【資料2】大型放射光施設(SPring-8)中間評価報告書(案)

平成25年6月25日
科学技術・学術審議会 先端研究基盤部会
大型放射光施設評価作業部会

目次

1.はじめに

2.大型放射光施設「SPring-8」の現状
 (1)施設及び設備の整備等
 (2)ビームラインの整備等
 (3)利用者支援
 (4)利用者の拡大
 (5)利用研究課題の選定
 (6)施設の運用・運転
 (7)先端研究拠点の形成、人材育成
 (8)研究成果及び社会への還元

3.これまでの取組に関する評価
 (1)施設及び設備の整備等
 (2)ビームラインの整備等
 (3)利用者支援
 (4)利用者の拡大
 (5)利用研究課題の選定
 (6)施設の運用・運転
 (7)先端研究拠点の形成、人材育成
 (8)研究成果及び社会への還元

4.今後の重点的な課題及び推進方策
 (1)世界最先端研究施設としての更なる飛躍
 (2)更なる利用促進方策
 (3)革新的成果創出に向けた戦略的な取組

5.まとめ

6.おわりに 

○参考資料

1.はじめに

(施設の概要)

 大型放射光施設「SPring-8」は、国内外に広く開かれた汎用性の高い先端的な試験研究施設として、日本原子力研究所(当時)及び理化学研究所(以下「理研」という。)により、兵庫県の播磨科学公園都市に平成3年から約6年の歳月と約1,100億円(供用開始時点)の費用をかけて建設された。平成9年10月の供用開始から現在に至るまで世界最先端の大型放射光施設として、未踏の科学技術領域の開拓に寄与し、ナノテクノロジー・材料、ライフサイエンス、環境、情報通信等の広範な研究分野に飛躍的な発展をもたらし、学術研究から産業利用まで幅広い研究開発を支えている。
 SPring-8の加速器は、主に線形加速器、シンクロトロン及び蓄積リングにより構成され、蓄積リングの電子エネルギーが80億電子ボルト(8GeV)の世界最高性能を有する施設として建設された。放射光を測定試料まで導くビームラインは、平成25年6月現在、最大設置可能数62本のうち、約9割に当たる55本が稼働中であり、2本が建設・調整中である。ビームラインは、理研が設置し、大学、産業界及び海外の研究者等に広く利用される放射光共用施設(以下「共用ビームライン」という。)(26本)、特定の研究機関等が設置し、独自に設定した利用研究課題を実施する放射光専用施設(以下「専用ビームライン」という。)(19本)、その他に、理研が自らの研究開発を行うためのビームライン(10本)及び加速器診断ビームライン(2本)から構成されている。
 さらに、SPring-8は、赤外光から高エネルギーX線に至るまでの幅広い領域(0.01eV~300keV)に及ぶ高輝度放射光を提供するとともに、世界最高性能のX線ビームにより、回折・分光・イメージング等の様々な手法でナノメータースケールの顕微的な測定ができること、高エネルギーX線を用いることによりほとんど全ての原子について微量分析が可能であることなどの特性を活かした、我が国が世界に誇る最先端研究基盤である。

(SPring-8の意義)

 SPring-8は、比類なき性能を有し、産学官の広範な分野の研究者に活用されることが想定される大型研究施設として、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」(平成6年法律第78号)(以下「共用法」という。)における特定先端大型研究施設に定められている。さらに、共用法に基づく登録施設利用促進機関(以下「登録機関」という。)制度による利用促進体制の下で広く研究者の利用に供され、これまでも多くの革新的な成果が生み出されている。平成24年度では、約15,000人が利用し、約2,000課題が実施された。そのうち約2割の課題が企業(約180社)により実施されており、基礎・基盤研究から産業応用まで幅広い分野の研究開発を発展させる多目的研究施設として大きな役割を果たしている
 また、最先端の研究施設として、我が国の研究開発を推進するのみではなく、分野融合や境界領域の開拓及び研究開発と一体となった若手人材の育成の場として貢献することも期待される。
 このように、SPring-8は、関係者の弛まぬ技術開発の結果、供用開始から15年以上が経過した現在も、世界最高レベルの性能を有する放射光施設として、大学、研究機関、企業などの幅広い研究を支え、多くの世界トップクラスの研究成果を創出しており、第4期科学技術基本計画(平成23年8月 閣議決定)における基礎研究の強化や課題解決型研究開発の実現、科学技術イノベーションの推進、国際頭脳循環の拠点形成といった科学技術政策における中核施設として、これからも新しい科学を開拓し、我が国の成長を支える研究開発を強力に推進していかなければならない。
 さらに平成24年には、X線自由電子レーザー施設「SACLA」、大強度陽子加速器施設「J-PARC」の中性子利用施設(以下単に「J-PARC」という。)、スーパーコンピュータ「京」の共用が開始されたが、これらの最先端研究施設との有機的な連携や相互・相補利用により、新しい知の創出、分野融合・境界領域の開拓、産業競争力を強化する先導的研究開発を推進することが期待される。

(中間評価の経緯)

平成14年9月「大型放射光施設(SPring-8)に関する中間報告」
(科学技術・学術審議会 研究計画評価分科会 研究評価部会 SPring-8ワーキンググループ)
平成19年7月「大型放射光施設(SPring-8)に関する中間報告」
(科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 大型放射光施設(SPring-8)評価作業部会)

(本中間評価の位置付け及び目的)

