研究活動の不正行為への対応のガイドラインについて 研究活動の不正行為に関する特別委員会報告書(要旨)

第1部 研究活動の不正行為に関する基本的考え方

1 はじめに-検討の背景

○ 科学研究における不正行為は、科学を冒涜し、人々の科学への信頼を揺るがし、科学の発展を妨げるものであって、本来あってはならないものである。
 また、厳しい財政事情の下、未来への先行投資として、国費による研究費支援が増加する中、国費の効果的活用の意味でも研究の公正性の確保がより一層求められる。

2 不正行為に対する基本的考え方

1 研究活動の本質

 研究活動とは、先人達が行った研究の諸業績を踏まえた上で、観察や実験等による事実、データを素材としつつ、自分自身の省察・発想・アイディア等に基づく新たな知見を創造し、知の体系を構築していく行為である。

2 研究成果の発表

 研究成果の発表とは、研究活動によって得られた成果を、客観的で検証可能なデータ・資料を提示しつつ、研究者コミュニティに向かって公開し、その内容について吟味・批判を受けることである。

3 不正行為とは何か

 不正行為とは、研究者倫理に背馳し、研究活動や研究成果の発表の本質ないし本来の趣旨を歪め、研究者コミュニティの正常な科学的コミュニケーションを妨げる行為に他ならない。具体的には、得られたデータや結果の捏造、改ざん、及び他者の研究成果等の盗用などが代表例である。

4 不正行為に対する基本姿勢

(1)不正行為に対する基本姿勢

 不正行為は、科学そのものに対する背信行為であり、研究費の多寡や出所の如何を問わず絶対に許されない。これらのことを個々の研究者はもとより、研究者コミュニティや大学・研究機関、研究費の配分機関は理解して、不正行為に対して厳しい姿勢で臨まなければならない。

(2)知の品質管理

 不正行為の問題は、知の生産活動である研究活動における「知の品質管理」の問題として捉えることができる。公表した研究成果に誤りや不正行為があることに気づいたら、直ちに研究者コミュニティに公表し、取り下げることが必要である。

5 研究者、研究者コミュニティ等の自律・自己規律

 不正行為に対する対応は、その防止とあわせ、まずは研究者自らの規律、ならびに研究者コミュニティ、大学・研究機関の自律に基づく自浄作用としてなされなければならず、あらゆるレベルにおいて重要な課題として認識されなければならない。その際、若い研究者を育てる指導者自身が、自律・自己規律ということを理解し、若手研究者や学生にきちんと教育していくことが重要である。

3 不正行為が起こる背景

1 研究現場を取り巻く現状

○ 多額の研究資金に見合う成果を求められ、また、先端的な研究を続けていくには、他の研究者と競争し、競争的な研究費を獲得し続ける必要性がより一層高まっている。多額の研究費が獲得できる研究が優れた研究とみなされやすく、また、成果が目立つ研究でなければ、研究費が獲得できないのではないかという懸念が増大し、競争の激化と性急な成果主義を煽る側面もあることが指摘されている。
○ ポスト獲得競争が激化し、特に若手研究者にとっては任期付きでないポストを早く得るために、優れた研究成果を早く出す必要性に迫られる状況も一部で醸し出されている。

2 研究組織・研究者の問題点

○ 研究者の研究に対する使命感が薄れてきているのではないかとの指摘がある。
○ 研究者倫理などがどういうものであるかということについて、学生や若手研究者が十分教育を受けていない。また、指導者の中には、その責務を十分に自覚していない者や、研究倫理や研究プロセスの本来のあり方を十分に理解していない者が存在する。研究を進めていく上で通常行われる過程を踏むことを、おろそかにする傾向が一部の研究者に見られるとの指摘もある。
○ 研究組織においては自浄作用が働きにくい。また、研究分野の細分化に伴い、他の研究者がどういう研究をどのように行っているのかわからない状況さえある。研究活動の本質や研究活動・研究成果の発表の作法に抵触するような行為が、見逃され、それが重なって、重大な不正行為につながることがあると思われる。
○ インパクトファクターが論文自体の評価指標と混同される場合があり、評価者や研究者が著名な科学雑誌に論文が掲載されることを過度に重要視する傾向が見られ、不正行為を助長する背景であるとも指摘されている。

