資料4-2 公共の利益のための大学の知財マネージメント抜粋(仮訳)

 (Managing University Intellectual Property in the Public Interest)

慶應義塾大学 羽鳥賢一

(概要)
 30年前にバイドール法成立。大学における政府資金由来の知財に関する法的枠組みを確立。これまで多様な議論あり。30周年を機に、2008年6月に米国National Research Councilは各界の委員から構成される委員会をたちあげ、ステークホルダーの経験をレビューし、研究の事実を検証し、2010年10月に15項目の勧告を纏めた。

<基本的知見>
○大学のコアミッション:(1)発見、(2)学習、(3)社会参加(公共福祉の促進)
・技術移転(TT)は、公的資金によって獲得された知を公共の利益のために研究成果を使う人々に移転するものであるが、このTTは上記コアミッションの価値を高める。
○TTには多くの達成方法がある。

大学の知を社会に移転する8項目

(1)高度スキルを持った学生の就職・移動
(2)研究成果の発表・出版
(3)知の創作者と利用者との個別相互作用(専門家会合や会議等)
(4)共同・受託研究
(5)複数企業参加型共同研究、産学リサーチパーク
(6)企業へのコンサルティング
(7)ベンチャー起業
(8)既存企業やベンチャー企業へのライセンス

 ※上記項目は、しばしば補完的に使われ、経済に顕著な貢献がある。 


○バイドール法に基づく大学の技術移転は、大学の研究成果を国民に還元するに、従来の政府帰属方式よりも、疑いなくより効果的である。
○従来方式は、事業化において、限定的なインセンティブを発明者、大学、政府系資金提供者というステークホルダーに与えるにすぎない。
○この従来システムから、(1)発明を大学帰属とし、(2)ライセンス当事者や条件を任意にし、(3)発明者と収入をシェアするように置き換えることで、バイドール法は大学の発明の開示、特許取得およびライセンスの急速な加速に貢献した。

○現状のTTの大学の運用は、他の知の移転モードに対し重大な衝突はないし、アカデミアの規範を揺るがすことも無かった。

○同時に、大学間で力量に幅広い変動がある。ケースにより発明者の起業化に奨励が十分でなかったり、TTシステムの評価や説明責任が不足していた。
○そこで、大学の幹部、管理者、国民、研究資金提供企業、政府職員に対し、大学のIPマネージメントを改善する監視責任とともに15項目の勧告を纏めた。

<ミッションと基礎>
○大学のTTの第1の目標は、公共の利益のために、大学発の技術を迅速且つ広範に普及させることである。大学は、TTの目的を、大学のための顕著な収入増に基づかせることがないよう、思想として表現すべきだ。顕著な収入増は、しばしば手に入れにくいし、技術の速やかで広範な入手を損なう可能性がある。
勧告1
○大学のリーダー(学長、副学長、評議員)は、IPマネージメントに責任があるユニットに対し、明確なミッションを創設し、内外のステークホルダーに伝達するとともに、それに応じた努力を評価すべきである。
○ミッションステートメントは、大学の環境や創出されたIPの種類を考慮しながら、公共の利益のために大学発の技術の広範な普及の奨励に対する円滑で効果的なプロセスを支援するという大学の基本的な責任を思想として表現すべき。

<ステークホルダーの巻き込み>
○大学の管理支援と指導に加え、成功する技術移転プログラムは、ステークホルダー共同体との協議や巻き込みに依存する。ステークホルダー共同体とは、発明者(教員、他の大学スタッフ、学生)、企業、投資家、ケースにより地域経済開発担当者を言う。
勧告2
○相当大きい研究ポートフォリオを有する大学は常設のアドバイザリー委員会を創設することを考慮すべきだ。
(アドバイザリー委員会のメンバー)
(1)教員系と管理系
(2)企業インキュベーター、リサーチパーク、試作センター、起業教育プログラムのような機関内又は関連する事業開発単位のそれぞれの代表者
(3)関連する事業及び投資団体の会員
(4)適宜、地域経済開発担当者
○この委員会は、技術ライセンス部門が大学の目標やポリシーと一致した運用を確立すること、発明をいかに最良に活かすか考えること、及び新たな機会を特定することを援助すべきである。
○大学の共同体から引き出された独立の委員会は、発明者と技術移転部門間の紛争を聞き、発明の保護と商業化の観点からその解決を支援すべきである。

