航空科学技術に関する研究開発の推進のためのロードマップ(2012)

平成24年8月21日
航空科学技術委員会

航空科学技術に関する研究開発の推進のためのロードマップ(2012)

我が国のあるべき姿とそれを実現するために求められる方向性、強化すべき技術とその優先度編

平成24年8月21日
文部科学省
科学技術・学術審議会
研究計画・評価分科会
航空科学技術委員会

はじめに

 航空科学技術委員会では、航空科学技術ロードマップ検討委員会報告書を、本日、委員会として了承した。

 本報告書は、航空科学技術に関する研究開発の推進方策(案)を具現化し、(1)我が国の航空部門が10年後にあるべき姿、(2)あるべき姿を実現するために我が国が強化すべき技術とその優先度を取りまとめている。
 文部科学省においては、我が国の航空科学技術分野を牽引していく上で、JAXAの平成25年度からの第3期中期目標の策定等に、本ロードマップを参考にしていただきたい。
 また、我が国の航空科学技術に関わる中心的研究機関であるJAXAにおいては、産業界、大学、関係省庁等から本ロードマップに寄せられた意見を真摯に受け止め、航空科学技術を将来発展させていくために、JAXAに期待されているもの、中心的研究機関としてしっかりやるべきことを把握し、今後の研究開発に活かしていくことが求められる。また、より一層の成果還元と戦略性が求められている中、ニーズと長期的な観点で行うシーズとのバランスをどうとるか良く考慮した上で進めていくことを強く希望する。
 なお、(3)JAXA、大学、産業界等、各部門の役割分担については、今後さらに検討を継続することを期待する。

 最後に、今回の本ロードマップの策定に際して、航空科学技術委員会は、JAXAにロードマップ原案の検討を依頼したが、その検討にあたられたJAXAの諮問委員会である航空科学技術ロードマップ検討委員会の、株式会社三菱総合研究所の奥田委員長をはじめ、各委員の方々には、ご多忙の中、精力的に検討していただいた。ここに、心から感謝の意を表したい。また、検討委員会事務局を努めたJAXAの方々の多大な協力にも感謝したい。

航空科学技術ロードマップ検討委員会報告書

我が国のあるべき姿とそれを実現するために求められる方向性、強化すべき技術とその優先度編

平成24年8月21日
JAXA航空科学技術ロードマップ検討委員会

目次

はじめに
1. 我が国の航空分野の現状
2. 我が国の航空分野のあるべき姿
 2.1 我が国の航空産業(特に製造産業)の国際競争力強化におけるあるべき姿
 2.2 安全で効率的、低コストかつ環境(騒音・CO2等)に配慮した航空輸送システムにおけるあるべき姿
 2.3 航空機利用による社会生活の危機対応能力の向上におけるあるべき姿
 2.4 我が国の安全保障に資するデュアルユースでの貢献におけるあるべき姿
3. あるべき姿を実現するための全般的活動
4. あるべき姿を実現するために強化すべき技術
 4.1 我が国の航空産業(特に製造産業)の国際競争力強化において強化すべき技術
 4.2 安全で効率的、低コストかつ環境(騒音・CO2等)に配慮した航空輸送システムにおいて強化すべき技術
 4.3 航空機利用による社会生活の危機対応能力の向上において強化すべき技術
 4.4 我が国の安全保障に資するデュアルユースでの貢献において強化すべき技術
5. あるべき姿の実現を支える共通基盤技術
6. 育成すべき人材像
表1 航空分野のあるべき姿と強化すべき技術(資料2-2-3)
表2 あるべき姿の実現を支える共通基盤技術(資料2-2-4)
表3 人材育成(資料2-2-5)
参考1 航空科学技術ロードマップ検討委員会委員一覧
参考2 開催状況
参考3 用語集

はじめに

 航空機は、その最大の特徴である高速性を活かし、ヒトやモノの輸送、観測等、現代社会の様々な部門で利用されており、経済社会の発展及び国民生活の向上のために必要不可欠な社会インフラとなっている。また、アジア地域を中心とした新興国の発展や、グローバル化が進展することにより、航空機が活躍する機会は増加していく。財団法人日本航空機開発協会(以下、JADC)が2012年3月に実施した調査研究では、世界の航空旅客輸送量はこれから20年間にわたり平均約4.8%で伸び続け、現在に比べて約2.7倍になると予測される等、航空機の重要性が今後飛躍的に高まっていくことは論を俟たない。
 航空輸送量の増大及び利用局面の増加に対応するために航空機材の旺盛な新規需要が見込まれており、先述のJADCによる調査研究ではジェット機の運航機材はこれから20年で現在の約2.1倍になるとされている。欧米機体メーカによる調査研究においても同じく大きく成長をすることが予測されており、確実な成長が期待される産業である。また、航空機製造業は信頼性・安全性・軽量化・高性能化等の技術的要求が非常に厳しい、知的集約・ハイテク集積産業であり、関連の機械・電子部品・素材等、広範囲にわたる産業部門の技術進歩を促す性質も持っている。
 我が国がこれからも持続的に成長していくためには、航空輸送量の増大に的確に対応しつつ、安全で効率的な航空サービスを提供し続けるとともに、航空機製造業の需要を取り込み、我が国の産業部門を牽引していくことが求められる。
 また、昨年3月11日に発生した東日本大震災において捜索・救助、ならびに輸送および情報収集手段として活躍したように、航空機及び無人航空機(UAV)(以下、無人機)が我が国の安全保障や防災に貢献し、安全・安心な社会の実現へ寄与することにも極めて大きな期待が寄せられている。
 このように航空分野に対しては、非常に重要かつ多様なニーズがあり、これに応えるためにはALL-JAPANのステークホルダがあるべき姿を共有し、国を挙げて取り組むことが求められる。その中で独立行政法人宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)は、ALL-JAPANの技術の中核としてこれに寄与することが必要である。
 文部科学省は、第4期科学技術基本計画に基づく、「航空科学技術に関する研究開発の推進方策(科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会策定予定 以下、推進方策)」を踏まえて、JAXAの達成すべき中期目標を策定することとしている。JAXAは平成25年度からは第3期中期目標期間となるが、文部科学省はその策定に当たって、我が国の航空分野の10年後にあるべき姿を見据えつつ、必要な研究開発課題とその優先度、産業界、学界等とJAXAとの役割分担等について示した「航空科学技術ロードマップ」(以下、ロードマップ)を航空科学技術委員会において策定することとし、JAXAにその原案作成を依頼した。
 このようなロードマップの原案を策定するため、本「航空科学技術ロードマップ検討委員会」(以下、委員会)がJAXAの諮問委員会として設置され、下記の諮問が行われた。

