基本計画推進委員会(第2回) 議事録

1.日時

平成23年11月22日(火曜日) 10時~12時

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.議題

  1. 科学技術・学術審議会の各分科会等における議論の状況について
  2. 「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」に関する基本的考え方について
  3. 最近の科学技術政策の動向について
  4. その他

4.出席者

委員

野依主査、野間口主査代理、有川委員、井上委員、國井委員、黒田委員、佐々木委員、柘植委員

文部科学省

清水事務次官
(大臣官房)田中政策評価審議官
(科学技術・学術政策局)合田局長、渡辺次長、阿蘇計画官、藤原計画官補佐
(研究振興局)倉持局長
(研究開発局)加藤審議官

5.議事録

【野依主査】 
 それでは、時間ですので、科学技術・学術審議会第2回基本計画推進委員会を開催いたします。
 本日は、前回御欠席でありました有川委員と佐々木委員が御出席でございますので、短く一言ずつごあいさつ賜ればと思います。
 最初に有川委員、続いて佐々木委員、お願いいたします。

【有川委員】 
 有川でございます。よろしくお願いいたします。
 私は、幾つかのことをやらせていただいております。一つは、研究環境基盤部会というのがございますが、それとその下に学術情報基盤作業部会というのがありまして、ここはかなり深い議論をしております。そのほかスパコンなどを扱います情報科学技術委員会であるとか、本日も若干話題になるかと思いますが、先端研究基盤部会などに関係をさせていただいております。学術研究全体あるいは教育のことも含めまして精いっぱいのことを考えていきたいという思いで来ているつもりでございます。よろしくお願いいたします。

【野依主査】 
 それでは、佐々木委員、お願いいたします。

【佐々木委員】 
 佐々木でございます。よろしくお願いします。
 学術分科会会長をやっておりまして、早速御紹介あろうかと思いますけれども、大変広範な領域につきまして担当しております。人文社会系もこの中に入っているところでございます。何やら社会との関係という話が出てきそうでございますので、前回は大変失礼いたしましたが、今後できるだけ出席させていただきます。よろしくお願いします。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 それでは、事務局から資料の確認をお願いします。

【藤原計画官補佐】 
 それでは、資料の確認をさせていただきます。机上にクリップどめの資料、1枚目に議事次第、その裏に資料の一覧を載せてございます。配付資料といたしましては、資料1から資料5-4まで、番号ですと10点になりますけれども、資料3-2のみ二つに分かれております。A4・1枚紙とカラーのA4横、ホチキスどめの資料、2点になってございます。そのほか参考資料としまして、参考資料は1から3まで、こちらまでがクリップどめになってございます。そのほか机上資料として、科学技術基本計画の白表紙と、研究計画・評価分科会の各委員会の推進方策という紙ファイルの資料がございます。
 以上、過不足ございましたら、事務局のほうまでお申しつけいただければと思います。
 以上です。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 それでは、最初の議題「科学技術・学術審議会の各分科会等における議論の状況について」に入ります。前回の基本計画推進委員会におきまして、本委員会では「第4期基本計画全体に関わるような議論や新たな視点に立った推進方策について各分科会等における検討状況を把握した上で、必要に応じて追加的な議論、分科会等への助言等を行うこととする。」といたしました。これに基づきまして前回の委員会を開催いたしました9月2日以降の各分科会等の開催状況等について、まず事務局から報告をお願いします。

【阿蘇計画官】 
 それでは、資料1をごらんください。各分科会等の検討状況について御報告をいたします。
 まず1ページ目、研究計画・評価分科会でございます。研究計画・評価分科会におきましては、第4期基本計画で示される重要課題のうち、その研究開発の推進方策について、検討を行っているところでございます。現在、各委員会から中間報告が上がってきているところでございます。
 そして、第1回の基本計画推進委員会でも御報告いたしましたとおり、課題対応型の研究開発方策を取りまとめるということで、四つの課題領域ごとに中心となる委員会や、新たに設ける検討グループで検討を進めていくということとしておりまして、今後、平成24年6月までに分科会におきまして研究開発方策を取りまとめる予定となっております。
 また、分科会のもとの研究計画・評価分科会研究開発評価部会では、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」の見直しの状況を踏まえまして、現在、文部科学省における研究及び開発に関する評価の指針の改定に向けた検討を実施する予定となっております。
 続きまして、2ページ目をお開きください。学術分科会でございますけれども、こちらは傘下の各委員会、先ほども佐々木先生からお話がありましたとおり、広範な検討を行っておりまして、学術分科会の研究環境基盤部会学術研究の大型プロジェクトに関する作業部会におきましては、今後、平成24年3月ごろを目途に、「ロードマップ」の改訂について取りまとめを行う予定となっております。
 また、同じく研究環境基盤部会の学術情報基盤作業部会におきましては、今後、学術情報の発信、流通全般について総合的に審議をすることとしております。
 また、同じく学術分科会の研究費部会におきましては、平成24年7月ごろを目途に、科研費の在り方についての審議を取りまとめる予定となっております。
 さらに、先ほど人文・社会科学のお話もございましたけれども、人文学及び社会科学の振興に関する委員会におきましては、現在、人文学・社会科学の振興について、有識者からのヒアリングを行っているところでございます。
 続きまして、3ページ目をごらんください。海洋開発分科会です。こちらにつきましては海洋鉱物資源及び海洋生物資源に関する研究開発内容について、それぞれ「海洋資源探査技術実証計画」、そして「海洋生物資源に関する研究の在り方について」の取りまとめを行っております。
 続きまして、測地学分科会では、「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画」の一部見直しについて検討をしているところでございまして、今後、平成24年1月初旬に地震火山部会等で取りまとめる現行の計画の一部見直し(案)を報告する予定となっております。
 続きまして、4ページ目をごらんください。先ほど有川先生からお話がありましたけれども、先端研究基盤部会におきましては、先端研究基盤部会及び研究開発プラットフォーム委員会におきまして、平成24年夏ごろまでに研究基盤政策の推進方策に係る報告を取りまとめる予定となっております。
 そして、4ページ目の下のほう、産業連携・地域支援部会におきましては、産学官連携推進委員会におきまして「科学技術イノベーションに資する産学官連携体制の構築~イノベーション・エコシステムの確立に向けて早急に措置すべき施策~」を取りまとめているところでございます。
 続きまして、5ページ目をごらんください。国際委員会です。国際委員会におきましては、これまでこの議論を踏まえまして、平成23年11月末から12月初旬を目途に、「第六期国際委員会中間的取りまとめ」を議論する予定となっております。
 続きまして人材委員会です。人材委員会につきましては、若手研究人材のキャリア開発支援について検討を進めているところでございまして、引き続き、この若手研究人材のキャリア開発支援についての検討を実施する予定となってございます。
 事務局からの報告は以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 次に、研究計画・評価分科会における検討の状況について報告いただきますが、本日は分科会長で、この委員会の委員でもいらっしゃる大垣委員が御欠席のため、北澤分科会長代理に御説明いただきます。よろしくお願いいたします。

【北澤分科会長代理】 
 それでは、資料2-1というのがございますので、これを見ながら御説明させていただきたいと思います。
 本資料につきましては、前回のこの委員会において、既に大垣分科会長から説明されておりますので、本日は研究計画・評価の当分科会で取りまとめます課題対応型の研究開発方策について、前回の報告から進捗のあった点を中心に御報告させていただきたいと思います。
 皆様のお手元には、当分科会の各委員会で検討を進めておりました推進方策の現状版をお配りしております。ここにあります水色のこのファイルでございます。ちょっと大部でございますので、中身には入り込まないようにいたしますけれども、当分科会ではこれらの報告書をもとにしまして、重要課題の領域をふかんした上で必要な検討を加えまして、課題対応型の研究開発方策を取りまとめることを想定しております。
 それで、資料2-1の3ページ目と4ページ目をごらんいただきたいと思います。第4期科学技術基本計画をもとにして四つの課題領域を示しておりますが、9月の分科会におきまして、研究開発方策の検討に当たっては、より効果的で効率的に検討を進めるために、課題領域ごとに関係する委員会の主査等で構成される検討グループを立ち上げて検討する、あるいは特定の委員会が中心となって検討するといった方法で検討を進めることといたしました。
 また、資料の2ページにあります震災からの復興・再生に係る重要課題というのがもう一つ新たに生じてきたわけでありますけれども、これが資料の4ページにあります課題領域③の安全、かつ豊かで質の高い国民生活、これとあわせて検討することといたしました。
 課題領域ごとの検討体制については、ただいま当分科会の事務局に関係各課や関係委員との調整をしてもらっておりますけれども、前回のこの委員会におきまして、既存の分科会等の枠組みにとらわれず、必要な検討を行うことができるよう検討体制を工夫すべきという留意事項が示されたわけであります。
 このことを踏まえまして、具体的には、例えば課題領域の4番目の科学技術基盤におきましては、新フロンティア開拓のための科学技術基盤の構築等について検討を行っています海洋開発分科会や、科学技術の共通基盤の充実強化について検討を行っております先端研究基盤部会といった他の分科会や部会と連携しまして、この課題領域について検討を進めるべきであろうと考えております。
 ただいま課題領域④を例にお話ししましたが、他の課題領域につきましても各委員会等がそれぞれの所掌の観点から検討いただいたことについて、今後は課題対応という観点から改めてふかん的な検討を行うことを考えております。そこでの検討の視点としましては、例えば複数の分科会等で一緒に検討すべき事項はないかといったことを想定しております。また、審議会等で話題となりますマトリックスマネジメントの視点も重要だと考えております。最終的に研究開発方策として、四つの課題領域全体を取りまとめる時期につきましては、連携する分科会等との調整や課題領域ごとの検討の進捗にもよりますけれども、来年6月を予定しております。
 報告は以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 北澤分科会長代理からの御報告で、海洋開発分科会と先端研究基盤部会との連携について御発言がございましたが、先端研究基盤部会主査の有川委員、何か御発言ございますでしょうか。

【有川委員】 
 基本的には今御報告いただきましたようなことで、関係するものをお互いに連携をとりながらやっていかなければいけないと思っております。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 ほかの委員の方、何か御質問や御意見はございますでしょうか。連携を重視していくということでよろしいでしょうか。事務局、それでよろしいですか。

