【資料5】第3回地域科学技術施策推進委員会議事録

科学技術・学術審議会 産業連携・地域支援部会

地域科学技術施策推進委員会(第3回)

平成24年6月6日

 

【有信主査】  それでは、定刻になりましたので、ただいまから第3回地域科学技術施策推進委員会を開催したいと思います。本日はご多忙中のところお集まりいただきましてありがとうございました。

 それでは最初に資料の確認をさせていただきます。もし、不足等がありましたらお申し出いただきたいと思います。

【竹下専門職】  資料の確認をさせていただきます。

 まず初めに、今回の地域委員会の議事次第。続きまして、資料1が、「地域イノベーション戦略推進地域(平成24年度公募分)選定結果及び平成24年度地域イノベーション戦略支援プログラム採択結果について」というプレス資料になります。続きまして、資料2、こちらは東日本大震災復興支援型にかかる採択のプレス資料となります。続きまして、資料3、こちらが本日プレゼンテーションをお願いしております野長瀬先生の発表資料、「地域の実力派中小中堅企業を核とした産業活性化」という資料になります。続きまして、資料4、こちらが同じくプレゼンテーションをお願いしております井上先生の発表資料、「日本企業を取り巻く環境変化を踏まえた今後の地域イノベーションの戦略のあり方について」という資料になります。続きまして、資料5、こちらが「今後の地域科学技術の推進について(中間とりまとめ)骨子案」となります。続きまして、資料6、「地域科学技術施策推進委員会の当面の予定」となります。続きまして、資料7、こちらが前回の地域委員会における議事録となります。以上、資料7までの資料となります。過不足等がございましたら事務局までお知らせください。よろしくお願いします。

【有信主査】  それではご確認をよろしくお願いします。

 引き続き、本日の進め方について事務局より若干説明させていただきますので、よろしくお願いします。

【竹下専門職】  本日は、まず初めに議題1といたしまして、本年度の地域イノベーション戦略推進地域の選定結果についてご報告させていただくとともに、議題2で、本日プレゼンテーションをお願いしております野長瀬先生、井上先生から「地域科学技術施策の課題と展望について」という議題でご報告をお願いしたいと考えております。プレゼンテーションにつきましては、それぞれ20分間のプレゼンテーションをお願いいたしまして、その後、それぞれ15分間の質疑応答の時間を設けたいと考えております。その後、これまでの意見等も踏まえまして、今後の地域科学施策推進における課題と展望について、各委員から総合的にご意見をいただきたいと考えております。3番目の議題といたしまして、今後の当面の予定について事務局からご報告をさせていただきます。

 以上となっております。よろしくお願いいたします。

【有信主査】  今ざっと説明していただいたような流れで進めていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

 それでは、最初の議題であります平成24年度の地域イノベーション戦略推進地域の選定結果及び平成24年度地域イノベーション戦略支援プログラムの採択結果について、説明をお願いします。

【竹下専門職】  お手元に配付させていただいております資料1、資料2をご確認ください。こちらは、平成24年度地域イノベーション戦略推進地域選定結果及び平成24年度地域イノベーション戦略支援プログラムの採択結果となっております。資料2につきましては、今回、東日本大震災復興支援型ということで被災地域を対象とした特別の枠を設けて公募等を行っておりました。その選定結果となっております。

 資料1のとおり、本年度、経済産業、農林水産省ともに共同で選定させていただいております地域選定につきましては、5地域を選定させていただきました。具体的な地域につきましては、次のページ、別添1にございますとおり5つの地域が選定されております。上の(1)に2地域ありますが、こちらが国際競争力強化地域に選定された地域となります。続きまして、下の(2)にありますのが研究機能・産業集積高度化地域に選定された3地域となっております。この地域選定を踏まえまして文部科学省が支援メニューとして用意させていただいております地域イノベーション戦略支援プログラムに採択された地域が、次のページにございます別添2の一覧となります。こちらの10地域に対して、本年度、地域イノベーション戦略支援プログラムの採択地域とさせていただいているところでございます。こちらは、平成23年度に地域として選定を受けている地域もございますので、本年度5地域選定されており、このプログラムが10地域と数が多くなっているのは、そういった理由によるものとなっております。

 続きまして資料2をご確認ください。こちらが今回、東日本大震災復興支援型ということで、被災地域を対象にした事業における公募結果となります。こちらも、先ほどと同様に地域選定とプログラムの決定をしておりまして、地域選定につきましては、復興庁、経済産業省、農業水産省とともに共同で地域を選定させていただいており、別添1にございます4地域が地域として選定されております。こちらも同様に、国際競争力強化地域として3地域、研究機能・産業集積高度化地域として1地域、合計4地域が選定されているところでございます。

 この選定結果を踏まえまして、文部科学省において支援メニューとして用意しております地域イノベーション戦略支援プログラムに採択された地域が、次ページ、別添2の4地域、基本的には地域選定された地域すべてがプログラムに採択された形になっております。次のページ別添3にあります審査委員会におきまして、審査を行い、選定させていただいたところでございます。以上となります。

【有信主査】  どうもありがとうございました。この件について何かご質問がありましたらお願いいたします。これは今さら反対しても間に合わない話ですから、特に内容等についてご不明の点があればお願いしたいと思います。

 特にないようでしたら、議題2に移らせていただきたいと思います。「地域科学推進施策の課題と展望」という議題で、今日はお二人にプレゼンテーションをお願いして、その後ディスカッションをしたいと思います。

 最初に野長瀬先生、よろしくお願いします。

【野長瀬委員】  皆さま、こんにちは。ご紹介いただきました野長瀬でございます。前回、松原先生の経済地理学的な色々な分析の内容がありましたが、研究分野的には、私も共通する基盤が部分的にあります。もともと私は、最初に企業に入り、技術系の事業企画屋、生産技術屋としてのキャリアを送った後、企業のリストラで退職をしました。その後、大学の先生となり、地域の企業を歩きながら育てるタイプの先生が欲しいという大学を転々として動いているというようなキャリアです。企業を歩きながら、波長の合った会社と交流を長く続けている傾向があり、研究者としては、ベンチャー学会などで主に活動しております。この分野は学際的でして、地域産業をとらえるときに経済学や経済地理学的なとらえ方もありますし、企業経営から入るとらえ方もあるし、それから、政策や規制と言った法的なとらえ方もあります。この分野の研究者には、金融界出身の方、行政出身の方など、色々な背景を持った方がいらっしゃいます。私の場合は、一言で言うと、技術系の事業企画屋崩れからこの分野に入ったという特徴があります。

 今日の流れは、「地域の実力派中小中堅製造業との交流」、それから「企業支援の実践」、3番目は「イノベーション創出による地域産業活性化策のあり方」、これら内容についてお話していきます。

前回の委員会でも色々な地域の発表がございましたが、最終的に大学の技術を具現化するには、ある一定の実力を持った企業家セクターがないとできない。特に、特定地域におけるイノベーションの分野では、例えば、Rothwell,R. & Zegveld,W.なの著作を読みますと、大手会社の工場よりも地域に独立したベンチャー企業や中小・中堅企業が科学技術政策のよき理解者であると書いてありますが、私も全くそのとおりだと思っております。

 今日は、私が普段交流させて頂いている実力派中小中堅製造業の話を中心に行います。私の主たる研究テーマは、中小中堅企業、技術系の中小ベンチャー企業のマネジメントです。派生分野として地域イノベーションという研究テーマを持っています。昨年は、著書をこの分野で書かせていただいたところでございます。

 本日は、まず、地域の実力派中小中堅製造業との交流についてお話をさせていただきます。

 先ほどもお話ししましたとおり、私の場合、企業で生産技術屋、技術系の管理屋、企画屋として、回路やメカ設計図などのVEをしたり、子会社の経営管理、事業企画等をしてきました。振り返ると、偶然ですが、技術系のベンチャー研究をするのにちょうどいいキャリアを送っていたとよく言われます。初代ベンチャー学会会長の清成先生はご存じのとおり国民金融公庫出身で、次の会長の松田先生は公認会計士の出身です。そういう金融系、会計系の先生方とは、私のキャリアは比較的相性がよく、ベンチャー学会で色々な先生とこれまで交流させていただいてきました。

 企業を退職後、縁あって、群馬県の関東学園大学という非常に小さい、工業集積地域にある大学にお世話になりました。そこでは、地域の企業を育てる先生が欲しいということで、東京のベンチャーを回ったり、栃木から群馬の中小中堅ベンチャー企業を回ったりするような形で研究活動、社会貢献活動をやっておりました。トータルでこれまで回った企業は、毎年大体100社以上、20年間回っております。あと、先ほど申し上げたとおり、技術系のベンチャーを見るのに、財務や事業計画から技術や品質のリスクなどをトータルで見られるようなキャリアを偶然送らせていただいたので、この会社を見てくれという話が、ベンチャーキャピタルや銀行、行政関係者などから多いわけです。

 守秘義務があるので、具体的には申し上げられませんが、ベンチャー投資家が「ここに投資していいものだろうか」という話から、銀行が「技術があるけれども破綻懸念の分類になっているこの会社を再生する方法はあるのか」という話など、時間をかけて共同研究で分析することもやっております。行政から「事業計画を見てくれ」という依頼も多く、回っている企業よりも、色々な案件を見ている数のほうが多いかもしれないと思います。この20年は、意欲的企業の新しい取組を多く見続けてきました。出会った企業の方々と1回目、2回目、3回目と会っているうちに良い関係になっていき、相談が来るという関係を今まで築いてきました。

 ここで少し耳なれない言葉を申し上げますが、民俗学に「ハレ」と「ケ」という言葉があります。企業と企業をマッチングするような「ハレ」の場の運営を、実は群馬時代から長くやっております。加えて、日常的に企業の方からの相談への対応を、社会貢献として長期間やっておりますので、「ケ」の日常的なコーディネート活動と「ハレ」の場の運営というのを続けてきたことになります。

 地域科学技術政策との関わりで言いますと、文部科学省の科学技術政策研の地域イノベーション政策の部署に長く客員研究官としてお世話になっているほか、あと、埼玉大学、山形大学在籍中に、埼玉県と、山形県の都市エリア事業の申請書を県庁と相談して提出したことがあります。JSTでは岩渕先生がリーダーを務めている地域事業の地域結集・RSPなどのお手伝い、A-STEPのプログラムオフィサー等を長くやってきました。それから、自治体関係とのつき合いですと、経済産業省が、産業クラスター組織を北関東で立ち上げるときに、経済産業局と、一緒に立ち上げた経緯があり、東北でも産業クラスター組織にもかかわってまいりました。中小企業庁に属する政策にも長く関与し、最初にコーディネート活動支援事業の委員長を務め、新連携、インキュベーションなどソフトな政策をお手伝いしてきました。私の場合は企業寄りの立場が強いので、主にイノベーションの事業化に関わる政策について、行政と連携をして取り組んでまいりました。

