科学技術・学術審議会
学術分科会
研究環境基盤部会
○ 大学共同利用機関は、各研究分野における「全大学の共同利用の研究所」として、個別の大学では整備・維持が困難な最先端の大型装置や大量の学術データ、貴重な資料等を全国の研究者に無償で提供し、個々の大学の枠を越えた共同研究を推進する我が国独自の研究機関である。
○ 大学共同利用機関は、昭和46年の創設以来、当該分野の飛躍的な発展を図る上で必要不可欠な存在として、研究者コミュニティの強い要望等により、国立大学の附置研究所の改組等により設置されてきた。現在、16の機関が設置されており、各機関はそれぞれの分野の中核拠点として、全国の研究者の英知を結集した共同研究を実施するとともに、研究者コミュニティの実質的な取りまとめ役としての機能や、国際的にも種々の学術協定に基づく我が国を代表する機関としての役割を果たしている。
○ 一方、この間、大学共同利用機関を取り巻く状況は、内外の学術研究の進展はもとよりであるが、国立大学の法人化や科学技術基本計画の策定とそれに基づく政策の推進、少子化や知識基盤社会の到来に伴う大学そのものの変化など、大きく変容しつつある。
○ 特に平成16年の法人化は、16の大学共同利用機関を4つの独立した大学共同利用機関法人(以下「機構法人」という)として再編することにより、自律的な環境の下で運営を活性化するとともに、共同利用・共同研究機能の向上や新たな学問領域の創成に向けた戦略的な取組を一層促進し、我が国の学術研究の総合的な発展に資することを目指した、極めて大きな改革であった。
○ 機構法人は、平成22年度から第2期中期目標期間に入るが、この時期を捉えて、今後の学術研究の動向や大学制度の改革等を視野に入れ、また、機構法人化の検証も行いつつ、機構法人や大学共同利用機関の今後の在り方について検討することは、我が国の学術研究体制の充実を図っていく上で重要な課題である。
○ このような問題意識に立ち、科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会においては、これまで、1.機構法人の長からの意見聴取や2.委員による大学共同利用機関への訪問調査等を行いつつ、機構法人及び大学共同利用機関の位置付け・役割を改めて明確にするとともに、これらの機関の今後の方向性について審議を行ってきた。
○ 前述のように、大学共同利用機関は、個別の大学では整備・維持が困難な最先端の大型装置や大量の学術データ、貴重な資料等を全国の研究者に無償で提供し、個々の大学の枠を越えた共同研究を推進する我が国独自の研究機関である。
現在、以下の4つの機構法人の下に、16の大学共同利用機関が設置されている。
○ これらの機関では、外部研究者半数を含む運営会議の設置が義務付けられており、常に研究者コミュニティの意見が運営に反映される体制が構築されている。このような体制の下、貴重な研究資源を整備・収集し、全国の研究者に無償で提供するとともに、全国の研究者の英知を結集した公募型の共同研究が実施されている。また、優れた研究環境を活用して、大学院教育が行われているほか、異なる研究者コミュニティに支えられた大学共同利用機関が機構法人を構成したことにより、新たな学問領域の創成に向けた取組も行われている。
○ このように、大学共同利用機関は大学を中心とする我が国の学術研究全体の基盤を支え、新たな学術研究の展開を目指す上で重要な役割を果たしてきており、また、国際的にも我が国を代表する研究機関として発展してきていることを踏まえ、今後ともこの制度を充実させ、我が国の学術研究全体に貢献する中核的な機関としてCOE性を一層高めていくことが重要である。
○ 一方で、大学共同利用機関制度の創設以来40年近くを経過し、学術研究の進展や大学制度の改革、研究活動に対する財政支援の在り方、他の研究開発機関との関係など、機構法人や大学共同利用機関が立脚する社会状況は大きく変化している。こうした時代の変化に対応して、これからの大学共同利用機関制度の在り方を考えるためには、まずは他の機関等との関係において機構法人や大学共同利用機関の位置付け・役割を改めて確認するとともに、大学や研究者コミュニティ、さらには幅広い社会や国民のニーズを踏まえて、これらの機関の改善・充実・発展の方向性について検討することが必要である。
