参考資料2 研究活動の不正行為への対応についての論点(たたき台)に関する主な追加意見(未定稿)

論点(たたき台)の記述 各委員からの意見
1.研究活動の不正行為への対応を考える上での基本的事項
 1 不正行為が起こる背景
(1)研究現場の現状
 不正行為が起こる背景としての研究現場の現状はどうなっているのか。研究環境はどうなのか。
○ データの実物を見ながら討論していない場合、不正が起こり易い。
○ 教授や主任研究者と大学院学生やポスドクが1対1で研究する場合は、同じ研究室の人といえども競争相手であるので、不正が起こりやすい。
○ グループ同士であっても、あまりに競争が過熱すると不正が起こりやすい。
○ 研究現場は次第に競争社会、差別社会となりつつある。多額の助成により目立つ研究をしないと上にいけず、目立つ研究が高く評価される傾向になってきている。この傾向が甚だしくなってくると研究者としてのモラルを超えてしまう可能性が出てくると思われる。
(2)研究者の意識
 研究者の意識や指導者の姿勢はどうなのか。意識を高める教育の現状はどうか。
○ 若くして主任研究者にプロモートされた場合は、長い期間にわたって研究費を持続的に獲得しなければならないので、焦りが生じる可能性が高い。
○ インパクトファクターに振り回される。これは自分がインパクトファクターの高い雑誌に投稿したい、そのために良い結果を出したい、と思うのみならず、インパクトファクターの高い雑誌の論文を絶対視する悪い傾向が生じる。
○ 研究はどういうものかについて教えきれていない傾向。研究は結果だけが大切なのではなく、研究プロセスも財産であることをしっかり教えるべき。また実験だけができることが良いのではなく、何をして良いのか悪いのかという社会常識も合わせて教えるべき。
2 研究活動の不正行為に対する基本的考え方
(1)研究活動の不正行為とは何か
 捏造、改ざん、盗用、重複発表、オーサーシップ違反などが指摘されるが、科学研究の上での非倫理行為ととらえてよいか。この他にどのような行為が当てはまるのか。
○ 不正行為の定義を明確して、限定することが必要。
○ データの「捏造」、「改ざん」、「盗用」と定義してよい。ただし、その他にも得られたデータの中で「意図的に」自分に都合が良い部分だけを取り上げて、他を切り捨てる行為、あるいは論文の中でも、自分の仮説に都合の悪い他の研究者の論文を「意図的に」無視するなどの行為も、広義には「不正行為」といえないこともないだろう。しかし、これらの多くは論文審査の段階で防止することができるものであり、当面は不正行為に含めないでよい。
○ 競争的資金と不正との関係という意味では、申請書に、正しい内容(成果)が書かれていない場合、あるいは、正しく論文が引用されていない場合がある。論文の引用が正しくない場合は、単なる雑誌名、年、巻号、ページなどの記載間違いか、意図的な不正かという問題があるが、いずれにしても、研究費(計画書)の審査時に、こうした不正(あるいは不正確)は、審査をミスリードする場合がある。この取り扱いを、論文発表の改ざんなどと同じ扱いで議論するのかどうか最初に議論すべき。
(2)研究活動の不正行為に対する基本姿勢
 研究活動の不正行為は科学への背信行為であり、研究費の多寡や出所の如何を問わず許されないという毅然とした姿勢で臨むということでよいか。
○ 「予防のための指導あるいは指針」と言う形で、背景になっているものを指摘する必要があるのではないか。ただし、そうなるとかなり間違いのないものに絞ることになる可能性はある。何らかの罰則規定は必要。
○ 研究内容の不正はあってはならないことであり、やむを得ない理由はない。不正が判ったら罰則を課すことは当然。
○ 不正が判ったら罰を与えるべき。ただし、悪意のある告発(不正告発)には注意すべき。
(3)研究者、研究者コミュニティの自律
 不正行為の防止に対する研究者自ら、あるいは研究者コミュニティの自律の必要性。
○ 研究者コミュニティの自律を機能させるための制度設計は至難。
○ 研究者コミュニティは不正行為のような問題に弱い。この委員会での議論の進み具合を日本学術会議の委員会の方に伝えても良いのではないか。
