海洋開発分科会

第4期科学技術基本計画に向けた海洋科学技術の重要事項について

平成21年9月15日
海洋開発分科会

これまでの審議経過

○ 第23回海洋開発分科会 平成21年6月12日

第4期科学技術基本計画に向けた海洋科学技術の重要事項に関する主な論点について審議

平成21年6月17日~平成21年7月13日
第4期科学技術基本計画に向けた海洋科学技術の関連事項について
海洋に関連する機関等への意見照会

○ 第24回海洋開発分科会 平成21年7月22日

第4期科学技術基本計画に向けた海洋科学技術の重要事項について
たたき台の審議

○ 第25回海洋開発分科会 平成21年8月26日

第4期科学技術基本計画に向けた海洋科学技術の重要事項について
素案の審議

○ 第26回海洋開発分科会 平成21年9月15日

第4期科学技術基本計画に向けた海洋科学技術の重要事項について
案の審議

1.現状認識

(1)海洋科学技術の総合性・重要性

 四方を海に囲まれている我が国において、海洋は我々の社会と多様な関わりを有しており、本来、極めて身近な存在である。この海洋を利活用し、海洋に関する様々な課題に的確に対応するためには、海洋を中心とした地球システムそのものを対象とした包括的・総合的な取組が必要不可欠であり、海洋科学技術を一体として推進していくことが重要である。

○ 我が国は、四方を海洋に囲まれており、領海と排他的経済水域を合わせた面積は世界第6位の広さを誇る。海洋は我々に多種多様の恩恵を与えるのみにとどまらず、古くから海上輸送や水産資源獲得の場として積極的な利用の対象となってきた。一方、海洋は、津波や高潮などにより我々の生活に対して、時として災害をもたらすこともある。また、喫緊の課題となっている地球温暖化問題においても海洋は、重要な役割を果たしている。
○ 海洋は、我々の社会にとって常に身近な存在であり、その機能や、関連した諸現象からの影響についての理解を進めることは、海洋エネルギー・鉱物資源の利活用や、海溝型地震・台風への対応等を考える上でも、極めて重要である。また、これらの知見の獲得は、新たな産業の創出や減災につながる投資効果も大きいと期待される。
○ 海洋は空間的に広大であり、人間の到達が困難な領域も多く、それらの領域における調査・研究には大規模な研究開発基盤を必要とするほか、海洋に関連した諸現象の変化は時間的に緩やかであることから、海洋に関する研究開発については、長期間、継続的に行う必要がある。
○ 海洋に関する諸現象は、物理過程、化学過程、生態系といった自然科学における様々な要素・システムが複雑に連関しており、海洋に関する研究開発は極めて学際的な要素が強い。また、社会的課題に対応するためには、海洋と社会との関係を踏まえ人文・社会科学との連携も必要となる。
○ このため、海洋に関する研究開発を進める際には、海洋を中心とした地球システムそのものを対象として捉えた包括的・総合的な取組が必要不可欠であり、海洋科学技術を一体として推進していくことが重要である。

(2)海洋政策及び海洋科学技術をめぐる最近の動向

 近年、我が国において、海洋基本法の制定、海洋基本計画の策定などを受け、国民生活と密接に関連する海洋の重要性が改めて認識されてきている。それに伴い、海洋基本計画に示されている政策の総合的な実施に向けて、海洋科学技術に対する期待が高まってきている。しかし、海洋科学技術の重要性にもかかわらず、諸外国・他分野との比較において我が国の研究開発投資は十分であるとは言えない。

(海洋政策をめぐる国内の動向)