○ 大学共同利用機関は、世界最先端の研究を展開していく上で、個々の大学では対応できない部分を担う研究組織の必要性から、研究者コミュニティの総意を踏まえて設置された経緯がある。その意味において、大学共同利用機関の最も基本的な性格は、「大学を中心とする学術研究の推進に必要不可欠なインフラストラクチャー(基盤機関)」という点にある。
○ 大学共同利用機関は、これまでも大学における学術研究の発展に大きな貢献をしてきたが、下記のような大学を取り巻く諸状況の変化に鑑みれば、大学セクターにおけるその重要性はこれまで以上に高まっているものと考えられる。
○ 以上の点を踏まえれば、機構法人や大学共同利用機関は、今後とも大学の研究者のために共同利用・共同研究に供する研究資源(最先端の大型装置や大量の有用な学術データ、貴重な学術資料等)の着実な整備を進めていく必要があるが、同時に、研究者同士の自由闊達な議論による「頭脳の共同利用」を促進するような環境整備を一層進めていく必要がある。具体的には、例えば異分野の研究者による研究交流の場の拡充や、大学におけるサバティカル制度の活用を促進するような取組の充実を図ることにより、大学の研究者が大学共同利用機関の研究環境を存分に活用して、研究に没頭できるような環境を整備することが必要である。
○ また、各大学の研究基盤の充実に寄与する観点から、例えば大学共同利用機関の強みである先端技術(例:計算機ネットワーク技術や低温技術、各種の実験技術、分析手法等)を大学に移転する「分散型の共同利用」を進めることも検討する必要がある。
○ さらに、後述するように、大学共同利用機関は、総合研究大学院大学の基盤機関としての役割や連携大学院制度を用いた学生の受託指導をはじめ、最先端の研究環境を活用して、いわば「大学と共同で教育にあたる機関」として、大学・大学院等の教育に大きな貢献をしており、このような教育機能を今後一層充実していく必要がある。
○ 以上の点を含め、今後、大学セクター全体のニーズを活動により適切に反映させるため、4機構法人と国公私立大学の関係団体等との定期的な意見交換や協議等の場を設けるなど、大学との連携を強化する組織的な取組についても検討する必要がある。
○ 平成20年7月の法令改正により、文部科学大臣による共同利用・共同研究拠点の認定制度が創設され、平成21年6月現在で計79の国私立大学の附置研究所等が共同利用・共同研究拠点として認定されている。この結果、これまで国立大学の全国共同利用型の附置研究所等においては必ずしも十分にカバーされていなかった医学・生物学系や人文学・社会科学系で共同利用・共同研究の拠点が数多く認定されたところである。このような状況を踏まえ、大学共同利用機関と共同利用・共同研究拠点との関係を改めて整理しておく必要がある。
○ 研究者コミュニティの要望を存立基盤として、共同利用・共同研究を行うという点において、大学共同利用機関と共同利用・共同研究拠点は類似の性格を有するが、下記の点において大きな違いがある。
○ 以上の点を踏まえれば、今後、機構法人や大学共同利用機関には、共同利用・共同研究拠点との関係において、例えば以下のような役割が求められる。
○ このような役割を積極的に果たすためには、今後関係者の間で、機構法人や大学共同利用機関と共同利用・共同研究拠点との定期的な意見交換や協議等を行う場を設けることを検討することが期待される。
○ また、将来的に共同利用・共同研究拠点から大学共同利用機関を目指す研究施設が出てくることも考えられ、その場合には、機構法人がその受け皿として、必要な支援等を行うことが期待される。
