資料4-2 科学技術・学術審議会人材委員会第三次提言に向けた論点整理(案)

―「社会のための、社会の中の科学技術」という視点に立った人材養成を目指して―

科学技術・学術審議会
人材委員会(第28回)
平成16年4月21日

はじめに

○ 科学技術創造立国の実現に向けて、我が国全体の研究開発力や国際競争力を維持・向上させるためには、世界トップレベルの研究者はもとより、幅広い研究者、技術者、さらには産学官連携や理解増進活動など科学技術と社会の接点に立つ人材が必要。
○ 社会と科学技術の関わりが深化・多様化する中、科学技術創造立国を実現していくために必要な人材についても、「社会のための、社会の中の科学技術」という視点に立った取組が重要。
○ 本人材委員会では、平成15年10月以降、第二次提言までの検討において取り上げるに至らなかった課題として、科学技術分野の理解増進活動、技術者の養成・確保、博士号取得者等のキャリア・パスに関連した人材養成について検討を行ってきた。
○ 第三次提言に向けては、上記のような状況を踏まえ、「社会のための、社会の中の科学技術」という視点に立って、これまでに提言した方策のうち引き続き重点的に推進すべき方策を含め、

  1. 新しい知の創造により、社会に貢献する人材
  2. 知の活用や社会還元を担う人材
  3. 対話型科学技術社会を築く人材

という3つの側面から、必要な人材養成や環境整備に係る改革方策について取りまとめてはどうか。

1.人材養成に係る現状と課題

(1)環境の変化

○ 新しい技術や情報が、経済活動をはじめ社会の様々な活動の基盤になる、いわゆる知識基盤社会に移行し、知的創造力が最大の資源となる我が国にとって、その基盤となる人材の養成・確保は極めて重要な課題。
○ 今後の我が国の急速な少子高齢化により、研究者や技術者など、科学技術・学術活動を支える人材についても、中高年齢層の比率の増大や若手研究者の供給の減少など、量的な面で懸念。
○ 優れた研究者や技術者を養成するなど、人材養成の中核を担う国立大学が法人化し、各大学の自主性・自律性が大幅に拡大。
○ 社会と科学技術の関わりが深化・多様化する中、「社会のための、社会の中の科学技術」という視点に立って、科学技術と社会の関係を意識することが重要。
○ また、科学技術活動に伴うリスクを評価し、適切に対応することがますます重要。
○ 特に、我が国の産業の発展は、いわゆる先端科学技術のみならず、多様な科学技術に支えられており、それらを担う優秀な技術者の確保が重要。産業の国際競争力強化という観点からは、企業経営等にも高度な専門能力や知的財産などの専門知識を持った人材の活躍が期待。
○ なお、研究者については、知の創造の直接の担い手として高度な研究能力が求められる一方、中でも、大学等の教員に関しては、次世代の人材を育成する「知の伝承者」として教育能力を向上させていくことも重要。
○ 一方で、科学技術への国民の関心が低下。特に、30歳未満の関心の低さが顕著。
○ 科学技術創造立国を支えていくためには、国民一般の科学技術に対する理解の増進や、次代を担う子どもたちが科学技術や理科への興味・関心を高め、科学技術分野での卓越した人材や、豊かな科学的素養を身に付け社会の多様な場で活躍する人材として羽ばたくような環境整備も重要。

(2)求められる能力

○ 研究開発活動への関与の度合い等により多少の違いはあるものの、研究者や技術者に共通して求められる能力としては、専門能力に加え、創造性、実践力、マネージメント力、国際対応力、社会とのコミュニケーション力などが考えられる。
○ 特に、世界トップレベルの研究者については、第一次提言において指摘しているように、幅広い視野や変化に対応できる柔軟性が求められており、「幅広い知識を基盤とした高い専門性」が重要。
○ 高度に知的集約化が進みつつある我が国社会において、人々が心豊かで質の高い生活を営むためには、国民一人一人が科学的知識に基づき、諸問題について主体的に判断を行い得る基盤を形成すべく、国民の科学リテラシーを高めることも重要。

(3)人材養成に係る個別の課題

1 新しい知の創造により、社会に貢献する人材

ア.世界トップレベルの研究者
  • 諸外国において高度研究人材の養成、人材獲得競争が激化する中、人材養成面での我が国の大学等の国際競争力を強化することが重要。
  • 研究者養成上の重要な時期である博士課程において、優秀な学生が経済的負担の心配なく研究に専念できるような支援が米国等に比べて十分でない。
  • 国際的に活躍できる人材養成に向けて、我が国研究者の海外における研究経験や海外の研究者との交流の中で研鑽を積む機会が不十分。
イ.多様な経験や経歴を有する幅広い研究者
  • 少子高齢化が進行する中、優秀な研究者を確保するためには、多様な人材の一層の活躍が重要。
  • 多様な人材の活躍のためには、各人の能力、業績を適切に評価し処遇に反映するシステムが整備され、人材の流動化が促進されることが必要。
  • また、各人がそれぞれの能力を十分に発揮し、研究に専念できるような環境整備を進めることが重要であり、特に、次代を担う創造的な研究活動の担い手である若手研究者の自立性を確保することが重要。

