2.科学技術の戦略的重点化

(1)基礎研究の推進

 研究者の自由な発想に基づく基礎研究は、知の創造と活用の源泉となる。基礎研究については、公正で透明な評価を行い、世界最高水準の研究成果や社会経済を支える革新的技術をもたらす質の高いものを重視する。特に大学等においては、次代を担う人材の育成と一体となって基礎研究を推進する。また、新たな領域も考慮した適切な研究開発資源の配分に留意する。
 基礎研究の推進に大きな役割を果たす競争的研究資金については、科学技術基本計画に基づき、平成13年度からの5年間で倍増を目指しており、今後とも重点的な拡充が必要である。
 また、ビッグサイエンス(大きな資源の投入を必要とするプロジェクト)については、グローバルな観点からの評価に加え、競争的研究資金も含めた基礎研究全体の中でのバランスに配意する。さらに、費用対効果を厳格に検証した上で、ビッグサイエンスの実施や継続の適否について、専門家的な立場からとともに、国民的な観点も踏まえて判断し、我が国の発展の源泉となるものについて、効果的・効率的に推進する。

(2)国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化

 国家的・社会的課題に対応した研究開発の分野として、特に重点を置くべき分野は、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料の4分野(以下「重点4分野」という。)であり、他分野に優先して研究開発資源の配分を行う。
 各分野の研究開発については、平成13年度からの5年間にわたる、研究開発の重点領域、研究開発目標及び推進方策の基本的事項を定めた「分野別推進戦略」(平成13年9月21日総合科学技術会議決定)に基づいて、着実な推進を図る。なお、平成16年度における施策の推進に当たっては、「産業発掘戦略-技術革新」(平成14年12月5日内閣官房取りまとめ)、「バイオテクノロジー戦略大綱」(平成14年12月6日BT戦略会議決定)、「e-Japan戦略」(平成15年:IT戦略本部決定)、「バイオマス・ニッポン総合戦略」(平成14年12月27日閣議決定)等の各種政府方針の実現に努める必要がある。
 以上の考え方に基づき、重点4分野とそれ以外の分野において、最新の動向も踏まえ、平成16年度に重点的に推進すべき領域・事項は以下のとおりとする。

1.重点4分野

1)ライフサイエンス

 ヒトゲノムの解読完了が宣言され、また主な動植物のゲノムの塩基配列解読が急速に進んでいる。これを受けて、ゲノム情報に基づく基礎的研究を進めるとともに、特にゲノムの機能解析、遺伝子調節ネットワーク、多型等の研究をさらに進め、これらの成果を疾患の予防・診断・治療、劇薬、新しい物質生産等に応用する研究開発牽重視する。研究成果を臨床等の実用化に効率的に結びつける施策や異分野との融合領域の施策を強化し、特に生命情報科学、細胞シミュレーション技術を重視する。また、医療機器、遺伝子・タンパク質等の解析技術・機器研究を推進する。専らに、新興感染症及びバイオテロリズムヘの対応について、新たに重視する事項とし、研究を行う。
 なお、本分野全体の重点領域・事項は以下のとおり。

(1)安心安全で活力ある長寿社会を実現するための疾患の予防・診断・治療技術の開発

○ ゲノム、タンパク質、糖鎖等の構造・機能及びそれらの形成するネットワークの解析とこれに必要な基盤的データベースの整備、その知見に基づく個人の特性に応じた医療と創薬
○ 再生医療・遺伝子治療等を中心とした新しい治療
○ がんの予防・診断・治療、アレルギー疾患等の予防・診断・治療、プリオン病、新興感染症等の診断・治療、バイオテロリズムヘの対応
○ こころの発達と脳に関する基礎的研究、こころの病気、教育が脳機能に与える影響に関する研究、アルツハイマー等神経疾患等の予防・診断・治療