 (1)我が国の航空分野が10年後にあるべき姿
 (2)第1号を実現するために日本として取り組むことが必要な研究開発課題と、その優先度
 (3)第2号の研究開発課題を達成するためのJAXA、大学、産業界等、各部門の役割

 本報告は、事前検討会も含め、平成24年4月25日から平成24年7月25日の間に開催した5回の委員会において、上記諮問事項の(1)と(2)に関する検討結果を提言としてとりまとめたものである。残る諮問事項(3)については、今後適宜開催される委員会において引き続き検討を行っていく予定である。また、本報告で示す内容は、今後も適宜更新していくべきものである。
 なお、上記諮問事項の(1)について議論を行う中で、近年の航空を取り巻く環境・産業構造の変化を踏まえると、戦略や体制、人材の育成等においてもALL-JAPANとして求められるものがあり、これらも含めて一体的に取り組むことが必要であるとの意見が多く出た。よって本委員会ではそれらも検討し、とりまとめを行った。
 本報告の構成としては、まず1章において、航空分野の現状を整理し、その上で2章において我が国の航空分野のあるべき姿についてまとめた。次に3章において、あるべき姿を実現するための戦略や体制として求められる全般的な活動をまとめた。そして、4章において、あるべき姿を実現するために求められる方向性、及び、強化すべき技術とその優先度をまとめ、さらに、5章であるべき姿を支える共通技術基盤について述べた。最後に、6章で人材の育成についてまとめた。
 また、ロードマップの原案策定に当たってはALL-JAPANのステークホルダの意向を反映したものとするため、以下の各種施策文書も参考とした。

 (1)「新成長戦略」
  (平成22年6月18日閣議決定)
 (2)「第9次交通安全基本計画」
  (平成23年3月31日中央交通安全対策会議決定)
 (3)「第4期科学技術基本計画」
  (平成23年8月19日閣議決定)
 (4)「航空科学技術に関する研究開発の推進方策(案)」
  (平成24年8月23日文部科学省科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会決定予定)
 (5)「産業構造ビジョン2010」
  (平成22年6月3日経済産業省産業構造審議会産業競争力部会公表)
 (6)「技術戦略マップ2010」
  (平成22年6月14日経済産業省公表)
 (7)「国土交通省成長戦略」
  (平成22年5月17日国土交通省成長戦略会議)
 (8)「将来の航空交通システムに関する長期ビジョン(CARATS)」
  (平成22年2月22日国土交通省将来の航空交通システムに関する研究会)
 (9)「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」
  (平成22年12月17日安全保障会議決定、閣議決定)
 (10)「中期防衛力整備計画」
  (平成22年12月17日安全保障会議決定、閣議決定)
 (11)「航空ビジョン」
  (平成21年3月19日日本航空宇宙学会)

1. 我が国の航空分野の現状

 本章では、まず航空機開発・製造の観点、航空機運航・利用の観点、我が国の安全保障の観点から我が国の航空分野の現状と環境・産業構造の変化について述べ、その上で次章において諮問事項(1)の「我が国の航空分野のあるべき姿」(以下、あるべき姿)を示す。
 はじめに、我が国の航空分野の現状を産業、特に製造産業の観点から見ると、民生部門のエンジン等旅客機の部品の開発では、市場を寡占する欧米巨大企業の共同開発パートナーとして着実に成長を遂げてきている。例えば米国ボーイング社が市場に投入した最新鋭機B787において、我が国は機体構造の35%ものシェアを担う程になっている。また、旅客機の完成機の開発としてはYS-11以来約50年ぶりに、我が国初の民間ジェット旅客機が事業化され、全機開発の継続的実施が期待されている。一方、防衛部門は、日本がYS-11以降、全機システムとしての開発を行ってきたのは防衛省の開発においてだけであり、今また固定翼哨戒機と輸送機の開発で貴重な実績を積むなど、日本の航空機開発において極めて重要な位置を占めている。また近年は、防衛省で開発した機体の民間用途への活用なども検討されている。
 一般に、航空機は複雑なシステムを有するため、自動車産業等他の産業に比べ産業構造の裾野が広い特徴を持つ。また、航空機寿命は20年から30年と言われ、その間極めて高い安全性や信頼性が求められるので、航空産業が更に拡大されることになれば、長期に亘り我が国の「ものづくり」を活性化させ、国内の産業空洞化対策に資することができるとの期待が非常に大きい。更に、航空分野において培われた技術は、宇宙等他の分野の基盤技術として将来展開され活用されることも大いに期待されている。このため、航空機産業は自動車に次ぐ我が国の基幹産業として、今後も成長していくことが期待される。
 一方、世界の市場環境や産業構造の変化としては、既存のキャリアと比較して低廉な運賃を主な強みとするLCC(Low Cost Career)の台頭により、彼らに航空機のリースを行うリース会社が登場し大量に航空機を保有することで大きな影響力を持ち始め、また整備・修理・オーバーホールを専業とするMRO(Maintenance, Repair & Overhaul)ビジネスも誕生する等、従来エアラインが一手に引き受けていた事業の水平分業化が進んでいる。また、サプライヤ(装備品企業)同士が統合し、スーパーTier1として巨大化するとともにシステムインテグレーターとしての能力も備えつつあり、完成機市場を寡占する欧米巨大企業に対しても強いバーゲニングパワーを発揮するようになっている。また、金属から複合材、油圧から電動へのシフト等、新しい技術も徐々に取り込まれつつある。
 次に航空機運航・利用の観点から見ると、我が国は大小の島から成り周辺を海に囲まれた海洋国家であるため航空輸送の恩恵を最も受けやすい国のひとつであり、総輸送量が近年こそ世界情勢の影響で世界第7位(平成22年:国際民間航空機関調査)とやや下がってはいるものの、平成13年には世界第2位を記録するなど、現行の航空交通管理システムでは、増大する将来の航空交通量への対応に限界があるとされている。また、平成23年3月11日に発生した東日本大震災では、災害時における捜索・救助、ならびに輸送および情報収集手段としての航空機及び無人機の役割が再認識された。
 安全保障の観点としては、航空分野は防衛力・抑止力に直結するものであり、従来は防衛部門が航空産業の主要な売上げであったが、近年では防衛部門は半分程度で、漸減傾向にある。しかし、全機開発をはじめとして技術のコアとして防衛部門は依然として極めて重要な意味を持つ。