2 知の活用や社会還元を担う人材

ア.生産活動等を担う技術者
  • デフレ傾向が続く経済環境において、付加価値を高める努力が求められており、知識と技術を結びつけ、それにより創造性を発揮するような技術者が必要。
  • 技術者に対する継続的な能力開発については、企業・技術者個人ともその必要性を認めているにも関わらず、時間的制約、人手不足等の理由により、満足の行く効果が得られていないとの指摘あり。
  • 技術者と技能者の相互作用が重要。製品の高度化や製造技術の向上などの状況を踏まえ、科学技術の知識基盤を持ち高度技能者の存在が不可欠。
イ.産学官連携を支える人材
  • 急速な科学技術の発展や社会ニーズの変化に伴い、求められる専門性や能力が大きく変化する中、特定分野における人材の不足や養成の必要性が指摘。
  • 特に、知的財産や産学官連携、技術経営等、知の活用に関する人材が重要。
  • 大学等における人材の養成は、長期的な視点に立って行われるものであるため、社会の急激な変化に必ずしも対応していない側面がある。
  • 社会の急激な変化にも耐えうる人材養成を行うため、産学官それぞれの特徴や役割を十分踏まえた人材育成面での産学官連携の強化が必要。
ウ.高度な専門能力を有する人材(博士号取得者等)
  • 近年の急速な技術革新、産業構造の変化に伴い、社会の多様な場において、高度な専門能力を有する博士号取得者等の活躍が期待。
  • 我が国では、博士号取得者後、民間企業等へ就職する者も増えているが、卒業直後に未就職な者も多く、民間企業の処遇などが不十分との指摘あり。

3 対話型科学技術社会を築く人材

ア.科学技術理解増進に携わる人材
  • 科学技術のあり方を社会として適切に判断し、その発展に伴って惹起される新たな課題に対応していく際、国民の科学リテラシーの高さは重要な要素。
  • 研究者と社会をつなぎ、また、科学技術に対する意識と理解の涵養、科学リテラシーの向上を図るための人材育成を推進することが必要。
イ.将来の科学技術を支え、次代を担う人材
  • 初等中等教育段階から子どもが科学技術を学び・親しむ環境が人的・物的に充実されることが必要。
  • 科学技術の分野について関心を持つ子どもについては、興味や関心等を伸ばすことで個性を最大限に伸長させることが必要。

2.改革方策

(1)課題解決に向けた基本的視点

○ 小学校、中学校、高等学校、大学、大学院、社会人に至るまでの一貫した人材育成が必要。
○ 人材養成に関わる者は、社会との関係や受益者ニーズを意識し、個々の役割に応じた取組が重要。併せて、個人の学ぶ意欲を喚起するような取組も必要。
○ 各人が必要とされる能力を開発できる環境を整備するとともに、個々人の能力を総体として活かす社会や組織づくりも重要。
○ あらゆる局面で個人の能力が最大限に発揮されるよう、適正な競争環境と各人の能力や業績が公正に評価される社会づくりが必要。
○ 人材養成については、長期的な視点に立った取組が求められることから、将来の需要見通しなどに留意しつつ、関連した取組を推進することが重要。
○ 具体的な施策の検討・実施に当たっては、第二次提言でも指摘されているように、

  1. 関係施策の体系的推進
  2. 明確な目標設定と施策の重点的な推進
  3. 国立大学法人化のメリットを生かした自主的取組の推進
  4. 大学、産業界等の協力
  5. 長期的視点に立った人材養成・確保とのバランス
  6. 国における財政支援

などに留意することが必要。

○ さらに、次世代の研究者・技術者等を育成するためには、大学教員の教育能力・資質の向上が重要であり、大学教育の質的向上を推進する観点から、その一方策として積極的に検討されることが必要。
○ 特に、科学技術と社会の新しい関係の構築が求められていることを踏まえ、上記4に関連して、教育界と産業界が、長期的視点に立って人材養成について一体となって検討し情報交換できるような、産学人材養成パートナーシップの確立が重要。

