資料2-3 2040 年を見据えた大学院教育のあるべき姿 ~社会を先導する人材の育成に向けた体質改善の方策~(審議まとめ(案))要旨

資料2‐3
※2019年1月10日(木曜日)中央教育審議会大学分科大学院部会(第91回)配布資料



 2040年を見据えた大学院教育のあるべき姿
 ~社会を先導する人材の育成に向けた体質改善の方策~
 (審議まとめ(案))要旨



1.2040年頃に直面する社会の変化と「知のプロフェッショナル」
  Society 5.0等に向けた社会の変化の中で、大学院は、知の生産、価値創造を先導する「知のプロフェッショナル」の育成を中心的に担うことが期待される存在である。
  「知のプロフェッショナル」には、
    1学士課程で身に付けることが求められる論理性や批判的思考力、コミュニケーション能力等の普遍的なスキル、リテラシーのいずれも高い水準で身に付けていること
    2自ら課題を発見し仮説を構築・検証する力等の、大学院の高度な教育研究を通じてこそ身に付くことが期待される、社会を先導する力、様々な場面で通用するトランスファラブルな力
    3各セクターを先導できる特定の狭い領域だけに留まらない高度な専門的知識が求められ、あわせて、STEAM※、データサイエンス、高い水準の幅広い教養が必要である。
  ※STEAM=Science, Technology, Engineering, Art, Mathematics

2.大学院教育が2040年の需要に応えるために
  我が国は、諸外国に比べ修士・博士学位取得者の割合が低く(修士は約1/3、博士は約1/2。特に人文・社会科学で低い。)、2040年に向けた「知のプロフェッショナル」の確保に大いに問題が生じる可能性がある。一方、入学定員の未充足が常態化している専攻が見られており、何故このような状況となっているのか改めて真剣に検討し、早急に改善を図る必要がある。
  「博士課程教育リーディングプログラム」等に取り組んだ大学院においては、大学院教育の実質化、経済的支援、国際経験を積む機会の充実、産業界と連携した教育研究等が進展している一方で、各大学が自らの強みや特色を踏まえた人材養成が出来ているとは言い難いという指摘がなされており、特に博士後期課程は、大学院のカリキュラムと社会や企業の期待との間にギャップがあるとの指摘も根強い。
  こうした課題が、若手研究者ポストの確保の困難さという問題と相まって、キャリアパスに対する不安を招き、学生の大学院への進学を躊躇させる原因となっており、今後、2040年の社会の需要に応えていくためにも、早急に社会のニーズへのより一層の対応をはじめとした「大学院教育の体質改善」とも言える取組が必要である。

3.大学院教育の改善方策
1三つの方針を出発点とした学位プログラムとしての大学院教育の確立
  大学院教育の体質改善の鍵は、大学院教育の実質化の一層の推進にあり、学位プログラムとしての大学院教育の確立が大学院教育全体の質向上に必須であることは累次指摘されている。
  各大学は、四つの人材養成機能(1研究者養成、2高度専門職業人養成、3大学教員養成、4知識基盤社会を多様に支える高度で知的な素養のある人材の養成)と「知のプロフェッショナル」の姿を基本としつつ、自らの社会的機能や人材養成目的・教育課程等を改めて検証することが必要である。
    
【具体的取組】
  ・ 三つの方針(「学位授与の方針」、「教育課程編成の方針」、「入学者受入れの方針」)の策定・公表の義務付け   
  ・ 三つの方針の点検・評価等を通じた継続的な大学院教育の検証・改善等による、学位の質を担保する(内部質保証が機能する)教学マネジメントの確立
  ・ 人材養成目的に即した教育研究組織の柔軟な見直し(特に、学生の進路に責任を負う意識の下、修了者の状況の把握・追跡等を踏まえ、進路の確保が見込めない専攻等について、定員の縮小や社会的ニーズの高い専攻等への振替を含む見直しが必要。)
 
