第5章 科学技術イノベーション創出機能の最適化

 第3章及び第4章で掲げた取組が最大の効果を発揮するためには、科学技術イノベーション活動の実行主体として重要な役割を担う大学及び国立研究開発法人の機能を強化し、また、それらの活動を支える政府の資金配分が適切に実施される必要があることから、以下に具体的取組を提示する。

1.大学の機能の強化

 科学技術イノベーション振興における大学の主な役割は、「教育」を通じて多様で優れた科学技術イノベーション人材を養成し、「研究」を通じて多様で卓越した知識や価値を創造し、それらの知識や価値を産学官連携活動などを通じて広く社会に提供し、経済的、社会的、公共的価値の創出に寄与していくことである。
 しかし、近年、大学の基盤的経費の減少等を理由として、安定した若手ポストが減少し、大学教員の研究時間が減少しているなど、大学に求められる役割が必ずしも十分に発揮できていない状況にある。また、大学が抱える課題として、適切な大学間競争が起こっていないといった指摘も挙げられている。こうしたことから、科学技術イノベーション振興の観点からも、大学の機能強化を図っていくことが求められる。

 国立大学については、国立大学改革プランを踏まえた改革取組が進みつつある。この改革を更に加速させ、政府は、平成28年度からの第3期中期目標期間中の運営費交付金の配分や評価に関して、大学の機能強化の方向性に応じた在り方を検討し、実行する。
 その際、「地域活性化・特定分野の重点支援を行う大学」、「特定分野の重点支援を行う大学」、「世界最高水準の教育研究の重点支援を行う大学」といった3つの重点支援の枠組みを新設するなど、各大学の機能強化の方向性に応じた重点支援の在り方を検討する。また、国際的な厳しい競争環境に対応し得る一定の条件を満たしている大学について、「特定研究大学(仮称)」としてグローバルな観点からの評価を行いながら、特別な支援を行う仕組みの在り方を検討する。加えて、イノベーション創出の源泉である人材育成と、知の創出の両方を担う大学院の競争力を強化するため、国公私立大学の研究科・専攻(群)を対象として、世界最高水準の教育力と研究力を有する「卓越大学院(仮称)」群の形成を進める。
 さらに、政府は、こうした国立大学法人運営費交付金の配分や評価の在り方、特定研究大学(仮称)や卓越大学院(仮称)の条件設定や支援内容等に関して、第3章及び第4章で記載したような、科学技術イノベーション振興の観点から大学に求められる取組とも整合性を取りながら検討を進める。加えて、各大学の競争力の向上にために、大学におけるIR機能の強化に向けた取組を積極的に促進する。

2.国立研究開発法人のイノベーションハブとしての機能の強化

 平成27年度より新たな研究開発法人制度が開始となる。当該制度によって新たに分類される「国立研究開発法人」は、社会経済の変化への対応と、科学技術イノベーションを巡る課題の解決にとって大きな役割を果たしていくことが見込まれる。
 しかし、国立研究開発法人が置かれた現状は厳しく、例えば、予算や評価の仕組み等における様々な制約や、運営費交付金の減少等により、第2章4.(3)で示したような国立研究開発法人の優れた特性を活かした役割が、十分に発揮できていない状況にある。我が国のイノベーションシステムが大きく転換する中で、国立研究開発法人の重要性は高まっており、新しいイノベーションシステムの駆動力となる「イノベーションハブ」として、国立研究開発法人の飛躍的な機能強化を図っていく必要がある。

(国立研究開発法人の本来的な機能の強化)