4 不正行為に対する取り組み

1 日本学術会議、大学・研究機関、学協会の不正行為への取り組み

(1)日本学術会議の取り組み

 日本学術会議は、研究者倫理全体を見据え、科学者の自律のための倫理規範の確立のため、平成18年秋を目標に全科学者が共有すべき行動規範策定に取り組んでいる。

(2)大学・研究機関、学協会の取り組み
  1. 行動規範や不正行為への対応規程等の整備
    大学・研究機関や学協会において、研究者の行動規範や、不正行為の疑惑が指摘されたときの調査手続や方法などに関する規程等を整備することが求められる。
  2. 防止のための取り組み
    ア)研究活動に関して守るべき作法の徹底
    大学・研究機関、学協会においては、実験・観察ノート等の記録媒体の作成・保管や実験試料・試薬の保存等、研究活動に関して守るべき作法について、研究者や学生への徹底を図ることやそれらの保存期間を定めることが求められる。
    イ)研究者倫理の向上
    大学・研究機関や学協会においては、研究倫理に関する教育や啓発等、研究者倫理の向上のための取り組みが求められる。指導的立場の研究者に対して、研究倫理等の教育を行い、内面化することが不可欠であり、組織として取り組むことが求められる。

2 文部科学省における競争的資金等に係る不正行為への対応

(1)文部科学省の取り組みの必要性

 文部科学省においては、研究費の配分の観点を中心に不正行為防止も含め、不正行為への厳正な対応に取り組んでいくことが必要である。

(2)競争的資金等に係る不正行為への対応

○ 研究費と研究活動及び研究成果との対応関係が明確であることなどの観点から、競争的資金に係る研究活動の不正行為を対象として、早急に文部科学省において規程等の整備を行うとともに、資金配分機関や大学・研究機関にガイドラインを提示し、各機関における不正行為への対応のルールづくりを促進することを求める。
○ 不正行為への対応の取り組みが、研究を萎縮させるものとなってはならず、むしろ不正への対応が研究を活性化させるという本来の趣旨を忘れてはならない。
○ 選定した研究機関にプロジェクトを委託する研究については、競争的資金に係る研究の不正行為への対応の制度化を踏まえ、これに準じた制度の導入が望まれる。

3 他府省庁所管等の機関との共通性

 上記の考え方は、文部科学省所管の機関のみならず、他府省庁・地方公共団体所管の機関や企業及びその所属する研究者についても、原則的に同様のことが該当し、これらにおいても、ガイドラインを参考に適切な取り組みが行われることが望まれる。

第2部 競争的資金に係る研究活動における不正行為対応ガイドライン

1 本ガイドラインの目的

 競争的資金に係る研究活動の不正行為に、文部科学省及び文部科学省所管の独立行政法人である資金配分機関や大学等の研究機関が適切に対応するため、それぞれの機関が整備すべき事項等について指針を示すものである。

2 研究活動の不正行為等の定義

1 対象とする不正行為

 ガイドラインの対象となる研究活動は、文部科学省及び文部科学省所管の独立行政法人の競争的資金を活用した研究活動であり、対象とする不正行為は、捏造、改ざん及び盗用であり、故意によるものでないものは不正行為には当たらない。

2 対象となる競争的資金

 対象となる競争的資金は、内閣府において「競争的資金」と整理されている文部科学省所管のものなどである。

3 対象となる研究者及び研究機関

 対象となる研究者は、上記2の対象となる競争的資金の配分を受けて研究活動を行っている研究者であり、対象となる研究機関は、それらの研究者が所属する機関、又は対象となる競争的資金を受けている機関である。

4 対象となる資金配分機関

 対象となる資金配分機関は文部科学省、独立行政法人科学技術振興機構及び独立行政法人日本学術振興会である。

3 告発等の受付

1 告発等の受付体制

 研究機関及び資金配分機関(以下3及び4において「研究機関等」という。)は、不正行為に関する告発等の窓口を各々設置し、その名称、場所、連絡先、受付の方法などを定め、機関内外に周知する。

