参考資料2 大学等における産学官連携リスクマネジメントの取り組み状況調査結果

大学等における産学官連携リスクマネジメントの取り組み状況調査結果

 平成26~27年度の間において、規模、設置主体の異なる大学等に対して適宜行ったヒアリング調査等から把握された情報を整理する。そのため、我が国大学すべての現状を反映しているわけではないことには留意が必要である。

●利益相反マネジメントについて

【基本的認識】
 ・(体制は一定程度整備)中堅規模以上の大学等においては、一定程度体制構築がなされている機関も多く見受けられる(外部人材も活用も含め、利益相反アドバイザー等を設けている機関が多数)。
 ・(利益相反状態把握の仕組みは一定程度実現)大規模の大学等においては、利益相反状態を概ね把握できる仕組みを構築できており、外部人材も活用しながら学内マネジメント体制整備は概ね実現している状況であると考えられる。ただし、定期自己申告が中心で、利益相反状態が発生する度に把握する仕組みができていないケースも挙げられた。
 ・(マネジメント負担)マネジメント上の負担が大きくなっているなどの課題も挙がっており、効率化等に向けた工夫を行う必要性を指摘する機関も複数ある。
 ・(適切な判断・対処)大学等の規模等に関わらず、硬直的な運用により、事務側で産学官連携活動を過剰に抑制している可能性があるケースや、適切な判断がなされていないケースなどもあることが懸念されるなど、実効的なマネジメントがなされていない場合もあると考えられる。


【マネジメント体制・システム】

<体制>
 ・利益相反アドバイザー、利益相反委員会、利益相反アドバイザリーボードを設けた体制としている。
 ・(中堅規模大学において)利益相反アドバイザーを配置して判断を行っており、会議体形式の利益相反委員会は設けていない。判断への不服に対して検討するための会議体は設けている。
 ・(中堅規模大学において)学内の利益相反アドバイザーが判断した上で、必要に応じて指示して教職員が外部有識者に相談できる体制としている。ただし、利益相反委員会には外部人材は入れておらず、学内法学者を入れることで対応している。
 ・理系部局は利益相反マネジメントの意識が高い。自己申告書の回収率も9割以上である。
 ・部局ごとに利益相反に関するガイドラインを策定し運用している。

<マネジメント負担>
 ・利益相反自己申告書の提出率は、ほぼ100%であるが、電子的な申告システムの構築、各種情報との連結できるシステム構築による管理の効率化が今後の課題である。
 ・申告の利便性を向上させるために、電子的な申告システムの構築を行った。

【マネジメント実態】

<規制的な運用>
 ・利益相反マネジメント上の最終的な責任を誰がとるのか見えにくくなっている。事務側は組織に責任が発生しないように教員側に規制をかけていく方向になっている実情があり、画一的運用になっている。
 ・基本的には兼業先企業との共同研究の実施を規制するなど、利益相反に対して厳しい運用をしている。

<対処等はあまり無し>
 ・利益相反状態の自己申告はできているが、利益相反委員会にかける案件はこれまでほとんどなかった。
 ・委員会は基本的には開催せず、書面ベース等での審査が中心である。委員会開催は過去にも数える程度である。マネジメント対象となるような案件は生じていない。
 ・利益相反委員会のノウハウが十分蓄積されていないことにも起因し、審査の結果として問題無しというケースが大多数であるが、より精緻に検討する余地もあると考えられる。
・本来、臨床研究開始前に利益相反に関する審議を行うのが理想であるが、実施できていないのが実情である。

<状況に応じた対処>
 ・利益相反に関する研究者へのヒアリング対象者は年間およそ10名程度である。
 ・総合的な私立大学であるが、マネジメント対象となったのは、ほんの数十件(全教員の数%程度)である。

<判断基準等>
 ・利益相反マネジメントの審査基準、ノウハウの蓄積が重大な課題となっている。
 ・私立大学は学費が中心的な資金源なので、国立大学と私立大学とでは利益相反のマネジメントの在り方は異なる。
 ・兼業に関する判断が増えてきており、産学官連携活動とは若干違うケースが多くなってきている。