○ 平成19年7月、海洋基本法が制定されるとともに、海洋政策の基本的方針や集中的に実施すべき施策等を定めた海洋基本計画が平成20年3月に閣議決定された。これにより、海洋科学技術に関する研究開発をはじめ、海洋資源の開発及び利用、排他的経済水域の開発等の推進が我が国として総合的かつ計画的に実施すべき施策として明確に位置づけられた。
○ 平成20年11月、我が国は大陸棚限界委員会へ大陸棚延伸に関する情報を提出し、利活用できる海域の拡大を図っている。また、近年、存在が明らかになってきたメタンハイドレートや海底熱水鉱床等に関する探査・開発の計画と必要な技術開発等について定めた「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」が平成21年3月総合海洋政策本部にて了承された。さらに、財団法人日本プロジェクト産業協議会が民間企業を中心とした海底熱水鉱床の開発に関する研究会を立ち上げるなど、民間においても海洋資源の開発に向けた積極的な動きが見られるようになってきている。このように、海洋の利活用に対する期待とその役割はますます高まってきている。

(海洋科学技術に関する諸外国・他分野との比較)

○ 自律型無人探査機(AUV)「うらしま」や有人潜水調査船「しんかい6500」に代表される深海探査技術や地球深部探査船「ちきゅう」に代表される地球深部探査技術については、国際的にも我が国が最高水準の技術力を有している。
○ 欧米では、地形計測や海底下構造探査等の物理探査等、目的に応じて多様な大きさ・形態・機能を持った無人探査機を政府・民間ともに開発しているのに対し、我が国では、先端的な海洋科学技術で得られた知見や技術を速やかに産業化していくための体制が不十分であり、海洋科学技術の産業化が欧米と比べて十分とは言い難い。
○ 近年欧米では、海洋における基本的施策の方針を定めた計画(米国:”An Ocean Blueprint for the 21st Century”、欧州:” Towards a future Maritime Policy for the Union” 等)が策定されている。また、資金配分制度については、米国の”Sea Grant”(※1)が1960年代より運用されており、海洋に関する基礎研究や産学官連携に多大なる貢献を果たしてきた。欧州でも、”The Ocean of Tomorrow”(※2)という研究資金制度が創設される(2009年7月より公募開始)など、海洋に特化した戦略的な研究資金制度の新設・拡充が積極的に行われている。
○ 海洋関係研究開発予算(地震・防災分野を含む)における欧米との比較において、我が国の政府研究開発投資は米国(軍事関係の研究開発を含む (※3))の4分の1以下、欧州の3分の1以下である。また、2000年から現在までに米国や欧州の予算額が1.5倍から2倍近くに伸びているのに対し、我が国の予算額はほぼ横ばいに推移している。各国が海洋の重要性を認識し積極的投資を図るなかで我が国の研究開発水準の相対的低下が懸念される(※4)。
○ 我が国における海洋に関する政府研究開発投資は、科学技術関係経費の2~3%で推移しており、他の研究開発分野と比較して占める割合が小さい。また、海洋に関する研究開発は、他の研究開発分野と比較して企業投資や大学における研究費が極端に小さいことが特徴として挙げられる(たとえば物質・材料やナノテクの企業投資の比率と比較し海洋は4分の1以下) 。

(3)海洋に関する研究開発の進捗状況と課題

 第3期計画において海洋に関する研究開発は順調に進捗している。しかし、海洋は、依然として、科学的に未解明な部分が多く、また、海洋に関する研究開発が複数の分野に分散しており、総合的な取組が不足していることから、海洋を中心とした地球システムに関する研究開発について、その成果の産業化を含め、より総合的に推進すべきとの期待が高まっている。また、資金配分制度や研究基盤の整備、人材育成についても、今後重点的に取り組むべき課題として挙げられる。(たとえば物質・材料やナノテクの企業投資の比率と比較し海洋は4分の1以下) 。(※5)

(第3期計画期間中における海洋に関する研究開発の進捗)

