平成21年度開設予定大学院大学一覧(判定を「不可」とするもの)

1 大学院大学を設置するもの 1校 1研究科 1専攻

平成20年10月

区分 大学名 研究科名 専攻名 入学定員 位置 設置者 理由
私立 文化政策・まちづくり大学院大学 文化政策・まちづくり学研究科(通信教育課程) 文化政策・まちづくり学専攻(M) 25人 京都府京都市 学校法人
文化政策・まちづくり大学院

申請者
文化政策・まちづくり大学
院大学設立準備委員会
(別紙(リンクは下記参照)のとおり)

文化政策・まちづくり大学院大学を「不可」とする理由

  大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)第10条、第36条、大学院設置基準(昭和49年文部省令第28号)第8条第1項及び第5項、第11条第1項、第19条、第21条、第22条の3、第24条、第29条並びに第30条に基づき「不可」とする。

 研究科及び専攻名称として「文化政策・まちづくり学」を冠し、「「分散し崩壊した多様な文化資源を有効に結合して事業化を構想し、事業において文化的価値を提案しながら」、産・学・公共の連携によって、文化事業を基軸とした「文化による‘まちづくり’」を実行する人材」を育成するため、通信教育による学部を置かない大学院大学を設置する計画であるが、以下に示すとおり、設置の目的を実現するための教育課程、教員組織、施設・設備等について、多くの点で曖昧さを残し、総じて準備不足であるため、継続的・安定的に大学院教育を提供できるものとは認められない。

1.教育課程について

 研究科・専攻名にも付されている「文化政策・まちづくり学」について、申請者は、「まちづくりのための文化政策、あるいは文化振興政策の学術的研究を行う学問領域」と説明をしているが、まちづくりや都市再生が、文化政策と同じ水準で語られておらず、特に「まちづくり学」の考え方、内容が客観的に不明確であった。また、各科目が、特定の教員の研究実績に対応したものとなっており、カリキュラムが体系的に編成されているとは認められなかった。
 そのため、申請当初から、文化政策・まちづくり大学院大学として目指すべき人材育成像に対応した体系的な教育課程の編成について求めてきたところである。

 それに対して、申請者は、

  • 「文化政策・まちづくり学」の構成要素として、「文化政策」と「まちづくり」を挙げ、両者の関係性を示す要素としての「文化経済」、「企業文化」、「文化開発」、及び、これら3要素をサポートする「文化政策」が基幹的な概念であるとし、
  • 「まちづくり学」は、「その地における固有の自然や歴史を踏まえつつ、文化的な伝統を現代的に再生しながら、市民参加によって、「まちをつくりなおす」あるいは、「蘇生させる」という意味が込められている」とする。
  • そして、「文化経済」、「企業文化」、「文化開発」、「文化政策」という「4つの基幹的な概念が、「文化政策・まちづくり」という統合的な概念に到達するには、地域・企業などの「場」における広がりが必要」と説明している。
  • また、このような「文化政策・まちづくり学」に対応する教育課程編成として、基幹科目(「文化経済学」、「企業文化学」、「文化開発論」、「文化政策学」)をタテ軸とし、総合基礎分野(「公共政策論」、「都市経済学」、「文化と法」など)及び専門分野(応用:地域・企業文化論領域(「関西文化経済論」、「地域文化資源振興論」など)、展開:文化政策・まちづくり学領域(「芸術文化政策論」、「現代文化産業論」など)をヨコ軸とする旨の説明をしている。

 しかしながら、「まちづくり学」を、「その地における固有の自然や歴史を踏まえつつ、文化的な伝統を現代的に再生しながら、市民参加によって、「まちをつくりなおす」あるいは、「蘇生させる」という意味が込められている」とし、「「文化政策・まちづくり」という統合的な概念に到達するには、地域・企業などの「場」における広がりが必要」と説明するにとどまり、「まちづくり学」の概念的・学術的構成要素が依然として明確になっておらず、「文化政策(学)」と同水準で説明されているとは言い難い。

