【資料3-2】佐野委員提出資料

光・量子ビーム施設に対する期待

株式会社東芝 佐野雄二

産業界の状況

 日本の製造業は諸外国との熾烈な競争にさらされている。円高など六重苦と言われる状況下にあって、生産の海外移転が加速している。先端基礎科学分野の成果を取り込んで技術や製品に高い付加価値を与え、雇用と生産を死守する必要がある。

 これまで我々は、先端基礎科学分野にも先行投資を行い、前世期においては確かな成果を得ていた。科学的な発見と技術革新が、また技術革新とイノベーションが直接的に連動し、基礎研究や技術開発への投資が利益に結び付いていた。しかしながら近年は、技術革新と業績との結びつきが不透明となり、研究開発が製品競争力や市場の開拓に必ずしも結びついていない。ニーズの変化に追い付けず、研究開発の成果が市場に受け入れられない場合が多くなっている。

将来への投資

 国土が狭く資源に乏しい日本の拠って立つ道は、教育などを通して培ってきた人財や文化、科学技術などの知的資産である。将来にわたって社会的・経済的な発展を促し、生活レベルを維持・向上させていくためには、教育や科学技術に対する国の先行投資の継続が必要不可欠である。高い付加価値を生む先端基礎科学分野を振興し、技術革新による競争力向上を図ることが必要である。

 先端基礎科学分野は装置の巨大化により費用が拡大し、成果刈取までの期間が長いことからリスクも大きい。このため、国の支援が欠かせない分野である。技術革新には先行投資が必須であるが、先を見通すことが難しい現在の状況下で産業界による多額の先行投資は難しい。最先端分野に対する国の先行投資を継続して基礎科学を振興し、技術への波及を通して産業の活性化を促し、生まれた利潤を税金と雇用の拡大によって国民に還元するスキームが重要である。

施設の建設による人財育成

 光・量子ビーム科学は日本が世界に先行する誇れる分野であり、様々な学術領域の共通基盤にもなっている。これまでの投資で築いてきた優位性を維持し、光・量子ビーム科学の更なる展開を図っていくためには、加速器やレーザー装置の大型化も必要となる。大型施設の建設は個々の要素技術の寄せ集めでは困難であり、総合的なシステム技術が必要とされるが、この点においても日本は人財を含めて優位性を保っている。

 大型施設はその要求仕様も極めて高く、研究者の指導により企業の技術者が設計、製作、据付、調整などを一貫して経験することは、人財育成の貴重な機会となっている。そこで培った最先端の技術は他の分野にも波及して企業の競争力を高め、小型装置の建設においても発揮されている。更には、小型装置の建設で磨きをかけた技術を次の大型装置の建設に活用することができる。大型施設への投資が、このような好循環を生みだしている。

建設・運転で得た技術の展開

 健康な生活は国民の最大の関心事である。重粒子線治療装置は、HIMAC、SPring-8、J-PARC、SACLAなどの建設で学んできた大型加速器技術の展開と要素技術のインテグレーションにより、競争力のあるシステムに仕上がりつつある。更に、レーザーイオン源、超伝導技術とのシステム化や、レーザー加速技術のとの組み合わせによりテーブルトップの装置が実現する可能性がある。また、JRR-3などの研究炉およびJ-PARCの建設と中性子ビームの利用経験は、今後の発展が期待される加速器駆動小型中性子源による非破壊検査やBNCTなどの医療応用に活用できる。

 大型のレーザー装置では、新しい学理を追求する研究とともに、新物質の創成などのユニークな研究も行われる。レーザー超高圧圧縮によるスーパーダイヤモンドや固体金属水素の生成は、産業の形態を大きく変える可能性を秘めている。これらの研究を先行して日本で実施することにより、先行者利益を享受することができる。また、大型のレーザー装置の運転経験などで得られた極限光学材料技術は、汎用レーザー装置の小型化や信頼性の向上に活用される。

産業界による施設利用

 SPring-8を始めとする大型施設は、産業界自身あるいは共同研究による利活用を通して、国内産業界に計り知れない恩恵をもたらしている。例えば、触媒活性のその場計測による高機能触媒の開発、電極の表面の性状分析による長寿命二次電池の開発、内部の残留応力解析による構造物の長命化対策など、多くの優れた例を挙げることができる。これらの利活用は、国内施設という利点もあって、分野・量ともに更に拡大していくと考えられる。JRR-3における成果非公開課題の急伸の例を見ても、その傾向は明らかである。

 ニーズの変遷が著しい昨今、産業界にとっては一刻も早い開発・製品化が至上命令であり、大型施設のタイムリーな利用が望まれる。一方では、こなれた技術の自由度の高い提供も魅力的であり、SPring-8のXAFS測定サービスなどは機を得たものと思われる。重層的な施設整備とフレキシブルな利用が魅力的である。また、トライアルユースなどの制度は、情報や人財には乏しくとも、ある領域でトップクラスの技術を持っている中小製造業などの支援に有効と思われる。

 開かれた施設の利用による人財育成の視点も重要である。最先端の大型施設には、一流の研究者、技術者が集う。大型施設の利用により、企業の技術者に一流の研究者と交流できる機会が生まれ、切磋琢磨できる絶好の機会となる。この利点は、企業内研究では得ることができない。

 大型施設は、最先端の基礎科学研究から製品に直結する技術開発まで広い範囲で活用されている。特に利用研究においては、優れた装置ハードウエア技術と、解析・ソフトウェア技術が一体となって初めてその効果が十分に発揮される。利用技術を持つユーザーとハードウエア/ソフトウェア技術を持つ設置者の密な協業が不可欠であり、幅広い人材育成の観点からも主要な施設は国内に建設される必要がある。

 

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研究振興局基盤研究課量子放射線研究推進室

(研究振興局基盤研究課量子放射線研究推進室)