 「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」(平成21年2月17日)等において、大規模研究施設は概ね5年を目安に評価することとされていることから、今回、第3回目の中間評価を行うものである。
 今回の中間評価においては、
マル1  運転開始から15年以上が経過しており、運転時間、課題申請数、利用者数など一定規模で推移するようになり、「成熟期」に突入
マル2  平成18年7月に共用法の改正が施行され、法制上、SPring-8の運営体制が大きく変更されることとなってから5年以上が経過
マル3  SACLA、J-PARC、「京」が運転を開始し、これらの施設をはじめとしたほかの大型研究施設との連携の重要性が増加
など、平成19年7月の第2回目の中間評価(以下「前回評価」という。)以降のSPring-8運営を取り巻く状況を踏まえつつ、SPring-8が世界に冠たる最先端研究施設として発展し、我が国の科学技術イノベーションの実現に向けた研究成果が創出されるよう、本施設における研究や利用の方向性等について検討するため、科学技術・学術審議会 先端研究基盤部会の下に、大型放射光施設評価作業部会を設置し、以下の項目及び視点に基づき、評価を実施した。

<評価の項目及び視点>

1.老朽化や海外動向などを踏まえた施設及び設備の整備等
2.設置可能な残り5本のビームラインの戦略的な整備等
3.利用者ニーズに基づく利用者支援
4.新たな利用分野の開拓等による利用者の拡大
5.戦略的な利用研究課題の選定
6.効果的・効率的な施設の運用・運転
7.先端研究拠点の形成、人材育成
8.研究成果の公表、社会への還元

 評価対象としては、SPring-8全体が一体的に多くの優れた成果を生み出すシステムとして適切に機能しているかを評価するために、理研が行うSPring-8の建設・整備及び運転・維持管理等、公益財団法人高輝度光科学研究センター(以下「JASRI」という。)が行う利用促進業務(利用者選定及び利用支援業務)等並びにSPring-8全体の利用研究の状況等、SPring-8に関わる取組全般とした。
 評価方法については、理研及びJASRIからのヒアリング調査、SPring-8利用者からのヒアリング調査、これまでの取組の定量データ及び具体的な成果事例の分析等により行った。
 以上により、本部会は、前回評価以降の取組状況や前回評価における指摘事項への対応状況を整理・評価するとともに、今後の課題と方向性について、○回にわたり審議を行い、ここにその結果を取りまとめた。

2.大型放射光施設「SPring-8」の現状

 前回評価以降のSPring-8における取組状況について、前述の評価の項目及び視点に基づき、以下の通り整理する。

(1)施設及び設備の整備等

(経年劣化対策)

 挿入光源や複数のBPM(Beam Position Monitor)電極において真空漏れが発生するなど、主要機器の故障発生の頻度が従来に比べ増えている。このような状況を踏まえ、SPring-8の稼働性と発展性の維持という考え方の下、施設及び設備の特性を考慮した効率的かつ効果的な施設及び設備の維持管理を行った。具体的には、単に代替機器を取り付けるのではなく、高速・高精度のBPMシステムに更新するなど、最新の技術を反映した機器を導入することで、SPring-8を高度化しつつ、機能喪失・劣化を最小化した。

(施設及び設備の高度化)

 加速器・放射光源における技術開発として、放射光のナノビーム化、時間分解測定の高精度化、低エミッタンス化を中核的要素技術とし、継続的に高度化を実施した。具体的には、1.世界最小のX線ビーム(7nm集光)を実現する集光鏡を開発し、ナノスケール蛍光X線分析やナノスケールXAFS(X線微細吸収構造)分析のための装置を整備、2.高繰り返しチョッパーの開発や、これを利用した時分割測定手法を確立するなど、ナノ秒からピコ秒オーダーの高精度の時間分解測定の本格的利用に向けた研究開発を実施、3.前回評価時3.4nmradから2.4nmradの低エミッタンス化を実現した。
 また、放射光測定装置については、硬X線光電子分光の実用化や高空間分解能かつ高感度な革新的X線顕微鏡法などを開発した。
 一方、蓄積リングによる回折限界X線光源の本格的な検討が世界中で加速しており、SPring-8においても、従来の100倍以上の輝度を実現する蓄積リング型放射光源の回折限界を目指した設計検討を進めるとともに、要素機器の技術開発に着手した。

(2)ビームラインの整備等

 前回評価以降、産学連合によるフロンティアソフトマター開発や独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構におけるプロジェクトの一環である先端触媒構造反応のリアルタイム計測のビームラインなど、新たに6本の専用ビームラインが整備された。
 理研ビームラインでは、タンパク質結晶構造解析用ビームライン及び非共鳴X線非弾性散乱を用いた量子ナノダイナミクス研究のビームラインが整備された。
 一方、共用ビームラインの新設はなく、共用ビームラインが占める全ビームラインに対する割合は半分以下となっている。また、ビームライン1本当たりの平成24年度の利用研究課題数は、共用ビームラインでは約54課題、専用ビームラインでは約33課題と、平均的には、共用ビームラインの混雑具合が高い。

(3)利用者支援

(支援体制)

 業務効率化が厳しく求められている中、測定装置の自動化や遠隔操作装置の導入などを積極的に進めるとともに、JASRIの利用研究促進部門及び産業利用推進室のうち79名が共用ビームライン26本のビームライン担当者として支援業務に従事している。支援に当たっては、できるだけ少ない人数でより多くのビームラインを支援するために、共通する測定手法等ビームラインの特性に合わせて利用者支援員をグループ化し、効率的な支援体制を行っている。
 また、若手の利用者支援員を育成するため、若手の利用者支援員による独自の発案に基づく研究開発を発掘し、その活動を支援するGIGNOプロジェクトを平成19年度から実施している。