(2)食料供給カの向上及び食生活の改善に貢献する食料科学・技術並びに有用物質の生産・環境対応に関する技術の開発

○ イネ等のポストゲノム研究と食品の安全性確保、安定供給、機能性食品の開発
○ 微生物・動植物を用いた有用物質の生産と環境対応技術の開発

(3)萌芽・融合領域の研究及び先端技術の開発、先端研究成果を社会に効率よく還元するための研究の推進と制度・体制の構築

○ 情報通信技術、ナノテクノロジー等との融合領域、生命情報科学、細胞シミュレーション技術、システム生物学、バイオイメージング、画像診断技術、医療機器、遺伝子・タンパク質解析技術・機器
○ 基礎研究の臨床への橋渡し研究・治験等の臨床研究
○ 医薬品・医療・医療機器・食品・遺伝子組換え生物のリスク評価等に関する研究
○ 研究開発の基礎となる生物遺伝資源の整備

2)情報通信

 IT基盤整備からIT利活用への進化という流れと、国際的な競争の激化の中で、これまでモパイル、光、デバイスを核に重点化してきた研究開発を一層推進しつつ、さらに我が国が先行する領域として、情報家電など多種多様で膨大な機器・端末の相互接続・相互運用や、人間と共存するロボットなども新たな核に、IT利用者の視点に立った応用駆動型技術、及び次世代を制するための基礎技術の研究開発・標準化を特に強化する。
 また、サイバーテロなど安全性への脅威や、ソフトウェアヘの依存が急速に高まっている中で、特に、安全性(セキュリティ)技術の高度化や、ソフトウェア技術の競争力強化、それらの実践的研究開発・人材育成の拠点構築などによる高度なIT人材の育成を重視する。
 さらに、超高遠ネットワーク、ヒューマンインターフェースなどの技術開発・実証とそのための基盤整備、半導体等コアデバイス技術、複雑な自然現象のコンピュータ上の模擬試験の高速化技術の開発を特に重視する。
 なお、本分野全体の重点領域・事項は以下のとおり。

(1)ネットワークがすみずみまで行き渡った社会への技術

○ 情報家電など多種多様で膨大な機器・端末の相互接続・運用や、光や無線等による超高速モパイルインターネットシステムを実現する技術
○ 高機能・低消費電力の半導体、平面画像表示装置等
○ 安全性(セキュリティ)技術、ソフトウェアの信頼性・生産性向上等技術、情報格差解消等(ヒューマンインターフェース)技術、情報蓄積検索技術、コンテンツ技術、ビジネス用の分散コンピュータ技術

(2)次世代の突破口、新産業の種となる情報通信技術

○ 量子工学技術、生体機能等の新しい原理・技術の活用
○ 人間と共存するロボットや、ナノ技術、生命科学、宇宙通信などとの融合領域

(3)研究開発基盤技術

○ 分散する計算機資源を高速回線で結び、高い計算能力を確保するコンピュータネットワークシステム
○ 分子の運動等の自然現象をコンピュータ上で模擬する手法である計算科学について、これを短時間で行うための技術

3)環境

 人間を含む生態系の成立基盤を脅かす環境問題の解決、及び自然と共生した持続可能な社会の構築に向け、以下の5領域における研究開発を推進する。各領域における研究情報システムに係る研究開発とともに、省エネルギー技術(特に運輸部門、民生部門)、新エネルギー技術、二酸化炭素の分離回収隔離技術・森林等生態系による固定化技術等の揖暖化対策に資する研究開発を特に重視する。
 なお、本分野全体の重点領域二事項は以下のとおり。

(1)地球温暖化研究

○ 省エネルギー(特に運輸部門、民生部門)、新エネルギー技術、二酸化炭素の分離回収隔離技術・森林等生態系による固定化技術
○ 温暖化関連観測モニタリング、気候変動予測技術の高度化、温暖化影響評価・抑制政策、研究情報システム

(2)ゴミゼロ型・資源循環型技術研究

○ 省エネルギー(特に運輸部門、民生部門)、新エネルギー技術、二酸化炭素の分離回収隔離技術・森林等
○ 循環型社会形成推進・シナリオ、国際的視点からの物流循環、研究情報システム
○ 生産・消費両面での廃棄物発生抑制技術、資源循環システム化技術

(3)自然共生型流域圏・都市再生技術研究

○ 流域圏の水・熱・物質循環と人間活動の関係、環境観測・診断・評価データの一元管理技術
○ 流域圏・都市の環境負荷軽減のための物理的・化学的・生物的技術開発、再生シナリオ