2. 我が国の航空分野のあるべき姿

 諮問事項(1)の「あるべき姿」を議論するため、航空分野を以下の4つに分類した。

 (1-1)我が国の航空産業(特に製造産業)の国際競争力強化
 (1-2)安全で効率的、低コストかつ環境(騒音・CO2等)に配慮した航空輸送システム
 (1-3)航空機利用による社会生活の危機対応能力の向上
 (1-4)我が国の安全保障に資するデュアルユースでの貢献

 更に、(1-1)を「機体」、「エンジン」、「装備品」、「素材(主に複合材料)」に分類し、それぞれについて、諮問(1)に従って10年後の時点での「あるべき姿」を検討したうえで、10年後に実現しているべき姿を短期(10年後)、10年後には開発中で、その後の10年程度で実現する姿を中期(20年後)、10年後には革新概念・技術として認知され、30年後程度までに実現する姿を長期(30年後)における「あるべき姿」とした(表1の左端のカラム)。ただし、短期と中期、中期と長期の区別が明確でないものについては、それぞれ、短・中期、中・長期とした。ここで、(1-4)のデュアルユースは、民間機と防衛航空機の両方で共通的に利用できる技術を意味する。
 以下、各分類に対してあるべき姿を示す。

2.1 我が国の航空産業(特に製造産業)の国際競争力強化におけるあるべき姿

【機体】

 短期的には、我が国がインテグレーション技術等を強化し、リージョナルジェットの分野で競争力を有している。中期的には、日本がリスクシェアリングパートナーとして高い地位にあるとともに、リージョナルジェットの分野で更なる競争力を有している。そして、長期的には、更なる利便性、経済性、低環境負荷、快適性、高速性、安全性を追求した技術開発が着実に進み、技術革新が起こっている。

【エンジン】

 世界のエンジン開発においては、短・中期的に、引き続き日本がリスクシェアリングパートナーとして高い地位にある。また、長期的には電動化やさらなる革新的な航空機やパワープラントシステムの出現に向けて、日本が世界において主体的な役割を果たしている。

【装備品】

 短期的にはシステムインテグレーション能力を身につけ、機体開発における貢献度を高めている。中・長期的には更に個々の要素技術について先進の技術力を身につけ、飛行管理システム(FMS)や各種先進的アビオニクスシステムなどの開発・インテグレートも可能になっている。また、リサイクル等も含めた環境に優しい設計に適応している。

【素材】

 短・中期的には炭素繊維複合材技術において国際的競争力を有し、長期的には複合材に代わる革新的な素材が活用されている。

2.2 安全で効率的、低コストかつ環境(騒音・CO2等)に配慮した航空輸送システムにおけるあるべき姿

 増大する航空需要に対応し、短・中期的には、まず効率的な航空輸送が実現されていると同時に、安全性が更に向上するだけでなく、安全性向上のための技術開発が継続されている。次に、低コストな航空輸送が実現され、更に、航空需要に対応して便数が増加する中で、騒音、CO2、NOx等の環境値が継続して低減されている。一方、上記施策の検討のために、実運航データが蓄積されている。
 長期的には、技術革新により航空輸送の更なる効率化、安全性向上、低コスト化が進んでいる。

2.3 航空機利用による社会生活の危機対応能力の向上におけるあるべき姿

 自然災害に悩まされる我が国においては、大規模災害時(大規模地震や津波発生時等)の社会安全確保のため、短・中期的には、航空機利用による危機対応能力が構築されている。長期的には、技術革新により、危機対応能力が向上している。

2.4 我が国の安全保障に資するデュアルユースでの貢献におけるあるべき姿

 我が国の安全保障で培われたデュアルユースの技術が民生部門へ活かされている。また、我が国の中期防衛力整備計画には、戦闘機の開発を選択肢として考慮できるよう、将来戦闘機のための戦略的検討を推進すること、より一層の効果的かつ効率的な装備品等の取得を推進すること、無人機を含む新たな各種技術動向等を踏まえ、広域における総合的な警戒監視態勢の在り方について検討することと記載されているが、短・中期的に特に重要として推進されているデュアルユースの技術はこれら防衛部門にも貢献している。

