをこの拠点の研究者が自由に使える環境をつくります。それによって拠点の研究も進みますし、企業のそういうニーズ、どこにニーズがあるのかとか、あるいは先端機器をつくっていくのにどうしたらいいかというのが、ここに入れ込むことによって、より加速される。こういう仕組みというのも、こういった分野では重要なのではないかと考えられます。
 あとは人材育成ですが、これもよく言われていることですが、もちろん今、例でお話ししましたが、異なる学術分野の若手の研究員を育成するということと、それから、もちろん分野の特任教員制度をつくってスタートアップ・ファンドをつけてどんどん研究をする。ただ、これも、ここでやはり共通の装置というか、そういうプラットホームが必ず生きてくる。つまり、要するにプラットホームがないところでスタートアップ・ファンドを渡して、さあ、やりなさいと言っても、これはできないです。ですから、言ってみれば、物づくりから、要するに個体レベルでの評価までがちゃんとできるようなプラットホームなり、ネットワークをつくっておいて、そこにその人を入れることによって、より早く進むことができるだろう。それから、もちろん社会人の受け入れであるとか、分野融合型の大学院教育を実践する。それから、人材育成で国際貢献するといったようなことが当然挙げられます。
 国際貢献ですが、我々、Global NanoBio Networkというのをつくっておりまして、これはそれぞれの外国の拠点といろいろなMOU等を結んで人をやりとりしたりとか、シンポジウムを一緒にやったりとかということをやっております。NanoBio-Xということで、これは最初、NanoBio-TOKYOで2006年にやりましたが、これは今年は韓国でやって、2010年はスイスのETHか、あるいはアメリカのUCLAかどちらかでやることになっていまして、ある意味では日本発のこういった仕組みが世界に向けて広がっていくということと、それから、やはりアジア太平洋地区というのはすごく重要ですから、ここを中心にこういったグローバル化、特にナノ医療産業というのは必然的にグローバル産業ですから、多分、日本の中だけで——つまり、鉄鋼業などと違うのは、鉄の場合には工場をつくって、そしてそこにいろいろな人が、雇用が発生します。
 自動車もそうです。多くの雇用が発生しますが、ナノバイオの産業というのは雇用の数としてはおそらくそんなには、例えば鉄鋼業とか自動車産業みたいに増えるわけではありませんが、これをグローバル化することによって、いわゆる知的基盤として非常に大きなインカムであるとか、そういう経済的な発展というものがあるのではないか。だから、やはり少し、いわゆる素材産業とか、そういう産業を育てるという視点と少し違う、もう最初から日本に工場をつくらないとだめだとか、そういうことではなくて、知的財産も含めた形で世界に対して何らかの貢献をしていくということを最初から考えていくということが非常に重要だろうと考えています。
 それで、こういったことをやっていく上で、プロジェクトマネジャー、これは我々のところでは物材の堀池先生、大変おっかない先生ですけれども、堀池先生にプロジェクトマネジャーになっていただいていまして、これはもちろんJSTのほうにも、きょうも来られていますけれども、中山さんのような優秀なプログラムオフィサーとか、それから、澤岡先生、プログラムディレクターがおられますが、ここのこういうプログラムだけを見ているわけではありませんので、どうしても一歩引いている関係になります。ですから、もう少し中に入り込んで、評価をするわけではありませんが、ある程度の——だから、会社で言えば社外取締役か、監査役か、そういう形で実際に機能するという仕組みが、特に放っておくとどんどん発散していくようなものに対しては、やはりこういう仕組みが必要だろうと思いますし、私自身も堀池先生とやっていて、ここだけの話ですが、うるさいなと思うこともあるのですが、でも、後で考えてみると、やっぱり堀池先生の言うとおりだったというのが実はいっぱいあります。
 ですから、そういう点では、これは当然、有識者の方がなるのだと思いますが、評価、評価というのではなくて、ともかくこれを盛り立てていくという意味で、ただし、べったりというのではないというのですか、そういうものが間違いなく必要だろう。そういう方が、例えば新しいテーマの創出に力をかしたり、新テーマの再配分、これは緩やかな表現になっていますが、要するにこれはどこかのテーマをやめてこっちに移せとか、そういうことになるわけですが、そういうことも考えていただくということだろうと思います。こういったことをやっていくことによって、今、2008年なのですが、こういった今のプログラムというのは2010年までなのですが、そこでともかく外部機関との融合連携を進めることによってシーズをつくるということと、社外関係も進めて、2010年をめどに今のようなことを踏まえて、新たなナノバイオの研究イニシアティブといったようなものを構築していくということが必要ではないかと思います。
 そこから大体3年から5年を経てグローバル化、あるいは国内、海外とのアライアンスを経て、先ほどインテグレートと言いましたが、いわゆる自己進化型の研究拠点。欲を言えば、ここで生まれた——昔、何かパスツール研究所というのがフランスに、今でもありますが、あれはパスツールの低温殺菌技術の特許をもとに基礎研究を行ったというのがもともとのパスツール研究所の始まりだそうです。ですから、パスツールという方は非常に偉大な化学者で、要するに化学の分野ですが、立体化学の基礎をつくって、そういう非常に重要な新しい化学の分野をつくっただけではなくて、低温殺菌技術をつくることによって特許を取って、要するにパスツール研究所というのをまさに自己進化した。だから、目標としては、そういうようなものがこれからできていけばいいなと思っています。
 きょうは大変勝手な話で、あまりお役に立っていないと思いますが、一応、これで私の発表を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

【榊主査】

 ありがとうございました。大変おもしろい話を伺わせていただきました。
 それでは、ご質問やコメントをお願いしたいのですが、いかがでしょうか。北澤先生。

【北澤委員】

 こういう拠点をどのくらいのサイズでやるのが一番やりやすいというふうに今お感じになっていますか。つまり、みんなを、全体を見渡せて、それで、さっき個別、個室風呂と銭湯と言われましたけれども、銭湯って、どのぐらいの大きさのときに相互作用が一番よさそうか。

【片岡委員】

 ですから、これはまさに外からのファンディングをどのぐらい考えるかにもよると思いますが、1つの出口として例えば医療というのを考えたときには、今、私たちがやっているサイズというのは、そこですべては賄えません。ただ、そういうインフラをつくって、それで新しい融合研究をスタートさせて、それで動かしていくにはある程度のことはできるとは思っています。
 あとは、ただ、海外の拠点で見ると、例えば大体ミュンヘンが年10億円、カリフォルニアが1拠点9億円ですから、欲を言えば大体10億ぐらいなのでしょうけれども、大体5億から10億ぐらいというような形で、こういったシステムをつくることによって、そこにさらに競争資金とか、そういうものを乗せれば、それをある一定期間続けることによって成果が出てくるのではないかと思います。

【北澤委員】

 もう1点だけなのですけれども、このとき、このグループの中で、先生のところで人事権を持っている人というのは何人ぐらい働いているんですか、現在。

【片岡委員】

 人事権というのは、僕が勝手に雇うという意味ですか。

【北澤委員】

 まあまあ、勝手に雇うというか、要するにこのプロジェクトとして。

【片岡委員】

 このプロジェクトとしては、特任教員という形になっていますが、特任教員の方は、今現在12名です。それで、これは人事権は、この拠点の実施委員会にあります。ですから、実施委員会が決めて、それを各部局にアサインするという仕組みになっています。ですから、部局がだれかを挙げてきて、それを入れるというのではなくて、実施委員会のほうで決めて、その人を今度、部局なり学科なりに、この人をそちらでアサイン、どうですかというので持ってきます。そういう仕組みです。

【北澤委員】

 その人事委員会というのは、群雄割拠型。それともちゃんと領袖が1人いて、それでちゃんと統制がとれている。

【片岡委員】

 一応、私と堀池先生とサブリーダーが3人、この5人がコアメンバー。それで、その上に運営諮問委員会という総長の委員会がありますが、これはもう人事権は、最後はもちろんここなのでしょうけれども、実質的には何も言わないという。
 それで、これは偶然なのですけれども、カリフォルニア・ナノシステム・インスティテュートの人と話をしたら、向こうもそういう形になっている。つまり、CNSIとして10のポストをカリフォルニアのUCLAからもらっていて、その10人のポストは、そのCNSIがリクルートしてきて持ってきて、その人を例えばこの人は化学のバックグラウンドだから、ケミストリーのデパートメントに、この人をそちらに——だから、住民票と本籍みたいなものですね。本籍はそちらに置いてよろしいですかというので置いて、ただ、そこにポストが行っちゃうと、次もそこのケミストリーかというとそうではなくて、その人がどこかに移ったら、またこの中で決めて、今度は物理だと。そうしたら、その人を持ってきて、今度は物理のデパートメントという、そういう形です。だから、大体似たような感じだと思います。