【組織としての利益相反マネジメント】

 ・組織としての利益相反については、具体的なマネジメント方針や、利益相反状態を把握する仕組み等について定めていないが、今後取り組む必要がある(複数機関)。

【研究者等の理解】

 ・利益相反マネジメントを継続的に取り組んでいるので、教職員の理解も浸透してきており、業務にもなれてきているように感じる。
 ・教員が利益相反を否定的なものと捉え、マネジメントの必要性を理解をしてくれないケースも多い。

【マネジメント人材】

 ・利益相反アドバイザーとして学内人材を配置し、相談体制を構築している。
 ・利益相反アドバイザーとして弁護士・監査法人等の外部人材を配置し、相談体制を構築している。
 ・利益相反状態について研究者にヒアリングを行う際は、URA、学外有識者等の人材で対応している。

●技術流出防止マネジメント(営業秘密関係)について

【基本的認識】
 ・(個人管理中心)組織的管理は困難を伴い、教員との間で秘密保持契約を結ぶ等を行った上で、研究者レベルでの管理を行っている大学等が多くあった。管理レベルは研究者に依存する状況である。
 ・(組織的関与の例)国プロなど秘密情報管理を組織主導で行う、契約は大学が行うといった面で大学組織が、技術情報管理に関与するケースが確認された。
 ・(体制面での困難性)相談窓口、情報管理システム等の整備や過度な技術情報管理は、マネジメント負担や管理コストが増大することや、技術情報管理面での必要性の高さを認識していないことから、現在の状況下においては組織的な体制作りが困難であるという大学等が多い。
 ・(管理対象)秘密管理対象とその管理レベルの線引きは困難性があると感じているケースも確認された。
 ・(普及啓発等)教職員の普及啓発が十分に行えていない大学等や、行っていても十分理解が得られていない大学等がほとんどであり、研究者等の理解促進に問題を抱えている大学等が確認された。
 ・(学生)学生には宣誓書等を提出の上、教員の指導のもと、技術情報管理を実行しているケースが確認されるなど、試行錯誤しながら対策を検討しているケースが確認された。 


【組織としての関与】

<秘密保持契約を結んだ上での個人管理>
 ・組織として技術情報管理の基本方針を定め、教員に周知することはやるべき。しかし、大学組織による罰則などは大学の実態からは現実的ではない(事案確認の困難性)。秘密保持契約を結んだ上で、研究者の自主的管理が現実的である。
 ・組織としての取り組みは、所定の事項(秘密保持条項の遵守等)を除き行われおらず、組織的な管理体制は取られていない。営業秘密管理は研究室単位に任されているのが現状で、管理実態は不明である。なお、事務組織には文書管理の仕組みは定着している
 ・研究者・研究室単位で適切に技術情報管理をできているケースも事例としてある(特に、共同研究等を行っている研究者)。実現は研究者レベルでの認識の問題である。

<組織的関与について>
 ・組織として取り組んだ事例として、大規模国プロの中で秘密情報管理のルールを作って運用している例がある。
 ・契約は大学組織、管理は研究室レベルというのが最適な運用と考えている。
 ・今後の検討課題ではあるが、組織として共通化できる部分と教員単位で行う部分とを整理し、後者については、教員単位で導入できるルールの雛形をネットワーク等のインフラとセットで提供し、サポート体制も整えるといった方法が有効と考えられる。

【体制】

<窓口について>
 ・営業秘密に関する管理責任者、相談窓口等の設置は人的にも困難と思われる。
 ・技術情報管理等に関する窓口は設けていない。秘密保持契約の内容確認等については「知的財産部」に相談がよせられるケースが多い。しかし、情報管理方法等に関する相談はあまりない。 

<システム等について>
 ・教員は多忙かつ組織立って仕組みをつくる必要性も感じていないこと、研究室や研究支援者等が現場レベルで対処するには作業負担が大きいこと、現場レベルの者にITの知識のある者が少なく、サポート体制も不十分なこと、技術情報管理を主導するリーダーがいないこと等が課題と考えられる。
 ・情報管理システムは、教員単位、研究室単位で構築するしかなく、組織だった解決策がなかなか浸透しない。学内でサーバーを共有して仕組みをつくり、アクセス権で管理することも考えられるが、間違いが起こるリスクが大きい。
 ・記録媒体に保管されている秘密等を管理することは非常に困難である。最近はクラウドストレージへの保存等さらに管理が困難な状況が加速している。

