研究活動の不正行為への対応のガイドラインについて 研究活動の不正行為に関する特別委員会報告書(概要)

第1部 研究活動の不正行為に関する基本的考え方

1.検討の背景

○ 科学研究における不正行為は、人々の科学への信頼を揺るがし、科学の発展を妨げ、冒涜するもの。
○ 厳しい財政事情にも関わらず、未来への先行投資として、国費による研究費支援が増加する中で、貴重な国費を効果的に活用する意味においても研究活動の公正性を一層確保すべき

2.不正行為に対する基本的考え方

(1)研究活動の本質

○ 研究活動とは、先人達の研究の諸業績を踏まえた上で、新たな知見を創造し、知の体系を構築していく行為。

(2)研究成果の発表

○ 研究活動によって得られた成果を、研究者コミュニティに向かって公開し、その内容について吟味・批判を受けること。

(3)不正行為とは何か

研究者倫理に背馳し、研究活動の本質ないし本来の趣旨を歪め、研究者コミュニティの正常な科学的コミュニケーションを妨げる行為であり捏造、改ざん、盗用などがこれに当たる。

(4)不正行為に対する基本姿勢

○ 不正行為は、科学そのものに対する背信行為。研究費の多寡や出所の如何を問わず絶対に許されない。研究者の科学者としての存在意義を自ら否定するものであり、自己破壊につながるもの。研究者及び研究者コミュニティは、不正行為に対して厳しい姿勢で臨むべき。
○ 不正行為の問題は、知の生産活動である研究活動における「知の品質管理」の問題

(5)研究者・研究者コミュニティ等の自律・自己規律

○ 不正行為に対する対応は、研究者の倫理と社会的責任の問題として、その防止とあわせ、まずは研究者自らの規律、並びに研究者コミュニティ、大学・研究機関の自律に基づく自浄作用としてなされるべき。

3.不正行為が起こる背景

(1)研究現場を取り巻く現状

○ 先端的な分野を中心に研究成果を少しでも早く世に出すという先陣争い
○ 先端的な研究を続けていくには、競争的な研究費を獲得し続ける必要性
○ ポスト獲得競争の激化。

(2)研究組織・研究者の問題点

○ 研究者の真理を探究するという研究そのものに対する使命感が薄れてきている
○ 研究活動の本質に基づく作法や倫理について、学生や若手研究者が十分教育を受けていない状況。
○ 研究組織の自浄作用が働きにくい状況。

4.不正行為に対する取り組み

○ 日本学術会議は平成18年秋を目標に全科学者が共有すべき行動規範を策定中。
○ 大学・研究機関において不正行為の疑惑に対応する規程を定めている例は一部に限られ、更なる整備が求められる。
○ 文部科学省は研究費の配分の観点を中心に不正行為防止も含め不正行為への厳正な対応に取り組むことが必要。

第2部 競争的資金に係る研究活動における不正行為対応ガイドライン

1.本ガイドラインの目的

○ 競争的資金に係る研究活動の不正行為に、文部科学省及び文部科学省所管の独立行政法人である資金配分機関や大学等の研究機関が適切に対応するために整備すべき事項等について指針を示す
○ 各機関には、本ガイドラインに沿って、研究活動の不正行為に対応する適切な仕組みを整えることが求められる。資金配分機関には、競争的資金の公募要領や委託契約書等に本ガイドラインの内容を反映させることが求められる。

2.研究活動の不正行為等の定義

(1)対象とする不正行為

○ 発表された研究成果の中に示されたデータや調査結果等の捏造改ざん、及び盗用

(2)対象となる競争的資金

○ 文部科学省の競争的資金(科学研究費補助金、科学技術振興調整費、21世紀COEプログラム、戦略的創造研究推進事業等13制度)、及び私立大学学術研究高度化推進事業

(3)対象となる研究者、研究機関

○ 対象となる研究者は、対象となる競争的資金の配分を受けて研究活動を行っている研究者。
○ 対象となる研究機関は、それらの研究者が所属する機関、又は対象となる競争的資金を受けている機関。

