資料2 研究活動の不正行為への対応のガイドラインについて 研究活動の不正行為に関する特別委員会報告書(案)

第1部 研究活動の不正行為に関する基本的考え方

1 はじめに-検討の背景

(1) 21世紀初頭の現在、世界を見渡しても、環境、エネルギー、感染症等の疾病、貧困など様々な解決すべき問題がある。我が国では、少子高齢社会の下、人口減少が現実のものとなる中での持続的発展、安全・安心な生活、世界への貢献等が課題となっている。このような面で、科学技術に求められる役割は、従来にも増して増大している。

(2) さらに、「知の世紀」といわれる今世紀にあって、新たな知の創造・継承・活用によって社会を発展させ、また、ボーダーレス化した世界の中で競争力を維持発展させていくことが、我が国を初め、米国、欧州連合、韓国、BRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)などによる「知の大競争時代」の重要な課題となっている。

(3) このような状況にあって、科学技術創造立国を標榜する我が国では、平成8年度から17年度までの2期にわたる科学技術基本計画の下で、政府研究開発投資の増大、科学技術システム改革及び科学技術の戦略的重点化等が進み、一定の成果が出てきているところである。また、本年4月からは第3期の科学技術基本計画が開始され、厳しい財政事情の中、平成18年度から22年度までの計画期間中、総額25兆円の政府研究開発投資を確保することとされており、これを有効に活用し、着実な成果を得ることが求められる。

(3) このような中、我が国では昨今、科学研究において、データの捏造等の不正行為が相次いで指摘されるようになってきている。また、昨年、韓国でES細胞の研究に関して成果の捏造が明るみに出て、国際社会にも大きな衝撃を与えたことは記憶に新しいところである。

(4) 科学研究における不正行為は、事実を積み重ね、その上に新たな知を創造していく営みである科学を冒涜し、人々の科学への信頼を揺るがし、科学の発展を妨げるものであって、本来あってはならないものである。
 今日の科学研究がより広く、かつ深く複雑に、多様な分野で展開され、それによる知識の量・知見が飛躍的に増大していることからも、科学者が公正に研究を進めることが従来以上に重要になっている。
 また、厳しい財政事情にも関わらず、未来への先行投資として、国費による研究費支援が増加する我が国で、貴重な国費を効果的に活用することがより一層求められている。

(5) これらを受け、文部科学省においては、国費による研究費(特に文部科学省が所管する競争的資金)を活用した研究活動において不正行為(特に捏造、改ざん、盗用)が指摘されたときの対応体制等とこのような不正行為を行った者に対しての所要の措置を整備するとともに、同様のことを所管の資金配分機関に要請することとしている。また、大学・研究機関に対し、これらの不正行為が指摘されたときの対応体制や対応の方法を示し、自主的な取り組みを促すこととしている。

(6) このために、文部科学省の要請に応じて本特別委員会においては、研究活動の本質や研究成果の発表とは何かを明らかにし、研究活動における不正行為(以下単に「不正行為」という。)が起こる背景を考えた上で、不正行為に対する研究者や研究者コミュニティ、大学・研究機関の取り組みを促しつつ、国費による競争的資金を活用して研究を行っている研究者による不正行為への対応(告発等の受付から調査・事実確認、措置まで)について、文部科学省や資金配分機関、大学・研究機関が構築すべきシステム・ルールを検討し、これをガイドラインとして提言する。

2 不正行為に対する基本的考え方

1 研究活動の本質

(1)研究活動とは

 研究活動とは、先人達が行った研究の諸業績を踏まえた上で、観察や実験等による事実に基づき、その結果や自分自身の考察・発想・アイディアに基づく新たな知見を創造し、知の体系を構築していく行為である。研究活動は、一般的には研究の立案・計画・(経費支援申請)・実施・成果の取りまとめ・(経費支援者への報告)の各過程を経て行われる。

(2)科学研究の意義

 科学研究には、研究者の自由な発想等に基づくボトムアップ型研究と政策目的を達成するために明確な成果目標・目的を掲げて行うトップダウン型研究がある。
 前者の研究の中核である大学等を中心に行われている学術研究は、個々の研究者の自由な発想と知的好奇心・探究心に根ざした知的創造活動であり、優れた知的・文化的価値を有する。また、学術研究は人類共通の知的資産を築くものであり、その知的ストックは、人類の幸福、経済・社会の発展の源泉になるなど崇高な営みである。このような研究活動は次世代の価値を創造するという研究者の強い使命感に支えられている側面がある。
 後者の研究については、明確な政策目的のもとに行われることから、社会の期待に対応しやすく、成果がわかりやすい。また、その成果は直接的かつ比較的短期的に、直接経済や医療、安全などにつながる重要な活動である。
 これらの研究があいまって科学の発展が図られ、人類の幸福、経済・社会の発展を支えている。

2 研究成果の発表

 研究成果の発表とは、研究活動によって得られた成果を、客観的で検証可能なデータ・資料を提示しつつ、研究者コミュニティに向かって公開し、その内容について吟味・批判を受けることである。科学研究による人類共通の知的資産の蓄積・拡充や、それを基礎にした科学研究活動は、研究活動に対する研究者の誠実さを前提に、研究者間相互のチェックシステムに負っており、研究成果の発表は、多くは論文発表という形で行われる。

3 不正行為とは何か

 不正行為とは、上記1、2において、その本質ないし本来の趣旨を歪め、研究者コミュニティの正常な科学的コミュニケーションを妨げる行為に他ならず、研究者倫理に背馳する行為である。具体的には、得られたデータや結果の捏造、改ざん、及び他者の研究成果等の盗用に加え、同じ研究成果の重複発表、論文著作者が適正に公表されない不適切なオーサーシップなどが不正行為の代表例と考えることができる。こうした行為は、研究の立案・計画・(経費支援申請)・実施・成果の取りまとめ・(経費支援者への報告)の各過程においてなされる可能性がある。

4 不正行為に対する基本姿勢

(1)知の品質管理

 上記1から3を踏まえると、不正行為の問題は、知の生産活動である研究活動における「知の品質管理」の問題として捉えることができる。すなわち、まず第一に各研究者自身がその研究成果を、偽りをまじえることなく研究者コミュニティの前に提示し、その精査を受けて、人類の知的資産となりうるものとする責任を負っている。そして、研究者コミュニティ全体が、各研究者から公表された研究成果を厳正に吟味・評価することを通じて、人類共通の知的資産の蓄積過程に対して責任を負っているのである。