○ 研究開発法人は、1.食料、エネルギー、資源確保など政策遂行に必要な研究開発、2.高リスク・高コストで民間では実施困難な研究開発、3.具体的な技術的課題の解決のための研究開発など、所管省庁の行政目的の下で、課題解決型の研究開発を行う組織である。このような研究活動においては、研究の達成目標を予め明確にする必要があり、個別の研究開発に先立ち、国が目標を設定するとともに、法人内部においてもトップダウン型の目標管理が行われている。
○ これに対し、大学共同利用機関は大学を中心とする研究者コミュニティを存立基盤とする「大学の共同利用の研究所」であり、研究者の自由な発想を源泉として真理の探究を目指す大学と等質の学術研究機関である。研究開発法人のように、研究者の発意に先だって国が目標を設定する手法は取られておらず、トップダウン型の目標管理を行うことにはなじまない組織である。
○ 一方、研究開発法人においても、研究者の発意に基づく研究や大学共同利用機関に近い基礎研究が行われている場合があり、大学共同利用機関においても、外部からの委託研究等により、明確な目標を設定した研究が行われている例があるほか、近年、高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構によるJ‐PARC(大強度陽子加速器)の建設・運用が行われるなど、両者の関係も変化してきている。
○ こうした状況を背景として、大学共同利用機関と研究開発法人については、研究組織としての類似性を指摘する声が一部にあるが、異なる組織原理に基づく研究組織が、同一分野内又は分野をまたがる形で複数存在することが、研究システム全体を重厚かつ重層的なものとし、多様な発想を確保したり競争的な環境を醸成する上でも、大きな意義を有する。
○ このため、大学共同利用機関と研究開発法人については、部分的な類似性のみをもって組織の一元化を推進するのではなく、各々が固有の役割をしっかりと果たした上で、研究面や人材育成面での協力や相互連携を推進する方向を基本として、両者の関係を考えることが適当である。具体的には、大学共同利用機関において、共同利用・共同研究システムを通じた研究開発法人の研究者との連携や、研究開発法人の人材育成への協力などが考えられるが、今後、各機構法人や大学共同利用機関において、それぞれの目的や活動方針等を踏まえ、主体的な検討が行われることが望まれる。
○ 一方、例えばバイオリソースの供給体制の整備等、国全体の研究基盤の強化の観点から取り組むべき課題については、今後、法人の形態の如何を問わず、組織的な連携を強化していくことが必要である。
○ 大学共同利用機関の法人化は、学問的な理念の共有を前提として、16の大学共同利用機関を4つの独立した機構法人として再編することにより、自律的な環境の下で運営を活性化し、共同利用・共同研究機能の向上や新たな学問領域の創成に向けた戦略的な取組を促進することで、我が国の学術研究の総合的な発展に資することを目指したものである。
○ 第1期中期目標期間を通じて、必ずしも十分とは言えないものの、機構長のリーダーシップが徐々に発揮されつつあり、例えば各大学共同利用機関を横断するバーチャルな研究センターの設置や、遠隔実験システムの整備、データベースの統合による研究資源の共有化、機構法人が全体の事務機能を束ねることによる運営の効率化等が行われている。
○ 一方で、法人化の趣旨を踏まえ、新たな学問領域の創成や共同利用・共同研究の更なる飛躍を図るためには、各機構法人の研究領域の特性や実情等に応じつつ、機関間の連携を促進し、機構法人としての一体的な運営を行う体制を一層強化していくことが重要である。この観点から、人事面や予算面における機構長裁量の拡大や、法人本部における機構長補佐体制の抜本的な強化等を行うとともに、業務運営面でも、引き続き効率化に努めていく必要がある。
なお、新たな学問領域の創成に向けては、機構法人の枠組みを越えた機関間の連携も重要であることから、一体的な運営の強化にあたっては、このような点にも留意する必要がある。
○ 国においては、機構法人の年度評価等を通じて、各法人の取組状況を適切にフォローしていくとともに、各法人における一体的な運営の強化につながる取組を促進するような財政上の仕組みについて検討する必要がある。
