「研究活動の不正行為への対応のガイドラインについて 研究活動の不正行為に関する特別委員会報告書(案)」に対する意見募集の結果

1.意見募集の概要

(1)募集期間 平成18年7月8日(日曜日)~7月23日(日曜日)
(2)告知方法 文部科学省ホームページ
(3)受付方法 郵便、ファックス、電子メール

2.意見総数

 26通 (個人:23名、団体:3団体)

<内訳>

○個人

(職業)

 研究員(ポスドクを含む):6名
 大学等教員:9名
 大学職員:1名
 国立研究所・機関職員:2名
 独立行政法人職員:5名

(年齢)

 30歳代:7名
 40歳代:5名
 50歳代:5名
 60歳代:2名
 不明:4名

(性別)

 男性:22名
 不明:1名

○団体

 大学:1大学
 団体:2団体

3.意見

1 研究員(30代、男性)

 研究成果、主に研究論文になるかと思いますが、だれを共著者とするかは重要な問題だと思います。重大な寄与がないにも関わらず、例えば同じ研究室に在籍しているから、立ち話程度でディスカッションをしたから等という理由で、共著にする場合をこれまで多く見てきました。これは、研究論文自体の不正ではないにしても、研究者個人レベルでは、業績のかさ上げであり、不正行為の一つではないかと感じています。研究者の業績評価や競争的資金の成果報告とが厳しくなるにつれ、モラルのない研究者は、重大な寄与がなくても、名を入れてあげたり、入れてもらったりということが横行している気がしています。そこで、わが国の研究者に、論文の共著者とする場合、謝辞にのせるべき場合など統一された基準が必要と思います。もはや、個人のモラルでは駄目だと思います。

2 ポスドク研究員(30代、男性)

 ガイドラインには追加および変更を要する項目があると考えます。以下に、追加・変更についての意見と、具体的な根拠を述べます。

○不正の防止、および「6・4 措置の内容」について追加が必要と考える措置:

  1. 不正に関与した研究者に対する人事面からの制裁
  2. 雇用者たる各大学・研究機関の義務の明確化
  3. 告発の有無にかかわらず行う不定期検査の義務化
  4. 不適切な対処を行う大学・研究機関への効果的制裁

理由:

 第2部、ガイドラインにおいて、「防止」の単語は1ヶ所にしか見出されず、しかもそれは第1部では数ヶ所登場する「不正の防止」ではなく、「告発の防止」です。発生した不正にどう対処するか、よりも、不正をいかに防ぐか、がより重要であることは言うまでもありません。その点については、本ガイドラインは、各大学・研究機関への丸投げの形であり、文部科学省としてのリーダーシップに欠けていると強く感じます。ガイドラインにより、省の方針を明確に打ち出すべきであると考えます。
 不正の温床と指摘される競争の激化の中で研究者が求めるものは、研究費だけではありません。雇用機会や良い研究環境は動機付けとしてひとしく重要です。不正、または不正が疑われる国内外の私が知るいくつかの事例に限って述べれば、安定した職を未だ得ていない研究者や学生がすべてのケースで関与しています。そしてそうした事例は、おそらく外部の方々が考えるよりも、はるかに頻繁に発生しています。
 以上の点を考える限り、研究費の停止や返還請求により措置を図るのは、予防措置として効果的でないと考えます。現場の研究者にとって、競争は不正を犯す少なからぬ人間との戦いでもあります。職を得るために不正を犯し、発覚した場合には研究費の停止、または悪くても懲戒処分や私費による弁済では、不正は割に合う賭けとなりかねません。したがって不正を犯した研究者は職を失うことを明確にすべきです。そうすることにより研究費の投資対効果も最大化されるでしょう。
 また直接的に研究者を雇用する大学・研究機関が積極的に不正防止に努める動機付けが必要です。昨今の不正事件へのいくつかの大学の対応は手ぬるいとの批判が研究者社会内部にも存在します。大学・研究機関は研究者自身によって運営されている現実が「身内」への甘さにつながっていることは明白であり、研究者の不正に厳しく対処するためには、文部科学省やその他の資金提供者・監督者が規定した基準や、可能であれば、会計検査院のような独立した専門の第三者機関が必要です。この点は、本文の最後にも述べますが、研究者社会の自浄作用には限界があると考えますので、非常に重要です。

○「3・3 告発者・被告発者の取扱い」について

 変更が必要と考える点:4の規定の大幅な緩和。
 具体的には、

  1. 不正の立証責任は告発者でなく調査機関の責任とする
  2. 明白な根拠のないうわさについても告発を認める
    (ただし、告発の有無によらない不定期検査を各機関が実施することが前提。)
2について補足:

 明白な根拠を求めないことで、当事者とは直接かかわりのない人間が告発者になることが可能です。個々の不正について告発可能な研究者の人数が増えます。したがって不正が告発される可能性が高まります。告発はできなくとも、親しい人間に不正の存在を打ち明けられた経験が私自身ありますし、そうしたうわさは静かに広まるものです。告発の有無にかかわらず日常的な検査を行えば、不正を犯した研究者は名誉侵害を理由とした調査への非協力が難しくなる一方、不正が具体的に確認されない時点では告発の存在についての秘密保持を徹底することで、悪意や誤解により不当に告発された研究者の名誉を守ることもできる二重の利点があります。

理由:

 研究者社会は、一般社会に比較すればはるかに小規模の社会です。個々の研究者の専門性を考えれば、その中のさらに狭い世界で生きていることを念頭においていただきたいと思います。過去に資金流用などの不正が発覚した事例で、研究者が告発した事例が果たしてどれだけあったのでしょうか?おそらく秘書など、研究職以外の人間がほとんどなのではないでしょうか?報道されている程度の資金流用であれば、未だ発覚していない実例を私自身複数知っています。しかし、告発しようとは夢にも思いませんでした。私も狭い社会の中の一構成員です。
 「4」の条件を満たす研究上の不正の告発がある場合、そのような情報を持つ研究者は少数に限定されますから、仮に匿名を本人が希望しても、ほぼ確実に告発者またはその情報源は特定されます。また過去の資金流用の実際の事例について、告発者への不当な中傷を実際に耳にした経験もあります。如何に政府や研究機関が制度として告発者を保護したとしても、研究者同士の親密な人間関係や、ひとつの巨額の資金に告発者を含む多数の研究者や学生やその家族が研究費と生計の双方の点で依存している現実などを考えれば、実質的に告発者の研究者生命は絶たれる可能性が高いのです。少なくとも告発者はそのリスクを意識せざるを得ませんし、良心を満たす以外のメリットがなくリスクばかり大きい行為を実行に移すのはほとんど不可能です。つまりガイドラインの基準では告発はまず期待できません。
 したがって、社会が告発を必要とするのであれば、告発者の特定が実質的に不可能な制度に作り変える必要があります。無論、研究者は不当な告発からは守られる必要がありますが、それは告発者への制裁によらずとも制度的に担保可能なリスクですし、悪意による告発によって研究者に不利益が及ばないシステムを整備すれば、そのような告発はそもそも起こらないでしょう。不当な告発が研究者に不利益を与えることがないのならば、告発者に不正の立証義務を課す必要もありません。むしろ立証責任を調査機関が負うことで、告発を促すことが社会利益にかなうでしょう。

○研究者社会の自浄作用には限界があり、文部科学省がリーダーシップを取るべきであると考える理由:

 不正には、明らかな不正ばかりでなく、黒とも白とも言い切れない事例があまた存在します。研究者社会は、建前で言えば、性善説に立脚していますが、悪い言い方をすれば、ともすれば政治家や有権者を意識した大げさな成果発表が目に付く今日、黒とは言い切れない、または言い切る証拠のない不正を互いに見逃すことで立場を守り、結果的に政府の研究関連予算総額の増大を促している部分があります。不正は、悪意を立証しない限り、所詮研究上の失敗と同じ話ですから、見逃すこと自体は何の不利益も科学にはもたらさないのです。私の知る研究者社会では、自説を否定する成果でない限り、他者の成果への批判はほとんど目にしたことがありません。不正であれ失敗であれ価値のない「成果」は時間とともにただ淘汰され、そのような研究に無駄な税金が投入されたことを納税者は永遠に知らないままになるだけのことです。もちろん研究者全般がそのような悪意を持つわけではありませんが、疑うより信じることがひとつのモラルとして受け入れられる暗黙の損得勘定がここには存在します。重要なことは、このような批判に欠ける関係は研究監督者と末端の研究者の間にもしばしば見られるという点です。明白な根拠がなくとも相手を信頼することは人間としては美しき行為ですが、研究者としては問題であり、研究の質の低下に直結します。これは日本ばかりの問題ではありません。私の所属する研究室においても、最近、他大学において成果を捏造したとの告発がなされた有力な研究者が自発的に辞職したことを受け、このようなことが話し合われました。しかし正直なところ、現状は捏造はしようと思えばいつでもできる環境にありますし、日本にいた時に所属したいくつかの研究室でも残念ながら同様でした。
 不正かそうでないかという判断、あるいはより当然のこととして、研究成果として発表するに足る信頼性があるかどうかという判断を現場に任せきりでは、それらの判断基準は一部の現場ではなし崩しに緩和され、結果的に他者から見れば明らかな不正がスキャンダルという形で発覚するという現状は続くでしょう。監督者が望まなくとも現場が不正を犯すかもしれませんし、誰もそれを望まなくとも、過去であればありえない誤った結論が導かれることも充分ありえる環境が存在します。日本発の研究の広い意味でのクオリティ・コントロールとして、第三者による日常的な監督により、適切な基準の維持を図ることこそが根本的な解決法と私は考えます。そしてそのリーダーシップは、いつか予期せぬスキャンダルにより日本の研究への信頼が失墜する前に、文部科学省こそが取るべきものであると私は考えます。
 日常的な第三者による監督について、予想される反対意見としては、「研究者社会は相互の信頼に立脚しており、不正の存在を前提とした不特定多数の調査はなじまない」「競争相手への研究の秘密保持が図れない」などのものが考えられます。しかし、このようなガイドラインが作成されること自体、研究者の良心への信頼だけでは研究の質を維持できない現実を物語っており、そのような意見を退ける充分な根拠たりうると考えます。秘密保持については、利害関係のない研究者が行えばよいのですが、調査にかかる時間と労力の点や公平性も考慮すれば、第三者機関が最善の解決法かもしれません。

3 研究員(30代、男性)

 不正が起きる本質的な問題は、このガイドラインでも指摘している通り、成果を早急に求められることにあると思います。例えば、3年間のプロジェクトの場合は、1年目に論文が出なければ打ち切りということも十分考えられるプロジェクトもあるようです。このガイドラインの対策では、監視により研究者や研究機関に不正の防止を求めていますが、本質的に改善するためには、プロジェクトを評価する側も、中間評価での成果中心の無理な評価は慎む、等の対策をとる必要があると思います。監視を強化して本質的なところを改善しなければ、良くならないばかりか、かえって悪くなる危険もあると思います。なお、この意見は、成果では無くて内容で中間評価をすることや、終了時に成果に対する厳しい評価をすることについての批判は意味しておりません。

4 研究員(企画部門)(40代、男性)

 本調査のメニューには「再実験」があり、研究機関は求めに応じてこれを実施しなければならないとされているが、近年の厳しい予算状況の中では、高額な試薬等を用いる実験を反復して行うことは極めて困難となることが予想され、現実的でない。研究機関もこれに備えた予算の留保が求められると同時に、そのような場合に補助・融資等を行えるような基金制度が必要になると思う。