○ 研究は一人で進めるのではなく、必ず議論をしているはずであるが、これらの集団の中で研究についての議論ができる状態となっているかも問題。研究者コミュニティの自浄作用を強化すべき。
(4)研究機関、学協会の研究活動の不正行為への取り組み
  1 行動規範や不正行為への対応規程等の作成
 研究機関や学協会が研究者の行動規範や、不正行為の疑惑が指摘されたときの対応規程等の明文化の促進。
○ 一部を除いてほとんどの研究機関や学協会では、的確な情報を持っていないのみでなく、不正行為の問題について話し合う余裕もないと思われる。
 2 防止のための取り組み
 研究者モラルの向上のための取り組み、研究ノートの保管等の研究管理に関する規程の明文化や研究者、学生への指導など。
○ 研究機関及び研究者コミュニティが不正防止のための倫理教育その他の方策を行う必要があるのは当然と思う。
○ 不正が起きないようにすることを、行政的な対策で行うのは困難。それは科学者コミュニティーが、研究者倫理の徹底、あるいは、教育によってなすべき事であるが、該当する機関に、行政的に、不正が起きないような対策を立てるようにいろいろな要望を出すことは必要。
○ 究者の実験記録・ノートの保存ポリシーの最低限のガイドライン策定は必要ではないか。これらの記録が研究機関に帰属するのか、研究者個人の情報なのかは大学では必ずしも明解に棲み分けができていないため、問題がおきた場合の検証が難しい一因になっていると思われる。
(5)文部科学省における競争的資金に係る研究活動の不正行為への対応
 競争的資金に係る研究活動の不正行為への対応について、研究機関等に対するガイドラインの提示とルールづくりの促進。
○ これまでの内外における不正行為への対応例も検討の参考になるのではないか。
2.研究活動の不正行為への対応の具体的検討事項
不正行為への対応のガイドラインにおいて考慮すべきと考えられる事項例
(1)ガイドラインの対象範囲
 行政的な措置等を考えると、ガイドラインの対象となる不正行為は、国費による競争的資金(委託、補助)を活用した研究活動における捏造、改ざん、盗用とすることでよいか。
○ 不正行為のガイドラインを作るとすれば、助成金がどこからこようと、どこで研究が行われようとも、あらゆる研究全てに統一したガイドラインが必要。
○ 「研究」の範囲を明らかにして議論することが必要。基本的には、国内の研究であって、文部科学省の所轄する競争的資金を獲得して行われた研究における不正行為に限定することが望ましいのではないか。研究者のマナーに属する領域まで対象とするのはふさわしくない。
(2)告発等の受付
 窓口の設置とそのあり方(機関の中での一元化など)、告発等の受付方法など。
○ 告発を奨励するようなシステムは問題。
○ 内部告発を制度化するというやり方は日本社会の理想とする組織原理と基本的に矛盾する側面があるのではないかと危惧。
○ 告発は良いと思うがルールを作成すべき。
○ 告発の受理は明確な物的証拠に基づくことを原則としないと、悪意に基づく告発であった場合、その立証による物的・時間的損失は計り知れない。
(3)調査・事実確認
 1 実施機関
 原則として被告発者が所属する研究機関が実施することの是非。被告発者が研究機関に所属していない場合や辞めている場合はどうか。
○ 調査実施機関としては当該機関内ではなく、その研究に中立的な機関を作り、利害を受けない人が責任者となるべき。
○ 研究機関、あるいは学会などは、調査能力はあるであろう。しかし、研究費配分機関(文部科学省関係では、文部科学省本省、学術振興会、科学技術振興機構)には、独自の調査能力があるとは思えない。あるいは、機関ではなく、いろいろな機関の研究者などをその都度集めて、調査チームなどを発足させることになるのか。その場合の責任機関はどこになるか。研究費配分機関が独自にできる調査は何か。調査グループが調査結果を出すプロセスの正当性の検証ということになるか。
