研究活動の不正行為に関する特別委員会(第1回) 議事要旨

1.日時

平成18年3月17日(金曜日)13時~15時10分

2.場所

丸の内東京會館11階「エメラルドルーム」

3.出席者

委員

石井主査、金澤委員、坂内委員、末松委員、寺西委員、中西委員、松本(和)委員、松本(三)委員、村井委員、吉田委員

文部科学省

小田科学技術・学術政策局長、河村科学技術・学術総括官、吉川政策課長、田中基盤政策課長、江﨑企画官

4.議事要旨

(1)主査代理の指名について

 主査代理として松本(和)委員が指名された。

(2)運営規則について

 運営規則について、資料2のとおり決定された。

(3)主査等の挨拶

 石井主査及び小田科学技術・学術政策局長より挨拶があった。

(4)研究活動の不正行為に関する特別委員会、検討上の論点について

 事務局から、資料3~7に基づき、特別委員会設置の趣旨や不正行為の現状等について説明があった。
 また、石井主査から、「不正行為委員会の検討課題メモ」に基づき、説明があった。主な内容は次のとおりである。

  • 本委員会の使命は、公金の支援を受けて行われている研究において不正行為があった場合の措置が主な課題であるが、単なる対応策だけの議論では不十分である。
  • 不正行為というものは、少数の不心得者が起こした問題との認識では、根本的な解決を求めることは難しく、構造的な問題と捉えて、その議論が必要である。このような問題を踏まえ、研究成果の発表やその発表に向けての研究活動等から出発して問題を考えることが必要である。
  • 研究や成果の発表は、研究者自身が学会、研究者コミュニティや社会に対してきちんと根拠を示すことが前提であり、根拠を示すことができない研究成果は、真の意味で研究成果とは言えない。
  • 研究者として守るべき常識のようなものがあるので、それがきちんとなされていないことが広い意味での不正行為であると考えられる。
  • 無実を明らかにするチャンスを、どのように、どれだけ保証するかが大事である。

 引き続き、意見交換が行われた。
 主な内容は次のとおりである。(○:委員、△:事務局)

○ 研究の対象として、プロジェクト研究を外し競争的資金に限った理由を教えていただきたい。

△ 競争的資金は、特定の研究課題に資金を提供し、不正行為と研究費の相関関係がある程度はっきりしているものである。不正行為があったらどういう手続きで対応しなければならないのか考える必要がある。例えば研究費を止めたり、出さなかったりすることもあるので、国やその資金配分機関が、責任をある程度明確にできるものとして、競争的資金をターゲットにしたいと考えている。

○ 国や国の機関が、一定のプロジェクト研究のようなものを計画して、大学等の研究機関の研究者に委託するなどの形態での研究において、不正行為が起きた際の対応については、本委員会では議論しなくても良いということか。

△ 競争的資金の対極である、交付金を活用した研究において、研究者が不正を行った場合には、その機関の中の規律として何らかの措置を講じることはあると思う。

○ 交付金と言うのは、運営費交付金のことか。

△ 国立大学や研究独法に配分されている運営費交付金のことである。これと競争的資金との中間に委託費があると考えられるが、ここでの議論においては、委託費を含めて考えているという前提で良いと思う。

○ 国として出しているお金の種別という意味で違いがあることは分かるが、研究をしている側から見て、違っているということを意識していない部分が多く、研究成果にもそれ程違いはない。公的なプロジェクト研究も含むということを明確にした方が良いと思う。

△ 競争的資金は、不特定の多数の人に対して一定のルールのもとに、研究を行い、成果を出してもらえば良いという緩い関係になっているので、不正行為があった場合のルールを決めておかないと、その関係が不明確になるということがある。そのため競争的資金を活用した研究に限っているが、根本的に対応の方向性は同じだと思うので、余り競争的資金ということを考えず審議していただき、最終的には競争的資金特有の問題があるので整理が必要かもしれないと思っている。

○ それでは、本委員会で議論を進めるに当たっては、法人に対して一般的に措置される運営費交付金は、除くこととして、研究課題と研究費の支援が1対1で特定されているような場合については、一緒に議論をお願いしたい。最終的に報告を取りまとめる際に、どういうふうに仕分けるのかどうか、今後の議論ではっきりさせたい。