○ 第3期科学技術基本計画策定以後、海洋に関する研究開発は着実に進展しており、以下をはじめとして、顕著な調査・研究開発の成果が上がっている。

  • 「ちきゅう」の建造(平成17年)とライザー掘削の開始(平成21年)
  • 自律型無人探査機(AUV)「うらしま」が連続長距離(317km)
    航走に成功(平成17年)
  • 東部南海トラフ海域におけるメタンハイドレート原始資源量を算出(平成19年)
  • アルゴ計画の運用フロート数が目標の3000台に到達(平成19年)
  • 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書への貢献(平成19年)
  • オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質の発見によりノーベル賞の受賞(平成20年)
  • 大陸棚限界委員会へ大陸棚延伸に関する情報の提出(平成20年)

○総合科学技術会議は、平成18年度からの第3期計画の実施状況について、平成21年に中間フォローアップを実施した結果、以下のような評価を示している。

  • 「環境」「社会基盤」「フロンティア」に係る海洋関連施策について当初計画どおり順調に進捗(※6)
  • 地球内部構造解明研究、海洋環境観測・予測技術については当初計画以上に進捗しており、5年間の計画期間中の研究開発目標達成まであと一歩のところ(※7)

※1 1966年より開始された、海洋関連の大学へ補助金を供与するプログラム。生態系研究、水産養殖などをテーマとする研究のほか、教育やアウトリーチ活動についても資金配分を実施。
※2 2010年~2013年にかけて実施される資金配分制度で、人間の活動による海洋環境への影響が増大していることを踏まえ、気候変動や海洋生態系などに関する持続的な科学的指標を提供することが目的。
※3 米国では、政府の研究開発投資のうち半分以上が軍事関係の研究開発予算であり、また、探査機の開発等海洋に関する研究開発は、軍事関係の研究開発としても実施されているため、軍事関係の研究開発投資額を含めた。
※4 OECD MSTI/EUROSTAT and AAAS report XXIX etc.(参考資料2.1参照)
※5 科学技術要覧、総務省「科学技術研究調査報告書」等(参考資料3.1~3.3参照)
※6 重要な研究開発課題の研究開発目標の達成状況がいずれも5段階中3(当初計画どおり、順調に進捗)以上。
※7 重要な研究開発課題の研究開発目標の達成状況が5段階中4(当初計画以上に進捗しており、計画期間中の研究開発目標達成まであと一歩のところ)。

(海洋に関する研究開発の推進にあたっての課題)

○前述の通り、海洋は、依然として科学的に未解明な部分が多く、その研究開発にあたっては、厳しい環境下において適用できる技術を必要とするとともに、人文・社会科学分野も含め多岐の分野に関連しているという側面や、多額の投資と時間が必要であるといった特殊性が指摘されており、これらを踏まえた研究開発が重要である。
○海洋については、その広大な面積及び巨大な容量のため、その限界はあまり意識されてこなかった。しかし、近年、二酸化炭素の吸収能力の限界や海洋生物資源の過剰採取が指摘されるなど、海洋の有限性を念頭に置いた研究開発の重要性が認識されてきている。
○第3期計画では、研究開発課題が重点8分野のうち「環境」「社会基盤」「フロンティア」等、複数の分野に分散している。気候変動問題への対応など、分野を横断する政策課題が顕在化する中、海洋を中心とした地球システムについて総合的に研究開発していくべきとの期待が高まっている。一方で、現状では研究機関間の連携は必ずしも十分ではない。
○また、第3期計画期間を通じて、海洋分野の研究開発については、その成果を産業の国際競争力の強化や利用の拡大を通じた国民生活の質の向上に展開する時代に移ってきているが、そのリスクの大きさ、社会への波及効果の高さなどから、引き続き政府が関与して実施することが必要である。
○しかしながら、海洋に関する研究開発について、大学等における基礎研究や基盤的開発に充てられる研究開発経費が小さい。また、海洋科学技術に関連する産業規模も小さいことから、民間企業の研究開発投資も少なく、全体として研究開発資金が不足している。また、現状では、幅広い基礎研究や基盤的開発を実施していくための資金配分制度や研究基盤整備も不足している。
○海洋に関する研究開発は、中長期的な取組みが必要であるため、安定した人材の確保が必要であるが、海洋に関する研究開発を俯瞰し、今後の産業化も含めた総合的な研究開発を実施できる人材が不足している。また、技術者の継続的な確保も課題となっている。