 科学技術政策のユーザとしてNTBFs、つまりニューテクノロジー・ベースト・ファームのような企業の存在が不可欠であるのは皆さんご存じのとおりだと思います。先ほども申し上げましたとおり、知的クラスター、都市エリア事業など、地域科学技術プロジェクトの成果を出しているのは、このNTBFsと言われる企業であることが多いと思います。それら企業を大きく分けますと、研究開発型、製品開発型、あと、高度な生産技術型に分かれます。地域に数として多いのが普通の生産技術型です。普通の生産技術型企業は概して下請け型とも言われる存在です。地方圏では、産学連携をするには若干距離がある下請け型企業も現実には多いわけです。一般的に言いますと、東京から離れるほど、NTBFsの密度が薄くなっていきます。前回お話のあった福岡、仙台などの政令市や地方の大都市圏等は条件が違うのでしょうが、東北などの多くの地方圏では、広域にポツポツと実力派のフロントランナー企業が立地しているというのが実態です。

 地域科学技術政策の結果を出すのに大事なことが、期限が限られたプロジェクトで成果を出さなければいけないことです。成果が出ている地域では、事業機会に俊敏な対応の出来る実力派企業が活躍しているわけです。もちろん大学も各地で活躍していますが、企業家の迅速な意思決定が可能な実力派中小中堅企業、特に中堅クラスの企業が初期から本気でやってくれるかどうか。それからもう一つが、地域に組み込まれた誘致企業のがんばりも重要です。大手企業だけれども、分工場ではなくて、その拠点のリーダーや経営者がその地域のために頑張る意識があるような地域に組み込まれた(embedded)大手企業、誘致企業がプログラム初期から関与するかです。色々な地域のプロジェクトを見ていますと、成果を実際に出すのは、これらの企業の関与が非常に大きいわけです。

 特に事業のKFS、つまり成功のためのキーファクターを押さえる経営資源を持って、企業家がイノベーション創出に意欲的な中堅企業を関与させることが重要。地域結集型でも、福井など、実際に成果ができたところを見ると、やはり企業家と経営資源の両方が優れている中堅企業が成果を出しています。ただし、このクラスの企業は大学を厳しく評価する。つまり、大学教授も常に実力を見られていて、だめなことをやると、「あいつはだめだ」とすぐに言われる。私も他の先生の「あいつはだめだ」という言葉を、そういう実力派の企業家から耳にすることが多い。

 実は、私が今、共同研究している企業の場合、守秘義務があって申し上げられませんが、最初に地域の商工会議所を通じて会社を訪問したいと言ったら、企業訪問、見学というのは一切受け入れていないと断るわけです。ところが、経営者と偶然他の場所で仲よくなり、工場を経営者が私に見せてくださったのですが、控室に着いたとき、会社の役員がそろっていて、「ところで、気がついたことを言ってくれ」と言われました。試験のようなことを平気で大学人にやってくるわけです。

 そのとき、私が気になったところを三点指摘しました。そうしたら、運よく当たっていました。ここをこうしたほうがいいのではないかという話をしたときに、その企業のトップの方が横の役員の人たちに、「この人は自分と同じことを言っているだろう」と言っていました。それからその企業とつき合いました。それから話すたびに、どの大学と組んで、幾らお金を損したとか、どのコンサルタントと組んでこれだけ無駄なお金を使ったという話を私に言うわけです。現実に、このクラスの企業家とつき合おうと思うと、その程度の厳しい鑑識眼におかれます。ある程度、つき合ってもいいと思ってもらわないと難しいのが実態です。このクラスの力のあるNTBFsを巻き込まないと大学人の知識も成果につながらないが、このクラスの企業は逆に鑑識眼が厳しく、海外の一流大学と比較されるなど、非常にシビアな世界になります。

 次に企業支援の話です。例えば、私のゼミには経営者や後継者の社会人学生が複数います。彼らの研究テーマを決める際に、その会社を実際に見て、ベストプラクティスの他社を紹介し、あなた会社のいいところをこういう形で売り込んできなさいという指導をしています。結果的に、私のゼミ生は、自分の会社の立ち位置を理解し、研究テーマも具体的になっていきます。私の知り合いの会社から、注文をもらっているゼミ生も多いです。「ゼミに入って、修論を書くだけではなく、ビジネス面のメリットがあった」と言っている人もいます。ある企業Aを、過去に訪問した企業Bに紹介すると両方が喜びそうだというような勘が、色々な企業を歩いてきて10年目あたりから何となく働くようになってきました。最初の一、二年は全然わからなかったのですが、ある時点から勘が働くように結果的になっていったのです。

 この「ケ」の日常的なコーディネート活動がなくて、「ハレ」のマッチングイベントだけだとやはり企業はついてこないのです。日常的なコーディネート活動の継続が非常に大事ではないかと思います。

 「ハレ」の場としては、さいたま新都心で、イブニングサロンという場の運営を始めてから、徐々に各地で展開しています。今、東京圏、北関東、東北の3エリア6地域で運営しております。

 実は、北関東、つまり首都圏北部地域の産業クラスターの組織を立ち上げた後、埼玉大学に、リエゾン、知的財産、ベンチャー育成を全部1人でやってくれと言われて行ったわけです。そのときに、偶然なのですけれども、東京近辺のベンチャー企業はもともとつき合いがあり、北関東に仲のいい会社が多数あって、それで、埼玉の企業と交流していくと、新幹線で東京、大宮から高崎、宇都宮までつながりができた。今は、東北にも四地域でイブニングサロンを開催しています。徐々に、私が訪問している企業の間で、イノベーター同士のつき合いを広域でしようという動きが続いております。

 ただ、これを継続するのは結構大変です。過去にご訪問したことのあるお忙しい企業家に来てほしい。代理の方ではなく、企業のキーマンに来ていただきたいのです。ですから、2カ月前に案内を出すというのが必須なのです。各地の大学のイベントの場合、1カ月前や半月前に案内を頂くことがあります。私は、忙しいキーマンの方にとにかく来ていただきたいので2カ月前に出すのです。

 それから、3番目に、場のイノベーター密集度を高くすることが重要です。ここに行くと同じようなにおいのイノベーターが多くいる。私が訪問して波長の合った方同士ですから、比較的波長の合う方同士であることが多いとは思うのですが、加えて、世話人と手分けして、今度は私以外の人脈の方も呼んで、いつも来る人、たまに来る人、初めて来る人の三層構造を作っている。これは、グラノベッター氏の有名な社会学的論文にヒントを得た運営方式です。

 イブニングサロン時のマッチングの成果をその次のイブニングサロンで「ありがとう」と言われて把握することもあります。

例えば、前回も、中堅企業で、RFIDを新規事業でやっている会社が福祉系にこの技術を使いたいといったときに、たまたま福祉系で私と仲のいい大手企業とマッチングして、今、共同でビジネスをやり始めるところまできたとか、あと、茨城大学農学部の先生の技術をイブニングサロンで紹介したら、今年創業したベンチャー企業がそれを使うという事後報告を頂きました。基本的に、いつも会う人同士のマッチングもあるし、初めて来る人と、いつも来る人のマッチングもあるし、こういった三層構造がないとビジネスマッチングの場というのはパフォーマンスが上がらないという理論にのっとって取り組んでおります。

 格好いいことを言っておりますが、2年目程度までは試行錯誤であまり成果は出ませんでした。やっと3年目頃からコンスタントに「ありがとう」という言葉が私のところにメールや電話で来るようになってきた。行政がこういうビジネスマッチング会をやると、成果を報告しなければいけないのですが、私は一切、何件成立などのデータをとっていません。たまたま報告が来る形だが、コンスタントに毎回御礼が来ます。

 例えば、製造業で中堅クラスの会社の中にも、内製化率のすごく高い会社と、オープン・イノベーションで外から部品を買って付加価値の高いものをつくる会社と2種類に分かれます。外部調達率の高い会社に、この辺の技術があると助かるというプレゼンをしていただくのです。そうしたら、1週間後程度に、年商2億円程度の中小企業が「あそこから注文をもらいました」と報告があった。意思決定が早いです。トップ同士が話をするから1週間か2週間程度で商談が決まります。

 それから、秋田の会社を東京圏の会社に紹介したのですが、それもやはり1週間程度で「決まりました」というお礼が来た。企業家同士を会わせると、ものすごく触媒的な反応が早い。しかし、忙しい企業家の方が集まってくれないと、そういう場は絶対に成立しないので、そこが一番難易度の高いところであります。

 さらに、後で話が出てきますが、大学人は、産学連携により大学の技術を売り込むことに努力している場合が多いです。しかし、産学連携と企業対企業の産産連携を比べますと、企業対企業の連携のほうが圧倒的に喜ばれる確率が高いです。マッチング率は経験上、産学連携のほうが低い。

 それを踏まえると、イノベーター・ネットワークをつくろうと思ったときに、企業対企業の産産連携のチャンスがある励起状態の雰囲気の場に大学の技術シーズを投入することで、産学連携のマッチング率を高めることが出来るのです。純粋に産学連携のロジックを推し進めようとすると、いい企業家が場に必ずしも集まってくれない。ここが一番難しいところです。ですから産産連携のロジックがきちんと機能している励起状態の場に産学連携の機能を2割か3割程度の入れ込むのです。

 企業対企業のイノベーター・ネットワークの基礎があるところに産学連携のロジックを入れ込むと触媒効果が比較的ある。自社商品を持っていたり研究開発型のベンチャーであったりすると、創業して1年目から躊躇なく大学を使う。ところが、純然たる下請けを長く50年続けていた会社では、大学のいい技術を紹介してもなかなか買ってくれないことが多い。といっても、中堅の優良下請け企業に、いい技術を持っている新規創業企業をマッチングすると喜ばれることはあります。安定した経営基盤を持っている中堅企業と、技術を持っているベンチャー企業も意外と相性がいいのです。こういう経験をして頂くと、あの場にまた参加してみようかと思って頂ける。産学連携の技術の買い手企業が集まって下さると、大学の技術のPRには好都合であるということがだんだんわかってきた。

 新都心イブニングサロンでは、基本的に5つ以上の都道府県から毎回企業が集まっており、6月1日に行ったものは10都道府県から来ていると思います。毎回この写真のような雰囲気で集まっています。案内を出すだけで、集客の動員は一切かけていない。

 最初にさいたま新都心で新都心イブニングサロンを始めたが、山形大学に行ってからは、もがみイブニングサロンを、山形県の一番北の農業地域で始めた。それから、こまちイブニングサロンが秋田県で始まった。新都心のほうで、技術のパートナー、海外進出のパートナーを見つけた企業があり、その企業家が秋田のリーダーをやっています。地方圏で、地域の若手企業家にチャンスを与えたいということで、リーダーが個人のお金を出して、こまちイブニングサロンがはじまりました。

 岩手県のみちのく奥州イブニングサロンの場合は、広域交流を政策で掲げた奥州市の市長が選挙で落ちてしまい、地震の影響もあり、去年、半年間、中断しました。大槌町に工場がある会社もあり、地震で多くの方が被災して大変でした。私からは、「結局、どうしますか。やめてしまいますか。」と聞いたら、企業の人たちが、「これは1回やめたら、もう始められない、特に奥州市は合併市で、必ずしも同じ市内でネットワークが旧自治体の壁を越えて密になっていない。今やめたら、再度始められないから、やめない」と言っていて再開にこぎ着けました。