【岸委員】

 でも、今のだと、その5つぐらいのトップの人がいると考えていいんですか、先生のところ。

【片岡委員】

 実施委員会。サブリーダーは3人ですね。それから、私と、プロジェクトマネジャー5名。

【岸委員】

 今、トップレベルで組織をつくっているところなのですけれども、10億あまりのお金というのは、1人で動かしても多分全然だめですね。ですから、幾つぐらい分散と集中を持っていくかって、結構、頭が痛いところなんですよね。

【片岡委員】

 そうです。だから、僕が1人で全部決めるなんていうのは、これはあり得ない姿で、やっぱりチェック機能が入っていて、それでお互いに協調と競争というのですか、それは絶対に必要だと思います。だから、今後、これを広げていった場合も、そういう仕組み、だから、プロジェクトマネジャーといいますか、そういう人は必ず全体の委員会に1人入っていて、振れないようにするというのは必要ではないか。

【岸委員】

 今、22ページに興味を持って見ているところなのですけれども、結局、産学連携をやるのはいいのですけれども、日本の場合、研究者とある産業界で一緒になってプロトタイプをつくるようなところまでわりとうまくいくんですよね。

【片岡委員】

 これですか。

【岸委員】

 ええ。これを今見ていたんですけれどもね。しかし、そのプロトタイプをつくって、お医者さんなら計測器をつくりますよね。その後、進まないんですね、日本という国は。これをどうしたらいいのかというのがナノの世界での最大の課題ではないかと思うのですけれども、それにはほんとうに単純な産学ではなくて、ナノならナノビジネス協議会みたいなところがほんとうにユーザーの気持ちというか、要求を引き入れたようなものを何かくみ上げて、それを援助しないと、今の産学の延長だとプロトタイプをつくって、商品の形が並ぶだけで、ウインドーにバーッと並んで終わってしまうというのが多くて、それはお医者さんの世界でも同じなのかなとこのごろ感じているんです。
 というのは、先週、何だっけ、先端融合というんですか、あれの何か諮問委員会というのに出たのですけれども、1つはあまりあれなのでしょうけれども、公に出ていたのですが、50年たって東大の薬学部から薬は1つも出ていないんだそうですね。すばらしい論文はたくさん出ているんです。それも、できないのではなくて、いいところまではみんな行っているんだけれども、最後のところはほんとうに商品にならないというんです。わりとナノのところもその気を今すごく感じているのですけれども、そういう産学連携はどうやってつくっていけばいいのか、よほど考えないといかんなという気がしているんですけれどもね。

【片岡委員】

 そうか。さっき言い忘れましたけれども、人事権を持っている実施委員会というのは5人と言いましたけれども、実はもう2人入っていまして、1人は物材機構の宮原さんと産総研の三宅先生、この産総研と物材の人を入れています。それはやっぱり中だけでやると、なあなあになると。これは宮原さんのアイデアなのですけれども、要するに宮原先生は日立におられましたし、こういう機器を開発していく過程で、ほかのメーカーともいろいろ話をするとやっぱり、こういうものをつくったのだけれども、何に使うのかがいまいち見えてこないとか、そうすると、今まで個別の先生のところに行って話を聞くと、どうしてもそことのつながりができちゃって、実は向こうのがよかったと思っても、もう後の祭りだと。
 だから、今、ここでやっているニコンとの連携の場合は、ニコンで開発している装置というのも実際ここに入ってきて、それは拠点の中のだれと共同研究をやっても構わない。そうすると、こんなニーズがある、あんなニーズがあるということで、そういうインキュベーターの中で1カ月間にわたって細胞を培養して、しかも、あれはロボット技術ですから、1回入れて、またこう置いて、はかってまた入れてというのができるんですね。ただ、そういうものをつくったけれども、じゃあ、これは何に使うのだろうかというのがよくわからない。それを実際ここに持ってきてやると、研究者のほうからいろいろなアイデアが出て、そうすると、研究者の研究も進みますし、装置メーカーも非常にいろいろな情報が来ます。
 だから、計測機器はそういうことはできるだろうと思うんですね。薬は、確かに先生が言われるように、多分、今のような開発モデルというのは難しいので……。

【岸委員】

 でも、その計測機器もいいものができるのですけれども、ほんとうに売れる計測機器になるのかというところなんですよ。

【片岡委員】

 だから、それが1人だとそうなのですが、結局、やっているうちにいろいろな使い方が出てきますね。そうすると、ニーズがどんどんわかってきますので、そこの中で、要するにこれは絶対に売れるというところまでグレードアップした形で物として世の中に出すという、そういう仕組みですね。それをやらないとなかなか、つまり、1対1の対応ではやっぱりわからない面が結構あるように思います。

【魚崎委員】

 今のに関連してグルコースセンサー、今、アボットが持っている非常に大きいのは、たまたま私の先生だったオックスフォードのヒル先生というのが、今から20年ぐらい前だと思いますけれども、1980年代の初めからベンチャーみたいなのをつくってやっていったのですが、途中で何回も死にそうになったんですね。たまたまそれが最後にはアボットが何百ミリオンダラーですか、何かものすごい大きい金で買ってくれた。それが1つの仕組みで、もう一つはテキサスのアダム・ヘラーがやっていたのも、それはテラセンスという会社だと思いますが、それも違うシステムなのですけれども、それもまたアボットが買っちゃって、今、アボットの傘下に2つのセンサー会社、グルコースセンサーを持って、かなりのシェアを持っている。
 ヒル先生のほうだけでも年間何とかビリオンチップをつくっているとかいうことで、ただ、何回も何回もつぶれそうになる。金が途切れる。日本の会社にもいろいろコンタクトしたみたいですけれども、それでも何とかいったみたいですけれども、それはグルコースで、糖尿病でユーザーがものすごくあるという、ターゲットも1つではっきりしていてもなかなか難しい。だから、いろいろ出てくるけれども、ほんとうに生き残るものになるかどうかって、かなり厳しいところがあるのかなという気はしているので、ターゲットと何とかうまくつないでいく仕組みが要るのかなと思います。
 それはそれなのですけれども、最後の絵で、先生のやられているインテグレーション拠点のは比較的、一番下に書かれているようにターゲットというか、応用がすぐ目に見えた格好になっているのですけれども、その先ずっと行ったときに、ナノバイオというのは、本来、もっと大きな要素もあって、その2010年の新たなナノバイオ研究イニシアティブというのが、これがほんとうに大事なのだと思うのですけれども、そこではどういうふうな広がりをこれから考えていったらいいのか。これは三角でかくと、逆に先細りかなと思ったりもして。

【片岡委員】

 それは絵が悪いのですけれども、先生が言われるように、あるいは僕が最初にちょっと申し上げましたけれども、つまり、軌道でいくと、技術軌道をこう行って、次、開発というふうに行くのはもちろんあるのですが、ただ、それだと結局、もとはなくなってしまうんですね。でも、実際、ナノバイオというのは、例えば我々の分野でも、DDSとしてやっているナノデバイスが実はin vivoの生物学に非常にインパクトを与えるとか、要するにリニアモデルが必ずしも成り立っていない。ですから、そういう点では新しいシーズを生み出すという意味で、途中にも少し書きましたけれども、ナノバイオサイエンスというか、つまり、そういう形のサイエンティフィックな基盤を入れた形でのイニシアティブというのが重要だと思います。先生が言われるとおりで、トランスレーションリサーチにどんどん行っておしまいというのではないだろうと。ただ、出口を見ていないと。

【魚崎委員】

 もちろん、それはそうですね。だから、両方がないと、これだけ基礎だと言っているだけではそれこそ倒れてしまうので、やっぱり最先端で成功モデルを出していく。

【片岡委員】

 そうです。だから、先生などがおやりになっているような分子情報に非常に根差したような、ああいうサイエンスとかをこういうところにうまく取り込むことによって、新しい基盤のようなものができてくると非常にいいのではないかと思いますけれども。

【榊主査】

 ほかにいかがでしょうか。どうぞ。

【岡野委員】

 非常にシステム的に新しいタイプの、特に横断型、統合型のナノバイオということで、新しいいろいろな研究方法が模索されているわけですが、先ほど岸先生からご指摘のあったように、基礎研究からいかに最終的な例えばマーケットに行くところとか、診断治療とか装置では多分、マーケットへ出る。それから、薬のほうだったら臨床に使われるというところが多分最終ゴールだと思うのですが、先生のインテグレーションのラボは、おそらく従来型の縦型になっている基盤の領域を統合して、そして応用の基礎のところまで行っていると思うんですね。ですから、多分、前の東大のあの病院長の先生と議論したときに……。

