基本計画特別委員会(第4期科学技術基本計画)(第9回) 議事録

1.日時

平成21年12月1日

2.場所

文部科学省第2講堂(旧文部省庁舎6階)

3.議題

  1. 基本計画特別委員会における中間報告(素案)について
  2. その他

4.出席者

委員

野依主査、野間口主査代理、東委員、有川委員、安西委員、伊地知委員、大垣委員、大隅委員、長我部委員、門永委員、河内委員、國井委員、黒田委員、小杉委員、小林傳司委員、白井委員、立川委員、永井委員、二瓶委員、原山委員、本藏委員、益田委員、丸本委員、森委員

文部科学省

後藤政務官、坂田事務次官、清水文部科学審議官、森口文部科学審議官
(大臣官房)土屋総括審議官、西阪文教施設企画部長、奈良総務課長、藤原会計課長、坪井政策課長、
(高等教育局)義本高等教育企画課長、藤原大学振興課長、
(科学技術・学術政策局)泉局長、渡辺次長、小松科学技術・学術総括官、中岡政策課長、佐藤調査調整課長、川端基盤政策課長、柿田計画官、森田国際交流官、岡谷科学技術・学術戦略官(推進調整担当)、増子科学技術・学術戦略官(地域科学技術担当)
(研究振興局)磯田局長、倉持審議官、山脇振興企画課長、柳研究環境・産業連携課長、舟橋情報課長、勝野学術機関課長、山口学術研究助成課長、内丸基礎基盤研究課長、渡辺研究振興戦略官
(研究開発局)藤木局長、森本審議官、土橋開発企画課長、鈴木地震・防災研究課長
(科学技術政策研究所)桑原総務研究官
他関係官

オブザーバー

相澤総合科学技術会議議員、本庶総合科学技術会議議員、青木総合科学技術会議議員、金澤総合科学技術会議議員

5.議事録

【野依主査】
 科学技術・学術審議会第9回基本計画特別委員会を始めます。
本日は、後藤政務官にご出席いただいていますので、後藤政務官からご挨拶いただければと思います。

【後藤政務官】
 政務官の後藤斎でございます。9月の鳩山内閣発足以降、委員の皆様方からもご心配やよくやっているなど、色々なご意見をいただくのですが、いわゆる事業仕分でスーパーコンピューターも含めた科学技術のあり方自体も議論の対象になっているのはご案内のとおりであります。
 特に私もこの2週間あまり、色々な分野の研究者の皆さん方とお話をさせていただく機会を持ちましたが、ある意味では、今まで専門家の方々が議論をするだけの部分がもしかしたらあったのかなと思う反面、新聞やテレビを通じて科学技術の必要性を国民の多くの皆さん方がご理解をしていただいたと感じます。そのような中で、内閣としては、ご案内のとおり、今年いっぱい、あと1カ月弱で新しい22年度の政府予算案を編成しなければなりません。そういう中で、今日、本来であれば、中川副大臣も本日が中間取りまとめを行う重要な委員会だと承知をしており、自らがお話をしたいと申しておりましたが、他の公務と重なって、私が代わってお話をさせていただいているわけでありますが、予算の編成については、かなり厳しい視点から行政刷新会議からも指摘を受けています。その必要性と重要性を私たちが皆様のお知恵もお借りしながら、きちっと内閣全体で合意形成を得るような形に必ず持っていきたいと個人的には思っています。
 野依主査をはじめ、多くの方々の分野で、「このままじゃ研究もできないわ」というお話を実際の現場からも聞いております。そうならないよう、事務局とも一緒に努力して、来年度以降、今まで以上に充実した研究環境になるよう、大臣も含めて努力をしていきたいということを申し述べまして、この中間報告がこれからの科学技術の将来の大きな方向性を位置づけるものだと思っておりますので、ぜひ充実した議論の中でよい報告ができるように委員の皆様にもお願いをして、冒頭、私から若干のご報告とお願いのご挨拶にしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

【野依主査】
 ありがとうございました。よろしくご指導いただきたいと思います。
 それでは、議事に入る前に配付資料の確認をお願いします。

【柿田計画官】
 議事次第の裏面に配付資料一覧を記載しております。まず、資料1-1がA3の1枚紙で、取りまとめ案の概要でございます。資料1-2が中間報告の素案、資料1-3が中間報告の参考資料集の案でございます。資料1-4がこれまでの8回にわたる会議での主なご意見を項目別に整理したものでございます。資料2が今後の予定、参考資料1が前回の会議における主な意見の項目別の整理でございます。参考資料2は、科学技術・学術審議会のもとに置かれております国際委員会における最終取りまとめでございます。参考資料3が同じく技術・研究基盤部会における今後の知的基盤整備に向けての中間取りまとめの報告書でございます。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 本委員会では、6月から大変密度の濃い議論を重ねてまいりましたが、本日と次回の会議で議論の取りまとめに向けた審議を行いたいと思います。これまでの審議を踏まえて、事務局において報告書の素案として整理いただきましたので、説明をお願いします。