 福島では、郡山の企業家や福島大学の教授、福島県の顧問の方々が中心になっています。

首都圏北部では来月に宇都宮ではじめて開催するのですが、宇都宮大学はキャノンが資金を入れて、オプティカル研究センターをつくっています。オプティカルをテーマにしてやりたいと言っていた。他のイブニングサロンの支援で、新都心と東北からオプティカル企業をご紹介して、交流する予定です。そのような形で、各地域リーグ戦のような形にしておりますが、まだ、今後はじめたいという地域もあります。

 広域交流の事例としては、このふくしまイブニングサロンの成果の記事を見てください。福島県が医療機械産業を強くしたいという意向を持っているので、医療系の企業を集めてイブニングサロンを郡山で開催した。そこに関東の頑張っている企業家をお連れしたら、いきなり福島医科大学に医用工学講座を設立する話に発展した。地元会社がお金を出さない中、私の友人の関東の企業家が3,000万円を3年間出して講座をつくったのです。福島の地域科学技術プロジェクトに参画している企業リストを、この間見たら、記載されている企業の半分ぐらいが新都心イブニングサロンの常連です。福島とか宇都宮は新幹線を通じて、首都圏が近いので、そういう実態があります。

 新都心イブニングサロンでは、毎回テーマを決めて、私が訪問した企業の中で、いいなと思う方にプレゼンしていただくのですが、上場企業のトップであっても15分程度に時間を絞り、質疑応答は各自交流タイムで商談のついでにして下さいとお願いしています。なるべく短い時間で多くの優秀な人にプレゼンしていただきます。例えば、31回ですと、プレゼン頂いたのは、産業革新機構から出資を受けた大学発ベンチャーのトップ、二部上場企業のトップ、ニュービジネス協議会のベンチャー大賞受賞企業のトップ、金沢工業大学と産学連携を行って商品開発した新連携認定企業のトップ、広島工業大学、東北大学との産学連携を取り組んでいる企業のトップです。

ちなみに、このうちの1社から、「会場で商談をもらいました。ありがとう」というメールをいただいております。

 つい先週、第32回を福祉機器をテーマに行ったのですが、地域結集型で採択された東北大学の技術シーズをベンチャー化した企業のトップ、非上場ですが海外で技術賞をもらっている中堅企業のトップ、東京工業大学の先生、あと、東京と浜松の技術ベンチャーのトップにプレゼンをいただいた。

 これからが本題に入りますが、イノベーション創出による地域産業活性化策のどこが難しいかです。

 まず、各地域を拝見すると、伝統的に、1980年代あたりまで、企業誘致政策に依存してきた自治体が多いのです。そして、箱物をつくってもソフト面の政策が脆弱な場合が多い。ですから、コーディネーター、アドバイザー、プロジェクトマネージャー、といった支援人材の育成が、どの地域も弱点になっていることはご承知のとおりだと思います。

 また、補助金が切れると支援組織の維持ができない自治体が多い。これも皆さんご承知のとおりです。私のやっているイブニングサロンは、その前の北関東時代の活動から通算すると20年近く続けています。これは個人の意思と仲間との連携で、「公民パートナーシップ」と私は呼んでいるスタイルのたまものです。補助金ありきでやってしまうと5年間や3年間で組織が終わってしまう。そうすると、その地域にイノベーター・ネットワークの財産が残らない。

 行政マンでも、私たちのイブニングサロンを支援できるような進歩的な方々は、見ていると大体出世する。行政側の人も、イノベーター・ネットワークのロジックを理解できるような人が上に行く時代なのですね。

 それから、先ほども申し上げましたとおり、産学連携だけではダイナミズム伝搬がなかなか難しく、産産連携のロジックがあるところに産学連携のロジックを入れ込むと、イノベーションの伝搬が起きやすい。

 大学発の技術を活用し得る企業家セクター、特にNTBFsの方々の求心力を確立するのが重要で、要は、産学連携の論理、大学の論理だけで取り組むと難しいということが一般的に言えることではないかと思います。

 「ハレ」のイベント、「ケ」の日常的なコーディネート活動を融合させ、産学連携と産産連携を総合したダイナミズム伝搬の仕組みを長い期間でやらなければいけない。製造業の場合、特にデバイスに近い産業や、材料に近い産業は5年レンジの研究計画になる。そうすると、3年で終わるプロジェクトでは成果が出しにくいわけです。基本的には、「ハレ」と「ケ」を融合させてサステナブルな仕組みをつくらなければいけない。そのためには、後でお話ししますが、イノベーター・ネットワーク、行政、非営利組織からなる広域な公民パートナーシップの仕組みが非常に重要だと考えている。

 3番目に、最近よくシリコンバレー等にパイプラインをつくらなければいけないということを言う人がいるのですけれども、その前に、地域間のつながり、日本の地方と東京や大阪などの大都市とのパイプラインもつながなければいけない。ですから、大学の技術でも、例えば、浜松で地域プロジェクトをやる場合、静岡大学ももちろん重要だけれども、東京大学の技術、大阪大学の技術をプラスアルファで使ってもいい。これはやはり、産学連携、産産連携もそうなのですが、地域間のパイプラインをどうつくっていくかが必要だということです。

 私が、今取り組んでいる活動は、Regional Innovation Generatorという仕組みの実証研究なわけです。

 イノベーターと言われる個人の変わり者が、あそこに行くとおもしろいとか、あそこに集まりたいというような求心力がないと、このRegional Innovation Generatorはつくれないのです。

 Regional Innovation Generatorが機能するにはどういうロジックを持っていなければいけないかというと、先ほども申し上げたとおり、まずイノベーター個人間のネットワークの求心力を持たなければいけない。そのために、イノベーターが尊敬するような方、一目置いている方の存在が非常に重要になる。大体、科学技術プロジェクトがうまくいっている地域は、誰かが非常に汗をかいて、イノベーター・ネットワークをマネジメントできていると思います。

 基本的に、ベンチャー企業家達は、周りの人から、「そんなことをやってもだめだ」と言われても、それに逆らって取り組んでいる人ばかりなのです。大体、評価が定まったときにはもう遅いわけです。先行者利得を得ようとする方々は、「そんなことをやってもだめだ」と言われるようなことを最初に取り組むわけです。ですから、イノベーターの多くは、の理解者を求めて色々なネットワークに所属し、理解者が地元にいないと、他の地域のネットワークに入っていく。

 問題は、そういうイノベーターが、地域の経営資源やインフラにアクセスしないと事業は起こせない。地域の経営資源やインフラを誰が持っているかというと、この産官学の公式組織、プラットフォームが持っている。ここの経営資源を使うときに、「この人、変わっている」と言われてなかなか使えない場合が多いという不平不満が私のところに結構来る。「大学に行ったけれども、門前払いを食らった」とか「あの役所に行ったけど、話がわかる人がいなかった」とかです。結局、イノベーション推進組織を構築しようとすると、イノベーター個人の面倒が見られる人、プラットフォームの面倒が見られる人の両方が要るというのが私の基本的な考えです。この両方の面倒を見るロジックが相当違います。ですから、たまに天才的な人材がいて両方を1人で見られるような事例もあるかもしれませんが、1人が両方見るのが現実にはなかなか難しい。オースチンモデルでは、ホイールモデルといって、各セクターのインフリュエンサーが各方面で影響力を及ぼすというモデルが提示されています。それとも考え方が近いと思います。

 最後に、この地域イノベーションエンジン(RIE)を、地域で運営するときにどういう機能が必要かという話をします。まず、弱い連結が必要です。私がイブニングサロンでマッチングしているのは、基本的に弱い連結をサポートしているということに他ならないのです。ここで接触の利益をどうやって出すか。三層構造を作るなどの工夫を色々しているわけですが、問題は、この後実際にチームを組むときに取引コストをどうやったら下げられるのか。例えば、具体的に法律の専門家や特許の専門家をこの部分に入れる必要があるなど、取引コストを下げるような部分が強い連結のフェーズでは必要になってくる。

 最終的にイノベーションが創出されたときに、それを増幅する機能も要るということで、この3つの機能が、イノベーションエンジンを地域でつくるときに必要なのです。私の活動は、社会貢献でやっているので、簡略的に、ある事例においては成功している場合があるという程度ですが、この3つの機能をきちんと地域でつくれればいいというのが基本的な考えです。

 まとめに入りますが、地域の英知を集めた産業活性化策の立案に必要なものは、まずは実力派イノベーターのネットワークによるダイナミズム。それから、的確な基本戦略、地域経営資源、地域インフラの整備策、ここは行政ができる内容だと思います。オースチンの事例を見ても、例えば、QOLは自治体、市町村が取り組んで、州、国はここを担当するというロジックがきちんと整理されています。あと、地域のイニシアチブと、国の地域科学技術政策の両輪が基本的に必要だと私は思っております。

 それらを通じて、「イノベーター集積の経済性」を発揮するように持って行く。産官学プラットフォームの連携だけでもだめで、その上にイノベーター・ネットワークという非常に扱いづらく、移ろいやすく、束の間の幻影になりやすいものをきちんと乗せることができるかどうか、ここが非常に重要なのではないかという意見を述べて、私のプレゼンを終わらせていただきます。

 ご清聴どうもありがとうございました。

【有信主査】  どうもありがとうございました。それでは、今の講演に関して、質問等がありましたらよろしくお願いします。

【受田委員】  貴重な情報をありがとうございました。1つお伺いしたいのは、今、野長瀬先生が色々と取り組んでいる話は、ある意味、エリアを超えたコーディネーションが極めて重要で、また実効性を持ち得ると理解できるのではないかと思います。

 その役割は、JSTのサテライトやプラザなどの、ファンディングは除く、コーディネーション機能で本来担うべきミッションだったのではないかと感じるのですけれども、そのJSTのプラザやサテライトの果たすべき役割と、今、先生がおっしゃったお話との違い、また、それらが担えなかった部分はどういうところにあったのかをお話しいただければと思います。

【野長瀬委員】  おそらくプラットフォームのところを調整するには、国の機関の力や信用は非常に重要だと私は思っています。イノベーター・ネットワークを束ねるところが、非常に大変であると思います。とつまり、NTBFsのトップと大手企業の研究所長では、思考回路や行動原理が違います。例えば、JSTのサテライトの館長の場合、東京大学や東工大を出ていたりして、同期が大手企業の研究所の要職にいたりして、人脈が構築されている。

 それに対してイノベーターの場合、例えば、経営者本人は大卒ではなく、商業高校出である。しかし、研究開発はうまくいっているというような優良企業事例もあります。こういう企業のトップには、サテライトの館長達の同窓会ネットワークは及ばないわけです。社長は企業家で、市場に対して俊敏性があって、技術のわかる部下が社長を支えているというNTBFsが多いです。この経営者のハートをつかむ際には、企業家が求めているものを理解できる人が必要とされます。