○ 研究機関及び研究コミュニティが不正の調査に関して真に十分な機能を果たせるかどうかは疑問を感じる。「措置」を行うことを前提に、各機関における調査はどれも公正かつ慎重に行われることが要求される。しかし、いったん疑惑が出てきた場合、所属機関だけでは難しい問題も生ずる。たとえば、当事者が退職していたり別機関に異動している場合などは調査が困難。また、研究者は一般に他人の過去の実験の確認をするような後ろ向きの研究に時間やエネルギーを割くことを本能的に嫌う。いくつかのものについては所属機関だけでは調査しきれず、専門家集団を有する第三者的上部機関(政府機関)による審査が必要になるのではないかと思われる。
 2 実施体制
 調査委員会の構成、第三者の参画、学会の協力
 3 実施方法等
 調査の実施方法(予備調査と本調査の二段階)、調査の期間、被告発者の弁明を聞く機会、判定、調査中の被告発者の研究への措置など。
○ 純粋に学問的な正義感に基づく告発もあるが、告発者が被告発者に対して恨みや偏見を持っていることがあり、告発に基づいて直ちに行動するべきであるかどうかの判断は極めて困難。
○ 不正問題が発生したとき(告発などで)、説明責任は、基本的には、研究者(発表者)側にあると考える。この際、もとのデータがないことは、不正かどうかの判断ができないということではなく、「不正である」としてその後の処理を行うという考え方が必要。再試験、追試験以前の問題。
○ 再現性という意味で、最近の生物学的な研究では、ある種のキットと呼ばれる混合物を使うケースが多く、ロットの違いによって、結果が異なることはままある。また、一部を保存したとしても、保存状態によって、結果は再現できないことはある。こうした場合、単に試薬を保存すれば良いという指導が適切かどうか、疑問はある。また、研究者の実験技術力によって、結果が異なることも、良くあることであり、論文に書かれているとおりやったが、同じ結果とならなかったということだけで、不正の可能性があるということにはならないという微妙な問題がある。
○ 「研究者は常に自分の研究発表に対して説明責任を持つ」という考えが「研究者は過去の研究結果に対してデータを再現する責任を持つ」というような意味に変化してはならない。あくまでねつ造・改ざんといった不正は、故意に事実と異なることを発表することであり、結果よりもプロセスの問題。データをねつ造しても結論は正しい場合もあり、不正はなくても間違っていることは無数にある。研究者は困難な実験をぎりぎりの条件と技術で乗り越えていることが多く、たとえ自分自身であってもちょっとした条件の違いによって再現できなくなることもしばしばある。厳しすぎる責任を感じると、研究者は萎縮して思い切った仮説や実験ができなくなることを危惧する。不正問題の調査に当たって、この点は留意する必要がある。
 4 不正行為の有無の認定
 認定主体、悪意に基づく告発の認定など。
○ 不正行為の認定機関を国にすることは、大きな危惧がある。学問の国家統制につながりかねない。
 5 競争的資金の交付の停止など
 資金配分機関による、本調査の対象となった被告発者に対する未交付の競争的資金の交付の停止や採択の保留など。
(4)調査・事実確認の妥当性の審査
  1 妥当性審査の必要性
 研究機関が行った調査・事実確認の妥当性を審査する必要性の有無。
○ 「調査・事実確認の妥当性の審査」はあまり必要でないように思われる。審査機関がきちっとした審査をすれば、時間がかかることもあり、審査のための審査はあっても簡素であるべき。
 2 審査の主体・体制
 審査主体は競争的資金を配分した機関でよいか。審査委員会の設置・構成など。
 3 審査の実施方法等
 研究機関が行った調査・事実確認の手続と体制の審査、調査報告書の審査、研究機関のヒアリング、審査期間など。
 4 審査結果の取扱い
 研究機関が行った調査・事実確認を適切とした場合の措置、不適切とした場合の措置。
(5)告発者・被告発者の保護
 1 不利益の防止
 告発者が告発したことによって不利益を受けない、被告発者が告発されたことのみをもって不当に不利益を受けない措置など。
 2 情報管理
 告発者が特定されない、公表まで被告発者や調査内容が漏出しない措置など。
 3 調査結果などの公表時期
 不正行為が認定されたとき、処分や行政措置が決定されたときなど、どの時期が適切か。
○ 実際に不正結果を元に研究を進めている人がいるため、被害を受ける研究者がでてくる。ある程度不正が認定できたら素早く公表すべき。行政措置の後の公表では遅い。不正行為とは犯罪であり、公表を遅らせる理由は何もない。
