資料1 第4期科学技術基本計画に盛り込むべき事項についての意見

平成21年10月16日 国立大学協会

 我が国は、温室効果ガスの排出量を1990年比で25%削減するという中期目標を表明した。経済の停滞や産業の縮小を伴わずにこれを実現するためには、産業界の努力だけでなく、大学をはじめとする科学技術・学術の担い手に、その知を最大限に生かした貢献が求められる。
 とりわけ大学にとって、学術を真に人類社会の発展に生かすことがきるのか、大いなるチャレンジが提示された今、産業界に求められる負担を新たな成長に転換させていくための戦略として、今期の科学技術基本計画が大きな意味を持つことを踏まえ、以下の点を新たな計画に盛り込むべきである。

● 科学技術基本計画策定における「学術」の位置づけの明確化

 科学技術の発展のためには、人文・社会科学、芸術など多様な学問分野との相互的な刺激が重要であり、科学技術研究を、より広範でその基盤となるべき学術研究から切り出して議論することは適切ではない。
 科学技術基本計画策定においては、学術の発展を基軸に位置づけ、人文・社会科学、芸術などを含む学術研究を深化させることが、第4期科学技術基本計画が目指す「知の経済的・社会的価値、知的・文化的価値」の創造を実現するために必須であり、それをもとに、科学技術の振興を論じるべきである。

● 「科学技術・イノベーション政策」の定義・意図・担い手の明確化

 「科学技術・イノベーション」について、基本計画特別委員会では、科学技術とイノベーションを一括りにして定義しているため、その意味が曖昧になり、理解しにくい。第3期科学技術基本計画におけるイノベーションの定義との異同、「科学技術・イノベーション」と科学技術との関係も含めて、明確な説明が必要である。同様に、「科学技術・イノベーション政策」の意味、意図も必ずしも明確ではない。従来の科学技術政策と何が異なるのか、従来の科学技術政策はなくなるのか、それとも新しく何かが加わるのか等々を含め、「科学技術・イノベーション政策」の意味を明確に説明すべきである。
 「科学技術・イノベーション」に関わる問題を解決し、進展させるためには、各段階、各側面における(研究)活動の担い手(大学や産業界、官界、学協会などの組織、あるいは学術分野や研究領域など)とその役割、相互関係等を明確にすることが必要である。特に、科学技術の基盤を支える基礎研究、及びそれを含めた学術分野の発展のための人材育成を担う大学の役割を明記すべきである。

● すべての「科学技術・イノベーション」を育む基盤である国立大学の強化―運営費交付金の拡充と施設・設備整備の計画的実施

 「重厚かつ多様な「知」を育む苗床」(基本計画特別委員会)における国立大学の役割は非常に大きい。その「苗床」を競争的資金偏重の政策の下で育てることは、教育研究の多様性の確保、国全体での研究水準の維持・向上の点で大きな問題をはらんでいる。一方、国立大学は基盤的経費である運営費交付金や施設整備費補助金の削減が続いており、国立大学の教育研究環境は危機的状況にある。特に大学の基本的機能である人材育成の基盤が弱体化しており、国際競争力ある教育研究の質の確保、展開等のためにも、運営費交付金、とりわけ自由で多様な研究を支える一般経費の拡充が必要である。
 また、大学への公的投資は、先進諸国中、極めて低い水準にあるが、長期的にはこれを倍増して対GDP比1%超の水準を目指すべきである。そうした長期目標の下、当面は、目標とする経済成長率と同等以上の投資の拡充を行うべきである。
 第4期科学技術基本計画には、すべての「科学技術・イノベーション」を育む基盤である国立大学の強化とそのための運営費交付金、施設整備費補助金の拡充の方針を明記すべきである。

● 「基礎科学力の強化」に向けた投資戦略の構築と競争的資金の充実

 我が国の競争力を維持するためには、これまで実施されてきた特定分野への重点投資に加え、基礎科学力の強化に向けた投資が必要である。第4期科学技術基本計画では、少子高齢化社会の到来が予想される中で、日本の基礎科学力をいかに維持、発展させていくのか、基礎科学を支える基盤である大学への長期的な投資のあり方など、基礎科学力の強化に向けた長期ビジョンと投資戦略を具体的に提示すべきである。長期ビジョンと投資戦略を踏まえた制度設計の際には、大学が規模や機能などの点で多様性を有していること、ならびに研究分野によっても多様性があることに配慮して、きめ細かな制度設計をすることが必要である。また、基礎科学力の強化のための投資とイノベーション推進のための投資とでは経費の配分方法や配分期間等にも違いがあると考えられ、このことにも配慮して制度設計をすべきである。少なくとも、これらの事項を第4期計画期間中の早期に具体化すべき事項として明記すべきである。先の基礎科学力強化委員会の提言では、基礎科学力強化の重要性とともに投資拡大の必要性を強調しており、こうした提言の内容が反映されるべきである。
 特に、科学研究費補助金が基礎科学力強化に果たしてきた役割に配慮し、その拡充に必要な措置を講ずること、ならびに、各種競争的資金の間接経費は、研究環境の向上、適正な研究管理等に寄与するものであり、間接経費30%措置の早期実現に必要な予算を措置することも、次期基本計画に明記すべきである。
 また、基礎科学を支える基盤である大学が、その機能を一層発展させるためには、寄付金等外部資金の導入が重要であり、それを促進するための税制の抜本的改革による支援が必要である。

