資料3-7 平成25年度事業実施状況報告及び平成26年度の推進に当っての基本方針策定に関して(JST先端計測分析技術・機器開発推進委員会報告)

研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラム
平成25年度事業実施状況報告及び平成26年度の推進に当っての
基本方針策定に関して


平成25年7月
科学技術振興機構
先端計測分析技術・機器開発推進委員会

 先端計測分析技術・機器開発プログラムの平成26年度の推進に当たり、今後、文部科学省 先端計測分析技術・システム開発小委員会において審議される「基本方針」に関連して、科学技術振興機構(JST) 先端計測分析技術・機器開発推進委員会より、下記の通り報告と提言を行う。


1.平成25年度基本方針に示された事項の対応状況(報告)
(1)重点開発領域について
 基本方針に示された「重点開発領域」のうち、平成24年度発足の「グリーンイノベーション領域」「放射線計測領域」に加え、平成25年度に新たに「ライフイノベーション領域」を発足した。
各重点開発領域の状況について報告する。

(1)-1 ライフイノベーション領域
  同領域は基本方針に示された平成25年度の新規領域であり、目標として診断機器につながる技術の開発を目指したものである。同領域の設定に当っては、平成24年度中から有識者らによるワークショップを複数回開催し、公募内容を有識者の議論の下で決定したものである。
  同ワークショップの議論の結果、ライフイノベーション領域は、下記の2カテゴリーを設けた。
 カテゴリー1:同定されている既知のターゲット(マーカーや症状)の測定に関して医療現場のニーズを的確に把握し、患者の負担軽減、医療費の削減等に大きな貢献が期待できる診断技術・機器およびシステムの開発
 カテゴリー2:未知のターゲット(マーカーや症状)の解明に基づき、診断方法の革新、患者への負担軽減、医療費の削減等に大きな貢献が期待できる診断技術・機器及びシステムの開発
  それぞれのカテゴリーで要素技術タイプ、機器開発タイプ、実証・実用化タイプを設置し、合計で6つの開発タイプについて公募を実施した。
  本領域では、将来診断につながる機器開発を推進することから、カテゴリー1については、医師の参加を必須、カテゴリー2については、医師の参加を推奨している。
  当該条件は、日頃診療等に当たる医師の参画あるいは参画の推奨という条件は厳しいものであり、申請件数は少ないものと予測したが、結果としては同領域で171件の申請があった。これは「一般領域」に比肩する申請件数となっている。また、より条件が厳しいカテゴリー1の方が申請件数が多く、同領域に対して申請者の熱意がかなり高いことが伺える。

(1)-2 グリーンイノベーション領域
  
  基本方針を踏まえ、本領域では、「実証・実用化タイプ」を本年度から新たに設定して公募を実施した。その結果、要素技術タイプ10件、機器開発タイプ5件、実証・実用化タイプ1件、合計16件の申請件数であった。これは昨年度とほぼ同数であるものの、ライフイノベーション領域と比較すると少数という状況である。その理由としては、グリーンイノベーション領域という名称であるもにもかかわらず極めてシャープな領域設定であり、開発対象を「太陽光発電、蓄電池、燃料電池に関して、その飛躍的な性能向上と低コスト化を目指した優れた研究開発成果創出を図る上でボトルネックとなっている計測分析技術・機器およびシステム」に限定しているためと考えられる。
  一般に「グリーンイノベーション関連分野」については、現在、わが国の成長戦略における重点的な領域として位置づけられており、新たなサイエンスに基づく産業育成・新事業創製を目指すものまで含め、多種多様な施策が講じられている他、産業界も自ら戦略的に技術開発・投資を進めている。加えてグローバルな視点に立てば、開発競争の激化、東アジアを中心とした他国の新産業参入などに対抗するため、多くは高機能化・コストダウンをめざした新規材料の開発、システム開発など、直接的な対抗策に目が向けられている。これらを含め、現在、「グリーンイノベーション関連分野」は多額の資金投資が行われており、やや飽和状態に近づいていると見ることもできる。
  このような華やかな技術開発の影に隠れる形で、本プログラムのグリーンイノベーション領域については、注目度が低くなったことも一つの要因と考えられる。今後、本領域については、基盤技術としての計測分析技術の重要性も踏まえ、材料開発などとは一味ちがった、将来の革新技術につながる可能性のある提案を幅広く募ることが可能なように、全体としてあり方を検討する必要があると思われる。

