先端計測分析技術・機器開発プログラムの改善と新たな推進方策について(中間報告)

平成23年9月27日
科学技術・学術審議会
先端研究基盤部会
研究開発プラットフォーム委員会
先端計測分析技術・機器開発小委員会

1.はじめに

 先端計測分析技術・機器開発プログラム(以下、「プログラム」)に関しては、先端計測分析技術・機器開発小委員会(以下、「小委員会」)において、その推進方策を毎年継続的に審議しており、昨年8月には、「我が国の知的創造基盤の強化に向けて」(以下、「報告書」)を策定し、プログラムの成果展開に向けた「知的創造プラットフォーム」の構築などの新たな取組を提言したところである。
 一方、報告書策定以降においても、東日本大震災の発生、第4期科学技術基本計画の策定など、科学技術、さらに我が国を取り巻く状況は大きく変化しており、このような状況に迅速に対応しながら、プログラムの今後のあり方について不断の改善を図ることが求められている。
 このため、小委員会では、プログラムの改善と新たな推進方策に関する考え方について審議を行い、平成24年度から取り組むべき研究開発のあり方を中心に中間報告として取りまとめた。

2.プログラムが現有している主な課題

(プログラム内容について)

ア) 本プログラムは開始以来7年半が経過し、その間、新たな研究開発タイプを追加する等プログラムの充実を図ってきたが、予算額は平成22、23年度と2年続けて大幅な減額を受け、新規採択課題数も相当に絞り込まれてきている。この予算の減少傾向が平成24年度以降も続く場合には、プログラムの存在意義が大きく損なわれる可能性がある。

イ) 要素技術タイプに関しては、科学研究費補助金「試験研究」の果たした役割を代替している経緯もあり、大学等の申請者側の評価、申請意欲は大変高く、これまで相当程度の予算を配分してきた。しかし、採択された開発課題について、社会への貢献等将来の波及効果までを見据えていないような事例も少なくない状況にある。

ウ) 機器開発タイプに関しては、重点開発領域を特定することにより事業推進の方向付けを行ってきた。プログラム開始当初は主に研究現場で使われる機器を念頭に置いて領域を設定していたが、平成19年度からはものづくり現場の視点に基づく領域設定を加え、さらに平成23年度からは政策課題対応型の領域設定を行うなど、ターゲット指向型へと移行してきた。しかし、実際の申請・採択課題の状況を見ると、重点開発領域に該当する課題数は必ずしも多くなく、これは、重点開発領域の設定意図や重要性が申請する研究者等に十分に伝わっていないことによるものと考えられる。

(プログラムの推進・評価体制について)

エ) 小委員会での検討を基に文部科学省がプログラムの基本方針を示し、この基本方針を踏まえてJSTがプログラムを実施することとしているが、小委員会での検討結果とJSTでの公募・採択の実施状況が必ずしも十分に連関していない。

オ) プログラムの事業評価が、個々の開発課題の評価の足し合わせにとどまっており、プログラム全体としての実施効果という観点から十分な評価が行われていない。結果として、プログラムの政策目標についての関係者間の共通認識および社会的評価が必ずしも十分でない状況を生み出している。
カ) JST/CRDSでは、これまで先端計測分析技術・機器開発に関連する国内外の調査を実施してきているが、プログラムの推進に際して調査結果を効果的に活用できていない。

(その他)

キ) 平成23年度より、研究成果の社会還元活動(プロトタイプ機の共同利用、共同研究、普及活動)を強化するための取組が開始されているが、当該取組を含めた「知的創造プラットフォーム」の構築に向けた体制と具体的方策の一層の明確化が必要である。

3.プログラムの位置付け

 先端計測分析技術・機器は、我が国の科学技術の共通基盤を支えるとともに最先端かつ独創的な研究成果を生み出すキーテクノロジーである。このため、本プログラムが、世界に先駆けて未知なる現象を検出、可視化する計測分析技術・機器を開発し、重要課題の克服、科学技術の発展を先導する基盤を創造し続けていくことが極めて重要となる。
 この基本認識の下、社会的に重要なイノベーション創出を加速するため、オンリーワン、ナンバーワンの開発成果を生み出した上で、

  • 科学技術のブレークスルーを生み出す基盤を構築すること
  • 開発成果を実用化し、さらに企業化まで繋げ、標準・汎用機器やシステムとして新たな市場価値を生み出すこと

