資料4  第8期人材委員会における論点整理(素案)(博士人材の産学を越えた活躍促進に向けて)

第8期人材委員会における論点整理(素案)
(博士人材の産学を越えた活躍促進に向けて)


平成28年7月13日

1.検討の背景

(1) 社会的背景(博士人材の再定義)

○ 急速に進展するグローバル化の中で、国や組織は「自国あるいは自組織の中の多様性をどの程度まで許容することができるのか」が試されている。英国のEUからの離脱を決めた国民投票や米国の大統領選挙を巡る動向からは、グローバル化の反動とも呼ぶべき動きも見て取れるが、国や組織の持続的発展のためには、世界各国から多様な背景を持つ優秀な人材を惹きつけ、新しいアイデアを生み出し続ける必要がある。

○ また、ICTの進化に伴うネットワーク化やサイバー空間利用の飛躍的発展等により、知識や価値の創出プロセスが大きく変貌し、経済や社会の在り方、産業構造が急速に変化する大変革時代が到来している。こうした中で、既存の産と学の枠組みを越えて、サイバー空間の積極的な利活用を中心として、新しい価値やサービスが次々と創出され、人々に豊かさをもたらす「超スマート社会」(※1)の実現に向けた取組が国内外で始まっている(図1)。

○ このような社会においては、次々に生み出される新しい知識やアイデアが、国や組織の競争力を大きく左右し、いわゆるゲームチェンジが頻繁に起こることが想定され、高度な専門知識に加え、柔軟な思考と斬新な発想を持つ人材の重要性がますます高まることになるであろう。

○ 一方、博士人材(博士号取得者(ポストドクターを含む)及び博士課程(※2)学生。以下同様。)は、高度な専門的知識と倫理観を基礎に自ら考え行動し、新たな知を創り出し、その知から新たな価値を生み出して、既存の様々な枠を越えてグローバルに活躍できる人材である高度な「知のプロフェッショナル」となることが期待されている存在(※3)であり、上記の人材像にも合致する。

○ 上記のような世界を取り巻く状況に加え、我が国においては、人口減少や超高齢社会の到来により若年人口が減少しており(図2、3)、博士課程を通じて優秀な人材を輩出し、そうした博士人材が、高度な知のプロフェッショナルとして、学術界・アカデミアはもとより、産業界をはじめ、国際機関や行政機関など多様な場で活躍できる社会を創り出すことが一層重要になってきている。

○ 特に、我が国の産業界においては、「超スマート社会」に向けて、より一層のオープンイノベーション(※4)の推進に努める中で、国際的に低い水準にある企業研究者に占める博士号取得者の割合を高めること等により(図4、5)、企業が求める戦略立案のできる人材や創造的人材として(図6)、博士人材を積極的に採用・登用していくことが重要である。

○ また、将来を担う若者個人にとっても、「超スマート社会」において、人口知能やロボット等の発達により、単純労働を中心に現在人間が担っている業務が代替されることが予想される中で(図7)、博士人材となることで、産学を越えて活躍の幅が広がることになるであろう。

(2) 関連する政府方針

○ 科学技術・学術審議会人材委員会においては、平成13年の設置以来、これまで5度にわたる提言(※5)や「多様化する若手研究人材のキャリアパスについて(検討の整理)」(平成17年7月)、「文部科学省の公的研究費により雇用される若手の博士研究員の多様なキャリアパスの支援に関する基本方針~雇用する公的研究機関や研究代表者に求められること~」(平成23年12月)を取りまとめる中で、博士人材の多様な場における活躍促進やキャリアパスの多様化、研究者の流動性促進に関連した議論がなされ、様々な方策が示されている。

○ また、昨今の動向としては、「第5期科学技術基本計画」(平成28年1月閣議決定)や「未来を牽引する大学院教育改革~社会と協働した「知のプロフェッショナル」の育成~(審議まとめ)」(平成27年9月中央教育審議会大学分科会)(以下「27年大学院答申」という。)においても、博士人材のキャリアパスの確保や流動性促進に関連する方針等が示されている。


2.博士人材を取り巻く状況

(1) 現状と課題

(博士課程学生の状況)
○ 我が国における大学院在籍者数は、平成23年をピークに減少し、特に、修士課程修了者の博士課程への進学率が低下傾向にあり(図11、12、13)、先進諸国との比較においても、人口当たりの博士号取得者数は、依然として少ない状況にある(図14、15)。また、博士課程修了者数の減少に伴い、ポストドクター等の数もわずかに減少傾向にある(図37)。こうした背景には、修士課程学生等に対し、博士課程へ進学することのメリットを提示できていないことも一因と考えられる。