(4)対象となる資金配分機関

○ 対象となる資金配分機関は、文部科学省、独立行政法人科学技術振興機構及び独立行政法人日本学術振興会。

3.告発等の受付

(1)告発等の受付体制

○ 研究機関及び資金配分機関は、研究活動の不正行為に関する告発等を受付ける窓口を各々設置

(2)告発等の取扱い

○ 原則、告発は顕名とし、不正行為を行ったとする研究者及び研究グループ不正行為の態様事案の内容が明示され、かつ不正とする科学的合理的理由が示されていること。
○ 匿名による告発があった場合、研究機関等は告発の内容に応じ、顕名の告発があった場合に準じた取扱いができる。
○ 報道や学会等の研究者コミュニティにより不正行為の疑いが指摘された場合、匿名の場合に準じて取扱う。
○ 不正行為が行われようとしている、あるいは求められているという告発・相談を受けた機関は、相当の理由があると認めたときは、被告発者に警告を行う。

(3)告発者・被告発者の取扱い

○ 告発者、被告発者、告発内容及び調査内容について、調査結果の公表まで、関係者の秘密保持を徹底
○ 悪意に基づく告発防止のため、悪意に基づくことが判明した場合、氏名の公表や懲戒処分がありうることなどを周知。

4.告発等に係る事案の調査

(1)調査を行う機関

○ 原則として、告発された研究者が所属する研究機関が調査を実施。複数の研究機関による合同調査もありうる。
○ 被告発者が研究機関に所属していなかった場合や、研究機関による調査の実施が極めて困難であると、資金配分機関が特に認めた場合、当該資金配分機関が調査を実施。

(2)告発等に対する調査体制・方法

〔予備調査〕
○ 調査を行う研究機関等は、告発を受付けた後速やかに告発内容の合理性などについて予備調査を実施本調査を行うべきか否かを判断。本調査を行わないものと判断した場合、その旨を理由とともに告発者に通知。
〔本調査〕
○ 本調査に当たっては、当該研究分野の研究者であって当該調査機関に属さない者を含む調査委員会を設置。調査委員は告発者及び被告発者と直接の利害関係を有しない者とする。
○ 本調査は、論文や実験・観察ノート、生データ等の各種資料の精査や、関係者のヒアリング、再実験の要請などにより実施。この際、被告発者の弁明の機会を担保。告発等に係る研究に関して、証拠となるような資料等を保全
○ 資金配分機関の求めがあれば、調査の終了前であっても、調査の中間報告を当該資金配分機関に提出。

(3)認定

〔認定〕
○ 調査委員会は本調査の開始後、相当の期間(例えば概ね150日)内に、不正行為が行われたか否か、不正行為と認定された場合はその内容、不正行為に関与した者とその度合、論文等の各著者の当該論文等及び当該研究における役割を認定し、調査機関に報告。
○ 不正行為がなかったと認定される場合、調査を通じて告発が悪意に基づくものであることが判明したときは、併せてその旨を認定
〔不正行為の疑惑への説明責任〕
○ 調査において、被告発者が疑惑を晴らそうとする場合、自己の責任において科学的根拠を示して説明しなければならない。
○ 被告発者が生データや実験・観察ノート、実験試料・試薬等の不存在など、本来存在するべき基本的な要素の不足により証拠を示せない場合は不正行為とみなされる。ただし、その責によらない理由により、上記の基本的な要素を示すことができなくなった場合等正当な理由があると認められた場合を除く。
〔調査結果の通知及び報告〕
○ 調査機関は、調査結果を告発者、被告発者及び資金配分機関に通知。資金配分機関は文部科学省に報告。
○ 悪意に基づく告発との認定があった場合、調査機関は告発者の所属機関に通知。
〔不服申立て〕
○ 不正行為と認定された被告発者及び告発が悪意に基づくものと認定された告発者は、調査機関が定めた期間内に不服申立てができる。不服申立ての審査は調査委員会が実施。
〔調査結果の公表〕
○ 調査機関は、不正行為が行われたとの認定があった場合、速やかに調査結果を公表。

5.告発者及び被告発者に対する措置

(1)調査中における一時的措置

○ 被告発者が所属する研究機関は、本調査の実施が決まった後、調査結果の報告を受けるまでの間、告発された研究に係る研究費の支出を停止することができる。
○ 資金配分機関は、被告発者に対し、調査結果の通知を受けるまでの間、当該事案に係る研究費の使用停止を命ずることや、被告発者に交付決定した当該研究に係る研究費の交付停止、被告発者から別に申請されている競争的資金の採択の決定、あるいは採択決定後の研究費の交付を保留することができる。

