資料2-2 研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発 プログラム平成25年度の推進に当たっての基本方針策定に関して(推進委員会報告)

平成24年8月
科学技術振興機構
先端計測分析技術・機器開発推進委員会

  先端計測分析技術・機器開発プログラムの平成25年度の推進に当たり、今後、文部科学省より提示される予定の「基本方針」につき、科学技術振興機構(JST) 先端計測分析技術・機器開発推進委員会より、事業推進を行う立場から意見を申し述べる。

1.平成25年度 重点開発領域について

    本年度より、先端計測分析技術・機器開発プログラム(以下「本プログラム」)では、国の政策的な課題に対応した計測分析技術・機器の開発を行うため、「重点開発領域」を設定し、(1)「グリーンイノベーション領域」と(2)「放射線計測領域」を定めている。
    これらの領域に関しては、公募要領策定、領域総括、領域分科会委員の委嘱等に関して、文部科学省等と連携して作業を進め、本年度選考を実施し、採択課題を決定する予定としている。特に、放射線計測領域については、東日本大震災からの復旧・復興に資するための開発領域ということで、領域の設定に関して被災地の一つである福島県との意見交換を実施している。
    平成25年度については、これらの領域の公募を継続するとともに、第4期科学技術基本計画に掲げられている重点領域である「ライフイノベーション領域」を新たに設置することが望ましいと考える。
   重点開発領域及び新たに設置することが望ましい重点開発領域に関する意見は以下の通りである。

(1)グリーンイノベーション領域について

    本領域は、総合科学技術会議の定めるアクションプランに準拠し、対象を「太陽光発電、燃料電池、蓄電池」の効率向上等に資する計測分析技術・機器として公募しており、応募件数は例年の領域非特定型と比較するとかなり少ないが、申請された課題からは、対象とした全ての種類の電池に関して応募があり、通常よりも短期間の公募(1ヶ月強)であったことも考慮すると、一定の申請があったと考えられる。
    今後、本領域での公募の継続について、さらなるニーズの有無など、グリーンイノベーション分科会で意見交換を実施し、以下のような技術・機器が求められているとの意見が上げられている。

  • 大型蓄電池については、企業間競争が激しく、表に出てこないがニーズは必ずある。特に稼働中の電池の劣化状況把握モニタ等は重要。
  • 電池共通ということでは、「低電圧」で「大電流」なパワーが必要である。 電力の世界では「高電圧」であるが、電池の世界では逆。 
  • 電池にはますます高容量密度の活物質が求められるが、その劣化の様子、 性能が向上した場合にはその要因を「可視化」することが重要。
  • 燃料電池については、家庭用への普及が始まるなど、第一世代は終了したとも言える。次は「脱白金触媒」。本分野は日本がリードしており、世界戦略に乗っ取った対応が必要。
  • 電池は(これまでの領域の指定のように)界面が重要であるが、システム化も重要。システム化することは、必ずしも最先端ではないが、利用・普及の観点からは、技術的に最先端でなくとも重要である場合があることに留意。
  • 太陽電池については、有機太陽電池など、目新しいものに目が行くが、 本来のシリコン系太陽電池について、もっと深めていくべき。表面・界面の本質の現象解明などが重要。
  • 必ずしも計測技術に特化していないが、蓄電池は安全性の把握も大切。 特に家庭用や自動車用として普及していくなら、その面のフォローも必要。

     以上のことから、本領域については、これまでの公募で対応仕切れなかった技術・機器もあることから、次年度も新規公募を継続していくべきと考える。
    具体的な公募の内容については、今後、同領域分科会において、有識者からの意見を聞くなどの機会を設けて検討していきたい。

(2)放射線計測領域について

    放射線計測領域については、前述のように、公募開始に先立ち、文部科学省を交え、福島県との意見交換を実施した(1月16日)。本領域は、特に早期の成果創出が求められることから、「実用化タイプ(短期開発型)」(開発期間は1年弱、マッチングファンド)を特に設定し、早期に福島県で役に立つ機器の開発を目指している。
    このような事情から公募は昨年度中(2月~3月)に実施され、この一次公募では、「食品中の放射性物質の測定」「土壌等の放射線モニタリング」を主なターゲットとした結果、食品のうち、特に福島県からの要望が多かったコメのスクリーニング機器が採択され、また、土壌等のモニタリングやガンマ線の計測に対しても複数の課題が採択されている。その一方で、コメ以外の食品、アルファ線、ベータ線の計測に関しては、採択課題がなかったことから、二次公募を実施した。
  なお、上記したように、「被災地において可及的速やかに利用可能な機器」を目指して開発を行っているが、開発チームの努力もあり、既に2種類の機器がプロトタイプ段階ながらも受注生産を開始している。
  また、次年度、本領域の新規課題公募について、現地ニーズがあるかを調査するため、再度、福島県の関係課と意見交換を実施(7月5日)した他、放射線計測領域分科会において議論した結果、以下のような要望が寄せられている。