○ また、博士人材の出口とも言える活躍の場が、大学等のアカデミアと産業界などの社会の多様の場に大別できる一方、修士課程修了後、社会人経験を経て博士課程に入学する、いわゆる社会人学生の数も増加してきており(図17)、博士人材の入口とも言える博士課程へのキャリアパスも修士課程から直接進学した者と社会人学生に大別できる。分野別には、工学分野では社会人学生の数が減少傾向にある(図18)といった状況も見られることから、現状を分析した上で、優秀な社会人の博士課程への受入を更に促進することも重要である。

(大学院教育の現状と博士人材の意識)
○ 社会の多様な方面で活躍し得る高度な人材を育成するため、平成3年度以降、研究力の高い大学を中心に大学院の量的整備が進められ、大学院在籍者数は約2.5倍に拡大している(図11)。これに伴い博士課程修了者数も大きく増加したが、大学の採用教員数はさほど増えておらず、先進諸国と同様、両者には乖離が見られる(図29)。

○ また、ポストドクター等を含めた博士課程修了者が有する専門性と民間企業が求める専門性との隔たりも見受けられ(図16、38、43)、それを埋める取組も必要である。特に理学や農学の分野においては、ポストドクター等の分野比率は、博士課程学生の分野比率や大学教員の分野比率より率も高い状況にある(図16、38、42)。こうした中、ポストドクター等が社会の多様な場で活躍するためには、博士人材には、専門性にとらわれない柔軟な進路選択とともに、例えば、近年求められているAI、IoT、ビッグデータ等の分野のスキル習得など、異分野に対応する力や実践的な研究開発力を身につけることも必要である。

○ なお、後述する卓越研究員制度(平成28年度に文部科学省が開始した事業)における申請状況においては、ポストドクター等を中心に、大学等のアカデミアにおける研究者のポストを希望する傾向が強いことが確認されている(図73)。

○ 以上のような状況を踏まえ、博士人材について、産業界をはじめとする、大学等のアカデミア以外の場での活躍を一層促進していくためには、引き続き、博士人材自身の意識改革が求められる。

(産業界側の課題)
○ 我が国の産業界においても、博士人材の有用性が十分に認識されているとは言い難く(図44)、また、博士人材を積極的に採用している企業と採用が進んでいない企業の2極化が進んでいる状況も見られ(図45、46)、博士人材の産学を越えた活躍促進に当たっては、オープンイノベーションの推進など産業界側の改革も必要である。

(研究者の流動性)
○ 博士人材の産学を越えた活躍を促進していくためには、人材の流動性を高めることにより、それぞれの人材が資質と能力を高め、また、多様な知識の融合や触発による新たな知の創出や研究成果の社会実装の推進等が期待される。しかしながら、研究者のセクター間・セクター内の異動率は、ともに低く、特に、大学や公的機関等から企業への異動が少ない状況にある(図47)。また、大学教員の流動性は年を経るごとに低下傾向にある(図48)。このような状況に至っている原因を分析した上で、大学教員をはじめ、若手に限らず、研究者全体の流動性を高めていくことが重要である。

(博士人材の実態把握)
○ 継続的に博士人材の産学を越えた活躍促進に向けては、社会の多様な場における博士人材の活躍状況について、各大学等の協力を得て、データベース等を活用することにより、現状を可能な限り正確に把握し、情報を共有することも必要である。


(2) 博士人材の産学を越えた活躍促進に向けた取組と成果

(大学院教育の改革)
○ 文部科学省では、博士課程を含む大学院教育の充実に向けて、平成18年度以降、3次にわたる大学院教育振興施策要綱の策定を行い、これに基づき大学院設置基準等を改正するとともに、グローバルCOEプログラム(GCOE)や組織的な大学院教育改革推進プログラム(大学院GP)、さらには、博士課程教育リーディングプログラム等により支援を行っている(図51)。こうした取組を通じて、拠点における博士課程(後期)学生のレフェリー付論文の発表数の向上や就職者の増加、民間企業の博士課程学生に対する印象の変化の向きが見られる。(図52、53、54)。

(博士人材のキャリアパス多様化)
○ 若手研究者を主たる対象として、平成18年度(第3期科学技術基本計画の初年度)以降、科学技術振興調整費を活用した各種のモデル事業を実施することにより、大学等における人事システムの改革を促進してきた(図55)。その中で、博士人材のキャリアパスの多様化を目的とした施策として、平成18年度より支援事業を実施しており(図56)、平成20年度から26年度の間に実施した支援事業により、民間企業等における長期のインターンシップを経験したポストドクターのうち約6割の者が民間企業に就職するなど、一定の成果が挙がっている(図61)。