2 告発等の取扱い

  1. 原則として、告発は受付窓口に対して顕名により行われ、不正行為を行ったとする研究者・グループ、不正行為の態様等が明示されて、かつ不正とする科学的合理的理由が示されているもののみを受付ける。ただし、匿名による告発があった場合、研究機関等は告発の内容に応じ、顕名の告発があった場合に準じた取扱いをすることができる。
  2. 報道や学会等により不正行為の疑いが指摘された場合は、不正行為を指摘された者が所属する機関に匿名の告発があった場合に準じて取扱う。
  3. 不正行為が行われようとしているなどの告発等に対しては、告発等を受けた機関等が、内容を確認・精査し、相当の理由があるものについては、警告を行う。

3 告発者・被告発者の取扱い

  1. 研究機関等は、告発内容や告発者の秘密を守るとともに、告発者、被告発者、告発内容及び調査内容について、調査結果の公表まで、告発者及び被告発者の意に反して調査関係者以外に漏洩しないよう、関係者の秘密保持を徹底する。
  2. 研究機関等は、悪意に基づく告発を防止するため、告発は原則顕名によるもののみ受付けることや、告発には不正とする科学的合理的理由を示すことが必要であること、調査の結果、悪意に基づく告発であったことが判明した場合は、氏名の公表や懲戒処分などがありうることなどを機関内外に周知する。
  3. 研究機関等は、単に告発したことや告発されたことのみを理由に告発者及び被告発者に対し、解雇や懲戒処分、全面的な研究活動の禁止等を行わない。

4 告発等に係る事案の調査

1 調査を行う機関

  1. 研究機関に所属する研究者に係る研究活動の不正行為の告発があった場合、原則として、当該研究機関が告発された事案の調査を行うが、被告発者が複数の研究機関に所属する場合、所属する複数の機関が合同で調査を行う。
  2. 被告発者が、研究機関に所属していない場合や、調査を行うべき研究機関による調査の実施が極めて困難であると、資金配分機関が特に認めた場合は、当該資金配分機関が調査を行う。
  3. 調査について、研究機関等は他の研究機関や学協会等の研究者コミュニティに委託することができる。

2 告発等に対する調査体制・方法

(1)予備調査
  1. 調査機関は、告発内容の合理性、調査可能性などについて、予備調査を行う。
  2. 調査機関は、例えば30日以内に本調査を行うか否か決定し、行う場合、告発者、被告発者とその所属機関及び資金配分機関に通知する。本調査は決定後例えば30日以内に開始される。
  3. 本調査を行わない場合、調査機関は告発者に通知するともに、予備調査の資料を保存し、資金配分機関や告発者の求めに応じ開示する。
(2)本調査
  1. 調査体制
    ア)調査機関は、本調査に当たっては、当該研究分野の研究者であって当該調査機関に属さない者を含む調査委員会を設置する。この調査委員は告発者及び被告発者と直接の利害関係を有しない者でなければならない。
    イ)調査機関は、調査委員会を設置したときは、調査委員の氏名や所属を告発者及び被告発者に示すものとする。これに対し、告発者及び被告発者は、異議申立てをすることができる。
  2. 調査方法・権限
    ア)本調査は、指摘された当該研究に係る論文や実験・観察ノート、生データ等の各種資料の精査や、関係者のヒアリング、再実験の要請などにより行われる。この際、被告発者の弁明の聴取が行われなければならない。被告発者が再現性を示すための機会、期間が保障されるが、引き延ばし目的のものは認められない。
    イ)調査機関は調査委員会の調査権限について定め、関係者に周知する。この調査権限に基づく調査委員会の調査に対し、告発者及び被告発者などの関係者や協力を求められた機関は誠実に協力しなければならない。
  3. 証拠の保全措置
    調査機関は本調査に当たって、告発等に係る研究に関して、証拠となるような資料等を保全する措置をとる。
  4. 調査の中間報告
    調査機関は、告発等に係る研究に対する資金を配分した機関の求めに応じ、調査の終了前であっても、調査の中間報告を当該資金配分機関に提出する。