<組織のガイドラインと外部リソース>
○技術移転は、大学の研究管理機能と緊密な協力関係のもと実行されるべきであるが、それはTTOに現在関係した全ての機能が大学内でなされる必要があることを意味しない。
勧告3
○技術ライセンス部門は、研究への資金提供や実施における広範囲な事項にさらされたときにより効果的になるであろう。その目的は、技術移転部門を大学の研究管理に対し、近接配置させるとともに説明責任が果たせるようにすることで、最高に提供される。

勧告4
○小規模の大学や経験の少ない大学は、技術移転ポリシーや運用として次の選択肢を考慮すべきである。
a)教員や他の人々によるより大きな到達範囲を許容すること
b)同地域、又は研究力を補完する分野にある、より大きな大学との連携
c)所定の機能を適切なスキルやコンタクトを持った企業にアウトソースすること

<特許取得、ライセンス、マテリアル移転及びIPエンフォースメント運用>
勧告5
○大学は、大学発技術の更なる発展、使用及び社会貢献インパクトを最大化する特許取得とライセンス運用を追及すべきである。
勧告6
○より具体的に言えば、委員会は、公式でなく、「ライセンスで考慮すべき9項目」(2007年)として知られる良い運用事項の進化セットを支援する。
(1)ライセンスした発明の実施権を、発明した大学、非営利及び政府機関に残し置くこと、
(2)ライセンス(特に独占実施権)を投資、勤勉な発展および使用を促進させるように構築すること
(3)・・・(詳細は下記のURL参照)
http://www.mcgill.ca/files/senate/IP_Policy_9_points_to_consider.pdf

勧告7
○大学は、侵害者に対し軽々しく法的行動を開始すべきではない。そしてその行動は、第1に特許を取得しライセンスするための理由を反映すべきである。

勧告8
○研究者間、特に非営利機関の研究に携わっている研究者間では、科学的マテリアルの交換を容易にするため、保証人はマテリアルに対する要求への法令順守の監視を明確に奨励すべきである。
○それ以上に、技術移転部門は非営利研究機関の研究者間の交換ではMTAの使用要求をやめるか、又は、NIHが勧告したUBMTAやSLAのみを使うかどちらかにすべきである。

<スタートアップの起業>
○いくつかのケースで新会社の起業は、新技術を商業化するにベストな選択かもしれない。しかし、大学は、教員、スタッフ及び学生研究者の貢献を含め、成功のための条件を認識し、提供又は奨励すべきである。
勧告9
○新企業への技術ライセンスに携わる大学は、IP保護を確保するというプロセスをフォローするとともに、開発と商業化のためにスタートアップと既存企業のどちらが適切か、評価すべきである。
○この評価は、スタートアップの生存能力にとって必要な資産として、(1)市場ニーズの明確なコンセプト、(2)綿密なビジネスプラン、(3)投資会社、及び(4)適切なスキルを持ったマネージメントを含め、用意ができているのか決定することを含む。
勧告10
○一度スタートアップ会社の生存能力が決定されたら、大学発の技術を教員、スタッフ又は学生のスタートアップ企業にライセンスするための迅速な手続きや、より標準的な条件を考慮すべきである。

○現行システムに対し、少し批評もある。現行は、大学の発明者にその技術の権利を帰属させるか、または、ライセンス契約の追及や締結におけるより大きな自立を与えるかの何れかを与えるものであると言う。