5 教員(男性)

1) 第三者評価に関して、審査する側が(接待を受けたり)手ぬるいとの評判を学会で聞いたが(短大基準協会)、この審査をやはり厳しくすべきで、外部の目が厳しいという認識を持たせる。不正研究者を出した大学は、組織として第三者評価で、監督義務違反、不適格と評価する。
2) 大学不正110番の設置、これには大学に関連するあらゆる不正を含めるべきである。
3) 大学教員の免許制度。フランスのアグレガシオンではないが、資格審査を定期的に行い、不正を行ったり業績不足の教員は更新できないようにする。抑止力のため。小中学校だけが免許更新制ではなく、大学でもいろいろな意味で何かが不足している教員は、免許更新制で質を確保する。

6 大学助教授(50代、男性)

 研究活動の不正行為への対応ガイドラインの作成という重要で、かつ大変な作業を進めておられることに敬意と感謝の意を表します。
 以下の2点について、意見を述べさせていただきます。

第2部 競争的資金に係る研究活動における不正行為対応ガイドライン
 3 告発等の受付
 1 告発等の受付体制

 項(11ページ、3~4行目)に、「研究機関等はその責任者として例えば理事、副学長等適切な地位にある者を指定し」とありますが、なぜ「理事」や「副学長」が「適切な地位にある者」なのか理由がよくわかりません。また、「地位」で適切かどうかを判断するのもよくないと思います。科学者として真摯な人物であればよいと思います。「研究機関等はその責任者として適切な者を指定し」とし、地位や職名は省いた方がよいのではないでしょうか。

第2部 競争的資金に係る研究活動における不正行為対応ガイドライン
 4 告発等に係る事案の調査
 3 認定
 (7)調査結果の公表

 項(18ページ、1~2行目)に、「調査機関は、不正行為が行われなかったとの認定があった場合は、原則として調査結果を公表しない。」とありますが、不正行為が行われなかったと認定された場合も公表すべきだと思います。公表されなければ調査方法、手順などが本当に適切であったのか、さらにその認定が正しいのかどうか、第三者には判断できません。これでは、調査機関の一存で簡単に「クロ」を「シロ」と認定できてしまいます。私は以前、ある研究者による捏造・改竄を明確な客観的証拠を提示して学会や研究機関に訴えたことがありますが、研究機関は何の反証も提示しないまま「シロ」と判定し、その経緯は公表されませんでした。調査機関、すなわち問題の研究者が所属する研究機関は当然、所属の研究者による不正事件など起きてもらっては困るので、「クロ」を「シロ」と認定しようとすることは十分に予測できます。このような轍を踏まないためにも、不正行為の認定のあるなしに関わらず、調査結果を公表した方がよいと思います。また、「悪意に基づく告発」であっても、調査結果を公表し正確な情報を表に出すことで被告発者の名誉回復もなされやすくなると思います。

7 独立行政法人職員(40代、男性)

  1.  不正行為等の定義が、第2部2 1で述べられています。しかし、〈故意によるものではないと本人によって明らかにされたものは不正行為には当たらない。〉とすることは不適当ではないでしょうか。故意かどうかは判断が難しく、本人だけで判断できないことが多いと思います。
  2.  全体として、研究者がしてはならないことを不正行為とするようにも読み取れます。もし、そのような広い意味で言うのでしたら、ほかのことが含まれると思われます。例えば
     ・研究成果が悪用・濫用される恐れが大きい(または明らかな)場合、または、既に悪用・濫用がされていることを知っている場合に、その被害を事前に食い止める(あるいは減らしたり無くしたりする)努力を怠ること
     ・政府の施策を無批判で受け入れること
    などが挙げられるでしょう。
  3.  組織のあり方の問題が、第1部3 2などに書かれています。しかし、失礼な言い方かもしれませんが、もし、このようなことがなぜ起こるのか、の問題にも研究者の倫理の問題が特に大きいとされるのでしたら、責任転嫁ではないでしょうか?倫理の問題以前に、組織運営の基本的な問題があると思います。一般的に、どのような組織でも
    (一)意志決定プロセスの透明性があること
    (二)組織としての責任体制が明確であること
    (三)組織の上の人が下の人を騙してはならない
    が必要です。現実には(三)も用していない組織が多く見受けられるようですが、これは由々しきことだといわざるを得ません。総合科学技術会議など、政府の上層部が日本の科学や技術の司令塔であるといわれることがありますが、そういわれるのでしたら、政府上層部まで含めて、(一)、(二)、(三)が成り立つようにすることが強く求められると思います。これらの問題を後回しにして、このようなガイドラインを作成すること自体が不適当にも思えます。

8 大学教授(50代、男性)

 欧米では、不正行為は、犯罪と同じように、必ず起こるものであると考えられております。事実、不正行為はこれまで日本でも行われていましたが、日本での一般的な学問レベルが世界的に高くなかったために、その不正行為の内容自体が国際的に注目されず、また、不正行為を対処するルールもなかったため、うやむやにされ、大きな社会問題にはならなかったのだと思われます。欧米では、不正行為が起こった場合に対処するしっかりとしたルールが作られております。今回、日本でもこのようなルールが作られることは、研究環境がようやく国際的水準に達するものとして、高く評価できると思います。「研究活動の不正行為への対応のガイドライン」の原案を読ませていただきましたが、大変重要な点が明確に記載されておりませんので、その点を指摘したいと存じます。
 不正行為には色々な事例があります。例えば、大学の場合では、
 (1)教授が主犯で教授の指示のもとに学生が不正行為を行った場合
 (2)学生が不正行為を行って、教授が気付かなかった場合
等やまた、
 (a)一般に不正行為を行った本人が、自白することはないようですが、その研究室の誰かが不正行為に気付き、教授が公表した論文を自主的に訂正したり撤回する場合
 (b)他のグループの研究者に指摘されて訂正したり撤回する場合
 (c)他の研究者に指摘されても訂正したり撤回しない場合
等々があります。
 欧米では、(a)と(b)の場合は、不正行為を行った研究者にはペナルティーが課せられますが、他の共著者にはペナルティーが課せられないことが多いようです。
その理由として、
 (1)不正行為に気付いたり発覚したときには、速やかに公表した論文を訂正したり撤回して、他の研究者に迷惑をかけないことがもっとも大切なことであること。
 (2)不正行為は教授もそう簡単に気付くことができず不可避であること。
 (3)学生が不正行為を行うかもしれないと常に疑いながら学生を指導教育することは、現実的には不可能で、また教育上もよくないこと。
 (4)不正行為に関与していない研究者がペナルティーを課せられると、誰もが自主的に公表した論文を訂正したり撤回しなくなり、結果的には学問の進展を遅らせること。
等があります。
 今回のガイドラインでは「不正行為をすると、ペナルティーを課せますよ」ということが強調されすぎているように思います。この点をあまり強調しすぎると、逆に学問の健全な推進に悪く作用する可能性があります。例えば、研究を活発に行えば行うほど、学生と研究する機会が増えるわけですから、研究を活発に行わない方がよいと思う人が逆に増える可能性があります。また、あまり活発に研究を行っていない人が活発に研究を行っている人を監視して告発するという事例が増える可能性もあります。また、優秀な研究者が欧米に流出することも考えられます。
 ガイドラインでは、「不正行為は不可避であり、不正行為に気付いたり発覚したときには、速やかに公表した論文を訂正したり撤回して、他の研究者に迷惑をかけない」という点を強調することが最も重要であると思います。法律も倫理の問題も先進国の間で大きく違うことは決してあり得ないことですので、そのような事態になったときに対する措置は欧米諸国と同じ考えに基づいて決めていくべきです。このガイドラインを欧米の一流の研究者が読んだ場合、日本の学問に対する考え方に対しても評価が得られるようなものにしていただきたくお願い申し上げます。

9 短期大学団体

 昨今の研究を取り巻く環境の変化は、誠に迅速であり、研究者間の競争がますます激化し、研究成果を急ぐ傾向が強まっておりますが、研究活動の不正行為が行われるのは補助金をめぐる不正利用だけではなく、研究の内容にも関わる総合的に重要な問題であると認識しています。このたびの一部研究者、特に研究指導者たるべき者の不正行為に鑑み作成された当ガイドラインは、綿密なる対処策であり、特に異論を挟む余地はないものと考えます。
 しかし、これらにより、正常な研究活動が阻害され、多くの研究に停滞や後退が起こらないよう望むところであります。正常な研究活動を阻害させないで、不正行為への予防策や対処療法を有効に機能させることが必要で、研究の発展にとって不正行為への対応が「角を矯めて牛を殺す」ことにならないようにしなければなりません。
 その点、ご主張のように告発等の方式は有効と思われますが、研究はチーム間や研究者相互の信頼に基づくところが大きいことから、むしろ外部評価のシステムの整備が不可欠であると考えます。補助金の不正行為に対する予防策として、個人研究者に対しては、徹底した研修を義務付け、補助金の管理や正常な処理に関する保証人を置くことも必要ではないかと思います。
 また対処療法として、補助金をできれば仮払い又は後払い(当初は財団等から本人が一時的に借入)とし、成果の審査結果により段階的に研究費を支払うなどの方法も考えられます。特に研究成果については、申請時と同様の徹底した審査を行い、不正等の介在があった場合には次回申請に段階的にイエローカード、レッドカードのハンディを付けることも考えられます。また、この補助金が国民の血税であることを考えれば、不正行為のうち、明らかに了知していた確信犯は、詐欺罪として告訴するぐらいの対応が必要ではないでしょうか。

10 国立研究所部長(男性)

2-(2)に関するコメント

 多年度に渡る持ち越し使用が自由であるような研究費の創設は、研究費の不正使用防止策の一つになりえると思います。研究費使用法の自由度の大きさは、効率的運用を促し、節約のincentiveにもなるはずです。
 現在の規則では不正使用行為とされている事柄のいくつかは、「先行投資で研究を進めないと成果の世界競争だけでなく、国内の研究費獲得競争にも負けてしまう」「年度変わりに研究費の空白期間が生じる。一方で各年度予算は使い切らねばならない」「基盤研究費は減少し、一度でも競争的資金が途切れれば研究室継続は困難なのに、研究費獲得が毎年適うことはない」といった現実がその背景にあるのだと思います。この現実をそのままにして規則運営だけを厳密なものにしてしまえば本邦の公的科学研究を疲弊させると憂慮します。研究費の不正使用の防止には、現実の研究実態に適合する使い勝手のよい研究費にすることが重要と思います。

11 大学教授(男性)

1)不正行為の定義

 「盗用」について:定義をはっきりさせる必要を感じます。
 小生、平均して年間に500件ほどの様々な研究計画書の審査をしております。
 審査にかかわる研究者は皆同じ立場に立たされますが、研究計画書の中には当然新しいアイデアが含まれます。自分たちが進めている研究とよく似たものを見つけることは決して稀なことではありません。このような場合に自分たちの発表を盗用であるとクレームをつけられる可能性があります。また、あるときに浮かんだアイデアが以前に審査したものに影響されなかったかどうかを判断することは大変難しいものです。もしもこのようなことが「盗用」に当たると判断されるのであれば、今後審査員を探すことは難しくなるでしょう。
 一方、以前には日本から送られた論文の内容が欧米の審査員によって盗まれるという噂話がありましたが、このよう場合には審査員が匿名である以上事実関係をつかむことは不可能です。こう考えると、研究費の審査等では審査員名を公開することで審査員の意識を高めたほうが公平な審査になるという考え方もできると思います。