【阿蘇計画官】 
 はい。

【野依主査】 
 ぜひ連携を強くとって進めていただきたいと思います。

【北澤分科会長代理】 
 そういうことにさせていただきたいと思います。

【野依主査】 
 北澤分科会長代理の御報告、それから有川委員からもそれを支援する御発言がございましたが、北澤分科会長代理からの御指摘のとおり、前回の委員会でまとめました「第4期科学技術基本計画に基づく施策の推進に係る検討体制について」で示しました考え方、つまり「既存の分科会等の枠組みにとらわれず、必要な検討を行うことができるよう、検討体制を工夫すること。」、これに沿ったものだと考えております。
 分科会等のレベルで連携が図られ、そして議論がなされるというのは、画期的なことでございまして、分野別から課題達成型という転換を図りました第4期基本計画の推進には不可欠な取組であると考えております。基本計画推進委員会としてもぜひ今日の御報告に沿って、関係の分科会等と連携を図って議論を進めていただくようお願いしておきたい。これをぜひ確認しておきたいと思いますが、よろしゅうございますか。
(「わかりました」の声あり)

【野依主査】 
 それでは、確認させていただきました。
 次に、柘植委員から人材委員会での検討の状況について御報告いただきます。

【柘植委員】 
 人材委員会の主査を仰せつかっています柘植でございます。資料2-2をお開きください。A3判でございます。
 これは左側の上に人材委員会第4次報告とあります。これは平成21年8月に第4次報告を出しておりますが、それとこのたびの第4期科学技術基本計画の取組状況というものをふかん的にまとめたものでございます。資料の構成としては、左上に書いてございますように、今の21年8月に第4次報告を出しました人材委員会の報告で何を提言したか、真ん中が8月に閣議決定した第4期科学技術基本計画でそれがどれだけ反映されているか、そして文部科学省の現在の取組状況という、3点セットでふかん的にまとめたものでございます。細かくは説明しませんが、大きな構成について御理解いただきたいと思います。
 まず、人材委員会の第4次提言の大きなベースになっています知識基盤社会が求める人材像については、3点提言をしておりまして、この中でキーワードとしては、やはりイノベーション、チーム力、リーダーとしての資質を備える高度人材、これが第4期にもそれぞれきちっと取り上げていただいておりまして、文部科学省としても今、予算化も含めて取り組んでいただいている状況でございます。
 それから、2段目のピンクのところの社会の多様な場で活躍する人材の育成につきましては、1本目の柱が博士号取得者の社会の多様な場における活躍の促進でございまして、第1番目としては大学院教育研究の実質化についてうたっておりまして、四つ目の○のいわゆる「ポスドク問題」、あるいは5つ目の○の博士号取得者が社会の多様な場で活躍できるような充実、とそれぞれ第4期においてもきちっと取り上げていただいておりますし、文部科学省としても取組を開始していただいている。
 2本目の柱であります2ぽつの大学教員等の人材育成に係る意識改革ということを第4次提言でも提言しておりまして、これも第4期基本計画の中でもきちっと方針として決めていただいております。
 右側の上に移りますと、もう一つの提言の柱でございます社会の多様な場で活躍する人材の育成ということで、グローバル化に対応した人材、女性研究者・技術者の活躍の促進という大きな二つの柱に対しても、第4期基本計画できちっと取り上げてもらっております。その下、若手研究者が自立して研究できる体制の整備であります。テニュアトラック制の普及・定着、あるいは2ぽつの若手研究者ポストの拡充についても同様でございます。
 最後に、次代を担う人材の育成につきましても、才能を見出し、伸ばす取組の充実、その下の初等中等教育段階から研究者・技術者養成まで一貫した取組の推進という視野で提言をしておりましたのが、第4期基本計画でも取り上げてもらっております。既に文部科学省においても具体的な取組を開始していただいているという状況がまとめてございます。
 まとめまして、この人材委員会としては、先ほど阿蘇さんから報告がありました、当面は若手研究人材のキャリア開発支援、制度、予算化までも含めて重点的な取組をしておりますが、今申し上げた資料2-2に基づいて、これから第4期基本計画が実際にいわゆる実効ある取組がされているかどうかについて、人材委員会としてもきちっと検討していきたいと思っております。
 以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 それでは、委員の方から、何か御質問ございますか。

【柘植委員】 
 すみません。一言、言い忘れました。先ほど主査がおっしゃったように、横串という面において、人材委員会は人材だけの育成の話のプログラムでは私は難しいと思います、今、特に社会が求めている人材育成につきましては。先ほど有川先生もおっしゃったように、全ての横串の分科会、あるいは部会の活動ともリンクしていくという横串の視点での推進が非常に大事でございますので、私もそう進めますが、ぜひとも力をかしていただきたいと思います。

【野依主査】 
 学長の先生方、いかがでございますか。これはどのようにすると実効あるものになるのか、あるいは問題は何かという観点などで御意見ございますでしょうか。

【有川委員】 
 例えば右手のほうにありますテニュアトラックの定着、それから若手の研究者がある意味で少し閉塞感を感じているということがありまして、現場ではそういった問題を組織的に解決しようと取り組んでおります。本学では最近、ある種の仕掛けを実はしまして、それなどを使って、こういった問題を部局単位でも取り組んでくれるようになってきたと思います。そういう意味で人材委員会から出されていることが、現場にも反映されつつあると見ていただいて結構だと思います。
 特にテニュアトラックは定着事業ということを言っているわけですけれども、これはそろそろ本当の意味で定着させなければいけない。つまり、支援がなくても自分のそれぞれの人事の在り方の中でごく自然に、それが文字どおり定着しているという状況に持っていかなければいけないだろうと思います。これからの進め方として、そうしたやり方をエンカレッジするような方向を出していただければと思っております。今回の普及・定着事業というのは非常に意味があるわけですが、繰り返しますけれども、そろそろそういったことから離れて、文字どおり自立できるように持っていかなければいけないだろうと思っています。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 今の御発言からも、若手の研究者の自立の問題というのは研究費と併せて考えなければいけないと思います。特に科学研究費の取得と研究者の自立は同時であるべきです。科研費というのは研究者たちの自由な発想のもとにある研究を自ら責任を持って行うことを支援していますから、取得した人は即自立、独立して研究を行う権利があり、また義務であると私は考えております。
 一方で大学、特に古い大学では依然として、昔でいう講座制、あるいは今は研究室制という硬直化した組織の存在が研究活動に優先されて、なかなか現実のものとならない。教授、准教授、助教と序列化され、准教授あるいは助教が自分の研究費を取得しても、従前どおりの上下関係の下で働かなければいけない。これは分野によるでしょうが、その傾向が色濃く残っており、この状況を打破しなければいけないと思います。

【有川委員】 
 その件も非常に大事なことでございますが、まず科研費につきましては、特に若手が関係するようなところを強化されたと思っております、念願の30%程度の採択率が達成できるようになりましたし、あるところは基金化も進んでいるということもあります。そういう意味では、科研費のほうからの若手研究者の自立という面では非常に進んだと思っております。
 二つ目に、もう一つ大事なことをおっしゃったわけですけれども、自立しながら、それから講座制というのは弊害がたくさんありますが、多くはそれを解消したりしております。一方では、現場ではもう一つ深刻な問題が実はあります。それは新職の導入によって教授、准教授、助教と、これはみんな自立した研究者なわけです。何が違うかといいますと、「優秀な」や「特に優秀な」という形容詞と副詞の違いです。要するに、何もつかなかったら助教、形容詞がついたら准教授、「特に」という副詞がついたら教授という具合です。簡単に言ってしまえばそういうことでして、それでみんな自立するわけです。その結果、どういうことになったかといいますと、自立しているものだから、准教授、助教たちは教授と独立にやる、言うことを聞かないということが起こる。教授たちは、例えば定年でやめるときに、みんな自立しているはずだから、後の面倒は見ずに自分だけおやめになっていく。
 そこに今度は公募制で教授がみえる。ところが、いわゆるチームがつくりにくい状況にある。そういう意味で人材委員会の二つ目にありますチーム力というのは極めて大事で、これは自立した研究者があるリーダーシップのもとでチームをつくって、取り組んでいくということをきちんとやらなければいけない。これは意外にまだ確立されていないと思います。この辺がこれからの問題だと思っていまして、そういう意味で大事な点がこの人材委員会からは指摘されていると思っております。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 ほかに。どうぞ。國井委員。

【國井委員】 
 ポスドクの件ですけれども、インターンシップ制度など、いろいろなプログラムが進んでいるようで、それは結構なんですが、産業界に対してドクターを持っている人を採用しないとか、あるいは給与にほとんど差がないというか、勤続年数相当ぐらいでしか上がっていかないなどと、今の日本の問題であるというふうに言われております。
 産業界の立場からすると、ドクターを持っている方が十分な貢献をしていただければ、新たな施策もとれます。例えば、給与面での差もつけられるんですけれども、現場を見ると実態はそうはなっていない。インターンシップ等々は非常に有益で、これはどんどん進めていただきたいんですけれども、本質的には教員の方がある期間インダストリーの実態を見るとか、いろいろな研究を一緒にやるとかいう、もっと密な産学官連携をしないと、長期的には変わらないんじゃないかと思います。
 IT分野でいえば、例えば高度IT人材の育成ということでいろいろ連携しましたけれども、インダストリーから教えに行った先生が戻って、プログラムが終わってしまうと、ほとんどのところが元の木阿弥という状態になっているところがあります。九大はかなり、いい成果を上げられたというふうには伺っておりますけれども、産業界全体から見たら、そのインパクトは小さかったということがあって、インダストリー側からの改善も必要ですが、教員の方たちにもっと積極的に出ていっていただく必要があるかと思います。そういうプログラムもぜひお願いしたい。

【野依主査】 
 では、井上委員、どうぞ。

【井上委員】 
 資料2-2に社会の多様な場で活躍する人材の育成ということが掲げられて、これは非常に重要なことだと思うのですけれども、先ほどのお話で、研究者への道というのはいろいろこれまで考えられてきていたのだと思います。しかし、研究者への道というのは大学院の人たちにとって狭き門であって、大学院に入った、そのキャリアパスの先に社会の多様な場で活躍する人材というのが見えるようなことを考えていかなければならないのだと思います。
 その先は、一つは、今、國井先生がおっしゃったような産業界とのつながりというのがあると思いますし、国の場で官僚という呼び方になるかわかりませんが、そういうところへ行く道はあるわけですけれども、多様な場につながっていくような、自分の専門性を生かして、しかし社会のために働いていくというキャリアパスが今ないと思うのです。そういうところをつくり出すところは、今考えられる中では大学がそういうことを考えていかないと、そういうものがつくられていかないのではないかと思います。今の人件費の縛りだとか、いろいろなところで制限が強いわけですけれども、そこを何かうまく考えて、ちょっと違うキャリアパスというのを考えないと、若い人たちがつながらないような気がいたします。