3 認定

(1)認定
  1. 調査委員会は本調査の開始後、例えば150日以内に調査した内容をまとめ、不正行為が行われたか否か、不正行為と認定された場合はその内容、不正行為に関与した者とその関与の度合、不正行為と認定された研究に係る論文等の各著者の当該論文等及び当該研究における役割を認定する。
  2. 不正行為が行われなかったと認定される場合であって、調査を通じて告発が悪意に基づくものであることが判明したときは、調査委員会は、併せてその旨の認定を行うものとする。この認定を行うに当たっては、告発者に弁明の機会を与えなければならない。
(2)不正行為の疑惑への説明責任
  1. 調査において被告発者が告発内容を否認する場合には、自己の責任において、研究が科学的に適正な方法と手続に則って行われたこと、論文等もそれに基づいて適切な表現で書かれたものであることを、科学的根拠を示して説明することが必要。
  2. 被告発者が生データや実験・観察ノート、実験試料・試薬等の不存在など、存在するべき基本的な要素の不足により証拠を示せない場合は、合理的な保存期間等を超えるときなどを除き不正行為とみなされる。説明責任の程度や基本的な要素については、研究分野の特性に応じ、調査委員会の判断にゆだねられる。
(3)不正行為か否かの認定

 調査委員会は、被告発者が行う説明を受けるとともに、調査によって得られた、物的・科学的証拠、証言、被告発者の自認等の諸証拠を総合的に判断して、不正行為か否かの認定を行う。被告発者が自己の説明によって、不正行為であるとの疑いを覆すことができないときは、不正行為と認定される。また、被告発者が生データや実験・観察ノート、実験試料・試薬の不存在など、本来存在するべき基本的な要素の不足により不正行為であるとの疑いを覆すに足る証拠を示せないときも同様とする。

(4)調査結果の通知及び報告

 調査機関は、調査結果を速やかに告発者、被告発者及びその所属機関、資金配分機関に通知する。また、悪意に基づく告発との認定があった場合、調査機関は告発者の所属機関にも通知する。

(5)不服申立て
  1. 不正行為と認定された被告発者及び悪意に基づく告発と認定された告発者は、調査機関が定めた期間内に、調査機関に不服申立てをすることができる。
  2. 不服申立ての審査は調査委員会が行う。ただし、不服申立ての趣旨が、調査委員会の構成等、その公正性に関わるものである場合には、調査機関の判断により、調査委員会に代えて、他の者に審査させることができる。
  3. 調査委員会は、不服申立てについて、趣旨、理由等を勘案し、再調査すべきか否かを決定する。再調査を開始した場合は、例えば50日以内に、先の調査結果を覆すか否かを決定し、その結果をただちに調査機関に報告し、調査機関は当該結果を被告発者、被告発者が所属する機関等に通知する。
(6)調査資料の提出

 資金配分機関は、調査機関に対して事案の調査が継続中であっても、当該事案に係る資料の提出または閲覧を求めることができる。

(7)調査結果の公表
  1. 調査機関は、不正行為が行われたとの認定があった場合は、速やかに調査結果を公表する。公表する内容には、少なくとも不正行為に関与した者の氏名・所属、不正行為の内容、調査機関が公表までに行った措置の内容に加え、調査委員の氏名・所属、調査の方法・手順等が含まれる。
  2. 調査機関は、不正行為が行われなかったとの認定があった場合は、原則として調査結果を公表しない。ただし、論文等に故意によるものでない誤りがあった場合等は、調査委員の氏名等を含め、調査結果を公表する。悪意に基づく告発との認定があったときは、告発者の氏名・所属を併せて公表する。

5 告発者及び被告発者に対する措置

1 調査中における一時的措置

(1)研究機関による支出停止

 研究機関は、本調査を行うことが決まった後、調査委員会の調査結果の報告を受けるまでの間、告発された研究に係る研究費の支出を停止することができる。

(2)資金配分機関による使用停止・保留等

 調査の中間報告を受けた資金配分機関は、被告発者に対し、調査機関からの調査結果が出るまでの間、当該事案に係る研究費の使用停止や、被告発者に交付決定した当該研究に係る研究費の交付停止、既に別に被告発者から申請されている競争的資金について、採択の決定、あるいは採択決定後の研究費の交付の保留ができる。

2 不正行為が行われたと認定された場合の緊急措置等

(1)競争的資金の使用中止

 不正行為が行われたとの認定があった場合、不正行為に係る研究に資金を配分した機関と、不正行為への関与が認定された者及び関与は認定されないが、不正行為が認定された論文等の内容について責任を負う者として認定された著者(以下「被認定者」という。)が所属する研究機関は、当該被認定者に対し、ただちに当該競争的資金の使用中止を命ずる。