例えば、そこの部分の機微がわかる人をJSTのサテライトのようなところに置いていれば、従来型の大手企業OBの館長の実力と併せて、地域ディレクターとしての機能を果たす可能性があるのではないでしょうか。

 結局、この企業家の優先順位の高い悩みは何か、それがわかるかどうかということが非常に大事です。

 例えば、ある企業の場合、売り上げも伸びていて、利益も出ている。ところが、ある人材の層が薄くて苦労している。そうすると、大学の技術が欲しいという以前に、ここの人材が欲しいということを理解して、提示する選択肢が複数出てくる。

人材の供給源となる大学研究室と連携して採用チャンスを増やすという選択肢もあろうし、必要な人材を抱えている他社と連携するという選択肢もあろう。

企業の悩みのうち、最も優先順位が高いものが技術である場合は、産学連携で問題解決できる場合もあるでしょう。ところが、技術以外の優先順位が高いときは、産学連携のソリューションだとなかなか対応が難しい。それが20年間企業を歩いて、やっとわかってきたというのが実態でございます。

【受田委員】  ありがとうございました。

【有信主査】  ほかに質問はありますでしょうか。どうぞ。

【木村委員】  色々と興味深いお話をありがとうございました。先ほど三層構造でいつも来る人、たまに来る人、初めて来る人ということで、具体的に成果が出るまで3年程度かかったというお話がありました。また、先ほどご指摘されていましたようにイノベーターのネットワーク形成なり、あるいは、そういうものの核になるような人たちを育てるのにはある程度の時間必要など、具体的な成果を出すには複合的な要因が色々あると思います。3年目に成果を生み出したというプロセスの中に何か特筆すべきポイントはありますでしょうか。

【野長瀬委員】  つまり、イノベーターの密接度、集積の度合いが進み、ある臨界点を超えないとマッチングは起きないということです。1年目に取組を始めたときに、最初は少人数でやろうといって始めた。先ほど写真を見ていただいた、前回の「福祉器具」などのテーマだと140人程度、「改善」や「人材育成」のようなテーマだと結構多く来る。次回、「鋳造・鍛造」などの珍しい内容を予定しており、珍しい内容にするほど人数があまり集まらない。集まらないといっても120人から130人程度、大体120、130人から170、180人の間です。

 1回目が38人なんです。最初、みんな趣旨がわからないわけじゃないですか。最初に、趣旨がわからない人が多い中で頭数を集めるのはやめようというのが私達の方針でした。パートナーを組んできた世話人会でも、そこは意思疎通とりまして、1回目は冗談がわかる、つまり、何があるかわからないけれどもおもしろそうだといって理解してくれそうな人しか声をかけなくて、参加者を毎回少しずつ増やしていきました。2年目までは、どういう成果が将来出るのか一向にわからなかった。

 先ほども申し上げましたが、行政のマッチングイベントと少し違うのが、何件マッチングがあったかという成果調査やっていません。お礼状などを頂いてわかるのです。私が聞いていない成果などもあると思う。ただ、リアクションが来だしたのが、総じて3年目程度以降からです。つまり、3年目に、熱心な人の数がまとまってきたころから、成果が出てきて、私たちも方法論がわかってきたというのが実態です。最初は、こうやれば成功するという確信があったわけではありません。今でも手を抜くと一瞬にして実力派の企業家がいらっしゃらなくなり、終わってしまうと思っています。

 これは選挙で言う浮動票と一緒です。一切動員をかけないの、案内を出して、申し込みが0人だったら、もうやめるしかないのです。入会権とか牧草地のように、会員制のタイトなコモンズのつくり方もあるけれども、私たちはタイトではない非会員制のコモンズをつくるという理念を持っています。ただ、日常の「ケ」のコーディネート活動を世話人達が部分がまじめにやっていれば、いい人が集まり、社会貢献が出来ると思います。

【有信主査】  どうもありがとうございました。まだ色々質問があると思いますが、多少時間も超過していますので、次のプレゼンテーションに移らせていただきたいと思います。それでは、井上先生お願いします。

【井上委員】  アーク・イノベーションの井上でございます。よろしくお願い申し上げます。

 簡単に自己紹介を、冒頭に少しだけさせていただきたいと思います。もともと2000年まで富士通の経営戦略部門に15年ほどいまして、その後、外に出て12年ほどになるわけですけれども、キャリアはその12年間で大体、半々程度の仕事をしておりまして、1つはベンチャー育成系の仕事です。もう一つは、研究開発型製造業に特化したコンサルティング、この両輪でやってきています。

 まずベンチャー育成は、これまでにファンドのマネジメントを通じて、国内で7社、アメリカで1社、IPOを出しています。あと、大企業のM&A決着というイグジットで4社ほどです。ハンズオンもお互いに気が合えばしっかりとやるという形でやってきており、自分自身も投資先のマネジメントチームの一員として、東証で五穣の鐘を鳴らしたこともございます。

 残りが、研究開発型製造業のコンサルで、こちらは、クライアントはトヨタ、デンソー、ソニー、JX、住電、オムロン、東レ、カネカ、味の素、資生堂等々で、大体20社程度の大手の研究開発型製造業のお客様に対して、常時、毎月で10プロジェクトから15プロジェクト程度のコンサルのプロジェクトをしています。メンバーが30名程度おりまして、3分の1程度が外国人になります。

 今、やはり大企業が置かれている環境について、冒頭、6つほどの軸で整理しています。1つ目が、主要産業の融合というお話、それから2つ目がグローバリゼーション、特に新興国の台頭というお話、3点目がプロダクトライフサイクルの短縮化というお話、4点目が技術の高度化・複雑化というお話。5点目がITインフラが急速に持たざる化してきているという話。クラウドコンピューティングというお話です。6つ目がエネルギー環境、これは特に資源環境から応用のアプリケーションが技術革新で大分変わってきている、それが6点目になります。

 特に1点目は非常に重要なのですが、主要産業の話です。これは皆さんもお気づきだと思いますが、ICT、エネルギー、自動車、エレクトロニクス、さらに医療や農業、この辺のところが非常に産業融合を進めてきているというのが、この1、2年の傾向だと思います。下の絵にございますけれども、電力、エネルギー、ICT、住宅、EV、この辺のところが急速に融合し始めていて、ある意味、巨大産業化し始めていると思います。これまで部分最適でビジネスモデルがそれぞれ成立していたわけですけれども、これから巨大産業の中でどういうポジションをとるか、あるいは、どういうビジネスモデルでやるのかというのが非常に重要な時代になってきている。それに伴って、R&Dも急激にシフトチェンジをするというか、パラダイムシフトを起こし始めているので、R&D全体がカオス化し始めている。特に電池やIT周りは代表だと思いますけれども、そういうことが起きているということが1点目。

 2点目がグローバリゼーションのお話です。これは真ん中あたりの絵、特にアジアが30億人、ブラジル等々で10億人いて、新興国に40億人の人がいます。グローバルで大体70億人ですが、この内の40億人が衣食住含めて先進国化するというのが、これから10年、20年の動きになります。当然、環境、資源、食料、水制約、こういったものがより深刻化してくるということと、かつ、1人あたりのGDPは3,000ドルを超えると、例えば紙おむつが爆発的に売れるというお話があるように、高付加価値産業が非常に伸びてくる、その2点の視点があります。市場が大きくなるが、環境制約が大きくなる。また同時に、高付加価値産業が増えてきますが、新興国からも強力な競争相手も出てくるというお話だと思います。

 これは、ご参考で中国の科学技術レベルのお話を載せさせていただいています。日中比較ですけれども、GDP、研究開発費、それから論文数、特許出願数等々、特に研究開発費は、ここ近年、急速に中国が伸びていて、日本を今、超えつつあります。下のほうに少し計画目標がありますが、彼らは5ケ年計画でしっかりと決めてきます。特にR&D関連の支出のGDP総額の比率、これは今1.8%まで上げてきていて、12次5ケ年計画の終了年の2015年で2.2%まで上げて、2025年には更に2.5%まで上げると言っています。ですから、2020年や2025年あたりでは、下手をしたら、倍程度の差になっている可能性もあるということです。

 右側が、彼らが力を入れる7大産業の例です。特にこの7大産業については、これは産業強化策の事例ですけれども、5ケ年計画のもとで、それぞれ産業連盟という、例えば、自動車部品、LED太陽電池については産業レベルの組織が成立していて、これは昔の日本の産業コンソに非常に近いのですけれども、コンソーシアムをさらに強力にした形で予算執行権限があります。例えば、LEDですと2015年までに、産業連盟は、R&D費用で3,000億、国内で使うことができます。その3,000億をかけて国内の強力な企業の育成を図るという形になります。だから、相当強力な競争相手が出てくるということだと思っています。

 もう一つ事例で、これは二次電池の市場の変遷です。特に2008年から2010年、2011年あたりの変遷なのですけれども、これは電池の主要4材料、正極材、負極材、セパレーター、電解液のシェアの推移です。右側に国別でどういう伸びになっているかということです。結局、日本は2008年から全然伸びていないのです。負極材は三菱ケミカルさんが頑張っておられるので若干伸びていますけれども、ほぼすべて、中国、韓国に伸びた分は全部持っていかれているというのが現状です。日本が強いと言われている素材ですらこういう形になっています。  次が、もう一つご参考で、トヨタの中国展開です。これはこの1、2カ月のトピックスなので、新聞でごらんになったこともあるかと思います。トヨタですら、本格的に虎の子のハイブリッドの普及に向けて技術移転、現地化すること、機能も含めてますます中国にシフトすることをジャッジしたという事例でございます。

 3つ目がライフサイクルの短縮化になります。この辺も図表にしましたけれども、一昔前だと、非常にゆったりとした時間軸で産業が育っていましたから、高原型のライフサイクルが、今はとんがり山型のライフサイクルになっていて、液晶などはもう成熟期がない。このとんがり山型の中でどうやって勝つかを考えるのが、もう当たり前になってきている。ほぼすべての産業で、こういう成熟期の短縮化のような事象が起きておりますので、その中でどう勝つのか。結局ここはもう速さしかないという話なのですが、意思決定やマーケットイン、それからコストダウン、この辺の3点を少なくとも猛烈な速さでやっていかないと、もう稼げない。今、日本は家電でボロボロに負けましたけれども、結局こういうところへの対応が遅れていることが非常に大きい問題だというふうに見ています。

 次が技術の高度化とか複雑化のお話です。これは医薬品が代表事例ですが、ほぼ30年で1つ当たりの製品の開発にかかるコストが30倍程度になっている。半導体も当然上がっていくわけですけれども、1プロジェクト当たりの金額がこれだけ上がると、結局、研究開発費トータルの枠をそれに応じて上げていかないと、確率のマネジメントがもうできないという状態になっています。これに対して欧米の製薬企業は、M&Aで合併して、ファイザーなどの企業は年間で7,000億円の研究開発費を捻出することを確保したわけですけれども、なかなか日本企業はそういうこともできないので、結局、外部連携でいかに早くいいシーズの取り込みをやっていくか。いわゆる、オープン・イノベーションを機動的に使うことが更に非常に重要になってきているということの1つの事例だと思っています。