  • 食品の検査については、従来のゲルマニウム半導体検出器を用いた計測 であると、大量の試料が必要になり、住民のニーズに応えることができていない。少量で、数値レベルは多少粗くてもいいので、スクリーニングできる機器が望ましい。
  • 工業製品についても検査を行っているが、装置のサイズが大きく、既存 機器では対応できないことが多い。
  • 福島県内外で「がれき」の処理を行っているが、この「がれき」処理場における排水、排気の精密な連続モニタリングが求められている。測定数値の信頼性が大切。
  • JSTで開発している「標準物質」※については値段、入手先等を教えてほしい。

    これらから、未だに福島県における放射線計測機器のニーズは高いということが伺える。以上から、次年度についてもこれらのニーズに応えるため、新規課題の公募を行いたい。 次年度の公募については、今後、放射線計測領域分科会で検討を重ね、場合によっては 被災地との再度の意見交換を行って、具体的な分野を定めていくが、現時点ではその性能を凌駕するものが出ていない「ゲルマニウム半導体型検出器」を超える革新的機器、特に測定時間がより短時間で高感度な測定が可能となるような機器を開発し、日本発の高性能放射線計測機器とし、将来的にはデファクトスタンダードとなる機器の開発を検討する。

※  標準物質については、一次公募において、採択したチームが現在、玄米の標準物質(粒状)を開発中で、8月中には、日本分析化学会から、頒布を予定している。また、 年度内には、玄米(粉体)の標準物質も頒布予定である。これに先んじて、土壌の標準物質は、既に日本分析化学会から頒布されている。
  なお、本領域においては、「計測分析技術・機器」の開発であることに鑑み、「数値」の信頼性を重視して開発課題のマネジメントを実施している。本開発から創出される成果である計測機器で表示される値が正確に理解されるように、本領域分科会において、サイトビジット等で必要な技術的な意見交換を行うとともに、必要に応じて、本年度中にセミナー・シンポジウムを実施し、開発チームの意識合わせを行っていく予定である。
  また、公募の具体的な内容についても、本領域分科会で引き続き議論していく。

(3)平成25年度の新規重点開発領域設定について

   「重点開発領域」の主旨は、国の政策課題に対応した計測分析機器の開発であり、設定される領域については、文部科学省の先端計測分析技術・機器開発小委員会、およびタスクフォースの議論の結果に従うが、開発現場および本プログラムの推進を行う立場から、本件について意見を述べる。
    第4期科学技術基本計画においては、「イノベーション」が重視され、そのうちでも「ライフイノベーション」「グリーンイノベーション」の2つが重点的項目として設定されている。このうち、「グリーンイノベーション」については、既に本プログラムにおいて、電池関連ではあるが、領域を設置し、開発を推進している。本プログラムとして、イノベーション創出に貢献していくためには、もう一方の「ライフイノベーション」においても領域を設定し、必要な開発分野を定めることが有用と考える。
    開発すべき分野の詳細については、文部科学省の小委員会、タスクフォースの中間報告を踏まえ、本年度下半期に、ライフイノベーション領域に関するワークショップを開催し、検討する予定である。
  なお「(臨床用)医療機器」をターゲットとする場合は、グローバル医療関連機器(大手)群、あるいはグローバル医療専業機器メーカーの群と競争することを念頭において新規で革新的なコア技術に基づく製品(群)を創製することが望まれる。また、これらの企業と対抗していくためには知的財産権の確保、サポートしていくための知的財産戦略チームの編成等も重要な課題であり、そのための経費も必要となる。こうした点も踏まえて、今後ワークショップで検討を重ねていきたい。特に知的財産戦略等は実務的なサポートが必要なことから、その経費につき予算化が必要である。
  ライフイノベーション領域特有の課題となるが、「わが国発の機器」として成果を上げていくためには、「臨床開発」「許認可」等に関して、プログラムを超えた、大幅な長期に亘る開発期間・経費が必要となる。こうした事情を踏まえ、制度設計に当たっては、「研究用機器としては完成したが、臨床用としてはうまくいかない」というような中途半端なことにならないよう、当該プログラムの出口戦略、後継プログラムへの橋渡し(JST内部、他法人、他省庁を含む)スキーム構築を考慮に入れて制度設計しこの点もワークショップで議論を進めるべきと考える。
   さらに、ワークショップ開催と並行して、領域総括候補、領域分科会の評価委員候補を検討するに当たり、本領域で成果の活用を図るために、メーカー、医師(最終的に本プログラムの開発成果を臨床応用する場合特に)、規制官庁(特に厚生労働省、関連独立行政法人他)との協力が不可欠となるため、これらから、あるいはこれらの団体の推薦者を評価委員として参加いただくことを検討したい。
    なお、本プログラムの過去の開発課題の半数がライフサイエンス分野を占めていることから、本重点開発領域のターゲット以外でも、それ以外のシーズの取りこぼしを無くすため、引き続き「領域非特定型」においてもライフサイエンス分野の公募が必要不可欠である。