(4)化学物質リスク総合管理技術研究

○ 有害性、暴露、環境中存在量・挙動等情報の取得・収集、データベース化
○ 生態系影響評価、個人の感受性に関わるリスク評価・管理手法、総合的なリスク管理手法、リスク削減対策技術と技術評価手法

(5)地球規模水循環変動研究

○ 全球水循環変動観測、予測精度向上と信頼性評価、水循環変動の食料・水資源・生態系・社会影響評価、研究情報システム
○ 最適な水管理のための技術開発・技術評価

4)ナノテクノロジー・材料

 世界的にますます活発化する研究開発や事業化の動向を踏まえ、中長期的な研究開発の推進とともに実用化二一ズを踏まえた推進を行う。後者の推進に当たっては、特に、医工連携等の異分野間を融合する研究体制の構築、実用化を目指した試作機能の充実等を重視する。また、薬物送達システム(DDS)、医療デバイス、革新的材料等の領域では、今後5~10年程度の間で事業化・産業化を目指す府省「連携プロジェクト」を推進する。
 なお、本分野全体の重点領域・事項は以下のとおり。

(1)次世代情報通信システム用ナノデバイス・材料

○ 半導体微細加工技術、通信用等素子及び装置、並びに関連材料の研究開発
○ 単電子素子、超伝導素子、一スピン利用素子、ナノチューブ素子、分子素子等の新原理デバイス、量子コンピュータ・通信用素子並びに材料等の研究開発

(2)環境保全・エネルギー利用高度化材料

○ ライフサイクル全体の環境負荷を考慮した新工ネルギー・省エネルギー用の材料や触媒の研究開発
○ 有害物質の監視・除去技術等の研究開発

(3)医療用極小システム、ナノバイオロジー

○ 薬物送達システム(DDS)や診断・治療機器等のナノテクノロジーを応用した医療に関する研究開発
○ 生体分子の構造等を計測・解析し、その動作原理を半導体装置・材料等に応用するナノバイオロジー等に関する研究開発

(4)計測・評価、加工、数値解析・シミュレーション等基盤技術

○ ナノ精度で任意の材料を計測・評価、加工及び製造する技術の研究開発
○ 微小電気機械システム(MEMS)を含む微小機械(マイクロマシン)技術の研究開発
○ 計算機を活用した材料・工程設計技術の研究開発現場への普及

(5)革新的な物性、機能を付与するための物質・材料技術

○ ナノカーボン等の革新的機能を有する物質・材料の広範囲な探索
○ 組織・構造を高度に制御した革新的構造材料や先進的な複合材料等の研究開発

2.その他の分野

1)エネルギー

 エネルギー・セキュリティ確保及び地球温暖化防止の視点から、化石燃料依存を低下させ、安全で安定したエネルギー需給構革の実現に資するため、以下の3領域における研究開発を推進する。燃料電池、水素製造・供給シメテム、バイオマス利活用、核融合等に係る研究開発を特に重視する。
 なお、本分野全体の重点領域・事項は以下のとおり。

(1)エネルギーのシステム及びインフラを高度化していくために必要な研究

○ 燃料電池、水素製造・供給システム、低コスト太陽光発電、液体燃料変換、バイオマス利活用、核燃料サイクル、核融合

(2)エネルギーの安全・安心のための研究

○ 原子力、水素利用、本然ガスパイプライン等の安全対策技術

(3)エネルギーを社会的・経済的に評価・分析する研究

○ 原子力の社会受容性(パブリックアクセプタンス)、省エネルギー・新エネルギー利用推進インセンティブ、エネルギー関連技術の外部性評価

2)製造技術

 依然として厳しい経済情勢が続くなか、経済活性化の担い手である製造業の国際競争力強化のため、環境に負荷をかけない低コスト化・高付加価値化製造技術の研究開発を継続して推進する。
 なお、本分野全体の重点領域・事項は以下のとおり。

