原子力分野の研究開発に関する委員会

原子力分野の研究開発の戦略的重点化について

平成21年10月
原子力分野の研究開発に関する委員会

1.第3期科学技術基本計画における分野別推進戦略(別添1参照)

(1)重要な研究開発課題

 現行のエネルギー分野の分野別推進戦略においては、以下の考え方に基づき、原子力エネルギーの利用の推進のための10課題を重要な研究開発課題として位置づけている。

○原子力発電は、エネルギーの安定供給に資するほか、地球温暖化対策の面で優れた特性を有するため、安全性の確保を前提に、中長期的な視点に立ち、核燃料サイクルに取り組むとともに、原子力発電を基幹電源として位置付け研究開発を推進する
○原子力技術は、他の分野に比べ、我が国の独自技術を保有することを目指す重要性が高い

(2)戦略重点科学技術

 また、今後深刻化が予想される資源制約および環境制約を克服するためには、原子力エネルギー利用の推進が資源小国の我が国にとって必要不可欠であり、「基幹エネルギーとしての原子力の推進」を基本戦略とする旨が定められ、以下の4つの中核原子力技術を戦略重点科学技術に位置づけ、計画的かつ着実に原子力の利用を推進することとしている。

○安全性・経済性に優れ世界に普及する次世代軽水炉の実用化技術
○高レベル放射性廃棄物等の処分実現に不可欠な地層処分技術
○長期的なエネルギーの安定供給を確保する高速増殖炉(FBR)サイクル技術
○国際協力で拓く核融合エネルギー:ITER計画

(3)国家基幹技術

 さらに、「長期的なエネルギーの安定供給を確保する高速増殖炉(FBR)サイクル技術」は、エネルギーの乏しい我が国にとって、エネルギー安定供給に大いに貢献し産業の発展と国民生活の向上に資する技術であり、「環境と経済の両立」、「科学技術により世界を勝ち抜く産業競争力の強化」、「世界の科学技術をリードする」といった政策目標の実現にも貢献するため、我が国の存立の基盤として、国家による大規模かつ長期的な投資が必要な「国家基幹技術」として位置づけられている。

2.戦略的重点化の状況(別添2参照)

(1)第3期科学技術基本計画期間中、文部科学省における原子力分野の戦略重点科学技術の予算額の合計は、315億円(平成18年度)から545億円(平成21年度)となり、230億円(73%)の増となっており、分野別推進戦略を踏まえ戦略重点科学技術への重点化が着実に図られていると考えられる。
(2)これにより、2010年にはもんじゅの運転再開やFBRサイクルの革新技術の評価が予定されているなどFBRの実用化に向けた研究開発が着実に進展するとともに、ITER建設に向けた機器の製作等が計画通り進んでいる。
(3)一方、原子力関連経費の予算は、2,675億円(平成18年度)から2,525億円(平成21年度)へ150億円(5%)の減となっており、合理化・重点化を進めているが、施設の老朽化対策や廃止措置等が進まない状況となっている。

3.国内外の情勢変化と我が国への要請

 現行の分野別推進戦略策定以降、以下のような種々の情勢の変化に伴い、我が国のみならず世界全体にとって原子力エネルギーの重要性が益々高まるとともに、より安全かつ安定的な利用や次世代技術のための研究開発をさらに推進することが求められている。

(1)低炭素社会に向けた国内外の要請の高まり

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書(2007年)、G8洞爺湖サミット首脳宣言(2008年)、エネルギー基本計画(2007年)、低炭素社会づくり行動計画(2008年)、環境エネルギー技術革新計画(2008年)等において、発電の際に二酸化炭素を排出しない原子力の重要性が明示されるなど、地球温暖化防止等のためには原子力エネルギーが不可欠となっている。

(2)世界的な原子力の再評価と導入加速

 米国で30年ぶりに原子力発電所の新規発注があったほか、スウェーデン、英国及びイタリアでも、原子力推進に向けて大きく政策を転換した。さらに、中国、インド、ロシアについては現在、各々20基以上の原子力新設計画を有している。

(3)開発途上国等における原子力発電の新規導入の動き

 現在、31の国及び地域が原子力発電を導入しているが、アジア、中東等の43カ国が新たに導入を予定又は検討している。

(4)原子力産業の国際的な再編と競争の激化

 大きな拡大が見込まれる市場をめぐって日、仏、米、露等の原子力産業が国際的な競争と協力をする時代に入っている。世界の原子力発電の安全性や信頼性を確保していくためにも、我が国の原子力産業の競争力強化を図り、これまでに培ってきた我が国の技術を世界に普及させることが重要である。

(5)核不拡散と原子力平和利用のための国際的枠組の強化

 原子力平和利用の拡大が見込まれる中、核不拡散や平和利用を確保するための国際的枠組みの維持・強化が益々重要になっている。我が国は、核不拡散・核物質移転のための二国間協定を、7協定(米、英、仏、中、加、豪、ユーラトム)に加え、現在、露、カザフ、韓国と交渉中であり、さらに複数の国との協定交渉が見込まれている。また、このような中、国際原子力機関(IAEA)において初めて日本人の事務局長が就任する。非核兵器国かつ原子力先進国である我が国は、核拡散抵抗性の高い技術や核物質検知技術などの開発においても世界から期待されている。