<民間スポンサーとの関係>
○観察者は、民間スポンサーとのIP取扱の条件交渉のときに、これまでにしばしば摩擦と遅れを気づいてきた。また、何人かは、米国の企業が海外の研究大学と組むことを奨励するものであると信じている。
勧告11
○大学の技術ライセンス・スポンサード研究部門は、企業スポンサーとの間でしばしば長引くライセンス条件交渉を短縮化する取り決めを捜し求めるべきである。
○運用としては、大学が将来のロイヤルティ条件の交渉の代わりに、研究契約の手数料謝礼を受け取ることを含んでもよい。企業スポンサーに先端研究でない場合の研究成果への権利を与えたり、企業スポンサーが研究費を全額持つなら、その企業に研究成果への無料の非独占ライセンスを許可することもあるであろう。

<大学レベルの評価>
○米国の大学は、規模、研究ポートフォリオ、文化の面で極めて多様である。その結果、技術移転TTのアプローチは、各大学で確立されたミッションの枠内で正確に組み立てられねばならない。技術移転部門TTOの目標は、学習、発見及び社会参加に関する大学の成功を高めるものでなければならず、公共の利益のため、公的資金で創出されたイノベーションの移転を容易にするものでなければならない。個々の技術移転部門TTOの評価において、大学は自らのミッションに照らしてTTO組織自体を評価するとともに、TTOが広い意味で、教育と研究事業の一部であると認識せねばならない。

勧告12
○大学は、アカデミック部門や管理部門を評価するのと同じように、その技術移転部門の運用を定期的にレビューすべきである。
○これは、他の大学の技術移転部門から引かれたメンバー、関連する事業・投資団体のメンバー及び研究スポンサーの代表、研究者及び経済開発機関からなる訪問委員会を形成することを含んでもよい。

○実行の算定基準は、特許出願件数、特許登録件数、ライセンス契約件数および結果として生じるライセンス収入を十分超えて拡張されるべきである。他の測定基準は、契約交渉にかかった期間の長さ、TTOサービスに対する教員やライセンシーの満足度、例えば新たな治療法による罹患率や死亡率の減少のように、製品やサービスによって恩恵を受けた人の数を含む。

<国レベルの評価と説明責任>
○バイドール法は、政府資金研究において、大学発の発明の商業化を促進する健全で弾力的な枠組みを確立したものの、明確な監視責任の割当、構成要素の記述、包括的でアクセス可能な支援用データ収集システムの確立を怠り、政府監視のための効果的な枠組みを確立できなかった。
勧告13
○主な大学、専門機関及び連邦の科学機関は、企業との間の総合的な大学の知の交換の算定基準について、よりバランスされたセットの開発努力を調整すべきである。

勧告14
○連邦政府の監視責任の明確な割当があるべきである。恐らく「首長命令」として、下記を含める。
a)連邦TT法について、全ての機関の一貫した実行を保障すること、
b)「例外環境の決定」に関する行動及び機関の勤勉をレビューすること、
c)発明関連データへのアクセス・使用条件を含みながら、バイドール法のいくつかの条項の実行における「商業省」の規則への再訪、
d) バイドール法への改正提案に対して全政府的視点の立場を発展させるとともに、関連の機関、研究大学及び専門家集団とレビューできるような、技術移転に関する政府諸機関間で構成する委員会の設立
○効果的な役割を演じるため、監視部門は、その範囲を連邦研究機関と大学研究団体の双方にまで拡張することが必要。

勧告15
○連邦調査機関は、ライセンス契約やこのような活用をもたらす努力を含め、連邦資金発明の活用について、大学は信頼性を持って、首尾一貫してiEdisonにデータを提供すると言う要件を生き返らせるべきだ。
○これらのデータは、特定の契約の相手先や条件を開示しないことに同意した研究者が解析するために、入手可能とすべきである。

<本委員会のメンバー>
○Mark Wrighton, Washington University-St.Louis, Chair
○Mark Fishman, Novartis for Biomedical Research, Vice Chair
○Craig Alexander, Howard Hughes MedicalInstitute,
○Margo Bagley, University of Virginia Law School
○Wendy Baldwin, The Population Council
○Katherine KU, Stanford University
○・・・
(以上全18名)

お問合せ先

科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課大学技術移転推進室

(科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課大学技術移転推進室)