2各課程に共通して求められる教育の在り方
  大学院における教育課程の編成については、学修課題を複数の科目等を通して体系的に履修し、基礎的素養と専門知識の応用力等を培うコースワークの充実が必要である。
  また、専門的知識と普遍的なスキル・リテラシー等を身に付けさせるための取組が期待される。
  さらに、  俯瞰的な視点や国際的な感覚を養い、切磋琢磨を促すための取組が重要と考えられる。

【具体的取組】
  ・ 「博士課程教育リーディングプログラム」の優れた取組の普及、「卓越大学院プログラム」等を通じた優れた事例の創出・普及
  ・ ダブルメジャー、メジャー・マイナーや、「学部・研究科等の組織の枠を超えた学位プログラム」等の活用
 ・ ダブル・ディグリー、ジョイント・ディグリー等の推進

3各課程ごとに求められる教育の在り方
 各大学が、三つの方針に照らして、どの課程で教育活動を展開していくことが適切であるか考慮する必要があり、各課程において主として想定される目的・役割、重点的に行われることが求められる教育活動等について整理を試みた。各大学は、このような整理も考慮しながら、自らの強み・特色や創意工夫を生かして付加価値を付けることが期待される。

【修士課程】
 修士課程は、「高度専門職業人」「高度で知的な素養のある人材」の養成を主たる目的とするものと考えられ、俯瞰的な能力が養われるよう、コースワークと研究指導を適切に組み合わせて実施する必要がある。また、社会経済の高度化・複雑化に伴い、学部段階の教育との有機的な接続を図ることが必要となってきている。

【具体的取組】
  ・ 学部段階でリベラルアーツが展開されている場合、その教育の成果を引き継ぎ、メジャー(主専攻)・マイナー(副専攻)の深化を図るための教育を大学院で行うこと
 ・ 学部段階で複数の専攻分野の履修や、普遍的なスキル、リテラシーの育成を図ってきた場合に、その内容の深化を図るための教育を大学院で行うこと
   
 高度専門職業人の養成に当たっては、専門職大学院の課程においては行うことが制度上予定されていないような教育を展開することが求められる。こうした教育課程を編成するに当たっては、大学院設置基準で定められた修了に必要な単位数を超えた授業科目等の実施も考えられる。

【具体的取組】
  ・ 特定の職業に即時に結びつくわけではないが、様々な職業を担う上で必要となる高度かつ広範な専門的能力と高度の汎用的能力をより重点的に培うことを意識した教育
  ・ 特に職業社会での活用が可能であり、社会の潜在的な要求を顕在化させることで社会的価値の創出にもつなげられる実践的な研究能力を育成することを意識した教育
  ・ コースワークを充実させる観点から、実務家教員の積極的な配置を後押しするための、実務家教員の配置についての法令上の位置付け等も含めた在り方の検討
  ・ 産業界等との連携により、教育課程を編成し、及び円滑かつ効果的に実施するため、専門職大学院における「教育課程連携協議会」に類する枠組みを活用

【博士課程】
 今後の博士課程における人材養成に当たっても、極めて高度な専門性に加えて、博士課程にふさわしいレベルの幅広い能力を培うため、基礎となるコースワーク、博士論文研究基礎力審査及び研究指導について、それぞれの趣旨を踏まえて適切な規模や手法により実施することが重要である。その際、区分制博士課程における博士前期課程は、修士課程とは異なる役割を有するものであることに改めて留意する必要がある。


【具体的取組】
  ・ 人材養成目的に照らして最適な教育課程の編成(博士後期課程に進学することが見込まれない部分に係る博士前期課程の一部の定員を、当該博士課程とは異なる修士課程として切り出すとともに、残りの部分を5年一貫の博士課程として整理することや、区分制博士課程を維持する場合にあっても博士課程内部でプログラム分けを適切に行うことなど)
  ・ 社会の求める教育とのミスマッチの解消(主専攻以外の科目の体系的履修、実務家教員による実践的教育、企業等メンターの活用等)
  ・ 博士後期課程のプレFD実施や情報提供の努力義務化
  ・ 研究者・大学教員の養成における、国際感覚を養うための海外長期留学等、産業界との共同研究等
  ・ 高度専門職業人の養成における、実務の経験を有する教員の配置についての法令上の位置付け等も含めた在り方の検討、博士後期課程レベルの高度専門職業人養成について新たな課程の創設に関する検討
 