3. あるべき姿を実現するための全般的活動

 本章では、航空機開発・製造の観点、航空機運航・利用の観点、我が国の安全保障の観点から、前章で述べた航空分野の現状と環境・産業構造の変化も踏まえた上で、航空分野のあるべき姿を実現するために求められる戦略や体制の構築について論ずる。
 まず航空機開発・製造の観点でみると、前章で述べたような環境・産業構造の変化に対応するために、我が国におけるMROも含めたライフサイクルでの事業への取り組みや国内のバリューチェーンの構築が重要である。まず、主要部品において国際競争力のある素材製造技術、製造ネットワークを形成することが必要である。その上で、従来は航空分野とあまり関係がなかった異業種の力も取り込み、パートナーとしての地位の維持・拡大を目指し、ファイナンスやサプライチェーン管理プロセス等も含む新たなビジネスモデルの開拓が求められている。とりわけ規格化・認証に関しては必要な情報の作成、提供、試験等を行える認証取得プロセスの国内体制を強化するとともに、複合材料の一層の開発や、開発した新素材・新製造法等の国際標準化や国際標準とのコンパチビリティの確保による事業の拡大が求められている。
 次に航空機運航・利用の観点から見ると、増大する将来の航空交通量に対応するため、国内の社会・経済活動を支える社会インフラとして安全かつ効率的で経済的な運航が可能な航空交通システムへの変革が必要とされている。また、安全で安心な社会の構築に向けて、航空機及び無人機をより有効に利用できるように、平時も含めた無人機の運航に係る技術基準や安全基準の整備、運用体制の確立等が必要である。
 安全保障の観点としては、防衛部門の産業界の育成と技術力維持が必要である。また、民間機と防衛航空機で開発された新技術製品の双方向の適用による調達価格の低減化や、民生部門との共通的技術課題における協力等が求められている。
 そして上記3つの観点における共通事項として、航空機産業の魅力を高めることを目標として我が国の総力を結集する産学官連携体制を構築し、地域クラスターの形成等効果的・効率的な取り組みを推進するとともに、検査や認証、契約や法務等についても知識・経験の共有化を図り、これを充実させることが必要である。また海外との連携は今後より一層重要となってくると考えられ、人材交流やLow Cost Countryを含むサプライチェーンの国際化を強化していくべきである。一方、他国との差別化を図りつつ我が国航空部門のプレゼンスを向上させるためには、海外との競争と協調の使い分けが必要となる。また、革新的な技術については大学等学界の技術シーズ・知見を活用できる仕組みが求められる。

4. あるべき姿を実現するために強化すべき技術

 本章では、特定の目的を見据え、我が国の航空分野のあるべき姿を実現するために強化すべき技術及びその優先度について述べる。ただし、本報告に示した「あるべき姿を実現するために強化すべき技術」(以下、強化すべき技術)は、網羅性を追求したものではなく、ALL-JAPANのステークホルダの意向を反映するために冒頭に示した各種施策文書を考慮した上で、我が国の航空分野において今後解決すべき、あるいは、向上すべきであるという戦略的な観点で選択している。なお、技術開発における科学的、あるいは、シーズ的な側面を強化することも重要であり、ニーズ的な側面の強い本章においては長期的視点(例えば、技術革新による将来機開発等)に含まれ、さらに次章の共通基盤技術にも含まれるものである。
 まず、我が国の航空分野のあるべき姿に対して、「あるべき姿(ビジョン)を実現するために求められる方向性(戦略)(能力や体制等も含む)」(以下、方向性)を挙げて、大意ごとにいくつかのカテゴリにまとめた(表1の左から2番目のカラム)。例えば、(1-1)の「機体」について、短期の「あるべき姿」は、「リージョナルジェットの分野で競争力を有している。」であり、それを実現する「方向性」は、「低コスト化」、「認証」、「整備」の3つにカテゴライズしている。
 そして、「強化すべき技術」を表1の左から3番目のカラムに委員からのアンケートを元にリストアップした。これらの技術は多岐に亘るため、表1に示した以下の11の分類に分けて整理した。下記分類の上から5つ目までは学術分野に関連する項目、それ以外は航空機のバリューチェーンに関連する項目と見ることができる。

  • 空力系技術
  • 材料/構造系技術
  • 誘導制御系技術(飛行実証含)
  • 推進系技術
  • 製造・加工系技術
  • インテグレーション系技術
  • 認証系技術
  • 運航系技術
  • 整備系技術
  • その他

 上述のとおり、リストアップされている技術はいずれも重要なものであるが、その中でも更に我が国として優先的に強化すべき事項を選別した。評価に当たっては、まず、それぞれの「強化すべき技術」を各委員が以下の観点で優先度付けを行った。

 A:我が国が強化すべき必須の技術
 B:我が国が強化した方がよいと思われる技術
 C:我が国が優先して強化すべきとは必ずしも判断できない技術
 空欄:不明(自身の専門領域でない箇所は、「空欄」も可とした。)

 その結果を「A:2」、「B:1」、「C:0」として「技術」ごとに合計し、その項目の評価を行った委員数で除した平均値を導出し、これによって優先度の高いものからA・B・Cとした。更に、多くの評価者によって高く評価されたものと、少数の評価者によって高く評価されたものを識別するために、評価者が11人未満(11人は各項目に対して評価を行った平均委員数を上回る、最小の整数)のものは優先度A・B・Cにアポストロフィを付加し、以下の最終的な評価結果とした。

 A:平均点が1.5以上かつ評価者が11人以上のもの。
 A':平均点が1.5以上かつ評価者が11人未満のもの。
 B:平均点が0.5以上1.5未満かつ評価者が11人以上のもの。
 B':平均点が0.5以上1.5未満かつ評価者が11人未満のもの。
 C:平均点が0.5未満かつ評価者が11人以上のもの。
 C':平均点が0.5未満かつ評価者が11人未満のもの。