2)不正行為の原因について:

 競争的資金ばかりになったことが不正行為の原因と考えるのであれば、本当に研究者の発想で自由に研究が行える、「校費」あるいは「経常研究費」を充実させるべきであるが、現状は全く反対の方向を向いている様に思います。また、大学院生の研究費は存在しないといったほうが正しいように思います。この問題は表記の問題とは直接関係ありませんが、文部科学省としてはお考えいただくべき点であると感じました。

3)研究の再現性と記録について:

 研究記録(ノート)の管理が厳密に行われることが研究の基本であることはその通りですが、これが変に利用される可能性について議論されていることをご存知でしょうか。それは、会計検査の時に実験ノートを詳細に検討して資金の流用を探る、と言う半ばジョークのようなものです。しかし多くの研究者があり得る話だと感じています。ある時ひらめいたアイデアを実験して研究を進め、その結果「研究費の流用」に問われる、笑えません。
 また、再現性は科学の基本ですが、研究室の長は安心のために研究室内で競争をさせたり、ある研究者が得た結果を別の研究者に確認させるなど、人間関係に問題を生ずる場面が増えることも予想されます。

4)措置について:

 「不正行為には関与しなくともその論文の主たる著者」の定義は曖昧で、最終著者なのかコレスポンディングオーサーなのか、良く分かりません。不正行為に直接関与しなかった研究者が2年から4年間資金をとめられるというのは厳しすぎると感じます。もちろん全く責任がないというわけではありませんが、本気で行われた不正行為を見抜くことは誰であれ不可能に近いと思います。3)の後半で述べたような問題も起こります。
 厳しすぎる罰則は全体を萎縮させると同時に、弊害が増えるであろうことは、研究費の不正使用の罰則強化の結果、何が起こったかを見れば分かります。自分の不注意のせいで他人に迷惑をかけることや、自分に責任のないことで連座性が適用されることを避けるため、研究費の申請時には共同研究者を設けない方が安心できる、と多くの研究者が感じています。研究現場では共同研究が減っていくことが予想されます。

12 国立大学

○ 不正が発覚した場合、教員は解雇され、又は辞職し、その研究室は解散になるというケースもあろうが、その研究室に在籍する学生が不利益を被らないための措置についての記述も必要ではないか。
○ 資金配分機関は多数存在するが、個々にガイドラインを作成するのではなく、統一したものを用意してほしい。

13 大学職員(30代、男性)

 今日の科学研究をめぐる状況の中で、研究活動における不正行為への対応のあり方を検討することは喫緊の重要課題となっており、本報告書の第1部に示された基本認識や基本的な対応姿勢に賛意を表するものです。あわせて、以下のとおり意見を申し上げます。

1.全体的なコメント

(1) 第1部の「研究活動の不正行為に関する基本的考え方」の「1 はじめに―検討の背景」の(5)(9頁)に指摘されているように、今日の科学研究は極めて複雑かつ多様な研究方法・手段を駆使して行われています。基礎研究においても、たとえば、物理系、化学系、生物・生命系では大きく異なった研究方法・手段が使われます。このガイドラインを拝見すると、全体が、生物・生命系および化学系の分野を想定した(ないしはその分野によりフィットする)形のものになっているように思われます。これは、最近のねつ造などの不正事件が生命系の分野で多く発生したことが背景にあると思われますし、このようなガイドラインを現段階でもっとも必要としているのがこの分野であることを考えれば致し方のないことと考えます。従って、研究方法・手段が分野によって大きく異なっており、それゆえ、不正行為の認定の手続きや調査にあたっては個々の分野の特性や慣行に十分に配慮することが必要になることを、このガイドラインにおいて適切な形で明示いただければと思います(13頁2(1)1等に若干の関連記述がありますが、一般原則的な考え方として明示いただくことが適切と考えます)。
(2) 上記の観点からすると、この報告書は「ガイドライン」にしては細かなところまで書きすぎている観があることは否めません。文科省のガイドラインですので、「5 告発者及び被告発者に対する措置」や「6 不正行為と認定された者に対する資金配分機関の措置」(19頁)の部分が細かく記載されるのは当然ですが、それ以前の、各研究機関が行う調査に対する部分がいささか詳細にすぎているように思われます。研究機関が調査を行う際にはある程度の自由度が許されるようなガイドラインの作りになっているほうが、実際の調査はやりやすいという気がします。もちろんこれは「ガイドライン」ですから、一言一句が重要ではないはずのものですが、世の中は得てしてそのようには動かないことは経験上ほぼ確かと思われます。したがって、これはあくまで「ガイドライン」であり、調査のやり方など具体的な点については研究機関の実情に応じて合理的な範囲の自由度は認められるという文科省の姿勢をどこかに明示して頂くことが必要ではないかと考えます。
(3) (2)に関連してもっとも危惧するのは、予備調査と本調査に対するガイドラインの考え方は、実際の現場と整合性が悪いのではないかと考えられることです。ガイドラインでは、予備調査は内部的なもので、データや実験ノートなどが決められた保存期間の間保存されているかどうかなどの「外形的なチェック」で、あくまで本調査を行うべきかどうかを判断するための調査と位置づけられているように見えます(従って調査期間の例示も概ね30日と短い)。各種資料の精査や関係者のヒアリングなどは予備調査の結果が出てから後の本調査で行うという仕組みになっています。しかし、現場の感覚からすると、このように両者を明確に仕分けすることは至難の業です。本調査を行うべきか否かの判断にこそもっとも本質的な調査が必要です。つまり、本調査をするとなった案件は、限りなく「黒」に近いものに限定すべきです(そうでないと、このガイドラインにある、不服申し立てなどなど事後の手続きが山のように連鎖して、調査委員会の委員を含め関係者は研究どころではなくなります)。そのためには、予備調査の段階で、資料の精査や関係者のヒアリングも行うことが当然必要であると考えています。そのような詳しい調査の結果に基づいてこそ、初めて「これは本調査すべき」という決断が下せるのです。逆に言えば、本調査では、予備調査のやり方が正しかったかどうか、未調査のものはないかなどをチェックし、被告発者の弁明を聞いて、白黒の最終判断をするということが主な任務になると思います。
 もし、「上記のようなやり方は『ガイドライン』に反している」という判断になるくらい、このガイドラインの「拘束力」があるのだとすれば、この点は、是非再検討をお願いします。このまま適用するときっと将来大きな問題を引き起こすと思います。

2.個別の具体的なコメント

(4) 「生データ・実験・観察ノート、実験資料・試薬」があちこちに、「本来存在するべき基本的な要素」の例示としてあげられています。それはそれでよいのですが、「生データ」、「実験・観察ノート」、「実験資料・試薬」の具体的な形態や保存期間などは、前述のように分野ごとに極めて多様です。とくに、「実験・観察ノート」と明記されることによって、そのうちに、「文科省標準ノート」が大学生協の店頭に並んで、「これを使っていないと不正になる」というような事態にならない事を願っています。つまり、「本来存在するべき基本的な要素」についても分野ごとの多様性があることを前提として頂きたいのです。「実験ノートがないから直ちに不正」などという判断は現場では決してできないと思います。
(5) 「3 告発等の受付」「3 告発者・被告発者の取り扱い」5(12頁)。
「研究機関等は、単に告発した事を理由に告発者に対し…行ってはならない」という部分は「研究機関等は、悪意でない告発者に対し、単に告発した事を理由に…行ってはならない」とするのが良いと思われます。なお、この箇所に限らず全体にわたって、この制度において告発の濫用がなされる危険がないかどうか、十分に仕組みを点検しておく必要があると考えます。
(6) 「4 告発等に係る事案の調査」の「2 告発等に対する調査体制・方法」の(2)の「3調査方法・権限」のイ(14頁)
「再実験の期間及び機会(機器、経費等を含む)が調査機関により保障されなければならない」とありますが、現実的には不可能なケースもあるのではないでしょうか。
(7) 「4 告発等に係る事案の調査」の「3 認定」の(2)の2と(3)(15頁)
「本来存在すべき基本的な要素の不足により証拠を示せない場合」は不正行為と認定されるという書き方は、上記(4)で指摘した点を考えると、とても心配です。ただし、「本来存在すべき基本的な要素」があることはどの分野にも共通のことであり、コミュニテイで暗黙の内に合意されている「本来存在すべき基本的な要素」がない場合には、不正と判断されてもやむを得ないことでしょう。従って重要なことは、「本来存在すべき基本的な要素」に対して、極めて柔軟に分野ごとの多様性を認めるという姿勢を明文化して頂くのがよいと思います。
(8) 15頁3(1)1の2~3行目 「不正行為と認定されるた場合」という部分は、「不正行為と認定された場合」の誤植と思われます。

14 独立行政法人職員(30代、男性)

 不正行為が明らかになった際の研究費の返還(p21~22)について、

  1. 残額又は全額の返還について、研究機関は何をすればよいのか、どこまでやれば研究機関の責任を果たしたことになるのか
  2. 全額返還の場合、研究費中に含まれる一般管理費もしくは間接経費についても返還の対象となるのか、返還が必要な場合の返還義務の所在
  3. 不正研究を行った者との関係について各研究機関が定めておくべき事項

上記についてガイドライン中に明示していただきたい。

(理由)

 本ガイドラインの対象となる競争的資金中、科学研究費補助金に基づく研究は、研究者が主体となって行うもので、研究機関は経理事務の代行及び諸事務の窓口であるのに対し、科学技術振興調整費は国(MEXTもしくはJST)から研究機関への委託契約により研究を実施することから研究機関が主体となって行うものであるなど、競争的資金によって研究機関の役割・関与が異なるため、研究機関の研究費返還に係る責任を明確にしていただく必要がある。
 また、上記いずれの競争的資金であっても、一般管理費もしくは間接経費が含まれる場合があり、当該経費は研究機関自身の諸経費に用いられ、不正を行った研究者自身が一切関与しない場合があるため、当該経費中、使用済みの経費を返還する必要がある場合の取扱いについても研究者自身に返還義務があるとする場合にはこれを明確にしていただく必要があるため。

15 独立行政法人職員(50代、男性)

(ガイドライン全体について)

○ 本ガイドラインの対象は、文部科学省の競争的資金を活用した研究活動とされているが、研究機関の側からみれば、府省庁毎に別々のガイドラインが適用されるのでは極めて煩雑であり、政府全体のガイドラインとして策定すべき。

(再実験等について)

○ 再実験等による再現性について、調査委員会の求めによる場合だけでなく、被告発者が自らの意思により申し出た場合にも、再実験等に要する期間及び機会が調査機関により保障されなければならないとしているが、再実験等に相当の長期間を要する場合や巨額の経費を要する場合も想定され、一律に調査機関に再実験保障を義務付けるのは適当ではない。
 被告発者が時間稼ぎのため再実験等を申し出る場合も考えられ、また、場合によっては再実験等の実施そのものが困難な場合もあり、再実験等の必要性はあくまで調査委員会が判断すべきものである。
 従って、P14の14行目の「、あるいは自らの意思によりそれを申し出た場合は」は削除すべき。

(不正行為が認定された論文等の主たる著者について)