(2)不正行為に対する基本姿勢

 不正行為は、研究活動とその成果発表の本質に反するものであるという意味において、科学そのものに対する背信行為であり、また、人々の科学への信頼を揺るがし、科学の発展を妨げるものであることから、研究費の多寡や出所の如何を問わず絶対に許されない。また、不正行為は、研究者の科学者としての存在意義を自ら否定するものであり、自己破壊につながるものでもある。
 これらのことを個々の研究者はもとより、研究者コミュニティや大学・研究機関、研究費の配分機関は理解して、不正行為に対して厳しい姿勢で臨むべきである。

5 研究者、研究者コミュニティ等の自律

 不正行為に対する対応は、研究者の倫理と社会的責任の問題として、その防止とあわせ、まずは研究者自らの、あるいは研究者コミュニティ、大学・研究機関の自律に基づく自浄作用としてなされなければならない。
 このような自律・自浄作用の強化は、例えば、大学で言えば研究室・教室単位から学科・専攻、さらに学部・研究科などあらゆるレベルにおいて重要な課題として認識されなければならない。
 その際、若い研究者を育てる指導者自身が、この自律ということを理解し、若手研究者や学生にきちんと教育していくことが重要であり、このこと自体が指導者自身の自律でもある。

3 不正行為が起こる背景

 不正行為が昨今我が国で見られるようになってきていると述べたが、なぜ不正行為が起きるのか、その背景を考えておくことは、研究現場等への警鐘を鳴らす意味でも必要と思われる。研究現場を取り巻く現状と研究組織・研究者の問題点の2つの面から見て、以下のようなことが考えられる。

1 研究現場を取り巻く現状

1 研究現場を取り巻く現状を見ると、まず、21世紀の世界的な知の大競争時代にあって、先端的な分野を中心に、研究成果を少しでも早く世に出すという先陣争いが強まっている。これには研究者としての使命感、意欲や名誉の他に、研究評価や、各研究機関・研究者等の特許など知的財産戦略への取り組みなど、まさに現在の研究現場を取り巻く状況を反映していると考えられる。

2 例えば、第1期、第2期の科学技術基本計画のもと、競争的資金が飛躍的に増加し、多くの優れた研究、意欲的な研究に支援が広がり、研究現場に競争的環境と競争的意識が定着し始め、研究水準が上がった。その反面、特に第2期科学技術基本計画で重点4分野とされたライフサイエンスなどの研究分野については、多額の研究資金が配分されると同時に、それに見合う成果を求められ、また、先端的な研究を続けていくには、他の研究者との競争に勝ち、競争的な研究費を獲得し続けなければならないという圧力が一層強まっている。
 このような中で、各研究分野において、多額の研究費が獲得できる研究が優れた研究と評価されやすく、また、成果が目立つ研究でなければ、研究費が獲得できないという傾向が増大し、研究費獲得自体がいわば一つの評価指標と化して、競争の激化と性急な成果主義を煽る結果となっていることが指摘されている。

3 さらに、研究者の任期付任用の増加等により研究者の流動性が高まっており、ポスト獲得を目指して、若い研究者が一層研鑽を積み、また、多様な人材が研究組織に入ること等により、研究組織が活性化される効果が見られる。しかしまさにそのことに伴い、ポスト獲得競争が激化し、特に若手研究者にとっては任期付きでないポストを早く得るために、優れた研究成果を早く出す必要性に迫られる状況が醸し出されてきており、それが極端な場合、不正行為につながることもありうると考えられる。

2 研究組織・研究者の問題点

1 他方、不正行為が起きる背景として、研究組織・研究者側の問題点もいくつか考えられる。例えば、2 1(2)で研究者の使命感に言及したが、根本的な問題として、その研究者の研究に対する使命感が薄れてきているのではないかという指摘がしばしばなされている。

2 研究者は使命感を基礎に、研究活動の本質を理解し、それに基づく作法や研究者倫理を身に付けていることが当然の前提とされているが、これらがどういうものであるかということについて、研究者を目指す学生や若手研究者が十分教育を受けていない状況がある。また、そのことについて教えるべき指導者の中には、その責務を十分に自覚していない者が少なからずあるように見受けられる。
 さらに、指導者の中には、成果至上主義に傾き、研究者倫理や研究のプロセスを十分に理解していない者が存在するという深刻な指摘もなされている。
 研究プロセスについて言えば、実験等で出たデータの処理や論文作成のスピードが従来よりかなり早まっていることもあり、研究グループ内で生データを見ながら議論をして説を組み立てていくという、研究を進めていく上で通常行われる過程を踏むことを、おろそかにする意識が一部の研究者にある。

3 不正行為が起きる背景には、研究組織としての問題として、自浄作用が働きにくいということも指摘できる。この原因として、競争的環境激化の結果、秘密主義的傾向が蔓延し、組織の中で研究活動に関して議論が活発に行われにくくなっていること、また、まさにその反面、そうした活性を失った組織にありがちな悪しき仲間意識・組織防衛心理が事なかれ主義に拍車をかけることも考えられる。このような環境の下では、正常な自浄作用か、相手を陥れる行為かが容易に判断しにくい場合、重症に陥るまで放置される傾向がある。
 加えて、自浄作用が働きにくい研究組織の中では、些細なことではあっても見逃してはならない、研究活動の本質や研究活動・研究成果の発表の作法に抵触するような行為が、見逃されがちであり、それが重なって、重大な不正行為につながることがあるのではないかと思われる。

4 (1)の2で指摘した研究費獲得競争と性急な成果主義が、研究組織全体や管理者の意識を歪める結果、自浄作用が作用しにくくしている、という面もあるのではなかろうか。各組織での自己点検が必要である。

5 研究費獲得について、個別の問題として見られるのが、若くして主任研究者になった場合の問題である。このような場合、主任研究者になった者は、長期間研究費を獲得し続けることが必要になり、常に目覚しい研究成果を出すことに追われ、焦りが生じたり、研究室のスタッフ等への圧力が強くなることがあり、このことが不正行為につながりかねない可能性をはらんでいる。

6 多額の国費が充当される研究開発プロジェクトや競争的資金による研究を中心に、研究評価が行われるようになっている。研究者としては、研究評価により、研究費やポストが左右されることにもなる。また、研究組織としても、どの程度研究成果が上がっているか、有用な研究なのか、個々の研究評価の積み重ねが組織全体の評価につながり、研究成果について数値目標を設定することもある。このような研究評価の進展に伴い、雑誌の影響度を測る指標であるはずのインパクトファクターが安易に研究評価の指標として利用される場合があるため、評価者や研究者が著名な科学雑誌に論文が掲載されることを過度に重要視する傾向が見られ、それが不正行為に走る背景になっているとも考えられる。

