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Home > 政策・施策 > 審議会情報 > 科学技術・学術審議会 > 研究計画・評価分科会 > 国として戦略的に推進すべき基幹技術に関する委員会(第6回)配布資料 > 資料3


別紙
言論NPO

国家的意思を持って振興すべき科学技術に関する調査(事例:スーパーコンピューター)
[要約]
1.日本を取り巻く世界の中長期的な潮流の把握(ステップ1): 20世紀の歴史的産物として、21世紀に人類が直面する地球規模の各種の課題が存在。「覇権国家にはならない大国」として21世紀の世界における永続的な優位の確立の上で日本に問われているのは、日本がそれらの解決に貢献し、「人類社会は持続可能か?」という問いにポジティブな解答を提示する国家となること。安全保障の概念変化、世界の多元化などの潮流の中で、特にアジア諸国との信頼関係を強化しつつ、世界にとって魅力ある日本を創出し、世界の日本に対するベスティド・インタレストを拡大していくことによって初めて日本は存続可能に。
2.日本の強さ弱さの客観的、分析的把握(ステップ2): 科学技術政策は、上記のような課題を踏まえた日本の将来像を実現する手段の一つ。日本が持つ強さは、今や日本が各種の分野で世界で最初に人類未踏、未解決の課題の解決を迫られる「課題先進国」となったこと。これをチャンスとし、世界初の課題解決実績を示していくことで、日本はその分野で永続的な優位を確立できる。課題の先進性の中での代表格は、日本が人類史上初めての超高齢化社会に突入すること。また、日本の自然条件にも課題先進性が存在。3,000キロの細長い地形、多様な気候、地震の多さという点に優位性。毎年、災害で巨額の損失を被る日本には、スパコンにより多くの資金を投入する大義名分が存在。日本には、「段取りがえ」の時間を短くするという思想があること、機密性という制約のある軍用ではなく、気象や地震という大義名分の下に整備されるスパコンは共通のインフラとして活用できること、「計算機科学」に向いた国民性といった強みが存在。多分野の知見をスパコンでインテグレートすれば、各分野に内在する日本の蓄積を強みとして顕在化させていくことも可能。
3.日本の「限りなく理想に近く、かつ現実的な」アイデンティティー(ステップ3): 覇権大国にならない日本人の願望は、世間からも評価され、世界からも日本が評価されるタイプのアスピレーション。そこから「ソートリーダーシップ」という日本のアイデンティティー。「課題先進国」になったのであれば、「課題解決先進国」となって、世界から「なるほど、あれを参考にしよう」と言われるような国になるべき。日本の強さを活用して地球規模の問題解決に資するソートリーダーとなる上で、気象や地震という課題をスパコンをもって解決していくという戦略上の選択肢が導出。地球環境問題、世界的な異常気象、「集積」の進展などの世界の潮流の中で、これはまさにSituation−Specificな選択肢。
4.日本の強さの徹底活用によってアイデンティティーと現実とのギャップを埋める選択肢の抽出(ステップ4): 科学技術分野について抽出された選択肢が国家プロジェクトとして税金投入するだけの正当性を得るためのクライテリアは、1国家的な政策から鑑みた必要性や社会的ニーズの存在、2ユーザー側が求めている性能の存在、3技術動向を踏まえて「可能であり、かつ挑戦的なもの」であること。日本のスパコン開発はこれまでも、これらのクライテリアを満たすものとして推進。また、科学技術はピラミッド構造であり、ソートリーダーを目指すなら、問題を初めて解く分野は新たな発見に至るまでに膨大な資金と時間を要することを看過できない。
 スパコン分野における日本の具体的戦略を考えるに際して重要な論点としては以下が挙げられる。1シミュレーションは、自然科学の学術研究の従来の方法である理論、実験に加え、第三の方法として今後重要性が一層増大。2日本には、シミュレーション科学の諸問題をブレークスルーするものとして「地球シミュレーター」を国家プロジェクトとして開発してきた実績がある。3気象は最大の複雑系であり、スパコンの活用価値は大きい。単なる予測精度の向上だけでなく、社会的政治的視点や世界貢献へのナショナルデザインとのリンケージがあってこそスパコンは生きる。4地震も同様。大切なのは地震被害のシミュレーションを人間社会の多様性を包含したものへと成長させ、それを事前の対策の意思決定や国民の意識向上を促す手段として活用すること。5スパコンには、ベクトル型とスカラー型があり、生産工程で「段取りがえ」を短くすることが得意という日本の強さにマッチしたのがベクトル型。「地球シミュレーター」は「段取りがえ」の時間の短いベクトル型の優位を世界に示した。6日本はスパコンを汎用的なインフラとしてユーティリティー化を進められる状況にあり、これによって魅力的な日本の創出に向けた様々な可能性を開くことが可能。7汎用性を具有するスパコンの適用可能領域を様々な分野に広げ、人間系を含んだレベルまで拡張、多分野をインテグレートすることで、日本のソートリーダッシップへのアスピレーションが開花。8遺伝子データのスパコンによる活用、データ収集への高齢者の「社会参加」など、超高齢化社会における活力ある社会運営システムの構築という先端課題の解決の手段としてスパコンを位置づけることも可能。9日本の技術的課題の分野としては、インターコネクション技術、アプリケーションソフトウェアが指摘。今後は日本が世界のトップであるミドルレンジLSIに集中投資した方が新たなブレークスルーや情報家電等への大きな波及効果が期待できるとの見方も。10多分野のインテグレートと広範なシミュレーションの実現には、研究コーディネーターの人材育成も急務。
5.日本の永続的優位確立の視点からの選択肢の評価と最適案の決定(ステップ5): スパコンへの投資という選択肢の評価に、「戦略的思考」のクライテリアを方法論として適用。
●戦略的思考1 一人称(vs. 平均・共通像):スパコンへの投資は、課題面(地震の多さ、気象の多様性)からも技術面(データと知見の蓄積、経験知等)からもすぐれて日本に即した領域。地震や気象など、国の内外に広くニーズが存在する領域で課題解決への貢献を行う点に、日本のアスピレーションに合致した、「一人称」の基準に即した戦略性。
●戦略的思考2 非線形(vs. トレンド延長):アカデミアの歴史が比較的浅く、実学・技術指向が強い日本では、欧米に比べ、シミュレーションの地位向上に対する障壁は比較的低いことがデータ創造のスピードに好影響。国家によるスパコンへの投資は、こうした領域にお墨付きを与え、学術研究の非連続的な展開期における素早い国家的な切り替えをも可能に。世界中がスカラー型へとシフトした今、それを補完するベクトル型を持つ日本はユニークな非連続的な戦略展開が可能。スカラー型が優位な領域でも複数の領域を組み合わせることで並列処理のニーズが生まれ、スカラー型の進歩がベクトル型のニーズを生む。
●戦略的思考3 自己実現(vs. 予測):アメリカ追従という小国の戦略を採用しがちな日本は、「大国」としての自己認識を高め、自らの自己実現能力を直視することが重要。大国は慎重に選択された領域においては、自ら環境を形成する可能性を持つ。課題先進国として他国が注力してこなかった領域(地震、気象など)において、新たな分野を切り開くスパコンの領域への投資の発想は、まさに追従型ではない、自己実現型の投資領域。
●戦略的思考4 徹底(vs. バランス):地球シミュレーターがその好例であるように、課題先進領域に絞り込み、その用途への対応に「徹して超える」ことが本領域においては可能。絞り込みによって深みが生まれ、その深みを軸に広い用途へと展開が可能に。標準は汎用ではなく、汎用はベストとは異なる。独自の蓄積を形成しており、他の製造メーカーが限られ、並列計算という強みを持つなどのベクトル型のコンピューターに対し、さらに次のステージに向けて投資を行い、徹底してみることが、新たな展開を生むと期待。
●戦略的思考5 時限的(vs. 普遍的):地震、気象という領域で、どのレベルのメッシュで、どの程度の精度で、いつまでに何がシミュレートできるようにするのかといった課題解決型の投資設計を行えば、必然的に時限性が生まれる。大きな地震と台風が多発した2004年度に続く2005年度には、こうした課題解決の必要性に対する国民的な意識が高まっており、課題解決への着手に対する圧力も存在するという意味でも、現在は好機。

