資料3 若手博士人材のキャリア開発支援に関する指針策定に向けた検討の視点(案)

1.指針策定の趣旨について

ポストドクターは現在1万8千人を超え、競争的資金等の外部資金により雇用される者が増えている。また、多くのポストドクターの専門分野は、産業界で人材需要の高い分野ではなく、産業界に活躍の場が少ないことなどから、ポストドクターを繰り返し、高年齢層の者が増えるなどの傾向がみられる。
分野別に見ると、特に理学系についてポスドクを繰り返す傾向があり、このような実態があっても研究主宰者(Principal Investigator ;以下PIという。)の側に、キャリア支援を行う意識が希薄という指摘がある。

このような現状を踏まえ、人材委員会は、第5期報告(平成21年「知識基盤社会を牽引する人材の育成と活躍の促進に向けて」)において、ポストドクターのキャリアパスを多様化するよう支援を進めることや、競争的資金の審査や運用に当たり対応すべき点について提言を行った。

本来、国からの研究費の補助は、研究成果のみならず、将来の研究を担う人材を育成するという意義や、高度人材の育成を通じて研究成果を社会へ還元するという意義を有している。言い換えれば、国の研究開発投資は、我が国の未来を担う若手博士人材へ投資して育てるという重要な意義を有している。
このため、研究開発投資は、優秀な若者が希望を持って積極的に科学技術の道を選択する好循環をもたらすような観点から、運用することが重要である。

博士研究人材のキャリアパスは、大学や公的研究機関の研究者だけではなく、研究職以外の職業に就くなど多様化することが求められている。
本指針は、若手博士人材の多様なキャリア開発を支援するために、大学及び公的研究機関、研究主宰者(PI)や指導教員、若手博士人材、それぞれに求められる共通事項を示すものである。
特に、文部科学省の研究開発投資の各事業においては、評価の観点として、公募要領等へ反映することを求めたい。

■第4期科学技術基本計画(平成23年8月閣議決定)

優秀な学生が大学院博士課程に進学するよう促すためには、大学院における経済支援に加え、大学院修了後、大学のみならず産業界、地域社会において、専門能力を活かせる多様なキャリアパスを確保する必要がある。
このため、国として、博士課程の学生に対する経済的支援、学生や修了者に対するキャリア開発支援等を大幅に強化する。

<推進方策>

  • 国は、優秀な学生が安心して大学院を目指すことができるよう、フェローシップ、TA(ティーチングアシスタント)、RA(リサーチアシスタント)などの給付型の経済支援の充実を図る。これらの取組によって「博士課程(後期)在籍者の2割程度が生活費相当額程度を受給できることを目指す」という第3期基本計画における目標の早期達成に努める。
  • 国、地方自治体、大学、公的研究機関及び産業界は、互いに協力して、博士課程の学生や終了者、ポストドクターの適性や希望、専門分野に応じて、企業等における長期インターンシップの機会の充実を図るなど、キャリア開発の支援を一層推進する。

■第4期科学技術基本計画(平成23年8月閣議決定)

  • 研究開発課題の評価においては、研究開発活動に加えて、人材養成や科学技術コミュニケーション活動等を評価基準や評価項目として設定することを進める。

2.指針の範囲

  • 本指針は、博士研究人材のキャリア開発支援に関する共通的な指針とする。特に、以下の文部科学省の研究開発投資の各事業の評価等における共通指針とする。
    • 科学研究費補助金、戦略的創造研究推進事業などの競争的資金
    • その他の公募型研究開発支援事業
  • 本指針の対象となる若手博士人材の範囲は以下のとおりとする。
    • 博士課程(後期)学生
    • 安定的な職に就くまでの職にある博士号を取得した研究者であって、研究主宰者(PI)の立場にはない者(例:博士研究員、特任助教)

3.キャリア開発支援に関する検討事項例

(1)大学・研究機関や研究主宰者(PI)には、どのようなことが求められるか。

1)大学・研究機関(学長等の組織の責任者を含む)が果たすべき役割や期待される取組として、どのようなことが考えられるか。

<前回意見の例>
  • 大学・研究機関のトップが、博士研究人材のキャリア開発支援に組織として取り組む方針を示すことが重要である。
  • 博士研究人材の進路の実態を把握し、その結果を研究主宰者(PI)と情報共有して意識改革を促すことが不可欠である。
  • 競争的資金が無くなった後の継続性の担保を制度としてどのように打ち出せるのか検討すべき。
  • 大学教員や研究主宰者の人事評価は、人材育成も含めた多面的な活動を総合的に評価することが必要である。