2.ソフトウェア開発タイプのあり方について

    「ソフトウェア開発タイプ」については、平成21年度の開始当初は多数の応募があったものの、その後、申請条件を厳格化(ソフトを搭載するプロトタイプ機が存在すること、産学連携に加え、ソフト開発を専業とする企業が参画すること 等)したこともあり、近年は申請件数が減少していた。

平成21年度

平成22年度

 平成23年度

応募

採択

応募  

採択

  応募  

採択

32

13

17

3

10

1

       

  これを踏まえ、ソフトウェア開発タイプ自体のあり方を見直すため、平成24年度は  同タイプの公募を行わなかった。こうした状況を見据え、この機会に「ソフトウェア開発タイプ」については、抜本的な制度再設計を実施したい。  計測分析機器は一つのシステムであり、ソフトウェア開発は機器開発と切り離せない面がある。そのため、今後は、例えば「要素技術タイプ」で、将来機器開発を行うことを想定し、事前にソフトウェア開発構想を企画・設計する場合、必要な開発経費を計上できるような制度設計を行うことも一つとして、今後検討していきたい。

3.その他

(1)産学連携の条件について

   本プログラムの入口部分でもある「要素技術タイプ」には、例年、多くの申請が寄せられ、昨年度は183件の申請があった。要素技術タイプの開発課題からは、以後の機器開発タイプ、プロトタイプ実証・実用化タイプへステップアップするような、優れた成果が輩出する反面、内容が基礎研究に近く、出口戦略が明確ではない開発課題が申請されることも多く、将来実用化につながりやすく、明確な見通しをもつ課題を厳選して選考する観点から、平成24年度は「要素技術タイプ」においても「学」と「産」の連携を必須とした。
    この結果、要素技術タイプの申請件数は、大幅に減少(前年度の約6割減)。実用化を目指す課題を厳選するという目的は達成できたが、その反面、将来性はあるものの、企業から見ると共同開発に乗り出すにはハイリスクな課題については、「学の要望に応えられるメーカー他企業側が対応できない」「本当に革新的な技術シーズは企業が目をつける前段階にあり、企業がつかないために、今回は申請できなかった」との指摘を受けており、平成25年度は要素技術タイプにつき、この条件を緩和する方向で検討したい。
    A-STEP探索タイプを範として、「コーディネーター等による推薦」「企業の開発担当部署からの推薦」等、なんらかの文書を添付することで、産学連携の条件を満たすこととし、より大学研究者が積極的に応募できる方向へ制度の改良を検討したい。

(参考)A-STEP 探索タイプの申請条件(公募要領から抜粋)
 (3)申請の要件

  1. 技術移転の可能性が見込まれる大学等の研究成果があることが必要です。さらに、同成果について技術移転へとつながる具体的な計画が立案できていること、及び達成すべき目標が明確化できていることが必要です。
  2. 大学等の研究者(研究責任者)による申請であることが必要です。申請にあたっては産業官連携従事者または企業の研究開発関係者等による見解(企業化につながる可能性、想定される用途、利用分野についての見解)を求めることが必要です。
  3. 同一の研究者による複数の課題申請はできません。

(2)領域非特定型について

   今般の「イノベーション研究」「政策課題対応型研究開発」を指向するに当たり、本プログラムでは「重点開発領域」を設けることで対応しているが、本プログラムにおいて、ライフサイエンス分野以外の残り半分は、「ナノテクノロジー・材料」あるいは、「ものづくり」等の分野で占められている。本プログラムの開発成果は多面的な分野に応用されているが、最先端の計測分析機器を開発していくためには、特に重点とされていなくても、これらの分野は必要不可欠であり、引き続き、これらの分野を採択可能とする「領域非特定型」は必要不可欠である。
    また、重点開発領域は、目的を達成するためにかなりシャープにターゲットを絞り込む必要があることから、申請者が、「ずれ」を許容せず、「ターゲットとかなり類似しているが、ずれている課題」「将来的にターゲットに入るが、現時点では申請できない課題」を取り逃す可能性がある。そのためにも、重点開発領域とともに、領域非特定型についても採択枠の拡充を図る必要がある。
    イノベーションが起こる場合には、「予想していなかった異分野などからの参入」など、本家本元以外のアイディアが刺激となり、生じることもあり、また、こうしたものの中からデファクトスタンダードとなるような機器を産み出すこともあり得るため、領域非特定型についても配慮が必要である。

(3)開発成果の活用・普及促進について

    平成23年度から開始した「開発成果の活用・普及促進」については、本プログラムが当初目指した「オンリーワン・ナンバーワン機器」の実用化・普及促進を主眼において実施している。この制度で取り扱う機器は、高性能ではあるが、サイズや操作性の問題から量産・製品化が難しいものとなっているものの、最先端の材料開発を行う企業や大学等の研究者が利用することで、インパクトのあるデータを出すことも可能となっている。このことから引き続き「開発成果の活用・普及促進」を実施していきたい。
    また、先端計測分析技術・機器開発プログラムは「知的創造プラットフォーム」の一翼を担うものであり、「知的創造プラットフォーム」の全体像の位置づけを含めて検討することが望ましい。

以上

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