○ 「不正行為への関与は認定されていないが、不正行為が認定された論文等の主たる著者」については、不正行為に係る競争的資金の使用中止、配分の打ち切りのみならず、全ての競争的資金の申請の不採択、申請制限等のペナルティが課さととなるが、不正行為に関与していないのにペナルティを課すのは過酷ではないか。
 なお、当該主たる著者は、被告発者でない限り、本調査の実施の通知、調査委員会への異議申立て、弁明、調査結果の通知、不服申立てなど、不正行為の認定に係る一連の行為について関与する仕組みとなっておらず、手続き面からも不公平である。

16 独立行政法人職員

第2部競争的資金に係る研究活動における不正行為対応ガイドライン

 調査委員会の委員の誠実性・公正性について記述がない。4 2(2)2調査体制で記述されている「直接の利害関係を有しない者」、4 3(5)3不服申し立てで記述されている「公正性」についての記述のみでは不十分ではないか。

2.研究活動の不正行為等の定義
2-1 対象とする不正行為

 捏造、改ざん、盗用(特に前2つ)の定義が不十分ではないか。改ざんの定義の内「研究資料・機器・過程を変更する操作を行うこと」との表現は、通常の研究活動の一連の過程において実施することも指しうるため、誤解を招くおそれがあるのではないか。

3-2 告発等の取り扱い

 7 告発の意志がない相談者に関する調査関係者の秘密保持について記述がない。告発者と同様に保護対象とすべきではないか。

3-3 告発者・被告発者の取り扱い

 4 氏名の公表や、懲戒処分、刑事告発まであり得るのであれば、「悪意」と判断するためにも不正行為の認定と同様なプロセス・認定基準が必要ではないか。

4-2 告発等に対する調査体制・方法

 告発等に対する調査体制・方法において個別に説明がなされているが、流れが分かり難いため、告発→受理→予備調査→本調査→処置の一連の流れを、最初に説明した方がわかり易いのではないか。

4-2-(1) 予備調査

 1 予備調査では「内部的に調査」とされているが、その定義がなされておずあいまいである。4-2(2)5「証拠の保全措置」において「本調査にあたって、告発等に係る研究に関して、証拠となるような資料等を保全する措置をとる」ことやこの文意から「データ等の内容についての調査を行わない、被告発者からの意見聴取を行わないで行う調査」と読めるが、明確に記述すべきではないか。

4-2-(2) 本調査

 1-イ2(1)-1において行われた予備調査では告発の合理性を判断しているに過ぎない。データ等の内容に踏み込んでおらず、本ガイドラインで規定している研究資金に関わる不正行為かどうかが明確になっていない時点で、資金配分機関に通知する必要はないのではないか。告発者・被告発者等の情報は調査関係者以外には漏らさないとされている。調査関係者の定義があいまいであるが、不当に被告発者の権利を侵害しないか。
 6 調査の中間報告についての記述であるが、調査途中の時点では不正が行われた可能性およびその範囲が定まっていないこともあり、どの資金提供機関が不正に関係する機関なのかが定まっていない場合もありうる。このため本来関係のない機関に情報を与えることにもなりかねない。義務づけは、「競争的資金に関わる可能性が確認された時点」以降とすべきではないか。

4-3-(2) 不正行為の疑義への説明責任

 生データ等の基本的な要素の不足により論拠が示せない場合には一律に不正行為と見なされる。この記述に従えば、再実験の機会を保障し、再実験においてどのような結果がでても不正行為とみなされることにならないか。
 保存期間を過ぎた場合等では、生データ等が不足しても、不正行為と見なさないと読める記述があり、この保存期間が提示されていない。その長短は各機関により異なる。保存期間に対する考え方が示されるべきではないか。

4-3-(7) 調査結果の公表

 必ず調査委員の氏名・所属を公表するとした場合、調査委員の選定範囲を狭めてしまう可能性があるのではないか。

17 大学研究所管理職(60代、男性)

 「3 措置の対象者 1で(共著者を含む。以下同じ)を削除し、不正行為を行った者に限定すべきである。」
 大阪大学蛋白質研究所は全国共同利用研究所として、タンパク質に関わる研究を国内外の様々な分野の研究者の要請に応えて共同研究を行っている。共同研究相手の研究分野は生物学、医学はもとより化学、物理学、薬学、農学、工学など多岐に渡っている。こうした他分野との広範な連携による研究が画期的な研究を生み出している。近い分野だけの連携に止まらず、従来関連性が見いだせなかった分野とも新しい共同研究が出てきている。こうした連携を強めることは科学の発展にとって推奨されるべきである。
 離れた研究分野の共同研究者間では互いの分担研究を完全に理解、吟味することは困難な場合もしばしばある。そういう場合でも大胆に、互いに科学者としての倫理観を確認しつつ、共同研究を推進したい。それぞれが分担する創造的な研究についてはそれぞれが責任を持ち、互いに信頼することによって共同研究が成り立つ。それでも、不正行為に遭遇した時にどう対処するかということを問題にしている。本報告書の見解は、共同研究者の一方がデータねつ造等の不正行為を働いたときに、他方の研究者はそのことを見つけ出す責務があるということであろう。これは、共同研究に関するあらゆる事項を同等に理解することの出来る共同研究者間でのみ成り立つことである。
 もし、こうした連帯責任を負わせられることになれば、異分野との連携による共同研究は慎重になり過ぎて縮小し、研究の発展を大きく阻害することになる。とりわけ広く国内外の研究者との共同を使命としている当研究所にとっては、研究所外からの広範な要請にも応えられなくなることが危惧される深刻な問題である。真実を追究する科学者の倫理観を互いに確認して、互いの専門性を活かした共同研究を推進することが求められている。異分野との連携を萎縮させてはならない。誤りを正すことが最優先されるべきで、多様な学問の発展の道を閉ざしてはならない。

18 高等専門学校助教授(40代、男性)

  1. 現場の状況
     当ガイドライン案は、昨今の多額の研究費流用に対応して、作成されたものと判断している。しかし、現実には研究費が絡まない場合においても、多々の「研究活動の不正行為」は行われている。
     当方は、大学院生時代、所属していたゼミの後輩の研究のサポートをし、研究アイディアも多数提案し、そのアイディアに基づいた成果も得られていた。しかし、論文の共著者とはならなかった。また、現職場においても、当方のアイディアを企業との共同研究に無断で流用された経験がある。一方で、業界団体の研究財団へアイディアを提供した場合も、当方への連絡もないまま、他の研究者が研究を行ってしまったこともある。また、他大学へ進学した学生が、当方の研究を発展させた研究を進学先大学で行い、関係が複雑になったこともある。
     一方で、当方も共同研究相手先の集めた資料に基づき研究開発を行った際、その資料の出所が分からないまま、資料の出所が確認取れないまま、せかされた状態で口頭発表原稿を作成してしまい、資料作成者に口頭で謝罪したことがある。研究環境は、2006年度校費は年間25万円であり、学生用パソコンの更新すら難しい状況である。また、研究活動に必要な基本的な計測器(100~150万円)が存在せず、校費での購入すら出来ない状況は、10年前の赴任当時より変化していない。
  2. ガイドライン案の問題点
     当ガイドラインは、研究者間の「アイディア流用」を想定している。そのため、弱い立場にある学生と教員間の問題は、検討されていない。また、教員と「アイディア流用」問題を起こした学生は、その後、学会内で不利な立場におかれる可能性が高い。(具体例:当方、N大助手時代の上司のパワハラを訴えたため、その後不遇である。また、N工大の学長の論文無断借用事件の原告の社会的立場が好転したかは不明である)
     従って、告訴自体が、原告の社会生活に不利に働かないようように、学協会の対応が必要と考えられる。この際、問題であるのは、被疑者自体の学協会内地位が高いケースが多いことである。
     一方、恒常的な研究費が少ない現実は、新しい研究の開始に不利に働いている。新しい研究を行う際は、新規の基礎的な設備が必要な場合が多いからである。加えて、科研費では先行研究の成果を求められることが多く、先行研究に必要な資金を科研費で得られないジレンマが生じている。
    この点も、問題点として取り上げて頂きたい。
  3. 対策
     学協会を含めた「研究活動の不正行為」防止への具体的対策が必要と考える。特に告発者への対応基準の明示が必要である。
     例えば、「雪印乳業を告発した倉庫業者は破産した」。これと同等のことが起これば、だれも告発しなくなるのは、明白である。

19 大学教授(50代、男性)

 以前から不正行為の噂は以前から存在し、実際に日本からのいくつかの論文が不正なものと認定されています。しかし、最近の状況は目に余る状態です。このような時期に文部科学省での「研究活動の不正行為への対応に関してガイドライン」作製のための御努力されていることに敬意を表します。先週、NatureのEditorと話しをする機会がありましたが、つい最近も日本からNatureに投稿された論文に改竄があることを論文のrefereeが見つけたとのことです。“日本ではdataを出さなければならないとのpressureが強いのか。なぜこのように多くの捏造論文が日本からでると思うか。”と聞かれ、困ってしまいました。早急にガイドラインが作製されることを期待します。
 今回のガイドラインの案を拝見させて頂き、いくつか気になった点を列挙させて頂きます。

