参考資料1 科学者の行動規範(暫定版)

平成18年4月11日
日本学術会議

 科学は、合理と実証を旨として営々と築かれる知識の体系であり、人類が共有するかけがえのない資産でもある。また、科学研究は、人類が未踏の領域に果敢に挑戦して新たな知識を生み出す行為といえる。

 一方、科学と科学研究は社会と共に、そして社会のためにある。したがって、科学の自由と科学者の主体的な判断に基づく研究活動は、社会からの信頼と負託を前提として、初めて社会的認知を得る。ここでいう「科学者」とは、所属する機関に関わらず、人文・社会科学から自然科学までを包含するすべての学術分野において、新たな知識を生み出す活動、あるいは科学的な知識の利活用に従事する研究者、専門職業者を意味する。

 このような知的活動を担う科学者は、学問の自由の下に、自らの専門的な判断により真理を探究するという特別の権利を享受するとともに、専門家として非専門家の負託に応える重大な責務を有する。特に、科学活動とその成果が広大で深遠な影響を人類に与える現代において、社会は科学者の倫理的な判断と行動に依存している。したがって、科学がその健全な発達・発展によって、より豊かな人間社会の実現に寄与するためには、科学者が社会に対する説明責任を果たし、科学と社会の健全な関係の構築と維持に自覚的に参画すると同時に、その行動を自ら厳正に律するための倫理規範を確立する必要がある。科学者の倫理は、社会が科学への理解を示し、対話を求めるための基本的枠組みでもある。

 これらの基本的認識の下に、日本学術会議は、国内外のすべての科学者が共有すべき、科学者の自律性に依拠する行動規範を起草した。これらの行動規範の遵守は、科学的知識の質を保障するとともに、科学者個人及び科学者コミュニティが社会から信頼と尊敬を得るためにも不可欠であることを付言する。

  1. (科学者の責任)科学者は、自ら生み出す専門知識や技術の質を担保する責任を有し、さらに自らの専門的知識、技術、経験を活かして、社会の安全と安寧、人類の健康と福祉、そして環境の保全に対する責任を有することを自覚する。
  2. (科学者の行動)科学者は、科学の自律性が社会からの信頼と負託の上に成り立つことを自覚し、常に正直、誠実に判断し、行動する。また、科学研究によって生み出される知の正確さや正当性を、科学的かつ客観的に示す最善の努力をすると共に、科学者コミュニティ、特に自らの専門領域におけるピアレビュー(相互評価・監査)に積極的に関与する。
  3. (自己の研鑽)科学者は自らの専門知識・能力・技芸の維持向上に努めると共に、科学技術と社会・自然環境の関係を広い視野から理解できるように弛まず努力し、常に最善の判断と姿勢を示す。
  4. (説明と公開)科学者は、自ら携わる研究の意義と役割を公開して積極的に説明し、それらが人間、社会、環境に及ぼし得る影響や起こり得る変化を推定評価し、その結果を中立性・客観性をもって公表すると共に、社会との建設的な対話を築くように努める。
  5. (研究活動)科学者は、自らの研究の立案・計画・申請・実施・報告などの過程において、本規範に基づいて誠実に行動し、研究・調査データの記録保存や厳正な取扱いを徹底し、自らねつ造、改ざん、盗用などの不正行為を行わないだけでなく、不正行為が起こらない研究環境の整備に努める。
  6. (法令の遵守)科学者は、研究の実施、研究費の使用等にあたっては、法令や関係規則を遵守する。
  7. (研究対象などの保護)科学者は、研究の対象(動物などを含む)や研究協力者に対しては法令や関係規則を遵守し、かつ福利に配慮し、これを保護する。
  8. (他者との適正な関係)科学者は、研究において権威を無批判に受け入れることを排し、他者の成果を建設的に批判すると同時に、他者の批判には謙虚に耳を傾け、真摯な態度で意見を交えると共に、他者の知的成果などの業績を正当に評価し、名誉や知的財産権を尊重する。
  9. (差別の排除)科学者は、科学者としての研究・教育・学会活動において、人種、性、地位、思想・宗教などによって個人を差別せず、公平に対応して、個人の自由と人格を尊重する。
  10. (利益相反の回避)科学者は、自らの行動において利益相反の有無に十分に注意を払い、そのような立場を可能な限り回避し、そうでない場合はこれを公表する。自らの研究成果の社会還元や専門知識に基づく見解の呈示においては、私益に対して公益を優先させる。
  11. (研究環境の確立)科学者は、責任ある研究を行うことのできる公正な環境の確立・維持も自らの重要な責務であることを自覚し、科学者コミュニティ及び自らの所属組織の研究環境の質的向上に関する取組に積極的に参加する。

(以上)

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