【資料2-2】川合委員発表資料

平成24年5月11日
理化学研究所 川合眞紀

開発全体について

 2系統の開発が必要である。一つは、先鋭最先端機器開発で、J-PARCの中性子などの観測機器やSPring-8およびSACLAがこれに相当する。理研のRIBFもこの分類である。この対局にあるのが、種々の環境下での測定が可能な機器で、小型かつ簡便な操作が可能で、生産現場でのその場観測や一定環境下での加速試験と相関する観察を主たる目的とする装置である。こちらは汎用機ばかりではなく、場合によってはかなり限定された使途に供すこともあり得る。社会貢献への期待を考えると、後者の開発も同時に進めるべきであろう。

 後者の例としては、小型中性子線およびX線源およびそれらのイメージングシステムなどの需要がある。特に中性子線源については、太陽電池、燃料電池などエネルギー関連デバイスやシステムの加速試験の中での利用が計画されるなど、利用環境下での分析への利用が期待されている。

大型施設を用いる研究についての意見

次世代への投資について

 我が国には世界に類を見ない高性能で先端的な加速器施設が数多く存在する。日本は世界最高性能の量子ビーム施設を有しており、高いポテンシャルを持っているにも関わらず、運営・維持のための予算が年々削減の方向にあるために当初の施設整備計画の実施に遅れが生じているケースもある。また、検出器の開発が弱く、ソフトをかける人材も乏しい。これらの加速器で、魅力ある研究プログラムを展開し、国内外からの優秀な人材に対する求心力を高めることが必要と考える。その上で、ユーザーと施設が緊密に連携し、長期的な要素技術開発も含めて開発を推進する体制を作ることが必要である。

 また、今後は複数の大型施設を一国で整備・運営していくことは予算的に厳しくなることも予想される。わが国の将来を踏まえ、なんとしても一国で整備しなければならない大型施設を精査し、各国と協力できる大型施設については、とくにアジア地域での連携を深め、国際共同プロジェクトで進めていく可能性も検討すべきである。

人材育成・利用促進について

 次世代の加速器を開発する研究者は、素粒子・原子核の物理学の研究者であることが多く、今後もそれは変わらないと思われる。上述したように、魅力ある研究プログラムを展開して優秀な若手を引き込むことが、将来の先端的な加速器開発を担う人材を確保することに直結する。人材の供給源は大学であるが、財政難などの影響で大学の保有する加速器の維持が難しくなってきている。大学と大型施設が、双方の顔が見えるような形で連携して先端的な研究開発を推進すれば、優秀な大学院生を引きつけることができると考える。

 量子ビーム施設で利用者支援を行う人員の多くは、自らも実験を行う研究者であり、施設設置者の研究者が実験で学術的に高いレベルの成果を挙げることで、量子ビーム施設の活力を高めていく必要がある。一方、施設の規模に対してスタッフが少ない施設が多く、こういった施設ではユーザーの実験が進行中は24時間体制でローテーションしながら徹夜勤務で利用支援業務をカバーしている。これらの人員は、ユーザーの実験が進行中、装置・検出器などの監視や微調整業務、トラブル時の即応や連絡業務といった細かい業務まで担当しており、これらの業務を行う人材をより重点的に確保する必要がある。現状が続けば、次世代の人材育成ならびに蓄積してきた技術の継承にも支障が出ることが危惧される。

 ビーム利用を促進するためには、きめ細かい利用支援が不可欠である。そのための人材は利用者コミュニティから育成するのが最適であろうと考える。このため、利用者との連携を密にして人材の発掘と積極的な登用を行うべきと考える。

 ビーム技術の進歩に伴い、測定対象に対し複数の量子ビームによる手法が適用可能となってきているが、利用者の立場に立ってどの手法が最も適切かを判断してくれる人材・組織が存在しない状況にある。産業応用などのためには、こういった手法の目利きを育て、ワンストップサービスで対応できる体制づくりが必要ではないか。こういった連携利用や産業利用においては、小型の同種施設を活用することが効率的な場合もあると考えられる。よって、どういった場合にどの規模の施設を使用すべきか、すみ分けを整理することが、結果として大型施設の有効利用につながると考えられる。

施設の有効利用について

 大型施設は、多額の国家予算を投資して建設された貴重な資源である。施設の主体性を確保した上で国際的な利用を推進し、成果を発信しつづけることが必要である。

 電力不足が予想される状況下で、最大限の工夫を行なって、いかにユーザータイムを確保するか、とともに、いかに効率的にユーザータイムを運用するかを最優先とすべき。節電の観点に加え、運転時間が限られることからも、大型施設を有効に利用するためには、本当にそれを必要とするテーマを優先(選別)すべきである。一方、先端的なビームの新たな産業応用を見いだすことにも力を注ぐべきである。トライアルユース制度の拡充と積極的な利用が望まれる。また、異なる加速器施設間の交流や共同研究を促進する枠組みを継続強化して、新しい方向性を打ち出す必要がある。

以上

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研究振興局基盤研究課量子放射線研究推進室

(研究振興局基盤研究課量子放射線研究推進室)