 学校教育法第104条では、大学は、文部科学大臣の定めるところにより、大学院の課程を修了した者に対し修士又は博士の学位を授与するものとしている。また、中央教育審議会答申『我が国の高等教育の将来像』では、学位について、「国際的通用性のある大学教育または大学院教育の課程の修了に係る知識・能力の証明として、学術の中心として自律的に高度の教育・研究を行う大学が授与するという学位の本質は、国際的に共通理解となっている」としている。
 このような学位の趣旨を踏まえると、学位を授与するにあたってのプロセス、すなわち教育課程は、学位を授与するにふさわしい授業科目が体系的に編成されていなければならない。これは、大学院設置基準第11条第1項でも明確に規定しているところである。
 しかしながら、本大学における教育課程は、研究科・専攻の名称及び学位の分野を「文化政策・まちづくり学」とするならば、「基幹科目」に「まちづくり学」が明確に位置づけられるべきであるにもかかわらず、先に指摘したように、その「まちづくり学」を構成する概念的・学術的構成要素が不明確であることから、教育課程が体系的に編成されているとは言い難い。
 よって、大学院設置基準第11条第1項に規定する要件を充たしているとは認められない。
 なお、「社会学」が、文化政策学やまちづくり学の修得に基礎知識として必要と考えられることから、教育課程を適切に改めるよう対応を求めていたところ、既存の「現代経済学」を社会経済学的色彩の強い「現代経済社会学」に改めたのみであり、対応として不十分と言わざるを得ない。

2.教員組織について

 申請者が当初提出した申請書では、専任教員の構成が特定の年齢に著しく偏っており(専任教員9名のうち64歳以上が6名、うち3名は75歳以上。平均年齢は60.0歳)、教育研究の継続性、教育研究水準の維持向上及び教育研究の活性化が図られるか懸念されたため、2度にわたり補正を求めた。
 これに対して申請者は、50歳代の教員を採用する等の対応をした結果、専任教員9名のうち65歳以上が5名、うち3名は75歳以上(平均年齢59.8歳)となった。平均年齢は僅かに下がったが、本申請は、学部を置かない大学院大学であり、専任教員は9名のみの計画となっていることから、教育研究の継続性・安定性の観点から、依然として特定の範囲の年齢に著しく偏っていると言わざるを得ない。
 よって、大学院設置基準第8条第5項に規定する「大学院は、教育研究水準の維持向上及び教育研究の活性化を図るため、教員の構成が特定の範囲の年齢に著しく偏ることのないよう配慮するものとする」という要件を充たしているとは認め難い。
 さらに、「1.教育課程」において述べたように、本来、基幹科目の中に主要科目として位置づけられるべき「まちづくり学」分野の専任教員の配置がなく、「文化政策・まちづくり大学院大学」を開設するにあたり、教員組織の編成に関する準備及び配慮が十分に進捗しているとは認められない。よって、「大学は、教育上主要と認める授業科目については原則として専任の教授又は准教授に、主要授業科目以外の授業科目についてはなるべく専任の教授、准教授、講師又は助教に担当させるものとする」と規定する大学設置基準第10条、及び「大学院には、その教育研究上の目的を達成するため、研究科及び専攻の規模並びに授与する学位の種類及び分野に応じ、必要な教員を置くものとする」と規定する大学院設置基準第8条第1項の要件を充たしているとは言い難い。