(パワーユーザー制度)

 パワーユーザー制度は、平成20年度より、従来の指定制から公募制に変更し、パワーユーザー審査委員会において、公平かつ公正な審査を実施し、透明性の確保に努めてきた。また、パワーユーザーが特定の利用者に固定化し、負担が集中することがないよう、3年を目処に評価を行うとともに、優れた研究成果を創出するために、最大で2割のビームタイムを配分している。

(登録機関による調査研究等)

 登録機関においては、GIGNOプロジェクトによる若手研究者の活動支援、外部競争的研究資金の積極的な確保等を通じ、共用法第12条に基づく施設利用促進に係る調査研究を推進することで、利用者支援員の能力向上及び一層の知見蓄積を図り、実験手法の開拓や利用の掘り起こし等を推進し、その成果を利用者に還元した。具体的には、前述の超高繰り返しX線チョッパーによる時分割測定手法の確立やXAFS測定の自動化などが挙げられる。

(4)利用者の拡大

 平成19年度上期からXAFSの測定代行を試行的に開始し、平成20年度下期より本格的に実施している。さらに平成21年度からは粉末X線回折、平成24年度からは硬X線光電子分光及び薄膜評価の測定代行を開始した。これらにより測定代行を利用する産業界の利用者は着実に増加している。平成25年度中には産業利用ビームラインにおいても遠隔実験装置が導入される予定である。
 また、幅広い研究分野や利用者を開拓するとともに、高度な技術支援を実施するため、新たな展開が期待される学術研究分野や広範な産業応用に関わる分野、社会的貢献度の高い分野等について、講習会、研修会、シンポジウム等を各都市で開催するとともに、コーディネーターによるコンサルティングや技術支援を実施している。

(5)利用研究課題の選定

(利用研究課題の選定方法)

 利用研究課題の選定に当たっては、JASRIに設置されたSPring-8選定委員会のSPring-8利用研究課題審査委員会において、手法、ビームライン毎に分科会を設け、課題審査及びユーザータイム配分の調整を行っている。また、公平かつ公正な課題選定を行うために、選定基準等を示した「選定に関する基本的な考え方」を定め、広く公開している。
 重点研究課題については、科学技術基本計画等の国の方針や利用者のニーズを踏まえつつ、課題を指定し、重点課題の指定期間終了時には、外部評価を実施し、研究分野の見直しを行うことで、適切な課題の設定に努めている。
 成果専有課題については、秘密保持の観点から、共用法の規定に基づき登録機関が定める業務規定において、「情報の適切な管理」を規定し、これの厳守に努めている。
 また、競争的資金等により一定の評価を得ているとともに、優れた成果が期待される課題に対して、優先的にユーザータイムを配分する「成果公開優先利用課題」について、国のプロジェクト等の利用を促進するため、従来は大型の競争的資金等に係る課題のみを対象としていたが、平成22年度より、全ての競争的資金等に係る課題を対象とし、応募資格を緩和した。

(利用研究課題の申請及び採択)

 前回評価以降の共用ビームラインにおける利用研究課題の申請数及び採択率の年間平均(平成19年度から平成24年度まで)は、それぞれ約1,400件及び約7割となり、年別推移はほぼ横ばいである。
 分野別で年別推移を比較すると、申請数については、「化学」及び「産業利用」において、若干の増加傾向が見られ、「生命科学」、「医学利用」、「物質・材料」は減少傾向が見られる。採択率については、各分野で7割から8割程度で推移しているが、「環境科学」、「物質・材料科学」、「医学応用」は他の分野に比べて、低い値で推移していた。

(6)施設の運用・運転

 平成18年7月の共用法改正の施行以降、SPring-8の設置者である理研と登録機関であるJASRIの連携体制により、SPring-8の運用・運転が行われてきた。両者はSPring-8及び関連施設の運営に関する協力協定を締結し、SPring-8運営会議を通じ、経営理念を共有し、一体的な組織運営を図っている。特に施設及び設備の高度化に関しては、当該会議の下に、高度化計画検討委員会を設置し、両者が一体となり、SPring-8の高度化を推進している。
 SPring-8の運転については、平成21年度の行政事業レビューでの指摘を踏まえ、理研において外部有識者による検討委員会を設置し、総合的な評価を実施した。その結果を受け、理研では、施設の運転に関する業務を再編し、一部内製化しつつ、契約を分割することで競争的環境の強化を図り、平成24年度には、施設の運転に係る委託契約額を約9億円削減(平成22年度比)した。
 利用料収入については、測定代行制度の対象拡大等により、平成23年度には、約1億円増(平成19年度比)となった。利用料収入については、高度化計画検討委員会において決定された高度化に関する事項の推進に活用することで、利用者に還元している。
 SPring-8の運転時間については、運転に係る経費の効率化を進めつつ、年間運転時間の約8割(約4,000時間)以上をユーザータイムとして利用者に提供した。また、より多くのユーザータイムを確保するため、専用ビームラインの設置時の契約において、設置者並びに登録機関の要請があった場合、最大で2割のユーザータイムを提供することができる旨取り決められている。しかし、現在19本ある専用ビームラインからのユーザータイムの提供はほとんど実績のない状況である。(ただし、一部の専用ビームラインにおいては、ナノテクノロジープラットフォームなど国の施策や独自の仕組みを通じ、他の組織の利用者に対してユーザータイムを提供している。)