○ 単純化して考えると、不正行為にはお金を取る、取りたくなるような背景、あるいは価値観があるのではないか。不正に対する罰則をどうするかの前に、お金が全てというような、ある意味では環境があるのではないか。価値観、倫理、方法論、罰則化の切り口がある。最近の論文の捏造等を見ると、ネイチャー、サイエンスに関わるような論文が多い。研究成果は、ネイチャーに論文を出すことやインパクトファクターの多い論文に出すことだけではないのに、そこが強調されて、どうもお金を取ることが大事だという環境が、背景としてあると思う。情報の分野では、論文と同時に成果をプログラムにして、それをオープンソースで公開するというやり方が多くなってきている。研究成果を公開する方法はいろいろある。次に不正行為の対応として、倫理綱領のようなものを出す。さらに、罰則プロセスとして、誰が告発し、誰がその審判を行い、どういう罰則を与えるかということがある。この特別委員会では、このうち、方法論や罰則について議論がされるという理解で良いか。

○ 先ほど構造的問題だと言ったのは、今言われたことを念頭に置いているのであり、議論の直接の対象にはならないが、常に我々はその問題を考えなければならないと思う。

○ 事務局作成のたたき台や石井主査のメモにも「告発」とあるが、不正行為の可能性を発見した場合には告発が前提になっているのか。告発は、有効な手段であるが、日本的な風土の中では難しいと思う。不正行為への対応というのは、いかに防止するか、不正行為をどうするかが目的であって、処罰すること自体が目的ではない。不正行為がなくなれば良いという観点であれば、例えば競争的資金で行っている研究の論文について、ランダムに調べてみるという方法も防止効果があると思うがいかがか。

○ 告発があった場合に問題を限ったつもりはない。ただ、実際問題として、今までは誰かがこれはおかしいのではないかと言って対応したケースが多い。今の発言のランダムにチェックするという方法は可能かどうか、あるいは有効性があるかについてはどうか。

○ 不正の可能性を見いだすきっかけは、告発だけとは限らない。本来は論文を投稿したところで見いだすのが一番良いと思うが、それが現実にどのぐらいできるかというのは検証する必要がある。レフェリーの段階で見つかることは極めて少なく、よって、論文として出た後の処理の問題だと思う。それが告発になるかもしれないし、自分たちの仲間うちで「これは間違っていた」として撤回することもある。そういうことを全部含めると、告発と言うのは一つの手段に過ぎないと考え、それ以上に時々疑いもないのに、「もう一回やってみろ」というのは本末転倒ではないかと思う。

○ 事柄としては非常に重要で、防止策として提案してもらったが、その有効性や妥当性等について、問題意識として持ち続けて、議論をお願いしたい。

○ 今考えなければならないことの一点目は、現場の研究者は、目立つ研究でないと助成されない、また目立った研究をしないと良い地位が期待できないのではないかと思ってしまう傾向があり、それが高じてしまうとある一線を越える恐れがある。これは今の研究現場が抱える一番の問題だと思う。二点目は研究というものはコミュニティあるいは複数の者の中で行われているということである。小さい場合には研究室、また研究グループ、さらには学会の中での議論を通して、おかしな結果について、また不正行為については淘汰されてきたはずである。ただ、現在ではそのコミュニティやグループ、学会などによる自浄作用が十分機能していない面があるのでその強化が必要である。もう一つの点は研究現場では成果だけを挙げれば良い、実験だけできれば良いという研究者が生まれているのではないかと思われることである。これは教育の問題でもあるが、研究を教育する責任者は、研究とはどういうものか、成果だけが財産ではなく、研究のプロセスが一番の財産であるということを余り教えていない場合があるのではないかと思われる点である。また、研究者である前に、人間としての常識も備えるような教育にも心がけることが大切だと思う。以上のことを考えると、研究者のガイドラインについては、どこからお金が来ようと、どんな研究であろうと、根本には共通のものがあるので、競争的資金という各論に落とす前に、きちんと議論しておくべきだと思う。