【野依主査】 
 今の問題は、理工系については、博士号取得者で、公的機関の定員枠といわれる職につける人というのは6分の1程度です。ですから、大部分の6分の5の人たちがそれ以外の場で働けるように教育しなければいけないし、幅広いセクターが高等教育にかかわっていかなければいけないと私は思います。
 これは日本だけの状況ではありませんで、アメリカでもやはり同様です。多くの博士号取得者は、産業界はもちろん、官庁、あるいは金融や財界にまで、様々な分野で活躍している。それがアメリカ社会の活力を支えているのです。もちろん大学も用意をしなければいけませんし、社会との強い連携も必要だと私は思っております。
 柘植委員、どうぞ。

【柘植委員】 
 一言だけ短く。今の井上委員、國井委員がおっしゃった話は私自身も全く同感でございまして、具体的に現状それぞれ努力しているのに、プラス何をしたらいいかという視点を提言したいと思います。
 一つは、この資料2-2は各アイテムに分かれていますが、実はこの資料2-2の横串をしていくことで、今の教員自身の意識改革、多様な場で活躍する人材の育成、それから上流側である次代を担う人材の育成、つまりこれの横串を人材委員会としても何が今ネックになっているのかということを掘り下げて、また具体的に提言したい。
 それからもう一つ大事な話は、資料1で例えば研究開発、先ほど報告がありました研究計画・評価分科会でこういう課題領域を挙げて、これから取り組むんですが、この課題領域に取り組むに当たって、人材育成という面での例えば予算措置等も含めて組み込んでいただきたい。「これは教育ではないんだ、研究なんだ」という論理で、そういう人材育成の面の予算が削られることのないように、ぜひともこの課題領域の推進の中で、今、井上委員がおっしゃったような人材育成も併用していただきたいと思います。

【野依主査】 
 時間がございませんので、次に進みますが、この委員会は各分科会等の長にお集まりいただいておりますので、積極的にこれからも御意見をいただき、今後の審議に役立ててまいりたいと思います。本日は時間がございませんので、改めて書面ででも御意見を賜ればと思います。
 それでは、議題2「「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」に関する基本的な考え方について」に移ります。
 前回の委員会におきまして、「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」にかかわる内容につきましては、基本計画推進委員会で審議することといたしました。本日は、その観点でお二方の有識者をお招きしております。議論を始めるに当たりまして、我々委員の間でその土台となる現状認識を共有しておいたほうがいいと思い、本テーマに関する歴史的経緯、あるいは海外の取組の様子など、概要について御説明をお願いしております。その後、本委員会での検討の進め方(案)について、事務局から説明をしてもらいます。
 まず最初に、東京工業大学の中島秀人教授です。中島教授は科学技術史を御専門とされており、現在、科学技術社会論学会(STS学会)の会長もお務めです。
 それでは、中島教授、15分ぐらいでお願いいたします。