機構法人や大学共同利用機関が果たしている役割や活動等について、社会や国民の幅広い理解・支持を得るためには、どのような方策が考えられるか。
○ 大学共同利用機関については、社会や国民の間で、「最先端の研究を行う研究所」としては相当程度知られているが、「全大学の共同利用の研究所」という本来の役割や機能が正しく理解されているとは言い難い状況がある。また、機構法人については、創設後間もないことや各大学共同利用機関がこれまで独立して活動してきたこともあり、その存在や新たな学問領域の創成という理念等は十分に認識されていない。さらに、後述するように大学共同利用機関が教育機関として果たしている役割も、必ずしも十分な評価を受けているとは言えない。
○ 大学共同利用機関は、「大学の共同利用の研究所」として研究者コミュニティのニーズを踏まえた運営を基本としているが、多額の公的資金により支えられる学術研究機関として、安定的・継続的に運営していくためには、その活動に対する社会や国民の幅広い理解と支持を得ることが不可欠である。
○ これまで、機構法人や大学共同利用機関は、大学等と比較して、社会や国民とのコミュニケーションという意識が必ずしも十分ではなかったが、今後はこのような面での意識改革を図り、あらゆる機会を捉えて、大学共同利用機関制度の趣旨や、役割・機能、具体的な活動状況等について、社会や国民に対して情報発信を行っていく必要がある。
○ また、大学共同利用機関に対する国民の信頼と支持を獲得し、その推進基盤を確固たるものにするためには、大学共同利用機関が中心になって行う共同研究の成果や波及効果等について、シンポジウムや講演会、研究所公開、ウェブ上での成果発表等様々な手段を講じて、積極的に社会還元を行っていく必要がある。
機構法人への財政支援の在り方についてどう考えるか。
○ 機構法人や大学共同利用機関の運営は基本的に国立大学法人運営費交付金等により支えられているが、骨太の方針2006に基づく同交付金の削減により、大学共同利用機関においても、日常的な研究費や基盤的な設備費の減、更には短期的な研究成果が重視される傾向が高まり、自由な発想による研究や中長期的な視点から行う研究等に多大な悪影響を及ぼしていると指摘されている。
○ また、平成18年から始まった総人件費改革の下で、国立大学セクター全体として、研究活動の源泉である人材の確保が困難になっており、大量の研究者を任期付きで雇用せざるを得ない状況が生じている。
○ 機構法人や大学共同利用機関に対する予算措置は、
等を内容とするものであり、我が国の大学全体の教育研究を支援し、大学を中心とする学術研究を支えるという極めて重要な役割を果たしている。
○ このような重要性に鑑み、第2期中期目標期間及び第4期科学技術基本計画期間においては、機構法人や大学共同利用機関が最先端の研究成果を持続的に創出しうる重厚な研究基盤を再構築し、「学術研究の推進に不可欠なインフラストラクチャー」としての役割を十分果たせるよう、国立大学法人運営費交付金等の基盤的な経費を確実に措置するなど、財政支援の格段の充実を図ることが必要である。
役割を果たし、どのような取組を進めていくべきか。また、組織の見直しについてどう考えるか。
○ 異なる研究者コミュニティにより支えられた複数の大学共同利用機関が1つの法人を構成するメリットを活かし、新たな学問領域の創成を図り、学術研究全体に貢献することが、機構法人化の大きな目的の一つであった。この点について、第1期中期目標期間中の取組は4機構法人を通じて必ずしも十分とは言えず、今後、所期の目的の達成に向けて一層の取組の充実が求められる。
○ 研究者コミュニティの要求を受け止め、共同利用・共同研究機能を向上させることは重要であるが、コミュニティの固定化は新領域を創成する上で支障にもなりうることから、コミュニティの広がりを促進したり、新たなコミュニティを育成していく柔軟な取組も必要である。新たな学問領域の創成は、分野を超えた研究者の深い討論を踏まえて始まるものであり、必ずしも計画的に行われるものではないが、そのような主体的な取組が生まれやすい研究環境を醸成することは、機構法人や大学共同利用機関の重要な役割である。