2.第4期基本計画に向けた基本的考え方

 海洋の総合的な利活用による海洋立国に我が国の未来を託するため、その中核となる海洋科学技術を第4期計画の柱として明確に位置付けるとともに、海洋に関する研究開発への政府投資を飛躍的に拡充することが重要である。具体的には、海洋に関する基礎研究、基盤的調査・観測、海洋産業を支える基盤技術開発を推進するなどにより、海洋を中心とした地球システムを包括的に理解することを目指すとともに、海洋資源などの海洋からの恩恵を最大限享受したり、環境問題や自然災害等に対応するため、海洋の総合的管理に関する研究開発を積極的に展開していくことが求められる。

○前節で述べたように、海洋に関する諸現象は複雑に連関しており、これを対象とする研究開発においては関係するすべての分野が一体となって取り組む必要がある。したがって、第3期計画策定以降に策定された海洋基本計画を踏まえ、第4期計画の策定においては、海洋を中心としたシステムを包括的に理解するとともに、海洋の恩恵を最大限享受したり、海洋をめぐる安全・安心に対応するため、総合科学分野として「海洋科学技術」を柱として位置づけるとともに、海洋に関する研究開発への集中的な投資を行うことが必要不可欠である。
○今後の海洋に関する研究開発にあたっては、以下を実現するため、海洋の開発利用の基盤となる基礎研究、基盤的調査・観測を強化するとともに、地球規模の社会的課題等に対応し、社会に貢献するということを強く意識した研究開発を積極的に展開していくことが必要である。

(1)人類の知的資産の拡大に貢献するため、海洋フロンティアの開拓を推進していく
(2)より豊かな国民生活を実現していくため、海洋資源の探求及び利活用を推進していく
(3)人類の生命、財産を守るため、海洋が密接に関連した環境問題及び自然災害への対応を推進していく

3.第4期基本計画における重点課題(※8)

○ 海洋に関する研究課題は複雑に連関しており、個別分野ごとに論じていくことは適当ではない。以下については、上記2.に示した視点に基づき分類しているが、これらは個別に論じられるべきものではなく、連携や相互理解を通じた総合的な取組が必要である。


※8 研究開発の具体例については、別紙を参照。

(1)海洋フロンティアの開拓

1. 科学的知見の拡大を目指した基礎研究、基盤的調査・観測及び海洋産業を支える基盤技術開発の推進

 海洋は、依然、未解明・未利用な領域が多いことから、基礎研究や基盤的調査・観測を推進し、先進的な知見の獲得及び科学的知見の基盤を構築することにより、総合的な海洋の理解の促進を図ることが重要である。また、新たな海洋産業の創出や海洋産業の国際競争力の強化に資するため、産業産業を支える基盤技術の開発が重要である。

○ 海洋は、依然として未解明・未利用な領域が多く、その未知なる領域の解明を進めることで、地球温暖化問題の対応や生命の誕生から進化の過程の解明など、様々な社会的・知的価値を創出するものとして期待されている。このため、幅広い先端的な基礎研究を推進し、海洋の科学的知見の基盤を構築することにより、海洋を総合的に理解することが必要である。
○ 人間活動による海洋への影響を含め、海洋環境の変化は、時間的に緩やかである。このため、これらの変化を的確に把握するには、高精度かつ効率的な観測機器、観測手法の開発等により、浅海域、深海域を問わず、海洋の基盤的調査・観測を推進していくことが必要である。
○ 新たな海洋産業の創出や海洋産業の国際競争力の強化に資するため、海洋産業を支える基盤技術の開発についても積極的に推進していく必要がある。

2.大型プロジェクトによる未知・未踏領域への挑戦

 深海底や大深度海底下などを対象とした、多額の研究開発投資や大型インフラの整備などが必要な大型プロジェクトによる未知・未踏領域への挑戦に取り組むことで、新たな知見を獲得し、人類の知的資産の拡大に貢献する。