【中島教授】 
 中島でございます。よろしくお願いいたします。
 社会と科学技術の関係が深化したことの背景について説明をさせていただきたいと思います。パワーポイントですが、個人の履歴等の部分は、皆様の配付資料にはおさめてありませんのでご了承ください。
最初に、本日のキーワードを二つ申し上げます。一つは、リニアモデルから多元モデルへということ、それからもう一つは、レスポンシブルイノベーションという言葉です。いずれも、社会の科学技術化、あるいは科学技術の社会化ということが背景にあって起きたことというふうに了解をしております。
 最初にちょっと自己紹介をさせていただきたいと思います。私、1956年に生まれました、子供のころはいわゆるラジオ少年でありまして、中学校のときにアマチュア無線の免許を取ったりして、毎週のように秋葉原に通っていました。今は秋葉原に通っているというと、変な顔で見られることもあるんですけれども、ラジオデパートとかに通っていた。今だとパソコン少年とかインターネット少年に該当するかと思います。ラジオ少年であると同時に、論理実証主義であるとか科学史という、科学論のような領域に興味を持っておりました。
 1976年に東京大学の理科2類に入りました。その当時は、物理屋になるか、科学史とかをやるかということを考えていたわけでありますけれども、最終的には科学史の分野を選択いたしました。大学院まで出まして、専門はロバート・フック。ニュートンの論敵であった彼がどういう人だったかということについて、博士論文を書いたり、本を書いたりいたしました。
 その後、私の恩師であります村上陽一郎から、東大先端研という研究所が新しくできたので、来ないかというふうに誘いを受けまして、科学技術倫理分野というところに着任をいたしました。当時は、科学技術倫理が一体何であるかということ自体が甚だ不明瞭でした。今から見ると、この分野をつくられた先生方は大変に先見の明があったと思うわけですが、ここに放り込まれた人間としては、どうすればいいか途方に暮れるという状況でありました。
 このころは、生命倫理が大変ブームでありました。けれども、倫理というのは生命だけではないだろうと感じた。科学と社会の関係というのは、生命倫理だけでは済まないだろうと感じたわけです。もともと生命がちょっと苦手ということもありました。もうちょっと硬いもの、物理的なものも含めた科学と社会の関係というのはどういうのかといろいろ考えたあげくに、STSと言われるものがあるらしいと知りました。サイエンス・テクノロジー・ソサエティーとか、サイエンス・テクノロジー・スタディーズと言われるものがあるらしいということに気づいて、ネットワークをつくった。若手中心に勉強会を重ねるということを始めたのが、20年ほど前です。
 その後、東工大に参りまして、一般教養の教師となりました。STSが日本国内で大分成熟してきましたので、その成果を国際的に発表しようと、会議を実施することを考えました。恩師の村上陽一郎に組織委員長を依頼し、98年に、「科学技術と社会に関する国際会議」というのを開催いたしました。その流れもありまして、2001年に科学技術社会論学会というものを研究の仲間と設立いたしました。初代の会長は、今ちょうどNHKの「白熱教室」で科学技術社会論について講義をしている小林傳司です。私が、事務局長をいたしまして、今は私が会長をさせていただいております。
 科学技術と社会の関係の深化、ここからはほぼパワーポイントどおりです。まず科学技術がどう誕生したのかというのを、ある意味自明なことかもしれませんけれども、確認をしたいと思います。科学や技術を論じるときに、念頭に置いているのが「科学・技術」なのか、ナカグロのない「科学技術」なのかというのはよくもめます。表記の相違が、議論を混乱させることがあるからです。岩波のあるシリーズができるときには、「科学/技術」というふうに妥協案の表記でつくったと伺ったことがあります。
科学と技術が融合した科学技術と書けるものの誕生というのはわりと新しいものであります。技術というのは人類が発生した桁とほとんど同じくらい古い。人類は450万年以上前に誕生しているようですけれども、250万年前に石器が誕生したときから人間は技術とつき合っております。それに対して、科学というのは、起点についてはいろいろな考え方がありますけれども、古代ギリシャをこれにとりますと、自由人の思索としてできたものである。歴史はたかだか数千年前で、けた違いに新しい。このように誕生の年代の違う科学と技術が、どのようにして科学技術になったのかということが、科学史や技術史では問題になるわけです。
 この分野の最近の普通の歴史の書き方ですと、19世紀に科学に基礎を置く技術ができたことによって、科学技術の誕生の基盤ができたといたします。1800年のボルタの電池の発明がその始まりではないかと思います。この細密画は、エジソンのダイナモ発電機の図ですけれども、ボルタの電池によって定常電流が得られるようになって、それが発展した成果です。その後、有機化学がパーキンのアニリン染料の合成によって始まる。モーヴという、大変美しい紫色の染料が誕生しました。ほんとうは薬品を合成する予定だったのが、当時大変人気のある色の有機合成染料ができたということで、科学と技術の融合した科学技術の基盤ができたと考えるのが普通だと思います。
 これを受けまして、ほぼ19世紀の終わりから20世紀にかけて、企業が科学技術の研究所を設ける。これはアメリカの事例ですが、電気あるいは化学の企業が研究所を設けて、ウナギ登りに数が増えております。ここで登場した新しい人々はエンジニアと言うべきだと思います。
科学の応用としての技術が、有機化学や電気を基盤としてできた。純粋化学の応用の代表的なものは、カロザースの発明したナイロンであると思います。なお、資料に書いてある「CUDOSからPLACEへ」という部分については、後で必要があれば御説明をしたいと思います。
 このようにして科学の成果が技術に使われるようになりますと、科学が発見し、産業が応用し、人間がそれに従うというリニアな考え方が出てまいります。最も典型的なのは1933年のシカゴ万博のモットーであると思いますが、Science Finds, Industry Applies, Man Conformsというものです。ここの最後がちょっと問題でありまして、科学が発見し、産業が応用し、人間はそれを受動的に受け入れるだけとなっている。つまり、科学の発明に人間は従いなさいという考え方が出てきます。これと対応するテクノクラシーの考えも、ちょうどその時期に出てきたと言われているようです。
 資料に図に示したのはリニアモデルと呼ばれるものでありまして、基礎科学から応用、開発というふうに研究(あるいは技術開発)は進んでいく。科学技術というのは、このような構造を持っているのであるとされているわけです。
 そうなりますと、川上を管理する人が最も力がある。それが科学者であり、現場の技術者までいくと力はちょっと弱くなるかもしれません。エンジニアと言われる人は、科学と技術を媒介する。工学ですね。工学という概念はほんとうは極めて大事なんですが、これをお話ししていると長くなりますので、省略させていただきます。いずれにしましても、エンジニアリングをやる方の力が強くなっていって、現在はエンジニアの時代であるということができると思います。理工系の大学を卒業しても、基礎的な科学に進まれる人は少なくて、6割の方は現場に行かれるのが実態です。純粋科学の自然科学者は、理学部だけに着目すると、自然科学系の13%ぐらいしかおりませんので、実際には工学が非常に大きな役割を果たしているのが現在ではないかと思います。
 リニアモデルにおきましては、消費者には技術商品の選択をする自由はある。ただし既にエンジニアが与えてくれたものを選択するという構造になりがちです。このリニアモデルは、冷戦によって強化されます。有名なマンハッタン計画の最高幹部の1人であるMITの副学長、バネバー・ブッシュがこの「Science The Endless Frontier」という報告書を戦争が終わる直前に出した。このことによって、リニアモデルは強固になったと考えるべきだと思います。リニアモデルのことを最近はブッシュモデルとも言いますけれども、原子爆弾は物理学からリニアに出てた「成果」と考えても無理はないものであると思います。
 冷戦によってリニアモデルは強化された。冷戦時代の科学のことを我々の分野ではコールド・ウォー・サイエンスと言ったりもします。しかし、コールド・ウォー・サイエンスにはある種無理があった。この科学の在り方は実態とは少し違う一種のイデオロギーですけれども、そのイデオロギーに無理があったということは、冷戦が崩壊するとだんだん明らかになってまいりました。
 ここで資料に示した科学の「軍民転換」というのは、ちょっと刺激的な言葉です。科学論の米本昌平先生の言葉を使わせていただきました。リニアモデルでアメリカは研究を推進していったわけですが、科学研究のところに投資をしても、その投資効果が上がっていないことが分かってきた。川上でせっかく作った科学知識が死蔵されているのではないか。これを活用しようということで、有名なバイ=ドール法であるとか、テクノロジー・ライセンス・オフィスがアメリカで重要になってまいります。ベンチャーであるとか流動化であるとか、つまり研究システムを改変すべきであるという議論が出てきた。日本でも同様の議論がはやったのは、私はちょっと奇妙に思えます。アメリカにはアメリカの事情があって、ベンチャーであるとかTLOというものを作ったわけです。
 実は、当時アメリカが非常に気にしていたのは日本型のイノベーションでありまして、これはモード2型と呼ばれる場合がある。基礎研究なしでも技術は進歩することがある。つまり、既存知識のre-configurationによって科学技術製品が出てきたりする。そのためには多数の知識拠点をいかに連携させるか、あるいは異分野の人を(融合させるのではなく)、ディシプリンを守ったまま共同させる。これを我々の言葉ではトランスディシプリナリーといいます。知見を共同で使う。文理融合、工工融合とか、理工融合とか、いろいろな言い方があるんですが、融合することなく共同する。 
それから、これはもちろん大半は善意に基づくわけですが、リニアな考えに基づくと、専門家は全体を管理したいということになる。後で藤垣さんからお話がありますが、これに抗して、市民の参加型というお話も出てまいります。モード2は参加と親和性がある。モード2型イノベーションの典型例をここに示しました。iPadなどは非常に典型的で、別に高度な部品を使っているわけではなくて、組み合わせを活用する。つまり、ニーズに応じた組み合わせを、社会事情に応じてするということが極めて大事であります。これはソニーが大変得意だったことでありまして、こういうのを見て、アメリカやヨーロッパの研究者がモード2ということを言い出したのであると思います。
 既にある部品を組み合わせてプログラムし直すということで考えますと、遺伝や情報のプログラムは、これに該当する。既存のコマンドの組み合わせです。亡くなられたそうですが、吉田民人先生の言葉をおかりしますと、こういうのはプログラム科学というのかなと思っております。
 上からの管理モデルの話についてちょっと申し上げますと、科学技術者による管理モデルについては、既に私が科学を目指したころに問題になり始めております。ちょうど公害国会が行われた年に私はアマチュア無線の免許を取ったわけですけれども、そのときに一般の方々の科学に対する考え方が変化した。これは統計数理研究所の調査をグラフにしたものですけれども、この時期に大きく変化をしています。科学を使って自然を利用してほしいという考えは一貫していて、一般人は反科学ではありません。科学や技術については常に信頼は高い。しかし、自然を征服すべきであるという考え方は、68年ぐらいで大きく減っております。それに代わって、自然に従えという声が多くなる。ちょっとロマンティック過ぎると、私など物理屋を目指した人間からすると思いますけれども、気持ちはわからないでもありません。つまり、過度な自然支配をするとどうもおかしなことが起きそうである。同時に、専門家による一方的な意思決定というのは大丈夫なんだろうかとなる。この後半は、もうちょっと後になって出てきた考え方だと思います。専門家による意思決定の問題では、社会の取り入れるべき技術は何か、あるいは科学技術を選択する主体はだれであるかというのは問題になると思います。
 かつて技術の進歩が遅かった時代には、技術におけるモノを選択するというのは専門家による選択で十分であったと私も思います。ただ、技術には本質的に科学と違う要素があります。アリストテレスは、技術は真なる分別の働きを伴う制作(ポイエーシス)であると考えた。これは『ニコマコス倫理学』の一文だったと思います。ただし、技術というのはエピステーメーと違ってほかでもあり得る点で、科学より劣っているのだというふうにアリストテレスは述べております。プラトンに至っては、ポイエーシス自体が劣っているということになる。いずれにしても、選択できるという点が技術、あるいは科学を基礎にした技術の肝であるのではないかと考えております。
 科学技術の過度な自然支配への懸念ということですが、科学者・技術者が長くリーダーであって科学技術を管理をしてきたことは事実でしょう。それは当然そうであったと思いますし、科学者・技術者が現在でも社会のリーダーたらんとして責任を持っていることは当然と思います。ただ、お医者様と同じで、パターナリスティックな、「俺のいうようにすれば良いんだ」と命令する傾向が生じてしまうことがある。技術の成果が受け入れられない場合、一般人が理解していないせいだとする、パブリックアクセプタンスという形の議論が出て参ります。私のように工学系の大学にいると、中島さん、一般人の無知蒙昧をどうにかしてくれないかと頼まれることがある。
 研究の評価はピアで、だから安全性などについてもピアで評価すればよろしいという風潮がある。もちろんかつてはこれでよかったわけですが、ピアの評価と一般社会の評価の基準がずれてきてしまうことが増えた。場合によっては、一般人の庶民感覚のようなものの方が正しいことがある。
 冷戦型科学技術システムというのは、社会の中でちょっと既得権構造化しているかなという印象を持つこともあります。サイエンス・コミュニケーションはここしばらく注目されてきた。行き過ぎてバブルといわれることがあるかと思いますけれども、ここでは市民の科学リテラシーが課題だった。これに対して、専門家の社会リテラシーということも求められる時代になったのかなと思います。専門家といえど、一つ分野が違いますと、リテラシーがあるとは限らない。例えば、原子力の専門家と遺伝子組み換えの専門家が安全性の基準について話し合うと、相互に相当に違和感を持つというふうに伺っております。専門家というのは、自分の分野を超えると必ずしも専門家ではない。専門家の他分野の専門リテラシーというものがないと、これからはリーダーとしての役割を果たせないのではないでしょうか。
 そのことに科学者自体が気がついたのが、ブダペスト宣言ではないか。社会のための科学、社会の中の科学ということを、科学者・技術者自体が主体的に自己反省して述べたのが1999年のブダペスト宣言ではないでしょうか。
 ということで最初に戻りまして、私のキーワードは、技術における多元性、つまりはリニアモデルから多元モデルへの転換です。こうなりますと、イノベーションにつきましても、レスポンシビリティーというものが問われるようになる。Responsible Innovation、すなわち何のための、だれのためのイノベーションか。そして、イノベーションの主体はだれなのかということが問われると思います。
 以上です。ありがとうございました。

【野依主査】 
 ありがとうございました。質問は後ほどまとめて時間をとりたいと思います。
 それでは、引き続き、科学技術社会論を御専門とされております東京大学の藤垣裕子教授から、15分程度御説明をお願いいたします。