  1.  このガイドラインでは不正行為を見つけ、それを処罰することに力点を置いているように見受けられます。今の現状を見るとサイエンスを理解していない若い教官、学生が多すぎます。アメリカ的な研究費の配分、教官定員の削減、大学院生数の急増により、学生や若い教官にサイエンスとは何であるかを時間をかけて、きちんと教えてこなかった点に問題があると思います。大学教官、文科省はこれらの点を反省し、もう一度、サイエンスとは何か、大学とは何かを問い、きちんとした教育をできる体制を再構築すべきと思います。
  2.  このガイドラインでは大学、研究機関が不正行為に関する教育をし、調査などを担当することとなっています。大阪大学医学部での今回の不正行為事件の調査に携わりましたが、研究機関だけで調査を進めることが非常に困難であると痛感しました。アメリカではNIHの下部機関としてOffice Research Integrity(ORI)が存在し、20名以上の博士号を持つ専属のスタッフが配置されていると理解しています。調査は研究機関が主体性を持って進めるとしても、ORIが積極的に研究機関にアドバイスしていると思います。日本の大学には様々な派閥、利害関係があります。残念ですがその利害関係が調査に影響を与えます。ORIのような政府機関が調査に関与すれば、より強い権限で調査を進めることができ、また公正な調査になると思います。
     最近、外国の友人から日本のあるグループからの一連の論文に不正があると思われるとの指摘がありました。調べてみると、そのfirst authorは以前、論文捏造が指摘され、その論文を撤回し、所属していた研究所から解雇となった研究員です。新たに移った研究所で再び不正を働いているとの感触を小生も強く持ちました。その外国の友人は当該研究所の所長に手紙を書き、善処を御願いしたそうです。数週間後、当該研究所から「不正の証拠は見いだされなかった。」との手紙をもらったそうです。彼はその研究所がどの程度真剣に調査したか大変不信を持っています。 「日本はどうなっている」と叱責されました。日本にORIのような機関があればそこにより公正な調査を依頼できるのではと思います。
  3.  今回のガイドラインでは教育に関してはあまり記述されていません。このままでは「年に一度大きな講堂での講義」になってしまいます。アメリカでは様々な学会でORIによる展示、講演会が企画されています。また、ORIによる詳細な教科書が用意されており、各大学ではその教科書をもとに教官全員が小人数の学生にゼミ方式で教えていると聞いています。現在の日本の状況から考えると、処罰を考える前に、教官、学生を教育することに重点を置くべきと思います。
  4.  サイエンスでの不正行為はあってはならないことです。しかし、これまで数々の不正行為があったことも確かです。不正行為に気がついた時、もっとも大切なことは如何に速やかにその論文を撤回し分野への影響を最小限にするかです。今回の韓国での不正行為は責任著者、グループリーダーでした。このような研究者を厳しく罰することは当然のことです。一方、他の大部分の不正行為は学生、post-docなど実際に実験を行ったfirst authorによるものです。グループリーダーが、研究室で如何に学生とdiscussionし、彼等のPrimarydataをチェックしたとしても彼等の不正を見抜けるものではありません。学生を信用しなければ研究室を運営することはできません。これまで、F.Lipmann、D.Baltimore、Rackerなどノーベル賞、それに同等の研究をしていた研究室から不正な論文が発表されています。このことは、不正行為を防ぐことが如何に難しいかを示しています。数人の外国の著名の科学者とこの問題に関して話す機会がありましたが、彼等も同一意見です。ORIは不正行為が認定されるとそれをインターネット上で公開していますが、捏造を行った当該研究者の名前だけであり、監督者の名前は公開していませんし、監督者への研究費の差し止めなどないと理解しています。今回のガイドラインではcorresponding authorに対する処罰が強すぎると思います。大学院生、post-doctoralfellowは自らの“データ”に対して責任を取ることができるからfirst authorです。不正を行う学生はその研究室ばかりでなく、他の研究室に移っても不正を繰り返します。不正を行った学生をより厳しく処罰すべきです。
     Corresponding authorは不正が見つかった場合、速やかにそれを撤回する責任があります。論文の撤回だけで大変不名誉なことです。状況によりますがそれ以上の処罰は必要ないと思います。ところで、ガイドラインには「告発を受ける前に論文を撤回した場合に関しては処罰が軽減される可能性がある。」との記述があります。この記述は曖昧です。現在、国内で不正ではないかとささやかれている論文は医学生物学の分野だけでも10報を超えるのではないでしょうか。このガイドラインではcorresponding authorはこれらの論文を調査し、撤回しようとはしないでしょう。Corresponding author自らによる調査、速やかな論文撤回を促すためにも少なくとも暫くは、処罰は、不正を行った研究者に限定すべきではないかと思います。
  5.  今回のガイドラインは競争的研究費を用いた研究に限定されています。しかし、日本からの論文には公的な研究費を用いたものばかりでなく、企業からのものも多数存在します。項目2で言及した捏造論文は企業の研究室からのものです。アメリカのベル研究所での不正事件も企業の研究所です。このような企業からの不正にも対応できるガイドラインが必要と思います。

20 ポスドク研究員(30代、男性)

  1.  行動規範の作成研究機関名を具体的に挙げていること<第1部、項目4-1-(2)-2>。
     「東京大学、理化学研究所、産業技術総合研究所など」が不正に対する規定を作成済みとの記載がありますが、これらの研究機関は全て不正事件が発生してしまったために、事件後に規定を作成したに過ぎません。私自身は自分の内部告発の体験から、これら規則作成済み研究機関に好印象を持っていますが、今回のルール作りの中で取り上げるのは、あまりにも不適当だと思います。
     もしここで敢えて名前を挙げて取り上げるのでしたら「不正研究の事件がすでに発生した以下の研究機関」と付記することを希望します。
  2.  対象とする不正行為<第2部、項目2-1>
     「故意によるものではないと本人によって明らかにされたもの」は不正ではないとなっていますが、「明らかにされた」という言葉には「発表された」という意味もあり、曖昧だと思いました。
     「本人によって明らかにされた」を「本人によって証明された」に変更を希望します。
  3.  告発等の取り扱いについて<第2部、項目3-2-1>
     私の内部告発の体験から、特に強調したいことは、告発者側は告発内容や相談内容を記録として残すべきだということです。今回のルールの中で、多くの告発法を認めている点は注目すべき点ですが、電話や面談での告発の場合、途中で伝達のミス(解釈のミスなど)が起こる可能性が心配です。このルール上では、告発者も何かの間違いが生じれば逆に処分される危険な立場にあり、考えたくはありませんが相談員が不正者の側に立って曲解するという可能性も否定できません。ただし、多岐の告発法については、例えば入院中であるとか時間的な余裕が無いまま緊急に告発したいケースも考えられますので、現ルールのまま残して欲しいと思います。そこで提案なのですが、多岐の告発法はそのままにし、「告発等の取り扱い」の項の中に「ただし、告発内容の誤解等を避けるため、告発者は、電子メール等、記録の残る形で告発することが望ましい」と付記することを要望します。これは告発者保護が目的です。
  4.  不正が起こる前の告発に対し、研究機関からの警告はできないか<第2部、項目3-2-7>
     私の経験した不正事件では、研究室の責任者自身が、室員に対し不正を強要していました。不正が嫌な人は不正を拒否し続け、その結果、待遇面で立場を悪くさせられる(有給者なら給料、学生なら学位取得、論文での著者名、使用が許される試薬の制限、研究室移籍の妨害など)という被害を受けました。今回のルール制定後に頻繁に起こるだろうと予想されることは、不正はまだ起きていないが、別の人から不正を強要されて困っているというケースです。私は、今回のルール作りが、単なる不正者の処分専用ではなく、不正の発生自体を回避する役割を担って欲しいと強く願っています。また、不正事件発生後の調査に要する膨大な作業を避ける意味でも、警告により不正を未然に防ぐ方法をこのルール内に組み入れることがわずかでも必要だと思います。警告システムが存在しないままですと、不正が発生しそうだと知った人が、敢えて不正の発生を待って、それから告発するという矛盾も生じかねません。
     そこで提案なのですが、「告発等の取扱い」の中の新項目として、「不正には至っていないが、不正を強要されそうであるなどの相談があった場合には、告発者の同意の上で、受付窓口から被告発者への確認、注意、あるいは警告を行なう。この場合、その後不正行為が発生しなければ、相談内容や被告発者への注意事項は、告発としては取り扱わない。ただし、この処置はあくまでも不正を未然に防ぐ目的の処置であり、不正がすでに発生したことが確認された場合は、上記の告発と全く同様に取り扱う」という項目の追加を希望します。
  5.  悪意に基づく告発の場合の、懲戒処分、刑事告発について<第2部、項目3-3-4>
     私は内部告発を実行しましたが、その後に研究所に対してルール作りの参考にとして残してきたメッセージの中には、悪意に基づく告発を許さないこと、科学的に正当な理由無く不正と断定はしないことなどの意見を書きました。本ルールにおける「悪意に基づく告発」についても概ね納得していますが、どうしても納得出来ないのが「懲戒処分、刑事告発」の記載です。以下の項目でも述べますが、なぜ不正研究者に対する記載が「処置」で、悪意に基づく告発ではより具体的な「懲戒処分、刑事告発」なのでしょうか?刑事告発とは、具体的にどのような刑法に対する告発を想定しているのでしょうか?おそらく委員会が、過去の何らかの「悪意」の実例を参考として記載したのだとは思いますが、あまりにも不正者研究側に対して甘い書き方だと感じます。どちらも同様に許されない悪事であることに変わりありません。不正者の処分記載法(以下の項目7でも再議論)と悪意に基づく告発の処分の記載法を統一するよう要望します。
  6.  調査の委託について<第2部、項目4-1-7>
     調査がより的確に行なわれるために研究分野の近いコミュニティに調査が委託できるという方法は、とても良いと思います。ただ1点心配なのは、調査を実行すべき研究機関と、委託された研究者コミュニティの関係です。ここでは簡単に「委託」と書いてありますが、その後生じるかもしれない摩擦問題をあらかじめ避けるため、委託後の決定権の強さのについてもう一度明記した方が安全だと思います。
     「これを委託することが出来る」の後に「委託後は、委託した研究コミュニティの全ての決定に、研究機関は従うこととする」と追記を希望します。
  7.  予備調査で終了するケースについて<第2部、項目4-2-(1)-4>
     予備調査で終了可能であるなら、あまり考えたくはありませんが、各研究機関が不正を揉み消す可能性はどうしても無視できません。このルール上では、本調査が行われればその内容は何らかの形で公表されるなど、多くの人の厳正な目に触れることになっていますが、予備調査で終了した場合の報告義務等が曖昧です。例え調査した事件が不正の証拠がなかったとしても、告発があって予備調査が行なわれた記録は(当然ですが)保存されるべきことだと思います。例えば、同一人物が異なるタイミングで再告発されるケースなどが起こった場合、以前の予備調査は必ず役に立つはずです。本調査を行わないと決定した場合の記載に、「調査機関は、再調査等の可能性に備え、予備調査の経過や結果を保存する義務がある。」と追記を希望します。この文章は、単なる記録保存の意味以上に、調査者が予備調査をきちんと行なうべきという意味を含んでいると思います。
  8.  調査体制について<第2部、項目4-2-(2)-2>
     調査の公正性を考え、「当該調査機関に属さない物を含む調査委員会」との記載を「当該調査機関に属さない物(最低2名)を含む合計5名以上」に変更希望します。予備調査の段階でも、最低人数(4人でしょうか)の記載が必要だと思います。
  9.  悪意に基づく告発の認定法について<第2部、項目4-3-(7)-2、関連項目4-3-(4)-4、4-3-(1)-2、3-3-4>
     不正者の不正認定に関しては厳密な記載があるにもかかわらず、「悪意に基づく告発」に関してはほとんど記載がありません。内部告発の一経験者として、さらに研究界の多くの人々に「彼の告発は悪意に基づく告発だ」などという偽情報を流された被害経験者として私の率直な意見を申し上げるなら、このルール上での「悪意」の認定法はあまりにも曖昧で危険です。このままでは、正義に基づく内部告発者を悪人に仕立て上げるなど、悪用されるケースが今後起きるのではないかと、とても心配です。ただ、どのような「悪意」が起こりうるのか、その想定も難しく、ルール上での記載が困難であることも理解できます。ですから最低限度、どのような根拠を基に悪意だと認定したのかを、調査結果として報告することが必要だと思います。調査結果の公表の項(項目4-3-(7)-2)の中で、悪意に基づくと認定した理由の公表を追記することを希望します。
  10.  不正者の「処分」について言及していないこと<第2部、項目5-2-(2)>。 不正者の処分について、あえて「処分」という言葉を使わず「処置」という言葉を使うことに納得がいきません。不正が行われたと断定された後でも、結局は処分はしない(出来ない)ということを意味しているのでしょうか?また、処分決定に時間がかかるとしても、処分の検討は直ちに開始されるべきと思います。
     「内部規定に基づき適切な処置をとる」を「調査発表後少なくとも1週間以内に処分の検討(懲戒処分、刑事告発)を開始し、内部規定に基づき適切な処分を行なう」へと変更を希望します。
  11.  不正研究自体に対する処置が欠落していること<第2部、項目5-2-(2)、関連項目4-3-(7)>。
     私が内部告発した事件で、やり遂げられなかったことは、不正研究自体(不正研究による論文)を研究界から取り除くことでした。文科省が「国民から集めたお金の公正な使用」ということを中心にルール作りを進めることにも大きな意味がありますが、一方で研究者にとっては、既に報告されてしまっている不正研究論文を研究界から削除または訂正することに、非常に重要な意味があります。お金を出した国民ももちろんですが、その不正論文を正しいと信じてしまった世界中の研究者も被害者でありかつその被害が継続する可能性があることを忘れないで下さい。その観点からの処分項目が、このルールには欠けていると思います。公表論文は世界中の研究者の共通財産であるとの原則から考えれば、不正研究論文の処分は各研究機関の「内部規定に基づく適切な処置」に委ねるだけでは不完全であり、最低限度の共通ルール上で実行されるべき処分だと思います。
     研究機関による処分項目中(あるいは調査委員会の公表文中)に、最低限実行すべきこととして、
     「不正と認定された研究(論文)と不正部分を、研究機関がホームページ等により、具体的にそして永久に公表すること。」
     「英文論文であった場合には英語の公表文も併記すること。」
     「不正論文の著者に対し、論文の取り下げを勧告すること。」
     「勧告にも関わらず設定した期間内(例えば1ヶ月)に著者が論文取り下げを実行しない場合、研究機関長の名で、論文が掲載されている雑誌に対し、調査の経過と不正の事実そして勧告内容を(さらにホームページの英文公表の存在を)直接連絡すること。」
    の4点を新たに加えることを強く要望します。
  12.  ガイドライン外調査に協力するような第3機関(文科省内に小さな部門)は必要ではないでしょうか?調査の権限は研究機関に任せるにしても、事務レベルで協力できると思います。ORIのように、不正を防ぐ教育やアピールを中心とした部門として小さいながらも設立し、事件が起きた時には、それら調査研究機関の事務手続きを手伝ったり、過去に起きた事件の調査経緯等の情報を与える立場として、つまり補佐として働くというのはどうでしょうか?調査機関の負担や事務的な作業が大き過ぎて、きちんと調査できないまま終わってしまう可能性を心配しての意見です。特に小さな研究機関では困難だと思います。
     米国では研究に携わる人全員に、研究倫理の授業が義務となっています。日本で行なわれている放射線業務に関する講義受講の義務のように、義務化した研究倫理講義が必要ではないでしょうか。
     このガイドラインはまだ完成したわけではありませんが、私自身は完成度が高いと感じています。是非、委員会の皆様が自信を持って、表紙に委員の名前を明記して頂けることを要望します。必ず、多くの人が尊敬できるメンバーとして皆さんの名前を記憶すると思います。