 4 悪意に基づく告発の防止
 悪意に基づく告発を行った者に対する措置、告発に根拠を求めることの是非など。
○ 不正でないと認定された場合には、程度によって告発者へのペナルティも課すべき。
○ 研究者の属する組織に、研究の足を引っ張るために誣告が行われた場合、サンクションを恐れた組織が当該研究者の競争的資金の申請を念のために凍結する危険性があり、そのような危険がない制度設計にする必要がある。
(6)不正行為と認定された場合の措置
  1 措置の対象
 措置の対象となる者の範囲。
○ 不正があったと結論された場合、その論文の共著者あるいは共同研究者の責任を明確化する必要があろう。基本姿勢としては、論文の共著者には共同責任があることを明確にし、共著者になるのならばデータそのものもチェックするほどの責任を持ってもらうように指導することも必要。
○ 共同研究者は全員責任を持つべき。ただ責任の重さは各人により異なると思われる。本体、論文には、共同研究者一人一人がどう寄与するかも明確にすべき。
○ 研究費配分機関がなす処分、研究者の所属機関がなす処分、司法などの行政がなす処分があると思われるが、本委員会で扱う処分というのは、研究費配分機関が行う処分という事で良いのか。もちろん、他の処分を見た上で、配分機関が処分を行うという関係はあるはずではあるが、それはそれぞれの機関が考えることで、本委員会がそのルールを作るわけではないという理解で良いのか。それとも、不正に関わる事実関係の解明は、いろいろな機関が協力して(分担して)行い、それに関する結論は一つにした上で、各機関のルールに基づいて、それぞれの立場で処分を行うということになるのか。それとも、事実関係の調査自体も、各機関がそれぞれ行うことになると考えるのか。
 2 不正行為の内容や認定された者の公表
 不正行為と認定された者の公表の是非、公表の内容・時期など。
 3 競争的資金の不交付・打ち切り
 未交付研究費の不交付、不正行為と認定された者に交付されている、不正行為に係る研究費とは異なる競争的資金の打ち切りの是非など。
○ 調査段階の研究費の取り扱いが困難な課題。どの段階で研究費の使用や、配分を停止するのか。不当な(悪意による)告発などの防止のためには、重要な課題。
○ 研究費を止める、返還を求めるということは、研究そのものの中止を求めることを意味する場合もあり、また、大学院教育の中断を求めることをも意味する場合もあり、微妙な問題。余程しっかり確認しないと人権問題にもなりうる。
○ 不正が認定されたものは助成は中止されるべき。
 4 不正行為に係る競争的資金の返還
 不正行為と認定された研究に係る競争的資金の返還の是非。
○ 額はともかく、場合によっては助成の返還もあり得る。
○ 返還を命ずる法的根拠をどのように構成するのか、誰が返還する責任を負うのか、共同研究者も連帯して返還する責任を負うのか、返還された研究資金で購入した物品等の所有権は誰に帰属するのか。
○ 研究者個人が最終的に返還の責任を負うとすると、場合によっては莫大な借金を負う危険があり、研究資金の申請や共同研究に加わらないなど研究者をさせかねない。
 5 競争的資金の申請制限
 競争的資金の申請制限の範囲と期間。
(7)不正行為と認定されなかった場合の措置
  1 被告発者の名誉回復・不利益回復措置
 不正行為でなかったことの周知、調査開始以来とられた措置の解除など。
 2 悪意に基づく告発者に対する措置
 刑事告発、懲戒処分など。
○ 悪意に基づく告発を受けた側からの機会損壊などの損害賠償権に関する基本的考え方も明確にすべき。
○ 専門を同じくした研究者の間では、業績の評価などについてある程度のコンセンサスがあり、そのような情報を集積する工夫はあっても良いのではないか。ただし、その情報が悪意に満ちている可能性もあり、その情報に接触できる者を限定した上で、システムの構築をするなどの可能性はあるのではないか。

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科学技術・学術政策局政策課

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