【柿田計画官】
 それでは、これまでの審議の内容をもとに報告書の案として整理させていただきましたので、ご説明いたします。
 資料1-2が報告書の本体ですが、概要版の資料1-1により、内容のポイントをご説明いたします。
 まずタイトルですが、「『我が国の中長期を展望した科学技術の総合戦略に向けて』(中間報告素案)概要」としております。言うまでもなく、我が国の科学技術の振興に関する基本的な計画として定められている現在の科学技術基本計画は、平成22年度までを対象とするもので、平成23年度以降の計画は政府において検討・策定される必要があります。本取りまとめは、政府における検討に向けて提言していくものとして、仮称としてこのようなタイトルとさせていただきました。また、今後の政府部内における検討状況も見つつ、今後とも必要に応じて本特別委員会でご検討いただくという趣旨で中間報告とさせていただいております。
 次の行には、科学技術がまさに人類生存の鍵を握るものであり、科学技術の価値、また、イノベーション創出の重要性について本文中のメッセージを簡潔に記しております。
 次の青色と緑色の枠囲みの2つの欄には、今後の科学技術政策に関する基本認識を示しております。まず、青色の枠囲みの欄には、科学技術に関連する我が国及び世界における諸情勢の大きな変化、また、諸外国の科学技術政策の動向として、米国をはじめ各国とも科学技術あるいはイノベーションへの取り組みを強化している状況、さらに、これまでの科学技術振興の成果として、人々の暮らしや国の発展に大きく寄与するとともに、画期的な研究開発成果を創出する一方で、科学技術政策における課題も顕在化していることを記述しております。
 緑色の欄には、まず、一番左側に「我が国の科学技術政策に求められる基本姿勢」を掲げております。今後、我が国においては、情勢変化で列挙したような様々な課題を解決するとともに、安心・安全で質の高い生活の実現等に向けて、国としてあらゆる政策を総動員した取り組みを進めることが求められる中、科学技術政策も科学技術振興のみを目的とする政策ではなく、社会・公共のための政策の一つとして重要な役割を担うことを改めて明確化し、ここに3点掲げるような国の政策全体の基本的方針と軌を一にして推進するということを基本姿勢としております。
 その右側には、この基本姿勢の下で科学技術政策を進めるに当たり、「科学技術政策により中長期的に目指すべき国の姿」として、安定した就労環境、安心・安全の確保等により、将来にわたり質の高い生活を科学技術で実現するという視点や、科学技術により国の存立や発展の基盤をなすという視点、科学技術をもとに国際協調・国際協力し、地球規模課題の解決をリードするという視点等をもとに、5つの目指すべき国の姿を掲げ、この目標に向かって科学技術政策を推進していくことが重要であるということを述べております。
 そして、一番右側には、「基本姿勢」、「目指すべき国の姿」の下で政策の基本的方針として3点を掲げております。1点目は、「科学技術政策」から「科学技術イノベーション政策」への転換です。単に科学技術の進展を目指す政策にとどまらず、得られた成果の社会還元を一層推進するとともに、科学技術を取り巻く社会経済等までも幅広く対象に含め、社会ニーズに基づく重要な課題を設定し、それらの課題解決に向けた取り組みを促進する観点から、科学技術政策と科学技術に関連するイノベーションのための政策とを組み合わせた総合政策としての取り組みを図るというものです。また、ここに掲げる2つのアプローチを車の両輪として推進することを明確化するものです。
 2点目は、「社会とともに創り、進める科学技術イノベーション政策」の実現です。社会・公共のための政策の一つとして、社会・国民のニーズに応えるものであるために、政策等の立案・推進に当たっては、社会・国民の参画を得ること等を通じ、国民の理解や支持を得ながら科学技術の成果が広く社会にもたらされることを目指すという視点です。
 3つ目には、「『人』を重視した科学技術イノベーション政策の強化」です。我が国が今後、知識基盤社会として発展していくためには、その核となるべき人材を絶え間なく育成・確保していくことが不可欠であり、人材に係る取り組みを科学技術イノベーション政策の推進に当たって基盤的なものとして位置づけるという視点です。
 以上の基本認識のもとで今後推進すべき重要な政策について大きく3つの柱にまとめております。
 1つ目が「基礎科学力の強化」です。これは、科学技術イノベーションの両輪の一つに対応するもので、1点目に、新たな知の創造やイノベーションの源泉としてのシーズを生み出す多様で独創的な研究の推進を挙げています。2点目に、創造的人材の育成に向けて、その主要な担い手たる大学院教育の充実・強化と博士課程学生あるいは若手研究者に将来展望をもたらす取り組みです。3点目に、システム改革として使いやすい研究資金整備、ハイリスク研究等挑戦する試みを積極的に支援する取り組みで、4点目に、大学等の教育研究力の強化として、国際的にも魅力ある施設・設備等の環境整備を進める等、我が国の科学技術の長期的な発展に向けて基礎基盤をしっかりと整備していくための取り組みをまとめております。
 2つ目が「重要な政策課題への対応」です。科学技術イノベーションの両輪のもう一つに対応するもので、1点目に、地球温暖化、食糧、水資源、エネルギー、医療・健康等、解決すべき重要な課題を設定し、その実現に向けて関連する科学技術を基礎から応用・開発のレベルまで、かつ重点的に推進するもので、第3期科学技術基本計画まで実施されてきた分野内での重点化の考え方から、重要な課題解決に向けて分野の壁を越えて、また、府省横断的に研究開発を推進する。併せて、戦略の策定から研究開発の実施までマネジメント機能を整備するものです。
 このような方策をとることにより、社会に対して科学技術によって重要な課題の解決を図るという目標を明確に示し、その目標に向かって様々な分野、あるいは担い手による複数の研究開発施策が一つのパッケージとして連携あるいは統合化され、科学技術による成果の社会還元と投資の重点化を図るという点について、前回の委員会でもご議論いただいたところです。
 また、2点目の国際の関係では、科学技術外交のほか、頭脳循環として研究者等の海外派遣、あるいは海外からの優れた研究者等の受け入れを促進し、人材を育成確保していくということです。
 3点目に、課題対応に向けたシステム改革として、産学官の連携強化、特にそのための場の形成や、大型施設等を有する研究開発法人が中核機関となって、そこに複数機関が競争あるいは協調の関係で共同研究に参画し、研究開発力を向上させる取り組みです。
 さらに、4点目に、世界的な研究開発機関の形成として、研究開発力強化法等を踏まえ、研究開発の特殊性、優れた人材の確保、国際競争力の確保等の観点から、新たな研究開発法人のあり方について早急に検討を進める必要性と検討に当たっての主な論点の例を示すとともに、世界トップレベル拠点や先端研究施設・設備、あるいは先端的機器等の整備推進に関してまとめております。
 3つ目が「社会と科学技術イノベーション政策との連携」です。社会・国民からの科学技術に対する要請や期待が高まる一方で、科学技術の進展により、それが社会・国民に及ぼす影響や新たな倫理的課題等の問題が提起されるなど、社会と科学技術との関係はより複雑化していると言えます。また、単に科学技術の進展のみを目指す政策ではなく、社会・公共のための政策であるということを明確にし、政策の実施主体と社会・国民がより一層密接な関わりを持っていくということが重要であるとの認識から、「社会とともに創り、進める科学技術イノベーション政策」を基本的方針の一つとしております。
 今後の科学技術イノベーション政策においては、このような視点が極めて重要になると考えられ、1点目に、政策・施策の立案・推進において、国あるいは研究開発実施機関等が国民に対して説明を行うのみならず、政策の対象となるべき社会的課題等の国民の意見を把握し、それらを適切に政策に反映していく取り組みを進めるということや、2点目に、政策の実効性確保のための取り組みとして、イノベーション創出の隘路となる規制や制度を特定し、政府を挙げてその改善、解決を図るための取り組み等を進めるということ。3点目に、科学技術イノベーション政策の企画立案・推進機能の強化として、現在、政府内において科学技術戦略本部(仮称)を設けるという方向性が示されておりますが、我が国における科学技術イノベーション政策を強力に推進するための司令塔として組織され、諸機能の強化が図られることが期待されます。
 最後に、科学技術を、我が国が発展し、世界に貢献していくための最大の手段かつ資源として認識し、ここに掲げる重要政策を確実に実行していくためには、政府研究開発投資の一層の拡充が不可欠であり、政府研究開発投資の対GDP比1%の達成を基本として投資総額を明示すべきであるとしております。
 以上、各回における広範なご議論を基に今後の重要政策についての取りまとめ案として整理させていただきました。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 それでは、ただいま説明のありました報告書の素案について議論を行いたいと思います。一つ事務局に確認しておきたいのですが、この報告書で「科学技術イノベーション政策」という新しい用語が出ておりますが、これは「科学」と「技術」と「イノベーション」に関わる政策ということですね。

【柿田計画官】
 はい、そのとおりです。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 それでは、時間も限られておりますので、報告書本文の記載ぶりなどに対するご意見につきましては、後ほど事務局に書面等でお送りいただくこととして、この場では、本取りまとめの内容に関してこの場で是非発言しておきたいというものに限らせていただきたいと思います。
 この会議は、大変議論が活発で、多くの方が手を挙げられてご発言の機会を待っておられるという状況です。今日は、挙手の代わりにネームプレートを縦に置いていただく方式にさせていただきます。
 それでは、ご意見のある方は、どうぞ。

【本藏委員】
 私は、この取りまとめについて、これまで議論したことを踏まえて大変うまくまとめられていると感じています。前回の委員会で説明がありましたが、科学技術イノベーションの研究開発の推進に関する概念図が示されたわけですが、その中で2つの政策的アプローチが示されていました。1つは、基礎科学力の強化に向けた研究の推進で、シーズからニーズに向かう方向性を持ったものです。今回の資料では、その部分については基礎学力の強化に該当していると思います。
 もう一つ、国のあるべき姿に対応した具体的政策課題を設定し、研究開発を戦略的に推進するというものでありまして、今回の資料では、この真ん中の「重要な政策課題への対応」に当たると思います。この後者におきましても、当然のことですが、これまでの基礎科学力の蓄積の上に政策課題に特化した更なる基礎研究が必要となります。また、政策課題においては多くの場合、社会との連携も重要な要素となります。この意味で、これらを三本柱として掲げているということは大変適切ではなかろうかと思います。
 私がなぜそのように思うかということについて、若干時間をいただきまして、私が関係しています地震津波防災研究でも、実はこの三本柱に沿った形で推進されようとしていますので、一つの例として簡単にご紹介させていただきたいと思います。
 まず、なぜ地震津波防災研究が政策課題になるのかということですが、我が国ではご承知のとおり、巨大地震発生は宿命でありまして、これまで大きな被害を被ってきました。近未来では、東海・東南海・南海地震の発生が危惧されておりまして、現状のままでは死者は2万人を超え、被害総額は80兆円と見積もられています。もちろん我々関係者は全力を挙げてこのような被害を科学技術の力で未然に防ぐべく、オールジャパン体制で地震津波防災研究の本格的推進を開始しようとしているところです。
 現状はどうかと申しますと、発生時期に関する基礎研究はまだまだ不十分で、今後30年間に発生する確率が60~70%であるという程度にとどまっています。現在では、この問題をさらに高度化するために地震発生シミュレーション研究に力を注いでおりますが、防災・減災に直結するような成果に至るには、現在、地球シミュレーターを使っておりますが、それでは不十分で、その計算能力を2~3桁上回る性能を有するスパコンが必要となっております。
 ただ、地震が発生する領域と地震の規模の予測の研究はかなり進展していまして、どのような地震波が放出されるか、あるいは、このような情報と内部構造及び地盤構造の情報と併せて、想定地震が発生した場合の地域ごとの地震動がきめ細かく予測できるような段階に達しております。また、こうした地震動による各種建物・施設の具体的な揺れの予測へと研究が進展していまして、ここではE-ディフェンスと呼ばれる大型実験装置が威力を発揮しているところです。
 ただし、現在、問題が1つあります。それは、周期2~3秒程度の長周期地震動予測でして、現在の地球シミュレーターでは性能不足で対応が難しく、30階程度の高層ビルの揺れを正しく予測できないという問題を抱えているところです。
 最後に、地震津波防災においては地域主体の産学官連携が極めて重要で、現在、このような観点からの活動も始まりつつあります。例えば、高知市、大阪市、名古屋市においては地域研究会が創設され、市や県の関係者、ライフライン関係企業、地域の大学の地震学、地震工学、人文社会科学の研究者が参加し、地域の実情に沿った防災戦略、重要課題の抽出などを議論しているところです。
 このように考えますと、事務局からご説明がありました三本柱というのは、地震防災研究の例をとってみても極めて適切なものになっていると思っている次第で発言をさせていただきました。