4 不正行為に対する取り組み

1 日本学術会議、大学・研究機関、学協会の不正行為への取り組み

(1)日本学術会議の取り組み

 日本学術会議は、科学者の代表機関としての立場から、研究者倫理全体を見据え、科学者の自律のための倫理規範の確立を目指し、平成18年秋を目標に全科学者が共有すべき行動規範の策定に取り組んでいる。また、教育・研究機関、学協会、研究資金提供機関に対し、倫理綱領や研究活動を支える行動規範等の策定、倫理教育の実施、捏造、改ざん、盗用などの不正行為全般に厳正に対処する制度の導入などについて自主的に取り組むよう要請することとしている。

(2)大学・研究機関、学協会の取り組み

1 行動規範や不正行為への対応規程等の整備
 日本学術会議が平成16年に行った学会に対する調査によると、倫理綱領を制定済みの学会は有効回答838のうち97学会であり、制定も検討もしていない学会は617学会であった。また、不正行為の疑義が発生した場合に対処する組織や手続を決めている学会は148学会、決めていない学会が689学会となっており(以上、平成17年7月日本学術会議学術と社会常置委員会報告「科学におけるミスコンダクトの現状と対策」より)、これらからは、研究者の不正行為の防止策や疑義があった場合の対応策について取り組みが進んでいないことがうかがわれる。
 また、大学・研究機関においては、不正行為の疑義に対応する規程を定めている例が、東京大学、理化学研究所、産業技術総合研究所など見られるが、ごく一部に限られている。
 このような取り組みは、研究者や大学・研究機関、研究者コミュニティの自律性や自浄力を高めるために有効・適切なものであり、大学・研究機関や学協会において、研究者の行動規範や、不正行為の疑惑が指摘されたときの調査手続や方法などに関する規程等を整備することが求められる。

2 防止のための取り組み
 ア)研究活動に関して守るべき作法の徹底
 大学・研究機関、学協会においては、実験・観察ノートの作成・保管や実験試料・試薬の保存等、研究活動に関して守るべき作法について、研究者や学生への徹底を図ることが求められる。これは不正行為の防止のためであるとともに、研究者の自己破壊を防止するためでもあり、自らの研究に不正行為がないことを説明し、不正の疑義から自らを守るためでもある。

 イ)倫理教育の実施
 不正行為が指摘されたときの対応のルールづくりと同時に、不正行為が起こらないようにするため、大学・研究機関や学協会においては、研究者倫理に関する教育や啓発等、研究者倫理の向上のための取り組みが求められる。例えば、大学院において、研究活動の本質や研究者倫理についての教育プログラムを導入することが考えられる。
 このような自律性を高める取り組みについては、特に学生や若手研究者を指導する立場の研究者が自ら積極的に取り組むべきことは当然であるが、まさにそのためにも、このような指導的立場の研究者に対して、研究者倫理等の教育を行い、認識を高めることが不可欠であり、大学・研究機関が組織として取り組むことが求められる。

2 文部科学省における競争的資金等に係る不正行為への対応

(1)文部科学省の取り組みの必要性

 文部科学省においては、国費を研究費として投入している立場から、適正な研究費の活用に意を用いる必要がある。不正行為はそれ自体として国費投入の趣旨を損なうばかりか、他の研究にも悪影響を及ぼすものである。このことから、文部科学省においては、研究費の配分の観点を中心に不正行為防止も含め、不正行為への厳正な対応に取り組んでいくことが必要である。

(2)競争的資金等に係る不正行為への対応

1 不正行為は研究費の出所や金額の多寡の如何に関係なく許されないことから考えると、文部科学省としても大学・研究機関等と同様、研究費の如何を問わず重大な関心を持つべき事柄である。

2 しかし、国費による研究資金の効率的な活用の観点や不正行為が行われた場合の行政的な措置の観点も考えると、行政としての対応の対象を考えるに当たっては以下のことに留意するべきである。
 ア)競争的資金による研究の場合は、研究費と研究活動及び研究成果との対応関係が明確であり、不正行為についても、研究費との対応関係が明確であるが、基盤的経費による研究についてはそのような対応関係が不明確である。
 イ)基盤的経費は国費が充当されていても、特定の研究ないし研究者ではなく、機関を対象に措置されるものであり、その管理は大学・研究機関に委ねられている。基盤的経費による所属研究者の不正行為については、機関が組織を律する責任において対処すべき、いわば内部管理の範囲に属する問題であり、文部科学省が個別に対応すべき事柄ではない。
 ウ)競争的研究資金による研究上の不正行為についてはアに述べたように、資金配分機関は当該研究活動に対して、その配分資金に関する対応が可能であり、また厳正な措置が必要とされるが、これまではそれに関するルールがないため、それを新たに構築することが喫緊の課題である。

3 本特別委員会は、以上のような観点に立って、特定の課題に対して配分する競争的資金等に係る研究活動の不正行為について対応することとし、対応措置に関するガイドラインの内容を検討し、本報告書の第2部としてその結果を記した。これに基づき、早急に文部科学省において規程等の整備を行うとともに、資金配分機関や大学・研究機関にこのガイドラインを提示し、各機関における不正行為への対応のルールづくりを促進することを求めるものである。なお、大学・研究機関におけるルールづくりは、競争的資金に係る不正行為に限定するものではなく、研究費の如何を問わず対象にすべきことはいうまでもない。

4 不正行為への対応の取り組みが厳正なものでなければならないことは当然であるが、学問の自由を侵すものとなってはならないことはもとより、研究を萎縮させるものとなってはならず、むしろ不正への対応が研究を活性化させるものであるという本来の趣旨を忘れてはならない。

5 なお、府省直轄で、特定の研究課題について、選定した研究機関に研究プロジェクトを委託するトップダウン型研究(いわゆるプロジェクト型研究)については、競争的資金によって行われてはいないが、研究費と研究活動には一定の対応関係があり、求められる成果の獲得が不正行為により妨げられる場合もあることから、競争的資金を活用した不正行為への対応の制度化を踏まえ、これに準じた制度を導入することが望まれる。

