第6章 科学技術イノベーション政策の推進体制の強化

 前章までに掲げた科学技術イノベーション政策が実効性を確保していくためには、第4章3.(2)1.で述べたように、政策の企画、立案、推進といった各段階で国民の幅広い意見を取り込んでいくなどの取組を実施するとともに、政策の推進体制を抜本的に強化していく必要がある。また、それを支える研究開発投資の十分な確保も不可欠である。このため、以下に具体的取組を提示する。

1.政策の企画立案及び推進機能の強化

 政府として科学技術イノベーション政策を一体的に推進していくためには、各府省が、具体的な政策等の企画立案、推進、更に社会実装に至るまで、一貫したマネジメントの下で取り組むとともに、各府省の政策全体を俯瞰し、より幅広い観点から、政策を計画的かつ総合的に推進する司令塔機能を強化していく必要がある。
 特に、科学技術イノベーションを通じて、国内外の諸課題の解決に繋げていくためには、社会実装に関連する政策との連動が極めて重要である。現在、政府においては、エネルギー、環境、健康・医療、国家安全保障、防災、国土強靭化、海洋、宇宙、情報通信といった様々な政策領域における司令塔機能が存在し、また、各政策領域で基本方針が取りまとめられている。
 こうした中で、それぞれの司令塔間の調整等に時間を要し、政策の円滑な企画・立案・推進に影響を及ぼしているとの指摘がある。国家戦略として科学技術イノベーション政策を強力に推進するという観点に立ち、総合科学技術・イノベーション会議は、科学技術に関連する各府省のみを束ねるのではなく、それぞれの司令塔を束ねる真の司令塔として、その機能を発揮していくことが求められる。
 また、政府は、客観的根拠(エビデンス)に基づく政策の企画立案・評価プロセスの改善と充実を図るため、「政策のための科学」を推進する。その推進に当たっては、中核的拠点を整備・充実し、科学技術イノベーション政策のデザイン、政策分析・影響評価、政策形成プロセス等の領域における手法及び指標の開発を行う。また、関連人材の育成を強化する。さらに、成果、人材、資金配分やそれらの関係等に関する科学技術イノベーション政策の総合的なデータベースを構築、活用する。また、我が国を取り巻く課題が複雑化、高度化する中で、社会の要請に応える政策を展開していくため、重要課題に関する将来分析及び予測を行う体制を整備する。
 さらに、東日本大震災の対応において、専門家の科学的助言を十分に活用できなかったのではないかという指摘を踏まえ、政府が適切な科学的助言を得るための仕組みについて、総合科学技術・イノベーション会議における着実な検討を進め、早期の具体化が求められる。

2.科学技術イノベーション政策におけるPDCAサイクルの実効化

 科学技術イノベーション政策を効果的・効率的に推進するためには、政策のPDCAサイクルを確立することが重要である。このため、政府は、政策、施策等の目的、実施体制などを明確に設定した上で、その推進を図るとともに、進捗状況について、適時、適切にフォローアップを行い、政策等の見直しや資源配分、新たな政策等の企画立案等に適切に活用する。
 また、PDCAサイクルの確立に当たっては、特に、施策、事務事業(プログラム等)、研究開発課題の各段階における実効性ある評価の実施が重要である。このため、政府は、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」及び「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」等に則り、研究開発評価システムの持続的な改善・充実、評価環境の整備等を図り、研究開発現場における、優れた研究開発活動の推進や人材養成、効果的・効率的な資金配分、説明責任の強化の観点からの評価結果の活用等を促進する。
 また、大学、公的研究機関等においては、研究者が創造性を発揮し、優れた研究開発を効果的・効率的に実施できるよう、評価システムの構築や運営を適切に行うことが求められる。その際、科学技術イノベーション創出や課題解決の推進、ハイリスク研究や学際・融合領域・領域間連携研究等の推進、次代を担う若手研究者の育成・支援の推進、評価の形式化・形骸化や評価負担増大に対する改善等の課題に十分留意する必要がある。
 加えて、政府は、科学技術イノベーション創出に向けての目標と時間軸が明確に設定できる場合には、「研究開発プログラム」のレベルでの評価(研究開発プログラム評価)の導入・定着に向けた検討を進める。さらに、評価人材の育成とキャリアパス確保に関する取組を推進する。

3.政府研究開発投資の拡充

 基本計画においては、国を挙げて科学技術の推進を図るべく、第1期から第4期に至るまで、継続的に政府の研究開発投資の目標額が設定されてきた。この目標の下で投じられた研究開発投資により、我が国の大学、公的研究機関等の研究環境は改善し、人材が蓄積し、画期的な成果が生み出されてきた。一方で、投資目標については、第1期の目標である17兆円は達成したものの、第2期、第3期で掲げた目標は達成できていない。また、第4期における目標25兆円については、第3期と比較して実績は上積みとなる可能性は高く、引き続き目標達成に向けた最大限の努力を行っていく必要があるものの、その達成は現時点では難しい状況にある(平成26年当初予算までで約18.6兆円)。
 諸外国に目を向けると、科学技術イノベーションが国の将来の成長・発展を左右する極めて重要な要素であると認識されており、米国、欧州、アジアの主要国においては、研究開発投資に対する目標を掲げ、またその目標は拡充傾向にあり、世界は国を挙げて科学技術イノベーションを振興している。このような中にあって、我が国は、長期的には政府研究開発投資の拡充が図られてきてはいるものの、諸外国と比較してその伸びは小さく、我が国の世界における地位の大幅な低下が懸念される。
 この状況が続けば、我が国の唯一の資産とも言うべき科学技術が世界から引き離され、国際競争力を失い、結果として、我が国の国際的地位の低下を招くとともに、我が国の産業をはじめとする成長基盤が、近い将来大きく揺らいでいくことが懸念される。中国をはじめとする新興国がこの5年間で急激に力を伸ばす中で、この懸念の切迫感は大きく増している。このため、社会の理解と信頼と支持の下、科学技術イノベーション政策を国家戦略に位置付けた上で、一層強力に推進していくことが求められる。
 このような観点から、科学技術イノベーション政策の推進を支える政府の研究開発投資については強化していくことが不可欠であり、今後、政府としての明確な投資目標額を掲げていくことが極めて重要である。
 したがって、今後策定される第5期基本計画においては、第2期、第3期、第4期基本計画中に対GDP比で1%の達成を目標として掲げていたものの未達成であること、我が国の政府研究開発投資割合が他国と比べて低い状況にとどまること(平成25年度で政府19.5%、民間80.0%)、その中で、政府研究開発投資がいわゆる呼び水となり民間の投資が拡大するという官民の相乗効果が期待されること、さらに、米国や欧州、アジア各国が研究開発投資の指標として対GDP比を掲げていること等を総合的に勘案し、我が国においても、その投資目標としては「政府研究開発投資の対GDP比1%を確保する」ことを基本として、明確な投資総額を掲げていくべきである。

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-- 登録:平成27年06月 --