○これまで「しんかい6500」、「うらしま」及び「ちきゅう」などが未知・未踏領域の開拓に貢献し、世界的に高い評価を得てきたが、海洋には未だ人類が想像もしていない生命、物質、現象が存在していると考えられる。また、未利用のエネルギー・鉱物資源等海洋の恵みを探究し、海洋由来の自然災害等に対応するためにも、新たな科学的知見の獲得の必要性がさらに高まっている。
○しかしながら、これらのプロジェクトは、多額の研究開発投資や大型インフラを必要とするとともに、我が国の科学技術力を集結させることが必要である。
○このため、政府が大学・民間企業等と協力しながら、未知・未踏領域への到達を実現可能とする研究開発を実施し、研究領域を拡大するほか、人類の知的資産の拡大に貢献する。また、未解明の謎への挑戦に対する青少年の興味関心を喚起するためにも、未知・未踏領域への到達と新たな知見獲得に向けた持続的な挑戦が必要である。

(2)海洋資源の探究及び利活用

1.海洋エネルギー・鉱物資源の探査・活用による資源制約の突破

 我が国の周辺海域には、多くの未利用な海洋エネルギー・鉱物資源が存在していると考えられている。これらの海洋資源を探査し、効率的に回収するための技術開発を推進し、海洋資源の利活用を拡大する。

○我が国の周辺海域では、メタンハイドレートや海底熱水鉱床等の海洋エネルギー・鉱物資源のほか、バイオ燃料等の低炭素社会の構築に向けた新たなエネルギー源など、今後の開発・利用・産業応用が期待される新たな資源の存在が明らかになりつつある。
○しかしながら、これら資源を効率よく探査・回収し、利活用するための技術開発は十分とは言えず、いまだ積極的な利用には至っていない。また、これら資源の積極的な利活用のためには、環境に対する影響を適切に把握しておく必要がある。さらには、得られた技術を民間企業が主体となる産業へ利用・転換していくための「橋渡し」が必要である。
○このように、これら海洋エネルギー・鉱物資源に関する研究開発については、これまで得られた科学的知見や基盤的技術に基づき、資源を効率的かつ持続可能な形で利活用できるよう推進していく必要がある。

2.生物資源の探査及び持続的な利活用

 古くからその恩恵を享受してきた水産資源を継続的かつ効率的に利活用するために必要となる研究開発のほか、近年、医薬品、新素材開発等、産業への応用が期待される微生物等の資源を利活用し、新たな産業利用に向けた研究開発を推進する必要がある。

○我々は古くから、食料源として水産資源を利用するなど、海洋の恵みを享受し生活を営んできた。近年においては、遺伝子工学など新たな技術を用いた水産資源の改良や、医薬品等の開発に活用しうる機能を持つ海洋微生物等の発見など、新たな利活用に向けた海洋の生物資源に対する期待が高まっている。
○一方、水産資源については、その多くにおいて資源量が減少しているとの指摘があり、新たな水産技術の開発による水産資源の回復が必要である。また、海洋微生物等については、産業等においてさらなる利活用、応用を推進するための技術開発が十分とは言えず、積極的な利活用には至っていない。
○このため、これら海洋の生物について、その実態や機能を明らかにするとともに、医薬品、新素材開発等様々な分野の産業発展に資する技術開発を実施していく必要がある。

(3)海洋が密接に関連した環境問題及び自然災害への対応

1. 地球温暖化をはじめとする環境問題への対応

 喫緊の課題である地球温暖化をはじめとする環境問題に対応するために必要な海洋における調査・研究は十分ではない。これらの環境問題に関する研究や技術開発を推進し、科学的知見を拡充することで、関連政策の企画・立案に貢献する。