【門永委員】
 私も今回のまとめは、非常にすっきり分かりやすくまとまっていると思います。今までの8回の議論で皆さんが色々言われたことを十分に汲み取って、ここまでまとめた事務局のご尽力に敬意を表したいと思います。
 なぜそう思うかということと、最後に二、三点、注文もつけたいと思い、発言します。
 資料1-1は、9つの箱があって、一番上に青い帯でそれをくくっているという構成になっていますが、この青い帯のところは普遍的で、グローバルにどこの国にも当てはまる話で、おそらくこれに異論を唱える方はいらっしゃらないと思います。ですから、そこからスタートして、上の3つが、世の中の状況と諸外国の状況とこれまでの成果をまとめ、真ん中の3つ、これが1つポイントと思って聞いていたのですが、左側に基本姿勢、社会・公共のための政策の一つであるということと、国の政策全体の基本方針と軌を一にするということが示されています。これを明確に謳った上で真ん中に目指すべき国の姿があって、右側にそれを踏まえて、では、どうやって到達していくのかという基本方針がはっきり書いてある。1つは、両輪でやっていくのだという前回議論した話と、それから、社会とともにつくるのだという話、3番目が人に投資していくということだと思います。それがその下の段にそれぞれ具体的に3つ述べられているというまとめ方は、聞いていても分かりやすく、私がどこかで説明しろと言われても説明しやすい形だなと思って聞いていました。
 それで、注文なのですが、1つは、諸外国の話が真ん中の上に数行入っていますが、おそらく諸外国がかなり重点的な投資をして総額も大きく、さらにハイリスク・ハイリターンのところに国が関わっているという話は、もう少し大々的に書いてもいいのではないかなと思います。やはりグローバルがあっての日本ですので、他の先進国はどういうことをしているかということを踏まえての話、しかも、それはかなりホラーストーリーになりつつあるというのが現状だと思いますので、そこは強調されてもいいのかなと思いました。
 それから、2番目は、基本方針の中で両輪の話は分かりやすいし、社会と共にというのもいいのですが、「人を重視した」については、下のこの3つの箱に散りばめられているとは思うのですが、「このように人に対する投資を重視していますよ」というところがもう少しはっきり出ていてもいいのかなと思います。コンクリートから人へという話も大きな流れでありますので、そこを言葉で強調してもいいのかなと思いました。
 以上です。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 最後におっしゃったことは大変重要です。やはり科学技術というのは色々なことで国際的なベンチマークが必要です。投資や人材養成、研究水準、あるいは評価についても国際ベンチマークに基づいて行う必要があります。

【東委員】
 今回の取りまとめですが、私は、本委員会に8回出させていただいて、その主要部分がきちっと整理されて大変よくまとめていただいたと思っています。
 特に科学技術政策から科学技術イノベーション政策への転換ですが、これは従来から相当大きく舵を切ったと受けとめていまして、大変評価できるところだと思います。ただ、この報告書は「中間報告」となっておりますが、実行をどうするかが問題だと考えます。「中間」というのは、まだまだ実行まで時間がかかるよということをメッセージとして出されていると解釈しています。この何々から何々へという大きなチェンジには、元の体制にとっては痛みを伴います。元の体制をかなり削って新しい体制へ持っていくために生じる痛みです。実行計画の時にはそれは避けられないということを覚悟しなければいけないと思います。
 特に要約版の真ん中の下、「重要な政策課題への対応」のところで1番目に書いてあります「重要政策課題に対応した研究開発の推進」は非常に重要で、産業界は今まで少なくともこういう意思決定の場に加わっていない、加わり方が少なかったと思うのですが、今後はイノベーション政策が入りますので、ぜひ産業界側としてもここの意思決定にコミットしたいと思います。
 それで、実は第1回会議の最初の発言をさせてもらったのですが、その時に、日本が政府の研究開発投資率が諸外国に比べて極めて少ない、18%だという話をしました。研究開発投資のGDP比という意味についてですが、日本はGDPが1995年からほとんど変わらず、一定です。現在はリーマンショック及びドバイショックによって、GDP比を数%上げてくれということはなかなか言いにくい状況ではありますが、この計画は平成23年4月からスタートする計画だということを踏まえると、姿勢としてはここに明記しなくても必ずGDP比をどんどん上げていくというような気持ちで臨まないと、やはり日本は科学技術立国にはなれないと思います。

【野依主査】
 ありがとうございます。
 産業界からは特にイノベーションが大事になってまいりますので、ぜひ積極的、建設的にコミットをしていただきたいと思います。特に人材養成についてご提言いただければと思っております。よろしくお願いします。

【長我部委員】
 私もこのまとめを拝見して、これまでの議論が生かされた非常にいいまとめだと思います。とりわけイノベーションという軸が付加されたということが大きな前進だと思います。
 その中でイノベーションというのは、最終的には産業に科学技術の成果を持っていくところにあるわけで、その一番下の列の2つ目の「重要な政策課題への対応」というところにあるような、イノベーションに対する取り組みが書かれていますが、そこで働く人材の育成、特に科学技術とイノベーションを結びつける人材の育成、先ほど野依主査も仰いましたが、そこのところをぜひ産業界とアカデミアがよく協議してそういった仕組みを作っていくというところを高らかに謳い上げていただいたらよいかなと思います。
 それから、全体がイノベーションということで政策主導、あるいは国の課題主導ということで、これまでの分野別の取り組みから目的別の取り組みへチェンジするということですが、これは従来の分野別の取り組みが全くまずかったというわけではなく、常に出口とナノテクノロジー、ライフサイエンスといった各分野はマトリックスの関係ですから、これまで培ってきた成果、人材、こういったものをいかに有機的につなげて今度の政策主導型、イノベーション主導型のところに持っていくかが重要です。その移行を過去の成果をちゃんと使って連続的に結びつけるというところをぜひ強調していただければと思います。

【森委員】
 1つ質問から始めたいのですが、49ページに「留学生30万人計画」と書いてありますが、現状はどれくらいなのでしょうか。

【義本高等教育企画課長】
 約12万4,000人です。

【森委員】
 そうすると現状の3倍弱の目標になりますね。ここに数字を書くのがいいのかどうか少し疑問がありますが、そこまで増やそうと思ったら、色々なことを全てやらないといけないと思います。その数字を使うかどうか少し考えていただきたいと思います。
 あともう一つは、奨学金のことがここに書いていないように思いますが、それはまた後で書かれるのでしょうか。

【柿田計画官】
 奨学金については、例えば19ページの「博士課程学生への経済的支援の充実」という中で、TA、RA、奨学金、フェローシップといった取り組み、支援を拡充すると記載しております。あるいは学部学生に対しても、今後の中教審の審議を踏まえてということになりますけれども、記述をしております。

【森委員】
 最近、学生支援機構の貸与型奨学金の回収の話が出ているので、文科省としてどのような対応をするのかはっきりする必要があるのではないでしょうか。例えば、給付型か貸与型かという話がありますが、もちろん現在の財政状況で給付型を増やすというのはほとんど不可能でしょうから、貸与型がなくなることはないと思います。そして当然議論の対象になるであろう、貸与型奨学金が未回収になっている問題については、結局、民間委託をするしかないと思います。ただ、そういったことも書かないと、これは文科省の態度を問われることになるのではないかと思います。

【野依主査】
 この問題については、私が座長としてまとめさせていただいた、「基礎科学力強化に関する提言」に書いてあります。今、森委員が仰ったことですが、「このような経済危機だから給付型は増やせない」ではなく、「経済危機だからこそ若手にしっかりと経済支援をしていかなければいけない」ということだと思います。しっかり記載していただくようにお願いします。

【有川委員】
 重複することは避けたいと思いますが、全体的にはこれまでの議論をしっかりまとめていただいて、非常にすっきりして分かりやすく、しかも最近の動き等にも配慮した立派なものになっていると思います。非常にありがたく思います。
 その上で、大事な視点が1つあると思っています。例えば「重要な政策課題への対応」というところで政策的な対象に対して色々記述してあると思いますが、例えば基礎科学のところに書いてあるように、これからいわゆるe-サイエンス的なやり方をしていくということは未踏の領域に入ってく上では絶対に欠かせないわけですので、そのような課題解決のための環境の整備や、手法の整理といったことももう少し明示的に書いておく必要があるのではないかと思います。
 それから、例えば重要課題の例として「ユビキタス」というようなことがありますが、これは第3期科学技術基本計画の頃からかなり使い古してきた言葉であり、もう少し進化していると思います。人間環境に適応するような情報基盤という言い方でもいいのではないかと思いますし、同じようなことですが、ツールとしてのハイパフォーマンスコンピューティング等も課題例として入れていただければ、政策的な対象だけではなく、課題解決に向けてどうアプローチしていくかということに対する配慮も十分なされたものになると思いますので、ぜひご配慮いただければと思います。

【野依主査】
 受け身的な取り組みではなく、将来のあるべき社会をつくるために積極的、建設的な取り組みをするということですね。

【原山委員】
 2点ほどコメントを述べさせていただきます。このA3の資料1-1ですが、真ん中のところに「中長期的に目指すべき国の姿」として5点述べられておりますが、この姿を達成するためには科学技術イノベーション政策だけではなかなか難しいと思います。むしろ、ここで謳うべきは他の施策とのシナジーをいかに引き出すか、補完性をいかに引き出すかということだと思います。今はどちらかというと、役割分担で各省ごとに施策を実行するという流れになりつつあると思うのです。それでは昔に戻ってしまうと危惧するところです。ですので、確実に科学技術でできることはこの基本計画に書き込み、かつ、イノベーションを盛り込むのであれば、基盤的には産業政策であれ、ベンチャー政策であれ、様々な施策と連携していくということを書き込む必要がありますし、また、社会システムの変革を伴うのであればルールの変革に関しても述べなくてはいけないということを指摘させていただきます。
 もう一点は、「重要な政策課題への対応」ですが、ここで述べている重要な政策課題というのは国全体としての政策課題だと思います。であれば、どのような立場の人がどのようなプロセスでこの政策課題を抽出するのかが、ここだけだとよく読み取れません。体制が変わり、新たな方針を新しい政権が出して、それに対する政策なのか、それともこれから再度精査し直した上で、この政策課題をもう一回設定し直すのか、その辺のところをクリアにしないとぶれてしまうような気がします。