 国立研究開発法人が、イノベーションハブとしての飛躍的な機能強化を遂げていくには、まずは法人の魅力を高め、優れた人材を獲得していくことが鍵となる。
 このため、国立研究開発法人においては、我が国全体の科学技術イノベーション活動を俯瞰した上でミッションの明確化を行い、これに応じて、例えば論文にこだわらない研究者評価を実施するなど、各法人独自の魅力ある評価システムを構築することが求められる。加えて、第3章1.(1)に掲げた人材システムの改革の取組、とりわけ、若手研究者の採用時の海外経験の重視、優れた国内外の研究者への処遇の充実、年俸制・クロスアポイントメント制度の導入、博士課程学生のRA雇用の充実、といった取組を、我が国の大学、公的研究機関等に先駆けて積極的に推進、先導していくことが求められる。
 また、先端大型研究施設等の研究施設・設備等について、産学官への幅広い共用とネットワーク形成を進めていくことや、知的財産の創出と活用の強化を図っていくこと等も求められる。競争的経費を活用し、各法人のミッションの達成に資する萌芽的研究や他機関との共同研究の実施等も重要である。
 政府は、こうした取組について、中長期目標の設定と法人評価、中長期計画を実行するための予算措置等を通じて促進する。予算措置に当たっては、法人の機動的対応やマネジメント能力の強化等のための理事長裁量経費の付与を検討する。また、法人の有する施設・設備等について、共用取組の実施を促しつつ、運転時間や利用体制を確保するための経費を措置する。さらに、国立研究開発法人としての運用改善、例えば、少額随契限度額など調達に関する新たなルール、研究開発業務に応じた適切な会計基準の在り方、寄附金の税制上の扱い等に関する検討を行う。加えて、科学技術イノベーション政策の基盤となる世界トップレベルの成果を生み出す創造的業務を担う法人を特定国立研究開発法人(仮称)として位置付け、支援を行うための制度の実現と充実に努めていく。

(新たなイノベーションシステムに対応する取組の強化)

 我が国のイノベーションシステムが大きな転換期にある中で、国立研究開発法人は、大学、民間企業等との適切な役割分担の下で、新しいイノベーションシステムを駆動させていく取組の実施が求められている。
 このため、国立研究開発法人においては、国家戦略コア技術等の重要技術の研究開発を軸に据えて、産学官のヒト・モノ・カネ・情報が結集する拠点(人材・技術糾合の場)を形成することが求められる。また、法人の持つ特性を活かし、異なる分野の研究者等を結集した新興・融合領域の研究開発、国内外の優れた研究者等を結集した最先端の研究開発等を積極的に推進する。加えて、大学等が有する技術シーズを事業化に結び付ける「橋渡し」研究や、イノベーションシステムを支える人材の積極的な育成・確保等も重要である。政府は、これらの取組について、中長期目標の設定と法人評価、予算措置、プロジェクトの実施等を通じて促進する。

3.資金配分の改革

 第2章4.(4)で示したように、大学及び国立研究開発法人の科学技術イノベーション活動に対する政府の資金配分は、基盤的経費と競争的経費のデュアルサポートによって実施されることが原則である。これらの経費についての改革と充実を図るとともに、その配分に当たっては、両経費の最適な組み合わせが常に考慮される必要がある。

(1)基盤的経費の改革・充実

 大学及び国立研究開発法人がそのミッションを達成するためには、基盤的経費(国立大学法人運営費交付金及び施設整備費補助金、私学助成等)が不可欠であり、また、その充実は、若手研究者等のキャリアパスの明確化など、最近の科学技術イノベーションを巡る様々な課題の解決に資するものであることから、競争的経費の充実とともに、基盤的経費の充実を着実に図っていくことが重要である。
 その際、国立大学等については、上記1.でも記載したように、大学の機能強化の方向性に応じた運営費交付金の配分と評価の在り方を検討し、これを踏まえた上で、国立大学法人運営費交付金の充実を図る。
 また、国立研究開発法人については、平成27年4月から新たな類型の法人として位置付けられ、研究開発成果の最大化を目的とするという趣旨を踏まえ、上記2.でも記載したように、法人ごとに定めるミッションの確実な達成とイノベーションハブとしての機能強化を図ることを目的に運営費交付金の充実を図る。