(2)研究機関による処置等

 研究機関は、所属する被認定者に対し、内部規程に基づき適切な処置をとるとともに、不正行為と認定された論文等の取り下げを勧告する。

3 不正行為は行われなかったと認定された場合の措置

  1. 不正行為は行われなかったと認定された場合、告発された研究に係る資金を配分した機関及び被告発者が所属する研究機関は、本調査に際してとった研究費支出の停止や採択の保留等の措置を解除する。
  2. 調査機関等は、当該事案において不正行為が行われなかった旨を調査関係者等に対して、周知するなど、不正行為を行わなかったと認定された者の名誉を回復する措置及び不利益が生じないための措置を講じる。
  3. 告発が悪意に基づくものと認定された場合、告発者の所属機関は、告発者に対し内部規程に基づき適切な処置を行う。

6 不正行為と認定された者に対する資金配分機関の措置

1 措置を検討する体制

(1)措置を検討する委員会

 資金配分機関は、配分した競争的資金に係る研究活動における不正行為に関する被認定者への競争的資金に係る措置を検討する委員会を設置する。委員会は、当該委員会を設置した資金配分機関の求めに応じて、被認定者に対してとるべき措置を検討し、その結果を資金配分機関に報告する。

(2)委員会の構成

 委員会は、原則として、不正行為と認定された研究に係る研究分野の研究方法や、不正行為について判断するために必要な知見を持ち、被認定者や当該不正行為に係る研究に直接の利害関係を有しない有識者で構成される。

2 措置の決定手続

(1)委員会における検討

 委員会は、資金配分機関の求めに応じ、調査機関に対するヒアリングなどを行い、調査結果を精査し、調査内容、調査の方法・手法・手順、調査を行った調査委員会の構成等を確認し、不正行為の重大性、悪質性、被認定者それぞれの不正行為への関与の度合や不正行為があったと認定された研究(グループ)における立場などを考慮した上で、速やかに措置についての検討結果を資金配分機関に報告する。

(2)措置の決定

 資金配分機関は、委員会の報告に基づき、被認定者に対する措置を決定する。

(3)措置決定の通知

 資金配分機関は、決定した措置及びその対象者等について、措置の対象者及びその者が所属する機関、当該資金配分機関以外の資金配分機関に通知する。通知を受けた資金配分機関は、決定された措置に沿った対応をとる。文部科学省は、当該措置及びその対象者等について、国費による競争的資金を所管する各府省に情報提供する。

3 措置の対象者

  1. 不正行為があったと認定された研究に係る論文等の、不正行為に関与したと認定された著者(共著者を含む。)。
  2. 不正行為があったと認定された研究に係る論文等の著者ではないが、当該不正行為に関与したと認定された者。
  3. 不正行為に関与したとまでは認定されないものの、不正行為があったと認定された研究に係る論文等の内容について責任を負う者として認定された著者。

4 措置の内容

 資金配分機関は3の者に対して、以下の措置のうち一つあるいは複数の措置を講じる。原則として措置の内容は以下を標準とし、不正行為の重大性、悪質性、個々の被認定者の不正行為への具体的な関与の度合や不正行為があったと認定された研究(グループ)における立場等により、事案ごとに定められるものとするが、委員会が特に必要と判断するときは、以下によることのない措置をとることを妨げない。特に告発等がなされる前に論文等を取り下げていた場合、3 3の者に対して措置をとらない。3 1の者についても適切な配慮がなされるものとする。告発後直ちに論文等を取り下げた場合、3 3の者に対しては、措置をとらないことができる。

(1)競争的資金の打ち切り
  1. 3のすべての者に対して、不正行為があったと認定された研究に係る競争的資金の配分を打ち切り、当該競争的資金であって、措置決定時において未だ配分されていない残りの分の研究費、あるいは次年度以降配分が予定されている研究費については、以後配分しない。
  2. 3の1及び2に掲げる者に対して、不正行為があったと認定された研究に係る競争的資金以外の、現に配分されているすべての文部科学省所管の競争的資金であって、措置決定時において未だ配分されていない残りの分の研究費、あるいは次年度以降配分が予定されている研究費については、以下のとおりとする。
    ア)3の1及び2に掲げる者が研究代表者となっている研究については打ち切りとし、以後配分しない。
    イ)3の1及び2に掲げる者が研究分担者又は研究補助者となっている研究については、当人による研究費使用を認めない。
(2)競争的資金申請の不採択
  1. 文部科学省所管の競争的資金で、不正行為が認定された時点で3の者が研究代表者として申請されているものについては採択しない。
  2. 文部科学省所管の競争的資金で、不正行為が認定された時点で3の者が研究分担者又は研究補助者として申請されているものについては、当人を除外しなければ採択しない。
(3)不正行為に係る競争的資金の返還