【野依主査】
 最初に仰った省庁縦割りの問題については、今後、総合科学技術会議において議論される時に、様々なイノベーションに関わる省庁が参画し、そこで整合的にまとめていただくことになるのだと思います。計画官、それでよろしいですね。

【柿田計画官】
 はい。そのように考えております。

【野依主査】
 よろしくお願いいたします。

【大隅委員】
 「今後の科学技術政策における基本的方針」ということで3つ挙げてあります。1つ目にイノベーション政策が入ったということ、2つ目に「社会とともに創り、進める」という「社会」というキーワード、3つ目は第3期科学技術基本計画の時からの踏襲だと思いますが、「『人』を重視した」ということですが、2点目と3点目についてコメントさせていただきます。
 まず、「人」重視ということですが、先ほど大学院生等への支援が充実されなければいけないという話がありましたが、そこは非常に重要な点だと思います。それに加えて、科学技術を支える人材のダイバーシティーが非常に大事な点だと思われます。例えば女性研究者の登用及び活躍促進や、自校出身者以外の登用促進についても是非しっかり書き込んでいただきたいと思います。既に書かれていますが、これより後ろ向きにならないようにぜひお願いします。
 もう一点は、「社会とともに創り」というところで、具体的なこととしては、イノベーション共創プラットフォーム(仮称)というものに産業界等からも参加していただくというところが一つだと思います。もう一つは、社会にどのように発信していくかというところですが、この中間報告素案の15ページを拝見しますと、「基礎科学力の強化」の中に書かれている「推進方策」の中の「2)社会に対する説明責任の強化」とあるのですが、これは、誰が説明責任を負うべきなのかという非常に大きな問題があると思います。もちろん、個人の研究者が自分の研究成果を、まずは専門的な形の学会発表であるとか論文という形で発表する、これが基本ですが、その一次情報が、なるべくエンドユーザーである国民に伝わりやすいような仕組みがあるべきであろうというのが第1点です。
 もう一つ、「国は、」で「、」が入っておりまして、「大学等及び公的研究機関等におけるアウトリーチ活動の重要性に鑑み、これらの取組を一層促進する」と書いてありますが、国としてはどのように説明責任を果たしていく姿勢があるのかが少し不明確な気がします。結局、説明責任については大学の広報等でそれぞれやってくださいねということでいいのかどうかということです。もう一つ、この報告の中に是非学協会の説明責任も入れるべきではないかと個人的には思います。それぞれの学術の専門団体である学協会は、より説明しやすい専門性を有していると思いますので、そのあたりのところを是非次のバージョンに反映していただけたらと思いました。

【野依主査】
 最初に仰った人材の多様性をキープすることは極めて大切なことです。そのためには、非常に優れた人たちが交じり合うことが大事ですが、日本の場合には、いわゆる秀才といいますか、出来るとされる人たちほど立ち位置を変えずに同じ殻に閉じこもる傾向があります。そこを何とか工夫して、将来が嘱望されるような人たちが交わることが大事です。「留学生30万人計画」にしても、諸外国の最も優れた学生たちはみんなアメリカやイギリスに行って、残りを日本に集めてくるということでは意味がありません。各国の最も優れた若者たちを日本に連れてきて、日本人と共に切磋琢磨させるという仕組みが必要です。

【小林傳司委員】
 この取りまとめ案は非常にバランスが良く、全て書いてあるといえば書いてあるのですが、そのバランスの良さが逆に仇になるかもしれないという気もします。目玉は何なのかという観点から見ますと、やはり社会・公共政策という観点で打ち出している点だろうと理解しました。そうすると、このポンチ絵で言いますと、重点分野という切り方から政策課題への変換というのが非常に目玉になるのだろうと思います。そうすると、先ほど原山委員も仰いましたが、その政策課題の設定をどうやってやるのかという問いが当然出て来ます。これは、実はそのポンチ絵の右側の「社会と科学技術イノベーション政策との連携」のところに書いてあるわけで、「国民が参画して議論を行う場の形成」の中に「『重要政策課題(仮称)』の抽出」と書いてあるわけです。これは非常に大事なポイントで、単に世論調査をすればいいという話ではなくて、もう少し踏み込んだことをやるというメッセージを伝えるべきだろうと思います。
 そうすると、昨今の事業仕分けの議論を見ていて感じたわけですが、結局、従来の第3期までの科学技術基本計画でも社会との関係については書いてはあったのですが、結局のところ、科学技術コミュニティーが社会とのコミュニケーションをうまくやってこなかったという構造が露呈しているのではないかという気がします。
 そこで、先ほど産業界との連携について話がありましたが、もちろん産業界も重要なパートナーですが、おそらく産業界だけではなくて、政治家、国民、学協会も含んだ形での社会とのコミュニケーションをかなり充実させなければいけない、これは単なる研究のためのアタッチメント(附属品)ではなくて、これからの研究の本質的な構成要素だという考え方が必要だと思います。
 そう考えた時、総合科学技術会議の役割というのは、今回の報告書だとかなり肥大化しているように思います。重要なことが全部総合科学技術会議に委ねられているわけですが、実際に物を動かすときの人材が重要で、それらは総合科学技術会議の議員さんだけでは到底できません。具体的な場面で人について考えた時に、やはり人材というのは決定的に重要なわけです。今回の素案でも人材は大事だと書いてあります。基礎科学力、重要政策課題、社会と科学技術、それぞれのところに色々な人材が大事だと書いてありますが、どこかでまとめて一回強調して記載する必要があると思います。そして、そういう人材は振興調整費でお金を撒いたら湧いてくる人材というわけではないので、時間をかけて中期的な計画の中で人材を育成するシステムを考えるという覚悟を決めないとこういう人材は育ってこない。人材としてはマネジメント、コミュニケーション、基礎科学、知財分野もあるでしょう、そういった人材をちゃんと計画的に戦略的に育成する仕組みをつくるということが非常に大事です。それがあって初めてこの3つの目玉商品が動く、動かすための人材が生まれてくるという構造になるのではないかと思います。そのような形の目玉商品の書き方という点でもう少し工夫の余地があるのではないかと思います。
 総合科学技術会議は一番上位の議論体ですから、そこで全てのことはできないので、色々な分科会やワーキンググループ等が書いてありますよね。そういうところで実際に作業をすることを考えた時に、イノベーションとかをちゃんとチェックしたり、立案したり、マネージをする人材というのを総合科学技術会議の議員さんがやるわけにはいかないですよね。そうすると、そういうことを具体的にやる人材が必要になりますね。そのような人材について今まで日本ではきちんと戦略的に育成する仕組みをつくってこなかったのです。振興調整費等で募集してやっていますが、その経験は蓄積されず、毎回繰り返し同じようなことをやり続けているので、この機会にそういう人材をきちんと育成することをメッセージとして出すべきではないか、そうしないと第3期科学技術基本計画と同じことをやってしまうことになりませんかという問題です。
 研究支援人材が国際的に乏しいというデータが出ていましたよね。それは、いわゆる研究者ではなく、研究をマネジメントする人材であったり知財の専門家であったり、そういう人材が少ないのは事実なのです。
 では、今までどうやってきたかというと、振興調整費の政策課題みたいな形で提案していただいて、そこから出てくるだろうというやり方をしていたのですが、そういうやり方で人材をつくっていこうとしても継続性がなく、さらに経験が蓄積されないため、点としての人材になってしまい、面として全然広まっていっていないという問題があるのです。だから、第4期科学技術基本計画の中ではそういうタイプの人材を意図的にきちんと育てるというメッセージを出して、システム作りをやらないといけないと思います。今回、総合科学技術会議の下にイノベーションのための仕組みとして、共創プラットフォームやマネジメント体制の整備と書いてありますが、これを担う人材もそういう形で育てていかないと、総合科学技術会議も機能しなくなるのではないかという心配です。

【柿田計画官】
 前回の特別委員会で、報告書素案の75ページに、今、小林傳司委員もおっしゃられたイノベーション共創プラットフォームの概念図をつけておりますが、これは重要政策課題への対応において、色々な分野の研究者、あるいは色々なセクターの協働が求められるので、きちんとした横串を通すマネジメントシステムが要ると考えられ、それ相応のところでオーソライズをしながら戦略をつくっていく必要があるということで、司令塔となる組織がオーソライズし、適切なマネジメントも行っていくという、一つのイメージとして示しております。
 それと、小林傳司委員が提案されました人材の話ですが、確かに色々なところに様々な人材の必要性を書いております。報告書のまとめ方について引き続き検討いたしますので、またご相談させていただきたいと思います。