 表1の右端のカラムにおいて、技術の総合評価においてA及びA'と評価されたものに○を付している。なお、優先度は、特に国際競争力強化の視点において短期的に取り組むべき技術が高く、長期的には低くなる傾向がどうしても表れるが、リストアップされた技術はあくまで全て重要な技術であるということを考慮しつつ、例えば戦略的にリソース配分を決める目安として利用すべきものである。
 以下に、表1の中でも強化すべき技術として優先度の高いものの概要をまとめる。ただし、特定分野でのニーズが高いゆえに平均されると優先度が低くなってしまう技術で、特に強いニーズがある技術も含めた。

4.1 我が国の航空産業(特に製造産業)の国際競争力強化において強化すべき技術

【機体】

 短期的には、我が国がリージョナルジェットの分野で競争力を有するために、官民が一体となってインテグレーション技術、高品質・高レート・低コスト生産技術、認証技術の強化を進める必要がある。また、サプライチェーンマネージメント技術、ARP4754等による設計管理や審査などを行うための開発保証システム、リージョナルジェット開発に関連してこれから行われる飛行試験に関する技術も推進する必要がある。
 中期的には、日本がリスクシェアリングパートナーとして高い地位にあるために、複合材の高性能・軽量化技術や、高度なロボット等を活用した低コスト・高レート製造技術の強化により、貢献度の向上を狙うことが重要である。また、リージョナルジェットの分野で更なる競争力を有していることも重要である。それを実現するためには、全機システム設計技術(多分野融合最適化を図るうえでも空力/材料/構造/制御技術等が必須)、空力系の低燃費空力設計技術(摩擦抵抗低減塗料技術、自然層流翼設計技術、揚力分布最適化技術等)、騒音低減技術、複合材設計技術、さらには構造設計技術の向上によって、設計能力の獲得を図る必要がある。
 長期的には、技術革新に基づき、無人機技術(自動制御技術、飛行実証技術、無人運航技術)と全電動化技術の確立、空地データリンク技術や精密飛行技術の高度化、超高アスペクト比の主翼設計技術を目指すことが重要である。

【エンジン】

 世界のエンジン開発においては、短・中期的に、引き続き日本がリスクシェアリングパートナーとして高い地位にあるために、ファンの革新軽量複合材、高効率層流空力(ファン層流)技術、タービンのセラミック基複合材、圧縮機後段の耐熱金属材料等の材料系技術、高温高圧系の要素技術、コアエンジンシステム設計技術等の推進系技術、エンジン低騒音化などの空力系技術、空力/伝熱/構造/振動統合解析技術等のインテグレーション系技術に注力するとともに、これらの高い技術力を、価格を含めた国際競争力をもつ製品として実現するための製造/加工系技術も高めていく必要がある。合わせて、認証系、整備系技術等にも積極的に取り組んで、我が国の技術領域の拡大を図るべきである。
 また、長期的には、水素燃料技術のような将来ビジネスに繋がる戦略的な基礎・基盤研究にチャレンジする必要がある。

【装備品】

 機体システムを構成する搭載電子機器や空調、油圧機器など装備品の多くは、欧米企業の競争力が高いため、短期的には、我が国として装備品産業の競争力強化に向けて種々の取り組みをなすことが必要である。特に、認証技術の強化やインテグレーション系技術であるシステム設計技術の向上を図ることが必要である。
 また、中・長期的に更なる競争力を有するため、飛行管理装置(FMS)技術やオートパイロット技術等を獲得するとともに先進的アビオニクスシステムの開発とシステム全体のインテグレートを実現する能力を有していることが望まれる。また、整備コスト低減に資する電動化技術、先端材料技術、信頼性保証を含むソフトウェア技術、無線データ通信技術等の装備品関連の要素技術の開発技術力の強化を進めることが重要であり、また部品の信頼性データを集積する仕組みを構築することで、トレーサビリティの向上を実現することが望まれる。更に、有害物質の排除技術等、製造加工技術に注力し環境に優しい製造設計等を行うべきである。

【素材】

 機体の構造材料として採用が進んでいる炭素繊維複合材において、我が国は現在、圧倒的なシェアで世界をリードしている。短・中期的には、この地位を更に確固たるものとすべく、素材の開発とあわせて加工技術の向上や熱可塑複合材の利用などを含めた複合材の活用技術の改善・開発も進める必要がある。長期的には新素材適用技術により革新的な素材が活用されることが必要である。

4.2 安全で効率的、低コストかつ環境(騒音・CO2等)に配慮した航空輸送システムにおいて強化すべき技術

 増大する航空需要に対応し、短・中期的には、まず効率的な航空輸送を実現するために、高精度飛行制御技術、地上・機上装置を包括した航空管制のための通信・航法・監視システムの提言、設計、開発が重要になる。
 同時に、安全性を向上させるためには、パイロットや整備士などのヒューマンエラー対策が必要であり、技術的には小型航空機やヘリコプターを含む航空機の操縦自動化技術、新しいマンマシンインターフェイス設計技術、先進的なパイロット支援技術等の誘導制御系技術の開発をするとともに、操縦や管制の半自動化、それによる人と機械の役割分担と協調のあり方についても研究することが必要である。また、安全運航を阻害する悪天候、乱気流、被雷、火山灰、異物損傷、バードストライク等の外的要因に対応することも必要であり、晴天乱気流を検知する機上装置の技術、突風荷重を軽減する空力弾性制御技術、耐故障/損傷等の高精度飛行軌道制御技術等を開発することが重要である。更に、後方乱気流検知技術、無人機が既存の航空システムに入ってきた際の情報共有等の安全確保に必要な情報共有技術(管制を含む)にも取り組むべきである。
 次に、低コストな航空輸送を実現するために、整備コスト低減対策として、低コスト非破壊検査技術や構造健全性モニタリング(SHM)技術や複合材等メンテナンス技術(修理、補修技術)、ライフサイクルコスト削減技術等が重要となってくる。
 一方、航空需要に対応して便数が増加する中で、騒音、CO2、NOx等の環境値が継続して低減されている状態を実現するために、機体側の技術革新に加え高精度衛星航法技術、低騒音運航技術など運航面での技術の向上が必要である。
 また、上記施策の検討のためには、運航・安全情報(パイロット、整備、製造、検査、審査等からの情報)の継続的な収集と解析・共有のため、実運航データのデータマイニング技術やデータ解析技術等にも取り組むべきである。