(1)-3 放射線計測領域
  同領域は平成24年度に発足し、被災地のニーズを踏まえた「実用化タイプ(短期開発型)」のほか中期的に実用化を目指す「実用化タイプ(中期開発型)」、さらに将来の放射線計測技術の開発を目指す「革新技術タイプ(要素技術型・機器開発型)」も公募した。本領域は早期の成果創出を図るため、他領域に先立って公募実施かつ契約締結を行った(公募は平成23年度末の平成24年2月~4月)が、採択された課題は一部の被災地ニーズを満たすにとどまった。より広範囲な被災地ニーズに対応するため、他領域の公募に合わせて本領域の二次公募を実施した。これらの公募を全て合計すると95課題の申請があり、合計で23課題を採択した。
  平成25年度については、「実用化タイプ」に限って新規課題予算が認められて公募を実施し、16件の申請があった。昨年度に比べて申請件数は大きく減少しているように見えるが、「実用化タイプ」に限定して比較すると、申請件数はほぼ横ばいであった(昨年度は一次・二次公募合わせて24件の申請)。
  同領域については、本年度で新規課題の申請を終了する予定であるが、被災地でのニーズは引き続き大きい。採択チームが被災地で試作機の実地試験をした際の意見等を踏まえると、まだ、同領域が実施するべき技術開発ニーズが多くあり、さらなる追加開発を行う必要があるように見受けられる。

(2)重点開発領域以外(一般領域)の新規公募について
  平成25年度から、「領域非特定型」については、名称を「一般領域」と変更して公募を実施した。また、昨年度の基本方針に提示されたように、「要素技術タイプ」において、「革新的で挑戦的な課題」を募るため、コーディネータ等、あるいは企業の研究開発関係者の見解(企業化への可能性、また、応用展開された場合に想定される用途、利用分野について)があれば、大学等公的研究機関の単独申請を許容することとした。
  平成25年度公募において、要素技術タイプ111件(昨年度72件)と応募件数が大幅に増加したが、そのうち、大学等の単独申請は51件(46%)であった。このことから、本プログラムの一般領域が狙いとしている、「企業は将来性の観点から着目しているものの、産学連携での共同研究を行うまでには至らない10年後を見据えた『革新的で挑戦的な開発課題』」の申請を引き出すことができ、産学連携による製品化に向けて支援できる仕組みが整ったと考えられる。

2.平成26年度概算要求にあたって(意見)
(1)新たに重点化すべき開発分野について
 新たに重点化すべき開発分野は、「国として解決するべき課題」に取り組むために提案すべきと考える。加えてJSTとしては、既にある程度の技術シーズが育っており、近い将来、求める計測分析技術・機器・システムが実現する可能性があるものを提案するべきと考える。

1環境計測分野
 本年初頭に様々なところで報道でも取り上げられた「PM2.5」や「水質汚濁」「土壌汚染」等の環境の課題に関して適切な対策をとるには、これらの発生起源、成分等を知ることが非常に重要である。既に放射線計測領域において、放射性元素の吸着剤の開発等が実施されているところであるが、海底土や河川域・湖沼の底土の現場分析を行う技術については必ずしも十分ではないと考えられる。そのため、環境計測領域では、これまで放射線計測領域を対象としたものも含めることが考えられる。
 なお、本プログラムでは、これまで同領域のベースとなる技術について、以下のようなものを開発している。
・ 「収束イオンビーム/レーザーイオン化法による単一微粒子の履歴解析装置」(東京工業大学 藤井正明チーム)
・ 「FIB 光イオン化ナノ質量イメージング装置の実用化開発」((株)トヤマ 遠藤克己チーム)
・ 「実用化エアロゾル多成分複合分析計の開発」(東京大学 竹川暢之チーム)
・ 「ハンディー型全反射蛍光X線元素センサー」(京都大学 河合潤チーム)
・ 「3次元高精度リアルタイム撮像ライダー装置」(東京大学 佐々木真人チーム)
・ 「バイオ蛍光法によるアスベスト自動計測ソフトウェアの開発」(広島大学 黒田章夫チーム)
・ 「放射性物質の高分解能3次元・直接イメージング技術の開発」(工学院大学 坂本哲夫チーム/放射線計測)
本分野を重点化していくに当っては、非常に広範囲に渡る技術分野を対象としていくため、企業や研究者等へのヒアリング、あるいはこれら関係者を集めたワークショップを開催して、具体的な内容を決めて必要があると考えられる。