【益田委員】
 立派な中間報告書をまとめていただいて、ありがとうございます。
 1点だけ具体的に申し上げます。先ほど野依主査がお話しになったことと関係しますが、本文の中に学生の流動性の向上、大学院学生の多様化の促進について明示的にはほとんど書かれていません。日本の大学の活性化、国際化にとって非常に大事な問題だと認識しています。具体的にどこに書いていただきたいかというと、このA3の資料1-1で申しますと、「基礎科学力の強化」の2番目に「知識基盤社会をリードする創造的人材の育成」で、1番目が「大学院における教育研究の質の向上」になっていますが、その下に例えば、「大学院学生の多様化の促進」という項目を入れていただけないかと思います。「博士課程学生等への経済支援の充実、キャリアパスの多様化」の前です。本文では18ページの「博士課程学生に対する支援の強化」の前に、「2. 大学院学生の多様化の促進」をいれていただきたいということになります。基本的考え方は、「我が国では大学院教育と学部教育の境界が不明瞭であり、大学院進学学生の圧倒的多数は自分の大学の大学院に進学をする、いわゆる純粋培養型になっている。博士課程に進学する学生の多くは、学部・大学院在学中の9年間を同じ環境で生活をする。学位を取得した学生の幅が狭いのは、こういう仕組みとの関係が非常に強い。優秀な学生には大学院進学時に国外を含めて移動することをエンカレッジし、多くを経験させる、視野を広げさせることが重要である。博士取得者がアカデミア以外の就職先が見つけることが難しいといわれているが、それもこのような構造と深く関連している。」といったことだと思います。
 そして具体的な推進方策としては、例えば1番目として、大学院に重点を置く研究指向の大学、国立大学で申しますと大学院重点化大学、あるいは、その一部を想定しますが、その学部と大学院の独立性を高める、大学院は、出身大学の学生が中核を占めるのではなく、国内外の大学からの多様な学生によって構成する、自大学出身の大学院進学希望者には、できるだけ国内外の他大学大学院への進学を勧めるように教員の意識改革をすることが重要であるということです。当然、そういう大学院では経済的支援の充実が他の大学に比べて重要になります。
 2番目としては、大学院に重点を置く研究指向の大学の学部の卒業生はできるだけ国外を含め、他の大学の大学院に進学することをエンカレッジするような仕組みを考えることです。例えば、大学院博士課程の学生の流動性を促進させるために、学振特別研究員-PDに習って、学振特別研究員-DCへの応募規定に、「学部-修士-博士の課程が同一大学の学科とそれに直結した専攻であることは、学振DCとしては望ましくなく、その場合には、理由書を添付すること」を加えることが一案だと思います。また、現在のDCが日本の大学に限定しているのを改めて、海外の研究大学の博士課程も認めるようにDCの制度改革をすることが望ましいと考えます。
 3点目は、各大学は、毎年学生の流動性に関するデータを公表することが望まれるということです。もっとも重要なデータは、大学院における自大学出身者と他大学出身者、留学生などに関する統計データ、さらに、自分の大学の学部出身者で大学院に進学した学生について、自分の大学の大学院に進学した学生、国内他大学に進学した学生、国外の大学の大学院に留学した学生などに関する統計データです。
 これらを具体的な推進方策として、ぜひ学生の流動性の向上、大学院学生の多様化の促進に関する項目を入れていただきたく思います。
 最後に1点、細かいことですが、この中間報告書の20ページの下にある自校出身者の定義に関する脚注は削除した方が良いと思います。一般的に、自校出身者とは、自校の学部出身者を指すのであって、この脚注にあるように、所属する大学において学士・修士・博士の全ての学位を取得し、かつ、その後の職歴において、一度も自校大学以外での本務を経験していない者という定義には違和感を覚えます。また、現在の大学ではそのような人はきわめて少ないように思います。自校出身者というだけで、自校の学部出身者という理解はでき、また、その解釈で本文も妥当と思いますので、脚注は削除するのがいいと思います。

【野依主査】
 流動性の確保は、私もそうあるべきだと思います。「基礎科学力の強化に関する提言」でもその旨を強く記述してあります。

【立川委員】
 先回も大変結構だということを申し上げましたが、本日は意見とコメントを3点申し上げたいと思います。
 確認もあるのですが、先ほど小林傳司委員も仰いましたが、従来8分野で分けてやってきた方法に代えて、こういう新しい提案をするということでよろしいのですね。それで、最終的には総合科学技術会議で今後議論されるという解釈でよろしいですか。

【柿田計画官】
 そのとおりです。

【立川委員】
 そうすると、この重要政策課題の具体例やイノベーションプラットフォーム、プログラムやプロジェクトは検討の段階の体制であって、このようなものを文部科学省から提案するということですね。そして、まだそれについてはCSTPからOKと言われたわけではない、ということでいいですか。

【柿田計画官】
 今後の総合科学技術会議等における議論に先駆けて、基本計画特別委員会で議論いただいているということです。

【立川委員】
 それから、コメントですが、基礎科学力の強化というのは、多分これは文部科学省が基本的に携わる問題だと思うのですが、ここに書いてあるのは大変結構なことだけど、全部従来からもやってきたものではないかと思われます。この中で第4期科学技術基本計画として特にというものは何かあるのか、あるいは新しい新規項目があるのかというのを確認したいのです。どうも見た感じでは従来から言ってきたとおりではないかなという感じがしてならないということです。
 それから3つ目は、前に申し上げたのですが、日本の研究所や大学をいかにいいものにするか、そのためには外国からどう人を連れてくるかということで皆さん日ごろ悩んでおられるのはよく分かるのですが、発想を変えて、以前も提案しましたが、日本に外国人を連れてこようと思うから無理なので、逆に日本の研究所を海外につくったらどうかと、そういう新しい提言をしたつもりです。そういうアイデアを採用していただけないでしょうかということです。

【野依主査】
 立川委員が仰ったことは、海外に法人をつくる、あるいは海外で教育をするということですね。

【立川委員】
 はい。例えば、海外に東京大学の研究所をつくって、そこで研究者や学生を集めたらどうですかというものです。日本まで来てもらうのが大変ならそういうふうにやったらどうかということです。国立でできないなら私立大学でもいいと思いますし、あるいは、国の研究所でもそういう出先機関を人材が多そうで良さそうな国を狙ってつくるというのが考えられるのではないか、という意味です。

【野依主査】
 それは非常に大きな問題です。海外に法人をつくってやる方がやりやすいと思います。今のところは国立では難しいのでしょうか。

【柿田計画官】
 国際戦略の問題を議論いただいた回に主査からも問題提起がありましたし、立川委員からもご提言がありました。
 現状は、海外に日本の公的な研究機関をどのような形で設置できるか、制度的な問題がどうなっているのかということについて、まずしっかりと調査研究をやる必要があるという状況です。その旨はこの報告書の中にも50ページの下のほうに書かせていただいておりますが、この特別委員会の提案として、現状のエビデンスのないままに新しい方策として現時点で書けるかどうかということで、事務局としては、50ページの記述とさせていただいております。

【野依主査】
 この人材養成の問題は、十分に考えなければいけないと思います。中国は、政府の方針で孔子学院というものを海外にたくさんつくり、中国の思想を広めようとしています。この中間報告に間に合うかどうか分かりませんが、文部科学省でもこれについて考えていただけたらと、私は希望いたします。
 現時点では制度上難しいようです。研究開発法人ぐらいから始めていかなければならないのかと思います。

【二瓶委員】
 先日来行われてきた事業仕分け会議において、文部科学省の皆様とともに大きな認識ギャップの風圧の下に痛みを分け合った数少ない人間の一人として発言をさせていただきます。
 まず最初に、今回のまとめは極めて緻密に、かつ、バランスよくまとめられていて、私は非常に高く評価します。ほとんど申し上げることはないという感じですが、若干のコメントをつけ加えさせていただきます。
 あの仕分け作業の議論を通して私が得た唯一のポジティブな結論は、科学技術イノベーション政策についても市民目線で十分に理解されている必要があるということです。本委員会でもこのような趣旨が随所に書いてあります。ただ、私は、「市民とともに築く科学技術先進国」ということが重要だと思います。「社会」ではなく「市民」です。また、国民を代表する方々に十分理解が徹底していない雰囲気の中で科学技術政策が論じられたということですから、これを改善する唯一の道は市民の科学技術リテラシーの向上運動をもっと強く押し進めるべきだということです。
 具体的には、例えば幼・小・中・高の教育課程における科学技術人材育成をもっと真正面から取り上げるとこの報告書の中にはちゃんと書いてあります。しかし、先ほど小林傳司委員も仰いましたが、人材育成についての記述はあちこちに分散していてピントがぼけているというご指摘ですが、私は、「この市民とともに築く」という表現を提言のキャッチフレーズの一つに挙げるべきだと思います。そのくらいの覚悟で臨まないと、今後の科学技術に対する国民の支持を十分には受けられないという認識を持つに至りました。これは非常に重大な問題です。日本学術会議会長の金澤先生もいらっしゃいますが、学術会議においても、例えば、「国費を使って研究している研究者は全員、年1回市民に対してレクチャーをすべきである」という緊急声明を出すぐらいの必要性があると思います。これはある意味で大きな改革、社会的なムーブメントだと思いますが、大変重要な問題です。資料1-1の中段の右端にある「『社会とともに創り、進める科学技術イノベーション政策』の実現」の項目に関連するのですが、この表現だと全くマイルドでピンと来ない。したがって、もっと大きく取り上げるべきではないかということが第1点です。
 もう一つは、いささか次元が違うかもしれませんが、今日お手元に参考資料3が配られております。これは科学技術・学術審議会 技術・研究基盤部会のレポートです。ここに部会長の白井委員もいらっしゃいますから、私からは詳しくは申し上げませんが、この部会報告の重要性を考えますと、本中間報告案の中でも、例えば、資料1-1の一番下の段の中央、「重要な政策課題への対応」に4項目挙げてありますが、そのうちの1項目として「研究基盤の充実とその活用による科学技術イノベーション政策の推進」というぐらいの項目を起こすべきであると感じました。

