資料3‐2 第4期科学技術基本計画審議に係る意見

世界的教育研究・研究開発機関の形成
科学技術・イノベーションのための研究環境・基盤整備

2009年10月16日
日本私立大学団体連合会

 科学技術政策は、18世紀に英国で起こった産業革命以降、国際競争力の強化を図る世界の先進各国において重要な国家的課題として扱われてきた。今日では、一国の国力強化の問題に留まらず、環境問題や食糧問題、エネルギー問題など国家という枠組みを超えた人類が直面する諸問題の解決に対して科学技術政策の関与が不可避となっている。
 第4期科学技術基本計画(以下、第4期計画)においては、従来から指摘されているこれらの視点に加えて、国民の知的かつ文化的な生活を実現する科学技術の役割の重要性を改めて認識した上で、中長期的な視点からその政策が検討されることを期待する。
 一方、大学には研究を通して科学技術政策の一翼を担うのみならず、学術を継承すべき研究者を養成し、かつ彼(女)らを雇用すべき機関としての重要な役割がある。第4期計画においては、特に我が国の700を越える大学の約8割を占め、多様な力を有している私立大学の活用を推進し、その能力を充分に引き出す政策が戦略的に求められる。

1.第4期科学技術基本計画の基本姿勢について

(1)学術研究とイノベーション創出との総合的推進について

 第4期計画立案過程において、新たな知の創造を目指す学術研究の成果を現実の社会や国民生活の中に具体的に還元していく「科学技術・イノベーション政策」が計画の中核として議論されていることに対して賛意を表する。
 科学技術・イノベーション政策を国是とするにあたっては、その政策が国民全体の課題・ニーズに応えるものであって、その成果が広く社会に還元され、国民社会がその利益を享受できるようにすることが強く要請されることはいうまでもない。
 この要請に真摯に応えることこそが、科学技術の社会への貢献であり、そのためにはこれまでの基本計画で取り上げてきた基礎研究における科学的発見や発明をもとに、その成果を具体的なイノベーションへとつなげていく実用化環境の整備が特に必要となる。第4期計画においては、上述の視点から斬新な基本戦略および予算の策定が行われることを期待するものである。このようなイノベーション創出に対する新たな取り組みは、世界における我が国の知的存在感を高めるとともに、国民を支える強固な経済基盤の充実に大きく寄与するであろう。資源に乏しい我が国が、世界の科学技術に優れた貢献を行い、国として確固たる地位を維持するためには必要不可欠のことである。
 一方で第4期計画では、環境やエネルギー等、喫緊の課題に重点が置かれることは当然のことながら、それと同時に、研究者の自由な発想による研究活動なしには、真のイノベーション創出は継続しえないことから、「科学研究費補助金」をはじめとする「基礎研究」への果敢な公共投資の継続性が明確に示されることを期待する。

(2)重点分野の在り方について

 第2期および第3期の科学技術基本計画では、政策課題に基づいた科学技術分野の重点化が行われてきたが、重点分野への公共投資に対する国民の理解を得にくいことや、重点投資の性格上、研究者の意識が重点分野に引っ張られる傾向が否めず、そのことがともすれば、裾野の広い学術研究の振興を阻害しかねないことが指摘されている。
 しかしながら、社会のニーズから必然的にイノベーション創出に向けた国際的な開発競争が著しい分野、あるいは我が国として研究開発のイニシアティブを維持・強化すべき分野などへの重点投資は依然として不可欠である。裾野の広い学術研究に対する振興支援と重点的投資とのバランスのとれた政策を検討されたい。

2.「人財」育成と私立大学の重要性 

 第3期計画で取り上げられた「モノから人へ」といった人材育成を重視する基本姿勢は、それまでのインフラ整備に縛られた考え方から脱却したものであり、第4期計画においても継続・発展されるべき視点であると考える。少子高齢化社会にますます向かっていくなかで、我が国が今後においても国力を維持し、一層の発展を遂げていくためには、鍛えられたブレない軸を持ちつつ臨機応変に対応可能な「自立した人財」が多く必要である。人材の育成から人財の醸成への移行が最重点課題であり、この考え方は科学技術政策においても違わない。
 この意味で、もとより社会に有為なる人財を輩出する高等教育機関である大学は、我が国における人財育成の中核であり、大学教育に対する積極的な投資が図られることなしに、我が国の未来を支える質・量ともに豊かな科学技術人財層の形成はかなわない。とりわけ我が国の学部学生の約77.4%(※1)を担当する私立大学の役割は極めて大きく、その教育に対する一層の支援が不可欠である。