<マネジメント負担等について>
 ・秘密保持契約等の法的制約を受ける研究は、全体の2割以下と少数であり、全研究者に厳格な営業秘密管理を求めることは現実的ではない。厳格な管理は管理体制の経費も増大するところである。
 ・研究成果発表の毎に審査を行うことは、教育研究の自由を阻害する面もあり現実的ではなく、教員がリテラシーを持って行うべきことと考えている。
 ・転入者に関して,元の大学・企業等からどのような義務を課されているか確認をすることは非常に実現困難である。
 ・技術情報管理(営業秘密管理)の基本は、営業秘密であるものとそうでないものの識別であるが、媒体(紙、電子ファイル)の異なる多数の情報が存在する中、識別作業と物理的な管理作業の負担が重い。各研究室の予算も厳しく、手間を掛ける余裕が少ないのは課題である。

<計画等>
 ・技術情報管理の実施計画自体は、大学単位でなく、ラボ単位、個別プロジェクト単位で策定すべきものであり、それでこそ機能するものである。
 ・先ずは、基本方針および規程を策定するとともに、教職員への周知と啓発活動の励行に着手する必要がある。

【学内理解】

<教職員等の普及啓発>
 ・秘密管理の重要性について意識づけをおこなっている。指導的立場にある教員も、技術情報管理(営業秘密管理)に係る意識が薄い状況である。
 ・教員に対する普及啓発は十分行えておらず、今後の課題である。
 ・研究者の意識や理解が不可欠であり、実際に営業秘密を的確に管理している教員を学内で増やすとともに、具体的な管理手法についての知識を共有するための定期的な研修を持つことも課題である。

<学生等>
 ・営業秘密について、知的財産マニュアルを学内配布して周知している。学生の産学官連携活動への位置づけ等も研究者に対して周知している。
 ・共同研究等に学生等を研究協力者として参加させている場合,秘密保持誓約書ガイドラインに沿った取扱いについて、モニタリングを如何に行うかが課題のひとつではある。
 ・教育研究活動の自由度が必要であるため、学生等が秘密情報に触れることができる機会をなくすことは現実的に難しい。

【秘密保持】

 ・秘密保持契約の実効をあげるために、契約者は当事者が最適との判断から、直接担当する教員等が契約者となっている。このため、学外との間で実際にどのような秘密情報の授受があるのか、大学本部として十分に把握できていない。
 ・企業との秘密保持契約締結は行っているが、教員が秘密管理に対する理解が希薄だと、結局のところ適切に管理されないという状況になっている。また、アカデミア間での共同研究においては、秘密保持契約を結ばずに研究が進むこともあるので課題がある。

【管理対象】

 ・秘密保持契約の有無に加え、営業秘密の保持の有無に応じた3段階のレベルわけをしている。営業秘密管理を求めるレベルの研究については、入出管理、文書管理、個別の守秘義務等を求める。営業秘密の対象の指定は、学内で統一ルールはあるが、指定は個人(研究室・教員等)単位に委ねている
 ・営業秘密情報の設定とアクセス制限の線引き・運用は、企業に比して大学等においては困難な面が多い。

【その他】

 ・複数の企業と共同研究をやっている教員が適切に情報管理を行う方策は配慮する必要があるが十分に取り組めていない。

●技術流出防止マネジメント(安全保障貿易管理関係)について

【基本的認識】
 ・(学内理解・普及啓発)学内での普及啓発活動に負担があるケースや、研究者の適切な理解に課題があるケースが挙げられた。
 ・(用途等の確認)研究者レベルから情報があがってこないケースもあり、組織的な情報把握ができていないケースもある。
 ・(該非判定)大規模大学においては該非判定上の課題がないと回答した機関が多い一方で、中小規模大学では難しさを指摘する回答があった。また、種々の工夫をして判定等を行っているケースもあった。
 ・(例外適用確認等)例外適用、取引審査等の難しさについても、種々の指摘がなされている。
 ・(体制)大規模大学においては、所定の体制を整備している一方で、中小規模大学等においては、試行錯誤等しながら体制を構築している様子が窺える。 


【研究者等の理解】

<研究者の理解>
 ・安全保障貿易管理について、研究者が海外での学会発表、あるいは留学生への指導といった日常の教育・研究活動に影響するという認識が十分ではない。
 ・研究者等の機微技術管理に関する認識は飛躍的に向上しているが、研究内容は機微とはいえないという研究者目線での独自解釈等、法令とのかい離等に課題もある。