(2)競争的経費の改革・充実

 科研費や戦略創造事業をはじめとする「競争的資金」は、我が国における研究開発の多様性を確保し、競争的な研究開発環境の形成に資する重要な資金であるとの考えの下、第1期基本計画以降、その拡充と持続的な運用改善を進めてきた。他方、平成22年度に競争的資金の要件が厳格化されたこと等を受けて、「競争的資金に該当しない」として扱われている「競争的な性格を持つ経費」が存在している。
 今後は、競争的資金を含めた競争的な性格を持つ経費全体を俯瞰した上で、「研究開発を主たる目的とする経費」(以下、「研究型経費」という。)、「大学や公的研究機関等のシステム改革や教育改革の促進を目的とする経費」(以下、「システム改革型経費」という。)といった経費の目的別に分類し、それぞれの事業の性格に応じた改革を進め、充実を図る。また、総合科学技術・イノベーション会議においては、こうした認識を踏まえ、「競争的資金」の定義の拡大に向けた検討を実施することが望まれる。

(研究型経費の在り方)

 研究型経費は、競争的資金を含めた、研究開発を主たる目的とする経費である。研究開発の多様性を確保し、競争的な研究開発環境の形成に資するという本来目的を維持した上で、類似の事業の整理・統合を図りながら、充実していく必要がある。
 なお、研究型経費のうち競争的資金については、間接経費を30%措置し、事業間の経費利用ルールの統一化などの運用改善などをこれまで進めてきている。しかし、間接経費は、「研究の実施に伴う研究機関の管理等に必要な経費を手当てし、研究機関間の競争を促し、研究の質を高める」ための経費であることから、その趣旨を踏まえると、全ての研究型経費に措置されるべきものである。同様に、事業間の経費利用ルールの統一化なども全ての研究型経費で導入されるべきものである。
 このため、政府は、今後全ての研究型経費に対する間接経費30%の措置に努めていく。また、事業間の経費利用ルールの統一化などの取組も全ての研究型経費に拡大して実施する。なお、これらの取組は、府省を越えて実施されるべきものであることから、総合科学技術・イノベーション会議においては、これらを考慮に入れた上で、競争的資金の定義の拡大に向けた検討を行うことが求められる。加えて、大学や公的研究機関等において、研究開発成果の最大化が図られるよう、間接経費の措置の在り方を検討する。
 さらに、政府は、研究情報や研究成果の一層の可視化や、事業間の府省を越えたシームレスな連携のための取組を推進する。また、経費の一層の効果的・効率的利用に向けた具体的取組として、基金化や国庫債務負担行為化の一層の活用、府省共通研究開発管理システム(e-Rad)の利用者ニーズに応じた持続的なシステム改善、経費の利用ルールの持続的な改善、事業の審査・採択における共用設備・機器等の活用の要件化に関する制度の検討等を実施する。

(システム改革型経費の在り方)

 システム改革型経費は、大学や公的研究機関等のシステム改革や教育改革の促進を目的とする経費である。政府は、システム改革型経費について、経費毎の特性を踏まえつつ、事業目的の達成を担保できる仕組み(事業期間、予算規模、評価、基盤的経費による取組との関係等)を内在化することを前提とした上で、必要となる取組を実施する。
 なお、研究型経費とシステム改革型経費の両方の性格を併せ持つ事業については、双方の記載事項を踏まえた上での改革と充実を図る。

(若手人材育成の観点からの取組)

 第3章1.(1)でも示しているように、競争的経費の改革は、若手人材のポストの確保や自立促進等の観点から極めて大きな効果をもたらす。
 このため、政府は、競争的経費毎の特性を踏まえつつ、厳格なエフォート管理の実現を前提に、競争的経費における研究代表者等への人件費支出の一層の促進を図るとともに、人件費に関する競争的経費と基盤的経費の合算使用の在り方について検討を行う。
 また、競争的経費の審査・評価において、雇用する若手人材の育成環境やキャリアパスの確保に関する観点の充実を図る。さらに、競争的経費で雇用するポストドクターや博士課程学生の処遇の充実を図るとともに、若手研究責任者向けの研究費、特に機関を異動した若手研究責任者向けの研究費を充実する。

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-- 登録:平成27年06月 --