第1章 知識基盤社会が求める人材像

 我が国が科学技術創造立国の実現に向けて世界をリードし、成長し続けるためには、イノベーションを絶え間なく創造できる人材の育成が求められている。
 「知」を巡る国際競争の激化や知識基盤社会の進展等により、産業構造の変化も急速に進んでいる現代においては、多種多様な個々人が力を最大限発揮でき、それらが結集されるチーム力が必要とされている。強いチームは、多様な人材により構成されるものであり、女性や外国人が活躍しやすい組織である。さらに、チームには、チームを目標達成に導くリーダーの存在が不可欠であり、高度な専門的能力かつ広範な知識を持つ博士号取得者に特にその役割が求められている。

1.イノベーションの創造に不可欠なチーム力の向上

 科学技術と社会の関わりが深化・複雑化している知識基盤社会において、求められる人材の素養・能力は多様である。このような社会では、必要とされる知識や技術の全てを個人の問題に帰することはできない。高度の専門的な素養・能力を備えた上で、異なる知識・方法論を持つ多種多様な個々人が集い、それぞれの個性を存分に活かしつつ、チームとしての力を最大限発揮することが重要である(図4)。
 イノベーションの創造はチームとしての取組が欠かせない。このチームには、知の創造から目的基礎研究、研究開発、社会経済的価値の提供までの各段階で役割を果たす人材や、その各段階を俯瞰して関連付ける人材が必要である(図5、6)。
 こうしたチームで力を発揮し先導的な役割を果たす人材の育成を図るには、大学(特に大学院)が知識基盤社会において担うべき人材育成機能を充実させていくことが不可欠である。例えば、大学院において、アカデミア向けのみならず産業界のニーズにも対応した教育研究の充実、複数の異なる専門分野の融合や異文化との交流促進、産業界と連携した連携大学院(1)の強化等が一層進展することが期待される。また、産業界等の研究者や研究チームを大学に招へいして共同研究や研究マネジメントを経験させることを推進する施策も有効であり、国はこのような大学の自主的な取組にインセンティブを与えるなどの支援を行うべきである。


1 大学院教育の実施にあたり、学外における高度な研究水準をもつ国立試験研究所や民間等の研究所の施設・設備や人的資源を活用して大学院教育を行う教育研究方法の一つ。

2.チーム力を強化する多様性の確保

(多様な人材の活躍促進)

 チームは、専門分野や素養・能力の異なるメンバーを集め、多様な視点や発想を取り入れることで、創造的な力をより大きく発揮できる。女性研究者・技術者の活躍促進、また、外国人研究者・教育者や外国人留学生(以下「外国人研究者等」と表記。)の受入れを拡大することは、男女共同参画や国際交流の推進という観点のみならず、人材の多様性を確保する観点からも重要である。
 また、日本人が海外経験を積むことも、多様な人材を育成する上で欠かせない。チームに大きく貢献できる優れた人材となるためには、異文化、異分野の人々との交流を通じて広い視野を育み、素養・能力を向上させることが重要である。しかしながら、近年は日本人の「内向き志向」が進んでいるという指摘もあり、国や大学等は、その解消に向けた施策を積極的に実施すべきである。

(流動性の確保)

 チームの中で力を発揮できる優れた人材となるためには、若い頃から異なる組織や文化を経験し、多様な視点や発想を柔軟に取り入れられる素養・能力を身に付けることも必要である。様々な経験を有する研究者が切磋琢磨することでアカデミアを活性化する観点から、アカデミア内のみならずアカデミアを超えた研究者の流動性を確保し、人材の移動を活発化させる必要がある。現在、任期を付して任用されている研究者の大半は助教等の若手研究者となっているが(図7)、その他の研究者も含め流動性を高めていくことが必要である。
 このような観点から、大学や研究機関(以下、「大学等」という。)においては、公平・公正で透明性のある審査のもと、優れた研究実績やキャリアの幅広さを十分に勘案した上で、産業界等での職務経験のある者、他機関のポストドクターを経験した者など、多様な経験を有する研究者を積極的に採用することが期待される。また、大学の各部局は、大学教員を自校出身者のみで固めることや、博士課程学生(以下、「博士課程」とは博士後期課程のみを指す。以下同じ。)の囲い込みによるデメリットも十分に認識した上で、教員のインブリーディング率(2)が際立って高い部局は、これを低減していくことも期待される。
 国においても、各大学のインブリーディング率を可能な範囲で部局ごとに公表するとともに、研究者の流動性の向上に資する施策を検討すべきである。例えば、機関を対象とする競争的資金の採択に際して、外部機関の研究者の積極的な登用を予定している課題を高く評価している例もある。具体的には、世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラムにおいて、国内外を問わず外部機関から優秀な研究者を積極的に招へいしている。また、大学等は、研究者をより安定的な職に就ける際、公正で透明性のある人事の下で、出身大学学部卒業後に大学等の機関又は専攻を少なくとも1回は変更した者を選考することが期待される。


2 所属する大学において学士・修士・博士の全ての学位を取得し、かつ、その後の職歴において自大学以外で本務を経験していない者の割合。

3.リーダーとしての資質を備える高度人材の育成

 我が国が世界をリードし続ける国であるためには、我が国を牽引し、国際的なリーダーシップを発揮できる高度な科学技術関係人材を育成することが重要である。このような人材は、産業界ではイノベーション創出の中核を担い、アカデミアでは知的価値や社会経済的価値の基礎となる研究成果を生み出し、あるいは産業界とアカデミアの協働・共創の場で産・学にまたがる知識の全体を俯瞰し異分野を融合できるリーダーである。
 このように、知識基盤社会を牽引するリーダーが必要とされる場は、産業界やアカデミア、これらの協働の場など多様である。したがって、リーダーの育成に当たっては、アカデミアのみならず産業界をはじめ社会の多様な場で活躍できる人材を、永続的に育成・輩出するための強固なシステムを構築し、それぞれの場を先導する多様な人材を育成する必要がある。このようなリーダーを育成するシステムの中核となるのは大学(特に大学院)に他ならないが、とりわけ博士号取得者には、リーダーとしての素養・能力を備えた人材としての役割が期待される。しかしながら、大学は産業界等の多様なニーズを十分に把握できておらず、学生に対する教育研究が不十分との指摘もある。また、求める人材の具体的なニーズについて産業界も大学や学生等に対し明確に発信できていないとの指摘もある。今後、社会の多様な場で活躍するリーダーの育成、確保に向け、産学官が総がかりで意識と行動の改革を進めていくことが不可欠である(図8)。
 このため、国は、産業界のイノベーション創出やアカデミアのプロジェクト研究に不可欠なチーム力を最大化できるリーダーを育成するため、チームワークを必要とする実践的な課題解決型の演習等を通じ、リーダーとしての素養・能力を伸ばす取組を支援するなど、人材育成における産学連携を推進し、我が国の科学技術システムの改革をより一層加速すべきである。

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