3.施設・設備について

 本大学は、京都市内の本部校舎、四条校舎、大阪府の茨木校舎の3キャンパスで、通信教育課程における教育研究を行っていくとしている。
 本部校舎は、廃校になった京都市内の中学校の2階部分の一部(延べ271.8平方メートル)を借用し、そこに事務室、教室、教材発送室、図書館等を配置する計画である。また、大阪府の茨木校舎(延べ101.28平方メートル)は、個人宅敷地の一角に設置された書庫(2階部分。1階は個人用車庫)を大学の書庫として活用する計画である。四条校舎は、本部校舎から徒歩10分程度のところにあるマンション(6階建:オートロック方式)の一室(3階、延べ58.3平方メートル)を、学生控室(9平方メートル)、学生自習室(17平方メートル)、演習室(8平方メートル)として活用するという。
 特に、四条校舎において、申請者は、「自習室」を、「学生が自由に自習を行えるように」するためのものとし、「学生控室」は、「学生の自習や演習に参加する際に利用できるようにする」ためのものであると位置づけている。また、「演習室」は大学設置基準上、「教室」の一種として位置づけられているものであるが、「個別の指導を行う際に利用する」計画であるとしている。
 本大学では、演習は面接授業で実施することとし、研究指導も論文構想発表会、中間発表会のほか、教員との個別相談等、学生が2年間に、相当数キャンパスに足を運ぶことを前提としたものとなっている。
 学生は演習や研究指導における発表にあたっては、担当教員と相談しつつ、レジュメや参考文献等、必要な資料を準備する必要があり、その際は、予習をする自習室、文献を調べる図書館、作業をするスペース等が極めて重要である。また、授業以外でも、同じ学問を修めようとする仲間として、学生控室等で種々の情報を交換し合い、意見を交わすことは、自身の教育研究に係る学問的素地の形成を図るための重要な機会である。
 このように、校舎等の施設は、通信教育課程においても、その教育研究目的を達成するために極めて重要なものである。特に、本大学のように、目指すべき人材像を「「分散し崩壊した多様な文化資源を有効に結合して事業化を構想し、事業において文化的価値を提案しながら」、産・学・公共の連携によって文化事業を機軸とした「文化による‘まちづくり’」を実行する人材」とイメージし、そのために、「教授と全国に分散する社会人学生の双方向コミュニケーションを実現し、通信制と対面授業を組み合わせる形での新たな教育研究システムの構築を目指す」としている場合、通常の通信教育課程に増して、演習、研究指導、そして学生間のコミュニケーションが図られるような校舎等の施設を整備する必要がある。
 しかしながら、本大学の校舎等施設は、先に述べたように、教育研究上重要である教室(演習室)や自習室、学生控室が、本部校舎から徒歩10分程度のマンションの一室に設けられており、しかも、当該校舎は、管理者を置く予定がないという。実地審査の際にも、四条校舎の管理運営に係る規程の添付を求めたが、再補正申請書に四条校舎に係る管理運営規程の添付はなかった。また、当該校舎は、LANの整備も予定していない。
 さらに、オートロック方式を採用しているマンションにおいて、住民でない多数の学生が出入りするような計画は、一般住民から理解が得られるとは考えられず、また、当該マンションの一室に設けられているような「学生控室」、「学生自習室」、「演習室」は、大学設置基準第36条に規定する校舎等施設とは、認められるものではなく、かつ、大学院設置基準第19条の「大学院には、当該大学院の教育研究に必要な専用の講義室、研究室、実験・実習室、演習室等を備えるものとする」及び同基準第22条の3の「大学院は、その教育研究上の目的を達成するため、必要な経費の確保等により、教育研究にふさわしい環境の整備に努めるものとする」、さらには、同基準第24条の「独立大学院は、当該大学院の教育研究上の必要に応じた十分な規模の校舎等の施設を有するものとする」という要件を充たしているものとは言い難い。

4.図書等について

 図書については、2名の個人が収集した図書(約3,500冊)を基礎に、本大学の図書として整備し、順次整備を行っていく計画としている。また、これら図書は、本部校舎と大阪府茨木市にある茨木校舎に分置し、茨木校舎は、自治体歴史資料や全集、貴重図書を主に所蔵する「書庫」として位置づけるとしている。
 当初の説明において、図書数が十分かどうか、また、学生が、容易に利用できるものとなっているかどうか疑義があったため、図書の整備計画、また、それら図書や学術雑誌、視聴覚資料その他の教育研究上必要な資料が、研究科及び専攻の種類に応じ、系統的に整理されているかどうか、具体的に説明をするよう求めた。
 申請者からは、2名が寄贈した図書の目録とその分類表が示されたが、当該図書がどのカテゴリーに分類されるものかについての具体的な説明はなく、「文化政策・まちづくり学」を修めるにあたって十分な図書その他が、系統的に整理されているかどうかを確認するに足るものではなかった。
 また、図書は、「順次整備を行っていく」とし、開設前年度の図書整備費を160万円、開設年度を50万円、完成年度を60万円と設定している。しかしながら、開設前年度の図書整備160万円のうち、110万円は図書管理システム導入経費、20万円は図書館用品等購入経費であり、残りの30万円が図書、雑誌、電子ジャーナル購入費としている。また、申請者は、情報アクセス可能な環境の整備について、「図書館職員専用の業務用端末と、学生等の利用者が電子ジャーナルや蔵書検索等の情報にアクセスに利用できる端末をそれぞれ一台ずつ配置し、図書館内において情報検索が可能な状況を整備する。また、電子ジャーナル等を講読する際には学内のインターネットに接続可能なすべてのパソコンから閲覧可能な状態に整備」すると説明するにとどまり、開設時に必要な電子ジャーナルを整備するかどうかが明確に説明されていない。
 当然、図書や学術雑誌、電子ジャーナル等は、開設後、学生や教員の要望に応ずる形で充実させていくものであるが、開設年度から、必要な数が体系的に整理されていなければならないことは言うまでもない。特に、本大学は、通信教育課程であるが、演習は面接授業で行い、研究指導においても通学することが前提とされていることから、学生が図書、学術雑誌、電子ジャーナル等を活用することは大いに予想される。
 以上を踏まえると、示された図書経費で、必要な図書、学術雑誌、電子ジャーナル等が、「文化政策」及び「まちづくり」のいずれの観点からも十分と言える程度に整備可能か否かの説明がされているとは言えず、また、現状の図書、学術雑誌等の分野・数が教育研究上十分であるかどうかも極めて疑問である。
 また、本部校舎の図書館については、学生が蔵書検索や電子ジャーナルを閲覧するためのパソコンが1台のみ設置されており、その他の閲覧座席数は4席となっている。先に述べたように、面接授業及び研究指導の際に学生が通学することに鑑みれば、これらの設備では、学生が図書館を利用するにあたって、支障をきたすことが予想される。
 よって、「大学院には、研究科及び専攻の種類に応じ、図書、学術雑誌、視聴覚資料その他の教育研究上必要な資料を系統的に整理して備えるものとする」と規定する大学院設置基準第21条及び「大学院は、その教育研究上の目的を達成するため、必要な経費の確保等により、教育研究にふさわしい環境の整備に努めるものとする」と規定する同基準第22条の3の要件を充たしているとは言い難い。