【野依主査】
 市民あるいは国民の科学技術リテラシーの向上は非常に大事です。しかし、今のところ、それが学校教育やアカデミアにのみ課せられています。私はやはり社会総がかりでやらなければいけないと思います。東京には、上野に国立科学博物館があり、お台場に日本科学未来館がありますが、あのようなものを産業界の方にもご参画いただいてやらなければいけない。日本は産業技術のレベルがすごく高いですが、北の丸に科学技術館があるぐらいで、産業技術に関するものは非常に少ないのではないかと思います。産業界の方がいらっしゃるので、科学技術、産業技術に対するリテラシーの向上をどのようにお考えでしょうか。

【國井委員】
 我が社では日本科学未来館に展示を出していて、例えば、複写機のメカニズムの展示を出しております。皆さんに理解していただく、特にお子さんたちに理解してもらうようゲームっぽくするなどしております。リテラシーの向上については、非常に重要だと認識しております。

【立川委員】
 産業界では各企業や企業団体がそれぞれ取り組みを行っています。例えば、電力会社や鉄道、通信会社などが博物館的なものを公開して、子供さん方に来てもらえるようにしています。

【東委員】
 立川委員の意見とほとんど同じですが、東芝にも東芝科学館がありまして、そこの来場者数はほぼ15万人です。しかも科学技術の歴史、主にエレクトロニクス業界における歴史を学んでもらうのと、最先端の研究所の隣にありますから、最先端技術も展示できるということで、企業毎にやっているケースが多いと思います。ですから、産業界もそういう認識は持っていると思います。むしろ我々から見ると国レベルでは、野依主査がおっしゃるように北の丸の科学技術館ぐらいで、しかも、中身はあまり変わらず、努力がちょっと足りないと私は思います。

【野依主査】
 ありがとうございます。
 いずれにしても、国民、市民の科学技術リテラシーの向上は極めて大事だと受けとめております。

【黒田委員】
 全体的には非常によくまとめられていると思うのですが、一番上にあるように、この報告書が科学技術の総合戦略に向けての中間報告で、今後具体的な戦略の作成に反映されると理解しております。そのことを前提に、一番下の欄に政府の研究開発投資を10年間でGDP比1%まで増やそうという提案は、現状まだ3期の計画が達成されていないという状況での目標の再確認ということでしょうが、もう少し、意欲的な目標があってもよいのではないでしょうか?課題である総合戦略に向けてということに対して、この政府の研究開発投資は今までは、政府、民間を併せた研究開発費の多分0.2%程度で、政府研究開発費の割合は、先進諸国に比して過小です。したがって、政府研究開発費をGDP比1%まで増やすということが一体どういう意味で不可欠なのかということが伝わりません。報告書を見ますと、最後の1、2ページに研究開発投資のあり方について書かれているわけですが、今までずっと積み上げて書かれてきたことと、戦略としての政府の研究開発投資をGDP比1%まで伸ばすことの不可欠性、必要性の部分がうまくつながっていないような気がします。そういう意味では、もう少しその点を書き加えていただくと全体としての政府の研究開発投資を1%まで増やすことが不可欠であるという、国家戦略と結びつくと思いますので、その点を補強していただければと思います。

【野依主査】
 ありがとうございます。
 この数字を示すに当たっては、一つにはやはり国際的なベンチマークがあります。加えて、内容を説明して国民に納得していただくということが重要です。

【丸本委員】
 私も少しコメントをさせていただきたいと思います。この表題に書いてある科学技術の総合戦略、それから、野依主査が仰っているように「社会総がかりでやらなきゃいけない」と、全くそうだと思います。その意味で、この概要の右側に書いてある「社会とともに創り」とか「『人』を重視した」、あるいはまた、「イノベーションの連携を社会・国民と一緒にやる」のだというところにこれが記述されていると思います。前回の議論でも発言いたしましたが、やはり科学技術に携わる理系の研究者だけではなくて、人文・社会科学系の研究者も含めた議論をする場がどこかで要るのではないかと思いますが、それがこういう形で書かれているのかなと、柿田計画官にお聞きしたいと思っておりました。
 この辺のところが、小林傳司委員も仰いましたように、この前からの事業仕分け等につきましても、国民的、総合的なコミュニケーションが欠けているからではないかと思います。ですから、その辺を今回の第4期科学技術基本計画の中でしっかり具体的に進めるようにやっていただくと、最終的には予算の獲得にもつながるし、人材育成にも理解が進むと考えます。また、全体的には非常にまとまっていると思っておりますので、ぜひこれを進めていただきたいと思います。

【柿田計画官】
 「社会とともに創り」というところに関連しますが、前回の特別委員会で今の科学技術基本計画における科学技術の範囲、定義のご議論をいただきました。その現状を認識し、また、今後、イノベーションということを通じて、社会変革、成果を社会に還元する。さらに、課題への対応といった時には、自然科学だけではなくて、当然、人文・社会科学も含めて総合的な取り組みが必要になるというような論点をお示しし、ご議論をいただきました。
 この「社会とともに創り、進める」というところで、まさに本文の中では人文・社会科学も含めて総合的な科学技術をこれから進めていく、また、その担い手、推進する人文・社会科学者の参画も得て進めていくというところを何カ所か本文の中には記載させていただいております。またご覧いただいて、さらにという部分がありましたら、ご指摘いただければと思います。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 人文科学や社会科学系の研究者の参画については、今日の会議はご欠席ですが、佐々木委員が強くその重要性と意欲を述べられたように思います。
 また、余談ですが、2、3日前に、江崎玲於奈先生らとともに鳩山総理をはじめ重要閣僚にお目にかかる機会がありました。その時に江崎先生がライシャワー氏の言葉を引いて「『日本がしっかりした国になるためには社会科学をもっと強くしなければいけない』と言われた」と鳩山総理に提言しておられましたが、私もそのように思います。

【河内委員】
 全体的にうまくまとめていただき、ありがとうございます。皆さん言われたように、今回から科学技術イノベーション政策と改めたことに対しては非常に時宜を得たものだと思います。
 私ども産業界から見ると、このイノベーションというのは我々の責任と思っているわけですが、イノベーションを行おうとする時には、単独の企業では支えることができないようなインフラがこれから非常に重要になってくると思います。それはスーパーコンピューターであったり、あるいはSpring-8であったり、そういう基盤的な公的なインフラが非常に大きな力を発揮するであろうと思います。したがって、今の公的投資の大半は文部科学省を通して大学へ行っているわけですが、そのようなインフラへの投資についてもどこかで触れていただいて強調していただきたいと感じております。
 それから、基礎科学力の強化というところでは、全部この文言で入っていると思いますが、1点だけ、いつも私が申し上げているように、革新的な先端技術というのは基盤のないところから生まれないわけで、ずっと継続して、いわゆる基礎学問の重要性をきちっと認識しておく必要があります。やはり流行を追うばかりではしっかりした研究ができないと思います。
 それから、もう一つ、今後は単一の技術だけではイノベーションは絶対出てこないと思います。そういう単一の技術でできるものは、きっと海外に負けるでしょう。我々日本の強みは総合力だろうと思いますので、やはり異分野技術の融合システムをどうつくっていくか、しかもインセンティブを与えるような政策的な裏づけについて少し考えていく必要があるのではないかと思います。

【野依主査】
 ありがとうございます。
 インフラの整備についてはアカデミアだけでなく、産業界にとっても非常に大事だと思います。産業界からもう少し強く発言していただければ大変ありがたいです。

【小杉委員】
 大変よいまとめだと思いますが、1点、小林傳司委員とよく似た感想なのですが、「人」というところに注目したことがもっとしっかり伝わるような特出しが何かあればと思います。中間報告の中に散らばっているという感じがありました。実際に研究をして、科学技術立国を打ち立てるためには、人を育てる仕組みというのを科学技術の視点から体制としてきちんと整備する必要があるのではないでしょうか。今の若い人、特に大学生、大学院生を見ていますと、大きな不安でいっぱいなのです。修士課程の学生を見ていますと、このまま大学院に残っていたら、自分の未来はないのではないかと、やはり博士課程に行くことに強いためらいを持っています。そういう若い人たちを見ていると、きちんとしたメッセージを出さないと、科学技術を担う人材が本当に薄くなってしまいそうな気がします。これだけではまだメッセージにならないのではないか、先ほどこれまでと変わったところはないのではないかというような意見もありましたが、そう見えてしまいます。
 もっと特出しで、例えば科学技術面の強化だけではなく、そこにサブタイトルで人材育成の話を入れるとか、あるいは非常に大事なのが生活保障的な視線まで入っている人材育成であるというところです。やはり、この先ここにいたら私は生活できなくなるのではないかという不安を持っているので、ぜひそういったことがメッセージで伝わるようなまとめ方を一工夫していただきたいと思いました。