2劣化診断分野
 2012年12月、中央自動車道の笹子トンネルにおいて天井面コンクリートの剥落事故が発生し、9名が犠牲となった。これをきっかけとして、道路・橋梁等も含めた社会基盤全体に対する構造検査の重要性が見直され、社会ニーズを形成している。現在、こうした構造物の検査は、実際にコンクリートの一部を抜き取って、抜き取った部材を分析する手法(破壊検査)、あるいは、構造物に対して音や振動などの外部刺激を与え、これに対する反応を計測して内部の状態を熟練した技術者が判断する手法(非破壊検査)が行われている。トンネルなどの場合は、主として非破壊検査が実施されているが、「人」に依存している上、熟練者の数が限られている。今後全面的に我が国にあるインフラストラクチャーを全面的に定期検査するとなると、従来法では多大な人手・経費がかかることが予測されるが、現状では人手不足のために十分対応が難しいという懸念がある。
 そのため、本プログラムで開発されてきた、様々な「非破壊検査」的な手法を用いて(あるいは改良・改善して)熟者の手によらない、計測分析技術・機器・システムの開発が望まれている。
 例えば、
・ 深く浸透するX線等を用いた計測分析機器。これには移動可能な光源、X線を発生可能な小型高出力の電源等を含むシステムが求められる。
・ 従来の打音検査をより効率的に行うための計測分析機器。新規な超音波計測のような検査装置
 などが考えられるが、具体的に開発するべき技術については、実際の現場ニーズ、現状の計測分析について詳しい研究者・技術者らのヒアリング等を行い、対象物などを検討する必要がある。

(2)既存の重点開発領域について
1ライフイノベーション領域(拡充)
 本年度より開始したライフイノベーション領域については、上記したように当初の予測を超える多くの申請が寄せられた。これらの申請の中から優れた課題を数多く採択したいところであるが、本プログラムで充当できる予算に限りがあり、本年度の採択率は低いものとせざるを得ない状況である。ライフイノベーションは第四期科学技術基本計画の柱の一つでもあり、今般の成長戦略や、内閣府が策定する健康・医療イノベーション政策との関連も深いものである。本領域は次年度も引き続き継続していくとともに、予算を大幅に拡充していく必要がある。
 なお、本プログラム、JSTの他事業にも多くの優れた研究成果があり、本年度も多数の申請があった。こうした優れたシーズを育て、日本発の優れた診断機器を世界に向けて発信・社会実装できるようにするべきと考える。

2グリーンイノベーション領域、放射線計測領域
 グリーンイノベーション領域については、極めてシャープな領域設定であったため、この領域で扱っている「太陽光発電」「蓄電池」「燃料電池」に関する計測分析技術等については、国全体としてのグリーンイノベーション領域の状況を鑑みて、ユーザーニーズを踏まえつつ領域における開発対象範囲を拡大するなど、大幅な見直しが必要と思われる。
 放射線計測領域については、被災地でのニーズがまだ多数あるが、新規採択のための予算が本年度で終了する予定となっている。放射線計測領域で開発する技術内容の多くは、一般領域で継続可能であるため、除染対策をメインターゲットとして、「一般領域」の一つの重点化すべき開発分野として公募等を推進すべきと考える。
 いずれにせよ、これらの領域における新たなシーズの発掘は研究開発の基盤の一つである本プログラムでは重要なものであり、新規採択を継続していく必要があると考えられる。