4.3 航空機利用による社会生活の危機対応能力の向上において強化すべき技術

 短・中期的には、航空機利用による危機対応能力を構築するために、情報収集、捜索、通信、監視(原発、国境周辺を含む)、物資輸送、気象観測等の防災・災害対応のためのインフラとして活用できる航空機(ヘリコプタ及び小型航空機を含む)及び無人機が開発整備されるべきである。また、その運用を安全かつ円滑に行うためには災害対応等緊急時における有視界飛行方式の航空機の安全運航が確保されるべきである。そのためには、災害時の情報通信技術、空地通信高度化技術、視覚支援等による有視界飛行技術、災害情報の統合化技術、高速大量データ通信技術等の通信/情報処理系技術の向上が必要である。また、無人機技術(機体開発技術、運航安全技術、ネットワークインフラ技術)、防災ヘリ等の計器飛行技術等の誘導制御系技術や騒音低減技術に取組むとともに、有人機・無人機が混在する状況下での安全性向上技術、最適運航管理技術、衛星を活用した運航管理技術等の運航系技術の向上も図るべきである。

4.4 我が国の安全保障に資するデュアルユースでの貢献において強化すべき技術

 短・中期的に特に重要となるデュアルユース分野の技術課題として、戦闘機等の機体構造の重量低減に資する技術、製造コストや維持コストの低減に関する技術、ヘリコプターの機外騒音低減やエンジン燃焼器の低NOx化、無人機の飛行安全確保に関わる技術の向上を図るべきである。これらは、我が国の中期防衛力整備計画にも資すると考えられる。

5. あるべき姿の実現を支える共通基盤技術

 本章では、前章で対象とした特定の目的を志向した技術ではなく、「あるべき姿を支える共通基盤技術」(以下、共通基盤技術)、つまり、様々な分野に汎用的かつ共通的に適用できる技術とその優先度について述べる。
 まず表2において、共通基盤技術を、前章で「強化すべき技術」を分類した際に用いた共通の「技術カテゴリ」で分類した。ただし、目的志向と考えられる「インテグレーション系技術」と「認証系技術」は表2では扱わなかった。そして、評価の優先度付けを、「強化すべき技術」と同様の考え方で実施した。
 評価の結果は、全41件中、我が国が強化すべき必須の技術(優先度○の技術)が32件で、共通基盤技術については比較的高い評価で委員の意見が一致したと言える。特に、これまで学術・研究機関で培われてきた空力系技術、材料/構造系技術、推進系技術、誘導制御系技術、情報処理系技術だけでなく、運航系技術であるヒューマンファクタや飛行シミュレーション技術、整備系技術である健全性診断技術や点検・修理性向上技術、更には、推進系以外の電気関連技術、安全性/ハザード解析技術、信頼性評価解析技術、加工技術も高い評価となっている。
 このような共通基盤技術を維持・獲得することは、関連する試験設備の整備と一体不可分である。試験設備においては、試験の品質を向上させるために、基盤試験技術として最新の計測技術等の導入や新しい設備の整備が重要であるとともに、我が国の認証等行うための標準設備として、多くの試験を積み重ねた試験設備を維持し、産学官の誰もが有効に利用できる体制を構築していくことが重要である。

6. 育成すべき人材像

 今後、我が国の航空分野が持続的・安定的に発展していくため、次代を担う優秀な人材の確保及び拡充の必要性が高まっている。上述した我が国のあるべき姿を実現するための活動や技術には、それらを担う人材が必要不可欠であり、産学官が相互に連携して継続的に育成していくことが極めて重要となる。本章では、航空分野に求められる人材像と育成に向けた活動、及び、それらを実現するための具体的な取り組み例について述べる。
 表3の前半は、「育成すべき人材像」(以下、人材像)という観点で具体的な取り組みの例をまとめたものである。「人材像」は以下のカテゴリに分類して整理した。

  • 全般
  • 概念構築・設計
  • 技術開発
  • マネジメント
  • 認証
  • 製造
  • 運航

 ただし、「全般」はそれ以外のどのカテゴリにも共通して求められる人材像とした。表において、「国際的な人材」は、今後も継続的に実施される国際共同開発対応ならびに国際基準設定対応やその国際交渉等において欠くべからざる人材であると考えられる。この他にも「航空機開発のプロジェクトマネジメントができる人材」・「安全性認証に精通した人材」も、全機開発を継続していくためにバリューチェーン全体を見渡したうえで、拡充が望まれる分野である。
 表3の後半は、「人材育成に必要な共通的活動」をまとめた。表より、「航空技術分野において我が国の次代を担う優秀な若手研究者、認証者、技術者等の育成強化」は、具体的な取り組みの例としても多くが挙げられている。