【片岡委員】

 永井先生。

【岡野委員】

 永井先生と議論したときにも、日本は応用というのが1つのタイプの応用しか考えていなくて、応用というのは、応用の基礎と応用の応用があって、おそらく使うところの応用の基礎のところの部分までは切り込めていると思うのですが、応用の応用に行くところというのは、例えばマーケットとか臨床になってくると、これはもう社会問題、行政問題とか、特にレギュレーションの問題など、医療の場合には効いてきますので、その辺も巻き込んでいかないと、先ほどの岸先生の質問に対して、こういうことまでできるというのがなかなかいかないだろうと。
 提案としては、その辺の応用の基礎から応用の応用に行くところのシステムづくりが、今、トランスレーショナルとか、箱づくりにみんな邁進してしまっているんですね。先生のところはしっかりと基礎のところをやっているので、種をつくって双葉を出して、それで双葉から今度ちょっと大きくするところまでやっているのですけれども、今度、実をならすところで、やっぱり虫が来たら袋をかけたりとか、その実をプロテクトする方法というのは絶対必要なんですよね。そこがないんですよ。だから、種から双葉にして、ちょっと大きくするところまで今来ているわけで、今度、実をつくって実を回収するところの仕組みづくりというのを、これをやりながら模索していくことは重要だと思うんですね。
 おそらく日本というのは、そこのプロセスがすべて欧米輸入型でできてきたために、双葉までつくる、あるいは双葉になるところ、種をアメリカから買ってきて、むしろ種づくりからやらなかったとか、途中のプロセスさえやっていれば実がとれた仕組みになっていたのですけれども、もうそれでは勝負できない時代なので、特に先生のナノバイオ・インテグレーションというのは、種づくりから双葉を出させて大きくするところまでチャレンジングにやられていますので、これから何か社会との連携を少し模索——これ、このバイオ拠点の内部につくるというよりは、何かもうちょっと社会に提案していく形で、特に今、トランスレーショナルとか、始まっていますよね。ああいうところとのリンクを少し考えられたら、非常に日本の中に新しいブレークスルーを起こすシステムづくりになるのではないかと思うのですが。

【片岡委員】

 それは岡野先生の言うとおりで、僕もきょうのこのプレゼンでも言いましたけれども、開発軌道に乗せるところは正直、うまくいっているのもあるけれども、なかなか大変ですと。実際、そうなんですね。だから、これで言うと、ここはかなり、つまり、こういうものをつくることによってできるだろう。つまり、シーズのこれをこう上げる。それから、この新たなシーズの発見もこういう枠組みでできると思うのですが、やっぱり僕は自分でやっていて、いまだに僕自身もよくわからないのは、つまり、ここはベンチャーと書いてありますが、ベンチャーでなくてもいいのですが、ここをどうやってやるかというのが正直、仕組みとして、それは先生が言われるように社会問題だと言ってしまえばそれまでなのですけれども、それを要するにむしろこういう拠点プログラムの中から、逆に社会の仕組みを変えるような、そういう何かプロセスとか、動きをどうやってやっていったらいいかというのが、もしいいお考えがあれば聞かせていただきたいというか、僕もやっぱりよくわかりません。そこはすごく重要です。

【岡野委員】

 多分、バイオから体の中へ入れるとみんな応用だと思うわけですね。ところが、ほんとうは1気圧の中で材料の物性や何かはかっていて、その構造と機能の論理を追求しているのと同じように非常に複雑系の中で、刻々と経時的に変化するような中で、構造と機能の追求なんていうのは極めて基礎的な問題も含んでいる解析論理がないとできないのですけれども、何かそういう形での切り込みがない中で、先ほど体の中に入れていかないとわからないというような、ああいう研究スタイルというのは、これからどうしても必要になってくるだろうと思うんですね。そこから、それをさらに治療のところまで、動物レベルから人間に持ち込むところというのは、従来、医学で分けていたのですが、医学は目の前の患者を治すところが、臨床が主体になっているために、今治らない病気に対しては戦略的にどうするかというのがないわけですね。
 ですから、もうまさに今のインテグレーションのこういうテクノロジー、この拠点でやったようなテクノロジーが医療現場とリンクさせていくことによって、今治らない病気をどういうふうに治すかという戦略性のある取り組みにしていくべきだと思いますし、ですから、そういうところの非常に大きかった壁を、医学部の中の壁を下げて、我々は医学部サイドから工学サイドとそういうリンクをかけていかないといけないと思いますし、工学サイドは、むしろそういう形で医学部サイドへ切り込んでくるということで、そこの壁をとっていかないと、患者は治らないですよ。
 『Nature』とか『Science』の論文数というのは、すさまじい数、日本では出しているのですけれども、全然、日本から新しい治療が出て、日本の治療が世界の患者を治すという局面をつくっていないわけですよ。これが日本人の世界貢献の非常に世界から評価されないところで、日本人のテクノロジーが世界の患者を治すところまでいったら、世界からもっと日本は評価されるのではないかと思いますし、その種がここにあるように思いますのでね。

【片岡委員】

 いや、そうなんです。だから、僕は、非常に月並みな言い方かもしれませんけれども、これはナノデバイスの1つの例なのですが、まさにここだけやっていては何もわかりません。ここが大事だというのはだんだんわかってきて、ここの矢印は相当強くなっている。だから、多分、今ないのが、これはもちろん大事なんですね。これをやらないとわからないので、何でも放り込めば終わりだということになってしまうので、ただ、要するにこちらに向けたこの矢印がほんとうに正しく行けるか。つまり、使えないものをつくっているのではないかとかいうことですね。
 それから、もう一つ大事なのは、こっちからこっちもないんですね。つまり、それはまさに臨床の現場の話なのですが、明確なアウトプットは提示されるのですが、それが要するにここに来てしまっているわけです。だから、医学の臨床医の方で多いのは、ここを考えないで、これをやるからこういうのをつくってくれというような、だから、要するにこの逆もない。だから、やっぱりほんとうの意味のトランスレーショナルリサーチというのは、ここの矢印がほんとうは双方向のがいいと思うのですが、ここを強くすることによって、結果的にはほんとうに使える技術を持ったベンチャーが育つとか、それが多分、こういう拠点プログラムでできるのではないか。
 認可制度を変えるとか、審査のやり方を変えるというのは、これはここの議論とちょっと違うので、多分、別の議論なのですが、サイエンティフィックな議論から言うとやっぱり、多分、ここのやりとりがあまりないのかなと思っています。

【玉尾委員】

 理研で取り組んでいることを参考までに。理研では、そこのところをつなぐために「バトンゾーン」というキーワードで、これは丸山先生が導入された方式で今取り組んでいます。それはどういうことかというと、基礎研究を応用につなぐための、要するに基礎研究者と応用研究者が同じ方向に向かって、ちょうどリレーのバトンゾーンのところで一緒になって走る区間、ゾーンが必要であるという考え方ですね。今までだと、要するに基礎研究者は基礎研究をずっとやっている。応用研究のほうは応用、何かないかなと思っているだけで、一緒になって走らないということですね。だったのを同じ方向に向かって走りましょうというのを提唱して実際に10課題ぐらい始めています。
 それで、一番大事な点というのを丸山先生がおっしゃっているのは、そのときの共同研究をやるときのリーダーは企業である。企業の人がリーダーをやって、基礎研究者のほうはサブリーダーである。だから、ここまでずっと基礎研究をやってきた人はサブリーダーであって、実際にやるのは企業のほうがやる。だから、企業が主導を持ってバトンゾーンで共同研究を始めるということが成功の大きなかぎであると言われて、それで、理化学研究所でやっている10課題ぐらいのうちで30パーセントぐらいは既に企業化になりましたということを実績として、ここ2年ぐらいなのですけれども、やっています。マッチングファンド型で、研究費も出してやっているということです。実際の研究は理研の中でやっています。そういう方式が1つ重要であるということですね。だと思います。かなりいい成果になっている。
 もう一つ、先ほど創薬の件で、今、岸先生が東大薬学部は50年間できない。理研のほうも、要するにバイオをあれだけやっていて何も成果が出ないではないかと言われていて、それを二、三年かかって、創薬というものについてどうやったら実際できるかという勉強をやってきて、製薬会社などの人は非常にはっきりしていて、生物活性の物質が見つかったからといって薬になるものじゃないよというのは非常にはっきりしているわけですね。そこをつなぐところはリード化合物まで持っていく、生体との影響などの基礎的なところ、臨床の前段階ぐらいのところまでやる必要がある。ところが、それをやるのは単に基礎研究者だけでは決してだめで、リード化合物をつくるためには100人規模ぐらいの、とにかく地道な物質合成、それとそれの生体との影響などを調べるための塊が要るというところですね。
 その部分で相当に何十億とか、そういう金が必ず必要。それを超えなかったら絶対に企業も、製薬会社も全く興味を示さないということが非常にはっきりと指摘されています。ところが、それを例えば理化学研究所がそういう規模のものを持てるかというと、そうではなくて、理化学研究所がそういう役割を担うかどうかというのは非常に難しい。国レベルでもって、実はそういうことをやるべきであるというのが非常にはっきりとした方向性としては出ています。だから、理化学研究所としてもそこまではできないので、まずは、それだけの規模はできないけれども、ある程度の小規模ででも今言ったようなリード化合物までできるようなことをやれるかどうか試してみようではないかというぐらいのところまで今やっていますね。