21 独立行政法人職員(30代、男性)

  1.  調査能力や判断基準は調査する機関により異なるであろう。これらの差異は研究者間のみならず、一般市民に対しても疑惑や不信感を読んでしまう可能性が高く、それらを調整する制度や機関の設定が必要ではないか。
  2.  十分な調査能力を持たない・持てない大学・研究機関に対しては、コンソーシアムを組むことを率先した方がよいのではないか。特に小規模の施設では利害関係から公正中立な調査は難しいと思われる。
  3.  各調査委員会への不服の出口が司法(裁判所)しかないのは危険ではないか?。研究者コミュニティーの自律性を放棄しているとしか思えず、是非これらを受け止めるような上位審査機関の設置を希望したい。
  4.  調査に当たっては一方的な懲罰による処理で終わらせることなく、再発防止に向けた原因究明等を含めた「科学的な」方法を用いるべきであろう。
    以上です。どうぞよろしくお願いいたします。

22 大学教授(40代、男性)

 本案20頁「3措置の対象者」に関して次の意見があります。研究活動の不正行為が明らかになった過去の事例において、その発端の多くは内部告発であると認識されます。したがって、内部告発しやすい環境をつくることが不正行為の抑止力になるものと考察できます。この点で、本案20頁「3措置の対象者」の項目に記載の内容は工夫の余地があるものと考えます。すなわち、同項目の第1号と第3号に記載のように、「不正行為に関与したと認定された」者について措置の対象者とするのは当然でありますが、第2号に記載の、「不正行為に関与したと認定されていないものの、不正行為があったと認定された研究論文に係る論文等の主たる著者」については、同号前段の「不正行為に関与したと認定されていないものの」という部分が内部告発を妨げかねません。第2号を削除して内部告発を促す環境をつくって不正行為情報をまずは調査委員会に集め、論文等の主たる著者の責任については、調査委員会で精査して「不正行為に関与した」と「不正行為に関与しなかった」の区分作業を厳格に行わせたのち、本案同項第1号対象者か否かの認定をさせればよいと考えます。

23 高等専門学校教授(60代、男性)

 不正(捏造・改竄)が罷り通る背景として、科学技術系には文系のような研究を比較研究する分野がないことがあると思います。
 文系の研究では、他の人の著作や研究論文を分析・研究することが結構盛んですが、科学技術分野ではオリジナルな発案・研究・開発のみしか研究として評価されないので、高いレベルで他研究者の論文・データを分析・比較する人は殆どいません。研究内容が自分に近くて影響の大きいような場合には多少はチェックしますが、最近は研究が細分先鋭化されており、必ずしも近い内容の研究者がいない場合も多く、余程大きな成果が報道されたりしなければチェックされないまま見過ごされるケースは少なくありません。
 文系のように他者の研究を比較分析することも研究として評価することも必要な時期に来ていると考えられます。
 「博士」とは元来ある分野のことに広く深い見識を持った人を指していた言葉の筈ですが、現在ではオリジナリティ優先で、狭い先鋭化した分野で僅かな?オリジナリティを有する人にのみ授与されるようになってきています。

24 大学団体

 標記の報告書(案)は時宜にかなったものと考えます。

1 本報告書の趣旨と構成について

(1) 昨今の研究活動に関わる不正行為について、本来求められるべきは不正行為の防止であって、そのための手段として「予防措置」(自己規律、倫理教育の実施など)、「防止のための取り組み」、「不正行為への対応」が必要となると考えられる。
 本報告書第1部では、「科学研究の意義」に始まり、不正行為が起こる背景、不正行為に対応する諸機関の取組みに至るまで、研究活動の不正行為について包括的な論及がなされている。他方、第2部「不正行為対応ガイドライン」は、不正行為を告発・調査・認定・措置する仕組を各研究機関及び研究費の配分機関において制度化するためのガイドラインを示すもの、換言すれば、緊急に必要と考えた不正行為対応のための手段の1つを示したものと読める。
 したがって、第1部の包括的議論と第2部の限定された範囲のガイドラインとの間に不整合性があり、違和感を禁じえない。
(2) 本報告書を、第1部と第2部の二部構成としたままで、第2部「ガイドライン」は当面、緊急に必要と考えた不正行為対応に限定したものとするには、後述のように、第1部、第2部を包括する「はじめに」の1文を設け、両部分の関係と「ガイドライン」の趣旨を明確にすべきである。その場合、本報告書の標題は「研究活動の不正防止のガイドライン-とくに競争的資金に係る研究活動の不正行為への対応について」とするのが的確である。
 あるいは、本報告書の重点を第2部に置くとするなら、第1部の叙述をより簡潔にし、第2部「ガイドライン」の限定された趣旨が明確になるように書き改めるべきである。また標題も、その内容に相応しく、第2部の重点を明示して、「研究活動の不正防止のガイドライン-とくに競争的資金に係る研究活動の不正行為への対応について」、あるいは「競争的資金に係る不正行為の告発・調査・認定・措置のガイドライン(について)」とするのが適切である。
(3) 本報告書第1部には、告発された不正行為への対応のみならず、不正行為の防止・抑止の必要性についての言及がある。たとえば、1-(7)には「不正行為の抑止」(2ページ)、2-5には「不正行為に対する対応は、研究者の倫理と社会的責任の問題として、その防止とあわせて、まずは研究者自らの規律、あるいは研究者コミュニティ、大学・研究機関の自律に基づく自浄作用として…」(4ページ)との記述、また4-1-(2)には「2防止のための取り組み」とある(7ページ)。さらに、4-2-(1)には、「このことから、文部科学省においては、研究費の配分の観点を中心に不正行為防止も含め、不正行為への厳正な対応に取り組んでいくことが必要である」(7ページ)と書かれている。
 研究活動に関わる不正行為の防止には、本ガイドラインが示す「不正行為対応」に加えて、「予防措置」(自己規律、倫理教育の実施など)、「防止のための取り組み」があわせて必要になるが、このような側面に関わるガイドラインの策定について、今後の計画を示す必要があると考える。
(4) 第2部ガイドラインが対象とする不正行為は、(1)捏造、(2)改ざん、(3)盗用に限定されている(9ページ)。しかし、研究活動の不正行為のひとつとして、公的資金の不正使用(流用、目的外使用、私物化など)を看過することはできない。この点に触れなければ、社会的には研究者に甘いガイドラインと指弾されるであろう。
 ガイドラインを当面、不正行為の告発・調査・認定・措置の仕組みに限定して提示するとしても、対象とする不正行為に(4)公的資金の不正使用を加えるべきである。不正使用の告発・調査・認定までの3つの過程については、本ガイドラインの仕組みを有効に使えるものと思われる。
(5) 本ガイドラインには、告発・調査・認定の3つの過程を踏んでなされる行政処分としての「措置」が示されているが(21~22ページ)、不正使用の場合は措置に替えて、刑事告発により訴訟となり、刑法が適用される。第2部-6-5「措置と訴訟との関係」(22ページ)に新たな項を設け、告発・調査・認定の3つの過程の後の措置に言及すると同時に、刑事告発へつなげる道を明示するほうが良い。
(6) 本ガイドラインは、対象となる競争的資金を文部科学省において競争的資金の範疇に数え上げられている」13の制度(10ページ)に限定している。しかし、不正行為は、基盤的研究費や他府省の競争的資金、あるいは民間から導入された研究資金による研究活動においても生じる可能性がある。
 したがって、当面は上記13の制度に対象を限定するとしても、文部科学省のイニシアチブにより、他の資金によるものを含めた包括的なガイドラインの提示が必要であろう。

2 本報告書の記述に関する具体的な意見

(1) 「はじめに」の掲載について
全体としてあまりにも長文であり、第1部と第2部のつながりが明瞭ではなく、また目次が詳細すぎる。目次を精査して1ページ以内に納める(部、2、3のレベルまでを掲げ、(4)、5のレベルは掲げない等)とともに、第1部と第2部の強調点をA4版2ページ程度にまとめて「はじめに」とし、これを目次の前に掲げていただきたい。
 その中で、本ガイドラインにより各研究機関及び資金配分機関がそれぞれの責任において不正防止及び不正行為対応の規程などを整備するよう呼びかける必要がある。また各研究機関においては、機関としての規程の中で不正防止に努めることを表明し、また所属研究者全員が不正行為を行わないむねの誓約書にサインするなどにより、自制を促す仕組みを作ることを呼びかけに含めてはいかがか。
(2) 第1部の標題「研究活動の不正行為に関する基本的考え方」(1ページ)及び第1部-2の標題「不正行為に関する基本的考え方」(2ページ)のなかの「不正行為」は、「研究活動の本質」や「科学研究の意義」などの記述内容からみて、「不正行為」ではなく「不正防止」とするのが適切である。その上で4の標題「不正行為が起こる背景」に連続させれば、いっそう正しい理解が得られる。
(3) 第1部-4-1及び2(6~8ページ)には第2部を導く重要な論点が書かれている。そのさい研究者コミュニティや大学・研究機関(以下「研究機関」とする)と研究費の配分機関(以下「資金配分機関」、具体的には10ページにある通り、文部科学省、独立行政法人科学技術振興機構、独立行政法人日本学術振興会の3者)の両者を明瞭に分けて論じ、その上で両者の関係を論じ、それぞれの対応を考える必要がある。具体的には、

