第2章 科学技術の戦略的重点化

これまでの重点化の進捗と成果、今後の我が国の経済社会状況や国際的な情勢を展望すれば、効果的・効率的な科学技術政策の推進という観点から投資の重点化は引き続き重要であり、政府研究開発投資の戦略的重点化を更に強力に進める。その際、第3期基本計画においては、第2期基本計画で進めた研究分野の重点化にとどまらず、分野内の重点化も進め選択と集中による戦略性の強化を図るとともに、基本計画において基本理念の下で新たに設定する6つの政策目標との関係を明確にしていく。

1.基礎研究の推進

多様な知と革新をもたらす基礎研究については、一定の資源を確保して着実に進める。
人類の英知を生み知の源泉となる基礎研究は、全ての研究開発活動の中で最も不確実性が高いものである。その多くは、当初のねらいどおりに成果が出るものではなく、地道で真摯な真理探求と試行錯誤の蓄積の上に実現されるものである。また、既存の知の枠組みとは異質な発見・発明こそが飛躍知につながるものであり、革新性を育む姿勢が重要である。
基礎研究には、人文・社会科学を含め、研究者の自由な発想に基づく研究と、政策に基づき将来の応用を目指す基礎研究があり、それぞれ、意義を踏まえて推進する。すなわち、前者については、新しい知を生み続ける重厚な知的蓄積(多様性の苗床)を形成することを目指し、萌芽段階からの多様な研究や時流に流されない普遍的な知の探求を長期的視点の下で推進する。一方、後者については、次項以下に述べる政策課題対応型研究開発の一部と位置付けられるものであり、次項2.に基づく重点化を図りつつ、政策目標の達成に向け、経済・社会の変革につながる非連続的なイノベーションの源泉となる知識の創出を目指して進める。
なお、基礎研究全体が下記2.に基づく重点化の対象となるのではなく、例えば科学研究費補助金で行われるような研究者の自由な発想に基づく研究については、政策課題対応型研究開発に含まれないことを明確化し、理解の徹底を図る。
また、研究者の自由な発想に基づく研究の中でも、特に大きな資源の投入を必要とするプロジェクトについては、研究者の発意を基に厳格な評価を行った上で、国としてもプロジェクト間の優先度を含めた判断を行い取り組む。

2.政策課題対応型研究開発における重点化

(1)「重点推進4分野」及び「推進4分野」

第2期基本計画において、国家的・社会的課題に対応した研究開発の中で特に重点を置き、優先的に研究開発資源を配分することとされたライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料の4分野については、次のような観点から、引き続き本計画においても、特に重点的に研究開発を推進すべき分野(「重点推進4分野」という。)とし、次項以下の分野内の重点化の考え方に基づきつつ優先的に資源配分を行う。

  1. 3つの基本理念への寄与度(科学技術面、経済面、社会面)が総合的に見て大きい分野であること。
  2. 国民の意識調査から見て期待や関心の高い分野であること。
  3. 各国の科学技術戦略の趨勢を踏まえたものであること。
  4. 戦略の継続性、研究現場への定着等実際的な観点からも適切であること。

また、上記の重点推進4分野以外のエネルギー、ものづくり技術、社会基盤、フロンティアの4つの分野について、引き続き、国の存立にとって基盤的であり国として取り組むことが不可欠な研究開発課題を重視して研究開発を推進する分野(「推進4分野」という。)と位置付け、次項以下の分野内の重点化の考え方に基づきつつ適切な資源配分を行う。

(2)分野別推進戦略の策定

重点推進4分野に該当する研究開発であっても十分な精査なくして資源の重点配分を行うべきではなく、また、推進4分野での研究開発であっても精査がないままに投資の戦略的配分の対象から除外することは適切ではない。そこで重点推進4分野及び推進4分野について、総合科学技術会議は、政策目標の実現に向けて、8分野それぞれの分野別推進戦略を、以下のような分野内の重点化の考え方に基づいて策定し、各分野において重要な研究開発課題を選定する。その際、網羅的・包括的な研究開発課題の設定とならないよう十分に配慮する。

  1. デルファイ調査などにより科学的インパクト、経済的インパクト、社会的インパクトを軸とした将来的な波及効果を客観的に評価すること。
  2. 我が国の国際的な科学技術の位置・水準を明確に認識(ベンチマーク)した上で投資の必要性を明確化すること。(強みを活かし競争優位を確実にする研究開発課題なのか、強い社会ニーズがあり課題解決すべき研究開発課題なのか、パラダイムシフトを先導する研究開発課題なのか等)
  3. 知の創造から社会・国民への成果還元に至る各々の研究開発の段階に応じて、本計画で設定された政策目標達成への貢献度、達成までの道筋等の観点から、投資の必要性を明確化すること。
  4. 官民の役割を踏まえ、研究開発リスク、官民の補完性、公共性等の観点から、投資の必要性を明確化すること。

(3)「戦略重点科学技術」の選定

重要な研究開発課題には、過去の蓄積を活用することが主眼となり予算が増加しないもの、一定の予算内で息長く研究開発を持続させるべきもの等様々な投資のパターンが存在する。従って、分野別推進戦略の策定に当たっては、基本計画期間中に予算を重点配分する研究開発課題を更に一定の考え方に基づいて絞り込む必要がある。そこで総合科学技術会議は、以下のような視点から、各分野内において基本計画期間中に重点投資する対象を「戦略重点科学技術」として選定し、最終的に分野別推進戦略に位置付ける。