【岡野委員】

 先生、それは企業がやるのとどこが違うんですか。例えばリード化合物でいいものが出てきますね。それで、それが例えばあるAという企業がそれを受けて臨床まで全部やるというのと、今……。

【玉尾委員】

 そこの企業がそこまで、飛びついてくるところの物質群まで絞り込むところまでいけないのだと今言われている。

【岡野委員】

 ですから、それは日本の産業形態の問題であって、ですから、今議論しているのは、全く新しいコンセプトとかテクノロジーがほんとうに日本から発せられて、それを臨床現場、あるいは市場まで持ち込むところのシームレスなシステム構造の中でできるかどうか。ですから、非常にいいものがあって、企業に出したらいいものは企業に出せばいいと思うんですね。ですから、そこの企業へ出すところの問題は幾つか問題があるのだったら、先生、ご指摘のように少し絞り込み、もうちょっとお化粧させてやればいい。だけれども、本質的な問題は、日本からほんとうに新しい種ができるのかとか、種から双葉をどうやってつくれるのかとか、その双葉からある程度、台風が来ても枯れない、ある程度大きくする、そこの仕組みづくりが全く日本はバイオに関してはなくて、欧米追随型になっているのが問題なのだと認識しているのですが。

【玉尾委員】

 ほとんど同じ認識なのですが、僕の説明が十分ではないかもしれません。

【片岡委員】

 まさにお2人の先生の言うとおりでして、だから、多分、我々のやり方でやったときに、さっきプロジェクトマネジャーと、堀池先生は、最後は大学なのですが、もともと東芝にずっとおられましたし、今、物材機構ですね。そうするとやっぱり、考え方がある意味では、まさに先生、企業の方、理研の場合はリーダーにされていますけれども、我々の場合にも堀池先生の立場というのは、もちろん技術のいろいろなサイエンティフィックなあれもありますけれども、やはり考え方といいますか、それは僕ら大学にずっといると、どうしても今のようなマインドがなくなる場合がありますけれども、それをうまく引っ張っていってくれるとかですね。
 それから、これは岸先生に大変感謝しているのですけれども、物材機構のほうから宮原さんを東大のキャンパスの中に研究室をつくって置いていただくことを許していただきましたけれども、宮原さんも日立におられたので、それから、ある意味で物材機構の考え方というのは大学とかなり違います。だけれども、それがそういう少人数の委員会の中で対等な立場で議論をしているとすごく役に立つかなと。そういう点では、今の企業の方をどういう立場で入れるか。つまり、リーダーとして入れるか、顧問として入れるか、あるいはもうちょっと強いプロジェクトマネジャーとして入れるかとか、大学の中だけでやるとか、1つの研究所の中でやるとかというよりかは、もっといろいろな仕組みを入れたほうが確かにこういう分野はいいのかなと思います。

【榊主査】

 どうぞ。

【栗原委員】

 必ずしもバイオに限らないと思うのですけれども、岸先生の言われた最終的に最後まで、出口まで行けるかということなのですけれども、まだ私も出口まで行けるかどうかわかりませんけれども、今、大学でやっている企業との包括連携のような、ああいう共同研究は最初には何と何という、必ずしもパーツを全部お互いに出し合ってやるわけではなくて、徐々にお互いのニーズがわかってくるということで、随分できる可能性を広げるということがあると思うんですね。ですから、例えば私は測定ですから、この自分の装置でこういうことはできるはずだと思っていても、必ずしも自分の研究の枠の中ではやらないことがたくさんあるわけです。
 そういう例を例えば「こういうことをできない?」と言われることで、いろいろ提示できるということで、なるべく現場に近い形での利用の例ができていけば、1つの装置がある開発者だけの例でなくて、かなり広がった形でできるというので、そういうのはあまり今のような拠点ほど大きくないですけれども、わりと積み重ねていくことで出口に向かっていく。さっき岡野先生の言われた、両側から一歩ずつ二歩ずつという、そういう歩み寄りをどういうふうにつくるかということが基本的には大事なのだろうと思います。

【田中委員】

 出口をどう誘導するかということについては、これはいろいろラーニングをしている時期だろうと思うんですね。多分、研究サイドのシステムだけでは解決しない問題がたくさんあって、我々の研究開発戦略センターですと、井村先生を中心にICRというものを提案してやっております。これはIntegrative Celerity Researchといいまして、臨床実験から実際に物が出ていくまでの間の期間をいかに短くするかということを全体のシステムを含めて、これは厚労省、役所も全部含めて、アメリカのFDAを例にしてやっていけないかということをやっています。ですから、そういったことも含めて、多分、今後いろいろな試行錯誤の上に少しずつ改善されていくのだろうと思います。だ、今、経済活動というのは国際的になってグローバルになっていますから、そういうことをどういうふうに、こういう拠点の成果をすぐに出していくシステムの中に組み込んでいくかというのは大きな問題があるのではないかと思います。
 もう1点、この片岡先生の拠点は非常に特徴があると思います。欧米でうまくいっている成功例、融合の成功例にかなり近い形になっている。1つだけ指摘させていただきますけれども、それは東大というトップマネジメントが相当支援しているという現実があるんですね。そういう支援を引き出した片岡先生の努力は大変なものだったろうと思いますけれども、例えば医工連携の中において医学部と工学部両方に共有施設をつくっている。つまり、医学部だけにつくるのではなくて、双方につくって常にどちらかに偏るのではなくて、イコールチャンスといいますか、そういう形にして運営をしている。
 しかも、そのためのスペースを大学が用意するとか、あるいは予算の申請権について特別に認めるとか、かなりマネジメント側が支援しているということがよくわかるんですね。そういうような形というのは、今後、大学としても非常に重要になるのだと思いますし、ここにも大学のトップマネジメントにかかわる方がたくさんおられますけれども、そういうような運営をしているところは、これからどんどん、私は国も多分、支援をしやすくなるでしょうし、プロジェクトが終わった後も、一気に消えてしまうということはなくなると思うんですね。ですから、これが1つの運営の仕方、それから、今後の継続、そういう拠点の運営の仕方、継続の仕方ということの例題にもなっているのではないかなと思います。

【潮田委員】

 私は鉄鋼業の研究所におるわけですが、先ほど片岡先生から、このナノバイオの世界と鉄鋼業は対極的なような状況だろうというお話もございましたが、確かにある側面はそういうところがあると思うのですが、一方では非常に似通ったようなところもあるように私自身感じています。特に研究開発の成果を実用化するという観点においては共通的な考えがあるのではないかなと思います。
 私自身の考え方でございますが、鉄鋼業に限らず素材メーカーは新しい素材を開発し、それをお客さんに使っていただいて、当然、初めて価値があるわけですが、その際にやはり素材をつくるだけではなくて、お客様でどのように利用していただけるか、あるいはどういう価値が上がるのかということを念頭に置いて、ソフトをつけて素材を売るという発想をしております。これは大体どこのメーカーさんも同じではないかなと思うんですね。やはりそういうことが私自身、非常に重要だと思いますので、会社の中も、素材といいますと材料系の出身者がイメージされるわけですが、それだけではありませんで、当然、機械系、電気系、化学系、物理系と非常に広い分野の者が融合して、全く異分野のエンドユーザーさんに使っていただけるような、そういう活動を社内の中でもやっている。
 でも、これはなかなか難しくて、うまくいくわけではない。難しいところはあると思います。そういう中で、ニーズオリエントの研究開発には比較的成功率が高いと思うのですが、シーズオリエントになりますと、これは非常に大変だと思います。特に岡野先生がおっしゃったように、あるいはナノバイオがねらっているように、今までないような産業分野を生む。会社で言いますと、新しい事業分野を開拓する。これは非常に大変で、途中であきらめてしまうということも多々あるわけです。その中で私自身が考えておりますのは、先ほどのようにお客様の立場、最終商品の立場に立って考えるということが非常に大事なわけですが、なかなか新しい分野というのは、お客さんそれ自身もイメージをつかめないようなところもあると思いますので、エンドと研究者、ここのインターフェースがどこになるかということだと思うんですね。
 こういう新しい分野の場合には、やはり研究者みずからがエンドユーザーのところをインターフェースがもっと商品側に近づくようなところまで頑張らないと、多分、物になっていかないのではないかなと思うんですね。事業母体がありましたら、事業母体が引っ張りますから、インターフェースは研究者側に近いところでいいと思うのですけれども、これはケース・バイ・ケースで、このインターフェースを柔軟に認識して運用するということが非常に大事ではないか。当然ながら、そのためにはマネジメントの重要さも出てくると思いますし、それから、やはり時間軸ですよね。もう苦しくてどうしようもないような状態になる場合もあると思うのですが、そこを新しい技術だということでどれだけ頑張られるかという、こういうトップマネジメントの考え方だとか、国の考え方、長期的な視点でやはり物事を見る、そういうことをおっしゃいましたが、そういうことの重要性を私は感じております。