 次が、持たざる化です。これはクラウドコンピューティングのお話です。やはり、物やサービスを所有しないという持たざる化が、スマホの世界も含めて進んできています。クラウドの中の世界で、その中にデータその他を置いて、共有化する。SNSなども典型だと思いますけれども、データなどは自分の手元にない状態が当たり前になってきている。これは当然、R&D、研究開発そのもののオープン化にもインパクトを与えますし、各産業のビジネスモデルにもやはり大きいインパクトを与えてくると思います。

 次のスライドが、その幾つかの事例ですが、これは医療クラウドで、アメリカのセールスフォースという会社の参入の例です。セールスフォースは実はもう既に非常に巨大な企業になっていて、クラウド専業のサービス企業ですけれども、売り上げが3,000億円以上あります。日本でも相当活発に事業を展開しています。トヨタやゆうちょ銀行もクライアントになっています。この記事は電子化を含めた医療システムをクラウドでやりますという話で、もうマーケットインを始めています。お医者さん一人当たり月に7,500円という非常に入りやすいモデルです。今の日本の医療保険費の構造や病院の経営の構造を考えると、クラウドは非常にフィットしていると思っています。これは今後爆発的に普及する可能性が高いと見ています。

 次が、ヘルスケアとスマホの融合のお話です。右側が「ルナルナ」というサービスですが、もう既にテレビの地上波でもコマーシャルを始めましたから、ごらんになったことがあるかと思います。ヘルスケアの領域で、今まで予防医療というのはビジネス化が非常に難しいと言われておりましたが、スマホとSNSで課金ができる形になってきておりますので、事業として成立する可能性が非常に高くなってきた。これまでビジネスモデルが描けなかったものが、こういうネットワークインフラの構築が拡大する中で、課金可能な仕組みができつつあるということをしっかり見ていく必要がある。特に各地域のクラスターではヘルスケアのモデルは非常に多いので、いかに早期にきちんと対応するかがポイントかと思います。

 あと、スマホとタブレットの話です。情報管理端末としてどんどん機能を拡張させていて、私たちのライフスタイルやビジネススタイルにものすごく入ってきていて、既になくてはならないデバイスになっています。それがさらにこれからEVや住宅など、冒頭でお話をした「融合」のキーワードとくっつき始めているので、その中でどういう産業が成立して、なおかつ、一番いいポジションを、どの会社が、いつ、どういうモデルでやるのかが、これから非常に重要な形になってきています。個々の企業が、それらを見ながら戦略を立てていかなければいけないという状況であります。

 最後が、これはエネルギー関連資源の大変革のお話です。これは、今、右側にシフトしていますという絵なのですが、過去と一番違ってきているところがバイオマスのところです。可食、非可食に一応分けてはおりますけれども、技術がここ数年で非常に進んできていて、いよいよコマーシャルプラントで本格稼働が見え始めています。アメリカのベンチャーキャピタルも、この辺にものすごい勢いで今、お金を入れ始めており、彼らの動きは、当然、イグジットを求める投資なので、何らかの目当てがもうついたという判断だと思います。エクソンモービルなども、今後5年でここに6億ドル投資をするということをきちんとIRで発表しており、いよいよ本格的にこういう動きが加速してきています。

 それに向けてそれぞれのメジャーの動き、穀物メジャー、種子メジャー、化学メジャー、オイルメジャー、やはりバイオテック関係のところのR&Dの技術を獲得するという動きが非常に活発になっています。特に、Exxon、Cargill、DuPont、Dow、この辺のところはもう既にR&Dの全体の6割をバイオに持っていっているという話もあります。今まで彼らがこれまでやっていたオイルリファイナリーなどからバイオのリファイナリーにR&Dの費用の6割を向ける。と、それほど大きい変化が起き始めているという事になります。

 次は向こうで出てきている藻類系のベンチャーのスライドです。

 次が、今のお話、6つほどの中で、ビジネスモデルを大きく革新していかなければいけないという状況にこれから差しかかるということで、皆さんご存じの国内の3電気メーカーさんの今の様子です。非常に苦しい、厳しいということだと思います。

 これもよく使われ始めていますけれども、我々も3年程度前から、こういうバリューチェーンの中、スマイル・カーブの厳しさは、コンサルのテーマとして長くやってきております。特に真ん中のポジションの企業は非常に苦しくなってきている。ものづくり、組立加工系、これはここには書いていませんけれども、モジュール化という動きとも切り離せないと思います。上流、下流、どこにポジションをとるのか。付加価値をどう高めるかが、非常に重要となってきています。

 1990年前後にITビジネスが、真ん中のハードウェアの付加価値が急速に減少した中で、上流のCPUをインテルに取られて、下流のソリューションのところをIBMが押さえたという動きがあるように、先ほどお話しした全体統一の新たな大産業が出てくる中で、これから、どこに、いかなるポジションを取るのかということが、日本企業にとって非常に戦略的に重要な時期になってきていると思います。

 次のスライドは、6つの軸を考えた上で中長期のポジションなどを考えるには、そもそもの巨視的な視野を持った総合的な戦略が必要であり、それに向けて外部との連携をどう全体融合の形でつくるかということが大事だというお話のものです。

 また、我々はオープン・イノベーションの構成要素として8つ程度のファクターを並べているのですけれども、次はその絵になります。特に今日のテーマですと産官学連携があるわけですけれども、これも今申し上げた6つの中でどう考えるのか、その6つの状況変化、環境変化の中で、学側、あるいは官側がどう考えていくのかがこれから非常に大事になると思っています。

 今の前段の話を受けて、地域イノベーション戦略のあり方のようなお話をさせていただきますけれども、まず、やはりシリアスだなというところ、これは工場の海外移転の絵になります。新規の国内工場の立地件数は長く右肩下がりで来ていて、その一方で海外の設備投資金額は右肩上がりになっています。日本の企業は、やはり海外移転の傾向をはっきりと明確に示しているということだと思います。

 地域イノベーション戦略の課題とあり方です。これは各クラスターの役割や現状のお話です。やはり10年間、先行的にやってきて、それなりにいい成果が出ている場所も出てきているのではないかというふうに見ております。それはどういうことかは、もう少しあとでお話し申し上げます。この絵がそれに至る前に、戦略の課題で、先日の地域イノベーション戦略支援プログラムの審査委員会で皆さんがおっしゃっていたものを少し抜粋して中にまとめ込んだものです。こういうご指摘がある。

 非常にきちんと見て出された、ご炯眼の課題認識であろうというふうに思いますけれども、やはりスピードが大事である、厳しい競争環境の中でどう生き残るのか、今までの延長線上ではだめだ、内部環境、外部環境分析を更にしっかりやらなければだめだ、選択と集中をきちんとやるべき、事業化のスピードをどう上げていくのか、そもそも最初から3年とか5年という研究期間でいいのか、5年も研究していると、もうとっくにスマートグリッドなどは普及してしまうのではないかというご指摘などもありました。その辺の意識を根本的に変えていかないと、本当にビジネスになるのかどうかという状況になってきているということかと思います。あと、地域の産が抱えている経営課題や事業課題に対して、学の側の寄り添い方というか、理解もまだまだ足りないというご指摘もありました。

 少なくとも、グローバルな視点できちんと緻密な調査を実施して、最適なビジネスエリアやポジション、こういったものをしっかりと考えて、クラスター構想を戦略の中に反映していかないとなかなか難しい。速さもどんどん早くなっているので、事業化に向けたタイムラインの意識をこれまで以上に上げましょうというご指摘でした。

 次が、そのようなお話を受けて、個々に最低必要なことを抽出して書かせていただいています。産業融合が進みますから、ポジショニングとかビジネスモデル、それがどう地域に対して雇用を生み出すことができるのか、またできないのかということを考えないといけない。さらに、特区を機動的に活用することも重要。さらに、グローバリゼーションというお話では、アジアに対しての情報収集、新興国の情報収集を更にアンテナを上げてやる必要があります。当然、チャンスもある。日本で枯れているような技術、陳腐化している技術でも、案外、向こうではマーケッタビリティがあったりするようなものもある。そういう情報をきちんと集めることが大事だと思います。

 アジアも、研究開発力がすごく上がってきていますので、競合相手を見るときに、欧米だけではなくて、アジアもやはり競合相手としてしっかりと把握をしていくことが重要だと思います。

 また、マーケティング機能等々、マーケットが今どうなっているのかという情報が逐一タイムリーに入るようなマーケティング機能のようなものを地域の中に自立的に持っていく必要がある。最後、下は、技術の高度化に対しては、先ほどもご指摘もありましたけれども、やはりオールジャパンということも、少しテーマごとに考えて臨んでいく必要があるのではないかというふうに考えています。

 先ほど、いい地域もありますということをお話し申し上げましたが、実際にこれに近いことがやれている、あるいは、このレベルに相当追いついているような場所もあるかと思います。この絵は事例分析で総合評価が非常に高かった4地域でどういうことを書いているかを分析しました。やはり、こういう地域、先駆的に点数のいい地域は産に近い機能を、もう地域が自立的に内包していることが特徴としてはっきり挙げられるのではないかと思います。事実上、大企業の中の緩やかな機能、大企業がそもそも持っている機能が地域の中に緩やかな形で生まれ始めている。いかにこういう成績のいい地域にあるナレッジを他のエリアに移していくか。例えば、これらを地方に多いアグリビジネスに対応した形のナレッジに変えていくなど、そういうことを考えていかなければいけないと思います。

 次のスライドが、地域クラスターに必要とされると思われる機能です。企業の中にある機能を、地域が自立的に緩やかな連携の中で確保、獲得していることがクラスターの1つの条件だと思いますけれども、例えば、どんなものが必要なのかをまとめたものがこちらです。企業ならば、こういう部門がそもそもやっているところが右側に書いてあります。必要なものが左側で、真ん中は、それをもう少し具体的に書かせていただいています。特にグローバル市場・事業・規制動向や事業機会の調査分析、こういった機能が非常に大事だと思いますし、競合技術の分析や調査等々も非常に大事だと思います。あとはタイムリーな変化にどう対応していくか、そこの情報のフィードバックのインフラのデザイン、この辺は何度もこれまでも指摘されていると思いますけれども、まとめるとこういう形になります。

 最後に、大学等々のプロジェクトでここまでやる必要があるのかという話なのですが、そもそも地域で産業創出や雇用創出を本気で考えるのだったら、ここまでやらないと実は出てこないと私は思っています。

 以上です。

【有信主査】  どうもありがとうございました。それでは質問等、ありましたらよろしくお願いします。

 今、色々非常に重要なポイントを説明していただいたのですけれども、1つの重要なポイントは、イノベーションを考えて地域で雇用創出をしようとしたときに、相当の地域で、結局、みんながやっているような取組をそれぞれやっていて、逆に言うと、何のために地方の行政が絡んでいるのか、何のために地方の大学が絡んでいるのかの役割意識があまり明確ではない気がする。