3 他省庁所管等の機関との共通性

 本報告書第1部で示す考え方は、文部科学省所管の機関のみならず、研究活動を行う他省庁・地方公共団体所管の機関や企業及びその所属する研究者についても、原則的に同様のことが該当するはずである。これらの機関においても、ガイドラインを参考に適切な取り組みが行われることが望まれる。

第2部 競争的資金に係る研究活動における不正行為対応ガイドライン

1 本ガイドラインの目的

 本ガイドラインは、競争的資金に係る研究活動の不正行為に、文部科学省及び文部科学省所管の独立行政法人である資金配分機関や大学等の研究機関が適切に対応するため、それぞれの機関が整備すべき事項等について指針を示すものである。各機関においては、本ガイドラインに沿って、研究活動の不正行為に対応する適切な仕組みを整えることが求められる。また、資金配分機関においては、本ガイドラインを実効あるものとするため、競争的資金の公募要領や委託契約書等に本ガイドラインの内容を反映させることが求められる。なお、本ガイドラインは、研究活動の不正行為について、各機関のより一層充実した取り組みを妨げるものではない。特に文部科学省所管の競争的資金を活用していない研究における不正行為についても、各研究機関において、本ガイドラインを踏まえた適切な仕組みを整えることを強く期待する。

2 研究活動の不正行為等の定義

1 対象となる不正行為

 本ガイドラインの対象となる研究活動は、文部科学省及び研究費を配分する文部科学省所管の独立行政法人の競争的資金を活用した研究活動であり、本ガイドラインの対象となる不正行為は、論文作成及び結果報告におけるデータ、情報及び調査結果等の捏造と改ざん、及び盗用に限られる。なお、故意でない誤りは不正行為から除外される。

(1)捏造

 データ、研究結果等を偽造すること、又はこれら偽造したものを記録したり報告または論文等に利用したりすること。

(2)改ざん

 研究資料・機器・過程を変更する操作を行うこと、又は変更・変造したデータ・結果等を用いて研究の報告、論文等を作成・発表すること。

(3)盗用

 他の研究者のアイディア、研究過程、研究結果、論文又は用語を、当該研究者の了解もしくは適切な表示なく流用すること。

2 対象となる競争的資金

 本ガイドラインにおける「競争的資金」とは、資金配分主体が、広く研究開発課題等を募り、提案された課題の中から、専門家を含む複数の者による、科学的・技術的な観点を中心とした評価に基づいて実施すべき課題を採択し、研究者等に配分する研究開発資金であって、当面以下に掲げるものとする。これに変更があった場合にはその都度明示されるものとする。

1 文部科学省において競争的研究資金の範疇に数え上げられているもの(平成18年度)、すなわち、科学研究費補助金、科学技術振興調整費、21世紀COEプログラム、キーテクノロジー研究開発の推進、地球観測システム構築推進プラン、原子力システム研究開発事業、戦略的創造研究推進事業、先端計測分析技術・機器開発事業、革新技術開発研究事業、独創的シーズ展開事業、産学共同シーズイノベーション化事業、地域結集型研究開発型プログラム等、重点地域研究開発推進プログラムの13制度。

2 その他、課題採択過程において競争的な要素を有するもの、すなわち私立大学学術研究高度化推進事業。

3 対象となる研究者及び研究機関
 本ガイドラインの対象となる研究者は、対象となる競争的資金の配分を受けて研究活動を行っている研究者である。また、本ガイドラインの対象となる研究機関は、それらの研究者が所属する機関、又は対象となる競争的資金を受けている機関であり、国内に所在する大学、短期大学、高等専門学校、大学共同利用機関、国及び地方公共団体の直轄研究機関、独立行政法人、財団法人、社団法人、企業等が該当し、これらを本ガイドラインでは単に「研究機関」という。

4 対象となる資金配分機関
 本ガイドラインの対象となる資金配分機関は文部科学省、独立行政法人科学技術振興機構及び独立行政法人日本学術振興会であり、これらを本ガイドラインでは、単に「資金配分機関」という。

3 告発等の受付(研究機関、資金配分機関)

1 告発等の受付体制

1 研究機関及び資金配分機関(以下3及び4において「研究機関等」という。)は、研究活動の不正行為に関する告発等の窓口(以下「受付窓口」という。)を各々設置する。なお、このことは必ずしも新たに部署を設けることを意味しない。

2 研究機関等は、設置する受付窓口について、その名称、場所、連絡先、受付の方法などを定め、機関内外に周知する。

3 研究機関等は、告発者が告発の方法を書面、電話、FAX、電子メール、面談など自由に選択できるように受付窓口の体制を整える。

4 研究機関等は、告発等受付や調査・事実確認(以下単に「調査」という。)担当の教職員が、自らが関与する事案に関与しないよう取り計らう。

5 告発等から調査に至る体制について、研究機関等はその責任者として例えば理事、副学長等適切な地位にある者を指定し、必要な組織を構築して企画・整備・運営する。また、これらに係る内部規程を定め、公表する。

2 告発等の取扱い

1 告発は、受付窓口に対する書面、電話、FAX、電子メール、面談などを通じて、機関に直接行われるべきものとする。

2 原則的に告発は、顕名により行われ、不正行為を行ったとする研究者等・グループ、不正行為の内容等が明示されて、不正行為の内容がわかり、かつ不正とする科学的合理的理由が示されているもののみを受付ける。ただし、告発された研究の公表から告発されるまでの期間が、生データ、実験・観察ノート、実験試料・試薬など研究成果の事後の検証を可能とするものについての各研究分野の特性に応じた合理的な保存期間を超えるときは、当該告発を受付けない。

3 2に関わらず、匿名による告発があった場合、研究機関等は告発の内容に応じ、顕名の告発があった場合に準じた取扱いをすることができる。

4 告発があった研究機関等が調査を行う機関に該当しないときは、4 1により該当する研究機関等に当該告発を回付する。回付された研究機関等は当該機関に告発があったものとして当該告発を取り扱う。また、4 1により、告発があった研究機関等に加え、他にも調査を行う研究機関等が想定される場合は、告発を受けた研究機関等は該当する機関に当該告発について通知する。

5 書面による告発など、受付窓口が受付けたことが告発者にわからない方法での告発があった場合は、研究機関等は告発者(3の場合の告発者を除く。ただし、調査結果が出る前に告発者の氏名が判明した後は顕名による告発者として取り扱う。以下同じ)に受付けたことを通知する。