(7)先端研究拠点の形成、人材育成

(先端研究拠点の形成)

 文部科学省の先端研究基盤共用・プラットフォーム形成事業において、「光ビームプラットフォーム」事業に参画した。今後、当該プラットフォームにおける連携を通じ、産業界に対する情報発信、講習会等の開催、支援人材の育成・交流、共通的な技術開発・互換化の促進、放射光とレーザーの複合研究の検討等を実施する。また、JASRIにおいては、定期的な連携セミナーの開催など、他の放射光施設との連携を進めている。
 また、他の共用法に基づく特定先端大型研究施設との相補的・協奏的な連携を促進するため、JASRIと各施設の登録機関との間で協力協定書を締結した。今後は、利用者支援員の相互人材交流を実施するとともに、SPring-8及びJ-PARCの相補利用研究課題の申請方法やSPring-8及びJ-PARCにおける実験結果と「京」における計算との連携強化の検討を進める。
 国際研究拠点として、これまで14の海外研究機関と理研及びJASRIとの間でMOU(Memorandum of Understanding)を締結した。さらに、アジア・オセアニア地域の各国の若手研究者をSPring-8に集め、講義やビームライン実習等を実施し、実用的な科学技術の習得を支援する「ケイロンスクール」を平成19年度から平成24年度までに計6回開催した。

(人材育成)

 将来の放射光利用研究を担う若手研究者の育成を目的として、平成17年度より萌芽的研究支援課題を実施し、平成24年度までに累計276名の修士又は博士課程の学生が利用した。平成24年度からは、JASRIにおいてはコンサルタントを導入し、学生に対する支援の拡充を図っている。
 また、理研と国内外の大学が協力協定を締結し、大学院生を受け入れる国際プログラムアソシエイト制度や博士課程教育リーディングプログラムによる兵庫県立大学及び大阪大学との協力を通じ、若手研究者の育成を推進した。
 施設内における人材育成については、前述のとおり、共用法第12条に基づく調査研究やGIGNOプロジェクト、外部競争的研究資金の積極的な確保等を通じ、利用者支援員の育成を図っており、平成21年度から平成24年度までの間に、計20名のJASRIにおける若手研究者が他の研究機関へキャリアアップした。

(8)研究成果及び社会への還元

 平成19年度から平成24年度までの間に、SPring-8全体で4,229件の論文が公表され、61件の特許が出願された。特に特許については、ここ3年間は年間10件以上と、年間特許出願数は増加の傾向がある。
 利用研究成果の公表について、従前は、SPring-8の利用報告書を成果と見なし、査読付論文の公表については、利用者の任意にとどまっていたが、平成23年度下期より、課題実施期間終了後3年以内に査読付論文として成果の公開を義務づけた。ただし、産業界における利用のケースなど、査読付論文で公表できないケースについては、マル1 SPring-8の利用研究成果集(JASRIで査読審査を実施)としてWebで公開、又はマル2 企業の公開技術報告書(適切な企業内査読があることを確認するJASRIの審査を経て認定した報告書に限る)という形で成果を公表している。
 また、SPring-8では、エレクトロニクスや素材(金属、高分子)、環境・エネルギー、創薬、生活用品など、様々な分野において製品化につながる研究開発が行われてきた。これらの成果については、産業利用成果集として、広く情報発信をしている。

3.これまでの取組に関する評価

 前回評価では、SACLAやJ-PARCとの相補的な連携などにより、今後ともSPring-8が我が国の研究レベルの向上に大きく貢献することを期待し、特に重点的に取り組む事項として、以下の提言が示された。
1.効率的運営による5500時間以上の運転時間の確保、利用者ニーズに基づく継続的な高度化などによる運営基盤強化、
2.理研との適切な関係による登録機関の効率的な運営、利用促進業務と施設運営の一体性のある対応、登録機関の研究能力向上による運営体制の強化、
3.支援員の適切な人員配置、重点戦略分野の質の維持、利用料収入の利用環境への反映の仕組みなどによる利用促進方策の強化、
 これらの提言を含めた前回評価における指摘事項への対応状況については、参考資料○○に示す。
 また、前回評価における指摘事項への対応状況を踏まえ、前節にて整理した前回評価以降の取組状況について評価する。

(1)施設及び設備の整備等

(経年劣化対策)

 SPring-8の安定的な運転のためには、装置のトラブルなどによる運転停止を未然に防ぐための保守部品等を計画的に整備することが不可欠である。これまでの取組の成果として、年間4,000時間以上のユーザータイムを利用者に提供するとともに、ダウンタイムの平均値は、年間ユーザータイムの1%以下と、前回評価以前よりも安定的な運転を実現していることは評価できる。引き続き、戦略的に経年劣化対策を実施することが重要である。

(施設及び設備高度化)

 加速器、放射光源、測定技術等の高度化により、新たな利用研究手法を開拓するとともに、施設利用研究の質的・量的向上、並びに利用者の利便性確保等に貢献したことは評価できる。今後は、より一層利用者ニーズを踏まえた取組が求められる。
 また、蓄積リングによる回折限界X線光源の本格的な検討が世界中で加速している中、SPring-8においても、諸外国に遅れることなくアップグレードに向けた取組を進めることは重要である。現状では、国際ワークショップによる課題検討や一部の要素技術開発などが進められているが、本格的に高度化計画を進めていくためには、SPring-8以外の施設も含めた、我が国の放射光施設全体でのパフォーマンスを最適化するための検討が必要である。