−総括−
 日本が世界のソートリーダーとして、今後世界が直面していく様々な分野の先端的諸課題に対し最初に解決策を提示していく課題「解決」先進国となることを目指し、我々日本人がそこにアスピレーションを持つとすれば、以上の検討は、スパコンによるシミュレーションがそれを実現する有効な選択肢であることを示している。この考え方の下では、分野横断的にスパコンを用いて複雑な社会問題の解決策を模索し提示していく国という日本のあり方は、日本の望ましい姿の一つ。スパコンによるシミュレーションは様々な資源を要し、それが可能かどうかで最先進国とそれ以外の国々との差が現われる。そこには、「スパコン・デバイド」が一定量存在。日本は、アメリカにはできない特有のデータセットを構築できるはずであり、それに基づきスパコンに独自の新しい可能性を開くことで、いくつかの分野で世界における永続的な優位を確立できる。日本は、科学技術という手段ではなく、人間や社会のためにそれを何にどう用いるかというサブスタンスのレベルで、世界の中での影響力を確保していくべき。特に、日本は、様々な文化や文明が入り混じり世界の中でも人口が最も多いアジアに位置し、そこには膨大なデータとチャレンジングな課題が存在。アジア各国の事象やアジア共通の問題に対するシミュレーション・センターとして日本が機能できれば、ソートリーダーにふさわしい世界貢献に。このように、ソートリーダーというアイデンティティー実現のための戦略的選択肢として、スパコンは日本が高いプライオリティーを置いて資源を集中すべき基幹的技術分野と評価。
−以上−


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