6 報道により不正行為が指摘された場合は、不正行為を指摘された者が所属する機関に3の場合の告発があった場合に準じて取扱うものとする。

7 告発までに至らない段階の相談については、相談を受けた機関はその内容に応じ、告発に準じてその内容を確認・精査し、相当の理由があると認めた場合は、相談者に対して告発の意思があるか否か確認するものとする。これに対して告発の意思表示がなされない場合にも、研究機関の判断で当該案件の調査を開始することができる。

3 告発者・被告発者の取扱い

1 告発を受付ける場合、個室で面談したり、電話や電子メールなどを窓口の担当職員以外は見聞できないようにするなど、告発内容や告発者の秘密を守るよう取り計らう。

2 研究機関等は、窓口に寄せられた告発の告発者、被告発者、告発内容及び調査内容について、調査結果の公表まで調査関係者以外に漏出しないよう、告発者を含め関係者の秘密保持を徹底する。

3 調査事案が洩出した場合、研究機関等は告発者及び被告発者の了解を得て、調査中に関わらず調査事案について公に説明することができる。ただし、告発者又は被告発者の責により漏出した場合は、当該人の了解は不要とする。

4 研究機関等は、被告発者を陥れるためなど悪意に基づく告発を防止するため、告発は原則顕名によるもののみ受付けることや、告発には不正とする科学的合理的理由を示すことが必要であること、告発者に調査に協力を求める場合があること、調査の結果、悪意に基づく告発であったことが判明した場合は、氏名を公表すること、懲戒処分や刑事告発がありうることなどを機関内外に周知する。

5 研究機関等は、単に告発したことを理由に告発者に対し、解雇や配置転換、懲戒処分、降格、減給等を行わない。

6 研究機関等は、相当な理由なしに、単に告発がなされたことのみをもって、被告発者の全面的な研究活動を禁止しない。また、同様に解雇や配置転換、懲戒処分、降格、減給等を行わない。

4 告発等された事案の調査

1 調査を行う機関

1 研究機関に所属する(どの研究機関にも所属していないが専ら研究機関の施設・設備を使用して研究する場合を含む。以下同じ。)研究者に係る研究活動の不正行為の告発があった場合、原則として、当該研究機関が告発された事案の調査を行う。

2 被告発者が複数の研究機関に所属する場合、原則として被告発者が告発された事案に係る研究を主に行っていた研究機関を中心に、所属する複数の機関が合同で調査を行うものとする。ただし、中心となる機関や調査に参加する機関については、関係機関間において、事案の内容等を考慮して別の定めをすることができる。

3 被告発者が所属する研究機関と異なる研究機関で行った研究に係る告発があった場合、所属する研究機関と研究が行われた研究機関とが合同で、告発された事案の調査を行う。

4 被告発者が、告発された事案に係る研究を行っていた際に所属していた研究機関を既に離職している場合、現に所属する研究機関が、離職した研究機関と合同で、告発された事案の調査を行う。被告発者が離職後、どの研究機関にも所属していないときは、告発された事案に係る研究を行っていた際に所属していた研究機関が、告発された事案の調査を行う。

5 上記1から4によって、告発された事案の調査を行うこととなった研究機関は、被告発者が当該研究機関に現に所属しているかどうかに関わらず、誠実に調査を行わなければならない。

6 被告発者が、調査開始のとき及び告発された研究を行っていたときの双方の時点でいかなる研究機関にも所属していなかった場合や、調査を行うべき研究機関による調査の実施が特に著しく困難であると、告発に係る研究に対する研究費を配分した資金配分機関が認める場合は、当該研究機関の同意を得て、当該資金配分機関が調査を行う。この場合、当該研究機関は当該資金配分機関から協力を求められたときは、誠実に協力しなければならない。

7 研究機関は、調査を他の研究機関や学協会等の研究者コミュニティに、また、資金配分機関は告発された研究に関連がある研究機関や学協会等の研究者コミュニティに委託することができる。このとき、3 3 1から3及び4は委託された機関に準用されるものとする。

2 告発等に対する調査体制・方法

(1)予備調査

1 4 1によって調査を行う研究機関等(以下、「調査機関」という。)は、告発を受付けた後速やかに、告発された行為が行われた可能性、告発の際示された科学的合理的理由が告発された行為とどれだけ論理性があるかなど内部的に予備調査を行う。

2 調査機関は、予備調査の結果、告発がなされた事案が本格的な調査をすべきものと判断した場合、本調査を行う。調査機関は告発を受け付けた後、例えば概ね30日以内に本調査を行うか否か決定するものとする。本調査を行う場合、決定後相当の期間(例えば概ね30日)内に本調査が開始されるべきものとする。

(2)本調査

1 通知・報告
 ア)本調査を行うことを決定した場合、調査機関は、告発者及び被告発者に対し、本調査を行うことを通知し、調査への協力を求める。告発された事案の調査に当たっては、告発者が了承したときを除き、調査関係者以外の者や被告発者に告発者が特定されないよう配慮する。

 イ)調査機関が研究機関であるときは、研究機関は当該事案に係る研究に配分された競争的資金の配分機関に本調査を行う旨通知する。

2 調査体制
 ア)調査機関は、本調査に当たっては、当該研究分野の研究者であって当該調査機関に属さない者を含む調査委員会を設置する。この調査委員は告発者及び被告発者と直接の利害関係(例えば、不正行為を指摘された研究が論文のとおりの成果を得ることにより特許や技術移転等に利害があるなど)を有しない者でなければならない。

 イ)調査機関は、被告発者の求めがあった場合、調査委員の氏名や所属を被告発者に示すものとする。

 ウ)調査委員会の調査機関内での位置づけについては、調査機関において定める。

3 調査方法
 ア)本調査は、指摘された当該研究に係る論文や実験・観察ノート、生データ等の各種資料の精査や、関係者のヒアリング、再実験の要請などにより行われる。この際、被告発者の弁明の聴取が行われなければならない。

 イ)被告発者が調査委員会から再実験などにより再現性を示すことを求められた場合は、それに要する期間及び機会(機器、経費等を含む)が調査機関により保障されるものとする。

4 調査の対象となる研究
 調査は告発等に係る研究が対象となるが、調査委員会の判断により調査に関連した被告発者の過去の研究も対象とすることができる。

5 証拠の保全措置
 調査機関は本調査に当たって、告発等に係る研究に関して、証拠となるような資料等を保全する措置をとる。この場合、告発等に係る研究が行われた研究機関が調査機関となっていないときは、当該研究機関は調査機関の要請に応じ、告発等に係る研究に関して、証拠となるような資料等を保全する措置をとる。これらの措置に影響しない範囲内であれば、被告発者の研究活動を制限しない。