(2)不正行為が行われたと認定された場合の緊急措置等

○ 資金配分機関は、不正行為への関与が認定された者に対し、当該認定に係る競争的資金の使用中止を命じる
○ 研究機関は、所属する当該被認定者に対し当該認定に係る競争的資金の使用中止を命じるとともに、内部規程に基づき適切に処置。不正行為と認定された論文等の取り下げを勧告

(3)不正行為は行われなかったと認定された場合の措置

○ 資金配分機関及び被告発者が所属する研究機関は、本調査に際してとった研究費支出の停止や採択の保留等の措置を解除し、名誉回復措置等を講じる。

6.不正行為と認定された者に対する資金配分機関の措置

(1)措置を検討する体制

○ 資金配分機関は、配分した競争的資金に係る研究活動における不正行為に関する被認定者への競争的資金に係る措置を検討する委員会を設置
○ 委員会は、資金配分機関の求めに応じて、被認定者に対してとるべき措置を検討し、その結果を報告
○ 委員会は、原則として、不正行為について的確な判断を下すために必要な知見を持ち、被認定者や当該不正行為に係る研究に直接の利害関係を有しない有識者で構成。

(2)措置の決定手続

○ 措置の検討に当たっては、不正行為の重大性、悪質性、被認定者の不正行為への関与の度合、不正行為を防止するための努力の有無などを考慮。検討結果は速やかに資金配分機関に報告。
○ 資金配分機関は、委員会の報告に基づき、被認定者に対する措置を決定。決定に当たっては委員会の報告を尊重。
○ 資金配分機関は、決定した措置及びその対象者等について、措置の対象者及びその者が所属する機関、当該資金配分機関以外の資金配分機関に通知。

(3)措置の対象者

○ 不正行為があったと認定された研究に係る論文等の、不正行為に関与したと認定された著者(共著者を含む。)
○ 不正行為があったと認定された研究に係る論文等の著者(共著者を含む。)ではないが、当該不正行為に関与したと認定された者
○ 不正行為に関与したとまでは認定されないものの、不正行為があったと認定された研究に係る論文等の内容について責任を負う者として認定された著者(共著者を含む。)

(4)措置の内容

〔競争的資金の打ち切り〕
○ 不正行為があったと認定された研究に係る競争的資金や既に配分されているその他の競争的資金の打ち切り。
〔競争的資金申請の不採択〕
○ 不正行為が認定された時点で研究代表者として申請されている競争的資金については採択しない。また、研究分担者又は研究補助者として申請されているものについては、当人を除外しなければ採択しない。
〔不正行為に係る競争的資金の返還〕
○ 不正行為があったと認定された研究に配分された研究費の一部又は全部の返還を求める。
○ 返還額は、不正行為の悪質性や研究計画全体に与える影響等を考慮して定められるものとする。
〔競争的資金の申請制限〕
○ 文部科学省所管のすべての競争的資金の申請を制限。制限期間は、不正行為の重大性等に応じて委員会が定める。
不正行為に関与したと認定された著者等 認定された年度の翌年度以降2年から10年
不正行為に関与したとまでは認定されないものの不正行為があったと認定された研究に係る論文等の内容について責任を負う者として認定された著者 同じく1年から3年

(5)措置と訴訟との関係

○ 措置後に訴訟が提起された場合、措置の継続が不適切であると認められる内容の裁判所の判断がなされない限り、措置は継続。
○ 措置前に訴訟が提起された場合、訴訟の結果を待たずに措置を行うことを妨げない。
○ 措置後の訴訟において認定が不適切とされた場合、ただちに措置を撤回。研究費の返還がなされていた場合、資金配分機関は、その金額を措置対象者に再交付することができる。研究費の打ち切りがなされていた場合、資金配分機関は打ち切りの対象となった研究の状況に応じて交付を再開するか否か判断。

(6)措置内容の公表

○ 資金配分機関は、措置を決定したときは、原則として、措置の対象となった者の氏名・所属措置の内容、不正行為が行われた競争的資金名及び当該研究費の金額研究内容不正行為の内容、調査機関が行った調査結果報告書などについて、速やかに公表。

(7)措置内容等の公募要領等への記載

○ 資金配分機関は、不正行為を行った場合に資金配分機関がとる制裁的措置の内容措置の対象となる者の範囲について、競争的資金の公募要領や委託契約書(付属資料を含む)等に記載

お問合せ先

科学技術・学術政策局政策課

(科学技術・学術政策局政策課)