【資料2-1】井上委員発表資料

 光・量子ビーム研究開発について

平成24年4月22日
井上 信 

1.グランドデザインを持っておくこと

(グランドデザインの必要性)

 光・量子ビームの研究開発を支える装置は大小様々であるが、先端的大型施設の存在が果たす役割は大きい。現在、世界のトップレベルにある我が国の施設としては、SACLA(X線自由電子レーザー)、大型放射光SPring-8、J-PARC(パルス中性子、ミュオンなど)、理研RIBF(重イオン)、放医研HIMACなどがあるが、かつてはトップレベルにあったパワーレーザーや、照射試験などに不可欠な大強度連続ビーム(CW)中性子源については今後の方向性が定まっていない。従って既にトップレベルにあるものの整備・利用とともにパワーレーザーやCW大強度中性子源の新設についてのグランドデザイン・ロードマップを作っておくべきである。そのうえで大学等の研究者の大型施設の連携利用や小型装置の開発整備などを構想することによって国全体としての計画の効果が増すであろう。

(パワーレーザーの位置づけ)

 パワーレーザーについてはこれまで核融合とか半導体加工とか華々しく見える利用目的に限定しすぎ、そのめどが立たないと行き詰まる、というようなデザインをしてきたが、文部科学省としては光科学の先端的基礎基盤技術研究開発装置と位置づけてデザインすべきである。

(大強度CW中性子源計画)

 CW中性子源の問題はもっと深刻である。J-PARC実現に向けてパルス中性子源を強調しすぎたために、原子炉建設の社会的困難さもあって、J-PARCができればもう連続ビームの中性子源は要らないという雰囲気が生じたことは否めない。しかし、材料照射をはじめ大強度中性子ビームを必要とする試験研究は多く、JRR3やJMTRの後継中性子源の計画がないことは問題である。核融合材料研究用のIFMIFの計画はあるが、実機が我が国にできる可能性は低く、過去のパワーレーザーの時のように目的が限定されすぎてもいる。文部科学省としての試験研究用の先端的基礎基盤研究開発装置としては、使用済燃料の核変換を含め上記の様々な利用を可能にするものとして、超伝導加速器と未臨界燃料集合体を組合わせたCW大強度中性子源を「もんじゅ」後の国家プロジェクトとして立案すべきであると考える。なお、「もんじゅ」後の高速増殖炉開発についてはJAEAとは切り離し、経産省で行うべきものである。一方、J-PARCも一部の専用ビームコースを残してJAEAから切り離しCERNのような国際研究機関とすることが望ましい。

2.産業利用等に関する研究段階の役割分担と他の省との連携

 大学や文部科学省関係の研究所等で行われる応用を念頭に置いた基礎基盤研究を実際の産業現場や医療現場での商品化・実用へ切れ目無く繋いでいくためには連携が欠かせない。この際、文部科学省での応用を念頭に置いた基礎基盤研究、経産省・厚労省などでの実用化を目指した開発研究、メーカーでの商品開発研究、産業・医療等の利用現場での利用および改善研究といった役割分担、ならびに各段階での問題解決のためにより基礎的な段階へのフィードバックが重要であることから、それぞれが役割を意識しつつ連携して研究を進めることが必要である。

 行政サイドにおいても、大学や基礎基盤研究機関を把握している文科省が応用を念頭においた基礎基盤研究を支援し、実用研究機関と実用現場を把握している経産省・厚労省・農水省等が実用化開発研究を支援するといった役割分担をしつつ、連携することが不可欠である。グランドデザインの構築および競争的経費による振興策の立案にあたってこれらの関係省庁が連携について協議する場を持ち、光・量子ビームのライフイノベーション・グリーンイノベーションへの貢献を含む研究開発の戦略を立てることが望ましい。とりわけ医療機器開発については大学等で先進的な装置が開発されても医療器械としての認定に時間がかかり、外国との競争に負けるなどのことがあり、行政側の連携が極めて重要である。

 なお省内においても例えば非破壊検査用の加速器の橋脚現場等での利用のために4MeV以下の線形加速器の移動利用を認めたが、線形加速器以外の機種が認められていないのは不自然で、総合的に量子ビーム機器について関連部局が連携して検討していなかったためと推測される。加速器関連の規則等の改正に当たっても連携して協議する場を設けるべきであると考える。

 

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研究振興局基盤研究課量子放射線研究推進室

(研究振興局基盤研究課量子放射線研究推進室)