(2)ビームラインの整備等

 専用ビームライン及び理研ビームラインでは、着実にビームラインが増設され、課題解決型の研究開発が進められている点は評価できる。しかし、SPring-8全体で設置可能なビームラインは、残り5本と限られていることから、今後のビームライン新設においては、戦略的な取組が求められる。例えば、共用ビームライン別に見ると、競争率の低いビームラインについて、より利用者ニーズの高いビームラインに代替するなど、利用者コミュニティの意見を踏まえつつ、効率的なビームラインの運用を検討することが必要である。
 また、共用ビームライン1本当たりの利用研究課題数が専用ビームラインより高いことについて、専用ビームラインにおいて共用に提供するマシンタイムの割合を増やすことが、一つの解決策になると考えられる。しかし、情報漏えいのリスク、装置・備品に損害を与えた際の補償問題、共用利用時に支援員を手当てできないことなどの問題が考えられる。

(3)利用者支援

(支援体制)

 測定装置の自動化や遠隔操作装置の導入等を進めるとともに、ビームラインの特性にあわせた支援員の配置等、効率的かつ効果的な支援に取り組んだことは評価できる。また、GIGNOプロジェクトによる若手支援員の育成を推進している点も評価できる。今後は利用者の安全を確保しつつ、より効果的な支援員の配置が望まれる。
 また、ビームライン担当者の補助として、ポストドクターも利用者支援を実施しているが、キャリアパスとして、利用者支援に大きな業務割合を占めるような形でポストドクターを雇うことは、若手研究者育成等の観点から望ましくないため、ポストドクター自身の研究に取り組める環境が望まれる。

(パワーユーザー制度)

 パワーユーザー制度は、成果を上げる可能性が高い利用者に対して、共用ビームラインの優先的な利用を可能とし、先導的な放射光の利用、設備の高度化等を進めながら、一般利用者に対する支援を要請するものであり、通常の利用形態では得られない成果の創出を図りながら支援員不足も補える方法として、効果的であると考えられる。今後、これまで以上に効果的かつ効率的にパワーユーザーを活用するためには、パワーユーザーの選定方法やその評価を戦略的に実施することが必要である。

(登録機関における調査研究等)

 登録機関において、支援員の能力向上及び一層の知見蓄積を図り、実験手法の開拓や利用の掘り起こし等を行い、その成果を利用者に還元することは非常に重要であり、これまでの成果についても評価できる。一方で、利用者のニーズの汲み取りや利用者に対する成果の発信については、必ずしも十分であったとは言えない。今後は、より一層利用者のニーズを踏まえた取組が求められることから、利用者のニーズを的確に反映した研究の実施や研究内容の利用者へのフィードバックを促進するために、利用者コミュニティへの情報開示や意見交換を交えて行うことが必要である。

(4)利用者の拡大

 新たな成果創出のためには、新規利用者を拡大し、新たな利用研究課題を取り込んでいくことは重要である。前回評価以降、毎年約1,700人が新規に利用しており、測定代行の分野・手法の拡大、新たな測定手法の開発、多様な普及啓発活動の実施、若手研究者の発掘・育成などの取組の成果として評価できる。今後は、引き続き利用者の拡大に努めるとともに、利用研究課題の具体的な内容を更に分析し、新規利用者と既存利用者の入れ替わりが、SPring-8全体の研究成果の質的な向上にどのようにつながっているのかを把握し、更なる利用者の拡大につなげていく取組が求められる。

(5)利用研究課題の選定

(利用研究課題の選定方法)

 戦略的な成果創出の観点から、重点研究課題は効果的であり、引き続き、推進することが望まれる。ただし、重点研究課題の実施に必要なマシンタイムの確保については、一般課題との間で、どのように配分するか、引き続き検討が必要である。
 また、成果公開優先利用課題の応募資格を見直すことによる国のプロジェクト等の利用促進の効果については、現状ではまだ明確な影響が出ているとは言えない。引き続き、動向を調査し、その効果について検証を行うことが必要である。

(利用研究課題の申請及び採択)

 共用ビームライン全体では、利用研究課題の申請数および採択率の年別推移はほぼ横ばいであるが、分野別に比較すると、申請数が減少傾向にあるもの、採択率が相対的に低いものが見られた。これらの傾向をさらに分析し、利用分野の開拓や遠隔実験装置の整備等による利便性向上を戦略的に行うことが必要である。

(6)施設の運用・運転

 SPring-8運営会議や高度化計画検討委員会を通じ、理研及びJASRIが一体的な施設の運営を行っていることは評価できる。一方、SPring-8の国際評価については、理研とJASRIが個別に実施しており、今後は、両者が一体となりSPring-8全体としての評価を受けることが必要である。
 SPring-8の運転委託について、委託契約額を削減したことは評価できる。そのなかで、応札企業数は依然として少ない状況であり、更なる競争的な環境を形成するための改善が必要である。
 利用料収入については、収入を装置の高度化などへ還元し有効的に活用されていることは評価できる。一方、適切な利用設定として、例えば、現状では、偏向電磁石とアンジュレータ-を一律に扱い、ビームライン毎の特性に応じた差異は設けていないが、今後は、性能の違い(フォトン数など)を考慮した料金設定の検討などが考えられる。ただし、見直しに当たっては、ビームラインに対する需要のバランスを考慮して検討することが必要である。一方、利用料収入の還元について、利用者へのサービスの開拓や利用者支援員の増など、ソフト的な改善にも活用することを検討する必要がある。
 運転時間については、前回評価における年間運転時間5,500時間という目標は達成できていないものの、安定的にユーザータイムを利用者に提供したことは評価できる。一方、利用研究課題数や利用者数はここ数年横ばいであり、これらを改善するためには、先に述べた専用ビームラインにおける共用に提供するユーザータイム割合の増や効率的なビームラインの運用などとともに、年間運転時間の増が望まれる。