【藤垣教授】 
 藤垣と申します。資料は3-2になります。
 まず、3-2を見ていただきますと、A4で1から7までございますが、この中の1と2と3は、今、中島STS学会会長から説明がございました。私の発表は3の途中から4、5、欧州第7次フレームワークと第4期基本計画との比較、日本の市民参加の特徴、政策のための科学との違い、大震災以後の日本の民主主義という形で進んでいきたいと思います。
 1枚目は、中島さんは何と附属資料には入れないという手を使ったらしいですけれども、背景ですが、東大の理科1類を出て、教養学部・基礎科学科第二という新しくできた学科の1期生になりました。システム基礎科学で、今は広域科学科といいます。そこの大学院を修了した後、助手を6年半務めまして、当時、科学技術庁だったころの科学技術政策研究所主任研究官を3年半務めました。今、所長の桑原さんがまだ4調の総括だったころです。
 そのころ書いた論文で一番おもしろいものは、日本の科学技術政策のコンセプト進化という論文で、これはScience and Public Policyに載せたんですけれども、何をしたかというと、科技庁ができた年である1959年の第1回の科学技術答申から、1996年の第23回科学技術答申まで23回分を全部データベース化しまして、日本の科学技術政策がどんなふうに進化してきたかということをまとめて、英語で発表したものです。95年に科学技術基本法ができまして、その後基本計画ができておりますので、この論文は基本計画前史という形で、海外の研究者からはよく使われております。
 その後、東京大学にポストがあきましたので、公募に応募して戻りまして、現在に至っております。去年、国際科学技術社会論学会という、国際会議ですけれども、それをJSSTS、つまり日本のSTS学会と合同で開きまして、そのプログラム委員長及び実行委員長を務めました。これは東京大学の駒場キャンパスで開いております。
 まず、中島さんの発表にありましたResponsibleな科学技術イノベーションとはというのを考えてみたいと思います。Responsibleのもと、Responsibilityというのはresponseという言葉とabilityを足したものですから、応答可能性なわけです。ですから、これは応答可能性とか呼応可能性という言い方をしまして、要するに市民からの問いかけに何らかの応答をする能力がなくてはいけない。それがResponsibilityの意味です。
 そうしますと、科学者の社会的責任というのは過去から戦後よく議論されてきましたけれども、少なくとも三つのものがあるだろうと。一つは、科学者共同体内部を律する責任です。つまり、捏造してはいけないとか、そういうことです。きちっとしたデータ、信頼できるデータを出さなければいけないという古典的なもの。
 2番目は、知的生産物に対する責任です。例えば原子力爆弾をつくってしまった責任であるとか、遺伝子組み換え技術をつくったことによって、科学者たちがみずから責任を感じてアシロマ会議を開いたとか、そういうことです。これも戦後すぐ議論されたことです。
 最近話題になっているのが市民からの問いかけへの呼応責任としてのresponse abilityということです。市民からの問いかけというのはいろいろございますが、例えば日本では今、事業仕分けでほんとうに必要ですかという形の問いかけがあります。それ以外にも、例えば遺伝子組み換え食品はほんとうに安全ですかとか、ナノテクの健康影響はどうなのですか、など。ナノチューブの大きさと発がん性との関係が名大で、この間11月15日に発表されましたけれども、それ、大丈夫ですかということです。また、地球温暖化の影響はどうですかとか、あるいは原子力発電所事故直後でしたら、日本の環境はどのくらい汚染されているんですかとか、どのくらい安全なんですかとか、食品はどれくらい食べていいんですかという問いかけにきちんと答えることができるというのが呼応責任になります。
 時間がありませんので次へ行きますが、これから欧州の第7次フレームワークプログラムと比較するに当たって、第4期基本計画にみられる「科学技術と社会」というものの記述を見ていきたいと思います。
 皆様のお手元にもあるこの基本計画ですが、「科学技術と社会」という記述が出てくるところだけで少なくともこれだけある。非常に注目すべきは、5ページの目指すべき国の姿というところで、3行目ですが、「科学技術政策は科学技術の振興のみを目的とするものではなく、社会及び公共のための主要な政策の一つとして」と書いてあります。つまり、単なる科学技術の振興政策ではなく、社会、公共のための政策であるということが埋め込まれて、文章として明文化されています。公共のための政策として、要するにパブリックポリシーとしての科学技術政策であるということで、それが第5章につながっていくわけですけれども、そういう構成になっております。
 これを欧州の第7次フレームワークとプログラムと比較をしてみたいと思います。
 まず、左側にあるのは、第7次フレームワークプログラムの四つの焦点です。Seventh Framework Programとグーグルに入れて検索しますと、ばんとホームページへ飛ぶわけですけれども、そこには四つのきれいなカラーの枠がございまして、それがこの四つです。協力と人材、アイデア、キャパシティーというのがあるんです。翻って第4期基本計画を読み直してみますと、協力というのは第3章に入っておりますし、人材も第4章に入っておりますし、アイデアも2章に入っています。キャパシティーに関係するところは、インフラの構築であるとか、科学と社会の関係に関することですので、第4期基本計画では1章から5章までのいろいろなところに散らばる形で出ていっていることがわかります。
 続きまして、次のスライドでは、第7次フレームワークではScience in Society、SiSという課題がございまして、そこが毎年のように報告書を出します。2010年の報告書はついこの間ネット上で更新されまして、これはScience, economy and Society Highlightsですから、科学と経済と社会についての2010年のハイライトという形で出ています。そこでやるべき課題というのはこれだけあって、金融システムの危機とか雇用問題もやる。貧困と開発、市民の役割、EUの役割、ガバナンス、科学技術と倫理、市民参加、研究論文へのオープンアクセス、これは市民も読めるようにするということです。あと、女性研究者、科学教育です。かなり広範で、特に上のほうの金融システムに至っては、日本だと経済産業省がやることと、みんなが見てしまうようなことも入っていることがわかります。
 次に、Science, economy and Society Highlights2010です。報告書にはかならずサマリーがあるのですが、これが非常におもしろくて、この勢いをお伝えするために原文のまま引いてきています。人々のクリエイティビティーを持ってくるんだと。要するに、一般市民の草の根運動的な創造性と、彼らがそれを行動に起こすということをエンカレッジする。そのことによってソーシャルイノベーションを起こす。ソーシャルイノベーションを起こすことが、EUが立ち向かっているいろいろな課題に対して対応できるものになるんだという言い方ですね。
 第4期基本計画が課題対応型であることは、先ほどの御説明の中にもありましたけれども、それぞれ各ステークホルダーが云々という文章で埋められていますが、そうじゃなくて、EUの場合は、人々が持っているもともとの力を利用して、それをエンカレッジすることによって対応していくんだよということがかなり前のほうに書かれています。EUのファンドは、そういうソーシャルイノベーションに関するリサーチを後押しするためにつくられているんだと。これがエグゼクティブサマリーに相当するところに明言されているということになります。
 それではソーシャルイノベーションの担い手として一体どういうものを考えているのか。三つ例が挙がっていたんですが、例えば市民の草の根活動で、ポルトガル・リスボンの例と。市民による「落ちこぼれ」防止プロジェクトで、普通の学業だけではなくて、絵画とかオーケストラ組というのをつくって、それで市民の絵をかく人たちとか、音楽をする人たちがそれを後押しする。これは政府がてこ入れしてやったのではなくて、そこから自立的にできてきたものをEUがファンドすることによって大きくなっていっているものであるということです。今、3年間で1,000人規模のことです。
 2番目は非常にユニークですが、時間を銀行へ預ける。これはボランティアとしての時間配分に銀行が関与するということなんですが、ボランティアとして他人にかせる時間を銀行に預けて、自分の仕事に集中したいときはそれを買う。買うということは、要するに預けている他人の時間を、ボランティアを集めるということです。システィマティックなボランティアの収集の仕方である。これもある市民が考えたものだそうです。
 3番目は電気を使うこと、あるいはCO2削減に関する人々の態度変容に関することで、アムステルダムの中の小さな区画のまちごとに、CO2排出量がほかのまちとどんなふうに違うかというのを可視化する。それも上からやったわけじゃなくて、ある市民団体が始めたことにEUがファンドして、みんなが見られるようにする。そうすると、ほかのまちと比べてうちのまちはこうなんだということがわかるので、みんながCO2削減に努力するようになる。そういうもともと持っている人々の力を巻き込んでこそ、科学と社会の関係ができるんですよという言い方をしています。結構長いことEUのフレームワークプログラムを観察しておりましたが、ここまできたのだな、というふうにちょっと感慨深く思うぐらい画期的なことがいろいろ書かれていました。
 翻って、日本の市民参加について考えてみたいと思います。
 日本の市民参加はいろいろあります。公聴会、パブリックコメント、円卓会議、コンセンサス会議、国民投票。日本にも市民参加はありますよと行政官の方とお話をしますと、いろいろ答えが返ってきます。ただ、先ほどあったEUのダイナミックな市民参加と比べると、非常にスタティックな感じがいたします。特に日本に市民参加はほんとうに浸透しているかということを考えさせられざるを得ないような事態が、今回の地震の後にいろいろと観察されました。これはICRP、よくメディアに露出しましたのでご存じだと思いますが、国際放射線防護委員会のパブリケーション111番です。このドラフトは日本のある団体が暫定翻訳版をつくっていて、ウェブからダウンロードできるようになっています。ふだんは有料ですけれども、これは無料でダウンロードできます。
 1ミリシーベルト以下/年という根拠としてずっと使われていたものですが、これもやっぱりこのぐらいの厚さで、精読してみますと、1ミリシーベルトの根拠なんていうのは全く書いてなくて、事例がいっぱい積み重ねられていて、そこから1ミリということを言っているにすぎないんですが、それ以上にもっと驚きだったのは、ところどころに放射線防護において市民参加が重要であるということがたくさん書いてあることです。こんなにたくさん書いてあるのに何で皆、指摘しないのだろうと思ってしまった。
 具体的には3.2項34というところで、当局が主要な利害関係の代表者をこれらの計画(放射線防護計画)の作成に関与させるようにすべきであると勧告している。それから、汚染地域の過去の経験によれば、地域の専門家や住民を防護方策に関与させることが復興プログラムの持続可能性にとって重要であることが実証されている。
 ノルウェーにおいて、対策の適用とモニタリングに際して現地の人々への権限付与と影響を受けた人々の直接関与が重視されたことが大事であった。次にイギリスですけれども、羊を制限区域の外へ移動させたいと望む農民は放射性セシウムのレベルを判定するために自身の家畜を調べることができ、そのため、生体モニタリング技術が用いられた。
 載っている事例はみんなそこに住んでいる農民であるとか、羊を飼育している人たちであるとか、ノルウェーの放牧民であるとか、あと一般市民であるとか、そういう人たちが自分でみずから測定し、モニタリングし、そのことによってみんなで管理しようとしていた活動が、チェルノブイリの事故の後の欧州全体を管理する上でいかに重要だったかということが書かれているんです。こんなにたくさん書いてあるのに、なぜみんなICRPの報告書を読んだ後、ここに気がつかないんだろうと。日本でももちろんみずから測定する人々ができてきてはいますけれども、それを十分に利用できる形にはまだできていないのではないかと考えることができます。
 次のスライドはEUのフレームワークプログラムと比較しての、日本の特徴です。日本では各セクターの境界が堅固であるということ、それから専門家対市民というものの枠の境界がまだ非常に強固で、官対民というのも強固で、どうしてもトップダウン型、あるいは市民はそれを待っているという形のものが強いかもしれない。実際に日本にもアクティビティーがあるにもかかわらず、それをきちんと活用できるような形ではできていないかもしれません。下にあるのは各アクターが混然となったSocial-innovationをenhanceする、これはEUのフレームワークプログラムに見られることです。
 ここでサイシップ、政策のための科学との違いというスライドを入れるつもりだったんですけれども、皆様ご存じのように、政策のための科学というのが動いております。これと第4期基本計画は何が違うのかというのを考えていました。まず政策のための科学においては、科学者集団というのはあくまでも操作の対象である。つまり、インプットとしてお金、研究予算が入っていて、アウトプットとして論文であるとか、特許であるとか、パフォーマンスの向上であるという図式が必ずあります。仕方ないですよね。どういう形の政策をとれば、操作対象である科学者集団がどう動くかという形で政策を評価するわけですから、そういう操作主義的な観念が入ってしまうのは仕方がないかもしれない。
 もちろんそういうことも大事でしょうけれども、第4期基本計画は、決して科学者集団というのは操作対象であってほしくないし、科学者集団が主体としてどういうレスポンシブルな行動ができるのかということを問わないとならない。そして、そもそもサイエンス・フォー・ポリシーつまり政策のための科学と、ポリシー・フォー・パブリックつまり公共のための政策というのは違う概念ですから、第4期基本計画とサイシップとは少し区別をして考えたほうがよろしいかもしれないと思われます。
 最後ですが、「大震災」と第4期基本計画の話をしたいと思います。
 今回の3.11は、実は民主主義国家として未曾有のレベルの大規模事故です。要するに、放射性物質を外にばらまいた量でありますとか、そういうものを比較すると、決してスリーマイル島とは比較にならないレベルであるということはさんざん報道されてまいりました。比較されるのはチェルノブイリですけれども、チェルノブイリは社会主義国家で起きた原子力事故なんです。ですので、世界の人たちはどう見ているかというと、これは民主主義国家で起きたチェルノブイリと並ぶぐらいのひどい事故であるという見方をしています。
 どういうふうに見られているかというと、情報流通はほんとうにオープンだったんだろうか、今後の日本における対策は民主主義国家として胸を張れるような誇れるものなんだろうか、ほかの民主主義国家の模範となれるものなんだろうか、その辺まで彼らは見ております。世界は、日本が民主主義体制国家としてどうやって今回の震災とか事故を収束させるかということを注意深く観察しています。また、上からのねじ込みでやるんだろうかとか、社会からの草の根の議論をきちんと吸い取るような回路をつくったんだろうか、小手先の安全論議ではなくて、そういう回路をつくられているのだろうかということを海外の人たちは注意深く観察しています。
 その証拠の一つですが、これはついこの間、米国クリーブランドで米国科学史学会と米国技術史学会と国際科学技術社会論学会のジョイントプレナリーというのがございまして、「災害をどう扱うか~福島からの展望を、科学技術史と科学技術社会論から検討する」というテーマで議論しました。ここではニュークリアフィア、つまり核の恐怖という本を書いた物理学者でありますとか、フランスにおける原子力発電所運営の分析をした技術史家であるガブリエル・ヘクトとか、核の廃棄物についてずっと本を書き続けているヒューガー・スターソンという人類学者が、みんなこぞって福島の話をしたんです。その中で、ヒューガー・スターソンがこの画像を出した。
 そこで、彼はどう言ったかというと、日本政府はディスオーガナイズドのノレッジを出し続けたという言い方をしました。そうしたら、800人が聴衆がいたんですけれども、そこから失笑が漏れるわけです。私はこのセッションの司会とコメンテーターをやっていたんですが、こんな失笑が漏れる場で私は日本人として司会をしていなくてはならないのは非常に恥ずかしいことだと思いました。日本人から見ても、菅さんと枝野さんたちが発表する報道を見るたびに、うん、これはディスオーガナイズだという感覚はありました。でも、外国人から見てもそれはそうである。ディスオーガナイズドのノレッジを出し続けて、それに黙って従う日本人というのは非常に不気味だとか言われるわけです。それで、不気味だから、ほんとうにこれって民主主義国家なんですかとかいう言い方も出てきました。
 でも同時に、今、ネット社会ですから、彼らはいろいろと公表されている日本末のものもちゃんと読んでいるわけです。市民の自測団、放射線を自分たちで測定するというのができていることは評価できると言って、自測団の映像もちゃんと見せてくれました。郡山の小学校で父兄たちが自分たちで校庭の土をひっくり返した。それに影響を受けて、文科省の大臣が子供に対するシーベルトのレベルを下げた。そういうこともちゃんと知っていて、やっぱり民主主義国家はそうでなくてはいけないという言い方をしました。つまり、民衆の力を信じてそれをエンハンスする。そして、ソーシャルイノベーションを起こすというところまでEUのフレームワークは進んでいますので、そういう視点から今回の事故のことを振り返ると、非常に恥ずかしいことがあるかもしれない。
 それから、どういう発信の仕方をすれば、ディスオーガナイズドでなくなるのかということも考えないといけないと思います。つまり、オーガナイズドなノレッジを発信するということは、ユニークボイスであるということとはまた別です。日本学術会議の会長が大震災の直後にThe only solution is unique voiceと言ったことは、つまり専門家が一団となってユニークボイスをつくらなくてはならないという発信の仕方をしたことは外国人も知っていました。しかし、ユニークボイスとオーガナイズド・ノレッジとは異なります。
 つまり、原子核物理学者と原子力工学者と放射線医学者の声が違って当然ですよね。それぞれの学問分野の持っている妥当性境界が違うので、ユニークボイスなんかつくれるはずがない。原子力工学の中で意見が違って当然なんだけれども、それをオーガナイズドな形に組織化することはできるはずだと。ユニークである必要なんか全然ないんだ。こういうことは実は日本人の持っている科学観、科学というのはいつでも厳密な一つに定まる答えを持っているはずだ、というような非常に堅固な科学観に基づいているのかもしれません。そうではなくて、答えは違って当然。でも、オーガナイズドすることはできる、という形に、行政にかかわる人も、そしてそれを受け取る市民も、メディアも変わっていかなくてはならない。そうしないと、世界に誇れる民主主義国家日本にならないのではないかなと考えることができます。
 ちょっと長くなりましたけれども、以上です。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 それでは、今の御説明について、佐々木委員、どうぞ。