(2)具体的な改革方策

1 新しい知の創造により、社会に貢献する人材

ア.世界トップレベルの研究者
(1)世界トップレベルの人材養成を目指した研究教育拠点等への支援の拡充

 国際的に魅力のある卓越した人材創出・研究拠点を育成するとともに、大学院博士課程の教育機能の充実に向けて、大学院における研究教育の高度化のための支援を拡充。併せて、大学の個性化・多様化や国際競争力の強化が求められる中、大学改革への支援を充実。

(具体的施策例)

 ア.世界に通用する人材の養成を目指した人材創出・研究拠点の整備
 イ.国際競争力のある世界最高水準の大学づくりの推進
 ウ.大学における教育の質の充実や世界で活躍し得る人材の養成

(2)創造性豊かな優れた博士課程学生に対する支援の充実

 大学院の研究教育に関する機能強化を図るため、創造性豊かな博士課程学生の育成及び教育の質の向上に関する取組を重点的に支援。また、優秀な人材が経済的負担の心配なく博士課程に進学し研究に専念できるような支援の拡充。

(具体的施策例)

 ア.高度な人材養成機能をもつ、一貫した教育プログラムの導入
 イ.博士課程学生に対する経済的支援の充実

(3)若手研究者等の海外派遣の充実や最先端分野の若手研究者交流等の充実

 我が国の若手研究者を海外の大学等に派遣する事業の拡充を図るとともに、世界を舞台にリーダーシップをとれる国際的人材の育成等に向けて、我が国と諸外国との若手研究者交流の機会を拡充。

(具体的施策例)

 ア.若手研究者の海外一流機関への派遣充実
 イ.我が国と諸外国の若手研究者間の国際交流の支援

イ.多様な経験や経歴を有する幅広い研究者
(1)多様性をはぐくむ創造的・競争的環境の醸成

 多様な研究人材が活躍するための基本的な前提条件として、各大学や研究機関等において、性別、国籍、年齢等を問わず、各人材の能力、業績を公正・適切に評価し、処遇に反映するシステムが整備されることが必要。
 また、各機関における、多様性向上に向けた自主的取組や人材の流動性向上に向けた取組を促進。

(具体的施策例)

 ア.能力・業績が適切に評価され、処遇に反映される人事システムの構築
 イ.多様性向上に向けた各機関の自主的取組の推進と人材の流動性向上

(2)多様な人材が活躍できる研究環境の構築

 多様な人材が活躍できる研究環境の整備に向けた、各大学・研究機関における取組を促進。特に、創造性豊かな優れた若手研究者が能力を十分に発揮できるよう、その自立性確保に向けて、若手研究者向けの研究費の拡充や大学における教員組織の在り方を改善。

(具体的施策例)

 ア.若手研究者の自立性向上支援
 イ.優れた外国人研究者等の受入促進

2 知の活用や社会還元を担う人材

ア.生産活動等を担う技術者
(1)技術者が継続的に能力開発を行うことができる環境の整備

 技術者が、既に持っている知識や技術的能力に加え、科学技術の進展や社会的ニーズの多様化等に伴って、さらに必要となる知識・技術的能力を身につけ、継続的に能力向上を行うことができる環境を整備。

(具体的施策例)

 ア.技術者の能力開発システムの構築
 イ.自習可能なコンテンツの提供

(2)将来を担う実行力、創造力を持った技術者の育成

 大学の理工系教育や高等専門学校における実践的教育を一層推進するとともに、大学院等での高度な教育研究の質の向上に向けた取組を推進。学問分野毎の状況に留意。また、専門高校など、実践的な知識・技術を身に付けるための教育の充実強化による人材確保のための取組等を推進。(中央教育審議会大学分科会の審議状況に留意)

(具体的施策例)

 ア.大学・高等専門学校における技術者教育の質的充実
 イ.大学院における技術者の養成・確保
  a)大学院修士課程等における技術者教育の充実
  b)大学院修士課程相当の技術者の養成
 ウ.専門高校における専門教育の充実

(3)技術者が誇りと生きがいを持って取り組むことができる社会の実現

 技術者が自らの活動に対して誇りと生きがいを持って能力を遺憾なく発揮できる社会の実現を目指し、技術者が社会的・経済的にその活動の意義や役割に見合う適切な評価を受けられるような環境を整備。

(具体的施策例)

 ア.技術者の役割の明確化、社会的地位の向上、技術士制度の充実・活用促進
 イ.技術者の能力向上のためのインセンティブの付与
 ウ.技術者の貢献に対する適切な評価

イ.産学官連携を支える人材
(1)新産業創出に貢献する人材の養成

 研究機関等において知的財産の確保・活用に係る業務を担う人材や、技術経営人材の養成、大学等における技術移転業務をサポートする人材等の育成・活用。また、産学官のそれぞれの特徴や役割を十分に踏まえた人材育成面における産学官連携の強化。