【榊主査】

 ありがとうございました。
 大変重要な点が指摘されたと思います。大泊先生、ご発言いただいて……。

【大泊委員】

 今のことに関して人材育成との絡みで少し問題提起をしたいと思っているのですが、多分、大学のシーズ、我々はほとんど大学の人間ですけれども、大学のシーズが1万あって、その中で物になるというのは多分1つぐらいだと思うんですね。今、潮田さんがおっしゃったように、量産性とか、信頼性とか、市場性とか、そういうスクリーニングを経ないと物にならないわけで、そういうときに多分、これまで大学に対してTLO云々というようなことをしきりに言われてきましたけれども、今ほとんど破綻状態と言われていますので、それは多分、そういうスクリーニングにたえられなかったせいだろうと私は思っています。
 じゃあ、どうするか。人材育成で我々自身もスーパーCOEのほうでいろいろ経営的な能力を持った者を養成しようと思って、MBAの学位も取らせたんですね。ただ、最近指摘されたことは、いわゆるMOT、つまり、何か全然見えないところから、これは物になりそうだということを発掘する眼、それはそこから今度はベンチャーが生まれるかもしれないし、そのベンチャーも幾つかの中からようやく1個ぐらい生き残るかもしれない。そういうスクリーニングの眼を持つセンスの人、これはMBAと違うんですね。そういう意味での教育システムを我々はとってこなかった。アメリカですと、そういうことが非常にうまくいっていて、研究室にいる間に自然と自分のいい着想が、これは物になるというふうに思うセンスがあるらしくて、そういう連中がベンチャーを起こしていっているわけです。
 ですから、我々が教育システムでやるのとほんとうは違って、我々が抱えているようないろいろなプロジェクトの中で、そういうマインドを持たせるような日常的な努力が要るだろうなと私は感じています。

【榊主査】

 ありがとうございました。
 大変重要な大きな問題が浮き彫りになったので、ぜひこの話は次回以降も続けたいと思います。
 高橋さん、お願いします。

【高橋室長】

 少しご紹介というか、ご説明申し上げますと、今の議論にあったとおり、片岡拠点は規模も大きいですし、かなり幅広い分野をカバーしていて、それから、フェーズという意味でも基礎から応用までかなりカバーしているというようなことで、ナノバイオということにとどまらず、かなり大きな政策の1領域を形成しているような形になっておりまして、きょう、最後に片岡先生から少しご紹介があったように、2010年以降も何らかやっぱりこういう仕組みが必要であろうというのは、きょうのご議論の大体のコンセンサスであったのではないかなと理解しております。一方、幅広い研究者の基礎研究とかシーズをいかにして取り込んでいくかということも、またきょうご議論になって、大きなテーマであるということであったと思います。
 実は、このナノバイオ関係では、片岡拠点と茅拠点という非常にカラーの違う2つのプロジェクトがありまして、実は両方ともあと残り2年という段階になってきたところで、実はもう少し連携を深めていって、協力関係を強めていこうというような相談を既に、やっていきましょうというようなことで、2つのグループで話をしていただいているところでございます。そうは言っても、なかなかすぐにというわけにいきませんので、おそらく20年度にどういう形ができるのかということを具体的に進めていっていただくということになるのではないかなと私どもは思っているのですけれども、そういったことも含めて、さらに推進していただいて、2010年以降の新しい施策にできれば発展的につなげていきたい。
 今の予算の状況等考えますと、望むらくは10億規模という話もありましたけれども、そうすると、世界トップレベル拠点規模になってしまうので、何もないところにそれだけの施策を立てるというのは、これは全く不可能だと思いますので、ある程度助走期間があってポンと上がっていくというストーリーでないと、やはりそういう大きなプロジェクトは難しかろうということであるならば、片岡、茅両拠点の先生方にもう少し20年度に頑張っていただいて、21年度、それをステップにして2010年以降の施策につなげていっていただけたらなという希望を私どもは持っております。
 実は、そういうことはもちろん、先生方にもご理解いただいておりまして、そういうことをやっていきましょうということになっていると聞いておりますので、そこはまた適宜こちらでも必要に応じてご報告をお願いしたりとか、またご審議をいただくというようなことになるかもしれませんけれども、それはそういうことであるということでまたご協力いただければと思っております。

【榊主査】

 ありがとうございました。
 大変重要な点で、今回の議論は特に基礎から応用、市場までというお話が中心になりましたけれども、もう一方で、異分野のほんとうの融合でいい種が出ているのかどうかということで、私はそう簡単なものではないのではないかという気がしていて、そこのあたりも大変工夫をしておられると思います。きょうの議論はどちらかというと、最後にたどり着く方向にわりと行きましたので、横断的な部分の工夫を含めまして、次回も含めてそういうような議論をさらに続けさせていただきたいと思います。きょうは、とりあえず時間の制約がございますので、これで片岡先生の講演を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

【片岡委員】

 ありがとうございました。

【榊主査】

 それでは、第3の案件といたしまして、今度、20年度の戦略目標が決定されましたので、それについてご紹介をいただくということになっております。資料4を中心にしてお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