以上

参考1 航空科学技術ロードマップ検討委員会委員

(委員長)
奥田章順 株式会社三菱総合研究所戦略コンサルティング本部経営戦略グループ兼環境・エネルギー研究本部産業技術戦略グループ参与・主席研究員
(委員)
民間企業
朝倉博幸 住友精密工業株式会社航空宇宙技術部長兼MRJプロジェクトチーム
金津和徳 株式会社IHI航空宇宙事業本部技術開発センター長
鎌田清敏 三菱重工業株式会社航空宇宙事業本部民間航空機事業部民間機技術部次長
佐々木嘉隆 川崎重工業株式会社航空宇宙カンパニー技術本部研究部長
水間洋一 株式会社JALエンジニアリング技術部技術企画室長
久野正雄 全日本空輸株式会社運航本部グループフライトオペレーション品質企画室担当部長
若井洋 富士重工業株式会社航空宇宙カンパニー企画管理部長
(五十音順)
大学
澤田恵介 国立大学法人東北大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻教授
鈴木真二 国立大学法人東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻教授
(五十音順)
関係省庁等
佐伯浩治 文部科学省研究開発局宇宙開発利用課長
近藤智洋 経済産業省製造産業局航空機武器宇宙産業課長
島村淳 国土交通省航空局安全部運航安全課長
齋藤賢一 国土交通省航空局交通管制部交通管制企画課新システム技術推進官
山本憲夫 独立行政法人電子航法研究所研究企画統括
野間俊人 防衛省経理装備局技術計画官
伊藤真 防衛省技術研究本部航空装備研究所航空機技術研究部長
(建制順)

(参考人)
岩宮敏幸 独立行政法人宇宙航空研究開発機構執行役兼航空プログラムグループ航空プログラムディレクタ
白水正男 独立行政法人宇宙航空研究開発機構研究開発本部航空技術研究統括

参考2 開催状況

事前検討委員会 平成24年4月25日
 ○総論
 ○我が国の航空部門があるべき姿について(各ステークホルダによる施策の紹介)
第1回委員会 平成24年5月17日
 ○我が国の航空部門に求められる方向性(戦略)及び獲得しなければならない技術や活動
第2回委員会 平成24年6月11日
 ○我が国が取り組むべき技術の優先度に関する議論
第3回委員会 平成24年6月28日
 ○航空科学技術ロードマップ検討委員会報告書、公開・非公開について
第4回委員会 平成24年7月25日
 ○航空科学技術委員会のご指摘の反映等について