○ 自浄作用の問題は非常に重要だと思っている。先ほど学会や日本学術会議という比較的大きなものだけを挙げたが、各レベルで研究者コミュニティがあると思うので、これらの役割をきちんと評価し、また期待していく必要があると思っている。

○ ネイチャー、サイエンスといえども参照されないものが半分以上もあり、論文の中には誤りもあると我々は受け止めている。社会全般でも、同様に、冷静に論文捏造を受け止め、不正行為の背景やそのようなことも含めて課題があって、その中で罰則のプロセスもきちんとするという前提であると思う。本委員会として、まず全体像として問題の所在等を指摘をした上で、個々の対応を考える方が良いと思う。ただ、大胆な研究や成果を発表していくことも必要で、研究を萎縮させないという意味では、余り強い罰則が先行することはどうかと思う。まず研究者の多くは良い研究ができたと思って発表しても、間違えていたというのは結構多く、また、そのようなチャレンジも、レフェリーが見落として論文として出ることもあることを認識しておかないといけない。例えば研究はネイチャーやサイエンスといったインパクトファクターの高い論文誌に出ることだけでなく、いろいろな背景や貢献のあり方がある。我々としても時間がかかり難しいが、このようなものを評価していくことも必要である。個々の研究者は、目立ちたいという思いや研究費が欲しいというのは当たり前だと思うので、余り突出した評価、偏った評価をすることによって、不正が助長されることがないようにしなければならないが、研究者コミュニティとしては、どういう形で貢献をしていくか、冷静にあるべき姿を再考する良い機会でもある。良いことを思いついたら発表したいわけで、その中にはレフェリーに漏れて間違うこともあり、あるいはそれを作為的にやる場合もあると冷静に受け止める環境も必要である。不正行為が出てきたことで、そこだけと押さえることは国民への説明責任という意味で大切なことだが、色々な課題を整理した方が良いと思う。

○ 余り細かく厳しくやることによって、ディスカレッジするようなことがあってはならないということに主眼があるのか。

○ ディスカレッジするなと言っているわけではなく、全体のバランスである。研究活動をエンカレッジし、その中で不正行為が起こらないようになっていくためには、どこかを押さえたらすぐに解決するわけではなく、色々な課題がある。そこで、構造を明確にした上で、きちんとした即効性のある対応が必要である。対応の部分だけが今回出されるとディスカレッジするだけで、一部の対症療法にしかなっていないと思う。

○ 具体的な施策やシステムの議論をする時には、いつもその問題に立ち戻って考えることとしたい。

○ この問題に行政府がどこまで関与できるのかということにためらいがあるのは事実であり、この問題は、本来は研究者一人一人の自律性と自主性に基づいて取り組むべき問題で、そこに先ほどの未然防止の根本が入っていると思う。これは、本来、研究者コミュニティの世界で対応していただくことであり、日本学術会議では、前々期、前期と議論が深められ、今期、科学者の行動規範を定めるべく検討が進められている。学会も取り組みを強化していただきつつあり、それが基本的な前提だと思う。競争的資金のルールは交付要項等の内容と補助金等適正化法ぐらいである。競争的資金は、場合によっては、組織に属さなくても能力さえあれば、これを獲得し、その成果を出すことによって評価される。このようなことから、そういう世界に対するルールは、基本的にその応募要領等にきちんとルールを書き、受け取る側がそれを踏まえて研究を行うことが、税金を使っている以上ある程度必要だろうということで、本委員会を設置していただいた。そのため、できるだけ研究者の自主性、自律性に期待し、日本学術会議や研究者コミュニティの議論を待ちたい。行政としては、これまでいただいたご議論を受け止め、頭に常に置きながら、競争的資金の対応を中心に議論していただきたい。

○ 今、内部告発的なことが問題になっていて、各大学等で公益通報者の保護について整備を始めている。公益通報制度との一部オーバーラップと言うのがあり得るか、考える必要があるのではないか。

○ 競争的資金と別の資金とは区別が難しいので、ガイドラインとしては、その機関や研究者に対して、不正行為は何なのか、機関はどのような認定や対応をするのかということも含めて検討した方が良いのではないか。