  1. 第1部-4-1「日本学術会議、大学・研究機関、学協会の不正行為への取り組み」(6~7ページ)は論点が明瞭に整理されているのに対して、第1部-4-2「文部科学省における競争的資金等に係る不正行為への対応」(7~8ページ)は表現が不鮮明である。とくに(2)-2-ウ)の「…それに関するルールがないため、それを構築することが喫緊の課題である」(8ページ)を明示的に書き直すべきである。
  2. 第1部-4-2-(2)-3(8ページ)が本報告書(案)の柱となるものと読めるが、研究機関と資金配分機関とが同じ文章の中に併記されているため、きわめて分かりにくい。両者を明瞭に分けて論じ、その上で両者の関係を論じ、それぞれの対応を考える表現(項目の立て方を含む)に書き直すべきである。
  3. 第1部-4-2-(2)-4の項(8ページ)は、その内容からして、ここに置くより、7ページの第1部-4-2-(1)へ移し、その第2段落とするほうが分かりやすい。そして、5を4とする。

(4) 「知の品質管理」(3~4ページ)は「個々の知見の品質管理」の意味であろうが、不適切な表現である。そもそも知は管理し得るものではない。このままの表現では、憲法違反の思想統制と誤解されかねない。不用意な表現は改めるべきである。
 具体的には、第1部-2-4を(1)と(2)に分ける必要がないので標題を「不正行為に関する基本姿勢」に1本化し、「(2)知の品質管理」を削除、また3ページの下から9行目~8行目の1文を削除、さらに4ページ3行目の「品質管理を徹底していくという、」を削除する。
(5) 「対象とする不正行為等」(捏造、改ざん、盗用)について、「故意によるものではないと本人によって明らかにされたものは不正行為には当らない」の1文(第2部-2-1、9ページ)は安易に過ぎる。故意と過失を区別することはきわめて難しく、この判断を本人の表明だけに拠ることはできない。後続の「不正行為か否かの認定」(第2部-4-3-(3))のなかで、さらに言及しておくべきである。
(6) 不正行為の「告発」とそれに伴って起こり得る名誉毀損や風評被害の防止とをバランスよく考慮すべきである。具体的には、第2部-3-3-4(12ページ)を補強するとともに、「告発は原則顕名によるもののみ受付ける…」のうち「原則」を削除して顕名に限定し、その理由を書き加えていただきたい。その上で、別の項目5を立てて、匿名による告発を特例として認める理由及び参考事例を掲げ、その判断を「調査を行う機関」(第2部-4-1)に委ねるむねを書き加える。
(7) 「調査を行う機関」(12ページ、第2部-4-1)及び「調査体制(=調査委員会の委員)」(13ページ、第2部-4-2-(2)-2)に記載されている通り、当然に「利害関係を有しない者で構成」すべきである(=利害関係者の排除)。しかし専門領域の研究者数が少ない中小の研究機関が多くあるため、当該研究機関の内部から適任の委員を選任できない場合があり得る。そこで、当該研究機関の自主的判断により、他の研究機関の支援を受けて委員を任命できる仕組みを積極的に提示すべきである。
(8) 「措置の対象者」(20ページ、第2部-6-3)の2は、表現が曖昧で恣意的な拡大解釈の恐れがあるので、削除するほうが良い。当該競争的資金の分野においては、多くの論文が共著で発表され、主たる著者が複数あり誰が主たる著者であるかを確定しえない場合もあり、無用な混乱を生むからである。なお2の削除に伴い、3を2とする。
(9) 「措置と訴訟との関係」(22~23ページ、第2部-6-5)は、裁判の確定まで相当期間が予想されるので、訴訟の取り下げや和解、また被告発者(=訴訟提起者)の死亡による名誉保持など、経過的な措置にも言及しておく方が良いと思われる。
(10) 字句修正について
 正確を期して下記の字句を修正されるよう提案する。下線部が修正案。
 ● 第1部-1-(7)の4行目にある「不正行為の抑止」(2ページ)は「不正行為の防止」とする方がよいと思われる。
 ● 第1部-2-5「研究者、研究コミュニティ等の自律・自己規律」(4ページ)のうちタイトルの「自律・自己規律」を「自律的自己規律」とし、また「…まずは研究者自らの規律、あるいは研究者コミュニティ…」のうち「あるいは」を「ならびに」とする。
 ● 第2部-3-1(10ページ)の下から7行目。
「…告発等の窓口(以下「受付窓口」という。)を…」を
「…告発等を受付ける窓口(以下「受付窓口」という。)を…」とする。

3 本ガイドラインに関わる提案

(1) 競争的資金(13制度)の配分に当たる審査委員の構成については、国公私立大学等のバランスを十分に考慮するとともに、資金の対象が理工系・医療系であっても人社系の委員を適宜配置するなど、公正な倫理的判断を可能とする仕組みづくりに努力されたい。
(2) 競争的資金獲得の個人別データの作成と公表について
 第1部-3-1「研究現場を取り巻く現状」(4ページ)などに記載があるように、「先陣争い」と「研究費獲得自体がいわば一つの評価指標と化して」いる現状の背後には、競争的資金の配分基準や配分決定機関に対するある種の不信感があるものと思われる。その透明性と公平性を高めるためには、競争的資金を獲得した研究者の個人別データを作成し、次の配分時の参考にすると同時に、これを広く公開することにより、獲得資金とその研究成果との関係を広くピアレビューする材料とすべきである。

25 国立機関職員(40代、男性)

○ 研究公務員の信用失墜行為への位置づけ

【文案】 研究上の不正行為は、公務員が行った場合、公務員法に規定される「信用失墜行為(国公99条、地公33条)」に該当しうる。
【理由】 研究公務員による不正行為はまさに「その職の信用を傷つけ、又は職員全体の不名誉となるような行為(法律用語事典)」に他ならないが、「信用失墜行為は、利害関係者からの金品の授受等を指すのであって研究上の不正行為は前例が無い」といった見解がある。ガイドラインにおいて、研究上の不正行為は、研究公務員の場合、信用失墜行為に該当しうることを一言明言すべきだ。

○ 捏造、盗用の適用範囲拡大

【文案】 3対象となる研究者及び研究機関「対象となる研究者は、対象となる競争的資金の配分を受けて研究活動を行っている研究者である」の後に次の文言を挿入する。「ただし、捏造、盗用については対象となる競争的資金を受けていない者も含め全ての研究者に適用する」
【理由】 不正行為3種(FFP)のうち、改竄は現にデータがあることが前提だが、捏造と盗用は全くの無から作りだすことが可能。ガイドライン案の適用範囲では、全く研究費を受けずに、データをまるまる捏造したり、他の研究者の業績をまるまる盗用して論文投稿をくりかえす研究者に対しては何の措置もとれない。現にこれまで発覚した大スキャンダルは、検査デー夕の一部を書き換える、といった程度ではなく、他人の論文のまるまるコピーしたり、存在しないデータや図表をまるまる偽造する、といった大胆なものがほとんど。それゆえ捏造と盗用については全ての研究者を対象にすべき。

○ 用語の定義

【文案】 「1対象とする不正行為」中(1)捏造(偽造)…存在しないデー夕、研究結果等をつくりだすこと、(2)改ざん(虚偽記載)…真正な数値や事実に意図的に変更を加えたり、真正とは異なる数値や事実を記載すること。
【理由】 研究上の不正行為はあいまいなので言葉の定義で争いになる恐れ大。たとえば改ざんは「変更する操作を行うこと」では、最初から虚偽の数値を記載すければ改ざんにあたらない、と強弁する者もでてくる。見解の相違がでないようなシンプルでストレートな定義がベター。

○ 盗用の対象範囲にデータを追加

【文案】 他の研究者のアイデア…に「データ」を追加。

26 元研究員(50代、男性)