  1. 近年急速に強まっている社会・国民のニーズ(安全・安心面への不安等)に対し、本計画期間中において集中投資することにより、科学技術からの解決策を明確に示していく必要があるもの。
  2. 国際的な競争状態及びイノベーションの発展段階を踏まえると、基本計画期間中の集中投資・成果達成が国際競争に勝ち抜く上で不可欠であり、不作為の場合の5年間のギャップを取り戻すことが極めて困難なもの。
  3. 国が主導する一貫した推進体制の下で実施され世界をリードする人材育成にも資する長期的かつ大規模なプロジェクトにおいて、国家の総合的な安全保障の観点も含め経済社会上の効果を最大化するために基本計画期間中に集中的な投資が必要なもの。

3.分野別推進戦略の策定及び実施に当たり考慮すべき事項

(1)新興領域・融合領域への対応

20世紀における偉大な発明・発見に際して、異分野の知の出合いによる触発や切磋琢磨する中での知の融合が果たした役割は大きい。21世紀に入り、世界的な知の大競争が激化する中、新たな知の創造のためには、このような異分野間の知的な触発や融合を促す環境を整える必要がある。8つの分野別推進戦略を策定する際にも、これら新興領域・融合領域へ機動的に対応しイノベーションに適切につなげていくことに十分に配慮して進める。
また、国際的に生産性が劣後しているサービス分野では科学技術によるイノベーションが国際競争力の向上に資する余地が大きいほか、科学技術の活用に関わる人文・社会科学の優れた成果は製造業等の高付加価値化に寄与することが期待されることから、イノベーション促進に必要な人文・社会科学の振興と自然科学との知の統合に配慮する。

(2)政策目標との関係の明確化及び研究開発目標の設定

各分野別推進戦略において選定される重要な研究開発課題については、それぞれが基本計画で示した政策目標及びそれに基づき定められる個別政策目標の達成に向けて、研究開発として目指す科学技術面での成果(研究開発目標)を明確化する必要がある。その設定に当たっては、基本計画期間中に目指す研究開発目標及び最終的に達成を目指す研究開発目標を設定することを基本とする。また、官民の役割分担、各公的研究機関の役割を含め、研究開発目標の達成が政策目標の達成に至る道筋も明らかにすることによって、科学技術成果の社会・国民への還元についての説明責任を強化する。

(3)戦略重点科学技術に係る横断的な配慮事項

1.社会的課題を早急に解決するために選定されるもの

本章2.(3)1に該当する科学技術は、近年世界的に安全と安心を脅かしている国際テロ、大量破壊兵器の拡散、地震・台風等による大規模自然災害・事故、SARS(サーズ)・鳥インフルエンザ等の新興・再興感染症などの社会的な重要課題に対して迅速・的確に解決策を提供するものである。その研究開発の実施に当たっては、国が明確な目標の下で、専門化・細分化されてきている知を、人文・社会科学も含めて横断的に統合しつつ進めることが必要であり、総合科学技術会議は、このような社会的な技術について、分野横断的な課題解決のための研究開発への取組に配慮する。

2.国際的な科学技術競争を勝ち抜くために選定されるもの

本章2.(3)2に該当する科学技術については、既存の知の体系の根源的な変革や飛躍的な進化に向けた研究競争が激化しているもの、我が国固有の強みを活かして追随が困難な高付加価値化を一刻も早く確立すべき段階にあるもの、大きな付加価値獲得に波及する限界突破を狙う国際競争をリードする好機に至っているものなど、的確な国際的ベンチマーキングを踏まえた競争戦略に基づき、揺るぎない国際競争力を築くための研究開発へ選択・集中することに配慮する。

3.国家的な基幹技術として選定されるもの

本章2.(3)3に該当する科学技術に対しては、国家的な大規模プロジェクトとして基本計画期間中に集中的に投資すべき基幹技術(「国家基幹技術」という。)として国家的な目標と長期戦略を明確にして取り組むものであり、次世代スーパーコンピューティング技術、宇宙輸送システム技術などが考えられる。これらの技術を含め総合科学技術会議は、国家的な長期戦略の視点に配慮して、戦略重点科学技術を選定していく中で国家基幹技術を精選する。また、国家基幹技術を具現化するための研究開発の実施に当たっては、総合科学技術会議が予め厳正な評価等を実施する。

(4)分野別推進戦略の効果的な実施 -「活きた戦略」の実現

8つの分野で策定される分野別推進戦略について、最新の科学技術的な知見、新興領域・融合領域等の動向を踏まえて、基本計画期間中であっても、必要に応じて重要な研究開発課題や戦略重点科学技術等に関しての変更・改訂を柔軟に行う。また、総合科学技術会議による資源配分方針立案に向けた最新知見の吸収、概算要求前の資源配分方針の提示、概算要求に対する優先順位付け等の実施、次年度の資源配分方針立案に向けた準備といった年間の政策サイクルを確立し、関係府省や研究機関のネットワーク・連携を進める基盤となる「活きた戦略」を実現していく。
また、関係府省及び関係機関が、基礎的段階から実用化段階までの広い研究開発段階を概観し、先端的な研究開発動向、技術マップ、政策目標につなげていくロードマップ等について、恒常的に意見交換し情報を共有していくことは、「活きた戦略」を府省横断的に展開する上で有意義である。総合科学技術会議も円滑な意見交換・情報共有の促進に努める。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)