の双方を政策目標に掲げながら、プログラムを実行していくことが求められる。

4.プログラムを取り巻く状況

 本年3月に発生した東日本大震災は、我が国に未曾有の被害をもたらした。この国家的な危機から我が国が力強く復興・再生を遂げるため、今後、本プログラムが最大限に貢献するための方策を検討する必要がある。
 本年7月に閣議決定された「東日本大震災からの復興の基本方針」においては、被災地における新産業の創出、研究基盤の強化、研究開発の推進等が復興のための施策として掲げられている。また、再生可能エネルギーの利用促進やエネルギー効率の向上、地震・津波災害や原子力災害からの安全対策、健康対策に繋がる取組を実施すること等も求められている。さらに、科学技術振興の観点から我が国の復興・再生を牽引することも重要である。
 本年8月閣議決定された「第4期科学技術基本計画」では、優先的に取り組むべき課題として「震災からの復興、再生の実現」「グリーンイノベーションの推進」「ライフイノベーションの推進」等を掲げており、これらの重要課題の達成に向けて本プログラムが明確に貢献していくことも重要となる。このうち、「グリーンイノベーションの推進」に関しては、平成23年度より、本プログラムが総合科学技術会議が定めるアクションプランにおける最重要施策の一つとして位置づけられているところであり、当該課題を含め、第4期科学技術基本計画で示される課題を対象とした取組を一層強化することが重要となる。

5.プログラムの具体的な改善、推進方策

 本プログラムが直面する諸問題を適切に解決するとともに、本プログラムが我が国の科学技術政策の遂行に一層貢献していくために、

【1】ターゲット指向型の重点開発領域を軸とする研究開発の強化
【2】プログラムの戦略立案、推進・評価体制の再構築

を早急に実行すべきである。具体的な取組内容は以下の通り。

【1】ターゲット指向型の重点開発領域を軸とする研究開発の強化

 3.に掲げたプログラムの位置付けに鑑みると、研究開発のタイプに関わらず、ターゲット指向型の重点開発領域を設定し、国として課題克服に強い意志を持って重点的な予算配分を行うべきである。なお、重点開発領域を設定するにあたっては、現在のみならず、数年、十数年先を見据えることが重要であり、挑戦的な課題については、フィージビリティスタディを活用する等により、新たな領域の開拓を行っていく必要がある。

 平成24年度においては、以下の取組を実施することが求められる。

  1.  重点開発領域の大枠として、「東日本大震災からの復興、成長への貢献」を設定する。
     可及的速やかな成果創出が求められることから、産学の関係者が結集したチーム編成により、我が国がすでに保有する優れた計測・分析技術等の高度化、統合等を行いつつ、早期かつ確実な技術的成果の活用を目指した機器開発やシステム構築に取り組む。開発期間は最大3年とする。
     また、重点開発領域において、新たなブレークスルーを生み出す革新的な要素技術ならびに機器開発に取り組む。開発期間は最大5年とする。
     計測・分析ニーズとしては、大気、水、土壌、食品中の放射線量の迅速かつ高精度な把握、放射線の生体への影響の把握、地震・津波など災害がもたらす諸現象の把握、瓦礫に含まれる物質等の把握、構造物や機材の劣化現象等の把握を可能とする技術・機器及びシステムの開発などが想定される。今後の小委員会において、重点開発領域に関するさらなる検討を行うこととする。
     
  2.  重点開発領域の大枠として、「グリーンイノベーション」を設定する。開発期間は最大6年とし、これまでの機器開発タイプに加え、要素技術タイプと機器開発タイプを組み合わせた申請も可能とする。
     昨年の小委員会における検討を踏まえ、「異相界面におけるパワーフロー現象解明のための計測技術」をはじめ、太陽光発電、蓄電池および燃料電池の飛躍的な性能向上と低コスト化を実現するための新たな開発に取り組む。今後の小委員会において、重点開発領域に関するさらなる検討を行うこととする。
     
  3.  要素技術タイプ、機器開発タイプ、プロトタイプ実証・実用化タイプについては、いずれも重点開発領域以外を対象とする新規公募も実施し、最先端の計測分析シーズを基にした開発を推進する。
     その際、要素技術タイプに関しては、ユーザーニーズも踏まえた開発性能数値目標の設定を申請要件とする。機器開発タイプに関しては、同様の数値目標の設定に加え、国際標準化を意識した取組の実施を申請要件とし、採択の際には、要素技術タイプからのステップアップを重視することとする。プロトタイプ実証・実用化タイプに関しても、採択の際には、機器開発タイプからのステップアップを重視するとともに、被災地企業との協力による提案を重視することとする。
     
  4.  ソフトウェア開発タイプについては、平成24年度は、取組の成果及び課題の検証を優先し、新規公募の実施は見送ることとする。
     
  5.  「知的創造プラットフォーム」構築に向けた、プロトタイプ機の共同利用、共同研究、普及活動の一環として、これまでに開発されたプロトタイプ機を被災地の現場ニーズに合わせて作製、整備し、有力なユーザーの利用に供することで、当該プロトタイプ機の高度化、標準化等を効果的に進めていく。