 不正行為があったと認定された研究に配分された研究費の一部又は全部の変換を求める。返還額は1、2を原則としながら、悪質性などを考慮して定められる。

  1. 未使用研究費等の返還
    ア)当該研究全体が打ち切られたときは、研究グループに対し、未使用の研究費の返還及び契約済みであるが、納品されていない場合や未使用の場合の機器等の物品の契約解除・返品とこれに伴う購入費の返還を求める。
    イ)当該研究全体が打ち切られていないときは、3のすべての者に対し、これらの者に係る未使用の研究費の返還や及び契約済みで、納品されていない場合や未使用の場合の機器等の物品の契約解除・返品とこれに伴う購入費の返還を求める。
  2. 研究費全額の返還
    研究の当初から不正行為を行うことを意図していた場合など極めて悪質な場合は、3の1及び2に掲げる者に対し、これらの者に係る当該研究に対して配分された研究費の全額の返還を求める。
(4)競争的資金の申請制限

 3のすべての者に対して、文部科学省所管のすべての競争的資金の申請を制限する。制限期間については、不正行為の重大性、悪質性及び不正行為への関与の度合に応じて委員会が下記の区分に従い定める。なお、他府省所管の競争的資金を活用した研究活動に不正行為があった者による申請も、他府省等が行う不正行為の認定に応じて同様に取り扱うものとする。

  1. 3の1に掲げる者
    すべての文部科学省所管の競争的資金に対する研究代表者、研究分担者(共同研究者)及び研究補助者としての応募について、不正行為と認定された年度の翌年度以降2年から10年。
  2. 3の2に掲げる者
    すべての文部科学省所管の競争的資金に対する研究代表者、研究分担者(共同研究者)及び研究補助者としての応募について、同じく2年から10年。
  3. 3の3に掲げる者
    すべての文部科学省所管の競争的資金に対する研究代表者、研究分担者(共同研究者)及び研究補助者としての応募について、同じく1年から3年。

5 措置と訴訟との関係

(1)措置後に訴訟が提起された場合

 資金配分機関が措置を行った後、調査機関に設置された調査委員会が行った不正行為の認定について訴訟が提起されても、認定が不適切である等、措置の継続が不適切であると認められる内容の裁判所の判断がなされない限り、措置は継続する。

(2)措置前に訴訟が提起された場合

 措置を行う前に、調査機関に設置された調査委員会による不正行為の認定について訴訟が提起された場合についても、訴訟の結果を待たずに措置を行うことを妨げない。

(3)措置後の訴訟において認定が不適切とされた場合
  1. 措置を行った後、調査機関に設置された調査委員会による不正行為の認定が不適切であった旨の裁判が確定したときは、ただちに措置は撤回される。措置により研究費等の返還がなされていた場合は、資金配分機関は、その金額を措置対象者に再交付することができる。
  2. 1のとき、措置により研究費の打ち切りがなされていた場合は、資金配分機関は打ち切りの対象となった研究の状況に応じて交付を再開するか否か判断する。

6 措置内容の公表

 資金配分機関は、措置を決定したときは、原則として、措置の対象となった者の氏名・所属、措置の内容、不正行為が行われた競争的資金名及び当該研究費の金額、研究内容と不正行為の内容、調査機関が行った調査結果報告書などについて、速やかに公表する。ただし、告発等がなされる前に取り下げられた論文等における不正行為に係る被認定者の氏名・所属を公表しないことができる。なお、告発者名については、告発者の了承がなければ公表しない。

7 措置内容等の公募要領等への記載

 資金配分機関は、不正行為を行った場合に資金配分機関がとる制裁的措置の内容や措置の対象となる者の範囲について、競争的資金の公募要領や委託契約書(付属資料を含む。)等に記載し、研究者がそれをあらかじめ承知して応募あるいは契約するように取りはからうものとする。

お問合せ先

科学技術・学術政策局政策課

(科学技術・学術政策局政策課)