<普及啓発>
 ・主な対象分野である自然科学系学部の教授会に出向き、説明会を実施するなど、研究者に対する普及啓発の取り組みを進めている。
 ・輸出管理担当者のマンパワーも限られているため、教授会ごとや教員ごとに指導・教育にも限界がある。

【用途・相手先の確認】

 ・大学の場合、研究者個人が海外の研究者や学生と直接やりとりをするケースが大半であり、事前に事務的な確認を行うことが困難である。
 ・訪問者等の短期間の滞在をする留学生等の受入れは、研究室単位、教員単位による約束のみで行われている例も多くあり、輸出管理部門でのチェックがスルーされがちに思える。
 ・研究成果が武器の開発や軍事転用を目的としていないことが明らかな場合、事前確認シートの提出がなくとも、ある程度柔軟に運用できるのではないかと考えている。

【該非判定】

<該非判定課題なし>
 ・(大規模大学)該非判定そのものに課題はない。ほとんど軍事転用の可能性の低い技術等がリスト上に掲載されている例もあるため、実際的でない規定ぶりとなっているものもあると感じる。

<該非判定困難>
 ・(中小規模大学)大学における専門家がほとんどいない。法令の知識に加えて、技術内容についても理解できなければ、適切な該非判定は困難である。

<該非判定等における工夫>
 ・最終的な該非判定には、かなりの専門的知識が必要となるため、現存の人員だけで対応するのは不安である。そのため外部人材を登用し、マネジメントを行っている。「専門家の紹介制度」があるとよいのではないか。
 ・該非判定は、時に高度な専門知識と経験を持たないと実施できないが、可能な専門人材を学内に常勤で抱えるにはコスト的に無理がある。CISTECの大学会員となることで、そうした能力を補っている。ただ、一定の知識がないと研究者とCISTECの間をつなぐこともできない。

【例外適用確認】

 ・技術に係る例外適用は判断が難しい。どこまでが基礎科学分野に含められるかについて、大学毎に大きく異なる。
 ・例外適用のケースについて、判断に迷う場合がある。基本的には例外適用を差し控える方向になる。

【取引審査(取引相手の状況把握、提供適否判断)】

 ・取引相手の確認はインターネット情報等に頼っている側面があり、個々の大学において適否を判断する材料が不足している。
 ・留学生等を受入れた後に法令改正があった場合の取引審査をどのようにするか、また、出国時に持出すプログラム、データについてのチェックについて課題がある。

【同一性確認(許可範囲の役務提供等)】

 ・提供する内容については、輸出者(教員等)に概要の説明資料の作成を依頼し、それに基づき該非判定等を行っているが、提供の現場において、学内の取引審査で認められた範囲を超える内容の技術を提供していても、その捕捉は難しい。

【体制整備】

<大規模大学>
 ・他の掛け持ちの仕事をしていると、輸出管理へのコミットメントが不十分になるように感じる。また輸出管理担当者がきちんと存在する場合、その他の責任者、周辺担当者の意識が希薄となりがちのように思える。
 ・安全保障貿易管理について、概要を周知するだけでは、理解されないので、大学として一元的な管理業務支援が必要であり、研究者支援+一元管理を実現するため輸出管理責任者(本部)、各部局責任者(部局)を置いて 管理体制を構築した。

<中小規模大学等>
 ・該非判定や取引審査を行うためには幅広い知識や経験が必要となる。特に総合大学の場合幅広い研究を実施しているため、それに伴って要求される知識も膨大なものとなる。
 ・「貨物輸出・技術提供」と「留学生受入」とでは、学内の担当部署が異なり、安全保障貿易管理に係る手続き方法や担当窓口の設置形態がいびつになり、管理フローが複雑になっている。

【留学生】

 ・外国人研究者・留学生に対する管理が困難である。入口管理を徹底するために、受け入れ教員や事務担当職員の意識改革に努めているが効果に限界もある。出口管理は非常に困難な状況で知財部では対応不可能である。
 ・大学は、自由な教育・研究活動を行う場であるため、技術提供や留学生の受入れについて、規制や仕組みを取り入れにくく、輸出管理システムがなじみにくいところがある。

 

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科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課 大学技術移転推進室

(科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課 大学技術移転推進室)