【松下調査官】

 お手元の資料4が平成20年度文科省からJSTのほうに出させていただきました戦略目標で、タイトルが「プロセスインテグレーションによる次世代ナノシステムの創製」ということになります。
 その戦略の具体的な内容ですけれども、最初の段落に書いてありますのは、ナノテクノロジーを活用したプロセスの高度化と統合化を進めることによって、例えばバイオとエレクトロニクスを融合したシステムですとか、ナノ構造による化学反応場を利用したシステム、あるいは自律的に機能する分子システムなど、MEMS、あるいはNEMS等を含む次世代ナノシステムの創製を目指すというのが本戦略の主な具体的な内容になります。
 第2段、第3段、第4段落あたりには、これまでトップダウンが中心でデバイスの微細化等が進んできたということが書かれておりまして、あるいは自己組織化に代表されるボトムアッププロセスでは、これまで一応、分子配置をするというところまでいっているのだけれども、それだけにとどまっておりまして、実際、それをプロセスとして使えるためには、より発展させる必要があって、願わくば組み合わせたものが自律的に機能を創発するような自己機能化というようなレベルまで発展させていくことが重要でしょうということが書いてあります。
 一番下の段落になりますけれども、本戦略では、これら蓄積のあるトップダウンプロセスと今後発展が大いに期待されるボトムアップを組み合わせることで、それらのいろいろな組み合わせを試みることで、次世代のナノシステムの創製を図るということを目的にしているということが書いてございます。
 3番目が政策上の位置づけと、あと4番目の関連施策との切り分け等については省略させていただきます。
 5番目、この目標のもと、できる成果等のイメージということですけれども、具体的な例がそこに5つ述べられております。例えばということですけれども、タンパク質やDNA等の自己組織化を利用してできる新たな配線構造を有するシステム、あるいはウイルスをテンプレートとして作製した電極からなる高効率のイオンの電池。また、トップダウンプロセスとバイオが融合した医療用ナノシステムの構築。それから、自己機能化した有機系材料による人工筋肉、光機能性分子が自己組織化したようなセルフクリーニングシステム等、これはあくまでも例ですけれども、そういったものを想定はしております。
 このボトムアッププロセスとトップダウンプロセスとをどう組み合わせるかということにかかってくるのですけれども、それを統合することは製造技術分野における、今の日本の優位性をさらに高めるものでありまして、今まさに喫緊に取り組むべき領域であると考えております。
 6番目が戦略目標を書いたときの科学的な裏付けでございますけれども、トップダウンプロセスとしては、フォトリソグラフィに代表されますけれども、EUVなど線源の短波長化を図ることでこれまで進んできております。また、光の回折限界を超えるような微細加工として量子相関を有するもつれ合い光子などを利用するというようなことも提案されております。
 FIBに関しましては、現在はガリウムイオン等が使われているのですけれども、これを希ガスに変えることによって加工時の損傷を大幅に削減するというようなことも実際研究として進められておりますし、電顕技術のほうで球面、あるいは色収差補正の技術の導入によってというのがございまして、それを例えばFIBに適用して、同じ荷電粒子ですので、それをFIBに適用することによって加工精度を非常に高めるというようなことが実際文科省の電顕技術の要素技術ということで、プロジェクトで進んでいるというようなことがあります。
 ボトムアッププロセスに関しましては、日本は特に高分子・有機化学等ですぐれた成果を持っているわけでして、それらについてがそこに5個ほど列挙されております。また、繰り返しになりますけれども、これらのボトムアップとトップダウンを組み合わせることによって、より複雑な構造、あるいは高い機能を有するようなデバイスの創製につながることが期待できるということです。
 7番目になりますけれども、これはこの施策を運営していくに当たっての留意点ということになりますけれども、単にプロセス研究だけをやるということよりは、それを組み合わせて次世代ナノシステムを創製するということが第一義の本戦略目標の目的になっております。ただ、とは言いながらも、ボトムアップをプロセス化するという点に関してはまだ未成熟な部分がございますので、一層の科学的な探求を要するような基盤技術に対する集中的な投資も必要でしょうし、他省を含む関係機関との有意義な連携協力体制の構築なども必須であると考えております。
 本戦略目標を進めていく上に当たっては、微細加工とハードの技術のほうと、それから、シミュレーション等のソフトの技術を組み合わせる。それぞれの発展かつそれらを組み合わせるということのみならず、特にボトムアップのほうを考えてみるならば、いろいろな分野の考えを融合させたような領域、新たな学領域の創製のようなものも必要になってくるのではなかろうかということです。
 あとは、こういう非常に広い領域ですので、トップダウン、ボトムアップというだけでも、プロセスだけ考えても非常に広いのですけれども、システムの創製ということまで考えますと、それだけの非常に広い領域を総括いただける、かつ強力なイニシアティブを持っていらっしゃる方を総括に選定していくことが必要でしょうと思います。また、CREST等であればグループ研究になるわけですけれども、それらの中でのそれぞれの役割分担、先ほど理論と実験とある程度距離をとっておいたほうがいいというご議論もありましたけれども、綿密に出た実験の結果と理論とを組み合わせたようなことを検討していただきながらやっていくことが必要であろうと考えております。また、既存の研究拠点、幾つかございますので、それらとの連携を図るということも十分視野に入れてやっていただければと考えております。
 この参考というのは、政策的な目標ということですけれども、ただいまの説明と重複いたしますので省略させていただきます。
 以上です。

【榊主査】

 どうもありがとうございました。
 今、お話しいただいたように、ナノテクの研究のボトムアップ的なもの、それから、トップダウン的なもののインテグレーションに加えて、さらにシステムといいますから1つのファンクションをきちんと想定しながらというような形で大変スコープの広い形のものが目標になっております。これについていろいろご質疑やコメントをいただければと思いますが、いかがでしょうか。
 北澤先生、これをごらんになってどんなふうに今思っておられるか、少しコメントをいただけますでしょうか。

【北澤委員】

 最初にこんなコメントをしてしまうのがいいのかどうかわからないのですけれども、ナノ・材料で出てきた唯一の戦略目標がこれです。それで、ナノ・材料関係の戦略目標というのは年に3つぐらいは通常あったわけですけれども、今年は1つということで、まず、ナノは日本からは消えていくのか、そういうトレンドにあるということをまず少しお話ししたい。ですから、これ1つで、これが今年の日本にとってのナノの重点戦略なのかという、そういう観点から見ると、また見え方も違うのではないかと思うのですけれども、それで、その意味で言いますと、大きな意味で言いますと、日本にナノは必要なのかという、そこの観点がちょっと欠けている。我々のナノ・材料委員会にですね。
 それで、ライフサイエンスなどはちゃんと位置づけみたいなものをいつもはっきりさせて、そしてそれが大きなニーズとして国民から研究者のコミュニティに要求が突きつけられているという、そういう形の提言その他がたくさん出てきているわけです。それで、その提言にこたえるために我々の研究者コミュニティはこういうことにこたえるんですという形で、それに対する対処法を研究開発方針として出されて、その両者が組み合わさって政策になってくるというような、そういうところがあるかと思います。
 だから、その意味からしますと、この例えばプロセスインテグレーションもコミュニティの中のプロの人たちには通用する。そういう戦略かなと思うのですけれども、素人の人が見たら全く通用しない戦略ですよね。だから、その意味からすると、これの位置づけというのは、このプロのコミュニティのある人たちに与えられているメッセージだという形で見るのかなと思っています。だから、その意味で戦略目標の考え方とか、そういうのをもう少し我々も——我々という意味は、文科省とかJSTとか、そういうところではもう少し考えていかなければいけないかなと今検討も進めております。そんな目で見ていただくといいのではないか。

【榊主査】

 いかがでしょうか。これは字義どおりとりますと、ナノ関連の研究者は広いスコープで展開するから何でも入る。良質であれば何でも入るというような、そういう柔軟な書き方がされているようにも思うのですけれども、一方で、これだけで十分かという話、北澤先生、いろいろご指摘のとおりで、昨年ですか、スタートしたナノエレクトロニクス的なものが非常にある面でフォーカスされたものに比べると、これはほんとうに大変広く、字義どおりとるとされていまして、そういうものの全体としてどういうふうに機能させるかということ、議論が必要だと。いかがでしょうか、これについて何かコメント、質問。

【玉尾委員】

 今、北澤先生が指摘された、榊先生もおっしゃったとおりで、この辺のところというのは非常に重要、新しい物質をつくっていくというところにおいて、これを目指してつくっていくのはものすごく大事なプロセスとして、プロセスインテグレーションとして大事だと思うのですが、僕ら、物質をつくっているところでいつも言われているのが、最終目標は何なのみたいなところがどうしてもなかなか言えないところがあって、それで、最終目標、有機化学的なところからいくと、どうしてもできるかどうかわからないけれども、究極の目標としては分子デバイスだというのが、どうしてもそこへ行き着きます。それを実現するために克服すべきことというのはいっぱいあり過ぎて、そんないつになるかよくわからないのだけれども、我々としては、むしろそういうことを言ってもよいのではないかと僕は思っています。
 それを目指してこれをやっていって、困難を乗り越えるためにこういうことをしっかりとやっていくんだよ。小さいもの、こういうふうにしてつくっていくんだよ、パターニングするんだよとか、何か有機化合物でナノテクのようなものをつくるんだよとか、新しい電子状態の物質をつくり出すんだよとか、そういうことは全部それに向かっていて、それでもってすぐに何か実現するのではないのだけれども、そこからまたいろいろ派生しつつ、全体として完成を目指そうよという、それしかないような気がするんですね。だから、そういう意味では、大きいターゲットとして据えてしまってよいのではないかなという気は最近しています。
 その辺のところだと、北澤先生がおっしゃったような、もう少しだれが見ても、「ああ、そういうものをターゲットにしているのね」というのが見えるかもしれません。いろいろ批判があって、そんなものはいつできるかわからないようなものをというようなことも言われないことはないのですけれども、分子を1個ずつきちんと並べるなんて、でも、それはやはりいろいろな人のアプローチを寄せ集めてつくり上げるものだろうと思います。というように感じています。

【榊主査】

 ありがとうございました。
 基本的に分子デバイス系の研究に関しては、情報をどういう形で相互に伝えて、システムとして動かすかという視点が非常に今までは欠けていて、結局、配線の技術とか、あるいは物質移動によって生体的な情報移送をするかとか、そういう戦略があまりきちんと見えていないものですから、ほんとうにイメージが出てこない。こういうのに対して少しそういう答えを模索するような形で明瞭に出てくれば、1つの発展を期待できるかなと思いますけれどもね。
 いかがでしょうか。横山さん、前回、ナノ寄りのバイオとかを含めていろいろ工夫が必要だということをコメントされたと思うのですけれども、少し。

【横山委員】

 今までナノテクの研究をずっと続けてきて、あと、バーチャルラボを終わって、いよいよこれが最後ですよ。あなたの目指すものは何ですかという問いかけのプロジェクトととらえると、すごくいい目標だなという感じはしました。あなたの実際のナノシステムって一体何ですか、それを提案してもらうというのがこの趣旨だとすると、なかなかいいかなという印象を持ちました。