【野依主査】
 やはり、日本に世界第一級の大学院をつくり、そこに世界から、あるいは日本から最も優れた学生が行く、そういうインセンティブがある状況にしなければいけません。これを実現するためには、大学の内容が大事ですが、経済的な支援も非常に重要になります。

【大垣委員】
 国際委員会の主査を務めておりますので、その観点から2点コメントをさせていただきます。
 1点目は、立川委員が先ほどご指摘になった海外への研究所等の展開ですが、それは、実はお配りしている参考資料2の国際委員会の報告書の19ページの上に「研究所の海外設置」という項目を立てて、国際委員会で議論をしております。強調の仕方が弱かったかもしれませんが、入っておりますので、これ自体は私も大変賛成で、重要なことだと思います。
 もう一点は、最初に野依主査から、「科学技術イノベーションは科学と技術とイノベーションですね」という言葉の確認がありましたが、国際委員会でも資料1-1の「重要な政策課題への対応」の真ん中あたりに「科学技術イノベーションの国際活動の推進」という部分がありますが、この中の議論でも重層的な形の科学技術イノベーションを国際的に展開するときは、いわゆる基礎科学の部分、技術の部分、イノベーションの部分とあって、それが相手国によって色々と重層的になるわけで、そういうことは随分議論しましたので、国際的な視点からも科学技術イノベーションという、イノベーションの形容詞としての科学技術ではなくて、3つがつながっているものという理解ですが、改めて確認をさせていただきました。
 実は、この参考資料2の国際委員会のほうの報告書では、「科学技術・イノベーション」という表現になっております。

【野依主査】
 最後の部分は英語で言いますと「science, technology and innovation」ということです。

【伊地知委員】
 基本的な骨格については大体妥当ではないかということは第8回にも申し上げさせていただきましたが、3点申し上げたいと思います。
 1つは、資料1-1の中ほどの「科学技術政策により中長期的に目指すべき国の姿」と書かれているところですが、これは前回申し上げたように、目的-手段の連鎖で書いた方が、今日もたくさん議論があったように、国民に分かってもらいやすい、説明しやすい、理解してもらいやすいということにつながるのではないかと思います。
 そうすれば、例えば1ですが、書かれている内容としては基本的に同じなのですが、「安心・安全で質の高い社会及び国民生活の実現に寄与する科学技術政策」、そういった目標に対して科学技術政策は寄与できるのだ、というようにしていくと、目的から手段につながっていくのではないでしょうか。ただ、原山委員が冒頭おっしゃったように、本当は国の姿が明確にあれば比較的説明しやすいのですが、今のところそこはクリアではないので、そこがこれから先、明確になっていくといいのではないかと思います。
 関連して申し上げると、そういうことであるとすると、寄与するということでは他の政策分野も必要だということになるので、これはCSTPでご議論いただくということですし、黒田委員が仰っていたように、それぞれが上の目標から個々の政策課題、それから具体的な個々の施策、事業、そういったところに一体どうつながっていくのかということを、きちんと説明していきやすくなるのではないかと思います。
 併せて、インプット、アウトプット、パフォーマンスをきちんと測定できる仕組みの整備、あるいは、この会合の中でも統計データに関する議論がありましたが、そういったことをきちんと把握できると、いろいろと説明をしていきやすくなるのではないかと思います。これは1点目です。
 それから、2点目は、やはり冒頭、東委員、長我部委員が仰った、イノベーションのための人材育成が重要であろうかと思います。今回、科学技術政策から科学技術イノベーション政策へと「イノベーション政策」が入ってきたわけですが、そうしますと、イノベーションのための人材育成について、特に文部科学省の所管しているところで大きく関わってくるのは、やはり大学教育の部分ではないかと思います。実際、大学の学部を卒業した人材はどこに行っているかというと、日本の経済構造を反映して、サービス業や公的機関、あるいは製造業であっても、単に技術開発をするだけではなく、製品とかサービスに仕上げていくというところになっていると思います。
 諸外国の科学技術政策動向と比較した場合に、今の案でキーワードとして出てきていないのは「知識」であるとか「サービス」であるといったところだと思います。ですから、案を補っていただくことが可能であるとするならば、技術をさらに商品やサービスという形に変えて、それが広義での市場を通じて初めて価値が生み出されるわけですが、そういったところを担うイノベーションのための人材、あるいはスキルの育成といったことを、例えば「基礎科学力の強化」の「大学等の教育研究力の強化」というところに該当するかもしれませんが、入れていただくとよいのではないかと思います。
 3点目は、司令塔組織の「司令塔」という言葉、それから、諸外国の動向でいうと「ガバメントからガバナンス」となっていることとの対応で申し上げたいと思います。
 今のこの案で言うと、司令塔組織に全ての情報が入ってきて、そこでいろいろコントロールしていくというように見えるのですが、世の中はどんどん複雑化しており、全ての情報を集約できるわけではなく、それぞれのところでそれぞれ対応していく必要があると思います。ただし、やはり全体の見えるところが、それなりに判断・マネジメントをしていくことも必要ということではないかと思います。
 そういったことで、私は専門ではないので分からないですが、実はその司令塔という言葉は比喩で、戦艦の中で被弾をしにくい場所で、被弾をしにくいということは、逆に言うと物がよく見えない場所という意味になることがあります。そのようなたとえを使うのがいいのでしょうか。数十年も前の言葉ですし、やはりここは比喩ではなくて、本当に日本の科学技術イノベーション政策をリードしていくにふさわしい表現にしていただけるとよろしいのではないかと思います。

【野依主査】
 ありがとうございます。
 イノベーションを担う人材というのは、今の大学では育成が難しいと思います。先ほど冒頭に東委員がおっしゃったように、産業界、経済界、あるいはその他の社会セクターの方が積極的、かつ建設的に関わっていただくことが大変大事なことです。

【野間口主査代理】
 私も今までの議論を踏まえて非常によくまとめていただいたと思うのですが、どなたかも仰いましたが、スマートになり過ぎて、まとまり過ぎて、ぱっと読み過ごしてしまう可能性があるのかなという思いもします。一番上の段でいいますと、「諸外国の科学技術政策動向」と一番下の「政府研究開発投資の在り方」を見比べながら考えていたのですが、研究開発投資における公的資金と民間資金の割合は2:8で、民間のほうが多いという事実もあります。ただ、これは対立的に存在するのではなく、公的投資が民間の投資を呼び込んでいる面があります。日本の産業を引っ張っているような製品や事業を見ていただくと、過去の文部科学省や経済産業省の施策の成果のものがほとんどです。そうしますと、我が国の今日をつくってきたという実績もあるわけで、そのお互いの関係、相乗効果が出るような形で投資を考えていくべきだという表現にしたほうが、GDP比何%と言うよりももっとパンチが効くのではないか、訴える力が増えるのではないかという気がします。
 それから、あとは、目指すべき国の姿云々は非常にメリハリがきく形になったと思うのですが、2つ注文をつけさせていただきますと、基礎科学力強化の検討会をやった時に、大学の教室改革が必要なのではないか、ドクターの学生を労力提供者として使っているのではないかと、そういう問題点が国立・私立を問わず指摘されました。ですから、若手研究者のポストの確保云々という表現よりは、むしろ教室改革を迫るということでなければ、新たなポストが増えても意味ないのではないかと思いますので、本文には少し入っていますが、もっとここのところを、特に大学のエスタブリッシュされた先生方にマインドセットしてもらうためにも必要なんじゃないかという気がします。
 それから、日本的なイノベーションあるいは科学技術政策推進そのものもそうだと思うのですが、イノベーションを考えますと、産学官連携というのは日本的なやり方だ、日本の非常に特徴的な連携だと思うのです。そういう意味では、この前の仕分けなどを見ても、産学官連携の重要性、日本ならではの色々な工夫が十分訴えられなかったのではないかと思います。日本のイノベーションを引っ張って、産業競争力、社会の競争力までつながっているような取り組みというのは、多かれ少なかれ産学官連携で取り組んできたのだということがもうちょっと表に出れば良いと思います。この「重要な政策課題への対応」のところで産学官連携というのは2カ所出てきておりますが、もう少し工夫をしていただくともっといいのではないかという気がします。