○ 各機構法人においては、機構化の原点に立ち返り、機構長のリーダーシップや各機関の長との連携協力の下で、領域融合の将来像や他分野への波及効果等について、一定の計画性を持ちつつ、具体的な取組を進めていく必要がある。
○ その際、例えば、隣接分野のみならず、一見異なる分野の研究者間の交流の場を設ける等の試みや、各機関レベルでのコミュニティに加えて、機構法人レベルでの研究者コミュニティを育成していくことも検討する必要がある。また、現状では必ずしも十分ではない4機構の枠組みを越えた機関間の連携を強化することにより、学術研究の更なる広がりを追求することも考えられる。
○ 国においては、機構法人の年度評価等を通じて、これらの取組状況を適切にフォローしていく必要がある。また、領域融合に関する内外の先進的取組について情報提供を行うとともに、新たな学問領域の創成や一体的な運営の強化につながる取組を財政的に支援することを検討する必要がある。
○ 各機構法人や大学共同利用機関においては、関連領域も含めた研究分野の動向や将来見通し等を踏まえ、「研究者コミュニティにとって最適な研究組織」であり続けるためにはどのような組織が望ましいのかという観点から、組織の在り方について不断に検討することが必要である。
○ また、このような各機構法人や大学共同利用機関の様々な取組や自発的な改革の姿を社会や国民に対して積極的に情報発信することにより、学術研究の動向や研究機関の現状等について、国民の理解・関心を高めていくことも必要である。
今後、機構法人を構成する大学共同利用機関の見直しや、機構法人の再編成等について、どのように考えるか。また、それらの検討・取組はどのように行われるべきか。
○ 現在の4機構法人化については、平成16年の法人化の際に、研究者コミュニティの主体的な検討と科学技術・学術審議会学術分科会の報告に基づいて行われたものであるが、各機構法人の設置の理念が必ずしも明確でない等の指摘があることも事実である。
○ 機構化の理念の達成状況を見極めるには一定の時間が必要であること、また第1期中期目標期間においても一定の成果が出ていること等から、現時点において直ちに機構法人の構成の見直し等を検討することは適当ではない。しかしながら、内外の学術研究の動向や大学を取り巻く今後の諸状況の変化等に適切に対応した学術研究体制を構築していくためには、将来的には、各機構法人の構成やカバーする領域の見直し、4機構法人全体の再編成等について検討することが必要になるものと考える。
○ これらの検討にあたっては、機構法人や大学共同利用機関を取り巻く様々な要素を総合的に勘案する必要があるが、とりわけ内外の学術研究全体の動向を踏まえた研究者コミュニティの意向が重要である。このため、まずは各機構法人や大学共同利用機関を含めた研究者コミュニティにおいて、機構法人化の検証や今後のあるべき大学共同利用機関像について、主体的な検討が速やかに行われることが期待される。
○ 本部会としても、機構法人の構成の在り方や新たな大学共同利用機関の設置等については、今後の研究者コミュニティにおける検討や日本学術会議における議論等を踏まえつつ、継続的に検討を行っていく必要がある。
機構法人や大学共同利用機関において、これまで以上に活力のある創造的な研究環境を整備するためには、どのような取組を進めていくべきか。また、研究支援体制の課題やその解決のための方策については、どのように考えるか。
○ 大学共同利用機関は、「大学の共同利用の研究所」として、多様な分野から様々な研究者が集い、充実した研究環境や研究に集中できる時間的ゆとりの中で、異分野間の交流が積極的に行われる、アカデミックな刺激に満ちた創造的な研究環境でなければならない。