【榊主査】

 どうぞ。

【岸委員】

 今、片岡先生と議論していたようなことがほんとうにこの中にどう凝縮していくかなんですよね。今、北澤先生の言われたように、確かにいろいろ芽は出ました。だから、インテグレーションしましょう。これで終わりですよというのだとちょっと寂しいし、また、インテグレーションして、また最終的に実用化、商品化しない。プロトタイプをつくって、それで終わるんですかという気もしてしまうんですね、私などね。何でこういうことを言っているかというと、我々、超鉄鋼という大きいのをやりましたね。ぜひ一度見学に来ていただきたいのですが、すばらしいものがたくさんできているんですよ。
 ウインドーを見てもらえば、こんなにうまくいったのかということですよね。どこか使われているんですかというと、ゼロということになるわけですね。ですから、そこら辺のことをほんとうに考えてやらないと、インテグレーションして何かはできるけれども、それで終わってしまうという、この今一番困っているところを解決する方向に行っているのかどうか、そこら辺をほんとうにどうやってブレークスルーするのか。そこの方法論まで入れたものにしないと、これから生き延びるすべがないなという気がするんですけれどもね。
 それともう一つ、今、やっぱりナノは評判悪いんですかね。

【北澤委員】

 いや、そんなことは決してないと思うんですけれども、やっぱりナノって宣伝が下手なんですよね、正直なところ。それで、例えば大学でどれだけの成果が出てきたのですかとかいうことも三、四年前からあれしているのですけれども、だれも主張してくれないんです。それで、私も仕方がなくて「JST理事長13選」とか、どこかお墨つきを与えてくれるところがなかなかないんですよ。例えばナノですばらしい研究は出たのかとかいう感じで言われてしまう。
 そういうお話をしたと思うのですけれども、何も出ていないではないかとすぐに言われてしまうんですよ。常にそういうものを用意して、私はかばんの中にいつも持っているのですけれども、私の選んだ13選とか、私の選んだ10選とかいう、そういう感じで持っていて、それを配って歩いたのですけれども、そういうものが実はないんですね。それで、もう科学技術基本計画があれして10年以上たった。それで何が出たのだと言われると、みんな引いてしまうわけです。そのときに引かずに、「はい、これとこれとこれです」という感じで言えることがどうしても政治的には必要な気がしますね。

【岸委員】

 だから、先生の13と同じで、我々も5年やって、21成果が出ましたよなんて持っているわけですよね。宣伝が下手なのか、あんまり行き渡ってはいないようなのですけれども……。

【北澤委員】

 おそらくそれは、NIMSで21というとだれも見ないわけです。

【岸委員】

 多過ぎる。

【北澤委員】

 ええ、多過ぎる。

【岸委員】

 いや、それがまたおもしろいんですよ。4,300論文を書いて、21しか使えないんですかという人と、それから、4,300論文を書いて21ノーベル賞とれるんですかと両極端に言って、両方ともだめだということを言っているらしいんですけれども、まあまあ、いいんですけれども。

【北澤委員】

 その意味で言えば、大きなものが何があるのかという、普通はそのぐらいしか通じないですね。

【岸委員】

 通じないですね。いや、ですから、そういうことをもっときちっとやるということと、そういうことが目標だということをもう少し強く打ち出さないと、要するにナノサイエンスとチャレンジングな研究と実用化に近いところと、実用化に近いところはNEDOなり経産省の仕事だと思い込み過ぎている今の文部科学省のあり方に若干問題があるのかなという気もすることがあるんですね。そこら辺はどうですかね。
 特に先生、目の前にいるからやりいいのですけれども、先生のところはどっちかというと、その真ん中のチャレンジング的な研究をやっているわけですよね。しかし、見ていると、最後になると論文を書いたからいいじゃないかって、最初はえらく目標があったはずなのですけれども、いつも終わってしまうという気がするんですよ。その点はNEDOのほうが、まあ、多少うるさいことはあるのかなと思うんですね。

【北澤委員】

 いや、でも、今、岸先生が言われたまさにそれなんです。つまり、我々自身がそう言っているということなんですよ。

【岸委員】

 そうですね。

【北澤委員】

 成果がないではないかと言っているという。それで、それは実は調べないで言っているんです。それで、私としては一生懸命調べたわけです。

【岸委員】

 あったんだ。

【北澤委員】

 そうしたら、戦略創造事業だけでも13ある。それで、その13選というのをつくったのですが、だれも賛成してくれないんですよ。どういうことかというと、要するにそれはどういう根拠があって言っているんですかとか、そういういかがなものかという意見はたくさん出てきます。それで、どうしてその13選の中に自分のが入っていないのかというのは、まあ、そういう気持ちもあるかとは思いますが、私は主張してくれるなら言ってくださいと。
 それで、今、例えば13選などという話をして、条件を3つつけているんですよ。例えば100億円のダイレクトマーケットがあること。それから、既に企業が製造というか、開発段階以降のフェーズでやっていること。単なる共同研究ではなくてですね。それから、基本特許が取れていること。少なくともご自身、あるいはその周辺で取れていることという、この3つを条件にやってみると、私としては13ぐらいあって、それで、ナノバーチャルラボが今回終了する中に、そういう中にも3つぐらいはどうもあると言っているんですよ。私がですよ。私が見てそのぐらいあるから、ちゃんと調べてほしいと言うのですけれども、ナノの方はわりと皆さん奥ゆかしい。奥ゆかしくてなかなかそう主張してくださらないような面があるんですね。
 それで、その意味では、そういう観点から可能性があったらまず主張して、それで、100億以上ぐらいのマーケットだと産業界の人に見てもらっても、そんなものはそうオン・ゴーイングではたくさんあるものではないのだと。日本全部で30もあれば十分だと言われて、それで、私はそのうちの13は少なくとも戦略創造事業から出てきていますよと言って持って歩いているんです。それでだれも、私が声が大きいからかどうかわかりませんけれども、皆さん反対しないで何とか今あれしているのですけれども、それをつくってくださいと言うと何にも出てこないという、そういう問題があるんです。
 それで、文科省でも前に4つぐらい例を出されましたよね。例えば垂直磁化とか、光触媒とか、ああいうたぐいのやつですね。そういうのをいつも出しておいたほうがいい。それで、ナノバーチャルラボも出たほうがいいし、あるいは例えば片岡さんのところの拠点とか、岡野さんのところのナノバイオにかかわるようなやつって、実際には出ているんですよ。それをそういう形にしたいなと思いまして、実はやっているのですけれども、そういうことを全国規模で、ナノというのはこんなに出てきたのだという、少なくとも我々としては主張しなくてはいけなくて、それを100億以上だったらこういうやつ、10億以上だったらこういうやつって、今まだ企業と共同研究が始まって、企業が興味を持っているのをこういうやつとか、そういうぐあいに少し分けてやると主張できるかなと思う。

【榊主査】

 ありがとうございました。

【岸委員】

 でも、今のお話でもやはり、最終的に実用化されて市場はあるという話ですよね。ですから、その概念がちょっと少ないんですよ、こういうものを読んでいると。それは文部科学省は美しくないと思っているようだし、それを書くと必ず理学系の先生には怒られるのですけれども、ですので、やはりそこを踏み込まないと未来は寂しいなという気がしています。

【田中委員】

 経産省も同じですよ。

【岸委員】

 同じですかね。

【田中委員】

 ええ。つまり、経産省も、ナノは横断的なナノ戦略室というのがあるんですね。それは非鉄金属課の方が、今、課長さんが併任でやっている。それはなぜかというと、それは全部業界で縦割りになっていますでしょう。その中にナノテク産業ってないわけですよ。ですから、横断的にやっているわけですが、横断的というのはある意味では弱いんですね、何かを出そうとするときには。ナノテクが明らかにベースになって新しい製品が出たというものであっても、ナノという製品では世の中には出てこない。だから、世の中の人は認知できないんですよね。そういう見えにくいというところは確実にある。そういうのが1つあるとなかなか難しいところがある。
 もう一つは、ナノという名前をつけておくと、どんどん予算がとれるというのに皆さんなれちゃってきたと。どういう成果が出たかということを世の中に示す努力が少し甘かったのではないかという反省がありますね。今、北澤さんがおっしゃったようなことが実はあるわけです。大きな問題としてあります。これは世界的にもあります。ですから、アメリカでもナノという名前のついた、あるいはナノがベースになって確実に出たプロダクトがどれぐらいあるかという、カタログのあるものについてだけ、リサーチセンターに統計をとらせて発表しているわけです。そうしますと、アメリカは500ぐらいあるけれども、日本は50しかないというようなことになっているわけですね。
 ところが、こちらで調べますと、今、中山氏が調べて、大体集まったんですが、これを整理していないのですが、きちっと調べますと千幾つあるんですよ。あれはどのぐらいありましたかね。かなりたくさんあるんですね。そういうことを世の中は知らないし、我々も実はつかんでいなかったということもあるわけですよね。そういう意味では、いろいろな努力をしなければいけませんし、また、政策的には10年続けたのだから、もう変えなさいというどうしようもない流れがありますよ。これはいつもの、ナノテクに限らずあるわけですけれども、しかしながら、一方、学術的な面で見ますと、材料化学とか物理学というのは日本がやはり国際的には優位を保っている分野であることは、これははっきりしておりますし、また、産業でも部品とか素材とか、そういうところが付加価値が高いし、また、シェアも高いということも確かだと。
 一方、韓国その他の追い上げが厳しいことも確かですし、また一方、学術面でもMRSへ行って新しい太陽電池の論文がどのぐらい出ているかというのを見ますと、20年前と一変しているんです。欧米は合わせますと、例えば30とか50とかあるのに、日本は2編か3編しか出ていない。昔は大半が——大半とは言いませんけれども、半分ぐらいは日本から出ていたという時代があるわけです。こういった現実はよく見て分析して、相当の努力をもって世の中にどういう影響を与えたのかということを私たちは見せていく必要があると思いますね。我々も今やっているのですけれども、なかなか難しい。