 なお、図書館の一部として位置づけられるべき書庫は、大阪府茨木市の個人宅敷地の一角にあり、本部校舎から60分程度の移動時間である。また、「常勤職員は配置しない」としていることから、大学としての「図書館」の概念を逸脱していると言わざるを得ない。

5.通信教育における施設及びシステムについて

(添削等による指導並びに印刷教材等の保管及び発送のための施設について)

 大学院設置基準第29条は、「通信教育を行う課程を置く大学院は、添削等による指導並びに印刷教材等の保管及び発送のための施設について、教育に支障のないようにするものとする」と規定している。
 本大学は、本部校舎に教材発送室(9平方メートル)を設置している。申請者は、印刷教材の保管については、データによる保管を主として、印刷した媒体は年度毎に必要なものを教材発送室に置くとしている。また、年度内に不要な媒体は、数を限定して、同室内にある図書館にて資料として保存するという。
 また、学生が、「学習目標を達成しているかを確認し」、「教員とのコミュニケーションを図るため」に使用するとしているコミュニケーションツール(授業毎に学生が講義内容の要約及び論評を記載したシートを、FAXで大学に送信し、それをティーチング・アシスタントが手書きで添削した上で学生に送り直すというもの。以下「CT」という。)についても、添削後のシートを学生がデータ化し、学期末までに大学に送信してきた段階で破棄するため、保管場所は必要ないと説明する。
 しかしながら、2学期制を敷く本大学において、学期末まではCTを保存しておく必要があり、かつCTは成績評価にあたって重要な資料となることから、確実な保管場所を確保しておく必要がある。また、「開設する講義科目は45科目あるが、毎年すべてを印刷しておく必要はないものと判断している」と説明しているものの、印刷しておくべき資料がどれだけあり、それがどの程度の分量になるのか具体的に示されておらず、僅か9平方メートルの教材発送室で支障がないことを十分に説明するものとなっていない。
 加えて、教材発送室とTA控室、また図書館が一体の部屋となっており、添削等の作業を行うティーチング・アシスタントと図書館を利用する学生が同一空間にいることは不適切である。
 よって、大学院設置基準第29条に規定する「添削等による指導並びに印刷教材等の保管及び発送のための施設について、教育に支障のないようにするものとする」という要件を充たしているとは認め難い。

(添削等のための組織等について)

 大学院設置基準第30条では、「通信教育を行う課程を置く大学院は、添削等による指導及び教育相談を円滑に処理するため、適当な組織等を設けるものとする」と規定している。
 本大学では、印刷教材を中心とした通信制の大学院大学として、双方向の対話を重視し、「ビデオチャット」により学生の学習に係る日常的相談及び学習支援のために「添削指導時間帯」の設定、FAXによるCTの活用、インターネットを利用した動画による授業等を行うとしている。しかしながら、当初の説明において、安定した学習環境であるかどうかが不明確であったことから、具体的に説明するよう求めた。
 また、実地審査において、通信システム環境の1.CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)の構成、2.CMSとグーグルなどのフリーソフトとの結合のわかる資料、3.セキュリティー体制、4.管理運営体制・方針、についても、再補正申請の際に説明するよう求めた。
 しかしながら、再補正申請書や実地審査の際に求めた資料では、対策が講じられていないものや、依然として不明確なものが多く、以下に列挙するように、通信教育が円滑に行われるかどうか懸念される。