【専門職大学院における課程】
 専門職大学院については、教育課程、教員組織、認証評価及び情報公開に関して、以下のような取組が必要である。

【具体的取組】
  ・ コアカリキュラムの策定状況や教育課程への反映状況等の国による把握・情報発信
  ・ 実務家教員用のFDの開発・実施等、実務家教員の最新の情報や最先端の技術等を踏まえた教育の実施状況を確認するための教育課程連携協議会の活用等
  ・ 国際的な評価機関による認証の促進に向けた検討
  ・ 専門職大学院の効果に関わるより具体の情報の収集、公開の促進
 
4学位授与の在り方
 学位は、大学が、教育の課程を修了し当該課程の目的とする能力を身に付けた者に対して授与するもの、という原則が国際的にも定着しており、今後更なるグローバル化が見込まれる中で、留学生の受入れや修了生の海外での活躍を促進する観点から、国際的な通用性があることを前提とした学位の質保証に更に努めることが重要である。
 一方、未だ我が国においては、いわゆる「碩(せき)学泰斗」の証として博士の学位を認識している大学教員もいるという指摘もあり、円滑な学位授与、研究指導体制等の強化、学位審査の透明性・公平性の確保を引き続き図っていくことが必要。


【具体的取組】
  ・ 研究指導及び学位審査における組織としての責任体制の明確化(異なる専攻の教員、実務家、海外での研究経験のある者を加えた研究指導体制の構築、盗用検索ソフト、他大学の教員の活用等による学位論文審査の客観性と公平性の確保)
  ・ 学位論文が満たすべき水準や、審査委員の体制、審査の方法、審査項目など、学修の成果及び学位論文に係る評価並びに修了の認定に当たっての大学による基準の検討、及び当該基準の公表の義務付け
  ・ 「博士論文研究基礎力審査」の導入状況及び審査事項の公表、国による学位授与状況等の調査
  ・ いわゆる「論文博士」の実施状況の把握と今後の在り方の検討
  ・ 博士の学位取消に関する公表の実態把握と法令上の位置付けを含めた検討

5優秀な人材の進学の促進
 「知のプロフェッショナル」育成のためには、各大学が企業との人材獲得競争に直面しているという意識を持って、大学院(とりわけ博士後期課程)を志望する優秀な人材を増やすことが重要である。

【具体的取組】
  ・ 「入学者受入れの方針」に沿った大学院入試の改革、大学院入学者選抜実施要項の見直し
  ・ 修士課程等の学生に対するリクルートの改善(博士課程へ進学することの魅力の発信等、ロールモデルの提供、    進学の意思決定のタイミングを踏まえた経済的支援の制度設計(日本学術振興会における特別研究員、授業料免除、奨学金等))
  ・ 国費だけに頼らない経済的支援の充実の方策
  ・ 在学中に必要な学費や経済的支援の見通しの提示の努力義務化
 
6博士後期課程修了者の進路の確保とキャリアパスの多様化
 かつては、博士課程修了者は大学の研究者となることが有力な進路と目されてきたが、我が国の将来に向けて博士課程修了者の高度な専門性や幅広い能力を多様な場で活用していくためには、起業という選択肢も含め、大学以外の場や研究者以外の進路も拡大していくことが必要である。また、我が国の産業界も大学院における人材育成に協力するとともに、博士課程修了者の専門性や幅広い能力等を適正に評価し、活用すること等が不可欠であり、企業の求める俯瞰的な能力を身に付けられる取組、企業と博士課程修了者の相互理解が進む取組を実施する必要がある。


【具体的取組】
  ・ 諸外国の博士課程修了者の活用状況や能力に見合った処遇についての情報収集と情報発信
  ・ 大学院生の採用や能力に見合った処遇について優れた取組を行っている企業等の取組の発掘
  ・ 国による、企業における研究者以外の進路における博士課程修了者の専門性の活用事例や処遇についての事例把握
  ・ キャリア構築に係る大学としての組織的支援(民間の就職支援企業・就職サイトの活用、キャリアパスに対する認識を高めるための大学や学生と企業等との対話等)
  ・ 大学による、大学院修了生の就職・活躍状況の具体的把握と、把握した内容のカリキュラム改善や定員設定等への活用