【佐々木委員】 
 早く失礼しますので、一言お話を伺いたいです。
 今度の福島の事態についてのいろいろな御指摘は、一々ごもっともなところがあったと思いますけれども、今、最後のほうにも出ましたけれども、科学観だとか、科学というものについての受けとめ方の問題は、かなり一般的にいろいろな検討すべき課題がありそうな気がします。もう一つは、ディスオーガナイズドになるのはシステムの問題も幾らかある。
 つまり、先ほど、特に藤垣さんが言われたように、何対何という形でまとまっていそうな感じだけれども、これがさっぱりまとまってないという話も同時にあって、いろいろな課題があちこちに散らばっているような感じがするものですから、その意味で、こう言っちゃうと身もふたもないですけれども、日本社会というか、日本政府というのか、あるいは日本国民のユニークさというのか、ユニークと言うとちょっと語弊があるかもしれません。何か目立つ点、特徴というものをあわせて、これらの問題に対する対応ということでお話しいただければ大変ありがたいです。

【藤垣教授】 
 今、システムの問題と科学観の問題が出ましたので、ちょっと分けて考えてみたいと思います。システムの問題は科学技術政策とは離れた形でのシステムの問題として議論することも十分できると思うんです。例えば緊急事態(エマージェンシーシチュエーション)になったときに、政府はどういう形で情報を収集して、それをどういう人たちがオーガナイズドな情報にして、それをどこまでオープンにするかということですね。そういうことに日本の社会はあまり経験してきていませんので、経験知が足りないというのはもちろんあると思います。それについて今後どうすればいいのか、システムとしてどう構築するのかというのが一方の問題としてあります。
 もう一つの問題は科学観の問題で、例えば多くの場合に日本政府がどういうことを言ったかというと、「直ちに問題はない」という言い方をしたんです。直ちに問題がないという言い方をなぜしたかというと、パニックを避けるためという理由でした。ただ、無用なパニックを起こすほど日本人の科学リテラシーは低いかというと、そんなことはなくて、みんな一生懸命ネットで情報を収集して、もちろん玉石混交ではありましたけれども、相当な情報量のものを国民レベルで交わしていたことは、ネットを観察していると非常によくわかります。逆に政府は市民の科学リテラシーをあまり信用してないからこそ、無用なパニックを恐れたのではないか。日本の市民の知性は無用なパニックを引き起こすほど低くはない。逆説的に、自分たちの科学リテラシーを信用してくれないような政府を市民は逆に信用しなくなるわけです。
 ですから、不信頼のループがそこで回ってしまったと考えられます。市民の科学リテラシーをどこまで仮定して、ああいう緊急事態(エマージェンシーシチュエーション)の情報管理をするかというのは、通常時の科学コミュニケーションにおいて、どこまで市民の科学リテラシーを信用しているかということによるわけです。ですから、緊急時の話ではあるのだけれども、実は通常の科学コミュニケーションにおいてどのくらい科学的知見を人々は持っていて、どのくらい答えが一意に定まるかということを信用しているか、あるいは答えが一意に定まらないのが普通で、科学的な知見というのは分野によって違っているのが当然で、しかも時間がたてば書き換えられて当然だという科学観を日常時から人々が持っているかどうか、によって変わってくると思うんです。
 イギリスの科学教育の教科書を見てみますと、文科系の学生でさえ、科学者の答えは一つに定まるわけではないとか、あるときに正しいと思われていたことが何年かたって新しい知見によって塗りかえられることがあるということが書いてあるわけです。それは科学的探究の本質から考えれば当然であるにもかかわらず、これは入試の影響もあると思いますけれども、日本ではどうしても自然科学というのは、答えが一つに定まってこそ科学だという固い科学観が流通してしまっています。まとめますと、通常の科学教育であるとか通常の科学コミュニケーションが、結局は緊急時のこういったことに影響してしまうんだろうなというのが二つ目の点です。

【佐々木委員】 
 ありがとうございました。先生が言われた、まさにふだんというのか、あるいはエマージェンシーでないレベルでのいろいろなコミュニケーションのエクスパタイズの問題が極めて重要であるというのは、私も全く認識を共有しております。どうもありがとうございました。

【野依主査】 
 ほかにございますか。
 では、黒田委員。

【黒田委員】 
 おふたりの先生から非常に興味深いお話を伺って、大枠としては私も大賛成な点が多いのですが、理解の仕方を少しコンファームさせていただきたいと思います。まず中島先生のおっしゃる最近の多元的なモデルへの展開ですけれども、科学技術の進歩そのものが社会の構造を変える、もしくは変えることを強いるような状態になってきて、結果的に大きな社会の問題を招来させているという循環が、最近の科学の中では起こっているんじゃないかという気がしてならないんですが、そういう意味も含めて多元的とおっしゃるのだと思いますけれども、そうなったときに科学者はそのとき何をどうすべきかと。社会の課題、問題解決に対してどういうことを、ある意味で別の言い方をすると、現代における社会のいろいろな課題というのは、科学そのものが進歩したことによって内生的に問題を創出しているということがあって、そのことに対して科学者はどう対処すべきかというお考えを伺いたいと思います。
 それから、藤垣先生のお話の中でサイシップの話をされましたけれども、今、サイシップのプログラムを日本でも動かしつつあるのですけれども、先生がおっしゃった意味でのサイシップよりは若干広くて、むしろ先生のおっしゃったサイシップをいかにやるかということを考えているのが日本のやり方だと思っているんですが、そのためには科学者自身が社会が持っている課題は何であるかをある意味で謙虚に把握することがなければ、社会の課題の解決にはならない。科学者自身が社会の課題を解決しない限りは、科学者の研究のニュートラリティーというものがなかなか保てないのではないかと思っていまして、その循環をうまく構造化していくことがサイシップを持続的に、科学の進歩と社会の持続的な成長を結びつける役割になるのかなと考えています。
 もう一つ、1点だけ。ユニークボイスというのは先生のおっしゃるとおりだと僕も思いますけれども、学術会議の言ったユニークボイスの中には、いわばいろいろな考え方があることも含めてきちっとオーダー、秩序を持って科学者は発表をしなきゃいけないということを言っているのだろうと思いますので、何か統一的な意見が一つあればいいということではないと私は理解していますが、その点についてもお考えを伺いたいと思います。
 以上です。