 この辺について、本当はどうすればいいのかが一番課題だけれども、今、追いかけている方向の中で、色々新しい方向性も見なければいけないことを示してもらい、具体的に今後どういうふうに手を打っていくか、何かいい案があったら、お考えを少しお願いします。

井上委員】  やはり、特に政治、政権交代の過程で、せっかくここまでの継続性があって、実際、成果は生まれ始めていることは間違いないと思います。雇用などの成功事例は、多分あと3年から5年あれば生まれてくると思います。もちろん、世界も非常に速く、彼らとの競争になるわけですけれども、それでもやはり持続性を持って政策を続けることが、まず一番大事だと思います。

 雇用は、先ほども資料のスライドの幾つかでお話し申し上げましたが、これから各国にとっても、今、世界中の経済情勢などをかんがみても、多分最も重要な課題になると思います。きちんとした継続性のある雇用によって、それによって始めて暮らしが成り立つと思います。そこの政策がぶれてはならないと思うんです。これから、もしかしたらまた政権がかわるかもしれませんけれども、ぶれてはならないと思います。まず、そこが一番重要なコンセンサスではないかと思います。

【大津留委員】  大変示唆に富んだ分析をしていただき、私どもが感じていることの企業側の分析をいただき、ありがとうございました。

 2つほど、今日の分析、ご発表を聞いて、やはり産学官という風土の違う組織が同じ時間軸上でやるときに、どうしても基礎とコンペティティブな企業のスピードは当然差が出てきますので、同じ時間軸上でやる工夫、仕掛けも必要なのです。まずはその意識面、特に大学の研究者はそうですけれども、やはり、スピードを入れたベンチマーキングの環境といいますか、日常的な認識にどうしてもそういう競争的な環境になくて、企業側の知見・英知を大学の研究者に、何かそれを補う教育プログラムのような、その辺のアイデアをお伺いしたいと思います。

 2つ目は、先ほど言いましたように、やはりマーケティングなども典型ですけれども、オポチュニティ、機会を自分たちで掘り起こしていかないと、いつまでたっても受託などにとどまり、自立的な組織にならないということがあって、何かいいご提案があれば、ぜひお聞きしたいと思います。よろしくお願いいたします。

【井上委員】  1点目は、これは少しお答えになるかどうかわかりませんけれども、やはり、アメリカのクラスターなどを見ていますと、ローテーションがすごくある。あのローテーションを何か日本でももう少し仕組み的にサポートできないか、これは政策の介入ができる余地があるのではないかと思う。特に先駆的に成功し始めているところが幾つかありますので、そこでやられた事例のようなものを産官学の間でうまく人材のローテーションのようなものがきちんとできてくると更によくなるのではないかと思います。

 米国は本当に産官学の間で非常に異動が活発です。時限性の大学の先生も沢山いらっしゃいますし、それをまた民が積極的に迎え入れる、シンクタンクも迎え入れるような動きがあります。何か少し、そういうローテーションを促進できるような仕組みを政策でデザインできれば、更にいいというのが1つ、前からこれは感じておりました。

 次はオポチュニティです。これは多分ビジネスモデルとも非常に関連してくるのだと思うんですけれども、特にベンチャーの場合は初期段階では、どうしても日銭を稼がなければいけないので受託等々から始めるケースが多いです。そこでプラットフォームをしっかりつくっていくわけですけれども、プラットフォームを持って更に付加価値の高いモデルに行けるかどうか、そこで本来は人やお金などのプラスアルファのリソースが絶対に必要なのですけれども、そこのジャンプが、やはり地方のベンチャーの場合難しいと思うんです。そこをどうジャンプアップさせるかということについては、これも何か政策のヒントがもしかしたらあるかもしれません。ビジネスモデルとして、受託等々のところまで来て、きちんとした研究のプラットフォームが持てているものは、ビジネスモデルを横一本からT字に深堀りしていく、付加価値の高いところを深く掘っていく、これをやっていかないと大きくならないわけですけれども、このT字に深堀りいくときに何かやはり違う動きをサポートできるようなあり方があればいいのではないかと思います。そこのところ、「二段ロケットに点火」とよく言いますけれども、多分、ビジネスモデルを変えなければいけない。ところが、ビジネスモデルを変えるときに、例えば、バイオベンチャー等だと、受託でプラットフォームを持って、そのプラットフォームからいい創薬のシーズを開発していくわけですけれども、その創薬ベンチャーに変わるときに、これは実は大幅にモデルが変わって、人の役割分担もかわる。

 アメリカの場合は、このモデルチェンジが非常に上手にうまくいきます。その初期のプラットフォーム型ビジネスに取り組んだ人たちは外に出て、新たに自分たちに向いたポジションに移動する。あるいは、スタートアップ期のCEOがCTOにポジションチェンジしたりと、体制の転換、スイッチングが明確なのです。本来、ベンチャーが大きく伸びる為には、初期段階と第二段階のところで、ビジネスモデルを変えることが必要なことが多く、それに伴って、人や体制もやはり変えてゆかなければいけない可能性があります。米国にはそうしたことについての暗黙の合意のようなものがあり、あまり抵抗感がない。スタートアップ専門のアントレプレナー達も沢山います。日本の場合は、どうしてもベンチャーの社長が現在のポジションに固執したりしがちなので、自分の向き不向きについての自己認識をしっかりと持って、役割が終わったら次に行くとか、再度スタートアップ型に挑戦するということがあるべきで、それが称賛されるコンセンサスのようなものが持てると、更に役割分担も明確になってくると思います。

【有信主査】  はい、どうぞ。

【松原委員】  興味深い話をどうもありがとうございました。1つお尋ねしたいのですけれども、今日のお話は1、2が企業の話で、3が地域のイノベーションの話でした。変化の中の1番目に挙げられています、いわゆる主要産業の融合、そういうものについては企業がグローバル競争の中で、社内のイノベーションシステムのようなものを構築してきている部分があると思います。R&Dに関しましても、融合型の、従来にはないような新しいタイプの研究所を、例えば、武田や富士フィルムなど、色々つくってきていると思うんです。そういう企業のイノベーションシステムを地域のイノベーションシステムという形で広げていった場合に、従来は、ポーター型で言えば産業クラスターのような形、特定産業に絞った形でクラスター形成をしてきたと思うんですけれども、そうではない新しいタイプのクラスター、あるいは、新しいタイプの産業が融合していくような形での地域イノベーションをどういうふうに想定したらいいのか、その辺についてお考えがあるのかどうか。

 私が最近読んでいる本で言うと、デンマークあたりの風車のクラスターがITなどとも絡んで連鎖していくとか、カリフォルニアあたりに複数のクラスターが連鎖していくような、そんな図はかかれているのですけれども、それをつなげていくような論理というのはあんまりはっきりしていないように思っています。何か井上さんのほうで、そういった産業が融合したりしていく中で、地域のイノベーションシステムというのはどういうふうに新たに構築していくのか、何かお考えがあれば教えていただければと思います。

【井上委員】  おっしゃるとおりで、大企業も非常にイノベーションインフラのようなものをオープン化させてきていて、私たちのコンサルもそういうテーマが実は結構増えてきています。特にグローバルに見て、どういうところとアライアンスを組めばいいかというところで、ロングリストからショートリストのつくり込みのようなものも、プロジェクトとしてあったりします。

 それと、もう一つ目立っているのが、3ページのスライドの一番下のところで、やはり異業種連携というのが非常に増えてきているのです。これは住宅と自動車、それからヘルスケアのようなところでの横の連携が増えてきていて、合弁会社をつくります、ジョインベンチャーをつくりますというような話が相当増えてきています。これもやはり個々の産業の融合に対しての1つの彼らの方策なのだと思うんですけれども、クラスターも、今ご示唆されたように、テーマの違うクラスター間の連携のようなものが、案外これまで以上に重要で、そこから新しいものが出始める可能性があるかもしれません。

 大事なことは、その融合の向こう側にどんなイテグレートされた新しい産業があるかというビジョンをきちんと共有することだと思うんです。これはブレストを本当に多くやって、あるいは、米国の先進的なベンチャーなどの動きをしっかりと見ていくことが多分ヒントになるのだと思います。

【有信主査】  どうぞ。

【清水委員】  スライドの28ページに愛知、長野、神戸、福岡の、いわゆる総合評価がA以上のものについて事例分析がございます。このような評価の高かった知的クラスターの事業は、本来はどうなっているべきだったのか。たとえば、出口側の厚生労働省とか経済産業省の大きなプロジェクトに発展してきているとか、あるいは、先ほど成果がもう少しで出るのだという観点から見て個別にどういう状況になっているべきか、教えていただきたい。

 もう1つは、先ほど野長瀬さんのほうからも提示があったと思いますけれども、地域では産学官連携の中で、やはり産産連携の中に学や官が入っていくというのは結構重要な感じがするんです。何かというと、例えば、こちらの川崎の東芝の本体と東京大学、あるいは産総研の直接の共同研究は産学連携ですけれども、地域の場合は、比較的中堅・中小企業であって、地域の企業のお客さんは、本当は川崎の東芝だったりするのです。したがって、すぐれたプロジェクトを実施するには、私も産産連携に割って入ることは極めて現実的だということはよく共感します。そういうところを踏まえて、企業の関わり方、特にこの4つの地域に関してのコメントが何かあれば教えていただきたいと思います。

【井上委員】  まず、この地域の現状なのですけれども、これは先ほど、今日まさに付議された支援プログラム等々の評価とか、あるいは去年の評価などを見ていましても非常に順調に来ていると私は見ています。さらに、その機能を、自立的にプラスアルファをどんどんされている。特に福岡とか愛知については、持っておられる機能をプラスアルファするというのは、自立的に考えてプラスをされているという印象を非常に強く持ちました。よって、今ここでお金を絞っては絶対にいけないという意識を強く持ちました。

【有信主査】  ありがとうございました。今日は野長瀬さんと井上さんとお二方から貴重なプレゼンテーションをいただきました。特に後半の井上さんのお話は、ある意味で、今、進められているそれぞれのイノベーションクラスターが、従来型、いわゆるモデルケースとして、一般的に言われていること、あるいは、世の中の人たちが注目している内容などがベースになっているケースが多いのだけれども、これをさらに発展させようと思うと、やはり新しい産業融合のようなことが必要だと言われました。基本的には、1つの観点は情報化が大きく進んでいる先に、どういう形のイノベーションがあり得るか。

 野長瀬さんのお話の中にあったように、それぞれで担う人の性格は違うので、やはり、どういう形でそういう人を連れてくるか。結局、各地域の中にいる人だけでやる必要は全くなく、必要な人間はどこからでも連れてくればいい。目的は、その地域で産業が活性化し、地域の雇用が増えればいいということなので、従来型の産業の延長上で大きく育つという形にこだわっていると、やはり限界がある。