(3)一般領域(拡充)
科学技術の発展のためには、新たな計測分析技術の開発が不可欠であり、これまでも計測分析技術は「科学の進歩の母」と言われている。
10年後を見据えた革新的な計測分析技術を絶え間なく創出していくためには、ニーズ指向の重点開発領域のみならず、一般領域の拡充が極めて重要である。
また、応用分野は違うものの分析計測の原理自体は、同一のものが多々あること、さらに、既存の重点開発領域への応募件数に大きなばらつきがあることを踏まえると、本プログラムにおいて、新たに開発分野を重点化するにあたっては、先端計測分析技術・機器開発推進委員会 総合評価分科会が事前評価等を行う「一般領域」の一部として重点化すべき開発分野を明確化し、公募・選考を行っていくことが効果的・効率的であると考えられる。

3.開発成果の活用・普及促進(拡充)
 平成23年度から開始された「開発成果の活用・普及促進」は、本プログラムで開発した成果について、開発チーム外の研究者・企業等による利用を促し、その結果を実用機の開発に生かすことを目的としている。これは、本プログラムの趣旨でもある「国産機器の普及促進」を行う方策の一つでもある。平成23年度に6チーム、平成24年度に6チームを採択しほぼ全てのチームで成果の共用が順調に進められている。しかし、いずれのチームも機器の「貸出」というレベルにとどまり、例えば開発成果を「複製」して多様なサイトへ設置・活用するというところまでは至っていない。
 これは当該制度に充当可能な予算が十分でなく、1チームあたりに割り当てる予算額が少ないことが大きな要因の一つと考えられる。そのため、今後本プログラムの成果の積極的な発信・社会実装を進めるためには、予算の拡充が必要不可欠と考えられる。

4.国産計測分析機器の普及について
 国産機器を普及していくに当っては、本プログラム、あるいはJSTだけではなく、大きくは国としての会計制度、調達制度の見直しも含めて考えていく必要があると思われる。その第一歩として、本プログラム、また、本プログラムの運営主体であるJSTが必要と考える措置として、開発成果の普及を促す試みを開始している。個々の取り組みについては下記に示すとおりである。今後、国産機器の普及にあたり、参考としていただければ幸いである。

(1)本プログラムでの対応状況
 本年度の基本方針に、開発成果を普及させていくために、本プログラムの成果で「製品化」したものをデータベース化した。これを本プログラムホームページの一部にコンテンツとして平成25年1月に掲載を開始し、随時更新を行っている。
(http://www.jst.go.jp/sentan/result/seihin.html)
 今後も掲載内容の充実を図ると共に、より一層の普及を促すため、利便性を考慮したホームページ全体の見直しも検討する。

(2)JSTにおける活動
 JSTは基礎研究から実用化を含めた幅広い研究開発制度があり、本プログラムと同様に研究開発の提案を公募している。これら他制度の運営部署に協力を得て、公募要領に、上記ホームページの紹介を掲載し、少しでも多くの研究者や企業技術者の目に情報が触れるよう、情報を提供しているところである。加えて、文部科学省のご協力をいただき、関連がある制度については、文部科学省本体の事業についても同様に紹介をいただいたところである。
 また、本プログラムに興味・関心をもつ学協会ホームページからのリンク、合同の公募説明会開催を通じ、他制度のみしか知らなかった研究者等へ情報を提供するといった措置も行なっている。
 これらの活動をさらに広げ、国産計測分析機器のさらなる普及の一助として参りたい。

5.研究開発プラットフォームとの関係について
本プログラムの推進は、文部科学省 先端計測分析技術・システム小委員会等において引き続き審議されている「知的創造プラットフォーム」や「研究開発プラットフォーム」による研究開発強化策においても必要不可欠であると考えられる。
 従って、これらのプラットフォームの検討状況と平行し、その中で当プログラムをどのように展開・発展させていくことの検討も重要である。


以上

お問合せ先

文部科学省科学技術・学術政策局研究開発基盤課

立元、下須賀
電話番号:03-6734-4098
ファクシミリ番号:03-6734-4121
メールアドレス:kibanken@mext.go.jp

(文部科学省科学技術・学術政策局研究開発基盤課)