【中島教授】 
 どうもありがとうございました。科学者は何をすべきかという点についてですけれども、これは単純ではなくて、科学の中には理学的なもの、工学的なものが大きく分けてあると思います。理学者のなすべきこと、特に素粒子物理学者などがなすべきことと、エンジニアリングで極めて現場に近いものをやっている方、あるいは医師のように患者の生命に対して責任を持っている広い意味での科学者のなすべきことは、おのずと違ってくると思います。
 私どもの同僚であり、先輩である小林傳司は、現在起きている問題をトランスサイエンス的状況というふうに書いておりますけれども、トランスサイエンス的、つまり科学者だけでは決まらない問題でも、科学者が責任をとるべきものはある。つまり、理論に対する誠実さであるとかです。特に素粒子論などは何か一般の声を聞けばよいというものではありません。学説の中核になるようなところは、科学者がもちろん責任を持たねばならない。
 それから、一般との関係が出てくるところも二つ程度に分類できるかと思います。これは藤垣副会長と私とでは意見が多分違うんだと思いますが、我々の分野でもパブリックパーティシペーションを非常に高く評価するという伝統がありまして、ヨーロッパのフレームワークプランもブライアン・ウィンなどのパブリックパーティシペーションを高く評価する流れだと思います。ただ、私はこれには多少疑問を持っております。
 パブリックパーティシペーション、つまり市民が参加すればよくなるという部面は確かにあると思います。例えばミシェル・カロンという人の研究ですと、エイズ薬の治療などにおいては、患者の協力があって、医師が初めて有効な治療法を開発することができた。これとは多少違って、一般の人の声に耳を傾けることで、専門家がちょっと立場を変えてよいことができる場合もある。つまり、専門家としての責任を一般の声を聞くことによって、もう一度自覚し直すということもあるわけです。東工大で科学技術と社会についての授業をしまして、私は非常に印象的だったことがあります。学生たちにこういうことが大事だよねと言ったら、「先生、もうわかっています。しかし、私たちの先生をどうにかしてください」。つまり、現在の先生方は一般の声を聞かない。わずか10年ほどの教育でも若者は柔軟であり、現実の問題を見て変わっているんだと思います。
 以上です。ありがとうございました。

【藤垣教授】 
 サイシップがソーシャルイノベーションに非常に近いやり方で動きつつあるというのは非常にありがたいと思っております。科学者自身が社会の持っている課題を理解する必要があるとおっしゃいましたけれども、それはまさに今、中島会長が言った、年齢が上のほうの人が理解してくれないというか、要するにこれまでの研究評価というのは、その分野におけるエクセレントな論文数で評価されていたわけです。自分の分野できちんとした論文さえ書いていれば評価される、というところで何十年も生きていれば、社会の持っている課題を理解する必要なんかないと思って当然だと思うんです。ですから、今おっしゃったようなことは、研究評価ともリンクして考えていかなきゃいけないことだと思います。
 社会における課題解決がそのまま論文生産になる分野ももちろんございます。工学部のいろいろな先生たちがやっていることであるとか、山中先生のiPS細胞は、それを開発したこと自体が論文にもなって、社会の課題にもつながりますよね。ところが、物理学のある分野とか宇宙論とかは、論文を書くことと社会の問題解決は全く離れています。ですから、分野によってかなり違うので、今までどういう研究評価をされてきたかということと分野による違いを考えながらやらなければならないと思います。
 3番目の御質問ですが、多分、学術会議会長もユニークボイスという言葉の中にいろいろな考え方があることを含み込まれたことは確かではあるんですが、ただ、ユニークボイスという言葉で翻訳されているために、誤解を招きやすい表現だったということは言えると思います。つまり、専門家は一枚岩で1個の答えを出さなければならないという聞き取り方をされてしまう表現だったということですよね。そうではなくて、意見が違って当然。こっちの端もあって、こっちの端があって当然だけれども、政府としてはこの見解をとりますとか、あるいは政府の発表の仕方も最悪のシナリオはここで、そうではないシナリオはここというふうに幅を広げた発表の仕方もあったかもしれない。それを下手に1個にしようとしたところに問題があるのかもしれません。

【黒田委員】 
 政府がどういう立場をとるかということと、科学者がどういう立場をとるかということとはおそらく違うので、科学者が一つの意見にまとまるということは本来あり得ないかもしれない。そこは多様なものがあるけれども、その発表する仕方がディスオーダーでは困るというのがメッセージだと思うんです。

【藤垣教授】 
 科学者は意見が違って当然というのは、科学の現場にいる人にとっては当然なんですけれども、問題は日本の理科教育の影響によって、一般の市民が科学というのはいつでも厳密な答えを一つだけ出してくれて、科学者に聞きさえすれば、1個の正しい答えが出るんだと信じているところだと思います。
 そうではなくて、科学の現場を見れば、人によって意見が違ったりするのは当然だし、今まさに新しい知見がつくられているときは、何とか説、何とか説、何とか説、何とか説というのがたくさんあって当然だし、それが10年後、20年後に書きかわるのは当然である。にもかかわらず、なぜか厳密な科学観というのが通ってしまっている。それは入試の影響もあるのかもしれませんけれども、それはちょっと考えていかなくてはいけないなと思っております。

【野依主査】 
 では、野間口主査代理。

【野間口主査代理】 
 お2人の先生、大変考えさせられるというか、有意義なお話をありがとうございました。
 私は、科学観というのは、日本がそれほど特別な形になっているのではないのではないかなと思います。先生方の主張を明確にするために、その様に決めておられる面もあるのではないかという気がします。
 それと、最後のページで示された緊急時の対応への問題というのは、藤垣先生がおっしゃったような考えを日本国民はほとんど持っているのではないかと思います。それを国民がうのみにすることはないと思っております。さはさりながら大変有意義なお話をありがとうございました。
 一つだけ確認したいというか、お聞きしたいのですが、レスポンシブルイノベーションというお話を、私もなるほどと思いながら聞かさせてもらいましたが、どうもまずイノベーションありきで、それをどう社会が評価するか、市民が評価するかというのに対して責任を持つとか、説明をするとかいう形、いわゆるフィードバックシンキングですね。フィードバック制御みたいな発想でとらえるのは、この科学技術の進歩が速い時代、もう遅いのではないでしょうか。もっとフォワードルッキングな見方もこのレスポンシブルイノベーションの中に入れなければ、例えば環境問題や医療の倫理の問題とか、大変なところに行ってしまってからレスポンシブルしては遅いのではないかという時代だと思います。科学技術は我々の人類社会においてそこまで来ているのではないかと思います。そういったものを一瞬早く気がつくようなレスポンシブルイノベーションの構築でなければならないのかなと思うのですが、その辺のところはどうお考えですか。まず、中島先生から。

【中島教授】 
 最初の、日本が特別かという点は、私も特別ではないと思います。例えば、ドイツのウルリッヒ・ベックは、専門家によるパターナリズムのことを書いております。イギリスでは、BSEなどの問題があって初めて変化をしたんだと思います。それから、イギリスはしょせんエリート社会ですので、ちょっと構造が違うかなと思う部分もあります。
 それから今、先生がおっしゃられた、何か起こってから待っているのではもう遅い。では、どういう仕組みを作れば、待たないようにできるのかというのはほんとうに頭が痛いところでありまして、今の暫定的な答えは非常に月並みではあるんですけれども、専門家が責任を持ったイノベーションとは何かという自覚を持つこと。私が今、少なくとも当面やろうとしていることは、将来のエンジニアに対して自分の社会的責任を自覚させることが一つです。
 それから、レスポンシブルイノベーションの事例について教育する。これをやられている先生方はいらっしゃいます。昨日も私どもの授業でお話ししていただいたんですけれども、東北大学の石田秀輝さんという方のイノベーションの事例については、学生が非常に印象を持っていました。環境によくて、しかもエネルギーをつくる仕組みとか、部屋の温度を安定させるセラミックスであるとか、いろいろなものを考えられておられますが、そういう事例を集めて知見を深めていくこと、おこがましいようですが、それが我々科学技術社会論の分野の人間の責任の一つになりつつあるかなと感じます。これにはもちろん、専門の自然科学、工学の方との協力が不可欠です。

【野依主査】 
 やはり段階的に進めるのではなくて、社会総がかりのイノベーション・エコシステムを最初からつくっていくことが大変大事だと思います。
 柘植委員、どうぞ。

【柘植委員】 
 自問していて、まだ自分でも答えがないままの質問になってしまいますが、もし中島先生からコメントをいただけたらと思う。
 すなわち、社会と科学技術イノベーションの関係という面について、この科学技術・学術審議会はほかの部会に任さずに、基本計画推進委員会で取り上げるという位置付けと今後の検討の視点ですけれども、日本学術会議のほうでは必ずしも全員のコンセンサスではないんですけれども、科学の中に科学と技術が実は入っている科学という定義の中で、認識科学と設計科学という二つの科学のとらまえ方をしていました。ご存じのとおり、認識科学というのはまさに「あるものを探求する科学」というものと、それから設計科学というのは「あるべきものを探求する科学」ということまで引用していました。
 今まではこの二つの軸で、それぞれの科学者なり技術者なりがきちっと社会的な責任を果たすことでやってきたんですが、今回のこの命題に私自身も課題を与えていまして、すなわち設計科学というとらまえ方の中で、科学者・技術者はずっとやっていけば、社会と科学技術イノベーションというものはそういう道を歩んでいけば、社会的責任を果たせるのか。あるいは、この資料の10ページにあるように、社会にあるべき技術を選択するのはだれかという視点に立つと、設計科学というとらまえ方の深掘りでは違う方向があるんだと。こういうことを私は自分にも課題設定をしておりまして、この点、何かもしコメントがあったら、今後の我々の検討の方向に参考になると思います。特に10ページのところが、今までの学術会議で考えている設計科学というとらまえ方では、永遠に社会的使命を果たせないと考えるべきかの問いがあります。