6 調査の中間報告
 調査機関が研究機関であるときは、告発等に係る研究に対する資金を配分した機関の求めに応じ、調査が終了しない間であっても、調査の中間報告を当該資金配分機関に提出するものとする。

7 調査における研究または技術上の情報の保護
 調査に当たっては、調査対象における公表前のデータ、論文等の研究または技術上秘密とすべき情報が、告発者への情報提供も含め、調査の遂行上必要な範囲外に漏洩することのないよう十分配慮する。

3 認定

(1)認定

1 調査委員会は本調査の開始後、相当の期間(例えば概ね150日)内に調査した内容をまとめ、不正行為が行われたか否か、不正行為と認定された場合はその内容、不正行為に関与した者とその関与の度合、不正行為と認定された研究に係る論文等の各著者の当該論文等及び当該研究における役割を認定する。

2 不正行為が行われなかったと認定される場合、併せて告発が悪意に基づいたものであったか否かについても認定する。

3 1又は2について認定を終了したときは、調査委員会はただちにその設置者たる調査機関に報告する。

(2)不正行為の疑義への説明責任

1 不正行為との告発等を受けた調査委員会の調査において、被告発者が告発内容を否認する場合には、研究が科学的に適正な方法と手続に則って行われたこと、論文等もそれに基づいて適切な表現で書かれたものであることを、科学的根拠を示して説明する責任を負う。

2 1の説明責任の程度は研究分野の特性に応じ、調査委員会の判断にゆだねられるが、被告発者が生データや実験・観察ノート、実験試料・試薬の不存在など、本来存在するべき基本的な要素の不足により証拠を示せない場合は不正行為とみなされる。ただし、被告発者が善良な管理者の注意義務を履行していたにもかかわらず、その責によらない理由(例えば災害など)により、上記の基本的な要素を十分に示すことができなくなった場合はこの限りではない。また、生データ、実験・観察ノート、実験試料・試薬などの不存在が、各研究分野の特性に応じた合理的な保存期間を超えることによるものである場合についても同様とする。

(3)不正行為と認定される場合

 以下の場合は不正行為と認定される。この他の場合においても、不正行為か否かについては、事例に応じ、調査委員会において適切に判断する。なお、このとき、不正行為と故意でない誤りとを峻別することが必要である。

1 被告発者等が不正行為を認めない場合
 ア)実験・観察等のデータと論文等に示されたデータに科学的に説明できない相違がある場合。

 イ)不正と指摘されている論文等に科学的に説明できない部分があり、被告発者が当該部分の正しさについて科学的な証明ができない場合。

 ウ)被告発者が生データや実験・観察ノート、実験試料・試薬の不存在など、本来存在するべき基本的な要素の不足により証拠を示せない場合(上記(2)2)

2 被告発者等が不正行為を認める場合
 ア)被告発者が不正行為を自ら認める場合。

 イ)実験・観察等を担当し、データを収集・整理した者が不正行為を自ら認める場合。

 ただし、ア、イいずれの場合も、自認以外に、不正行為と認定するに足る科学的根拠が求められる。

(4)調査結果の通知及び報告

1 調査機関は、調査結果(認定を含む。以下同じ)を速やかに告発者及び被告発者(被告発者以外で不正行為に関与したと認定された者を含む。以下4において同じ。)に通知する。

2 調査機関が研究機関であるときは、当該研究機関は、1に加えて当該事案に係る研究に対する資金を配分した機関に通知する。当該資金配分機関が文部科学省でないときは、当該資金配分機関は当該調査結果を文部科学省に報告する。

3 文部科学省以外の資金配分機関が調査したときは、当該資金配分機関は文部科学省に報告する。

4 悪意に基づく告発との認定があった場合、調査機関は告発者の所属機関にも通知する。

(5)不服申立て

1 不正行為と認定された被告発者及び不正行為はなかった場合に悪意に基づく告発と認定された告発者(被告発者の不服申立ての審査により悪意に基づく告発と認定された告発者を含む)は、あらかじめ調査機関が定めた期間内に1回に限り、調査委員会に不服申立てをすることができる。ただし、悪意に基づく告発と認定された告発者はその認定についてのみ不服申立てができる。

2 不服申し立ての審査は調査委員会が行う。ただし、不服申立ての趣旨が、調査委員会の構成等、その公正性に関わるものである場合には、調査機関の判断により、調査委員会に代えて、他の者に審査させることができる。

3 不正行為があったと認定された場合に係る被告発者による不服申立てについて、調査委員会(2但書きの場合は、調査委員会に代わる者)は、不服申立ての趣旨、理由等を勘案し、当該事案の再調査を行うか否かを速やかに決定する。当該事案の再調査を行うまでもなく、不服申立てを却下すべきものと決定した場合には、ただちに被告発者にその旨通知する。
 再調査を行う決定を行った場合には、被告発者に対し、先の調査結果を覆すに足る資料の提出等、当該事案の速やかな解決に向けて、再調査に協力することを求める。その協力が得られない場合には、再調査を行わず、審査を打ち切ることができる。その場合にはただちに被告発者にその旨通知する。

4 調査機関は、被告発者から不正行為の認定に係る不服申立てがあったときは、告発者に通知する。研究機関が調査するときは、加えて当該事案に係る研究に対する資金を配分した機関に通知する。不服申立ての却下及び再調査開始の決定をしたときも同様とする。

5 調査委員会が再調査を開始した場合は、相当の期間(例えば概ね50日)内に、先の調査結果を覆すか否かを決定し、その結果を被告発者及び告発者に通知する。調査機関が研究機関であるときは、加えて当該事案に係る研究に対する資金を配分した機関に通知する。当該資金配分機関が文部科学省でないときは、当該資金配分機関は文部科学省に当該審査結果を報告する。
 文部科学省以外の資金配分機関が調査をするときは、加えて文部科学省に報告する。

6 悪意に基づく告発と認定された告発者から不服申立てがあった場合、調査機関は、告発者が所属する機関及び被告発者に通知する。調査機関が研究機関であるときは、加えて当該事案に係る研究に対する資金を配分した機関に通知する。