 これから先どうやっていくかという話なのだけれども、今、そういうところで進んでいるものを、1つ先に向けて努力をしてもらうように、そこにやはり学の力が必要になってくる。そこで工夫をしてもらう。要するに、次のステップにどういうふうに進むかということなのです。そのようなことが多分重要だろうと思います。相当難しい課題ではあります。

 実は、地方の行政の役割が、今まで、それぞれのイノベーションの組織の中に人を出すという程度の役割しか果たしていない。様々な行政がかかわっているような仕事、規制、サービスなどが具体的に次の事業に進むときに何らかの役割を果たす可能性もあるわけです。本当はそこまでスコープを広げて考えていかれればいけない感じだと思うんですが、それは今後の展開の話になってきて、フォローアップをどうやっていくかという話と絡んでくるので、また色々議論させていただければと思います。今日は本当にお二人の先生方、ありがとうございました。

 少し時間が押してしまいましたが、次の議題に移りたいと思います。これまでの委員会での意見を踏まえた今後の地域科学技術の推進についての中間とりまとめ案が出されていますので、これについて事務局から説明をお願いします。

【竹下専門職】  資料をご参照ください。資料5にございますとおり、「今後の地域科学技術の推進について(中間とりまとめ)骨子案」ということで、これまでプレゼンテーションを行っていただくとともに様々なご意見をいただいておりまして、当然、今後さらに様々なご意見をいただきながら肉づけしていくような形になりますが、簡単な骨子の案を事務局のほうからお示しさせていただければと考えております。

 今までの議論の構成といたしまして、まず1.「文部科学省におけるこれまでの事業の成果について」が柱になると考えております。こちらについては1回目の会議、委員会においても説明させていただきましたが、これまでの知的クラスター、都市エリア事業等の実施を通じてどういった成果が得られているのか。また、こういった地域の主体的な構想に対する研究開発支援をこれまで特に重点的に行っておりましたが、そういったことについてどういう意義があったかということを整理していくことが必要なのではないかと考えております。また、それについて具体的にどのような成果が出てきたかというのが2つ目になります。

 続きまして、文部科学省のみならず、科学技術振興機構(JST)におきましても同様に、本日も色々意見等がございましたが、いわゆるイノベーションプラザ、サテライト等を通じた産学官連携の地域における地域開発振興の取組が進んでいたと思います。ですから、こういった部分につきましても、文部科学省の施策同様に、プラザ、サテライト等が廃止されましたので、今後成果などをどのように考えていくか見ていく必要があると考えております。

 続きましては、2.で、こうした成果を踏まえまして、今後、文部科学省に期待される役割についてどのように考えるか。まず、1つ目は、現在の施策のつきましては、先ほどの研究開発の支援に重点を置いた支援から、徐々にソフト・ヒューマンに重点を置いたイノベーションシステムの構築支援という形に支援の形が変わってきております。そういったことについて、そもそも、今行っている支援の意義をどのように考えるか。また、こうした構築に向けて、今後の部分で、色々ご意見をちょうだいしておりますので、何が国の果たすべき役割なのかということについて再度、整理が必要なのではないかと考えております。また、もともと地域開発振興施策というものは当然、我が国全体の科学技術の高度化、多様化の重要な柱になっております。ですから、こういった部分についても、必要性についてどのように考えるか必要だと考えております。

 3.「産学官金連携の意義について」、産学官金の連携について議論しておりますが、そうした機関ごとに、各主体の役割を改めて整理した上で、今後その主体における期待される役割がどういうものか、また、そういった連携をどのようにやっていくか。本日、プレゼンテーションにおいても、こういった仕組みにおいて、どういったものを組み込んでいけばいいかとか、色々ご示唆いただいたと思いますが、そういった部分も踏まえましてどういうふうにその連携を強めていくかについて考えることが必要かと考えております。

 また、当然、そのシステムの中で、今、プロジェクトディレクター、コーディネーターの役割は、委員会においても繰り返し意見が出ておりますので、各主体の役割とともに考える必要があると考えております。

 次のページ、4.になります。「広域連携・国際連携のあり方について」、こちらも相当今回の委員会の中で議論として出てきていると思いますが、今後、各地域における成果を、より高いもの、より市場を獲得していくような出口に近いものとするためには、まず、こういった広域連携、国際連携の意義を考えつつ、今後どういったものが必要となってくるか。そのために本日、ご提言があったような、海外クラスター、市場等の調査を行い、海外のクラスターの取り組みのシステムをどのように日本の中に取り込めるか、参考にできるか。場合によっては、施策を考える参考にしていくということもあり得るかと思いますが、整理していくことが必要ではないかと考えております。

 5.は「人材育成・確保のあり方について」。地域において当然、今後、継続的にイノベーションを創出していくことが必要となっておりますので、イノベーションのための人材をどのように確保するのか、育成していくのかについて整理していくことが必要ではないか。またその際、どういった人材が必要なのかという人物像のイメージを持っていく必要があると考えております。

 以上、こうしたことを踏まえまして、まだ具体的な議論としては出ておりませんが、6.といたしまして、「新たなイノベーションシステムの構築」ということで、現在、地域における成果の社会実装、海外市場の獲得を進めるために今後さらにどういったことが必要か、具体的に踏み込んだ議論が必要ではないかと考えております。

 その中の1つとして、例えば、本日もございましたが、オールジャパンとして取り組んでいくことの重要性のご指摘がございましたので、国の課題を解決するために各地域の取り組みを戦略的に国が支援することもあり得るのではないか。これまでの成果を集約して早期の社会実装を目指せるのではないか。そういった中で新たなプロジェクトマネジメントをどのようにやっていくかについて、整理していくことが今後必要になってくるのではないかと考えております。

 最後に「参考」として、過去に総合科学技術会議、平成20年5月19日に「科学技術による地域活性化戦略」において出された図になります。こちらは「地域拠点のエコシステム」ということで、今まで知的クラスター事業等、過去に行われた地域事業を含め、各省庁においてもこういった事業が行われておりますが、各地域における多様化、多様性の強化戦略として機能するとともに、成果の出てきたものが、いわゆるグローバルな拠点として成長して、トータルの中で強靱な、いわゆる地域の拠点のエコシステム、日本全体としての強靱なエコシステムができ上がるということを提言された報告書になります。

 今回、6番目までご提案させていただいているオールジャパンの取り組みは、これまでの地域の事業の取組の中で得られたものを、こういう形で引っ張り上げる、そういった成果をまとめていくことも、戦略としては重要な観点となるではないかと考えております。

 簡単ではございますが、以上で説明を終わります。

【有信主査】  はい、ありがとうございました。先ほどの講演でもありましたけれども、今までの施策によって、少なくとも地域にそれぞれ基盤は形成された。けれども、このまま放っておくと、この基盤そのものが、ある意味では劣化をしてしまう。それぞれの地域の特色を生かしながらやっていく上で、例えば、その地域の大学の役割、あるいは地域の行政の役割、国の役割がどうあるべきかというところを少し詰めていきたいということだと思います。今日のお二方のご講演の中にも、そのための示唆は幾つもあったと思います。

 今日の中間とりまとめ骨子案について、ご意見を色々伺えればと思います。質問やコメント等がありましたら、どうぞ。

【受田委員】  まず1つ感じるのは、「地域イノベーション」という言葉が定義として十分になされているのかという点がございます。やはり、「成長」という言葉と「発展」という言葉にすみ分けが必要で、おそらく「発展」を「イノベーション」ととらえていくとすると、例えば、先ほどのエコシステムの、参考資料で最後にご説明になられた、とがっている部分とみなしてもいいのではないかと思うんです。今、「地域の多様性」という言葉もありましたように、すべてがこのとがったところを目指しているわけではない。イノベーションが現実、中長期的に見通せるエリアは、先ほどの4エリア等もございましたけれども、ある程度もう特定されていると想定できるのではないかと思います。

 したがって、申し上げたいことは、すべてをイノベーションに向かわせる、あるいは、目標がすべて地域イノベーションであるということではなく、例えば、「成長」の広義の意味として「持続可能性」を目標として掲げるようなエリアもあってしかるべきではないかと思います。

 一昨日、国家戦略会議においても、学の役割として「センター・オブ・コミュニティ」という言葉がありました。また、前に国大協の国民への約束というところでは、「リージョナルセンター」という言葉がありました。このあたりに込められた学の役割は、イノベーションではなく、もしかすると一方で持続可能性の部分を重視している考え方が少し色濃くなっているのではないかと思います。ですから、この委員会においても、ぜひ、少しカテゴライズした形で、全部がイノベーションを目指すのだというような発想ではなく、エリアごとの多様性に対応した政策・施策に反映していただきたいというふうに思います。

【有信主査】  今のお話は少し誤解があると思うんです。イノベーションというのは、逆に言うと、持続可能性、サステナブルであるためにも現状維持でいいというわけではなく、現状維持で行けばそのままどんどん劣化をしてしまうという状況なので、基本的にはサステナブル・グロースでなければいけないという基本的な認識があって、そのためには、やはり不断のイノベーションが不可欠であるという、これは共通認識なんですよね。だから、いわゆる、とんがって大きく発展するものだけがイノベーションではなくて、サステナブル・グロースをきちんと保つためには、やはり制度、仕組などを変える必要がある。産業というと大げさになり過ぎるかもしれないけれども、その中で新しい地域の雇用が拡大するためには、現状維持でいると、それがどんどん不可能になってしまう。こういう危機意識があってやっているので、今の受田さんのご主張もそのとおりだと思うのだけれども、そこの部分は、皆さん方の共通認識として持っていてほしいと思うんです。

 多分、そういうふうに思っている方もいれたかもしれないけれども、そのまま行ったのではどんどん縮小均衡といいますか、地方がどんどん埋没してしまい、地方が埋没すれば日本全体が埋没するので、どうやって日本全体、あるいはそれぞれ地方を含めてサステナブルであるかを考える、これが基本だということです。

【受田委員】  1点だけ少しよろしいですか。今の有信主査のコメントに関して、そういうふうな認識を共通で持っていただければ私は全く異論ございません。そういう意味で、イノベーションのとらえ方が十人十色になってしまうと、偏り、ひずみが出てくる懸念がございます。ですから、今のサステナブル・グロースという考え方、これはごもっともな話ですので、ぜひそういった点も、こういう中間とりまとめ等に反映させていただければと思います。

【有信主査】  どうぞ。

【野長瀬委員】  手短にお話しします。実は、私は先ほどから企業を20年程度歩いているという話をしましたけれども、バブル崩壊後に日本がだめになるという意見も結構新聞には出たけれども、そのときに製造業を回っていて、だめにならないという実感があった。今、企業を回っていたときに、主査がおっしゃったのと同じで、イノベーションを起こさないと国が沈没していく雰囲気が、ものすごく満ちあふれています。結局、今何をしなければいけないかという課題は多分2つに分かれています。細かい制度設計は別にして、イノベーターの分母を増やすというのがまず基本にあります。もう一つは、支援の仕組みです。日本は、明治以来パブリックとプライベートの関係が政府部門と民間部門にしか分かれていないと言われます。本当は非営利組織が、そういうところをつなぐ機能がまだ弱いのだと思います。例えば、企業のOB、大学教員のOBなどからなる非営利組織があって、行政ができないことを補っていく。民間ができないことを行政が補っていく。そうしたパブリックとプライベートの仕組みができていないという感じがしています。