参考3 用語集

○ARP(Aerospace Recommended Practice)4754
 民間航空機の操作環境と機能全体を考慮に入れた航空機システムの開発について説明したガイドライン。認証と製品保証のための要件の検証と設計実装の確認が含まれる。これは、規制順守の実際的方法を示すと共に、企業がこのガイドラインを考慮に入れて独自の内部基準を作成し、その基準を満たすために役立つ。(SAE International ホームページより)
○LCC(Low Cost Carrier)
 効率的な運営により低価格の運賃で運航サービスを提供する格安航空会社。米国の航空自由化を契機に登場し、世界的に航空規制緩和が進む中で各地に数多く誕生してきた。
○MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)
 ミクロンオーダーの微細加工技術を利用して作られた微小な機械システム。マイクロマシンとも呼ばれる。機械を微小化することにより、省スペース、消費エネルギーの節約をはじめとした省資源などに効果を発揮する。
○MRO(Maintenance, Repair & Overhaul)
 設備や機器(主に航空機や運送車両ではあるが、他も含む)の保守、修理、点検を計画、実行すること。または、それらのサポートシステム。
○アスペクト比
 翼の細長さを示す値。長方形翼では翼幅を翼弦長で割った値だが、一般の翼では翼幅の二乗を翼面積で割って求められる。グライダーの翼のように細長い翼では、アスペクト比は大きくなる。(最新航空実用ハンドブック、日本航空広報部編より)
○異物損傷(FOD: Foreign Object Damage)
 航空機において、石、塵、鳥などの異物を吸い込むことによってエンジンが損傷すること。
○オートタクシー
 空港における航空機のタキシング(航空機が地上のある地点から別の地点へ走行すること)の自動化。
○オートパイロット
 自動操縦システム。飛行経路を設定することで、パイロットが直接操縦しなくても、自動で上昇/巡航/降下/着陸進入を行うシステムのこと。
○オープンローター
 ターボエンジンのファンのダクトを外した形式。燃費は大きく改善するが、飛行速度向上や騒音低減が大きな課題。
○可変サイクルエンジン
 異なる熱サイクルに対応する複数のモードを適切に切り替えて稼働するエンジン。例えばマッハ数1~3程度の超音速機においては、飛行経路における亜音速飛行と超音速飛行の割合、その他を総合的に考慮するとターボファン・エンジンとターボジェットの両方のモードを兼ね備えたエンジンが要望される。
○軌道ベース運用
 全ての航空機の出発から到着までを一体的に管理し、時間管理を導入した4次元軌道に沿った航空交通管理を全飛行フェーズで行う運用。
○空地データリンク
 データ通信により航空機と地上管制機関との間で行われる情報交換。
○グローバルサプライチェーンマネージメント(SCM: Supply Chain Management)
 サプライチェーンマネージメント(原材料・部品の確保、製造、流通、販売という、消費者に至るまでの財と情報の流れに関する全ての活動を統合して最適に管理すること)の仕組みを1国内に留まらず、世界にある拠点を結んで実施すること。
○計器飛行
 視界が不良となる気象状態で、計器指示により飛行する方式。(最新航空実用ハンドブック、日本航空広報部編より)
○コアエンジン
 エンジンの中心部分の基本コンポーネント。ターボファン・エンジンでは、これにファンとファンを駆動するタービンが付く。(最新航空実用ハンドブック、日本航空広報部編より)
○構造健全性モニタリング(SHM: Structural Health Monitoring)
 構造体に亀裂や劣化等の損傷を検知するセンサ網を組み込み、その構造体の健全性を監視する技術。
○後方乱気流
 航空機の翼端から後方に流れる空気の渦のことで、後続の航空機の安全確保のため、離発着間隔を狭める際の制限になる。
○極超音速
 通常、マッハ数で5.0以上の速度。(最新航空実用ハンドブック、日本航空広報部編より)
○自然層流翼
 層流(流体の隣りあう部分が混ざりあうことなく流線が規則正しい形を保つ流れ)領域を広くして摩擦抗力を減らすように工夫された翼
○垂直離着陸(VTOL: Vertical Take-Off and Landing)機
 離着陸の際に滑走しないで垂直の経路をとって上昇及び下降できる能力をもった飛行機。ヘリコプターは、VTOL機と別に区分するのが一般的。
○晴天乱気流
 中緯度の対流圏と成層圏の境界である圏界面には、ジェット気流がよく発生する。このジェット気流の周辺に存在するウィンド・シア(特に高度に対する風速変化)に起因する乱(気)流。(最新航空実用ハンドブック、日本航空広報部編より)
○セラミック基複合材(CMC: Ceramic Matrix Composites)
 材料組織に強化構造を含むセラミックスベースの複合材。耐熱性に優れ、衝撃力に強い軽量な材料として期待されている。
○全地球航法衛星システム(GNSS: Global Navigation Satellite Systems)
 民間航空機の航法に利用可能な性能をもつ衛星航法システムの総称(ICAOによる定義)。広い意味では、GPS、GLONASS、Galileoなどの衛星航法システムの総称としても用いられる。(ENRI 用語集より)
○ソニッククルーザ
 マッハ0.95~0.98と限りなく音速に近い遷音速域で飛行することを目標としてボーイング社が開発を構想していた旅客機。音速巡航機とも呼ばれる。
○ソニックブーム
 音波による爆発音。飛行機が超音速飛行をしたときに発生する衝撃波は、飛行機が速度・飛行方向を変えても、空気中を直進して次第に消滅するが、これが地上に伝わると轟音を発して、人を驚かしたり窓ガラスを壊したりする。(最新航空実用ハンドブック、日本航空広報部編より)
○耐空証明
 航空機について、安全性、騒音及び発動機排出物に関する基準に適合することを国土交通大臣が証明すること(航空法第10条)。耐空証明を有しない航空機は、航空の用に供することができない(航空法第11条)。(国交省用語集より)
○短距離(滑走)離着陸(STOL: Short Take Off and Landing)機
 ごく短い滑走距離で離着陸することができ、離着陸速度と巡航速度との差が比較的大きい飛行機。
○超音速
 飛行機の周りの空気の速度がどの部分をとっても音速を超えているような速度領域。マッハ数では1.2~5.0程度。(最新航空実用ハンドブック、日本航空広報部編より)
○デュアルユース
 民間機と防衛航空機の両方で共通的に利用できる技術。
○統合情報共有基盤技術(SWIM: System Wide Information Management)
 航空に関する様々な情報を、航空関係者(航空管制機関、空港会社、航空会社、その他関連事業者等)が必要なときに必要な情報にアクセスできるシステム。
○低騒音運航
 空港への進入経路を最適化することにより、航空交通量が増えても地上の騒音暴露面積を現状と同等とする運航。
○ナノ複合材料
 航空機用途の狭義として、炭素繊維強化複合材料(CFRP)に対してその母材樹脂にナノサイズの物質を添加して性能向上や機能付加を図ったもの。引張強さ、弾性率、熱変形温度等の様々な物性の飛躍的な向上が期待される。
○熱可塑複合材料
 加熱すると軟化し、冷えると固まる熱可塑性樹脂を使用した複合材料(FRP)。
○バイパス比
 ターボファン・エンジンにおいて、コアエンジン(別記)を通り燃焼に関わる空気流量と、これを除いて推進に供せられる(ファンから吹き出す)空気流量との比。一般に、推力が大きなエンジンはバイパス比が高く、騒音値も低い。
○バードストライク
 鳥衝突。飛行中の航空機に鳥が衝突すること。離着陸の段階で発生する例が多く、全体の約8割を占めている。そのため、旅客機の操縦室の窓やエンジンは、鳥との衝突に耐えられるように設計されており、実際に高速で鳥をぶつける試験により安全性が確かめられている。(最新航空実用ハンドブック、日本航空広報部編より)
○パワープラント
 航空機の推進力を得るための動力装置の総称で、エンジン本体をはじめ、エンジンの運転に必要な、吸気、燃料制御、点火、始動、潤滑、排気、水噴射などの諸システムが含まれる。(最新航空実用ハンドブック、日本航空広報部編より)
○飛行管理装置(FMS: Flight Management Systems)
 飛行の管理を行う装置。高精度のコンピュータを利用し、様々な環境下で航空機の性能を最大限に発揮し、燃料消費量を最小で済むように開発された。(航空用語辞典2011より)
○プロダクトミックス
 一企業の製造する製品の品種の構成比率。利益の最大化において、プロダクトミックスの効率化は重要な要素となる。
○摩擦抵抗低減塗料
 翼面上の空気の乱れを抑制することにより摩擦抵抗を低減させるため、翼面上の流れ方向に規則的に並ぶ細かな溝を作るための塗料。
○有視界飛行
 パイロットの目視に頼って飛行する方式。
○リージョナルジェット
 地方都市間輸送用の小型ジェット旅客機。地域間輸送用旅客機とも呼ばれる。
○リモートパイロット
 遠隔操縦システム。パイロットが直接搭乗しなくても、遠隔で巡航や着陸を行うシステム。

以上

お問合せ先

研究開発局宇宙開発利用課

電話番号:03-6734-4148
ファクシミリ番号:03-6734-4150

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