  1.  科学における不正(不正論文、研究費の不正使用、その他の研究にまつわる様々な不正や人事問題等を含む)の疑惑が出た場合には、大学や研究所の内部の調査委員会では、公正な調査や処分が行われることは非常に困難である。外部委員が居ても内部の意向を強く反映した、組織に取って都合良く選任された内部委員会に変わりなく、不正を行った同じ組織の仕事仲間に対して温情的な調査や処置が行われるのが常である。また、その逆に、組織防衛や特定個人の利害や内部抗争に絡んだスケープゴートに利用されるケースも頻繁に起きる。今回のガイドライン案では、各当該研究機関で独自に調査することとなっておりますが、これでは公正中立な審査や調査は行えません。最近起きた阪大や東大のケースにおいても処分や審査基準が大きく異なっており、真実はどうだったのか外部から見て全く不明瞭に終わっています。従って、米国ORIの様な組織が良いかどうかは別として、日本学術会議あるいは文科省管轄の独立中立な第三者機関を創設し、そこにおいて被疑者と告発者両者の意見を公平に聞き、所属組織の利害を考慮しないで公正な調査を行い、真実を隠さずに明らかにした上で、不正行為の悪質レベルに応じた公平な処分がなされるべきである。告発者は所属組織に告発するのではなく、このような第三者機関に告発するシステムを作るべきである。その方が告発しやすいことと、組織内部で事件を都合よく処置されることがなくなるからである。中立公正な第三者機関を創立維持するには予算もかかるが、巨額科学予算を大盤振る舞いしている現状では、そのほんの一部を使うに過ぎず、日本の将来の科学の発展の為には必要不可欠な予算と組織と考えます。
  2.  過度の被疑者に対する強圧的な調査や処分は不公正さを生じる上に、科学者の研究意欲を萎縮させてしまうので慎むべきである。過去の大きな過ちの例として、バルチモアやラボアジェのケースがあることを念頭に置くべきである。バルチモアのケースでは10年後に不正が無かったことが明らかになったが、その間に失ったバルチモアの研究者生命は人類と科学の大きな損失となった。告発者の単なる妬みによる行動であったことが後に判明したが、バッシングした大学やマスコミさらに告発者の行動は、歴史に残る愚行となった。該当組織は過度のヒステリックな行動に出やすいが、誤った判断をすべきではない。また、フランス革命で断頭台の露と消えた偉大な化学者ラボアジェの例もあります。ラボアジェの弟子のデュポンが米国で世界一の化学会社を築いたのも、フランスのこうした過度の行動に幻滅し米国へ移住したからである。過度の行き過ぎた処罰やバッシングは禁物であり、正当な判断と処罰が肝要である。その為にも是非とも公正中立な第三者調査機関の設立が必要と考えます。これは結果として国益となるものです。
  3.  不正や処分の国内統一の詳細な基準とマニュアルを設けるべきである。各大学や研究所間で相違のない詳細な基準とマニュアルを作製し、例え各研究機関が調査するとしてもこれを基に調査し処分することが肝要である。現在のガイドライン案は大ざっぱ過ぎて細かな基準や規定が制定されておらず、どうでも解釈できるようになっている。具体的に基準が示されているのは、「実験ノートが無い場合は不正と認める」とする例が記載されているが、これはたまたま東大の事例が直前にあったからであるが、その他の様々なケースに対応していない。もっと詳細に具体的な例も含めて不正の基準を整備し、その対応マニュアルを作成すべきである。悪質度の定義とその詳細な内容に応じた規定が必要である。処分に関しても、研究費申請の停止だけでなく、各研究機関の内規に従って懲戒処分をするとあるが、処分も規定すべきである。この基準に則る公正さを保つためには、各研究機関に任せて組織内で都合良く処置させておくのではなく、独立中立の第三者機関で調査し処分を決定すべきである。例えば、不正論文の疑惑でも、データや結果に影響を及ぼさない些細な工作を、全く存在しないデータを捏造した場合と同一に並べて、単に不正の一言で同一処分するのは公正とは言えないからであり、こうした判断を各大学や委員会によって異なる見解を出すのは適切ではない。事実、阪大や東大で起きた論文ねつ造事件の不正の内容と処分がまちまちであり、被疑者も告発者も研究機関も巨額予算を科学者に配分していることを知っている納税者も誰も納得できない。また、既にそれぞれの大学での処分のあり方に関して訴訟も起きており、こうした腰味な不公平な調査と処分は今の各組織に任せるやり方では問題が今後毎回起きてしまい将来に禍根を残すこととなる。今それを規定しておくべきであり、公正中立の第三者調査機関の設立が必要である。誰が不正の実行者なのかを明らかにし、その実行者に対して不正のレベルに応じて適切に処分すべきである。複数の著者がいる場合、その論文にどのように関与していたかも明らかにすべきである。悪質な不正をした研究者は科学界から追放されてしかるべきであるが、些細な加工をした者まで同一の処分はすべきでなく、研究者として再起できるチャンスを与えるべきである。アンケート調査によると3人に1人が過去に不正をした覚えがあると言う報告がある。これは驚きの数字であるが、軽度の不正まで目くじらたてて監視し調査する警察社会を作ってしまっては科学者の研究意欲を削いでしまう上に、告発が絶え間なく起きてしまう。上司や同僚を追放するための道具に使われ、公正な科学研究も科学社会そのものが破綻する。従って、様々な不正のレベルと悪質度を詳細に定義しそれに応じた処置方法を確立すべきである。
     監督責任者が不正を知らずに論文を書いてしまった場合には、その責任者はその論文に対してどう対処していたかに応じて処分を検討すべきであり、むしろ不正を見つける立場にある筈であり、単に不正を見抜けずに論文を発表したからとして、研究費申請停止や免職処分にすべきではない。上司(教授等)を粛正する為に悪用されることがあり得るからである。また、意図的な巧妙な不正は論文を準備している段階で共著者は見抜けないことは充分にあり得る。不正は別人が追試して始めて分かることであるが、全ての実験を別人が追試しながら論文を書くことは不可能であるから、不正を確実に防ぐことは今後も不可能に近いからである。
     匿名の告発は受付けないとあるが、これは公正性を失う可能性がある。研究機関としては、次々と不正を告発されては困るとの本音が漏れている。匿名でも具体的な内容が提示されていれば調査すべきであろう。匿名は認めないとなると逆に、妬みや恨みを持った研究者に事細かな陰湿なあら探しをさせるだけである。また、他の組織の研究者からの再現性がないとの指摘から不正の可能性を調査する道を閉ざしてはならない。悪意の告発などは既にネット社会では日常茶飯事に匿名掲示板で行われている。私も根拠の無い誹謗中傷を受けた経験がある。権威ある大学教授や研究者(理研も例外ではない)が実際に特定研究者(ライバルや敵対する人)を誹謗中傷する内容を書いている事は良く知られている。匿名の不正の告発を禁じる前に、そうした悪意のネットへの書き込みを禁じて、書き込みが明らかになった場合は懲戒処分にすべきである。これもネットが普及した現代では科学に対する反社会的行為であり、不正行為と認定すべきである。
  4.  不正の調査とその発表によって、その研究分野の進展を妨げてはならない。問題とされた論文の何処か不正なのか、何処は問題なく正しいのかを明らかにし、科学界に対して論文の内容に関して、きちんと説明すべきである。不正の有無や処分だけに目がいってしまうが、科学の本質を忘れてはならない。単に論文を取り消すだけでは、全てが否定されてしまい、科学界に戸惑いが生じ、科学の進展を遅らせてしまう。論文の訂正または取り消しの際に、どこがどのように間違っているのか、どこの部分は正しいのか、結論は正しいのかどうか等を説明する文章を、著者自ら(訂正や取り消しをする著者)が説明する形で付記すべきである。こうした指導を文部科学省は科学の発展の為に明記すべきである。単に不正を明らかにし処分するだけでは研究の進展が阻害されるだけだ。
  5.  不正が行われた理由や背景を調査し、その結果を公表することによって、今後の予防策とすべきであり、不正の温床を断ち切ることができる科学界を今後創っていくよう努力することが肝要である。処分を目的とした調査とすべきではなく、今後の予防の為の調査とすべきである。
  6.  被告発者あるいは告発者が調査結果に不服を申し立てる相手は、同じ調査委員会や調査機関であってはならない。不服申し立てが簡単に却下されてしまうからである。一方的な調査が行われた場合などは、異議申し立てが通じない。このためにも、始めから独立中立の第三者の調査機関で調査し処分決定がなされるべきであり、不服がある場合もそこに訴えることができる仕組みがあるべきである。各研究組織に調査を委ねるとしたら、その調査を監督する上部組織が必要であり、公正な調査と処分がなされていることを厳重に監督すべきであり、不服がある場合には、そうした組織に訴えることができる仕組みを作るべきである。そうでなければ、組織にとって、あるいは特定個人や偏った不公正な調査や処分が頻繁に下されることとなろう。文科省向けの処分や発表を行っていれば良いとする組織も出てくるし、権力者に取って都合の良い処理が行われるだろう。不服があっても受け付けてくれないとなると、訴訟を起こす以外に手段がなくなり、既に国内の事件でもほとんどのケースで訴訟が起きていることからも、公正な調査や処分が実際に行われていたのかどうか疑わしい。訴訟には経費と時間が必要であり、不服があっても泣き寝入りせざるを得ないケースも出てくる。こうした事態は絶対に避けるべきである。
     不服を後で申し立てるのではなく、被疑者(あるいは告発者)の弁明や反論をきちんと聞き公正な判断をしていれば、こうした不服申し立て自体がなくなる筈である。被疑者の説明責任は当然であるが一方的な判決が出た場合に、被疑者に十分な弁明の時間と機会を与えることをもっと明白に明記すべきである。結論を急ぐ必要はどこにも無い。何年かけても真実を明らかにし公正に処理すべきである。
     私たちの場合には弁明の機会は形式的にありましたが一切の主張が完全に無視され、組織の都合に合うように研究所の都合の悪い真実は隠し事実を歪曲して、私たちの主張は公表せずに悪質な不正だと一方的に発表された。このような調査や発表は組織の温存の為に個人の人権や名誉を毀損する法的にも誤った行為であり、今後二度とこのような事件が起きないように被疑者だけを処罰するガイドラインではなく、不公正な調査をした研究機関にも処分がある規定を設けたガイドラインを作成して頂きたい。
     調査委員の中に被疑者と対立する人材がいた場合には、被疑者が罷免できる権利を設けるべきである。同じ組織の調査委員会であっても内部抗争の対立する相手であっては公正な調査はできない。また外部の委員で組織された第三者機関の委員会だとしても同じ問題は生じる可能性は十分ありえる。諸外国では罷免できる権利をちゃんと設けてある。
     告発者の立場についても問題がある。調査した結果、不正がなかったと判断された場合に、告発者の氏名を公表し処分するとあるが、これは如何なものか。不正があるのではないかと告発すること自体は悪意がなくても行う権利があろう。不正があったかもしれないが悪質な不正でないとか、不正の可能性は否定できないがなかったとも断定できないケースだってあり得る。不正がなかったと断定されるケースにおいても、断定されなかった事イコール悪意の告発とは限らない。そこらへんは今のガイドラインの文言では二者択一となっているが、これでは告発する人が居なくなってしまい、公正性が失われる可能性がある。必ずしも罰則を受けるとの文言は削除し、悪意の告発と断定された場合にはそうした処分を受ける可能性があるとか、注意深く記載すべきである。
  7.  最後に、私ごととなりますが、私達は研究所が発表したような不正はしておりません。一昨年の誤解を与える研究所の一方的な発表によって、マスコミの報道では、「私自身と私と一緒に辞めさせられた同僚が、都合良くデータを改竄し不正な論文を発表した」とされておりますが、全く事実ではありません。また、「私達が不正を認めて辞職した」とも書かれておりますが、これも事実ではありません。このようなことを繰り返し新聞等で報道され大変遺憾に存じております。各報道機関や官公庁等各委員会は、反対取材もされず研究所の発表をそのまま真実と信じて、研究所に取って都合の良い真実ではない内容を報道したり検討したりしていることは、大変遺憾であり、今後の禍根となりかねません。研究所が不正行為の対応の正当な先駆者のような態度を取っておりますが、実態は「組織温存の為、予算獲得とその正当化の為、文科省向けのスタンドプレイ、組織内部の他の研究者への見せしめ、組織や特定個人に取って不都合な人材のスケープゴート」として行ったものである。研究所が今回発表した指針などは全ての規範となるような代物ではありません。被疑者の研究室を調査と称して閉鎖させ被疑者を出勤禁止処分とさせ、調査期間中に既に部下には転職を求め、始めから被疑者を追放することを目的に行われた茶番劇であった。証拠書類の押収は一日で終了する筈であり、出勤禁止は不公正な調査の温床である。本ガイドラインにも「被疑者の研究活動を全面的に禁止してはならない」と規定されているが、研究所は調査と称して出勤禁止処分にした時点で、全ての同僚や都下が組織の言いなりになってしまい、公正な調査もできなくなった。調査委員も公表していない調査は公正性に疑問が残る。研究所は調査委員の氏名を公表しておらず今後こうしたことのないように強く求める。こうした不公正な調査は禁止すべきであり、もっと明白にこうした盃公正な調査をした研究機間に対する罰則規定も作成すべきである(第三者機関が公正に調査する場合にはそうした問題は生じないが)。他にも、ここには具体的には記載しませんが、研究所が行ってきた(行っている)様々な行為全てが正しい訳ではないのに、研究所のやっていることはマスコミでも全てが素晴らしいことの様に宣伝されているが、巨大予算を探ってくることが目的となった研究所であり、研究費の為の研究は日本の将来の科学を間違った方向へ導くものであり、不祥事は特定の人をスケープゴートにして片づけ、巨大予算の為には不祥事も無かったこととして蓋をする行為も平然と組織拡大や組織温存の為に行っているのである。一流の研究機関だからやっていることが全て正しいとは限らない。著名な研究者がやっていることが全て正しいわせでもない。むしろ巨額予算を獲っているからこそ裏では様々な問題が生じているのである。それが科学の不正の温床にもなっているのである。公平な研究費の配分や公正な人事が科学の不正を防ぐ最も効果的な万策であることを周知すべきである。巨額予算を単にばらまけば科学が進展するのではない。研究費のための科学であってはならない。本末転倒である。むしろ研究費の不正使用を含めた様々な不正を誘導している部分があることを文科省も科学者も認識し、本来のあるべき真実の追究とその応用による人類社会への貢献という科学の本質に立ち戻ることが肝要ではないでしょうか。

注) 意見については、原則として提出されたものをそのまま記載していますが、特定の個人及び団体に関する箇所については、省略又は一般名詞に置き換えています。

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(科学技術・学術政策局政策課)