○ 国の研究支援を受けている研究者が、不正行為を行った場合の措置に関する検討が本来の使命であるが、不正行為への対応に関する基準作り、あるいは不正行為の認定の手続き、その防止策とともに、先ほどから議論がある研究のあり方のような基本的な問題についても、自浄作用などは研究者コミュニティや研究機関の問題であるものの、まちまちになっても良くないので、共通の部分について、示唆を与える。このためにも、問題の全体をきちんと押さえておくという意味できちんと議論しておく必要がある。事柄の性質としては、本委員会のミッションと、そのミッションがうまく働くための前提である研究者コミュニティや研究機関における対応が、ある種のきちんとした整合性を持っていなければならない。これについても関心を払いながら検討を進めていきたい。本委員会が何をどこまでやるかということ自体については、オープンで議論を進めながら、これは重要だねと言ったら少し深入りしても良いだろうと思う。

△ 競争的資金は他省にもあるが、文科省が先行しており、早く一定の方向性を出すことが期待されている。不正行為に対する共通ルール作りは、一部先行している研究機関があるが、それらにも注意しながら行政として共通化していく努力はしたい。

○ ファンディング・エージェンシーの立場から不正の問題にどう取り組むかということと、日本学術会議のような同業者団体としてどう取り組むかということは立場が違うので、見取図を作って役割分担を見通しの良い形にしておいた方が良いと思う。学問の世界では、本来、不正をしないのが当たり前のことであり、不正をしないから褒められるのかというと、誰も褒めないと言うのは当然のことである。我々がここにいること自体、ある意味、非常に恥ずべきことであると感じる。不正が起こった時にどうするかということをきちんと決めることは重要であるが、学問の立場からすると、それだけでは十分でない。なぜなら、それは当たり前にもどるだけのことだからである。学者として、当たり前のことから先に行きたいのであり、例えば、質の良い仕事をしたい。そういう知の品質管理の責任を課せられていると思う。不正をした人をどう告発して、どう責任をとらせるかということの先に、私たちの本来目指している目標があることまで含めた議論があればと思う。それは、学者でもない普通の人にとっても説得力のあるものとなるのかもしれない。

○ データの捏造、改ざん、盗用について、グレーゾーンというような非常に難しい問題と考えられるのは、例えば、データは確かにあるが、都合よく取捨選択すると一定の解釈を導くことにより、故意にある方向付けをすることがあると思う。これらの問題について、行政が直接関与していく方向を持って検討する場合は、より具体性を持たせないといけないが、その具体性の中に今言ったような言葉だけでは定義しきれない難しい問題がある。科学者のものの考え方によって左右されてしまう問題ではあるが、ここでは具体性のあることを議論する必要があると思う。

△ 事務局が今までどう検討してきたかといえば、まず研究者のモラルの問題はできるだけ研究者コミュニティで自律的にやっていただく話であろう。日本学術会議とは十分に連携をとるべく、既に情報交換をしつつ、この場も設定させていただいている。また、研究費にどう対処するかということだけではなく、本来的にはその研究の環境の問題や評価のあり方等、政策に関わる多くの問題がこの裏にはあることも承知している。ただ総合科学技術会議からの指令もあり、研究費に対してきちんとした対処の仕組みを組み込んでおくことが、対外的な研究政策を持っている側の責任としても必要になったという状況がある。そこで、この場での検討を、テクニカルな部分も含めて、比較的場を狭めたところから始めることをお願いした次第である。特に競争的資金に限る必要はなく、プロジェクト研究も一定の目的の下に一定の人たちに研究費が配分されるが、プロジェクトというのは、非常に多様性がある。競争的資金も多様性があるが、共通の定義等が今までの蓄積の中でできてきていた部分があり、そこを先行して検討することが今回の事務局としての検討に関する制度設計になっている。このあたりを若干勘案していただければありがたい。

(5)今後の予定について

 事務局より、今後の予定等について説明があった。

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科学技術・学術政策局政策課

(科学技術・学術政策局政策課)