7 6の不服申立てについては、調査委員会(2但書きの場合は、調査委員会に代わる者)は相当の期間(例えば概ね30日)内に再調査を行うものとする。調査機関は、この審査の結果を告発者、告発者が所属する機関及び被告発者に通知する。
 調査機関が研究機関であるときは、加えて当該事案に係る研究に対する資金を配分した機関に通知する。当該資金配分機関が文部科学省でないときは、当該資金配分機関は当該審査結果を文部科学省に報告する。
 文部科学省以外の資金配分機関が調査するときは、加えて文部科学省に報告する。

(6)調査資料の提出

 資金配分機関は、調査機関に対して事案の審査が継続中であっても、当該事案に係る資料の提出または閲覧を求めることができる。調査機関は、調査に支障がある等、正当な事由がある場合には、これを拒むことができる。資金配分機関は、提出された資料について、下記5及び6のために使用する他に使用してはならない。

(7)調査結果の公表

1 調査機関は、不正行為が行われたとの認定を行った場合は、速やかに調査結果を公表する。公表する内容には、少なくとも不正行為に関与した者の氏名・所属、不正行為の内容、調査機関が公表時までに行った措置の内容に加え、調査委員の氏名・所属、調査の方法・手順等を含むものとする。

2 調査機関は、不正行為が行われなかったとの認定を行った場合は、原則として調査結果を公表しない。ただし、公表までに調査事案が外部に洩出していた場合及び論文等に故意によるものでない誤りがあった場合は、調査結果を公表する。公表する場合、その内容には、不正行為は行われなかったこと(論文等に故意によるものでない誤りがあった場合はそのことも含む。)、被告発者の氏名・所属に加え、調査委員の氏名・所属、調査の方法・手順等が含まれる。悪意による告発と認定されたときは、告発者の氏名・所属を併せて公表する。

5 告発者及び被告発者に対する措置

1 調査中における一時的措置

(1)研究機関

 被告発者が所属する研究機関は、本調査を行うことが決まった後、調査委員会の調査結果の報告を受けるまでの間、告発された研究に係る研究費の支出を停止することができる。

(2)資金配分機関

1 4 2(2)6による中間報告を受けた資金配分機関は、本調査の対象となっている被告発者に対し、調査機関からの調査結果の通知を受けるまでの間、当該事案に係る研究費の使用停止を命ずることができる。

2 4 2(2)6による中間報告を受けた資金配分機関は、本調査の対象となっている被告発者に対し、調査機関から調査結果の通知を受けるまで、被告発者に交付決定した当該研究に係る研究費の交付停止(既に一部交付している場合の未交付分の交付停止を含む)や、既に別に被告発者から申請されている競争的資金について、採択の決定、あるいは採択決定後の研究費の交付を保留(一部保留を含む。)することができる。

2 認定後の措置

(1)不正行為が行われたと認定された場合

1 不正行為が行われたとの認定があった場合、不正行為に係る研究に資金を配分した機関及び不正行為への関与が認定された者及び関与は認定されていないが、不正行為が認定された論文等の主たる著者(以下「被認定者等」という。)が所属する研究機関は、当該被認定者等に対し、ただちに当該競争的資金の支出の中止を命ずる。

2 研究機関は、所属する被認定者等に対し、内部規程に基づき適切な処置をとるものとする。

(2)不正行為は行われなかったと認定された場合

1 不正行為は行われなかったと認定された場合、告発された研究に係る資金を配分した機関及び被告発者が所属する研究機関は、本調査に際してとった研究費支出の停止や採択の保留等の措置を解除する。証拠保全の措置についても同様とする。

2 調査機関は、当該事案において不正行為が行われなかった旨を調査関係者に対して、周知する。また、当該事案が調査関係者以外に洩出している場合は、調査関係者以外にも周知する。

3 告発された研究に係る資金を配分した機関及び被告発者が所属する研究機関は、不正行為を行わなかったと認定された者の名誉を回復するその他の措置及び不利益が生じないための措置を講じる。

4 告発が悪意に基づくものと判定された場合、告発者が研究機関に属する者であるときは、当該研究機関は当該者に対し、内部規程に基づき適切な処置を行う。

6 不正行為と認定された者に対する資金配分機関の措置

 競争的資金に係る研究活動において不正行為が行われたと認定された場合、当該認定に係る者に対し、当該競争的資金の配分機関は、以下のガイドラインに沿って措置をとるべく、規程等を整備することが求められる。

1 措置を検討する体制

(1)措置を検討する委員会

1 資金配分機関は、配分した競争的資金に係る研究活動に関する被認定者等への競争的資金に係る措置(以下「措置」という。)を検討する委員会(以下「委員会」という。)を設置する。

2 委員会は当該資金配分機関が資金配分の対象とする研究分野すべてを対象とするものとして、あらかじめ設置しておき、事案ごとに関係研究分野の研究者等を適宜委員に加える方法や、不正行為の事案ごとにアドホックに設置する方法等、資金配分機関の特性に応じ、適切な方法により設置するものとする。

3 文部科学省においては、科学技術・学術審議会をこれに充てることが適当である。

(2)委員会の役割

 委員会は、当該委員会を設置した資金配分機関の求めに応じて、被認定者等に対してとるべき措置を検討し、その結果を資金配分機関に報告する。

(3)委員会の構成

 委員会は、原則として、不正行為と認定された研究に係る研究分野の研究方法等、研究活動における不正行為について的確な判断を下すために必要な知見を持つ者を含み、被認定者等や当該不正行為に係る研究に直接の利害関係を有しない有識者で構成される。また、原則として、被認定者等が所属する研究機関に属する研究者や職員は委員としない、あるいは、当該被認定者等に係る審議に参加させないものとする。ただし、研究分野の特性等により、他に適任者が見当たらず、かつ、公正な審査が確保できると判断されるときは、この限りではない。

2 措置の決定手続

(1)委員会における検討

1 委員会は、資金配分機関の求めがあったとき検討を開始する。

2 措置を検討するに当たっては、調査機関に対するヒアリングなどを行い、調査結果を精査し、調査内容、調査の方法・手法・手順、調査を行った調査委員会の構成等を確認し、不正行為の重大性、悪質性、認定者等それぞれの不正行為への関与の度合などを考慮した上で、速やかに措置についての検討結果を資金配分機関に報告する。

(2)措置の決定

 資金配分機関は、委員会の報告に基づき、被認定者等に対する措置を決定する。資金配分機関は、決定に当たっては委員会の報告を尊重するものとする。なお、認定者等の弁明の聴取及び措置決定後の不服申立ての受付は行わない。