(研究者の流動性向上)
○ 博士人材を中心とした大学教員の流動性を促進するため、「国立大学改革プラン」(平成25年11月文部科学省)等を踏まえ、国立大学における年俸制やクロスアポイントメント制度の導入などによる人事・給与システムの弾力化が進められる(図64、65)。また、国立研究開発法人においても、第5期科学技術基本計画等において、年俸制やクロスアポイントメント制度の導入が求められている。

(若手研究者の安定雇用と流動性確保の両立)
○ 平成26年度からは、若手研究者等の流動性を高めつつ、安定的な雇用を確保することで、そのキャリアアップを図るとともに、キャリアパスの多様化を進める仕組みを構築するための取組が進められている。具体的には、複数の大学や国立研究開発法人等がコンソーシアムを形成することにより、民間企業等とも連携した取組を支援する「科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業」を実施しており、複数の大学が、民間企業や海外の研究機関とも連携した上で、多様な分野を対象とした博士人材育成プラットフォームを構築するなどの取組が行われている(図62、63)。

○ 平成28年度(第5期科学技術基本計画の初年度)からは、上記のような、これまでの取組の成果、さらには、若手研究者を取り巻く現状と課題を踏まえ、新たな研究領域に挑戦するような若手研究者が、全国の産学官の研究機関をフィールドとして、安定かつ自立して研究を推進できる環境を実現するとともに、新たなキャリアパスを開拓することを支援する「卓越研究員制度」を開始している(図67)。

○ 「卓越研究員制度」については、平成28年度において、提示されたポスト317件の中で民間企業のポストが96件(約3割)を占めており、また、これに対して約850人のポストドクター等をはじめとする若手研究者から卓越研究員としての雇用を目指して申請がなされるなど(図69、70)、博士人材の産学を越えた活躍促進に効果が期待される。一方、申請した若手研究者のうち、民間企業のポストを希望する者は約1割に留まっており(図73)、博士人材について、産学を超えて、特に産業界をはじめとするアカデミア以外の場における活躍を一層促進すべく、博士人材の意識改革が求められる。

○ また、博士人材の進路等について詳細な分析を行うため、平成26年度以降の博士課程修了者を登録対象として、その進路を追跡する「博士人材データベース」が、科学技術・学術政策研究所において、平成28年度より本格運用されている(図76)。本データベースについては、今後、他のシステムとの連携など更なる充実を図ることとされており、博士人材の産学を越えた継続的な活躍促進に向けて、一層の活用が期待される。


3.今後の取組の方向性

(1) 基本的な考え方

○ 第8期の本委員会においては、上記の社会的背景や現状等を踏まえ、特に博士人材の産学を越えた活躍促進方策について重点的に検討を行ってはどうか。その際、過去の人材委員会や他の審議会等における関連の提言等、それらを踏まえた、これまで10年間における関連する取組の成果と課題を総括しつつ、今後10年間を視野に入れた人材戦略の再構築を念頭に置き、現行の第5期科学技術基本計画に掲げられた関連する政策に関する方針や目標値の達成に向けて、博士人材、産業界、大学等、それぞれに求められる方策を取りまとめてはどうか。

○ また、博士人材が産業界を含めた幅広いセクターで活躍するためには、大学院教育における取組が重要な役割を果たすが、大学院教育については、中央教育審議会における27年大学院答申を踏まえ、「第3次大学院教育振興施策要綱」(平成28年3月31日文部科学大臣決定)が策定され、関連の取組が推進されている。こうした状況を踏まえ、本委員会においては、産業界との接点に関する部分を中心に検討を行い、必要に応じて、中央教育審議会や他の審議会等の議論に反映させることとしてはどうか。

○ なお、検討に当たっては、長期的な視座に立って、学問の基盤を維持すべき視点と、我が国の強みを踏まえて、短中期的な経済成長や社会的課題の解決に貢献できる、グローバルな視点を持ったリーダー育成の視点の両面を踏まえることが必要ではないか。特に、後者の視点については、将来の社会(「超スマート社会」)において、産業界をはじめとする社会一般に求められる人材について、産業界のみで明確な答えを持ち合わせているものではないため、既存の産と学の枠組みを超えて、産学の共創基盤の構築が必要ではないか。

○ また、博士人材に関連しては、博士課程修了者の約7割が国立大学で修了、国立大学の中でも入学定員数上位9大学で約6割、ポストドクター等の半数以上が国立大学に在籍といった状況(図43、44)にあり、さらに、産業界においても、大企業やベンチャー企業など、機関の規模等が異なることを踏まえ、検討に当たっては、分野別の状況やセクター間の違い、機関の規模や特性による違いにも留意が必要ではないか。