(6)我が国における原子力開発利用の進展

 六ケ所再処理工場の竣工が来年予定されているほか、プルサーマル計画も進捗しており、我が国における原子力エネルギー利用は、核燃料サイクルの確立に向けた新たな段階に入ろうとしている。また、平成19年4月には、2025年頃の高速増殖実証炉の実現に向け、エンジニアリング等を行う中核企業が選定された。さらに、国際熱核融合実験炉(ITER)の建設が始まり、我が国は人員の派遣や主要機器の製作などに大きな役割を担っている。

(7)科学技術水準の飛躍的向上に対する寄与への期待

 近年の技術革新により、加速器、高出力レーザー装置、研究用原子炉等の施設・設備を用いて、高強度で高品位な光量子、放射光等の電磁波や、中性子線、電子線、イオンビーム等の粒子線を発生・制御する技術、及び、これらを用いて高精度な加工や観察等を行う利用技術からなる「量子ビームテクノロジー」と呼ぶべき新たな技術領域が形成されてきている。これらの技術は、世界各国において最先端の科学技術・学術分野から、各種産業に至る幅広い分野を支える技術として、様々な科学技術水準の飛躍的向上に寄与することが期待されている。

4.第4期基本計画における戦略的重点化に向けた考え方

(1)原子力エネルギーの重要性

 原子力エネルギーは、今後深刻化が予想される資源制約や地球温暖化対策等の環境制約を克服するために人類にとって必要不可欠なものと考えられ、資源小国の我が国にとっては、準国産エネルギーと位置づけられ、基幹エネルギーとして推進すべきものである。このような原子力エネルギーの特徴、重要性等を踏まえた現行の分野別推進戦略中の4つの課題の戦略重点科学技術としての位置付けの必要性等は、第4期科学技術基本計画中においても何ら変わるものではないと考えられる。

(2)内外の情勢変化による重要性の増大

 現行の分野別推進戦略の策定以降の原子力を巡る内外の情勢の変化は、原子力に関する研究開発及び4つの戦略重点科学技術の重要性を更に高めるものと考えられる。なお、各課題の投資効果等に関する評価や、例えば地球温暖化対策に極めて有効な発電以外の熱・水素等のエネルギー利用や核不拡散技術など4つの課題以外に重点投資すべきものについても検討する必要があると考えられる。

(3)科学技術基盤としての原子力の重要性

 原子力技術は、先端的な科学技術を集約した大規模統合技術であり、その推進は、我が国全体の総合的な科学技術水準の向上につながるものである。量子ビームやRIに関する先進技術は、ライフサイエンス分野やナノテクノロジー・材料分野、環境分野において、重要な研究開発手段等を提供しており、その波及効果は非常に大きい。

(4)分野分類と原子力の重要性

 第2期及び第3期科学技術基本計画における「重点推進4分野」及び「推進4分野」の分野分類においては、シーズ側とニーズ側の視点が混在している等の様々な指摘があるものと認識しているが、「原子力エネルギーの利用の推進」は、重点推進分野等の一つ又は「環境・エネルギー問題」といった大きな分野の中で重要な位置を占めるべき領域であると考えられる。さらに、上記(3)で述べたような総合科学技術としての原子力の重要性についても、分野分類と戦略的重点化の中で十分に考慮されるべきであると考える。

(5) 国家基幹技術の重要性・必要性

 原子力エネルギーに関する研究開発など、長期的・国家的な視点に立って研究開発を進めていくことが必要な分野の戦略的重点化にあたっては、「国家基幹技術」の考え方が極めて重要である。「高速増殖炉(FBR)サイクル技術」は、長期的なエネルギー安定供給や高レベル放射性廃棄物の発生量の削減に貢献するのみならず、我が国が仏国とともに世界の最先端を行く技術であり、国際的な優位性を確保しつつ、我が国の技術の世界標準獲得を目指して推進すべきものとして、引き続き「国家基幹技術」として位置付け重点的に研究開発を推進していく必要があると考えられる。
 さらに、非核兵器国であり原子力の平和利用を国是とする我が国が、核不拡散性を高めるシステムを含め、「国家基幹技術」として高速増殖炉サイクル技術の開発を推進することは、世界の原子力平和利用の持続的推進に寄与することと考えられる。

5.原子力分野の研究開発の推進にあたって考慮すべき重要事項

(1)人材育成

 我が国の原子力技術に対する期待が高まる一方、我が国の大学においては、関連学部・学科数の大幅減少や原子力黎明期や発展期を支えてきた優秀な人材の大量退職等により人材不足が懸念されており、産学連携の取り組みを含めた人材育成を強化する必要がある。国家基幹技術等の研究開発を長期的に進める観点からも、人材育成や技術の伝承について十分に配慮することが必要である。

(2)基盤の強化

 放射性物質の安全かつ効率的な取扱技術の開発や人材育成等に必要な大学等のホット施設は、資金不足で維持管理・運転の継続が危ぶまれているものもある。幅広い分野で使われる原子力の基盤的な技術や施設に対して適切な資源配分がなされることが必要である。

(3)原子力と科学技術外交

 我が国は、これまで、原子力の平和利用に徹し、世界の核不拡散体制の強化や核軍縮に貢献してきた。国際原子力機関(IAEA)の保障措置活動や包括的核実験禁止条約(CTBT)の実施体制整備などの取組に対して、平和利用を通じて培ってきた原子力技術による貢献を行うことは、唯一の被爆国であり科学技術創造立国を目指す我が国の責務であると考えられる。また、原子力安全確保に関し、我が国の技術の信頼性に対する期待は大きく、新規原発導入国等に対する積極的な技術協力が求められている。これら原子力に関する国際的な対応について、科学技術外交の一環としての戦略的な対応を図っていく必要がある。

(了)

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