(3)措置決定の通知

 資金配分機関は、決定した措置及びその対象者等について、措置の対象者及びその者が所属する機関、当該資金配分機関以外の資金配分機関に通知する。通知を受けた資金配分機関は、決定された措置に沿った対応をとるものとする。また、文部科学省は、当該措置及びその対象者等について、国費による競争的資金を所管する各府省に情報提供する。

3 措置の対象者

 措置は次の者が対象となる。

1 不正行為に関与したと認定された論文等の著者(共著者を含む。以下同じ)。

2 不正行為に関与したと認定されていないものの、不正行為があったと認定された論文等の主たる著者。

3 不正行為があったと認定された論文等の著者ではないが、当該不正行為に関与したと認定された者。

4 措置の内容

 資金配分機関は3に掲げる者に対して、以下の措置のうち一つあるいは複数の措置を講じる。措置の内容は以下を標準とし、不正行為の重大性、悪質性、個々の被認定者等の不正行為への具体的な関与の度合等により、事例ごとに措置の内容が定められる。

(1)競争的資金の打ち切り

1 3に掲げるすべての者に対して、不正行為があったと認定された研究に係る競争的資金の配分を打ち切り、当該競争的資金であって、措置決定時において未だ配分されていない残りの分の研究費、あるいは次年度以降配分が予定されている研究費については、以後交付しない。なお、不正行為があったと認定された研究が研究計画の一部である場合、当該研究計画に係る研究全体への資金配分を打ち切るか否かは、措置対象者以外の研究者の取扱いを含めて、事例ごとに委員会が判断するものとする。

2 3の1及び3に掲げる者に対して、不正行為があったと認定された研究に係る競争的資金以外の、現に配分されているすべての文部科学省所管の競争的資金であって、措置決定時において未だ配分されていない残りの分の研究費、あるいは次年度以降配分が予定されている研究費については、以下のとおりとする。
 ア)3の1及び3に掲げる者が研究代表者となっている研究については打ち切りとし、以後交付しない。

 イ)3の1及び3に掲げる者が研究分担者又は研究補助者となっている研究については、当該者の研究費使用を認めない。

(2)競争的資金申請の不採択

1 文部科学省所管の競争的資金で、不正行為が認定された時点で3に掲げる者が研究代表者として申請されているものについては採択しない。

2 文部科学省所管の競争的資金で、不正行為が認定された時点で3に掲げる者が研究分担者又は研究補助者として申請されているものについては、当該者の差し替えがなければ採択しない。

(3)不正行為に係る競争的資金の返還

1 未使用研究費等の返還
 ア)当該研究全体が打ち切られたときは、当該研究グループに対し、未使用の研究費の返還や、契約済みであるが、納品されていない場合や未使用の場合の機器等の物品の契約解除・返品とこれに伴う購入費の返還を求める。なお、違約金が発生した場合は当該研究グループの自己負担とする。

 イ)当該研究全体が打ち切られていないときは、3に掲げるすべての者に対し、これらの者に係る未使用の研究費の返還や、契約済みであるが、まだ届けられていない場合や未使用の場合の機器等の物品の契約解除・返品とこれに伴う購入費の返還を求める。なお、違約金が発生した場合も3に掲げるすべての者の負担とする。

2 使用した研究費及び未使用研究費等の返還
 研究の当初から不正行為を行うことを意図していた場合など極めて悪質な場合は、3の1及び3に掲げる者に対し、これらの者に係る既に使用した当該不正行為に係る研究の研究費の全額(上記1ア又はイの機器等の物品の購入費を含む)と未使用の研究費の合計額の返還を求める。

(4)競争的資金の申請制限

 3に掲げるすべての者に対して、文部科学省所管のすべての競争的資金の申請を制限する。制限期間については、不正行為の重大性、悪質性及び不正行為への関与の度合に応じて委員会が下記の区分に従い定める。なお、他府省所管の競争的資金を活用した研究活動に不正行為があった者による申請も、他府省等が行う不正行為の認定に応じて同様に取り扱うものとする。

1 3の1に掲げる者
 すべての文部科学省所管の競争的資金に対する研究代表者、研究分担者(共同研究者)及び研究補助者としての応募について、不正行為と認定された年度の翌年度以降5年ないし10年。

2 3の2に掲げる者
 すべての文部科学省所管の競争的資金に対する研究代表者、研究分担者(共同研究者)及び研究補助者としての応募について、同じく2年ないし4年。

3 3の3に掲げる者
 すべての文部科学省所管の競争的資金に対する研究代表者、研究分担者(共同研究者)及び研究補助者としての応募について、同じく5年ないし10年。

5 措置と訴訟との関係

 資金配分機関が行う措置と大学・研究機関の認定に関する訴訟との関係については以下のとおりとする。

(1)措置後に訴訟が提起された場合

 資金配分機関が措置を行った後、調査機関が行った不正行為の認定について訴訟が提起されても、認定が不適切である等、措置の継続が不適切であると認められる内容の裁判所の判断がなされない限り、措置は継続するものとする。

(2)措置前に訴訟が提起された場合

 措置を行う前に、調査機関による不正行為の認定について訴訟が提起された場合についても、訴訟の結果を待たずに措置を行うことを妨げない。措置を行った後の取扱いについては上記(1)による。

(3)措置後の訴訟において認定が不適切とされた場合

1 措置を行った後、調査機関による不正行為の認定が不適切であった旨の裁判が確定したときは、ただちに措置は撤回されるとともに、研究費等の返還がなされていた場合は、その金額を措置対象者に再交付する。

2 1のとき、措置により研究費の打ち切りがなされていた場合は、打ち切りの対象となった研究の状況に応じて交付を再開する。この場合、裁判が確定した時点が措置を行った年度の翌年度以降のときは、交付される研究費は、措置がなければ交付されるべきであった研究費の全額又はその一部とする。ただし、期間の経過等により交付を再開することが不適当と資金配分機関が判断するときは交付を再開しない。

6 措置内容の公表

 資金配分機関は、措置を決定したときは、原則として、措置の対象となった者の氏名・所属、措置の内容、不正行為が行われた競争的資金名及び当該研究費の金額、研究内容と不正行為の内容、調査機関が行った調査結果報告書などについて、速やかに公表する。なお、告発者名については、告発者の了承がなければ公表しない。

7 措置内容等の公募要領等への記載

 資金配分機関は、不正行為を行った場合に資金配分機関がとる制裁的措置の内容や措置の対象となる者の範囲につ

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科学技術・学術政策局政策課

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(科学技術・学術政策局政策課)