7リカレント教育の充実
 社会経済が急速に高度化・複雑化する中、労働生産性向上や人生100年時代の豊かな生き方を実現するため、生涯を通したキャリアチェンジやキャリアアップが行われることが見込まれるため、社会人を対象としたリカレント教育は重要なテーマとなっており、高度専門職業人を養成する大学院におけるリカレント教育は極めて重要な課題となっている。また、学位を授与しない短期のプログラムなど、社会人の多様なニーズに対応する教育プログラムには大きな社会の期待があることにも留意すべきである。

【具体的取組】
  ・ 実践的な教育プログラムの展開
  ・ 履修時間・学事暦の工夫や、履修証明プログラム等の活用等
  ・ 社会人の時間的・空間的障壁を低下させる取組促進(夜間・土日開講、メディアの活用・通信教育課程の設置)
  ・ 労働契約においてリカレント教育を適切に位置付け、人事評価においても適切に評価すること
  ・ 各大学が提供する教育課程又は履修証明プログラムについて、職業実践力育成プログラムとしての認定及び専門実践教育訓練としての指定の活用
 
8人文・社会科学系大学院の課題とその在り方
 Society 5.0やグローバル化の更なる進展等を想定したときに、人文・社会科学系の大学院に対する社会のニーズが大きくなることが予想されるにもかかわらず、人文・社会科学系の大学院教育の充実の課題として、過去の答申等において主に以下の4つの点が挙げられている。
  1 体系的・組織的な教育に取り組んでいる専攻の割合が他の分野より低いこと
  2 博士号取得までの期間が他の分野より長いこと
  3 教員と学生の関係が限定的・固定的であり、教育の内容が社会のニーズから乖離しかねないこと
  4 修了者のキャリアパスが見えにくいこと
 人文・社会科学系大学院においても「知のプロフェッショナル」の育成が十全に進められるよう、喫緊の課題として体質改善に取り組む必要がある。

【具体的取組】
  ・ 学位プログラムの実施に着目した体系的な教育プログラムの確立
  ・ 5年一貫の博士課程を活用し、早期から課程修了に必要な要件を満たせるような環境の構築
  ・ 人文・社会科学系大学院で身につく能力の可視化、社会のニーズに対応した新たなタイプの人材養成目的の模索
  ・ 理工系の研究体制等の取り入れ、産学共同研究により企業との接点を増やす取組、「学部・研究科の枠を超えた学位プログラム」への参画
 
4.今後に向けて
(卓越大学院プログラム)
 国は、これまでの政策により蓄積された人材や研究の強みを活かし、引き続き「卓越大学院プログラム」を通じて、各大学の優れた取組を支援し、その在り方をよりよいものとしていくとともに、個別プログラムの取組に終始させることなく、我が国全体の大学院改革、すなわち大学院システム全体の見直しや各大学院における教育改革の加速化につなげていくことが求められる。

(研究環境の確保についての総合的検討の必要性)
 大学院の学生が個々の研究室の研究の実質的な担い手となっていた状況は、大学院教育の実質化が進展する中で、変化しつつあるものと考えられる。担い手をどのように確保するのかという観点も含めた、研究活動の基礎となる研究室等における研究支援体制の確立について、今後、総合的な検討が進められる必要がある。

(大学院の課程全体の在り方の検討)
 今後も、大きな社会構造の変化に対応し、新分野や新領域を大学院が切り拓いていけるようにする観点から、大学全体の在り方の検討と連動しつつ、博士後期課程レベルの高度専門職業人養成にふさわしい新たな課程の在り方も含め、大学院全体の課程の在り方(課程の目的、学位の在り方、修了までに必要な単位数、実務家教員を含む教員組織の在り方、大学院で教育に携わる教員の資質の確保、留学生の受入れの在り方等)について、引き続き検討していく必要がある。


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