(具体的施策例)

 ア.知的財産・技術経営等に係る人材の育成・活用
 イ.産学人材養成パートナーシップの確立

(2)新興分野・融合分野における高度人材の養成

 我が国として戦略的に取り組むべき分野であって、人材の不足が指摘される新興分野、融合分野における高度な専門能力を有する人材の養成や、我が国の経済社会を牽引する高度専門職業人の養成を強化。

(具体的施策例)

 ア.新興分野の人材養成支援
 イ.専門職大学院等を活用した高度専門職業人の養成強化

ウ.高度な専門能力を有する人材(博士号取得者等)
(1)優秀な人材の博士課程進学に対するインセンティブ付与

 優秀な人材が博士課程に進学する動機付けにつながるよう、大学院博士課程学生に対する経済的支援の充実を図るとともに、各大学院における、人材養成に係る取組の積極的な情報発信を促進。

(具体的施策例)

 ア.高度な人材養成機能をもつ、一貫した教育プログラムの導入
 イ.博士課程学生に対する経済的支援の充実
 ウ.各大学院博士課程における人材養成の目的や取組の明確化と情報発信

(2)大学院博士課程における教育機能の活性化

 各大学院博士課程における、社会の多方面における人材ニーズの把握に努めつつ、それぞれの課程の特色を活かした教育機能の活性化に向けた取組を推進。(中央教育審議会大学分科会における審議状況に留意。)

(具体的施策例)

 ア.社会ニーズの変化に応じた教育内容の工夫・改善
 イ.大学院組織における人材の多様性確保と教員の資質向上

(3)博士号取得者等が社会の多様な場へ進出し、活躍できる環境の整備

 博士課程を修了した者が、その能力や適性に応じて、大学や研究機関はもとより、産業界等、社会の多様な場に進出できるよう、人材養成に係る産学連携の促進、大学院等における進路指導に係る体制整備などの取組の推進。

(具体的施策例)

 ア.人材養成に係る産業界と大学院との連携促進
 イ.各大学・大学院における進路指導に係る体制整備
 ウ.社会の多様な場における博士号取得者等の活躍促進に向けた取組

3 対話型科学技術社会を築く人材

ア.科学技術理解増進に携わる人材
(1)科学コミュニケーション人材の育成・確保、理数担当教員の資質向上

 研究者と社会をつなぎ、また、科学技術に対する意識と理解の涵養、科学リテラシーの向上をはかるための人材を育成・確保。

(具体的施策例)

 ア.専門職としての科学コミュニケーターの養成
 イ.退職研究者・退職理数担当教員・科学ボランティアの活動促進
 ウ.研究者自身によるアウトリーチ活動の推進
 エ.科学技術を実社会で活用している姿に触れる機会の充実
 オ.理数担当教員の意欲、意識を含めた資質の向上

イ.将来の科学技術を支え、次代を担う人材
(1)初等中等教育段階からの科学技術分野において卓越した人材の育成

 科学技術に関心の高い子どもに対し効果的に理数教育を行うことのできる理科設備をはじめとした環境整備や、科学技術関連のテーマへの挑戦を通して意欲を高める機会を充実することにより、初等中等教育段階での教育成果を高等教育でさらにのばす環境を醸成。

(具体的施策例)

 ア.理数が好き・得意な生徒を伸ばし、創造性や独創性を育む取組への支援
 イ.各種科学オリンピック等やサイエンスキャンプへの参加促進と活動振興

(2)理数への興味・関心を高め、「理科好き」の子どもの裾野を広げる

 観察・実験等体験的・問題解決的な学習やものづくり等を通して、知的好奇心を高め、実感を伴った理解を図るとともに、デジタル技術の活用により、子どもの知的好奇心・探究心を高めるための科学技術に関する学習機会を充実。
 また、国をリードしている研究者や技術者の顔が子どもに見えるような社会、そういった人々が尊敬されるような社会づくりに向けた取組を推進。

(具体的施策例)

 ア.観察・実験等の体験的・問題解決的な学習等の推進
 イ.研究者・技術者の姿に触れ、科学技術に携わる者に触れあう機会の充実

おわりに

○ 第二次提言までに示された改革方策に加え、今回、新たに提言した改革方策を着実に実施していくためには、関連したデータの収集に努め、効果を検証することが重要。
○ 本人材委員会においては、個々の改革方策の進捗状況や社会情勢の変化を踏まえ、関連する諸課題について、引き続き検討を行っていくことが必要。

お問合せ先

科学技術・学術政策局基盤政策課

(科学技術・学術政策局基盤政策課)

-- 登録:平成25年08月 --