(7)先端研究拠点の形成、人材育成

(先端研究拠点の形成)

 「光ビームプラットフォーム」は、我が国の放射光施設全体の利用推進のみならず、各施設における支援人材の育成や技術開発の促進に資するものであり、SPring-8においても、重要な取組であることから、引き続き、積極的な参画が望まれる。
 共用法に基づく特定先端大型研究施設間の連携については、利用研究課題申請のワンストップサービスの実現に向け、更なる連携を推進することが必要である。
 また、SPring-8は、世界最先端の研究施設として、大学、研究機関、産業界の「知」や「課題」が集まる先端研究拠点であり、これらの「知」と「課題」を組み合わせることで、革新的な成果の創出や社会的課題の解決に資する研究成果が期待できる。そのため、今後は、産・官・学と施設が一体となった課題解決型の研究開発協力を実施する仕組みづくりが必要である。
世界の優秀な頭脳が集まる国際研究拠点を形成するためには、引き続き、海外の研究機関との協力を推進するとともに、世界最高水準の研究環境を構築していくことが重要である。

(人材育成)

 萌芽的研究支援課題や個別大学との協力により、多くの若手研究者の育成に貢献してきたことは評価できる。引き続き、これらの取組を進めるとともに、企業における若手研究者・技術者を育成する取組について、検討することが必要である。
 施設内の若手研究者がほかの研究機関へキャリアアップしていることは評価できるが、異動先が大学や研究機関がほとんどであり、人材の流動性を確保するためには、企業へのキャリアパスを拡大することが今後の課題である。
 また、ビームライン管理者及び支援者について、平成24年度の転出率(1年間に転出した研究者数/その年の研究者総数)は3%程度であり、必ずしも高い水準であるとは言えない。SPring-8における研究の質を向上させるには、それを支えるビームライン支援者等のスキルアップは不可欠であり、そのためにも人材の流動性をさらに高めることが重要であることから、他の放射光施設とも協力しつつ、改善に努めることが望まれる。

(8)研究成果及び社会への還元

 前回評価以降(平成19年度から平成24年度まで)の年間平均発表論文数は705報と、前回評価対象期間(平成14年度から平成18年度まで)の年間平均発表論文数657報に比べて増加していることは評価できる。一方、ここ数年の年別推移をみると、年間平均発表論文数は横ばいであるが、直近の実験については今後、適切に論文化されるよう注視する必要がある。
 また、SPring-8では、様々な分野の製品化につながる研究成果を創出しているものの、国民への情報発信が十分ではない。今後は、成果を成果集にとどまらず、より国民に分かりやすい形で発信することが望まれる。年間特許出願数が増加傾向にあり、そのうち約6割が民間企業に関連するものであることは、SPring-8の産業利用への貢献が増している一つの定量的な成果として評価できるが、研究開発の成果による経済波及効果や○○○など、より国民にわかりやすい指標について、検討を進めることが必要である。

4.今後の重点的な課題及び推進方策

 前回評価からの取組状況やその評価を踏まえ、今後の重点的な課題及び研究や利用の方向性等について以下に示す。

(1)世界最先端研究施設としての更なる飛躍

(施設、設備の高度化)

 利用者ニーズをきめ細かく把握し、更に優れた成果創出につながる高度化について、引き続き、推進することが必要である。その際に、SPring-8ユーザー共同体(以下「SPRUC」という。)と協力することで、利用者ニーズを効果的かつ効率的に把握することが期待できることから、SPRUCとの連携による高度化の仕組みを構築することが求められる。
 SPring-8のアップグレードに関して、我が国の放射光施設全体を見据えた議論を行うに当たっては、例えば、アップグレードを行うためにSPring-8が運転を停止する期間中、利用者の受け皿となるほかの施設も含めた我が国の放射光施設全体の整備計画を考えることが必要である。
 また、SPring-8がアップグレードすることで期待される新しい利用者と既存の利用者とのバランスをどうするか検討する必要がある。利用者の受入れについては、SPring-8のみで議論するのではなく、我が国の放射光施設全体での役割分担をどのようにしていくのか、その中でアップグレードしたSPring-8が担うべき研究は何か、という視点で検討すべきである。

(ビームライン整備)

 SPring-8全体で設置可能なビームラインが残り5本という状況において、既存のビームラインのうち、例えば、利用研究課題の競争率が低いもの、ほかの放射光施設でも代替が可能なもの、利用が論文発表数や特許出願数等の定量的成果に効率的に結びついていないものなどについては、新たな利用者ニーズに基づくビームラインに置き替えるといった、既存ビームラインの改廃を戦略的に行うことを検討することが必要である。その際に、SPRUCと協力し、利用者コミュニティの意見を取り入れるとともに、利用が停滞した共用ビームラインを理研ビームラインとして再開発し、開発内容が利用段階に入った時点で再び共用ビームラインに戻す循環システムを構築することが効果的と考えられる。

(経年劣化対策)