【中島教授】 
 大変難しい。うまく答えられない。私自身がこういうことを考えるようになった大きな背景は、20代に東大の吉川弘之先生の研究室に出入りをしていたことがあります。吉川先生が言われたのは、「中島君、歴史というのは人類が設計するものだろう。だから、科学史というのは科学の未来を設計するんだ。そういう設計のアイデアを出したら、君は理学系からは博士号をもらえないかもしれないけれども、応用科学史で工学博士を上げよう」。28歳ぐらいのときにそう言われたんですが、どうしても頭から離れない。どうも私の人生はかなり吉川先生によって設計されている部分がある。その回答を出すことが難しい。申しわけありません、うまい答えがありません。吉川先生が私の人生全体に出した宿題だと思いまして、当面の宿題としては科学技術社会論という、その問題に取り組むための仕組みをつくりました、先生、単位はいただけますかというところで、学位はいただけないんじゃないか。申しわけありません。うまく答えられません。

【柘植委員】 
 ありがとうございます。

【野依主査】 
 ほかにございますか。
 では、井上委員、どうぞ。

【井上委員】 
 先ほどからのお話を、十分咀嚼できていないのですけれども、科学者の責任というところで、今まさに中島先生がおっしゃっていたように、我々研究者というのは結局、自分の研究の成果で評価をされます。だから、どういう論文を書くとか何とかということが第一になって、社会のことを考えることは大事だとは思いますけれども、そちらに向かってのインセンティブというのは2番目になるようなところがどうしてもあって、そこに頼っていると、限界があるのではないかという気が非常に強くします。つまりそこに評価軸がない。今おっしゃったような科学と社会をつなぐところが自分の仕事だと思えるような人材とシステムがつくられる必要があるのじゃないかということを強く感じるのですけれども、その辺いかがでしょうか。

【藤垣教授】 
 そのシステムをつくることは大事だと思うんですけれども、そのときに研究論文だけを生産する研究者と社会の課題をやる研究者に特化して、両方別々に教育するのがいいのか。それとも、最先端の研究をやりながら、みずからの社会的責任として社会の課題にも立ち向かう時間をつくることを促進するような政策をつくるべきなのかというのは、また議論の余地があると思います。
 現在、私どもの大学は特化はまだしていませんし、東京大学の教員というのはこういう場に呼ばれて何かしゃべるというのが社会的責務でありますし、国際会議なんかに行きますと、科学の社会科学を研究している研究者はEUの第12総局に行ってレポートを書くとか、ユネスコの会議に行って、ワールドソーシャルサイエンスレポートをちゃんと書くということが社会的責務だと思っている。つまり、自分の分野の最先端の研究をしながら、社会的仕事もやるというタイプの人が多いです。どちら設計したほうがいいのかというのは、まだ結論は出ていませんし、きちんと議論をしなくてはいけないのであろうと思います。

【野依主査】 
 私はその問題は職業科学者あるいは、職業研究者としての責任と国民としての責任の二つあると思います。私は一番大事なことは幼小教育、家庭教育であり、初等中等教育であろうと考えています。十分な教育を行っておけば、職業科学者になったとしても、しかるべき判断ができていくのではないかと思っています。その前段階のところが、日本の今の状態では少し欠如しているのではないかと思っています。
 それでは、有川委員、どうぞ。

【有川委員】 
 非常にいいお話を聞かせていただきまして、ありがとうございます。
 今回の福島の反省からいろいろなことが考えられるのですが、もう一つ、これは社会と科学、あるいは科学者と市民といった面で多くのことが語られたと思います。そこの間に、我々の言葉でいいますと、サイエンスコミュニケーションということかもしれませんが、それぞれの科学者・技術者は、しっかり聞けばそれなりにきちんとしたことを言っているのだけれども、メディアのとらえ方が断片的であって、結果としてばらばらなことを言っているような感じになる。そういったことで混乱して、それで学術会議のユニークボイスなどということも出てきたと思われますが、そこでもう一つのプレイヤーがいるのです。そこに関して何らかのことを言っておかないと、社会との間にきちんとしたコミュニケーションがとれないという面があるのではないかと思います。その辺について何かお考えがございましたら、お聞かせいただけませんでしょうか。

【中島教授】 
 今のポイントは極めて大事だと思います。全ての科学者が、社会的な責任を負うのは土台無理な話です。同級生のことを考えると、あいつは無理だろうとか思う場合もあります。専門で非常にすぐれているけれども、社会リテラシーがない。彼に(あるいは彼女)に、社会リテラシーについては僕が翻訳してやるよという人間がいることも大事ではないか。媒介者をどうするかということです。今、JSTのRISTEX(社会技術研究開発センター)で、サイエンスメディアセンターというものの実験をしています。メディアとして情報を整理して、責任を持って発信する機構という実験をしている。これが理想化できる取組だという結論が出るかどうかわかりませんけれども、そういう実験を重ねていくことが大事なのではないかと思っています。
 それから、私どもの分野についてちょっと。我田引水ですけれども、我々は情報の媒介者としての役割をしなければいけないのかなと思っております。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
きょうは中島教授と藤垣教授から歴史的な経緯の分析、あるいは海外の動向等の御知見に基づき、また我が国の特徴を踏まえて、社会と科学技術イノベーションに関係する貴重な御示唆をいただいたものと思っております。ありがとうございました。
 今後、本委員会におきましては、「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」について検討を進めていくことになりますが、その進め方の案について、事務局から説明してもらいます。

【阿蘇計画官】 
 それでは、お手元の資料4をごらんください。「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」に係る検討の進め方について(案)というものでございます。繰り返しになりますけれども、第1回の基本計画推進委員会におきまして、この「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」に係る内容につきましては、この基本計画推進委員会で審議することとしました。この基本計画推進委員会では、各分科会等が第4期基本計画を推進する際の参考となる「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」に係る基本的な考え方について、検討を行うこととしたいと思います。
 今後の具体的な議論の進め方ですけれども、こちらの資料の2.に書いてございます。大きく三つございます。
 まず、1点目ですけれども、基本計画推進委員会におきまして、「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」にかかわる有識者の先生、本日、中島先生、藤垣先生にお越しいただきましたけれども、今後もこのような形で有識者の先生を招へいし、現状報告、提言等を聴取していきたいと思っております。
 二つ目でございますけれども、この基本計画推進委員会は、事務局に対しまして、本分野に造詣の深い研究者等の知見を最大限活用し、概念整理、現状分析、課題の抽出を行い、その結果を報告することを求めてはどうかと考えてございます。
 それらを踏まえまして、基本計画推進委員会は、各分科会等が第4期基本計画を推進する際に「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」の観点から配慮すべき点等を整理し、「基本的考え方」として取りまとめ、各分科会等に提示してはどうかと考えてございます。
 2ページ目でございます。今後の予定、進め方でございますけれども、この後、御報告いたしますけれども、第3回、次回は1月24日を予定してございます。また、この基本計画推進委員会はおおむね2か月に1回程度開催予定でございますので、今後、そこに書いてございます国民のリテラシー向上等について、各テーマごとに有識者の先生をお呼びして、お話を伺いたいと思っております。2か月に1回程度ですので、おおむね平成24年11月ごろ取りまとめを行うというスケジュールではどうかと考えてございますが、よろしくお願いいたします。

【野依主査】 
 ありがとうございました。いかがでございますか。よろしいでしょうか。
 それでは、事務局の案のとおり、1年ぐらいかけて議論を行い、「基本的考え方」を取りまとめ、各分科会にお示しするということにいたしたいと思います。事務局には、委員会における検討の参考とするために、「社会と科学技術イノベーションとの関係」に関する概念の整理、現状分析を行って、結果を報告していただきたいと思います。よろしくお願いします。本日おいでいただきました中島教授、藤垣教授、ぜひ有識者の立場から、事務局の検討を御支援賜りたいと思います。よろしくお願いいたします。
 続きまして、議題3「最近の科学技術政策の動向について」です。
 事務局から資料を説明してください。

【阿蘇計画官】 
 資料5-1から資料5-4でございますけれども、平成24年度の科学技術関係予算の概算要求を資料5-1に、また、総合科学技術会議のほうではアクションプランと重要施策パッケージの二つの取組によって科学技術予算の重点化を推進しているところでございますが、そういった予算の流れを資料5-2に、それから資料5-3につきまして、アクションプランの対象施策についてということで、内容のポイントの資料を配付させていただいております。
 さらに、資料5-4ですけれども、1枚紙がございます。10月28日に科学技術イノベーション政策推進のための有識者研究会の開催が決定されまして、現在、科学技術とイノベーションを一体的に推進する体制の在り方、政府部内における科学的助言体制の在り方についての検討が進められているところでございます。
 資料5-1から5-4までの説明は以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 それでは、続いて議題4「その他」となりますが、今後の委員会の日程等について事務局から説明してください。

【藤原計画官補佐】 
 先生方、本日はありがとうございました。
 次回、第3回の推進委員会でございますけれども、先生方の御都合を伺いました結果、1月24日午前10時を予定してございます。会場等につきましては、後日また御案内をさせていただきます。また、本日の議事録につきましては、後ほど事務局より先生方にメールでお送りさせていただきます。皆様の御確認を経ました上で、ホームページに掲載をさせていただきたいと思ってございます。
 なお、本日の資料でございますけれども、お帰りの際、机上に残していただけましたら、郵送させていただきますので、よろしくお願いいたします。

【野依主査】 
 ありがとうございました。

【井上委員】 
 一つよろしいでしょうか。

【野依主査】 
 はい、どうぞ。

【井上委員】 
 今、最近の科学技術政策の動向についてという報告が行われたわけですけれども、私が関係している宇宙開発について国としての体制見直しが行われつつあります。科学技術とか学術とかに大いに関係ある部分があるので、「動向について」というところで、その辺もここに報告をしていただくほうがよろしいのではないかと思いますので、お考えいただければと思います。

【野依主査】 
 よろしくお願いします。
 それでは、これで科学技術・学術審議会第2回基本計画推進委員会を終了いたします。中島教授、藤垣教授、きょうは大変お忙しいところおいでいただきありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。
 ありがとうございました。

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

電話番号:03-6734-3983(直通)

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