  1.  実地審査において依頼したシステムの設計図が作成されていない。
     開発したCMSとフリーソフトが、必ずしも齟齬がなく稼動するとは限らないことから、システムの設計図は、「稼動する」という説明の確実性を確認するための重要な判断基準となるものである。しかしながら、説明資料では、例えばCMSとグーグル・ドキュメント等が、どのように連動した構成になっているのか、また、CMSとスカイプ等のビデオチャットソフトとの関係はどのように構築されているのかが不明である。
  2.  不測の事態のトラブルへの対応策が説明されていない。
     説明資料に書かれていることはメンテナンスの問題のみであり、トラブルが生じた場合の対応が不明である。非常時の通信環境保全に関しては、システムの側面と学生の教育の側面から整備する必要があり、例えば、サーバーがダウンしたとき、代替となるものは用意されているのか、復旧にどの程度の時間を見込んでいるのか、また、フリーのアプリケーションの更新によってCMSが稼動しなくなった場合どのように対応するのか等、業者との契約条件が示されておらず、計画の具体性に欠けている。
  3.  IDとパスワードの管理を、フリーソフトの場合も含め大学が一括して行うのか不明である。
     CMSのIDとパスワードは大学が管理するとのことだが、フリーソフト(グーグルやスカイプ)の場合、学生個人が自由にIDを取得することと推察される。それは、セキュリティ面での問題が大きい。申請者が計画している体制では、問題が生じた一学生の個人情報だけでなく、他の学生や教員の個人情報も漏洩する危険性が高く、大学としての契約が必要である。
  4.  ビデオチャットは、何人で実施する予定か不明である。
     現行のシステムでは教員1人に対し、学生3人までが限度と思われるが、いずれの授業科目も学生が1~2名であることは考えられず、ビデオチャットが成立するとは考えにくい。そのため、学習の質が保たれるか極めて疑問である。
  5.  大学側のFAX回線は何本用意されているのかが不明である。
     学生にCTを「FAXで送信させる」とあるが、学生が一斉にFAXを使用する場合のことを考えた対応がとられていない。
  6.  学生や教員が、自宅において、どの程度の通信環境を整備すればよいのか、説明されていない。
     パソコンのCPU、各種ソフトのバージョン、通信回線の速度、FAXの必要性などはすべて基本情報であり、認可申請の段階で具体的な説明ができていないことは、計画の具体性に欠けると言わざるを得ない。
  7.  印刷教材をEメールで送付することの実効性が担保されていない。
     「印刷教材は主として電子データ化されたものをEメールにて添付する」と説明しているが、Webに掲載してダウンロードさせる方法が一般的であり、なぜ「Eメール」という方法を採るかが不明である。また、印刷教材の容量等が記載されておらず、Eメールに添付した場合、フリーのメーラーでは届かない可能性が高い。
  8.  ポータルサイトを管理する物理的、人的環境に関する説明等がない。
     「本大学の設計するシステムは、フリーソフト等を活用したWebアプリケーションとして設計する」としていることから、学生の学習履歴や教務データを厳重に管理するために、ファイアーウォールのレベル設定、校舎内におけるLANのセキュリティ対策等について明確にしておく必要があるにもかかわらず、管理者との契約内容が不明である。また、ポータルサイトが構築されている以上、教務データの入力、アップロードといった作業が発生すると思われるが、そのための物理的、人的環境がどのように準備されているかも説明がないことから、ポータルサイトの管理・運営について「支障がない」と認めるに足る十分な準備がされていると判断することはできない。
  9.  教員のITリテラシーのための研修についての説明がない。
     教員が、大学外からインターネットを通じて教育を行う場合、通信教育の教育効果を最大限に引き出すには、Webへのアップロード、ビデオチャットの利用、また、それらのトラブルへの対応などについて、ファカルティ・ディベロップメントとしての研修が必須である。しかしながら、それに関する説明が全くないことから、通信教育課程において円滑に教育研究を行うことが可能か疑問である。

 以上を踏まえると、通信教育システムについて、それが支障なく運用されるかの説明が十分でなく、かつ通信教育システムを運用する教員等に対する具体的な研修等の計画も立てられているとは言えず、大学院設置基準第30条の「添削等による指導及び教育相談を円滑に処理するため、適当な組織等を設けるものとする」という要件を充たしているとは認められない。

お問合せ先

高等教育局大学振興課大学設置室

(高等教育局大学振興課大学設置室)

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