(1)製造技術革新による競争力強化

○ 情報通信技術を高度利用した暗黙知の体系化、製造プロセス一貫シミュレーション等による飛躍的な生産性向上
○ ナノテクノロジー・生物工学の応用、基礎工学での新知見や人間工学の活用等による製造工程変革

(2)製造技術の新たな領域開拓

○ 微細化・複合高機能化技術の活用による高付加価値化技術(微小電気機械システム(MEMS)、マイクロマシン、高機能ロボット、マイクロリアクター、ナノ医療機器等)
○ ナノテクノロジー等を応用した新製造工程技術や加工・計測技術の高度化

(3)環境負荷最小化のための製造技術

○ ライフサイクル全体を考慮した省エネルギー・新エネルギー・省資源対応技術
○ 循環型社会形成に適応する廃棄物の発生抑制、再使用・再資源化技術等

3)社会基盤

 「安全の構築」に関しては、国際・凶悪化する組織的犯罪、予測困難なテロ等の脅威、複合的な巨大災害等に対応するための総合的な安全保障に資する研究開発の推進を特に重視する。「美しい日本の再生と質の高い生活の基盤創成」に関しては、公共施設等の社会基盤を長期間にわたり適切に維持・管理するための対策の推進を特に重視する。
 なお、本分野全体の重点領域・事項は以下のとおり。

(1)犯罪、テロ等への対策

○ 捜査技術の高度化、入国・税関管理技術の高度化、有害危険物質の検知・除染技術等

(2)複合的な巨大災害被害軽減対策

○ 迅速・的確な災害対策技術、超高度防災支援システム等

(3)質の高い生活基盤創成のための対策

○ 社会基盤を適切に維持・管理するための対策、安全で高質な交通システム、流域水循環系等の生活基盤の改善対策技術等

4)フロンティア

 我が国の宇宙開発利用は、利用の拡大と産業化の時代を迎えていることを踏まえ、衛星系の次世代化技術に特に重点的に取り組むとともに、産学官連携や民間への技術移転の強化を図り、世界市場の開拓を目指せる宇宙産業の創出を図る。
 また、宇宙・海洋における基礎的・基盤的研究開発の推進と新たなフロンティア分野の開拓を特に重視する。
 なお、本分野全体の重点領域・事項は以下のとおり。

(1)衛星系の次世代化技術

○ 固定衛皐通信の超高速化技術、高速移動体衛星通信・高精度測位技術、地球観測技術等

(2)地球環境情報の世界ネットワーク構築

○ 地球温暖化監視、世界淡水管理等の地球環境情報の戦略的活用、気象・海洋観測等

(3)基礎的・基盤的研究開発の推進と新たなフロンティア分野の開拓

○ 宇宙科学研究、宇宙環境利用、海洋資源利用等

(3)経済活性化のための研究開発プロジェクトの推進

 我が国の産業界、大学等の英知、技術力、資金力を結集し、省の枠を超えた協力の下、世界に通用する技術革新を生み出す研究開発プロジェクトは、国際競争力の強化と経済の活性化を実現するとともに、研究開発による我が国の構造改革を推進する。
 我が国の経済は、引き続き厳しい状況にあり、これを打開し、国際郡争力を確保・強化していくために、経済活性化のための研究開発プロジェクトの強化・拡充を図る。プロジェクトは、比較的短期間で実用化が期待されるものを積極的に推進する。
 また、実用化まで比較的長期間を要するものであっても、次代の産業基盤の構築に資することが期待されるものを併せて推進する。
 プロジェクトの検討に際しては、

  1. 内外の研究開発動向や社会経済情勢の変化、重点4分野等への更なる重点化や各種政府方針を具体化したテーマ設定
  2. 技術革新による相当規模の経済活動の活性化及び雇用の創出
  3. 研究開発・成果活用に関わる府省の協力関係の構築
  4. 産学官の明確な役割分担
  5. 研究開発・設備投資等における産業界の人的・資金的負担
  6. 研究開発期間を通じてプロジェクトの運営に責任を持って携わるプロジェクトリーダーの存在

を重視する。

お問合せ先

科学技術・学術政策局基盤政策課

(科学技術・学術政策局基盤政策課)

-- 登録:平成21年以前 --