○海洋は、人為活動により排出される二酸化炭素の3割を吸収するなど、その巨大な容量と多様な機能により、人間の諸活動による環境負荷を希釈・分解し、良好な環境を維持する役割を担っているが、地球温暖化、海洋汚染や海洋生態系の攪乱等、環境問題が深刻化しており、このままでは我々に豊かな生活をもたらしていた地球環境が維持できなくなる可能性がある。しかし、これらの環境問題の現状と変化を的確に把握し、その対応策を講じるための調査、研究開発は十分とはいえない。
○特に、地球温暖化問題は我々人類にとっての喫緊の課題であり、海洋における二酸化炭素の濃度や酸性度の観測をはじめとする地球環境の観測・予測体制を強化するとともに、二酸化炭素を削減し低炭素社会を構築していくための対策技術に関する研究開発や地球温暖化によりもたらされる諸現象に対応できる社会を構築していくための方策も講じていく必要がある。
○また、海洋は、我々の生活にとって身近な存在であり、海洋の生物多様性の損失や浄化能力を超える海洋環境への負荷を回避するための研究開発等により、良好かつ豊かな海洋環境を維持していくことも重要である。

2.海溝型地震・津波などの自然災害への対応

 海溝型地震・津波や高潮などの自然災害に十全の対応をしていくためには、その発生メカニズムを詳細に理解する必要がある。また、これらの知見を踏まえ、海溝型地震・津波等に関する観測網の整備、高精度予測システムの構築が必要である。

○我が国の周辺は、複数のプレートが接しているプレート境界に位置しており、これまで東南海地震をはじめとする海溝型地震や津波等による災害が繰り返し発生している。また、台風などによる高潮は、沿岸地域に大きな被害を及ぼしている。これら海洋由来の災害等は他の自然災害と比較しても、国民が被る損害は極めて甚大である。
○これらの現象についての観測・監視技術の高度化を図るとともに、継続的な観測により、これら現象のメカニズムを解明するとともに予測精度を向上させることで、中長期的な対策を講じていくことが重要である。 

4.重点課題の推進方策等

(1)国家基幹技術を中心とした研究開発基盤整備への最重点投資

 海洋に関する研究開発を推進するにあたり、先端的な技術を含め多様な研究基盤の整備が不可欠である。今後は、海洋開発の根幹を担う主要技術を「国家基幹技術」として改めて位置づけることなどにより積極的に先端的技術開発を行うとともに、最先端の観測・研究機器の高度化、観測環境・体制の強化等を早急に行っていく必要がある。

○海洋資源の探査・利活用及び地球環境問題や自然災害の対応などを包括的・総合的に推進するため、海洋科学技術の根幹を担う主要技術を「国家基幹技術」として改めて位置づけることなどにより、国及び公的研究開発機関が中心となって整備すべき先端的な技術開発を積極的に実施していく必要がある。

<海洋科学技術に関する国家基幹技術の方向性の例>
  • 海洋資源の総合的な探査システムを新たに国家基幹技術と指定し、集中投資を実施
  • 深海等極限環境における作業を可能とする探査機・作業ロボット等の技術開発を新たに国家基幹技術と指定し、集中投資を実施(世界最先端海洋開発・利用ロボティクスシステム)
  • 第3期計画で国家基幹技術とされた「海洋地球観測探査システム」を見直し、地球環境問題の解決や自然災害等に対応する際の基盤となるシステムとして位置づけ、集中投資を実施

○海洋に関する研究開発には最先端の大型施設・設備の整備が必要不可欠である。我が国の海洋科学技術において、より革新的な研究開発成果を創出し続けるとともに、国際的な優位性を維持し、向上させるため、研究ニーズに的確に対応した最先端の観測・研究機器の導入や観測・体制の強化を図る必要がある。

<整備等が必要な設備等>
  • 次世代海洋研究船の整備
  • ブイやフロートなど観測・研究プラットフォームの構築、更新、高度化
  • 観測データ共有等研究成果データベースの拡充と利用促進等