(2) 具体的な取組方策の観点(例)

ア 大学(教職員)・博士人材の一層の意識改革
イ 産業界の求める専門性やスキルを有する博士人材の輩出
ウ 産業界におけるオープンイノベーションの一層の推進
エ 産学双方のセクターにおける若手・博士人材向けポストの創出
オ 博士人材の活躍等に関する状況の把握・分析 等


(参考)

第8期人材委員会における主な御意見(第72回~第74回)


○全般に関わる事項
・これまでの事業におけるトライ・アンド・エラーを踏まえた上で、システムとしてどう定着させるか、博士人材をいかにエンカレッジするかという仕組みや、産業界との接点のような部分は人材委員会で議論すべき。一方、博士課程教育については、大学院部会での議論にここでの議論をトランスファーして、どのように質保証するか、どのような仕組みを作るかは大学院部会できちんと議論してもらうべき。

○博士人材のキャリアパス等に関する個別事項
・イノベーションを担う博士人材を軸に議論し、この人材資源を日本としてどう最大限活用するかという観点で議論していくべき。
・研究人材を確保していくことについて、国民に納得していただくため、説明を尽くしていくことが重要。その際、これまで育成してきた人をストックとして捉えるべき。
・博士号取得者のキャリアパスについて、スタティックなものではなく、ダイナミックな形で見せていくべき。
・リーディング大学院などの取組において産学で教育を一緒に行う時代を経験し、これからは、産学で一緒に育成しよう、採用も含めて活躍させましょうという段階。例えば、20%くらい採用するといったような数値目標を持って、お互いがコミットし合う時代に入って行ければよい。
・博士課程学生への経済的支援は重要ではあるが、国だけではなく、様々な形でお金が回るシステムを作っていくべき。そうすれば、人材の流動もあわせて期待できる。
・産業界は今グローバルという視点抜きでは事業遂行できないため、この観点は重要。
・博士人材も多様であり、施策を考えるときに、統一的に一個の観念で考えるのは適切ではなく、ある程度分けて考えていかないと、多様なキャリアパスを生み出すところにはなりにくいのではないか。
・何万人をポスドクとして輩出し、そのうちの何人を大学教員とし、どのくらいを企業に入れていくのか、そういう大きなイメージがないと、どういう施策を打って、それが機能しているか議論できないのではないか。
・もし可能であれば、例えば1つの国、例えばシンガポールのように伸びた国は何をやってきたのか、キャッチアップするためにも知る必要があるのではないか。
・何らかの仮説を立ててみて、それをデータで検証し、それをどういうふうにしたら良いかという議論を実施するのがよいのではないか。
・博士課程を通して、研究者がどのように成長し、そのために初等中等教育段階からどのようなことが必要というような考えが必要であり、戦略的に進めて行くべき。
・研究者のキャリアとして、ずっと大学等で研究を行う一直線のルートのみではなく、一度民間企業に出て、また大学等に戻る迂回ルートがあっていいのではないか。
・産学の連携に関し、大学の側が企業のステレオタイプにとらわれていることがあり、企業の多様性をどう伝えるかが課題である。
・テニュアトラック制を導入し始めて10年あまり経過した中で、大学や企業が変わったとの認識はあるものの、アウトカムとして現われていない。

(以上)

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※1 「第5期科学技術基本計画」(平成28年1月22日閣議決定)において、超スマート社会とは「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会」とされている。

※2 博士課程の目的については、平成元年に大学院設置基準が改正され、「博士課程は、専攻分野について、研究者として自立して研究活動を行い、又はその他の高度に専門的な業務に従事するに必要な高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を養うことを目的とする」と規定されている。

※3 「未来を牽引する大学院教育改革~社会と協働した「知のプロフェッショナル」の育成~(審議まとめ)」(平成27年9月中央教育審議会大学分科会)p.9参照

※4 第5期科学技術基本計画では、オープンイノベーションについて、組織の内外の知識や技術を総動員してイノベーションを推進する手法とされている。

※5 「世界トップレベルの研究者の養成を目指して(第一次提言)」(平成14年7月)
      「国際競争力向上のための研究人材の養成・確保を目指して(第二次提言)」(平成15年6月)
      「科学技術と社会という視点に立った人材養成を目指して(第三次提言)」(平成16年7月)
      「知識基盤社会を牽引する人材の育成と活躍の促進に向けて」(平成21年8月)
      「第7期人材委員会提言」(平成27年1月)

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科学技術・学術政策局 人材政策課

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-- 登録:平成28年07月 --