 計画的な保守・維持管理を進めていくに当たっては、特に、施設の運転事故を未然に防ぐことを含む安定的な運転の確保や持続可能な社会の実現を踏まえ、消費電力を大幅に下げるための高効率の機器に更新するなど、SPring-8全体での大幅な省エネルギー化をあわせて進めていくことが重要である。

(効果的・効率的な組織の運営)

 施設の運転委託について、更なる競争的な環境を形成し、多数の業者による応札を実現することが必要であり、引き続き、その方策ついて検討を行うことが求められる。また、SPring-8全体で効率化を図ることが重要であり、施設の運転以外の業務についても、業務の再編などを行い、競争的な環境を形成していくことを検討することが望まれる。

(2)更なる利用促進方策

(利用者支援の強化)

 利用者支援員の不足を補う方法として、高い専門性を持つ利用者支援員が真に取り組むべき支援業務を精査し、定型的支援についてはアウトソーシングを検討するなど、限られた予算の中で最大限に効果的な支援業務を実施できるよう、研究系及び事務系を超えた人員配置の見直しが望まれる。
 また、引き続きパワーユーザー制度を効果的かつ効率的に活用することも必要である一方、SPRUCと協力して、より先導的・挑戦的なテーマを研究できる利用者リーダーの発掘を進めるなど、これまで以上に戦略的に選定していくことが求められる。そのため、今後は、パワーユーザーの選考過程の透明化や評価制度を整理し、戦略的な選定プロセスを行うとともに、評価に応じたパワーユーザーの環境・待遇改善を行うことで、パワーユーザーが持つポテンシャルを最大限活用する仕組みを検討することが必要である。なお、その名称については、学際的な観点から、適当な名称(例えば「ポテンシャルユーザー」)に改めることを検討することが望まれる。
 共用法第12条に基づく登録機関における調査研究について、SPRUCを活用することで、利用者ニーズを効果的かつ効率的に把握することができると考えられる。これにより、利用者における研究と登録機関の調査研究等の有機的な連携の促進が期待される。

(運転時間の確保)

 ユーザータイムを増やすことは、既存利用者の利用機会の増加のみならず、新規利用者の拡大や新興領域の開拓など、SPring-8全体のパフォーマンスを大きく向上させることができる。例えば、光熱水費や保守費などの運転経費を数%増やすことで、更に1,000時間程度のユーザータイムを利用者へ提供することができるなど、運営費の効率化や調整時間の短縮などを図りつつ、国においては必要な資金を継続的に確保するように努めることで、前回評価で指摘された年間運転時間5,500時間以上を実現するための取組を推進することが望まれる。
 また、競争率の低いビームラインについては、スクラップや利用することへのインセンティブを高める工夫を検討するとともに、専用ビームラインにおけるユーザータイムの提供の割合を前回評価で指摘された目標値である2割程度まで伸ばすための方策について、SPRUCなどの利用者コミュニティの協力を得ながら、専用ビーラインの設置者と協議を進めることが必要である。

(3)革新的成果創出に向けた戦略的な取組

(利用者拡大)

 SPring-8において、今後とも高いレベルの研究成果を生み出し続けていくためには、利用者の裾野を拡大し、優れた研究課題が採択される環境を構築していくことが必要である。このため、測定の自動化や遠隔実験導入を引き続き進めるとともに、「光ビームプラットフォーム」を通じ、ほかの放射光施設と連携・協力することで、新たに開拓した業種や利用者層への支援を強化し、多角的な取組により、SPring-8だけでなく我が国全体で定常的な放射光ユーザーを拡大していくことが望まれる。

(先端研究拠点の形成)

 我が国の科学技術イノベーションを牽引するSPring-8では、様々な分野にわたる産学官の研究者により多くの研究成果が創出されてきた。この世界最先端の「知」を有機的に連携させることで、革新的な成果の創出が期待される。今後は、産業界が共通的に解決しなければならない課題に対して、大学、研究機関等が連携し、課題解決に向けて取り組むための仕組みを構築するため、産業界のニーズと大学、研究機関等のシーズをマッチングするコーディネート機能をSPring-8において担うことが望まれる。また、SPring-8において、世界に誇る成果を創出し、その成果を発信していくに当たっては、共用ビームライン、専用ビームライン、理研ビームラインの区別なく、施設全体が一体となり、公開成果報告会および国際諮問委員会等の定期的開催を通してSPring-8のパフォーマンスを自ら評価し、その結果を迅速かつ適切に反映していくことが必要である。評価に当たっては、論文発表数や特許出願数に加えて、被引用論文数や経済波及効果といった定量的なデータを拡充することが望まれる。
 国際研究拠点について、SPring-8以外の第三世代大型放射光施を加えたAPS、ESRFによる三極連携により引き続き世界の放射光科学を牽引すると同時に、世界唯一のX線自由電子レーザー施設と併設された大型放射光施設という特性を充分に生かした先端的研究拠点形成が望まれる。
 また、アジアとの協力関係は重要であり、「ケイロンスクール」を通じたアジア・オセアニア地域の若手研究者の育成に係る取組をはじめとする海外の研究機関との協力を引き続き実施する必要がある。

(教育及び研究者育成の役割)