(2)海洋に関する研究開発に特化した競争的資金の充実と強力な研究開発連携体制の構築

 海洋に関する研究開発に特化した競争的資金制度を創設・拡充するほか、研究機関間の連携の強化により、大型研究インフラの整備・提供等を行うことが可能な世界最高水準のネットワーク型の研究開発体制の構築を目指す。

○米国や欧州などの先進諸国において海洋に特化した資金配分制度の新設・拡充の動きが見られる一方で、我が国における海洋に関する研究開発に特化した競争的資金制度は充実しているとは言い難い。多様な研究シーズを生み出すことができ、基盤研究の充実にも資する競争的資金制度の創設・拡充が必要である。
○海洋に関する研究や技術開発は多数の分野に関係するため、我が国として総合的に海洋研究とその基盤整備を進める必要がある。また、研究・観測を組織的・戦略的に行い、研究資源を効率的に利用することにより最大の研究成果を上げていくことが必要である。このため、世界最高水準の先端的技術や科学的知見を集積したいくつかの中核的研究開発拠点の構築・育成を促進し、研究機関間の連携を強化することで、ネットワーク型の研究開発体制を構築し、我が国全体の海洋科学技術の水準を向上させていく必要がある。
○先端海洋分野の技術移転や研究シーズとニーズのマッチング等の産学官の連携による海洋産業の創出・活性化や、関係機関間の連携の充実による「オールジャパン」の研究開発連携体制の整備を研究開発拠点の構築を軸にして推進すべきである。

(3)将来を見据えた人材育成及び技術・技能の伝承

 プロジェクト型研究開発を通じた企業等における技術伝承、多様な研究機会の提供による研究者の育成、及び次世代を担う青少年等への理解増進活動の強化等を図ることにより、持続的に海洋科学技術を担う人材を生み出していく効果的なサイクルを形成する。

○海洋に関する研究開発は、中長期的な取組みが必要であるため、安定した人材の確保が必要であり、持続的に海洋科学技術を担う人材を生み出していく効果的なサイクルを形成することが重要である。また、全体を俯瞰し、総合的な研究開発を実施できる人材を育てることも重要である。
○さらに、企業における技術者の継続的な確保も課題となっており、プロジェクト型研究開発を通じた技術の継承及び多様な研究機会や研究船等への乗船機会の提供などによる研究経験を積ませ、新しいアイデアを創出することのできる人材を育てることも重要である。
○次世代の人材を育成するために、大学等においては、プロジェクト型の研究開発への参画や、学際的な研究開発への取組みを通じて次世代の人材を育成する必要がある。また、小中学生、高校生等に対しては、引き続き学校教育や水族館・博物館等において、体験活動を含め海洋に関する正しい知識と理解を深めさせる取組を実施することが重要である。
○この他、研究開発成果について、インターネットを含む多様なメディアを通じた国民への普及活動の推進も重要である。

(4)諸外国・他分野との融合・連携による効果的な研究開発の推進

 海洋に関する研究開発と政策等への「橋渡し」を行うシンクタンク機能を強化するとともに、科学技術外交による世界的な共同研究や人材交流等による貢献等、人文・社会科学との融合・連携による新たな研究開発の取組を推進する。

○世界的な研究開発競争の中で、海洋に関する研究開発についても戦略的・効率的に研究開発資金を投入することは必須であり、社会ニーズやユーザ指向を踏まえた政策立案が一層重要になることが予想される。
○世界的な技術動向及び政策動向を把握し、海洋に関する研究開発戦略目標策定へ貢献するとともに、環境問題等、社会科学的アプローチが必要とされる研究への成果還元を図るなどの、海洋科学技術と政策・他分野研究開発等の「橋渡し」を行う専門的知見を有するシンクタンクの機能の強化が必要である。
○海洋に関する研究開発にあたっては、海洋に関する先進的な研究開発の成果が、新たな産業の創出をはじめとして産業分野に活用されるよう、社会ニーズをより積極的に取り入れた研究開発を推進するとともに、産業界とのより一層の連携の強化が必要である。
○統合国際深海掘削計画(IODP)や、高度海洋監視システム(アルゴ計画)のほか、地球規模の海洋に関連した観測システムの構築に関する国際的な取り組み等の海洋に関する研究開発における国際協調・協働、国際共同研究、人材交流事業、津波等防災技術の移転等を通して、科学技術外交に基づくソフトパワーの強化に取り組み、我が国のプレゼンスを高めることに貢献することが重要である。
○海洋の総合的な管理において重要である離島の保全及び利活用に関する施策の一環として、離島の保全・管理に資する研究開発を推進することが重要である。