○ このような観点から、各大学共同利用機関においては、客員枠の増なども含め、研究者の流動性を一層高めることが必要である。また、各機構法人の実情等に応じて、研究者の年齢構成や他機関での経験を考慮した採用、女性や外国人研究者等の比率を考慮した採用、若手研究者の自立的研究環境の整備、優れた高齢研究者の能力の活用等を一層推進する必要がある。特に女性研究者の採用については、大学セクター全体を牽引するような積極的な取組が期待される。国においても、機構法人の年度評価等を通じて、これらの取組状況を適切にフォローしていく必要がある。
○ 現在、技術職員やリサーチ・アドミニストレーターといった研究支援人材の不足や質の低下が、大学セクター全体を通じた大きな課題となっているが、とりわけ大学共同利用機関は、全大学の研究者に対して共同利用のサービスを提供する責務を有しており、研究支援人材が果たす役割は極めて大きい。
○ 各機構法人や大学共同利用機関においては、サービス利用ニーズと実際のサービス提供とのギャップを分析した上で、退職者やポスドクの活用、研修制度の充実、適切な評価に基づく処遇の改善等、様々な対策を講ずることが必要である。国においても、ポスドクを含め、必要な技術や経験を有する人材の活用を促進する施策を充実していく必要がある。
大学共同利用機関の機能を大学院教育に最大限活用するため、一般の大学等との教育上の連携強化を含め、今後、大学共同利用機関は大学院教育や研究者養成にどのような役割を果たしていくべきか。
○ 大学共同利用機関は、「大学の共同利用の研究所」であり、その本務は研究及び研究環境を共同利用・共同研究に供することであるが、学術研究を支える中核的な研究機関として、次代を担う若手研究者の育成にも積極的に関わっていく必要がある。特に、近年、大学においては、優秀な理工系学生の確保が困難な状況にあり、大学共同利用機関としても、大学との連携の下、この課題に対応していくことが求められている。
○ 大学共同利用機関は、世界トップレベルの研究者が多数在籍し、これらの研究者との日常的な交流が図られるとともに、最先端の研究設備を利用できるなど個々の大学では実施できないダイナミックな教育を展開できるという、魅力ある教育環境と人材育成機能を有している。こうした優れた特性を生かして、学生が研究のプロセスに直接参加する形で「研究・教育一体型」の大学院教育を行うことは、極めて有意義であり、今後その一層の充実を図ることが必要である。
○ 現在、各大学共同利用機関においては、後述の総合研究大学院大学の基盤機関としての教育活動のほか、「特別共同利用研究員」としての受け入れ(連携大学院制度等を活用して大学院学生の研究指導を受託する取組)等が行われており、一定程度、教育機関としての役割を果たしているが、必ずしも大学関係者や学生、社会一般には知られていない。
○ 今後、各機構法人や大学共同利用機関においては、それぞれの組織の目的や方針等を踏まえつつ、教育に対するニーズや大学に対する支援、社会への貢献等の観点を総合的に勘案して、教育機能の強化や大学院教育の位置付けの明確化、具体的な取組方策等について検討することが必要である。
○ その際、これまでは国立大学の学生を中心に受け入れが行われてきたが、今後は、公私立大学の学生の受け入れの拡充も含め、多様な大学との連携や、大学の教員が指導する学生とともに大学共同利用機関の設備等を利用する形での連携など、様々な受入れ方策について検討する必要がある。
○ あわせて、教育機能を一層高めるための種々の工夫(例:ファカルティ・ディベロップメントの充実、オフィスアワーの充実、教育用設備の設置等)を継続的に行うとともに、このような大学と大学共同利用機関とが協働して学生を育てるユニークな取組を、社会に対して積極的に情報発信していく必要がある。
総合研究大学院大学の基盤機関としての役割を果たすために、どのような取組が求められるか。
○ 大学共同利用機関が国立大学法人総合研究大学院大学の研究科を構成する取組は、我が国独自のシステムであり、学生1人につき教員2~3人という手厚い教育体制の下で、昭和63年の創設以来、多数の研究者を輩出し、国内はもとより世界の舞台で活躍している者も少なくない。