※1 文部科学省生涯学習政策局調査企画課,平成21年度学校基本調査速報より私大協調べ

(1)学部教育の充実支援 ―理工系人財の育成、科学リテラシーの涵養―

 第4期計画に向けた人財育成の審議では、大学院における人財育成が論点の一つにあげられているが、その一層の充実を図るためには、大学院に人財を供給する学部段階、とくに初年度・低学年次における教育の充実が欠かせない。
 特に、やや回復基調にあるものの学生の理工系離れが依然として危惧されているなかで、理工系学部への進学希望者を将来にわたって、維持・拡充させていくためには、私立大学の理工系学部の強化が不可欠である。国立大学に比べ、施設・設備や研究装置、教員数などの教育環境の整備に対する経費負担が重く、国際競争力のあるレベルを確保できていない私立大学の理工系学部に対する財政支援が特に講じられる必要がある。
 また、日進月歩で高度化・専門化・複雑化・学際化する科学技術と、国民の科学技術に対する理解との間に乖離が見られることから、国民全体の科学技術リテラシーを高める必要性が指摘されている。このため、18歳人口の過半(56.2%)(※2)が進学する大学・短大における科学リテラシー教育の促進が図られるべきである。


※2 文部科学省生涯学習政策局調査企画課,平成21年度学校基本調査速報

(2)大学院学生(特に博士後期課程在学者)に対する支援

 昨年9月以来の世界的な経済不況により、大学院に在籍する学生に対する経済的支援が一層必要となっている。大学院生を対象とした給付制奨学金の設立のほか、TAやRA、学費減免などの経済支援を行っている大学に対する支援が望まれる。
 また、留学生を含めて、博士課程進学のインセンティブを高めるとともに、国際的な大学院教育の質保証を図るためには、標準修業年限内における博士学位の円滑な授与を促進する必要がある。このため、コースワークの設定や学位審査の年度内複数実施などの促進を図る必要がある。同時に、博士課程修了者の多様な進路を確保するため、産学連携によるインターンシップやキャリア教育など学生のキャリアパス形成に取り組む大学に対する支援を進めることも必要である。
 私立大学大学院においては、それぞれの特徴ある専門分野を明確にすると同時に、大学間の連携により高度な研究教育環境を提供すべきである。

(3)若手研究者に対する支援

 21世紀をリードする科学技術の研究推進にあっては若手研究者の活躍が必須である。そのため有能で意欲のある若手研究者が安心して活躍できる環境・処遇の整備や就業支援は、重要課題である。博士課程研究者やポスドクは国の財産であり、国の厚い財政支援が必要である。特に私立大学と国立大学の大学院生(博士課程)では、学振特別研究員の採用率に大きな差がある現状に鑑みると、私立大学への援助の増加が大いに望まれる。
 また貴審議会学術分科会研究費部会が本年7月16日に公表した「科学研究費補助金に関し当面構ずべき措置について(これまでの審議のまとめ)」では、多くの若手研究者を支援するため、「基盤研究への最終年度前年度応募の重複制限緩和」や「若手研究による支援の回数制限」等の措置を講じることが示されている。これらの措置により「若手研究」に応募できなくなった研究者を支援するため、新たな措置が早期に実現されることを期待する。
 
さらに、ポスドクを含めた若手研究者に対する支援を促進するためには、テニュアトラック制の導入や若手研究者のポストを拡充する私立大学に対して、経常的な財政支援を行うなどのインセンティブを図る必要がある。

(4)女性研究者に対する支援

 今後、科学技術の推進にあたっては学際・複合的でかつ多様な観点が求められるが、そのためにも女性研究者の活躍に期待する点は極めて大きい。第3期科学技術基本計画において女性研究者採用の数値目標が設定されたことを受け女性研究者支援の取組が強化されたが、女性研究者の割合はまだ低いため第4期においても積極的な支援策が必要である。特に私立大学においては女子学生や女性教員の全体的な比率が国立大学よりも高く、その努力をより支援する施策も必要である。

(5)グローバル人財ネットワークの形成

 21世紀における地球的課題解決は一国のみで出来るものではなく、多くの国との連携が必要である。そのためにも国際的な科学技術の人的ネットワーク形成は極めて重要である。柔軟でかつ特徴ある学校経営や挑戦的な取り組みが可能な私立大学は、その特徴を活かし、アジアをはじめとする多くの国々との協力により多様な人財を惹きつける教育・研究を行い、その人財に国際的に活躍して貰うことが重要であり、国としての積極的支援が必要である。
 一方で、わが国の博士課程大学院学生や若手研究者に海外研修を義務づけるなど、諸外国の研究レベルに接しグローバルな視野を獲得することのできる機会を創出するための政策も不可欠である。また今後国際標準化などわが国の将来にとっても重要な国際的枠組みへの参加には、博士の学位を有する人財が不可欠であり、国際舞台で活躍する人財の育成を担う私立大学への支援を期待したい。