 今後さらに、平成25年度からの実施を念頭に置きつつ、ターゲット指向を一層明確にし、研究開発から成果展開、標準化等の取組を幅広く対象とする大型プロジェクトの推進など、プログラムの構成に関する検討を継続的に進めていく必要がある。
 また、要素技術タイプに関しては、プログラムの位置付けに鑑みると、科学研究費補助金や戦略的創造研究推進事業等を活用した取組の充実の可能性についても検討を深めていくこととする。

【2】プログラムの戦略立案、推進、評価体制の再構築

 小委員会は、「我が国における先端計測分析技術・機器開発のあり方について全体を俯瞰した議論を行い、我が国全体としての研究開発の方向性を提示した上で、プログラムの基本的戦略を立案し、文部科学省に提案する」、JSTは、「文部科学省が示す基本的戦略を踏まえてプログラムを効果的に推進する」という役割分担を改めて明確にした上で、以下の改善を図り、プログラムにおけるPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを確立することが求められる。

  1.  小委員会は、重点開発領域の設定を含むプログラムの基本的なあり方を定めた「基本戦略(仮称)」について、毎年1月頃を目途に策定する。文部科学省は基本戦略をJSTに通知し、JSTは、これを踏まえて具体的なプログラムの実行方策を検討し、その効果的推進を担う。なお、小委員会が基本戦略を策定するにあたって、JST/CRDSが提供する計測分析技術・機器シーズならびに産業・社会ニーズに関する調査結果(エビデンス)を活用する。
     
  2.  JSTにおいて、プログラム全体を統括する「推進委員会(仮称)」を新設し、基本戦略を踏まえた上で、推進委員会がプログラムの推進(公募、採択、評価を含む)を一体的に担う。現在の技術評価委員会や開発総括会議の機能は、推進委員会の下に集約する。なお、重点開発領域毎に担当の開発総括を置き、重点開発領域における目標達成に向けたプログラム推進の実効性を高める。
     
  3.  JSTは、プログラムの実施状況に関して、毎年6月頃を目途に自己検証を行う。小委員会は、この自己検証結果を踏まえ、プログラムの改善方策を検討するとともに、新たな基本戦略を策定する。
     
  4.  JSTは、重点開発領域における研究開発の重要性や具体的アプローチに関して、開発者、関係団体、ユーザー等の各方面の関係者の理解を深めるため、小委員会と連携しつつ、随時ワークショップを開催する。

6.今後の検討事項について

 本中間報告においては、主に、平成24年度から取り組むべき研究開発のあり方を中心に提言を行ったが、プログラム評価のあり方や、国際標準化を想定した技術開発の推進方策等の「知的創造プラットフォーム」構築に向けた取組の具体策などに関しては、引き続き、小委員会において、さらなる検討を進めていく予定である。
 なお、本プログラムが我が国の科学技術の共通基盤の形成を担うものであるとの趣旨を踏まえ、文部科学省及びJSTにおいて、我が国の科学技術基盤のあり方、JSTにおけるプログラムの位置付けに関して今後検討が進められることを期待する。

(別添)

科学技術・学術審議会 先端研究基盤部会 研究開発プラットフォーム委員会
先端計測分析技術・機器開発小委員会 委員名簿

平成23年6月29日現在

(臨時委員)

二瓶 好正

東京理科大学特別顧問

 

長我部 信行

株式会社日立製作所中央研究所所長

(専門委員)

 

石田 英之

前株式会社東レリサーチセンター常任顧問

 

江原 直行

応用光研工業株式会社代表取締役社長

 

大島 忠平

早稲田大学理工学術院教授

 

小原 満穂

独立行政法人科学技術振興機構理事

 

近藤 豊

東京大学大学院理学系研究科教授

 

佐藤 了平

大阪大学大学院工学研究科教授

 

菅野 純夫

東京大学大学院新領域創成科学研究科教授

 

杉浦 康夫

愛知県心身障害者コロニー総長

 

杉山 昌章

新日本製鐵株式会社技術開発本部技術開発企画部部長、
先端技術研究所解析科学研究部主幹研究員 

 

竹内 孝江

奈良女子大学理学部准教授

 

田中 耕一

株式会社島津製作所フェロー

 

玉田 薫

九州大学先導物質化学研究所教授

 

中村 志保

株式会社東芝研究開発センター
記憶材料・デバイスラボラトリー研究主幹 

 

原 清明

株式会社堀場製作所執行役員

 

松尾 由賀利

独立行政法人理化学研究所先任研究員

 

森川 智

ヤマト科学株式会社代表取締役社長

 

山科 正平 

北里大学名誉教授

(敬称略、50音順)
 ◎:主査

お問合せ先

研究振興局基盤研究課

鈴木、大野
電話番号:03-6734-4098
ファクシミリ番号:03-6734-4121
メールアドレス:kibanken@mext.go.jp