第4期科学技術基本計画にて取り組むべき研究開発の具体例

(1)海洋フロンティアの開拓

1.独創的・創造的な研究成果創出を目指した基礎研究、基盤的調査・観測及び海洋産業を支える基盤技術開発の推進

  • 海洋に関する研究の基礎となる基盤的調査・観測の推進
  • 高精度かつ効率的な基盤的調査・観測の実現に向けた観測機器やAUV、ROV等のプラットフォーム、観測手法の開発
  • 様々な機能を持つ海洋を総合的に利活用する分野横断的な開発・利用構想プロジェクトなど新たな海洋産業の創出に向けた基盤技術の開発
  • 排他的経済水域(EEZ)の総合的管理に向けた調査・観測・監視・管理等に関する技術開発とEEZ内の資源等の全体把握を含めた包括的データベースの構築  等

2.大型プロジェクトによる未知・未踏領域への挑戦

  • 深海地球ドリリング等による地球内部構造の解明
  • 水深10,000mを超える海洋最深部における物質循環・生態系の解明 等

(2)海洋資源の探究及び利活用

1.海洋エネルギー・鉱物資源の探査・活用による資源制約の突破

  • 海底熱水鉱床、コバルトリッチクラストなどの海洋鉱物資源の探査技術、資源量評価技術、生産技術、環境影響評価手法等の開発・高度化と産業化に向けた取組の促進
  • 石油・天然ガスやメタンハイドレート等エネルギー資源の掘削技術、生産技術、環境影響評価手法等の開発・高度化と産業化に向けた取組の促進・高度化
  • 波力、風力、潮汐・潮流等の海洋現象を利用した再生可能エネルギーシステムの技術開発及び実用化の推進
  • 藻類等を活用した海洋バイオ燃料に関する研究開発 等

2.生物資源の探査及び持続的な利活用

  • 海洋微生物資源の医療、材料、食料分野等への活用に関する研究開発
  • 水産・海洋生物資源の持続的利用に向けた研究開発 等

(3)海洋が密接に関連した環境問題及び自然災害への対応

1.地球温暖化をはじめとする環境問題への対応

【気候変動対策】
  • 最先端の海洋研究船や観測機器による海洋観測・監視体制の強化
  • 国際協力による全球地球環境観測・予測体制の強化
  • 気候変動予測によるIPCC第5次評価報告書への貢献
  • 様々な船舶からのCO2排出量を削減できる次世代の海上輸送に向けた研究開発
  • 海底下でのCO2の貯留 等
【生物多様性・海洋環境保全対策】
  • 気候変動、海洋酸性化が海洋生物、生態系に与える影響の調査
  • 内海や沿岸域等人間の社会活動の影響を受けやすい海域における生物多様性の確保と環境保全に資する研究 等

2.海溝型地震・津波などの海洋由来の自然災害への対応

【海溝型地震への対応】
  • 深海地球ドリリングや海底地殻変動観測等による海溝型地震の発生機構の解明
  • 海底ケーブルネットワークの展開等による地震・津波観測監視システムや大深度孔内計測システムによる監視・観測体制の強化 等
【台風や高潮への対応】
  • 台風・高潮対策に資する海洋観測体制の強化及び予測精度の向上 等

お問合せ先

研究開発局海洋地球課

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