【岸委員】

 だから、すぐ応用になったかどうかではなくて、例えば超鉄鋼だって、あと5年すればワーッと花咲くかもしれないのですけれども、その場その場では、しかし、応用になったものを的確に把握することと、そっちの努力をもう少ししないとやっぱり弱いですよ、これは。

【田中委員】

 そうです。おっしゃるとおりです。一緒に示さないといけないと思うんですね。

【岸委員】

 そうなんですね。

【田中委員】

 例えば5年、10年投資したからすぐに市場になるわけではなくて、例えば今、日本で有名なのはカーボンファイバーというのをやりまして、これはボーイングに東レが売り込んで、相当に大きなビジネスになっているわけです。

【岸委員】

 だけど、今ですよね。

【田中委員】

 ええ。しかし、あれは30年かかっているわけですね。そういうものであるということを十分に考えた上で、成果をどういう形で見ていくかということを皆さんにわかっていただく必要があるわけで、それをどうやってやさしく、すぐに理解できるような絵にできるかというところが難しいところだと思います。

【片岡委員】

 バイオテクノロジーとナノテクノロジーという対比がありますけれども、バイオテクノロジーというのは多分、そういう概念、言葉が生まれてから30年以上たつと思うんですね。じゃあ、バイオテクノロジーで産業がどれだけできたか。多分、そんなにないですね。じゃあ、バイオテクノロジー、やめてしまえという声は出てこない。でも、ナノテクノロジーは10年で、もう成果が問われている。多分、これはどこが違うのだろうかというと、バイオテクノロジーというのは、いわゆるライフサイエンスとか生物学とか、つまり、そういうコミュニティがある意味で完全に支えているのだと思うんですよ。
 つまり、そういう応用という形で出てくるものを支えることによって、そういう分野に関心と、それから、研究費を入れ込んでいる。多分、日本の場合、ナノテクノロジー・材料となっていますけれども、材料の分野なり、化学なり、物理の人たちがほんとうにナノテクノロジーが必要だと思っているか、あるいは自分がナノテクノロジーをやっていると思っているかというと、多分、否定的な人もかなりいるんだと思うんですね。これが結局、お互いの足を引っ張っているのではないか。でも、結局はバイオテクノロジーなり、バイオの潮流というのは、僕もバイオをやっていますけれども、すごい。このまま行けば、ナノテクノロジーをとっちゃった材料だけでどんどん予算がとれるかとか、化学だけでとれるかとか、物理だけでとれるかというと、これまた難しいと思うんです。
 2000年にクリントンがああいうのをつくったというのは、あれもかなり政策的な理由があって、要するにこのままではアメリカのフィジカルサイエンスとか、そういうものが非常に危うくなる。そうすると、バイオテクノロジーのセントラルドグマに相当するような、つまり、物質化学のそういうものがないだろうかというので多分出てきているんですね。だから、考えてみると、多分、我々自身のコミュニティがナノテクノロジーでお金をもらって、発表して成果として出すときは、これは物理です、これは化学ですと言っているところが、まず見かけ上あんまり出てこないというものの1つ大きな理由ではないかなと。アメリカの場合は逆で、むしろどんどん出してくるという感じがしています。それがやっぱり、宣伝が下手と言えば下手なのですけれども、共食いみたいになってしまっている面もあるかなと。
 それから、このプロセスインテグレーションも、さっき少しお話ししましたけれども、どうしてもインテグレーションと言うと集積というイメージがあって、何か寄せ集めるというイメージがあるのですけれども、本来、これは統合とか、まさに遺伝子の組み込みですから、多分、これ、文章とか内容に進化というんですか、これで進化しているのだというイメージがあるとすごくわかりやすいかなと。つまり、プロセスを統合したり、組み込むことによって、単なるAとBを組み合わせてこういうものができるというのではなくて、そこに何か進化しているという、だから、これは要するに材料の進化であるというようなイメージがここにあると、単なる寄せ集めではないのかなという気がしますけれども。

【榊主査】

 大泊先生、どうぞ。

【大泊委員】

 今の片岡先生のお話の中で印象的なことは、例えばバイオテクノロジーを支える産業界なり、背景の集団があったという、そのことに関して言いますと、実は一昨年に出た経産省の見通しで、ナノテクノロジー関連の産業規模の予測で、シリコンテクノロジーというのが18兆円、ナノバイオ系というのは残念ながら、現在使われている化粧品も含めて1兆1,000億円にとどまるという話で、これは多分、現状、経産省ベースの判断だと思うんですね。
 私が最近つくづく感じていることは、シリコン産業群がナノテクに関して関心が低いんです。実は彼らは、Seleteの渡辺さんとか、それから、その上にいた室町さんという——室町君というのは私の後輩なのですけれども、いろいろ問題をぶつけていまして、もう少し例えばSeleteのやっているような、これしか進んでいないので、例えばIMECのような20センチのラインを使って、あちこち枝葉を生やせることをやっている。30センチのラインはシリコン、最先端テクノロジーを世界と競う。これはいいわけです。
 その余った20センチで何をするかというと、ほかのことをやろうとしているわけですね。つまり、モア・ムーアの方向から別の座標軸を出して、面状に応用範囲を広げようとしているわけです。そういうことに関して、実はシリコン産業群がほとんど興味がない。そこが大きな問題だと思うんですね。ただ、彼ら自身は、いわゆるITRSのロードマップの要素技術のほとんどが全部赤信号で、今、悶え苦しんでいるわけですね。そのことになぜ我々学の側といいますか、あるいは基礎研究側がサポートできないのか。今こそほんとうに学の行使が必要なんですよね。ですから、そこを我々がもう少し貢献できると、彼らはその気になってくると思いますね。

【田中委員】

 僕もそれは気になっていた。

【横山委員】

 IT関係の企業の動きということが出たのですけれども、今、大泊さんが言われましたように、モア・ムーア以外の、Beyond CMOSもモア・ザン・ムーアですね。ナノエレクトロニクスという切り口で、例えば産総研が中心になって、ある組織をつくろうとか、あるいはJEITAのほうで再度全体を見直して戦略をやろうと、そういった話になってきております。その中にやっぱり大学の先生も入っていただいてやるのがいいのではないか、そういう議論をやっております。そのときにキーワードになるのがやはりグリーンITというか、省エネという観点です。だから、ナノエレクトロニクスの方向と、あと、それ以外に、やはりエネルギー関係ですね。新しい熱電変換材料だとか、あといわゆる環境にやさしいような材料とか、デバイスとか、そういった方向に今全体が動いているのではないか。あと、センシングですね。そのあたりに動こうとしていますので、と理解していますので、次の戦略目標の中にそういったものを取り入れるようにしていただければと思います。

【榊主査】

 次回か次々回にぜひそういった切り口の議論をまた再設定をさせていただければと思います。きょう、時間の都合で、もうあれになりましたので、ここで区切らせていただきたいと思います。
 最後に、事務局のほうから何かアナウンスとして。

【高橋室長】

 特には。

【榊主査】

 よろしいですか。先ほど少しお伺いしたのですけれども、31日に会合をするかしないかについては見送りの可能性が高いということで。

【高橋室長】

 そうですね。皆さんに31日は開催しないということでお知らせしようと思いますが、とりあえず、また一律にメールでご連絡するようにします。

【大泊委員】

 次回は未定でいいんですね。

【榊主査】

 ええ。

【大泊委員】

 はい。わかりました。

【榊主査】

 それでは、どうもありがとうございました。

—了—

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