3.基盤整備について

 これまでの科学技術基本計画に基づき、国立大学の施設設備の整備が行われた結果、研究費のみならず、大学院を中心とした国立大学と私立大学の教育研究設備の格差が拡大した。この格差は、単なる教育研究設備の差に留まらず、競争的資金の獲得実績に直接的な影響をもたらしている。具体的には、第3期計画を受け国は国立大学等施設を重点的・計画的に整備するために平成18年4月に「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」を策定し実施した。一方、平成20年度より開始された「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」においては、先端的研究、地域連携、人財養成等と関連した限定的な施策が進められ、また従来からの「私立大学等に対する教育研究装置・施設の整備費に対する補助」事業においてもその補助内容は極めて不十分である。さらに、私立大学に対する国の補助は1/2‐2/3が通例であり、残りは私立大学が持ち出しすることが原則となっている。このことが研究環境改善に後ろ向きとなってしまう要因の一つであり、全額補助を早期に実現していただきたい。
 わが国の研究者の多くは私立大学に所属しており、また社会人再教育、学際的研究への多角的取り組みや、グローバル化対応に先行している私立大学のポテンシャルが充分に活用されていないのは、国家的損失と言っても過言ではない。国立大学に比べ、依然として研究基盤が充分ではない私立大学を支援する新たな基盤整備の枠組みが求められる由縁である。また全国の大規模共同利用施設への私立大学の利用促進策も必要である。人文・社会科学系で昨年度から開始された私立大学を拠点校とする試みは画期的であるが、理工系に対しては既存の国立施設や独法研などの施設を活用しやすくするなどの一段の配慮が望まれる。

4.地域における科学技術振興について

 地方自治体においては、人口減少、高齢化の進行等、10年後の社会情勢を背景に予想される地域課題を科学技術で解決し、地域社会の持続可能な発展を実現するため、新たな産学官連携の構築を目指しているところが多い。そのためには地域社会に根ざした技術開発とそれを地域の産業創出・振興に結びつけるプロセスが重要である。しかしこの間の経済政策により中央と地域の格差が広がり、地域における研究開発力が疲弊している。一方で、地域における国際的に通用するクラスター形成の重要性も叫ばれている昨今、地域の特色を生かした競争力強化を行うにも、地域産業、公的研究機関、大学の連携が欠かせない。第4期においては、地域における科学技術振興にも充分な配慮が払われるべきである。

5.人文・社会科学との調和ある発展について

 科学技術基本法では、その第1条において、科学技術から人文科学分野(社会科学分野を含む)を除外している。しかし、既に第3期計画の議論においても人文・社会分野の重要性が言及されているように、現代社会が直面する諸問題の解決には、諸科学が調和しながら、それぞれ発展していくことが必要である。
 人財育成の側面からも、科学技術に偏向せず、人文・社会科学をも含めて、人間としての総和のとれた人財の育成こそが、今後の我が国の科学技術の発展を支える礎となる。また、MOTや弁理士などの科学技術の発展に資する人財育成に向けては、人文・社会科学系分野との連携が欠かせない。
 今後、我が国の科学技術が一層の飛躍を遂げるためには、諸科学の調和ある発展は益々重要であり、科学技術基本法第1条の改正をも視野に収め、この度の第4期計画において、人文・社会科学も含めた科学技術の総合的な充実発展計画が策定されることを期待する。

6.政府による研究開発投資の在り方について

(1)研究開発投資額の規模について

 我が国の高等教育に対する公財政支出は、OECD加盟国平均が対GDP比1.0%であるのに対し、対GDP比0.5%に留まり、これはOECD加盟国傘下にあって最下位となっている(※3)。第3期計画では、約25兆円の政府研究開発投資目標が掲げられたが、第4期計画においてもほぼ同額を政府研究開発投資目標に掲げるとともに、早期のうちに、少なくともOECD加盟国平均までに達するよう、科学技術関連経費を含めた高等教育関係経費の拡充が達成されるべきである。


※3 OECD,図表でみる教育(2009年版)

(2)多様な公共投資の在り方

 我が国の研究投資総額のうち民間投資額は約8割(※4)であり、その多くが製品開発などの開発研究に当てられ、真にイノベーション創出につながる投資は少ない。このことに鑑みれば、基礎研究段階からイノベーション創出までをつなぐ研究活動に果たす公共投資の役割は大きく、これらの研究活動を中核的に担う大学に対する公共投資の拡充が図られるべきである。
 とりわけ、帰属収入の多くを学生の授業料に依拠せざるを得ない私立大学の研究活動に対しては、政府による積極的な投資がより拡充されるべきある。特にわが国では研究費配分上位10大学(すべて国立大学)目でトップ大学の10%の研究費に減少してしまうのに対して、米国では概ね100大学でやっと同様の額まで減少する。これは国全体の研究開発力から見て適切とは言えず、頂上を引き上げるのみならず裾野の広い研究開発投資を行い多様性の確保に努めることが21世紀における科学技術振興のために極めて重要である。
 一方で、日本の企業による大学に対する研究投資の多くが国外の大学に流出している。その一因には、日本の大学においては実用を目指す研究を目先の応用と軽んずる風潮が少なからず存在することが否めない。民間投資を日本の大学に呼び込み、大学において基礎研究からイノベーション創出にわたる国家的な研究活動を振興するためには、例えば、国と産業界が共同出資して、大学を対象とするイノベイティブな研究を促進する研究資金を設けることが考えられても良い。


※4 科学技術・学術審議会,第3回基本計画特別部会配布資料,科学技術・イノベーションの国際戦略(参考資料)

以上

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)