 SPring-8は、世界最先端の研究施設として、先端研究を実施するのみでなく、高度な教育を受ける場としても、これまで以上に有効かつ積極的に活用することが求められる。これまで大学院単位で個別に行われてきたカリキュラムを連携させながら、実地研修も含めた教育活動ができる仕組みを検討することが必要である。
 また、SPring-8のパフォーマンス向上を支えるビームライン支援者等のスキルアップを図るため、ほかの放射光施設等と協力し、これまで以上に活発な人材の育成・交流を進めていくことが重要である。「光ビームプラットフォーム」は、支援人材の育成・交流を重要な目的の一つとしており、当該プラットフォームを活用することで、効果的な取組が期待される。

5.評価のまとめ

 今回の評価は、前回評価以降の取組状況について、前回評価における指摘事項等を踏まえた評価を行い、さらに、今後の課題や方向性について検証を行った。その結果、前回評価での指摘事項に対しては、概ね着実な取組が行われ、着実に研究成果を上げている一方で、今後も学術分野から産業分野に至るまで、数多くの利用と成果を創出するために取り組むべき具体的な課題等が示された。SPring-8は引き続き我が国の科学技術イノベーション政策における中核施設として、今後とも、優れた研究成果を数多く生み出し続けることが何よりも優先されるべきであり、そのためには、より優れた研究課題が実施され、必要な支援が行われるための様々な取組を進めるとともに、着実な運転や施設等の高度化・拡充が必要であると判断する。
 以上を踏まえ、SPring-8の必要性、有効性、効率性を改めて確認するとともに、特に施設全体を通じた取組の基本的な方向性として、今後5年程度の間に重点的に取り組むべき事項を提言する。

(必要性・有効性・効率性)

 SPring-8は、先導性や発展性等の観点から、科学的・技術的意義は高く、また、産業応用や国際競争力の向上等の観点から、社会的・経済的意義も高い。さらに、我が国や社会が抱える諸課題の解決への貢献や学術的価値の創出等の観点から、国費を用いた研究開発としての意義も高いものであり、前回評価からその必要性が変わるものではない。
 また、SPring-8は、研究開発の推進のみではなく、分野融合や境界領域の開拓や研究開発と一体となった若手人材の育成の場としても期待されており、研究開発の質の向上や実用化の推進、人材の養成等に対し、非常に貢献するものであり、有効性は極めて高い。
 さらに、SPring-8では、ビームラインや測定機器等の性能、取扱いに熟知し、今後も成果を上げる可能性が高い利用者に対して、共用ビームラインの優先的な利用を可能とする代わりに、一般利用者に対する支援を要請するパワーユーザー制度を導入し、効果的・効率的な成果創出と利用者支援を行うとともに、SPring-8の全ユーザーが参画するSPRUCと連携し、効率的にユーザーの考えを汲み取り、施設の運営等に反映するなど、利用者視点に立ち、施設を円滑かつ効果的に運営しつつ、最先端の研究施設にふさわしい成果創出に向けて取り組んでいるものと言える。

(今後5年間の重点的な推進方策)

・SPRUCとの連携を更に深化させることで、施設及び設備の高度化や利用者支援を促進し、世界トップレベルの研究開発を強力に推進するとともに、この分野の研究者・技術者の拡充及び育成を強化する。
・我が国が誇る先端研究拠点として、産業界、大学、研究機関等の「知」と「課題」を有機的に連携させ、革新的な成果創出を促進するための課題解決型の技術交流の場の構築を目指す。
・「光ビームプラットフォーム」やほかの特定先端大型研究施設との連携を促進し、新たな利用者の開拓や利用者支援の強化等を図る。
・設置者及び登録機関が一体となり、自己評価や利用者への情報発信・広報活動を強化する。
・安定的な施設の運用・運転を実現するため、より計画的な施設の維持管理を行うとともに、業務効率化等を図りつつ、利用者へ提供するマシンタイムの拡充を目指す。

 これらの重点的な推進の方向性を踏まえつつ、SPring-8の能力を最大限発揮できるよう取り組むことで、今後の課題に対して適切に取り組まれることが求められる。その際に、設置者及び登録機関が一体となり、中期的な行動目標として、上記の事項に関するPDCAを行うために、具体的計画を策定することが望ましい。
 なお、施設及び設備の高度化について、SPring-8のアップグレードに向けた我が国の放射光施設全体を見据えた議論を行うべく、日本放射光学会やSPRUC、ほかの放射光施設からの協力を得て、準備を進めることが必要である。
 また、SPring-8の運営については、電力需要の状況等にも留意しつつ、更なる効率化や省エネ化に向けた対策を進めることも必要である。
 今後の運転スケジュールについては、研究の進捗や国内外の諸状況、社会的ニーズ、財政状況等を十分踏まえ、適宜見直していくことが必要である。
 SPring-8は、新しい科学を開拓し、我が国の成長を支える世界トップレベルの研究開発を強力に推進する我が国が誇る先端研究拠点であり、その果たすべき役割は極めて大きい。今回の中間評価を受け、今後、SPring-8が、更なる飛躍を遂げることで、我が国の輝く明日を創り上げていくことを期待する。

6.おわりに

 関係者においては、中間評価の結果を踏まえ、課題に適切に対応し、SPring-8の意義を最大限発揮するよう引き続き努力することが重要である。
 今後、内外の動向等を踏まえつつ、概ね5年後を目安に、本中間評価報告書での指摘事項や課題等について、改めてPDCAの実施方法を含め評価を実施することが適当である。また、将来的にはX線自由電子レーザー施設「SACLA」と一体で評価されることが望ましい。

お問合せ先

科学技術・学術政策局研究開発基盤課量子放射線研究推進室

(科学技術・学術政策局研究開発基盤課量子放射線研究推進室)