【各大学・研究機関の取組例】
企業と連携したサポート組織の設置、
研修プログラムの整備、長期インターンシップ
企業との交流会、カウンセリングなどの実施 等

2)研究主宰者(PI)が果たすべき役割や期待される取組として、どのようなことが考えられるか。

<前回意見の例>
  • 博士課程学生やポストドクターの進路を把握する必要がある。
  • 博士課程学生やポストドクター本人が問題意識をもって、自らのキャリアを開発していく意識を持たせる工夫を検討する必要がある。
  • ポストドクターの時期は、研究者としての適性を見極め、キャリアアップするための段階の一つといえるが、中には、産業界への就職が叶わないためにポストドクターをしている者もいる。このような者については、プロジェクト雇用を繰り返すのではなく、早期の就職を促すことが適切である。
  • 研究者に向かないと考えられる者に対しては、早期に進路変更するよう促すことが求められる。

(2)文部科学省の各事業の公募要領等において、どのような事項を明記することが求められるか。

1)大学・研究機関や研究主宰者(PI)の取組を促すために、どのような事柄を求めることが望ましいか。また、インセンティブとしてはどのようなことが考えられるか。

<前回意見の例>
  • 各事業の審査に当たっては、アメリカNSFのような人材育成方針の提出や、どのような人材を育成したのか、就職状況を提出させるべきである。さらに、優遇措置の検討も必要である。
  • 国のポストドクターの進路状況調査の回答状況を評価の対象とすれば大学の姿勢は変わる。 

【文科省の事例】
科学研究費補助金「新学術領域研究」の審査要綱
《研究領域の審査に当たっての着目点》

  • 研究領域の発展に向け、若手研究者の育成等に配慮しているか。

「テニュアトラック普及・定着事業」の審査要領

  • テニュアトラック教員がポストドクターを雇用する場合、当該ポストドクターの任期終了後のキャリアパスについて配慮する方針が立てられているか。

「博士課程教育リーディングプログラム」審査要項
《審査に当たっての着目点》

  • 終了者が各界のリーダーとして活躍するキャリアが見通せるプログラムが構築されているか。
  • 共同研究やインターンシップをはじめ実践性を備えた研究訓練等が設定されているか。

【アメリカNSFの例】

アメリカ競争力強化法(2007年成立 The America COMPETES Act)
《規定の要約》
NSF長官は、NSFに助成金を申請する全てのプロポーザルに対して、その研究プロジェクト内で学部生、大学院生、ポスドク研究者への適切な指導(例:メンタリング、キャリアカウンセリング、申請トレーニング、教授法改善指導、研究倫理トレーニングなど)を行う計画が記述されているかを確認する必要がある。

2)大学・研究機関や研究主宰者(PI)の取組や意識改革を促すために、費用面で、どのような配慮が考えられるか。

<前回意見の例>
  • 研究費により雇用されている者は、通常、雇用契約等において雇用元の研究業務に専念することが求められるが、キャリア開発支援の観点から研究専念義務を緩和し、一定のエフォート率で主体的な研究活動や企業等へのキャリア開発につながる様々な活動を認めることが重要である。

3)博士課程(後期)学生をリサーチ・アシスタント(RA)として雇用する場合、どのような配慮が考えられるか。

【文科省の事例】

戦略的創造研究推進事業(CREST)の募集要項
《リサーチアシスタント(RA)について》
CRESTでは博士課程(後期)在学者をCREST研究のRAとして雇用する場合、経済的負担を懸念させることのないよう、給与水準を生活費相当額程度とすることを推奨しています。
<留意点>
給与単価を年額では200万円程度、月額では17万円程度とすることを推奨しますので、それを踏まえて研究費に計上してください。ただし、学業そのものやCREST以外の研究に関わる活動などに対する人件費充当は目的外使用とみなされる場合がありますので十分ご留意ください。

お問合せ先

科学技術・学術政策局基盤政策課

(科学技術・学術政策局基盤政策課)

-- 登録:平成23年12月 --