【安西委員】
 中間報告の素案ということでありますし、この委員会、また事務局の皆様が大変努力されておられるし、こういう形で基本的には進めていただければいいんじゃないかとは思うのですが、一応ずっと長い期間この検討と、教育の問題にも関わってきた者として一言だけ申し上げておきたいと思います。
 やっぱり私も科学技術は日本の根幹だと思うので申し上げますけれども、本当に気持ちがこもって、これをやらなかったら日本は本当におしまいなのだというような答申、そういう文章じゃないと、なかなか今の世の中では積み上げられてしまうことになるのではないかということを心から怖れます。
 例えば、小杉委員が言われましたが、大学院生あるいは若い研究者がこれを読んだ時に、一応博士課程も重視しなくてはとは書いてあるのですが、じゃ、僕たち、私たちのことをどうしてくれるのかというと、ほとんど何も言っていないように私には見えます。その理由というのは、やはり投資について、幾らぐらいお金をかけてちゃんと面倒見てあげるんだよ、その代わりちゃんとこういうことはやってねと。それで、イノベーションのほうも経済的な価値を生み出すために公的投資をこれだけやって、それで、こういう雇用が生み出されて、先端技術もこうなってきました、要素技術だけじゃなくてシステム的なこともそうだし、また、さっき言われたサービスの、これから第三次的なサービス産業的な面に振られていくと思いますが、そういうことまで含めて本気かということが問われるのではないかと思うんです。
 第3期科学技術基本計画においても人材育成と書いてあって、今度も人材育成と書いてあるわけです。今度こそ人だというのであれば、本当に人だということを言わなきゃいけないし、そのためにお金を幾らかけなきゃいけないのだ、ということをはっきり言っていただかなければいけないと思います。知財の問題から何から何まで色々ありますが、そういうことでます。ぜひ本委員会の中間報告とは非常に大事なものですので、やっぱり思いがこもったものであっていただきたいなと思います。

【野依主査】
 今仰ったことには私も同感で、この報告書はテクニカルにはよくできております。しかし、記述に留まっていて表現ができていないように思います。これは文科省の若い方々、それから我々では若干力が及ばないところがあって、やはりある種の表現力をもつ書き手が要るのではないかと思います。それがないとなかなか一般社会へは通じません。何をどうするという部分については、劇作家に書いていただくくらいの表現があってもいいと思います。さらに、この報告書の十分の一ぐらいの概要版を書くことも一つの手かと思います。

【安西委員】
 演出という意味ではなく、本当に心から思って書くのであれば、そういう書き方ができるのではないかと思うということを申し上げましたのですが。

【野依主査】
 では、安西委員にお任せしてもよろしいでしょうか。

【安西委員】
 皆さん、科学技術は大事だと仰っているわけですよ。本気でそう思っているのだったら書けるはずではないかということです。

【野依主査】
 これはなかなか表現技術が必要だと思います。

【柿田計画官】
 私ども事務局として引き続き作業を重ねたいと思います。次回の委員会に向けて、この後、具体的なアドバイスをいただければと思います。

【野依主査】
 それから、もう一つ、安西委員が仰ったように、先ほどからも何度も出ていることですが、これは若手に通じなければ、また共感を持ってもらわなければ意味がないものです。この委員会の最初の頃に若手の方を集められて、原山委員もご参加いただいたと思いますが、日本の将来像、あるいは科学技術のあり方についてご議論いただいたと思います。ぜひそのメンバーの方にこの素案をお渡しし、積極的な意見をいただくべきと思います。
 この間、日本学術会議が出された「日本の展望」についても、分別がありすぎるという感じがいたします。果たして若い人たちにアピールできるのかという印象を持ちました。

【永井委員】
 私が全体を見て感じたのは、現実的な問題への対応は一つの方向でよいと思いますが、やはり科学技術ですので、昔から言われているような自然や社会の仕組みを国民が理解できる、国民がいろいろな問題を自分で決定できるような知識を提供するなどの記述があった方がよいと思います。これは国民の自己決定権の問題でもありますし、最終的には自分の国に誇りを持てることにつながります。科学が国民にどう関わるのかを基本として押さえ、その上で公共的な問題をどう解決するかという科学技術政策に求められる基本姿勢を謳うべきではないかと思うのです。全体的として少し実用的な話に流れているかなという気がいたしました。

【大隅委員】
 どのような書きぶりになるかということと別に、これが最終的にどのように利用されやすい形で出ていくかというところが、おそらく若手に対してもどうアピールするかという時に大事なことかなと思います。例えば、ここの委員の方は、この分厚いものが出てきたときに、これを斜めに読みながらどこが大事なのかをすぐ探す訓練ができているかもしれませんが、研究の現場にいる若い人たちにとっては、自分たちに関わることが一体どういうふうに書いてあるのかを見つけることは難しいことだと思います。要するに検索キーワードがかかるようにしておいていただければ、多分それで済むことなのだと思います。どなたかの非常に大きな苦労がなくても、小さな工夫でできることは色々あるのではないかと思います。安西委員とは別の観点で申し上げさせていただきました。

【野依主査】
 計画官、この中間報告書はパブリックコメントを募集しないのですか。

【柿田計画官】
 次回の12月15日の委員会で是非おまとめいただきたいと考えております。

【大隅委員】
 今は議論の段階ですけれども、最終的なものはという意味です。

【柿田計画官】
 出来上がった後の段階で、どのように国民のご意見をいただくかについては、色々なやり方を含めて考えさせていただきたいと思います。

【安西委員】
 私が申し上げたのは書きぶりのことではありません。それぞれのテーマについて若手研究者の育成も含めて、やはり投資の全体の総額だけじゃなくて、どのくらいの投資をして、どういうアウトプットが出てくるのかということについて、もう少し突っ込んだ具体的な書き方をしなければいけないのではないかということです。

【小林傳司委員】
 先ほど市民のリテラシーの話があって、どうしても一言申し上げたいと思います。第3期科学技術基本計画でもこういうことは既に書いてあるのですが、市民の科学リテラシーだけを強調するということであれば、第3期科学技術基本計画以前に後退してしまいます。世界の流れからいって、市民に科学リテラシーを与えるだけでは話にならないということは分かっているわけで、今言われているのはパブリックエンゲージメントです。言い方をもう少しはっきりさせますと、科学者コミュニティーの方の社会リテラシーを上げないと話にならないのです。その点がここには書かれていないので、両方の視点を書いていただきたいと思います。

【野依主査】
 私もそのとおりだと思います。

【國井委員】
 短くしますけれども、産業界からあまり人気がないというお話もありましたのでひとこと申し上げます。最初の頃の委員会で発言しました内容ですが、この中間報告素案の、イノベーションの解釈が産業界とこの委員会で少し違うかもしれないと思います。産業界で言うイノベーションは非常に幅広くて、科学であろうと、技術であろうと、ビジネスモデルであろうと、新しい価値を生み出すことがイノベーションなのですが、この委員会で議論されていることは、やはり科学があって、それが技術になって、イノベーティブな事業が起きてくるというふうに聞こえます。誤解だったらご指摘いただきたいのですが、この3つはパラレルに進んでいくもので、その三者がコンカレントに相互作用しあう中で新しいものが生まれてくるものだと思いますので、そういう場が非常に重要です。また、大規模なプロジェクトの中でこの三者が連携して新たな世界をつくり出して価値を生んでいくということが重要かと思います。

【野依主査】
 私もそのとおりだと思います。この間も申し上げたのですが、この委員会で考えているイノベーションは、考えているのが主としてアカデミアの人間であり、科学技術に関わっている者から見たイノベーションです。総合科学技術会議でこれが取り扱われる時には、農林水産省や厚生労働省、経済産業省等、様々な社会のイノベーションに近い立場も含めて検討されると思います。國井委員はイノベーションのプロでいらっしゃいますが、我々はいくら一生懸命に考えても、そこにはおのずと限界があります。総合科学技術会議での議論の際、イノベーションに非常に深く関係する省庁がしっかりこれを受け止め、すり合わせを行っていただくことが最も大事ではないかと思います。

【原山委員】
 イノベーションということがキーワードで入っているのですが、報告書の策定のプロセスもイノベーティブでなくてはいけないと思います。逆に言えば審議会の限界ということになります。事務局がこれまでの議論をこの中にまとめるというのは、非常に多大な作業なのですが、そうすると内容がフラットになってしまって、熱意が見えてこなくなります。それは作業のやり方上仕方がないことなのです。もう一歩踏み込むのであれば、この委員の方々が、エンゲージメントとしてもう一歩踏み込まないと、新たなものにならないのです。
 それから、先ほどから人文・社会科学の話が出ていますが、こういう作業は人文・社会科学の得意とするところです。そういう意味で、我々としても、本当にこの報告書の作成プロセスの中に踏み込んでやっていかなくてはいけないというのが反省の大きなところです。

【野依主査】
 色々ご意見をいただいていますが、時間になりましたので、お気づきの点がありましたら書面で文部科学省計画官付までお知らせいただければと思います。
 いただいたご意見を踏まえて、次回委員会での最終的な議論に向けて事務局で整理を行っていただきたいと思います。

【柿田計画官】
 ありがとうございました。
 ご意見等につきまして、大変恐縮ですが、来週の12月7日月曜日までに事務局までメール等でお送りいただければと存じます。別途、事務局よりその旨をお願いするメールをお送りさせていただきます。
 次回の日程ですが、資料2に書いてありますとおり、12月15日の15時からこの場所で行わせていただきます。ご案内は追ってお送りいたします。
 また、本日の議事録は、毎回のとおりですが、委員の皆様にメールでお送りさせていただき、ご確認いただいた上で文科省のホームページに掲載させていただきますので、よろしくお願いいたします。

【野依主査】
 以上で、科学技術・学術審議会第9回基本計画特別委員会を終了します。

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

電話番号:03-6734-3982(直通)

(科学技術・学術政策局計画官付)