 非営利組織がしっかりしているほど、仕組みはサステナブルになるのではないかということを実感しています。今のご議論は、まさにそのとおりだと思います。イノベーションが不可避の分野でなにもやらないと日本が沈没するという感じが今、満ちあふれているんです。リーマン・ショックのときより厳しいと言っている企業家が多いです。

【有信主査】  はい、どうぞ。

【大津留委員】  提案とコメントです。もう色々な先生方からお話しいただいているのですけれども、まさしく私みずからも取組みますが、今、議論の中で、気になるのは、学際的なものと業際的なところにイノベーションの種があると僕は思っている。そこをインテグレーションするのですけれども、いわゆるスコープアンドスケールで軸を分けると、スケールは企業規模として、メジャー、マイナー、ベンチャー、メジャーは大企業の単一のプレーヤーではなくて、今、私が会話を始めようとしているのは業界団体です。機械系、情報通信系、できれば、私のホームであるエレクトロニクス系とももちろんやるのですが、今、会話を始めています。メジャーな方々と幅広く、いわゆるオールジャパンのプレーヤーの方々と交流したいということです。

 2つ目、マイナーは、ドイツで言うミッテルスタントである中産階級GNT、中小企業の方々とのリンク、これもミドルクラスです。それで、チャレンジャーなベンチャー、これはどんどん全国から出てくると思いますので、このメジャー、マイナー、ベンチャーをスケール的に分けることが重要。もう一つ重要なことは、スコープであり、例えば違うセクター、バイオと私が得意とするエレクトロニクスではアプローチが全く違うので、これはやはりセグメンテーションしたほうがいい。今、国がやっているグリーン系ライフイノベーション、プラス情報通信、プラスαで、このセクターやセグメンテーションをマトリックスにして、マッピングすると、我々は全部できないのですけれども、我々の得意なスコープ、スケールで、少し全国の企業、団体などキーになる方々とつながるアクションプランの一つ、きっかけにするといいなと感じています。

 この行政イノベーションは、特に一例で言うと、総務省系のTTCですけれども、情報通信技術委員会が国際標準だけではなくて、スマートグリッドと、我々電気系で言うと、充電メーカーと家電メーカーが組めないかとか、このように組み合わせが考えられる国というのは、ばらばらの欧米、アジアと違う。この軸がいいかどうかわからないのですけれども、そういう業際、学際の先生方の色々な知見をマッピングというか、1つきっかけが見出せそうな気がしております。

【有信主査】  はい、どうぞ。

【井上委員】  今のような業際的なお話、動きに特に関連するのですけれども、エッセイニュース、特にリンクトインのような仕組みをうまく活用できないのかということを最近思うようになっていまして、もしかしたら、今、企業の中からR&D、シーズは出ているわけですけれども、もう2、3年先くらいから、リンクトインなどのソーシャルネットワークの中からプロジェクトが立ち上がり、皆さん、アフターファイブでR&Dのアイデアを出し合ったり、そこから物が生まれてくる可能性がだんだん高くなってきているという意識を持っています。その業際型のお話等も、リンクトインを活用し、クラスターの中で何かプロジェクトをうまく立ち上げてやっていくと何か出てくる可能性があるのではないかというのは、少し思ったりしています。

【有信主査】  文部科学省でSNS一つ立ち上げますと。

【井上委員】  いいと思いますね。

【有信主査】  はい、どうぞ。

【清水委員】  今の骨子案、私は非常にいいと思います。従来の都市エリアの一部とか、JSTイノベーションプラザでやっていたボトムアップ的な部分よりは、もう少し強力なリーダーシップを発揮すべき分野を意識されているということで、文部科学省がやるべきものとしては、地域活性化ではなく、大きく海外に製品やサービスを輸出する、あるいは、課題を解決していくということだと思うが、これはこれで非常によいと思います。

 したがって、現在、文部科学省が何とか取り組んでいると思うんですが、ソフト・ヒューマンのところにお金をつぎ込んでいるだけではなくて、しっかりした形での資金提供を、プロジェクトに対してやっていくところがとても重要であると思います。

 分野の特定はとても重要です。もちろん、地域の発意のもとに自分たちがこれをやりたい、機能性食品をやりたいというような、そういうお話が出てくると思うんですけれども、今までそういう形でやってきたことで上手くいっていないところが結構あると私は認識しています。ですから、ある意味、やはり国としてしっかり地域の企業、あるいは地域の先生方が、グローバルに闘っている企業にどこまで食い込んでいけるのかわかりやすく言うことが必要。彼らをサポートするのか、そういった視点での研究開発のあり方も結構重要で、これが従来欠けていたのではないかと思います。

 特にヒューマンのところの話なのですけれども、地域イノベーション創出のために必要な人材とは何か。これは大学や財団の場合はすばらしい例がもうありますが、企業をどこまで巻き込んでいくかというところが重要。そういう意味で言いますと、色々な施策を考える上で、従来の知的クラスター、都市エリアの反省点、問題点があるとしたら、企業に対してリスクを取ることをさせにくかったことがある。いわゆる、資金提供をしてこなかったので、横で見ていても構わなかったというのが実態だと思うんです。そこにいかに彼らを、財団や大学だけではなくて、いい人を出させるか、そこが重要だと思います。

 もう一つは、自治体の役割も極めて重要だと思います。ですから、自治体の科学技術の担当、あるいは課長、次長、部長に対してどこまで影響を与えるか、こういったお金で影響を与えることはなかなか難しいと思うんですけれども、何らかの工夫ができないものかと思います。

 以上です。

【有信主査】  はい、どうぞ。

【木場委員】  ただいまの話と重複する部分が多々あると思うんですけれども、おそらくこういう場での議論が重ねられて、最終的な新たな地域の科学技術振興施策の支援の枠組みというものが組まれていくのだと思うんですが、1つ、しっかり認識しておかなければならないのは、昨年の8月に国際競争力強化地域等の指定を行った際に、各省庁の施策を総動員して、我が国に世界をリードし得る拠点を構築していくということだったと思います。では、ソフト・ヒューマンを支援する現行制度だけでそれが成し得るのかということを、もう1回、考えなければいけないのではないか。

 それは、まさに先ほどもお話がありましたけれども、各地で似たような取組みがなされているとすれば、国がそのいずれの取組みに対しても同じように支援するのではなくて、分野特化型の拠点を徹底して作り上げていく。また、その拠点となり得るレベルまで達していないところ、しかしながら大きな可能性を有しているところは、地域間の連携という仕組みを作った中で引き上げていく。都市エリア、知的クラスターの仕組みのように、あまねく広く公平にという考え方ではなくて、ある面では、言葉は適当ではないかもしれませんけれども、極めて合理的な不平等という考え方に立った拠点の形成をしていく。先ほどもお話があったように、相当の可能性を有した地域が育ってきているというのは、私も実感として思っております。

 残念ながら、先ほどの井上さんの資料の中には北海道は入っておりませんでしたけれども、第Ⅰ期の知的クラスター、第Ⅱ期の知的クラスター、私どもは対象とする取組みを変えております。第Ⅱ期の知的クラスターに関しては、現行の私どもの施策の柱に合致させておりますし、また、経済界等が進めている施策とも合致させている。これは北海道だけではなくて、各地域そういう考え方に立った科学技術の振興という政策方針を打ち出されているところも多々あると思いますので、先ほど申し上げたように、省庁の施策を総動員した枠組みを作られたわけですから、その実態に合った支援施策、そしてまた、国が地域に対してそれだけ重要な使命を課すという観点に立って、新たな枠組みの議論をしていただければと思います。

【有信主査】  はい、どうぞ。

【川島委員】  今の骨子案の中を見まして、1つ、「産学官金連携」という言葉を初めて見ているのですけれども、先ほどの井上委員のプレゼンテーションの中にファイナンスのスキームという言葉も一部入っておりましたが、多分そこで想定されているのはファンドのようなものと思います。実際には、事業の全体のスキームを考えると、ファンドなどの自己資本(イクイティ)が総所要資金に占める割合は大体20%から30%、残りはほとんど金融機関の融資(デッド)で賄われるわけです。そうなってくると、基本的には事業のリスクをどのように分担するかということが結局、参加主体の役割を議論する上で重要になります。

 今、清水委員のほうからもリスクという言葉があったかと思いますが、具体的な事業を想定しない限りリスクは発生しませんので、そこで初めて連携のあり方が本気で議論されるのではないかと思っています。

 もし、この地域イノベーション政策がそういった事業スキームをどんどん作っていくということが目的であるならば、簡単なものでもいいので、例えば、FSをやってみるなど、何か評価に折り込んでいくとか、採択の一つのスクリーニングの条件に入れていくとか、そういうことを取り入れていってもいいのかなというふうに個人的に思いました。

 以上です。

【有信主査】  色々ご意見をありがとうございました。これは今後、議論を少し詰めていく段階なので、今日いただいた議論を踏まえて、また次回、議論を深めていきたいと思います。それぞれの地域ごとに色々事情はあると思いますけれども、基本的に言えることは、本当に必要な力が総動員されているかというところはもう一度考え直したほうがよい。金融が入っているところで考えると、事業の大きさとリスクというのは、どちらかというと反比例し、事業が将来大きくなる可能性のあるものはリスクが大きい。現在現代価値に引き戻して資本コストという考え方を使えば、ある程度計算ができるのですが、そういう計算をきちんとやっているところはほとんどないです。

これは井上さんなども色々感じておられることだと思いますが、本当はもう少し、そういうリスクも踏まえて全体をうまく育てていくことが必要。地域ごとに、相当リスクを背負っている。大きな規模が見えているけれども、先例があってリスクが大きくなることがわかっているもの、先例がなくて非常にリスクが大きくて苦労しているもの、それから、産業も一次、二次、三次で、一次側に近いもの、三次側に近いものと、それぞれで状況は違うことも含めて、次回はこれらについて相当議論が詰められると思いますので、ぜひよろしくお願いしたいと思います。

 時間がもう過ぎてしまっていますので、本日は申しわけありませんが、この議論はここで打ち切らせていただきます。

 あとは事務局から報告事項をお願いします。

【竹下専門職】  資料6をご参照ください。今後の委員会の当面の予定について提示させていただいております。昨日の夜にメールさせていただいておりますが、今後の日程につきましては、第4回目を7月4日、第5回目については7月25日を今のところ予定しております。また改めて出欠についてはお伺いさせていただければと思います。また、本日お配りしております資料につきましては事務局のほうから郵送させていただきますので、そのまま机上に置いておいていただければ手続をとりますので、よろしくお願いいたします。また、旅費等の書類につきましても、帰りに事務局のほうにご提出いただければと思います。ありがとうございます。

【有信主査】  それでは本日、不手際で少し時間を超過してしまいましたが、これにて閉会としたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

―― 了 ――

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