○ 他方、国立大学の法人化以降、各大学による大学院学生の囲い込みが顕著になり、学部を持たない総合研究大学院大学にとって優秀な学生の確保が困難になりつつあるとの指摘もある。大学共同利用機関は、世界トップレベルの研究者と充実した施設設備等を有しており、これらを大学院教育に有効に活用するという観点からは、総合研究大学院大学に優秀な学生を確保することは重要な課題である。
○ 当面、総合研究大学院大学及び各機構法人や大学共同利用機関においては、大学や学生に対してこれまで以上に積極的な広報活動を行い、大学共同利用機関の教育研究環境の魅力を伝えていく必要があるが、本部会としても、この課題については今後、総合研究大学院大学も含めた関係者から意見聴取を行い、引き続き審議を行っていく必要がある。
○ 以上のほかにも、大学共同利用機関においては、高校生や学部学生を対象としたサマースクールやアジアの若者を対象としたスクーリング、産業界の人材育成、若手研究者への実験技術の伝達等様々な教育活動が行われており、人材育成や最先端の科学に対する理解増進等に大きな役割を果たしている。今後、このような取組についてもその位置付けや充実方策について検討することが必要である。
(科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会)
○ 大学共同利用機関は、個別の大学では整備・維持が困難な最先端の大型装置や大量の学術データ、貴重な資料等を全国の研究者に無償で提供し、個々の大学の枠を越えた共同研究を推進する我が国独自の研究機関。
○ 平成16年に16機関が4機構法人の下に再編され、共同利用・共同研究機能の向上や新たな学問領域の創成に向けた戦略的な取組を進めているが、第2期に入るこの時期を捉えて、学術研究の動向や大学制度の改革等を視野に入れ、機構法人化の検証を行いつつ、今後の在り方について検討することは、学術研究体制の充実を図っていく上で重要な課題。
○ 大学共同利用機関は、大学を中心とする我が国の学術研究全体の基盤を支え、新たな学術研究の展開を目指す上で重要な役割を果たしており、今後ともこの制度を充実させ、我が国の学術研究全体に貢献する中核的な機関としてCOE性を一層高めていくことが重要。
○ 大学セクターにおける重要性はこれまで以上に高まっており、大学との緊密な連携を推進することが必要。
○ 共同利用・共同研究拠点(大学の全国共同利用の附置研究所等)を牽引する役割を期待。
○ 研究開発法人との関係においては、各々が固有の役割を果たした上で、研究面や人材育成面での協力や相互連携を推進。
○ 新たな学問領域の創成や共同利用・共同研究の更なる飛躍を図るため、機構法人は、機関間の連携を促進し、法人としての一体的な運営体制を一層強化することが重要。
○ 安定的・継続的に運営していくため、社会や国民に対する情報発信や積極的な社会還元を行い、幅広い理解と支持を得ることが必要。
○ 大学共同利用機関は、大学全体の教育研究を支援し、大学を中心とする学術研究を支える重要な役割を果たしており、基盤的経費の確実な措置等、財政支援の格段の充実が必要。
○ 新たな学問領域の創成を図るため、機構法人において、領域融合の将来像等について、一定の計画性を持ちつつ、具体的な取組を進めることが必要。
○ 「研究者コミュニティにとって最適な研究組織」であり続けるため、研究分野の動向や将来見通し等を踏まえ、組織の在り方について不断の検討が必要。
○ 将来的には、機構法人の構成やカバーする領域の見直し、4機構法人全体の再編等について検討が必要。まずは、各機構法人や大学共同利用機関を含めた研究者コミュニティにおいて、主体的な検討が速やかに行われることを期待。
○ 「大学の共同利用の研究所」として、多様な分野から様々な研究者が集い、異分野間の交流が積極的に行われる創造的な研究環境の整備が必要。
○ 大学共同利用機関の魅力ある教育環境と人材育成機能を生かした「研究・教育一体型」の大学院教育は極めて有意義であり、一層の充実が必要。
○ 高校生や学部学生を対象としたサマースクール等の様々な教育活動の位置付けや充実方策についても検討することが必要。
研究振興局学術機関課