● 科学技術・イノベーションの評価およびインセンティブシステムの構築

 研究開発の評価は、これまでも「国の研究開発評価の大綱的指針」等に基づいて推進されてきたところであり、また基礎研究分野においては長年にわたり評価文化が培われてきた伝統があるが、一方で、イノベーションの評価は未熟な段階にあることは否めない。第4期科学技術基本計画においてイノベーションを重視する上では、従来の研究開発評価にとどまることなく、イノベーションの評価にも踏み込み、基礎研究からイノベーション創出に至るまでの広い範囲で、多様な局面のそれぞれに適した評価システムを構築するとともに、適正なインセンティブシステムを構築することが必須である。
 イノベーションの評価においては、イノベーションの多様性と価値を正しく反映すること、社会にどれだけ貢献できたのかをきちんと評価すること等に配慮する必要がある。また、大学が関わるイノベーションにおいては、経済的価値の創出だけを評価するような安易な評価は避け、大学がイノベーションを多面的に支えられるよう、大学とイノベーションとの健全な関係に配慮した評価システムを構築すべきである。

● 学術情報の基盤整備の基本的戦略の明示

 量的に膨大する学術情報に対するニーズに対応するため、電子ジャーナルによる学術研究情報の提供は、研究情報基盤整備の最優先課題である。近年、電子ジャーナルに係る経費の増加に耐えきれず購入を取りやめざるを得ない現状もあるため、電子的な学術情報資源の整備、オープンアクセスの推進など学術情報発信の基本的戦略を、第4期科学技術基本計画に明示すべきである。

● 若手研究者育成のための支援策

 大学院、特に博士課程における人材育成、修学支援と就職先の確保、ポストドクターの処遇や転身、若手研究者の確保、およびこれらのためのシステム改革は、我が国の科学技術が直面する喫緊の課題である。しかし、問題は錯綜しており、法的、制度的問題も含めて複雑に絡み合っている。まずは、関連施策や制度等を幅広く精査し、総合的な整理、検討が必要である。また人材問題には長期的視点が必要であることから、国は早急に、科学技術人材に関わる長期的ビジョンとそのための施策体系等を総合的にマスタープランとして打ち出し、それに基づいて改革を進めるべきである。
 なお、マスタープランの策定に当たっては、科学技術立国を目指す、我が国の国力の源泉は高度な人材育成であることを明確にした上で、

  • 科学技術人材の育成機関であり、若手研究者の採用機関としても重要な大学の役割
  • 日本におけるテニュア・トラックの制度設計
  • 学会とのつながり、研究者の学会活動を支えるための支援の重要性
  • 高度な人材育成のためには教職員の充実が最も重要な施策であることを位置づけ、国立大学の人件費削減政策を撤廃し、教員及び研究支援者の増員が可能となる経費保証をすること
  • 博士課程学生への経済支援を充実させ、全ての博士課程人材が、安心して学業・研究に専念できる環境を実現すること
  • 科学への関心を持続させるための初等中等教育段階、特に高校生への教育の在り方についても明確に位置づける必要がある。

 なお、国や地方公共団体は、積極的に博士人材を採用することが求められる。

● 研究支援体制の充実・強化の着実な推進

 日本の大学では、欧米の大学に比べて、研究支援に関わる要員が極めて貧弱である。この状況を改善し、研究者が研究活動に専念できる環境を整備するためには、研究支援者など専門性の高いスタッフの充実とそのキャリアパスの明確化、また、育成に向けた長期的計画の必要性を明記すべきである。

● 国民社会と科学技術・イノベーションの関係深化

 イノベーションに関しては、多様な捉え方がされているが、「科学技術・イノベーション政策」を謳っていることから、国民社会にとってイノベーションが深い関わりを持つことが共通認識となるように、イノベーションモデルを整理して分かりやすく国民に打ち出す必要がある。
 また、「科学技術を基盤としたイノベーション」という従来型のアプローチとともに、「社会的課題の総合的解決を進めるイノベーション」も一層重要になっていることから、国民社会と科学技術・イノベーションの関係を一層深化させるよう努めるべきである。

● 最後に、

  •  すべての「科学技術・イノベーション」を育む基盤である国立大学の強化とそのための運営費交付金、施設整備費補助金の拡充及び科学研究費補助金をはじめとする「基礎科学力の強化」に向けた投資の拡充について明記すべき。
  •  国立大学の人件費削減政策の撤廃について明記すべき。

ことを重ねて申し上げる。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)